魔法使いの大家族 第2話:雁間夏希 |
開いていた魔法端末に時間が表示される
始業式まであと30分
「秋、こんな所で1人で読書か?
相変わらずお前は謙虚と言うか着飾らないな
本当に秋みたいな弟を持って俺は幸せだと思う」
小説投稿サイトからログアウトしベンチから立ちあがろうと思い
体に力を入れて立ち上がろうとしたとき頭上から聞き覚えのある声が降ってきた
まずは白色の制服のスボンが目に入るそれから左胸に校章が備え付けられた白い制服
恐らく一等生だろう恐らくというよりも一等生
そして左腕に巻かれているブレスレットの様な魔法端末
この校では魔具や箒、魔術書といった魔法概念が無く
世界的に広まっている魔法端末よりも比較的最新型、最薄型が利用されているMHDだ
手動魔法演算機(Magic Hand‐powered Device)である
この国では箒や魔法陣、呪術といった概念はあまりなく
どれも簡易的魔法であったり詠唱が必要であったりされる魔法ばかりである
そしてMHDの役割は自分の覚えた魔法を記憶しMHDにメモリーとして記憶させる
その為呪術、魔法陣も自分の脳内で記憶しなくても使えるという事なのである
ただしMHDがしてくれるのはその呪文の発動の手助けまでそこからの発動までに
至る過程は自分の魔力と体力そして精神力が関わってくる
優れる者は優れた魔法をメモリーに記憶しそれをMHDに記憶させ
必要になった時に
魔法として使用すると言った所だ
しかしこの現代社会で幅広く復旧されているMHDにも難点が3つ程存在する
一つ目はあまりにも膨大な魔法、呪術、魔法陣、の最上級魔法と言われる
魔法が記憶出来ない事
二つ目は魔法、呪術、魔法陣、呪文の詠唱などで使われる場合のある道具は
搭載されていないということメモリーに登録されている自分の道具のみは転送
する事は出来るのだが所有物でない魔具、魔術書の使用は不可能である
三つ目は特殊な魔法、呪文などを使えないという事
世の中には特殊魔法というのも存在する
禁忌魔法、蘇生魔法、再生魔法、多重複数魔法陣、魔法衛星陣、などがある
どれもMHDには容量の問題と使用法に問題がある
特殊魔法免許と言われる許可証の様な物が無ければ扱う事すら許されない
しかし現在この様な魔法を使われる人間は非常に限られており
世界の人口の5%にも満たないという噂もある
MHDが無ければ魔法等を使えないとまでは言い難いが
詠唱を繰り返すよりはMHD経由で魔法を使った方が早い
普段は10秒1分以上かかる様な魔法陣や魔法の場合は
MHDなら1秒以下で済ませる簡略化が可能なのだ
この校ではMHDを持つ者と持たざる者がいる
二等生は勿論、一等生でさえ付ける者は少ない
限られた教職員か生徒会、日本の魔術に携わる人間、特定の委員の人間のみ
少年の記憶が間違っていなければそうである
「夏兄か分かったすぐに向かうよ」
少年は自分の兄である事を確認すると
ベンチから立ち上がり軽く会釈をした
雁間夏希
少年の兄にしてこの学校でいう魔術師候補の1人だ
幼い頃から少年とは良くも悪くも無い兄弟で
お互い悩み事は隠さない程仲の良い兄弟関係を築いている
高身長で足が長い日本人のスタイルでは無い様なスタイル
そしてなんといっても人望の厚さと情熱
少年は家族ならば尚更その場面を目撃している
好きな運動はほとんどのスポーツを好んでいてバスケ部に所属している
この校の誇るべき生徒であって少年とは同じ家族でもあるが立場が全く持って逆である
「読書とは肝心だなそれに少し旧式だな」
だが相手はそうとは思っていない同じ家族であって兄弟
少年の手に握られている魔法情報端末を凝視しながら
