戦う技術屋さん 一件目 Boy&Girls
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ミッドチルダ廃棄都市街――。

 

天候は快晴。雲ひとつなく見事に晴れ渡った空の下。群青のショートヘアに鉢巻きを巻きつけ、白の上着に黒のインナー、青のショートパンツの少女が、ビルの屋上で暴れていた。

最初にリボルバーやギアの付いたグローブを着けた右拳を。そこからシャドーボクシングの様に突きと蹴りを繰り出している。

 

そんな少女に声をかけるのは、暴れている彼女と細部は異なるものの同じ上着に、色違いのインナー。黒のスカートを履き、弾丸の入ったベルトを装着している少女。その手に持った弾丸を二連装出来るタイプの拳銃を弄りながら、声をかける先へ目をやる事は無い。

 

「スバル。あんまりは暴れないの」

「ティ〜ア〜。その言い方やめてよ。準備運動」

「そう?」

「そうだよ」

「それに――」

 

少女達のやり取りに口を挟むのは、少女達のやり取りを少し離れた屋上に腰かけ、iPadのようなタッチパネルの端末を操作しつつ、周りに仮想ウィンドウを展開している少年。上着は着ておらず、やはり少女達の着るインナーと色違いの物を着て、作業着のような地味なパンツを履いている。

 

「俺としても動いて貰えれば、調整できるし、データも取れる。どんどん暴れろ」

「ほら! ってあれ? だから暴れてないよ。準備体操だよ!?」

 

自分を擁護する者が現れたと、嬉しそうな顔をし、その直後少年の言葉に首をかしげるスバルと呼ばれた少女。それを見て溜息をつきつつ、ティアと呼ばれた少女は溜息をつきつつ、少年へジト目を向ける。

 

「カズヤ……。あんたねぇ」

「大丈夫だ。ちゃんと昨日の内にスバルのローラーとナックルはメンテしたから。九割九分問題無いよ」

「だってさ! カズヤ! 全力で大切に使い倒すね!」

「ああ。そうしてやってくれ」

「全く。アンタ達は……」

 

二人のやり取りに再び溜息をつくティア。そんなティアに「でも」とスバル。

 

「ティアだって、昨日カズヤに頼んでたよね。アンカーガン」

「……何のことかしら」

「見てれば分かるよ。メンテ後のティア、早く使いたくてウズウズしてるもん」

「そ、そんなこと……ないわよ……」

「またまた〜」

 

そっぽを向くティアにローラー――正式名称はローラーブーツ――で近づき、その顔を覗き込みながら、スバルがニヤニヤと笑う。更にティアが顔を動かすも、それに追いつくスバル。再三そ向け、再三追う。

そんな二人を眺めつつ、ふと視線を動かして仮想ウィンドウへ目を向け、「なあ」とじゃれあうスバルとティアに声をかけるカズヤ。

 

「そろそろだぜ。お二人さん」

 

その言葉を証明する様に中空へ現れるウィンドウ。慌ててその前にスバルとティアの二人が直立する。

 

『おはようございます! 魔導士試験の受験者二名。揃ってますか?』

「「はい!」」

 

画面の少女の言葉に、元気良く返すスバルとティア。『それから――』と画面の少女が見たのはスバルとティアの後方で、端末に視線を落としているカズヤであった。

無言で彼を見つめ、少女は手前の二人へ視線を戻す。

 

『確認しますね。時空管理局陸士386部隊所属、スバル・ナカジマ二等陸士とティアナ・ランスター二等陸士に間違いないですね?』

「「はい!」」

 

スバルとティア――ティアナが再び声を揃えての返事。その返事に満足そうに頷き、少女が言葉を続ける。

 

『お二人とも、所持しているのは陸戦Cランク。今回受験するのは陸戦魔導師Bランクへの昇格試験で間違いないですね?』

 

その言葉へも、やはり肯定で返す。

 

『はい。今回試験官を務めますのは私、リインフォースU陸曹長でありますよ。よろしくです』

「「よろしくお願いします!」」

 

少女――リーンフォースツヴァイの敬礼に、敬礼を返す。

そんな中でカズヤは、空を見ていた。正確に言えば其処を飛ぶヘリコプター。目を細めても確認できず、仕方なしにカズヤは双眼鏡を取り出すと、改めてヘリコプターを見上げた。

戸を開け此方を見下ろす女性。管理局員なら誰もが知っているであろう狸フェイスに、カズヤは感心したように口笛を一つ吹きながらも、心中で首を傾げる。

 

(あれって八神はやて二等陸佐だよな? 有名人じゃねぇか。何でこんな昇格試験何かに?)

