BIOHAZARDirregular PURSUIT OF DEATH第四・五章
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第四・五章『特訓!戦士への道!』

 

 

 ネス湖湖畔の古びた倉庫、その地下に作られた施設の中で、無数の音が響いていた。

 防音設備が完璧に整えられたその施設―STARSの秘密射撃場に、種々様々な銃声が轟く。

 50AE弾の重い音、9パラの乾いた音、454カスールの砲声とも取れそうな爆音、それらがしばし響いていたが、やがて同じようなタイミングで銃声は止んだ。

 レールに付けられたサークルターゲットが手前へと動き、それぞれの射撃技能を露にする。

 

「やるな、イーグル50AEでワンホール決められる奴がいるとは思わなかった」

「そちらこそ。カタナだけじゃないな」

 

 射撃レンジの右端、レオンとレンがそれぞれのターゲットを見比べる。

 レオンのそれは破壊力重視の50AE弾の弾痕とは思えぬ程精巧で、間近で見ない限りは一発のみに見える程一点に集弾されていた。

 その隣のレンのターゲットは、レオン程ではないが的確に中心部に集中し、直径2cmの円にちょうど収まる形になって繋がっていた。

 

「20mじゃこんな物だな。5mならピンヘッド(釘の頭を的に命中させる高等射撃技能)いけるんだが」

「また腕上げたのか?よく両立できるなあ〜」

 

 レンの隣、スミスのターゲットは命中率云々以前に、破壊力の有りすぎる454カスール弾に装甲破壊などに用いられる水銀炸裂弾頭という強力すぎる組み合わせで的の中心部がキレイに吹き飛んでいた。

 

「……あまりそれをここで撃つなよ。射撃場その物が崩壊しかねん」

「そうか、一応次の銃も持ってきてたんだが………」

「それを屋内で撃つ気か?」

 

 レンとレオンがスミスの背後に置かれた人の背丈程はあるバーレットM82A1を冷めた目で見る。

 このクラスともなると、その破壊力の凄まじさに撃たせてもらえる射撃場すら少ない代物を屋内に持ち込むスミスに、二人は無言で非難の視線を向ける。

 彼らの背後、襲撃の報を聞いて今朝方フランスから戻ってきたばかりのジルが三者三様の射撃を見て微笑を浮かべた。

 

「ま、射撃に関してはあなた方は文句無しね。ここにくるまで射撃訓練すらした事無いって人もいるけど」

「たとえば、このようにか?」

 

 スミスは自分の隣のターゲットを指差す。

 そこには、他の三つとは明らかに違う弾痕の刻まれたターゲットが有った。

 

「え〜と………」

「……ひどいな」

「確かに」

「ある意味天才的だぞ、ここまで当たんないのは」

 

 スミスの隣で撃っていたシェリーのターゲットは、文字通りただ紙に当たっているだけで、集弾はおろか、弾痕は完全にバラバラで中心部には一発も当たっていなかった。

 他の三つに比べてあまりにひどすぎる腕前に、撃ったシェリー自身も二の句が告げられないでいた。

 

「格闘訓練はともかく、射撃訓練はしてなかったのか?」

「その、何度かやったんだけど、致命的にセンスが無いからやめろって言われて………」

「ちょっと手を見せてみろ」

 

 乾いた笑いを浮かべるシェリーの手を、レンがしげしげと見つめ、指先や腹を少しつついてみる。

 

「なるほどな、これじゃあ当たりにくいだろう」

「確かにね」

「何が?」

「こういう事」

 

 ジルが自分の手をシェリーの手に重ねる。

手のサイズは明らかに一回り違うが、それ以上にシェリーの指はジルより短かった。

 

「指が短いんだよ、しかしそれで握力はやけに強いから、グリップの握りが安定しない。もっと小さい口径の銃なら大丈夫だろうが、38や22じゃあいつら相手に豆ぶつけてるようなもんだ」