何が楽しくて何がおもしろいのかニコニコ微笑んでいる
少年の身長は173cm、兄である夏希は大きく春樹ほどでは無いが
背丈の差が10cm以上ある
少年の目線が一等生であることを確認するにはちょうど良い大きさ
「まぁこの学校では旧式デバイスの使用は禁止ではないが
持ち込み次第没収となっている兄弟だから一応注意だけで済ますが
俺以外の人間は没収するだろうしまった方がいいな
だが新型よりも俺は旧式の方が好きだな
最近の人間は空中認識型が多いからな
没収までは行きすぎだと思うんだがな」
「空中認識型は僕の趣味を公に晒してしまうからね
だから端末を使った方が便利なんだこれは言い訳にしか聞こえないと思うけれど
正直こちらの方が便利だし持ち運びが可能なんだ
空中認識よりも端末を持ち歩く方が筋力トレーニングになると思ってね」
夏希は言い訳する少年を咎めも責めもしなかった
「まぁそれも人好き好きだと俺は思うがな
それに動画よりも小説やらアニメサイトか
俺も映像資料よりは本物の資料や手にとる物の方がわかりやすいから好きだ」
確かに文字や絵の資料よりも映像資料や音声資料が主流になっている
だが読書好きが減ったという訳でもない
「まぁ俺もまだゲームとかやっているしな旧式の方が好きなのかもしれん
かと言って学校内であまりゲームはやる事は少ない
俺はスポーツをせねばならん身だからな」
夏希は腕を組んで考え込む
秋は夏希のつけている左腕のMHDを見る
秋の表情は無表情になり兄の事など頭になかった
そのMHDにはZと書かれた数字が発光している
魔法士や魔道士にも人間の能力の糧になる才能と遺伝というものが存在する
数字はその者の強さを表しT〜]まで存在する
MHDは魔術等などの記憶の他にも様々な能力が存在する
魔法士のレベルは各分野でも分かれる事の無くつけられる
たとえそれが攻撃系統の魔法でも防御、特殊魔法系統のレベルでも
全てに統合される
戦闘能力の無い魔道士、魔法士でもレベルZ以上の存在は少なからず存在するであろう
戦闘能力だけでなく個々の能力もレベルに現れるのだから
ただこのレベルと呼ばれるものは努力でどうにかなったりするものではない
流石に才能や遺伝も必要でありレベル[以上には努力では到達出来ない
という論文までも生まれている
だが有名な魔術士一族でも得に雁間家はこの国を別つ魔術師一家ともいえる
その中で少年だけがなんの魔法の才能も無いなんの取り得も無いと自分で自覚している
魔術師一族で魔術師が産まれない事はそうそう無い
しかし魔術士では無いと呼ばれる男が雁間家には存在する
同じ家に同じ床の間に座るのにここまで正反対、秋は唇を少しだけ噛んだ
「この腕輪が気になるか?」
夏希が左腕を秋に見せるように差し出す
「あぁ実にくだらない
僕はレベルとか順位で比べられるのが嫌いなんだ
それだけで人間の優劣とかが決まってしまうのが非常に可笑しいと思う
魔術士一家に産まれただけで魔法が使えるとかすごいとかも嫌だ
僕は一等生にはなりたくないそもそもなるつもりもない
けれどこの学校は、兄さん達は僕を此処から出すことは出来ない」
「そうだな確かにそうだ
俺たちはお前を此処から出すことは出来ない
先生の注目の的だからな良い意味か悪い意味かは俺は理解する必要もないだろうが
だけど俺も春樹もお前が一番だと思う時もあるお前の評価が気に入らない時もある
桜や菊利や冬貴はしらないもんな
お前の凄さがだけど俺も生徒会長もみんな知ってる本当のお前を
ただ普通の人間には分からないだけだよ」
そう言って夏希は笑って健康的な犬歯を見せた
それは誰だって兄弟でこれだけ家族でこれだけの差があったら
