BIOHAZARDirregular PURSUIT OF DEATH第十二章
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第十二章 『破滅への序曲!這い寄る地獄からの軍勢!』

 

 

日本 京都 アンブレラ製薬丹波研究所

 

「あぐっ!」

「沖田!」

 

 太ももに巨大なトゲのような物が突き刺さったSAT隊員が床へと崩れ落ちる。

 それを見たSATの隊長が、トリガーを引きながら指示を飛ばす。

 

「斎藤!沖田を連れて下がれ!土方は二班もここに呼べ!藤堂は上層部へ連絡!最悪の場合自衛隊が必要になるぞ!他の者はアイツをここから一歩も出すな!」

『了解!』

 

 手にしたMP5サブマシンガンをそれに向けて連射しながら、SAT隊員が復唱するが、その声には怯えの色が隠しきれていない。

 

「御神渡さん!下がってください!危険です!」

 

 隊長の声を聞いて、彼らの一番先頭に立っていた黒装束の若い男が僅かに振り返る。

 

「そういう訳にはいかない。従弟からここは任せられているもんでしてね」

 

 男は答えながら、手にした日本刀を構え直す。

 その前には、男の身長の二倍を軽く越える巨大なBOW―対装甲目標破壊用大型タイラント“スサノオ”が低い唸り声を上げながら足元にいる者達を見下ろしていた。

 

「グガアアアッ!」

 

 雄叫びと共に、スサノオが右腕を振り回す。

 すると、腕に生えている無数のトゲがその勢いで周囲に向けて発射された。

 

「はっ!」

 

 男は手にした刀を振るい、自分に向かってきたトゲを一瞬にして全て叩き斬るが、あまりの速さに対処し損ねたSAT隊員達の数名が、、防弾チョッキをも貫通する威力のトゲを食らって床へと倒れ込む。

 

「永倉!原田!」

「下がっていてください。こいつはオレが相手します」

「しかし…」

 

 言いよどむSAT隊長に、男はハッキリと言い放った。

 

「どうみてもこいつは、警察の管轄じゃないですからね。だとしたら、こちらの管轄だ」

 

 鋭い目でスサノオを睨みつけながら、男は刀を片手で正眼に構え、その峰にもう片方の手を添える独自の構えを取る。

 

「陰陽僚五大宗家が一つ、御神渡家第三十七代目当主、御神渡徳治。いざ、参る」

 

 スサノオの振り下ろされた巨腕と、徳治の繰り出した神速の刃が、交錯した。

 

 

 

同時刻

アメリカ サウスタコダ州 アンブレラ製薬サウスタコダ研究所

 

「おらあっ!」

 

 気合と共に振り下ろされたトマホークが、SWAT隊員の足に巻きついていたツタを一撃で切り落とす。

 

「スイマセン、隊長……」

「礼は後だ!」

 

 足を引きずるようにして立ち上がる隊員に肩を貸しながら、隊長はもう片方の手に握られているM4A1アサルトライフルのトリガーを引き絞る。

 フルオートで放たれるライフル弾が蠢いているツタに突き刺さるが、ツタはそれを意にも介さないように後ろへと下がっていく。

 

「ビリー!外の車からガソリンを持って来い!ベンはドクの奴を引きずって外に出ろ!」

『了解!』

 

 隊員達に命令を出しながら、隊長は空になったマガジンを交換してツタの大元に銃口を向ける。

 

「アンデッド系だと聞いてたが、それ以外もいやがるとはな………」

 

 SWAT隊員達が取り囲む先に、巨大な樹木型BOW―“トレント”がそのツタを伸ばして隊員達を捕まえようとしてくる。

 

「ここはカウボーイとインディアンの土地だ!化け物はとっとと失せな!」

 

 怒鳴りながら、SWAT隊長は祖父から譲り受けたお守り代わりのトマホークを握り締めながら、M4A1のトリガーを強く引く。

 

「ルーキーのスミスが頑張ってやがるんだ!ここはオレ達でなんとしてでもやるぞ!」

『おう!』

 