「かといって、また素手で戦わせるつもりか?それじゃ危険過ぎる」

「無理に戦わせる必要もないんじゃないか?適材適所って言うし」

「イヤ!私も戦う!!」

「でもね………」

 

 頑として戦闘参加の意思を示すシェリーに、その場にいる全員が顔を見合わせる。

 しばし悩んだ後、レンが口を開いた。

 

「確か、午後から格闘訓練だったな?」

「そうだけど?」

「その時にちょっと確かめてみたい事がある。全てはその後だ」

「何させるつもりだか…………」

 

 

そして午後

 

 倉庫の中央、荷物が片付けられた空間に、STARSのメンバー達が円を描くように集まっていた。

 格闘訓練とは銘打たれているが、実質は弾丸が切れた時や銃を無くした時のための訓練で、全員が手に弾の入ってない銃や刃引きしたナイフを持っている。

 

「……一人得してる人いません?」

「だよなあ………」

「そう見えるわね」

 

 全員の視線が、一人木刀―正確には中に鉄心を仕込んで真剣と同じ重さにしてある木太刀(きだち)と呼ばれる物―を手にしているレンに集中していた。

 

「大丈夫だ、ちゃんとハンデは付ける」

 

 レンはそう言うと懐からタオルを取り出し、それで完全に目を覆って目隠しにした。

 

「………おい」

「ハンデだと言ったはずだ。さあ、どこからでも何人がかりでも構わん」

 

 人垣の円から外れ、レンは円の中央へと進み出て悠然と構える。

 プロテクターも付けず、あまりの大胆すぎる行動に、誰もがどうするべきかためらうが、やがて手に大ぶりのコンバットナイフを持った男が進み出る。

 

「本当にいいのか?怪我してもしらないぜ?」

「構わん。奇襲でもなんでも好きなようにしてくれ」

「それ、じゃ!」

 

 男はレンへと向けて突撃をかけるが、寸前で横へと跳び、レンの木太刀を持ってない左の死角からナイフを突き出した。

 

「チェック……!?」

 

 男のナイフがレンの首筋に届く前に、突如として出現した木太刀が、男の咽喉の一寸手前に突きつけられていた。

 

「い、いつ?」

「次!」

 

 振り向きもしないまま木太刀を降ろしたレンが、呆然としている男を尻目に声を上げる。

 

「へえ………」

「面白いわね」

 

 木製の銃剣を付けたM4A1を手にしたカルロスと、小ぶりだが鋭いダガーナイフを手にしたジルがそれぞれレンへと相対する。

 

「じゃあ、こういうのは!?」

 

 カルロスとジルの二人が、横に並んだまま同時に走り出す。

 レンはその場を動かず、一気に手前まで間合いを詰めた二人は同時に自分の得物を突き出した。

 しかし、レンは無造作に前へと一歩進み、木製の刃とダガーの刃は微かにレンの衣服をかすめてそのまま目標を失って突き抜けた。

 

「馬鹿な!?」

「え!?」

「あれをかわした!」

「ウソ!?」

 

 必殺の攻撃がいとも無造作にかわされた事に見ていた全員が度肝を抜かれる。

 繰り出した二人も信じられないと言った顔のままレンの横を通り抜け、素早く振り返った。

 

「草攻剣(そうこうけん=新撰組が使った集団戦法の一つ、二人の同時攻撃を多重に繰り出す物)か、だが最低でも二段構えで使った方がいい」

「サムライ、ホントは見えてるだろ?」

「いや」

「じゃあ、これで!」

 

 カルロスが無造作にM4A1をレンへと向かって投げ付ける。

 後頭部へと向かって飛んでくるそれをレンは振り返ると同時に木太刀で叩き落す…かに見えた瞬間、木太刀は絡みつくような動きでM4A1を受け止め絡み取り、完全にベクトルを変化させられてそのまま真下、隙と見て突撃していたジルの目前へと落とされる。

 

