俺とあなたの真実と
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足立透が、稲羽に来たのは偶然か必然か。

鳴上悠が来たのは親の都合から。

足立透が来たのはトバされたから。

まったく異なり理由で来た彼らだったが、ここに来て共通点が生まれた。

”テレビに入れる力”

平等に与えられたはずの力だったが、両者の使い道は交わることはなかった。

鳴上悠は、他者の為に。

足立透は、自分の為に。

 

足立透を追跡し、初めてテレビに入った日に訪れた部屋の扉に手をかけ、押し入った。

「くそ…目ぇかけてやったのに、不倫なんかしやがって…誰だッ!!?…あぁ、オマエらか」

悠はその第一声に愕然とした。今まで、ぽろりと出てしまった乱暴な言葉遣いをおおっぴらに発している。

あのいつも安っぽい笑顔、ヘラヘラした笑いとは程遠い形相だった。

そんな足立の姿を見て、ショックを隠せないでいた。

「ゴマかそうったって甘いんだよ!この場所に居る事そのものが証拠だ!」

「あれは事故だよ。暴れるからしょうがないでしょ?」

やめてくれ…。

「誤解しちゃった生田目が、よりにもよって僕に電話してきちゃうんだから。生田目はまんまと勘違いしちまって、お前らが救えば救うほど、誘拐を繰り返す…」

やめてくれ…。

「お互い善意なのに、イタチごっこがどうにも止まらない…ハハ、最高」

悠はただ陽介達が足立に対して怒りをぶつける様を見ていた。

悠の心はやめてくれと叫ぶ。だが、自らが望んで手に入れた真実を見届ける責任が悠にはあった。

「どうして…何が目的で、そんなことしたの!?」

雪子が怒りながら問う。

「目的…?別に無いよ、そんなの。ただ、僕には”出来た”し。面白いから…まあ、それが目的?」

「あ、遊び半分で殺したっての!?」

「あのさ…僕は人を”入れただけ”。殺してないって」

「…てくれ…」

悠が、絞り出すように声を発した。だが、ドスの利いた声に聞こえた。

「ああん。何か言ったか?クソガキ。だいたい、お前が一番目障りだったんだよ!一番ムカついてイライラさせんだよ!!」

その言いぐさが足立の癇に障ったようだった。先ほどから、声を発せずただ俯いて立っている悠も姿にもイライラしているようだった。

「お前がいなかったら、こいつらだけだったら、僕はゲームを楽しむだけのゲームマスターでいられたんだ!なのに、同じ場所に立たせやー」

「やめていただけます?」

悠が呟く。低い声で、静かに。

「…”本体”じゃないですよね?本人は、どこにいるんです?」

「へぇ〜、分かるんだ。すごいすごい」

馬鹿にした、茶化すような口調で、足立は答える。

「そうだね。ここにいる僕は、君らの出迎えみたいなもんさ。わざわざ追いかけてきて、ご苦労ってね」

「そうですか。俺、三下と話すの嫌なのでさっさと本題に入っていただけますか?」

何を言われても口調を変えずに淡々と話す。普段の穏やかさが感じられず、陽介達は戸惑っていた。

確かに、連続殺人事件の犯人が足立だった事には、衝撃を隠せなかった。まったくの赤の他人でもなく、半年以上前に知り合っていた。

そこそこ話をしたことはあるし、いつもへらへらして人当たりの良さそうで頼りない印象を受けていた。

事件捜査の内部情報を漏らしたくれた時、自分たちは喜んでいた。疑いもせずに、嬉しそうに。

実際は、足立の掌で遊ばれているだけだった。そのことに気づかずに、悔しくて、情けないと心の中で感じたのは事実だ。

だが、思い返してみれば悠はあまり喜んでいなかった気がした。情報をもらい、喜ぶ自分たちとは別に、遠くを眺めていた。

陽介は、その事にいち早く気が付き、本人に尋ねたことがあったが、曖昧に笑い誤魔化されていた。『ん、真実に近づけて良かったって感傷に浸ってた』と。

二人で仲良く話をしているのを何度か見かけたし、堂島家にだって出入りしていた。

だから余計に怒りを感じ、足立に突っかかりそうなイメージはあったにも関わらず、一番冷静なのは悠に見えた。

陽介は周囲の仲間たちの顔を見回した。全員が何かを考えている風だった。

ああ、鳴上はみんなから好意を持たれているんだなって。いつもと違う姿を見て、心配されているんだなって。

「僕はこっちの世界に、ずいぶんと気に入られたみたいでさ…全てを得た気分だよ。怪物どもも、僕を襲わないんだよね。目的が一緒なのかな…?」

「いえ、そんな事どうでもいいので、さっさと本題に移って下さい。時間も惜しいので」

さらりと、突き放したようなに悠は言い放つ。足立の話、というより足立本人にまるで興味がないように。

「先輩!ここは、目的を聞き出した方が良いのでは?」

様子を見ていたかったが、見かねて直斗が割って入った。