 SWAT隊員達は力強く答えながら、各々の銃口をトレントへと向けた。

 

 

 

同時刻 北極 アンブレラ秘密研究所

 

 通路を巨大な爆音と共に爆風が吹き抜ける。

 爆発で開けられた床の大穴に、Aチームの背後から迫ってきていた巨大な鉄球がはまるが、勢いを殺しきれずにワンバウンドすると天井にぶつかり、床へと落ちると再び転げ出そうとする。

 

「はあっ!」

「この!」

 

 そこへ、待ち構えていたレンが居合で鉄球の一部を斬り落とし、さらに斬り落とされてちょうど平らになった部分をスミスが義腕のフルパワーで殴りつけるようにしてなんとか止める。

 

「インディ・ジョーンズじゃねぇんだぞ………」

「この世に本気でこんなトラップ仕掛ける馬鹿がいるとはな」

 

 あやうく押し潰される所だったAチームメンバーが胸を撫で下ろしながら、鉄球を転がして先程の穴へと収める。

 

「くそ〜、さっきからモンスターとトラップのオンパレードだ。いつからRPGになった?」

「RPGにしては悪趣味が過ぎるけどな」

 

 横手の壁に堂々と飾ってあるハーケンクロイツや旭日旗を横目で見ながら、レンが呆れたように呟く。

 

「アウシュビッツや731の研究員がアンブレラ初期メンバーに混じってたらしいからな。趣味は気にしない方がいいぞ」

 

 アークが手元のモバイルを操作して現在地を確認する。

 

「ちょっと遠回りになるが、そっちからいくしかないな」

「閉まってるぜ?」

 

 少し離れた曲がり角にあるシャッターを指差したアークに、カルロスが首を傾げる。

 

「行き止まりにしてから鉄球か。念が入ってやがるな」

 

 苦い顔をしながら、スミスはシャッターを叩いて厚みを確かめる。

 

「結構薄いぞ、これならぶち破れるんじゃないか?」

「たぶんそれ、バイオハザード用の防疫シャッターよ。強度じゃなくて遮蔽性を重視してあるんだわ」

「なるほどな」

 

 ミリィの説明を聞きながら、レンがスミスの横から同じように軽く叩いてシャッターの厚みを確かめる。

 

「これ位なら斬れる。下がっていてくれ」

「おう」

 

 レンが居合の構えを取るのに邪魔にならないように、皆が距離を取る。

 ゆっくりと呼吸を整え、半身を引きながら柄に手を伸ばしかけたレンの手がふと止まる。

 

「どうした?」

 

 それに気付いたスミスが声をかけるが、レンは無言で構えを解いて周囲を見回す。

 

「見られている………」

「あれか?」

 

 カルロスが通路の上隅に取り付けられているカメラを指差すが、レンはそちらではなく通路の向こう、これから向かおうとしている研究所の最深部の方を真剣な表情で見ていた。

 

「いや、ここに入った時から何かに見られている気配がした。それがどんどん強くなってきている」

「何だ?幽霊でもいるのか?」

「そんなもんそこいら中にいるぞ。そうとう人体実験してたみたいだな、ここ」

『え?』

 

 レンの一言に当人以外の全員が硬直するが、気にせずレンは続ける。

 

「だが、そんな半端な存在じゃない。はっきりとは分からないが、なにか強い力を感じる」

「オカルトは止めてくれ……頼むから…………」

 

 スミスの恨めしそうな声に、レンは真剣な表情を崩さぬまま、再度居合の構えを取る。

 

「何が在ろうが、オレ達は進むしかない」

 

 高速で鞘走った刃が、数瞬の間に無数の金属音を響かせ、再度鞘へと収まる。

 僅かな間を置いて、シャッターは裁断された金属片となって床へと崩れ落ちた。

 

「先に進もう」

 

 呟いて走り出したレンの後ろを、Aチームメンバー達は頷きながら後へと続いた。

 

 

 

「ふっ!」

 