「うっ!」

 

 思わずジルの動きが鈍った隙を逃さず、レンの左手がジルの手首を掴む。

 そのままレンはジルの手首を引きつつ、それを微妙に捻る。

 するとジルの体が突如として反転し、背中から床へと叩き付けられた。

 

「え?」

「一本だな」

 

 何が起きたか理解出来ないジルの首筋に木太刀を突きつけたレンは、突然その場にしゃがみ込み、レンの髪を風圧で揺らめかせながら先程までレンの頭部があった場所をカルロスの蹴りが通り過ぎていく。

 

「アイキドー、って奴か。初めて見たぜ」

「正式には光背流拳闘術だ。現在の継承者が随分と余計な技混ぜてたが」

「じゃあ、こいつはどうだ!」

 

 カルロスの足が旋回し、強力な回し蹴りがレンのボディを狙う。

 レンはバックステップでそれをかわすが、立て続けに放たれたカルロスの回し蹴りが上段、中段、下段とランダムに変化し、かすめた上段蹴りがレンの目隠しを弾き飛ばした。

 

「やるな」

「まあな!」

 

 駄目押しとばかりに再度レンの頭部を目掛けてカルロスは上段回し蹴りを放つが、レンはその場に留まると無造作に片手を上げ、それを受け止めた。

 

「これくらいの威力なら、致命傷には遠いな」

「だからって、素手で止めるなよ………」

 

 カウンターで突き出された木太刀の切っ先が心臓の真上で停止してるのを見たカルロスが、呆れたように首を横に振りながら上げた足を下ろす。

 

「つ…」

「隙あり!」

「おらぁ!」

「ふんっ!」

 

 レンが二の句を告げるより早く、今度は三人が円から飛び出し、レンの背後から一斉に襲い掛かる。

 レンは振り返りつつ、左手を丸めて作った“鞘”に木太刀を納め、そして“抜刀”した。

 交差は一瞬。

 そして、後には手から得物を弾き飛ばされた三人と、木太刀を振るって帯に指すレン、そして床へと落下する三種の得物だけが残った。

 

「こんな物か」

「す、すげえ!!」

「六人抜きなんて、クリス以来だぞ!?」

「やるな、サムライ!」

 

 見ていたメンバー全員が、口々にレンに喝采を送る。

 レンはそれを気にも止めず、シェリーへと視線を向けた。

 

「シェリー」

「は、はい!」

「同じ人数、抜いてみろ」

「え?」

「実戦参加の最低条件だ」

「……やります!」

「オイオイ、いいのかレン?」

 

 やる気満々のシェリーが練習用のプロテクターを付けつつ進み出るのを見たスミスがレンを咎めるような視線を送るが、レンはギャラリーの円まで戻ると、シェリーの方へと向き直ってあぐらをかいて座り込む。

 

「おいおい、誰が相手するんだ?」

「さすがに、あの子相手じゃ」

「じゃ、私が」

 

 さすがに相手するのをためらうメンバーの中から、プロテクターを付けながらクレアが前へと進み出る。

 

「試させてもらうわよ」

「OK、クレア」

 

 両手にトンファーを構えたクレアに、シェリーは両手高く持ち上げるマーシャルアーツの構えを取る。

 

「レディ、ゴー!」

「はあっ!」

 

 レンの号令と共に、クレアが突撃して右のトンファーを旋回させて上から振り下ろす。

 

「なんの!」

 

 クレアの腕を弾いてその攻撃を外させたシェリーは、お返しとばかりに右の上段蹴りを繰り出すが、クレアは左のトンファーでそれをあっさりと受け止める。

 

「まだまだ!」

 

 左右の素早いコンビネーションパンチは、前で合わせられたトンファーに防がれ、たいしたダメージは与えられない。

 

「そこっ!」

「あつっ!」

 

 反撃に転じたクレアのトンファーがシェリーの脇腹に直撃する。

 