「ははは、そうだよ。ここまで来て、聞かないって…お前って本当にムカつく奴だよな」

その後、調子づき足立としゃべりだした。

この町は、今年の暮れ近く、霧の中に消え、もうすぐ”ここ”が現実になるんだ、と。

これが、世界の意思だって…。

「僕はこっちの世界にいるから、僕を捕まえようってんなら、来ればいい。”世界の意思”のどっちが選ばれるか、決めようじゃないか」

そう言い残し消えて行った。

仲間たちは、足立の話の分析と後日準備を整えてから、追う取り決めをしていた。

その中で、悠は一人だけぼんやりと扉の先を眺めていた。

「これが、あなたの真実なんですか?」

悠が言葉を発した。だが、言葉は仲間たちの会話によってかき消されていった。

 

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「………俺の手で決着つけないと」

翌朝、俺は学校をサボってジュネスに来た。もちろん、独りでテレビの中に行くためだ。

クマとは鉢合わせするかもしれない、と内心ドキドキしたが、合う事もなくすんなりとテレビの前まで来ることが出来た。

クマは食料品売り場、つまり地下にいることが多い。離れているフロアにいることは滅多にないと言えば滅多にない。

ふと、いつものテレビの前で足が止まる。

一息つく。

自分自身をリラックスさせるためだ。

(自分の行動は決して感情的になった結果じゃない)

再び、一息つく。ぐっと全身に力を入れた。

「俺は、もう…逃げたくないからここに来たんだ」

決意のこもった言葉は誰に聞かれることもない。売り場には誰もいない、陽介達もいない。

独りで行くことの不安はあるが、どうしても足立さんとは二人で話さなきゃいけない。これだけは誰にも邪魔させない。

りせのサポートがないのは心もとないが、自分なりにシャドウ達の特徴、得意分野、弱点などをノートにまとめてきた。

道に迷わないように、役に立ちそうもないがコンパスも持ってきた。地図が描けるようにノートとペンも持ってきた。

「まるで、初めてのお使いみたいだな」

皮肉交じりに苦笑し、画面の中に身体を落とした。

初めて独りでテレビの中に行くが、大丈夫だろうか?

シャドウにやられて死んだりしないだろうか?

死んだら陽介達は悲しんでくれるだろうか?

…………………………いや、怒るだろうな。

 

「はは、何考えているんだろう?死ぬなんて…考えちゃだめだ、前だけ見て生きて帰らないと」

堂島さん、菜々子だっているんだ。絶対に生きて戻らないと。

五体満足でいられるとは思っていない。なんせ、足立さんの話だと”世界の意思”とやらが関係しているようだからだ。

そんな大それたものに独りでケンカ売ろうとしているなんて馬鹿みたいだ。

だけど、不思議と大丈夫な気がしていた。ただ、ひとつ不安なことはー。

 

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独りのスタジオ。いつも、陽介達とテレビに入って最初に訪れる場所だ。やけに広く感じ、静かだ。

だが、感傷に浸っている場合じゃない。早くしないと、陽介達が後を追ってくるかもしれない。

学校に行っていないことはすぐにバレるし、自宅に来て留守だったら…俺の行く場所は他にない事ぐらい分かるはずだ。

(…俺は、後を追って来て欲しいのか?)

欲しくない、といえば嘘になるがこればかりは譲れない。

とはいえ、早々に足立さんの場所まで辿り着けるとは思えない。ぐずぐずしている場合ではない。

今までの分析からすると…子供じみた罠が待ち構えていると思う。

陽介達と来たら、やることないのか暇な奴らだな、なら遊んでやるよ、と言ってシャドウを次々とぶつけてくるだろう。

なんせ、”シャドウ達と同じ目的”らしいので、シャドウを操れるとみていいだろう。

加え先日、直斗が”目的を聞いた方が良い”という言葉。それを聞いた時、ほっとしたような顔をした…気がした。

自分がそっけなく、興味を示さなかった時、焦っていた…と思う。

陽介達が一緒なら、ギリギリ死なない程度に、その必死の様を見て楽しむだろう。

だが、独りだと加減が分からずもしかしたら殺してしまうかもしれない。そんな恐怖があるんじゃないかって。

おこがましいかもしれない。足立さんの事、よく知らないわけではないが、そんな内面までは分かるまでは至っていない。

昨日、足立さんの出迎えがあった場所までやってきた。

相変わらず、不気味な部屋だった。殺意をこめて顔だけ破かれたポスターが部屋中貼り付けられ、ペンキが巻き散らかされている。

この殺風景な寝室が山野アナの心の風景だというなら…悲しすぎる。そして、そこから足立さんのいる場所に行ける。

足立さんにとっての山野アナはどういう存在だったのだろうか?この寝室を見て、何を感じたのだろうか?