 

暫く眺めていれば、はやてが首を引っ込めてドアを閉めてしまい、カズヤも双眼鏡を仕舞う。

 

「ふむ……、ゲンヤさんに頼まれて、スバルでも見に来たとか? 個人的な親交があるとか、ゲンヤさん言ってたし。でもそれにしたって、態々見学に来るとも思えん……」

 

他にも何通りか考えて見るも、これと言った考えは浮かばず。

さっさと思考を放棄したカズヤは、立ち上がる。説明が終わり、開始寸前のスバルとティアナへ

 

「がんばれよ、お前ら!」

 

と最後の激励。振り向かず、各々が親指を立てて了解の意思を示した直後――スバルとティアナは走り始めた。

 

その背を見送り、カズヤは腕を一閃。周囲にウィンドウが現れ、そこにはこの試験の監視用のカメラに映るスバルとティアナが居る。暫しそれを眺め、カズヤは試験範囲を調べ、「おお」と感心した声を上げた。

 

「なんか、いやらしいな。今回のコース」

 

現役Bランクでも辛いんじゃないのかと、そう思う。本当に計算されていて、確かに実力があれば突破も出来るだろうが、その必要な実力がカズヤの見た手ではBランクでも半分より上。Aランクとまではいかずとも、もしかすればB+ランクの実力は必要ではないだろうか。

 

(よっぽどティアとスバルの実力が見たいのか?)

 

それとも他に何かと考えているうちに、カズヤは更にある事に気が付いた。

 

(カメラ以外に観察用のサーチャー?)

 

かなりの数が撒かれているらしいそのサーチャーの存在に、カズヤは再度首を傾げる事になる。

 

(何でわざわざ。試験内容ならカメラで事足りるだろうに)

 

一体誰が?

その疑問にもやはり答えは出ず。苛立たしげに舌打ちをしながら、カズヤは持っていた端末を待機状態である指輪へと戻す。それを右手の小指にはめ、右手長指についた先程の物と意匠の違う指輪を外すと、宙へと弾き上げる。

太陽光を反射させながら輝く指輪は、やがてその姿を一枚のボードへと変えた。

スノーボードに似たそれは、某少年探偵の乗るソーラーパネル内蔵のアレと同じく、一回りも二回りも大きい本体の片側にブースターらしきものを装備。しかし車輪は無く、雪の無い場では走りそうも無い。

 

「M-10(ワンゼロ)、問題無いな。さて、高高度からのんびり先回りするか」

 

そう言って、カズヤは自身でM-10と呼んだボートを地面に置くと、その上へ乗る。ポケットから取り出した風避けのゴーグルを身につけると、カズヤの想いに答える様に、M-10が浮いた。

 

(スバル、ティアナ。先にゴールで待ってるからな)

 

親友達へそれだけ想い、カズヤはゴールへ向かって飛び始めた。

 

 

 

* * *

 

 

 

フィジカル面でもメンタル面でも、今のスバルは絶好調だった。

 

(いける!)

 

そう信じて疑わないのは、此処まで頑張って来たという自信と、一緒にこの試験を受けている訓練校時代からの相棒と、自分の足を覆っている親友の作ったローラーと。その三つがこの場に揃っているからだ。

仕事や訓練の合間にも自主連を重ねて来たし、自分よりも断然努力家で優秀でかっこいい相棒は、心配するだけ無駄だとも思う。

そして何よりも。

 

「ハァッ!」

 

自分を支えるローラーがいつもの様に。いつも以上に自分に答えていてくれている気がした。

それはまるで、カズヤが災害現場で同じフォワードトップとして肩を並べたり、シューターとして後方から支援をし、スバル自身が彼女の持ち得るスペックを最大限発揮できる様にサポートしてくれている時の様で。試験開始当初はティアナ同様、コンビの様なカズヤが隣に居ないのは少し不安だったにも拘らず、既にその不安は消えていた。きっと彼がその場にいられない自分の代わりに、いつも以上にローラーに向き合い、自分にできる事を全力でやってくれたのだろうと、スバルは確信できる。

 

「デェアアアア!!」

 