誰だって驚きもするし軽蔑したりもするだろう
もはや家族にこの学校に居させて貰っているなんていう噂も立ち始めている
「だがお前はどんなヤツよりも入学式の時は高得点だった
11教科中平均98点そして個別で受けた魔法技術の実技テスト
お前は全力を出してやってくれただからお前はここにいる
魔法学も全体が平均以下赤点続出の中お前だけはずっと90点以上をキープしている
他の教科は年を重ねる毎に酷くなっていくが魔法学だけは完璧だ
俺もそう思うお前は駄目なヤツなんかじゃない駄目なふりしてるだけの馬鹿なんだと」
そんな事もあったなと秋は思い出していた
「みんなの前じゃないと意味は無い僕はそう思っている
所詮一部の人間しか見ていないからね」
魔法科の評価は実技が8割記述が2割程
だが秋はそんな点数を取っても拍手を受けても笑顔での受け答えは無い
なぜなら基礎魔法が出来ない人間に実技も記述もあったもんじゃないと秋は思っていた
理論では分かっていても実技には移せないそれが秋の最大の弱点
しかし夏希は秋の発言に対して首を横に振った
「そんな事はない
俺でもこの点数は取りづらい
春樹や俺でも毎回60点程度が当たり前だからな
たぶん高校一年の頃の魔法科の問題を出されてもお前ほど正解は出来ない」
「僕には才能が無いよ
だからいつまでも二等生なんだ
わざとやってる訳じゃない魔法が使えないから二等生なんだ
それじゃあそろそろ時間だから行かなきゃ」
夏希は去ろうとする秋に向かって固形物を投げつけた
それが秋の後頭部に見事直撃し秋はその場に倒れ込む
秋は地面に落ちたそれが何かを確認する
そこには「禁」と記されたMHDが落ちていた
少し埃を被り年期が入っている
「お前は才能が無い訳じゃない
お前にはそれがある」
「仮にこれがあっても僕に基礎魔法の能力が無い事はたかがしれている
でもこれはちゃんと持ってないといけない代物だから大切に持って置く
これが僕の魔術みたいな物だからね
これしか使えない自分が不器用だと思うんだけれど仕方ないとしか思わない様にするよ」
そう言って秋は講堂に向かって走り去った
夏希は腕を組んだままじっとしている
するといきなりベンチ近くに生えていた一本の木の木陰から
夏希と比べれば30cmぐらい身長差のありそうな少女が現れた
少女も夏希と動揺に左腕にMHDが備え付けられており
そこにはYの刻印が発光している
ブレザーから浮き出た胸を張りながら少女は一度背伸びをした
「あれが雁間君の弟の秋君か」
「そうだな最高に出来の良い弟だ」
「それって冬貴君よりも桜ちゃんよりも菊利ちゃんよりもすごいって事だよね
私も見てたけどあれは]でいいんじゃないのかな?
だって彼は基礎魔法が使えないだけ、なんだから」
少女は言葉を強調しながらそう言った
夏希は難しい表情をしている
「そういう事だな俺や七条に使えない魔法があいつには使える
だが雁間夏希や七条真理亜、ましてや平凡な一等生さえ使える魔法をあいつは使えない
あいつは基礎魔法が使えない代わりに」
夏希がそこまで言うと真理亜は口を開いた
夏希に向かって笑みを浮かべながら
「生徒会長の私、風紀委員委員長の雁間君
それに優秀な中等部の3人が誰も使えない
だって彼は禁忌、蘇生、再生、多重複数魔法陣、魔法衛星陣を使う事が出来る
そして何より彼の一番のポイントは相手の魔法を無力に変える
雁間家のお母さんの魔法破壊が使える
そろそろ講堂に行こう!私挨拶しなきゃ行けないし!」
真理亜が駆け足で講堂に向かう
それに付いていくように夏希はゆっくりと講堂に歩を進めた
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