それは、本人にしかわからない。いや、本人にも分からないかもしれない。本当の自分を分かり人間なんて、そもそもいるかどうかは怪しい。

歪んだ扉を抜け、足立さんの作り出した空間に足を踏み入れる。

禍津稲羽市ー。

まさに、そう呼びのにはふさわしい風景が、俺の目の前に広がっていた。

今までだって、テレビの中は禍々しさを放っていたが、今回は全身で感じられるほど強かった。

独りだから、そう感じるのかも知れないが、それだけでは決してない。

(多分、俺のひとつの不安が大きくなったんだろうな…)

「うははっ!来いって言ったら、ホントに来たよ!君、他にやる事ないの?しかも、独りで!馬鹿じゃないの?」

小馬鹿にした声が聞こえてくる。テレビの中での目立つ行動は、シャドウに見つかったりし面倒だ。だから、デカデカと自分をアピールなんて出来はしない。

それを気にも留めることなく出来るのはー。

(ああ、足立さんは本当に、この”禍津稲羽市”の支配者なんだ)

別の誰かの指示で動いていないんだって。本当に足立さんは、人を馬鹿にするような人だったんだって、思い知らされた。

「何々?君さ、みんなに嫌われちゃったわけ??リーダーなのに頼りないから愛想尽かされちゃったの??あはははは」

「さぁ、どうでしょう?作戦かもしれませんよ。俺が注意を引き付けて他は別のところから入るって」

「あははははははは!馬鹿じゃないの?ハッタリだってすぐわかるよ、それ。あはははははは、腹痛い…」

「あ、そうですか」

俺は、相変わらずそっけなく答える。下手に答えると、調子に乗ってくるのは目に見えている。

「何?君。その態度、すっごいムカつくんだけど」

「……笑うのやめちゃんですか?せっかく、笑い殺そうと思ったのに残念です。それに、せっかくなら…フゥーハハハ!」

わざとらしい笑いを高らかにやった…目が笑っていない顔で。

「って、くらいやって欲しいです」

と、満面の笑みを浮かべてやった…目は笑っていないが。

「ふざけるのも大概にしろよ…クソガキ…」

「いえいえ。奥に隠れて顔も見せない足立さんには勝てませんよ」

「挑発しているつもり?」

「そんなんじゃないですよ。さっさとそっち行くので、お茶でも用意して待っていてください」

自分で、何言っているんだって思わず舌打ちしたくなる。挑発でよくあるパターン過ぎて、泣けてくる。

現実でこんな事を口走る日が来るとは思ってもみなかった。

(だけど、これが足立さんに効果的なはず…)

今までの言動で子供っぽのが分かった。そして、見下すのも。

(他、”かまってちゃん”ってトコかな?)

「君、本当にムカつくよね…壊したいよ。そんでもって…」

俺は、足立さんが言い終わる前に駆け出した。こんなところで、時間を喰っている場合じゃないと言うのもある。

話を最後まで聞かないー

これは、”かまってちゃん”だったら、”最後まで聞いてほしい”という心理が、働くんじゃないかなって。

(そうなれば、俺が死ぬような行動はしない…はず)

自分は、心理学みたいなのは正直、苦手だ。

(あと、行動主義だったかな?心理学アプローチの1つで、内的・心的状態に依拠せずとも科学的に行動を研究できるという主張…)

行動のすべてを、科学的に研究されたらたまったもんじゃない。とは言え、この考え自体はアプローチのひとつに過ぎない…そうだ。

多様な主張が存在する為、その上”心”という自分のブラックボックスを学問で証明なんて出来はしない。

ただ。

(行動、それのみが心理学の研究対象である。これだけは、俺が足立さんに対してやってきた事だ)

もちろん、研究対象とかそういうものじゃなかった。単に好奇心が強かった。

(取り繕うような笑いの裏に何があるのか、と)

足立さんの事を見ていても、すべてが憶測で何も分かりはしなかった。

左遷されて、手に入れた力を自分の退屈しのぎの道具にしか出来なかった。

生田目を騙したり、上手くいかなくなったら脅迫状を送りつけた。

今回の件を見れば、単なる我侭な子供なのかもしれない。

(足立さんだって最初からそうだったんじゃない。そうでなければ、警察官になったりしない)

これは、推測じゃなくて憶測だ。何の根拠もないことだ。

足立さんが犯人だという”憶測”から”推測”に変わったのは最近だった。

何かしらの理由や根拠がなければ、すべては何もない、あてずっぽうの憶測の域を出はしない。

この”憶測”から”推測”に変わる事は、ない。人の心何て、分かりはしない。

 

 

 

続きは「俺とあなたの真実と」で。

説明
鳴上と足立が連続殺人事件の確信を得、事件解明までの話。犯人のネタバレ注意。「俺とあなたの真実と」のサンプル作品です。
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ペルソナ4 主人公 足立透 ネタバレ シリアス 

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