「ギプアップ?」

「まだぁ!」

 

 プロテクターの上からだったため、ダメージは左程ではないが、レンの圧倒的な闘い方とは比べるべくも無い自分の戦い方に焦りを感じつつ、シェリーが低い姿勢でタックルをしかける。

 

「そんなんじゃ…!?」

 

 クレアの足が跳ね上がってシェリーの体を強引に上げようとしたが、シェリーはその足を強引に抱きかかえる。

 

「せぇの!」

「え?」

 

 クレアの片足をシェリーは強引過ぎる力技で持ち上げ、そのままバックドロップの容量でぶん投げる。

 クレアの口が疑問符を告げる形で固まったまま、その体は宙を舞って床へと叩き付けられる

 

「!大丈夫クレア!?」

「あいたたた………」

 

 やり過ぎたかもしれない事に気付いたシェリーが慌ててクレアに向き直るが、クレアはプロテクターごしとはいえ直撃した頭を振りつつ体を起こす。

 

「強くなったのね、負けたわ」

「まず一人か」

 

 レンの一言に、クレアが少し顔をしかめるが、シェリーは即座に構えた。

 

「次!」

「ようし、じゃあオレが」

 

 スミスが肩を回しつつ前へと進む。

 

「お手柔らかに頼むぜ」

「真剣勝負!」

 

 シェリーが間合いを詰めて鋭いローキックをスミスの足に叩き込む。

 

「つっ!」

「まだまだ!」

 

 続けて反対にもシェリーはローキックを叩き込むが、スミスは強引に前へと進み出て力任せのショートラリアットをシェリーの腹に入れる。

 

「うっ!」

 

 予想以上の怪力に、シェリーの体が吹き飛ばされるが、距離が短すぎたために威力はほとんど無く、体勢は何とか保つ。

 

「隙あり」

「あっ!?」

 

 体勢を立て直した僅かな間に距離を詰めたスミスが、シェリーの肩と腕を掴むと、その場で力任せに回し始める。

 

「オラ〜ッ!………あっやば………」

 

 そのまま回転を付けて上へと放り投げた所で、スミスが力加減を間違えた事に気付いて慌てて上を見る。

 

「キャ〜ッ!」

「なんだあの技!」

「大雪山おろしか………いつの間に」

「シェリー!」

 

 天井近くまで投げられたシェリーの体が、重力に従って落下を始める。

 

「ちょ、こっちか!?」

 

 さすがにやりすぎたと思った慌ててスミスが下で受け止めようとするが、その時シェリーの動きが変化している事に気付いた。

 

「あれ?」

「フンッ!」

「ぶごっ!?」

 

 お返しとばかりに、落下の勢いを載せたシェリーのかかと落としがスミスの顔面に突き刺さる。

 

「ふごげも…………」

 

 意味不明の声を漏らして鼻血を噴き出しつつ、スミスがその場に倒れる。

 

「これで二人。次」

 

 鼻血を流したまま目を回してるスミスが部屋の隅へと運ばれていくのを見もせず、シェリーは身構えた。

 

 

20分後

 

「はあっ!」

「おぐっ!?」

 

 懐に飛び込んでのシェリーのジャンピングアッパーが、相手を高く突き上げる。

 

「モロに決まったぞ………」

「ケビン、生きてるか〜?」

「これで五人」

「あと、一人………」

 

 額から大量の汗を滴らせ、肩で大きく息をしながらシェリーが多少よろけながらも再び構える。

 

「おい、もういいんじゃないか…………」

「未熟な技しか持たない人間を戦わせれば、当人のみだけでなく、共に闘う者にも危険をもたらす。戦力の妥協をするつもりは無い」

「……そうかよ」

 

 さすがに見かねたスミス(鼻に大きなバンソウコ付き)の言葉を、レンはきっぱりと否定する。

 

「で、最後は誰が出る?」

「オレがやろう」

「レオン………」

 