 小さな呼気の音に続いて、連続した打撃音と銃声が響く。

 そのツタを伸ばして襲い掛かろうとしていたイビーが、動物でいえば胴体に当たる中央部の茎に直線で繋がる連撃と、それに付随して放たれた散弾を食らって破片と樹液を撒き散らしながら倒れ伏す。

 敵が戦闘力を失った事を確信したシェリーが素早く振り返る。

 明確な急所を持たないイビーに他のメンバー達が苦戦しているのを見て取り、そちらに向かおうとしたシェリーがふいに足を取られて転倒しそうになる。

 先程倒したと思ったはずのイビーのツタが自分の足に巻きついているのに気付いたシェリーは、片手を付いてなんとか転倒を防ぐと、足を捻って逆にツタを強固に巻きつかせる。

 

「ふせてクレア!」

 

 シェリーの背後を守るような形で戦っていたクレアが、シェリーの声を聞いてとっさに伏せる。

 その頭上を、シェリーの胴回し蹴りとそれに引きずられる形となったイビーの死体が通り過ぎ、クレアの前にいたイビーに激突して壁へと吹っ飛ぶ。

 そこへP―90からM79グレネードランチャーに持ち替えたクレアがグレネード弾を叩き込み、二体まとめて四散させる。

 その隣では、他のイビーが吐き出した粘液をかわして接近してクリスが、至近距離から散弾を連続して撃ち込み、自重を支えきれなくなったイビーの体が崩れ落ち、床へと四散する。

 

「これで最後!」

 

 レベッカが自作した特製ナパーム手榴弾のピンを引き抜いて、残っているイビーへと投げつける。

 数秒の間を持って炸裂したナパーム手榴弾が、一瞬にしてイビーを炎に包み込んだ。

 

「一体何匹BOWがいる訳?」

 

 マガジンを交換しながら、ジルが連続する戦闘にぼやいた。

 

「本拠地だからな、それこそ今まで造ってきたBOWが全部いても不思議じゃないさ」

 

 新たな弾帯を繋げながらのバリーの苦笑いに、皆がうんざりとした顔をする。

 

「ゴールは分かっているんだ。そこまで辿り着いてボスを逮捕すれば全てが終わる。弾が尽きようが、仲間の屍を乗り越える事になろうが、誰かがそこへ辿り着けばいい」

 

 弾丸の装填を終えたクリスの言葉に、皆が頷く。

 

「Aチームとの合流予想地点は?」

「え〜と…」

「ここから20m先の曲がり角からルートは合流します。戦闘によるタイムロスがこちらとほぼ同様ならば、合流時間はプラスマイナス10分以内になるはずです」

 

 クリスの問いにモバイルのマップをチェックしようとしたレベッカが、何も見ないですらすらと答えたシェリーの言葉に唖然とする。

 

「……合ってる?」

「ええ………」

 

 ジルがレベッカの手にしてるモバイルを覗き込みながらの問いに、慌ててマップを確かめたレベッカが頷く。

 

「マップはともかく、何で時間まで?」

「あ、今までのBOW出現ポイントの距離と出現個体の戦闘力が一定の比率になってたみたいだから、それと戦闘時間を方程式にして計算してみたんだけど………」

「暗算で?」

 

 クレアの問いに、シェリーが頷く。

 

「これが終わったら、オックスフォードでもMITでも好きな学校に行くといい。それだけの頭脳なら特待奨学生になれると思うから」

「オファット基地にいた時からすでに話はありましたけど」

 

 クリスがそう言いながらシェリーの肩を叩くが、シェリーの即答にその手が一瞬硬直する。

 

「とにかく、早い所Aチームと合流しよう」

「そうね」

 

 Bチームメンバーが先へと進む中、クリスがクレアへと近寄ると、小さく耳打ちした。

 

「何かあった時、あの子だけはなんとしても脱出させるぞ」

「もちろんよ兄さん。妹を守るのは姉の勤めなんだから」

「そうだな」

 

 クレアの返答に、クリスが微笑した。

 

 

 

 曲がり角から同時に突き出されたスパス12とサムライソウルの銃口が、クリスの頭部とレンの胸にポイントされる。

 