ローラーの勢いのままの蹴りでターゲットを粉砕。足は止めず迎撃スフィアからの光線を避けつつそのスフィアも粉砕。

自分の癖をわかりきった上で組まれているローラーは、その癖を受けた上で、次に行うべき行動の邪魔をしないどころか、サポートまでしてくれる。だからこそ足は止めない。止める必要はない。

当初の予定より断然早いタイムで、流れる様に。自分に割り振られた、建物内のターゲットとフォトンの全てを砕いて。

外へ飛び出しコースを行けば、スバルはティアナと合流できた。共に予定よりも早いタイム。

だが、共にその事に対する驚きは見せない。

 

「良いペースじゃない」

「当然! この日の為に練習して来たんだし! それにローラーが凄くいい感じ!」

「そうね。アンカーガンもそう。これで落ちたら洒落にならないし、合わせる顔も無いわ」

「そうだよティア! 残り半分! 一気に行こう!」

「あんまり先行し過ぎないでよ!」

 

声を掛け合いながら、スバルとティアナは次の場所へと突入して行く。

 

 

 

その様子をそれぞれの場所で眺めているのは三名。

その内、今回スフィアやルート等を設定した、茶髪のサイドテールに教導隊の制服に身を包んでいるのは、高町なのは。時空管理局のエースオブエース。

彼女は素直に感心していた。デバイスが実力を引き出し、彼女達の実力がデバイスを使いこなす。不思議だが理想的な関係を築けている事に。

 

(このデバイス。組んだのは確か)

 

操作し、別の監視用サーチャーを覗けば、試験の邪魔にならない様に注意しながら、ゴールへ先回りしようとしているカズヤがいた。ボードに乗ってのんびりと空中を進む彼は、スバルとティアナを信じているからか、試験の様子を確認する事無く、真っすぐゴールを目指していた。

 

(カズヤ・アイカワ二等陸士。確か九歳で時空管理局に入局。その時は技術部所属で、そこでデバイスの設計と製作。研究もしてたんだっけ。でも四年前、十二歳に依願退職。翌年十三歳に陸士訓練校・陸戦魔導師科に入学。卒業後は今試験を受けているスバル・ナカジマ二等陸士とティアナ・ランスター二等陸士とトリオに似た扱いを受けて、陸士386部隊の災害担当兼デバイサー)

 

なんとも不思議な経歴の持ち主である。同じく九歳で管理局に関わる様になったなのはとしては、何処となく親近感に似た物があるも、一度退職しておきながら、態々訓練校経由で再入局。

古巣に戻るでもなく、ハードワークの災害担当へ、本人も希望したらしい。

 

何がしたいのか。何を考えているのか。

 

何となく掴めない少年の事を、なのははサーチャー越しに眺め、ふとある事を思いつく。

 

「リイン」

『はいです』

 

画面越しに現在の試験官に声をかけたなのはが、試験官へ告げた願いはただ一つ。

 

「これから。何があっても、試験を中断したりしないでね。受験生への連絡も無し」

『……なんです? その不穏な響きのお願いは』

「あはは。いいから。とにかくお願いね」

『……分かりましたです』

 

通信を切り、なのはが開いたのは設置してある大型スフィアの現在の設定。

それを弄り、設定画面を閉じる。

 

「さて。どう動くかな? レイジングハートはどう思う?」

『もしかすれば、貴方の予想以上の結果が得られるかもしれませんよ』

「そうだね」

 

嬉しそうに楽しそうに。にこやかな笑みを浮かべながら、なのははサーチャーに映るカズヤへと視線を戻す。

 

なのはが弄った設定はただ一点。

 

その結果――。

 

現在カズヤの飛んでいる空域が、もう間もなく安全圏で無くなってしまう。

 

説明
技術屋。機械を専門に研究開発や修理などを行い、細かい分野にも別れ、その中でとりわけ優秀ならになればマイスターの称号も得られる――。だが、この人種の殆どは純粋に機械が好きなだけの者が多く、この主人公もまた、その一人。だがまあ、この少年の特異な点はいくつかあって。その一つに――この少年は前線に出られる技術屋だったのです。

*元々にじファンで連載していたものです。にじファン閉鎖に伴い、こちらへ移動してきました。

二件目→http://www.tinami.com/view/446205
現在の最新話 十三件目→http://www.tinami.com/view/470547
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