 今まで黙って見ていたレオンが一歩前へと出る。

 

「レオン、プロテクターを」

「いらない」

 

 クレアが渡そうとしたプロテクターをレオンは拒絶すると、シェリーへと相対する。

 

「レオン………」

「来い、シェリー」

「……うん!」

 

 大きく息を一つ吸い込むと、シェリーは一気にレオンへの距離を詰める。

 その場から避けようともしないレオンの胴に、シェリーのミドルキックが炸裂した。

 

「!?」

「確かにトレーニングは大分積んでいるな」

 

 何時のまにか、肘から曲げて軽く握った拳を肩の高さまで大きく広げる構えを取ったレオンは、まともに食らった蹴りに微動だにせず、驚いているシェリーにレオンは冷徹な視線を向ける。

 

「だけど、この程度じゃBOWは殺せない」

「!かはっ……」

 

 隙を見せたシェリーのボディに、レオンの下突きが突き刺さる。

 シェリーの体が、そのまま数m程後ろへと吹っ飛び、倒れた。

 

「ちょ………」

「い、幾らなんでもやりすぎだろ!?」

「シェリー!」

「来ないで!」

 

 レオンの手加減がまったく感じられない攻撃に皆がどよめき、慌てて駆け寄ろうとするクレアを制して、シェリーは自力で立ち上がる。

 

「実戦空手か、やりこんでいるな」

「必要に応じてって奴だ。かなりオリジナルが混じっている」

「オイ!怪我でもさせたらどうするつもりだ!?」

「実戦では役に立たない、それだけだ」

 

 レオンの言葉に、全員が唾を飲み込む。

 

「はっ、はあ、はあ………」

 

 多少呼吸困難に陥りながらも、シェリーがなんとか構え直す。

 その様を見ていたレオンは、指先をやや曲げた右手を垂直に立て、軽く握りこんだ左手を腰に引く空手の構えを取った。

 

「行くぞシェリー!」

 

 レオンが叫びつつ一気に間合いを詰めると、強力な正拳突きをシェリーのみぞおち目掛けて繰り出す。

 

「つっ……!」

 

 シェリーは胸の前で両手をクロスさせてそれを防ぐが、予想以上の威力に両腕に電流のような衝撃が走る。

 しかし、そこに続けての横蹴りが突き刺さり、シェリーの体が後ろへと吹き飛ぶ。

 

「くっ!」

 

 踏ん張ってなんとか転倒を避けたシェリーに、レオンは休まず襲い掛かる。

 

「はっ!」

 

 指先をやや曲げる正式の空手チョップが、シェリーの肩に叩き付けられる。

 

「つうっ……!」

 

 激痛にややたじろぎながらも、シェリーはレオンの腕を掴み、そこから捻りを加えて相手の体ごと旋回させてレオンの体を投げる。

 しかし、投げられる瞬間に脱力して力を分散させたレオンは、床へと軟着陸すると即座に体勢を立て直し、逆にシェリーの腕を掴むと肩越しに背負って豪快に投げ飛ばした。

 

「イッポンゼオイ!?」

「いや、実戦流の谷落としだ。中身はおんなじだがな」

「シェリー、大丈夫!?」

「う………」

 

 背中からモロに叩き付けられたシェリーが、よろよろと立ち上がる。

 その足元はおぼつかなく、周囲の人間もさすがに制止を囁き始めるが、シェリーは再度構えた。

 

「レン、止めさせろよ……どう見たって勝ち目無さそうだぞ」

「中途半端に止めさせたらケジメがつかない。勝つか、負けるか、ハッキリさせておいた方がいい」

「けどよ………」

「他人に決められる勝敗なんて実戦には無い。勝って生きるか、負けて死ぬかだ。その覚悟が無ければ、彼女を認める訳にはいかない」

「その通りだ」

 

 スミスとレンの会話を聞いていたレオンが、レンの言葉を肯定する。

 