「脅かすな」

「そっちこそ」

 

 銃を降ろしながら、お互いの先頭にいたクリスとレンが苦笑する。

 

「被害状況は?」

「負傷者が数名出てるが、いずれも軽傷だ。そっちは?」

「似たようなもんだ」

「レオンは?」

「ハンクと決着をつけるって………」

 

 レオンの姿が見えない事に気付いたアークの問いに、クレアがうつむきながら答える。

 

「……死神と決着か……あいつなら、きっと勝つ………」

「信じて前に進むしかない。オレ達に止まっている時間は無いんだからな」

「ああ………」

 

 Bチームの通って来た方を見ているアークに、レンが冷たく言い放つ。

 あえて誰もが反論しないまま、無言で先へと続く通路を見た。

 彼らの視線の先に、謎の巨大空間へと繋がる扉が静かに、だが、どこか圧倒的な雰囲気を漂わせてSTARSの行き先を閉ざしていた。

 

「あそこを過ぎれば、最深部の中央制御室に辿り着くはずです」

「問題は、あそこに何がいるかだな」

 

 アークのモバイルとのデータ差異をチェックしていたレベッカの言葉に、バリーがうめくように言いながら扉を睨みつける。

 

「間違いなくあそこが最終防衛ラインだ。BOWの一個師団が出てきたって不思議じゃないだろう」

 

 クリスが残弾と、スパス12のセーフティを確かめる。

 

「まずい料理と嫌味な歓迎はもう飽きたからな、とっとと終わらせて帰ることにしようぜ」

「同感だ」

 

 カルロスとスミスがお互い苦笑しながら、M82A1とコンバットボウを構える。

 

「帰ったら、皆でパーティでも開きましょ。おいしい料理いっぱい用意して」

「いいですね、それ」

 

 ジルが空のマガジンに弾丸を装填し、レベッカが救急治療用具をチェックする。

 

「私ローストチキンが食べたい!」

「Tボーンステーキもいいわね」

「……太りますよ」

 

 ミリィの一言に、シェリーとクレアが硬直する。

 

「最高の酒も用意しよう、勝利の美酒って奴をな」

 

 レンが微笑しながら、装填を終えたマガジンをサムライソウルにセットし、初弾を装弾する。

 全員が顔に笑みを浮かべながら、己の銃に弾丸を装填し、それをチェンバーへと送り込む。

 それを構えた時には、すでに全員の顔が真剣な物へと変わっていた。

 

「準備はいいな?」

 

 無言で全員が頷くのを確かめたクリスが、扉の開閉スイッチを押した。

 ゆっくりと扉が重い音を響かせながら響いていくのを皆が固唾を飲み込みながら、異様に長く感じられる時間が過ぎていく。

 扉の向こうが見えてくると同時に、無数の銃口が一斉にそちらへと向けられる。

 張り詰めた緊張がその場に立ち込める中、やがて扉は完全に開く。

 だが。

 

「………あ?」

 

 スミスが思わず間抜けな声を漏らす。

 扉の開いた向こうには、まるでどこかの荒野を模したような広大な空間だけが広がっていた。

 

「てっきり大量に待ち伏せしてるかと思ってたけど………」

「油断するな。罠が張られている事も有りえるぞ」

 

 首を傾げるジルをクリスはたしなめる。

 レンが刀を抜いて、刃だけを扉の先に入れトラップの有無を確かめながら、刃に映った影で室内を探る。

 

「入り口付近は大丈夫そうだな」

「全員、2、3人で一チームを組んで、4m感覚で進行。トラップに気をつけろ」

 

 刀を鞘に収めて歩き出したレンの後に続いて、クリスが指示を出しながら広大な室内へと足を踏み入れる。

 

「でかいな〜。こりゃ象でも戦車でも動き回れるぞ」

「マジで演習用みたいだな」

 

 用心深く銃を構えたまま、スミスとカルロスが興味深そうに周囲を見回す。

 土まで入れて本物の荒野のように作られた室内には、一部に市街地を模したセットのような物や、林のようになっている部分、本物か贋物かまでは分からないが、壊れた砲塔のような物までが置いてあった。