「シェリー、オレはこの五年数え切れなくなる程のBOWと戦い続けてきた。その経験が言っているんだ、その程度じゃ闘えないと」

「まだ、負けてない………」

「じゃあ、これで最後だ!」

 

 トドメとばかりに、レオンの体が旋回する。

 体の旋回の勢いを乗せて放つ、フルコンタクト(直接打撃)系空手の必殺技、胴回し蹴りが戦斧がごとき勢いでシェリーの肩口を狙う。

 

「う、わあああぁぁぁぁ!!」

 

 ダウン確実の攻撃が当たる前に、シェリーが強引へと前へと出る。

 ポイントはずれたが、それでもレオンの膝近くが肩に命中する中、シェリーの両腕がレオンの体を羽交い絞めにする。

 

「わあああぁぁぁぁ!!」

「ちょっと!?」

「こっち来た〜!」

 

 何を考えているのか、シェリーはレオンの体を捕まえたまま前進を続け、その軌道上にいる者達は慌てて左右へと避ける。

 

「ああぁぁ!」

「何を……ぐっ!」

 

 そのまま、シェリーはレオンの体を壁へと叩きつける。

 

「この程度じゃ………!?」

 

 予想外の攻撃にダメージを食らいつつ、レオンがシェリーに肘を叩きつけようとした瞬間、レオンの動きが止まった。

 

「…………レオン?」

 

 クレアが声をかけるが、レオンは微動だにしない。

 シェリーが手をは放して離れると、レオンの体がゆっくりと崩れ落ちる。

 

「な、レオンが負けた!?」

「あの不死身の男が!?」

 

 何が起きたか分からずも、シェリーが勝った事だけは分かったSTARSメンバーがどよめく中、レンだけが呆れた顔でシェリーを見ていた。

 

「おい、彼女何やったんだ?」

「イカサマだな、一番有効的な………」

 

 レンが呆れた顔のままシェリーへと近寄ると、その頭に手を置く。

 

「……どこで覚えた?」

「隣に住んでいたレイン少尉に、しつこい男を黙らせる一番いい手だって…………」

「まあ、BOWはまず狙ってこないし、大抵の格闘技じゃ禁じ手だからな」

「何がだ?」

「金的蹴りだ」

『え………』

 

 レンの一言に、全員の視線が倒れて動かないレオンに集中する。

 

「だ、大丈夫か!?」

「誰か氷嚢持ってこい!」

「ベッドに運べ!早く!」

 

 男性陣が中心となって慌ててレオンの手当てに入る中、レンはシェリーの足がまだおぼつかない状態なのを確認すると、小さくため息を吐いた。

 

「その状態ならまず大事にはなってないだろう」

「あの、それで…………」

「多少イカサマはあったが、それも実戦の手の一つだ。ギリギリ合格といった所だ」

「あ、ありがとうございます!」

 

 緊張した顔から一気に破顔しつつ、シェリーがレンに頭を下げる。

 そんなシェリーに一瞥をくれると、レンは何事か話し合っているジルとクレアの元へと向かう。

 

「あ、サムライいい所に」

「今の闘い方、どう思う?」

「まだまだだな。だが、まったく見込みが無い訳じゃない」

「そりゃ、あんた程戦える人間なんて滅多にいないでしょうけど……」

「悪いが、あいつをしばらくオレに預けてくれ。もう少し使えるようにしておく」

「……出来るの?」

「そう簡単に死なないくらいにはしておくさ。次が来る前にな」

「お願い!」

 

 クレアがレンに深々と頭を下げる。

 

「さて、間に合えばいいんだがな………」

 

説明
※注意 本作はSWORD REQUIEMの正式続編です。SWORD REQUIEMを読まれてからの方がより一層楽しめるかと思います。
 ラクーンシティを襲ったバイオハザードから五年。
 成長したレンは、五年前の真実を知るべく、一人調査を開始する。
 それは、新たなる激戦への幕開けだった…………
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