 

「ここでBOWの実戦試験をしてたみたいね」

 

 シェリーが足元の土をすくってみて、その中にBOWの一部と思われる有機物の破片や、空薬莢が転がっているのに気付く。

 室内の半ばまで来た辺りで、先頭を歩いていたレンの足が突然止まる。

 

「どうした?」

「いる……」

 

 その一言で後ろを歩いていたスミスが素早く銃口を左右に向けて敵影を確かめる。

 

「どこだ!?」

「オレの目の前だ」

 

 レンの前方へと銃口を向けたスミスが表情を険しくする。

 そこには、今までと変わらない光景があるだけだった。

 

「まさか透明か?」

「いや、うかつだった………ここまで気付かなかったとは………」

 

 レンがサムライソウルを、目前の地面へと向けて、トリガーを引いた。

 発射された弾丸は、地面に突き刺さると、甲高い音を立てて上へと跳弾した。

 

「敵は地中だ!!」

 

 レンの声が響くと同時に、周囲の地面が一斉に盛り上がり、そこから巨大な虫のようなBOWが大量に出てきた。

 それは、2m近くはある平べったい体をしたカメムシのような姿をしており、あごにはクワガタのような巨大なハサミが生えていた。

 

「撃て!」

 

 クリスの命令と同時に、全ての銃口から弾丸が吐き出される。

 だが、マグナム弾やグレネード弾のような破壊力の強い一部の弾丸を除いて、ほとんどの弾丸はその虫型BOWの甲殻に弾かれる。

 

「何だこいつは!?」

 

 二本目のエクスプローションアローをつがえようとしたカルロスに、虫型BOWが昆虫特有の薄い羽を甲殻の隙間から出して、一斉に宙へと舞いながら襲い掛かる。

 

「カルロス!」

 

 スミスが叫ぶと同時に、ゾンビバスターを連射する。

 頭部に風穴が開いた虫型BOWが地面へと倒れ込む中、その屍を超えて次の敵がそのオオバサミを開いて襲い掛かってくる。

 

「こいつら、撃った隙を突いてくるのか!?」

「ぎゃああ!」

 

 バリーの驚愕を、誰かの悲鳴が遮る。

 

「集まって円陣を組むんだ!破壊力の強い得物を使え!」

 

 クリスの命令が響くが、陣形の崩れた場所へと敵は地を這い、宙を舞いながら襲い掛かってくる。

 

「はあっ!」

 

 レンが頭部と腹部の甲殻の隙間を狙って斬撃を繰り出し、虫型BOWの一匹を地へと沈めるが、そこに三体が同時に襲い掛かってくる。

 

「ああああぁぁぁ!!」

 

 レンは中央の宙を飛んできた一匹に狙いを定めると、雄たけびと共に全身ごと突撃する強力な刺突を繰り出し、その複眼から相手を串刺しにしながら、その体を押し出すように前に出て他の二匹の攻撃をかわす。

 

「フォーメーションアタックを使ってくるだと?」

 

 刀を素早く引き抜きながら、レンは振り返って残ったはずの二匹に対処しようとするが、すでにそこにはその二匹はいなくなっていた。

 

「なんて早い判断だ。まさかこいつら………」

 

 レンが苦戦している仲間の元へと駆け寄るが、その目前でまた一人悲鳴を上げながら地面へと倒れる。

 

「まずい………」

 

 

「まずい………」

 

 期せずして、レンと同じ言葉を呟きながら、クリスは自分の判断ミスを呪った。

 今戦っている虫型BOWは今まで戦ったいかなるBOWとも次元その物が違う存在だった。

 こちらの隙を的確に突き、まったく無駄の無いフォーメションでSTARSメンバーは一人、また一人と倒れていく。

 

「兄さん!このままじゃ!」

 

 重傷を負った仲間の一人を助け起こしながら、クレアが叫ぶ。

 そこへ、虫型BOWの一匹が近寄ると、その昆虫特有の繊毛が生えた口から、何かの液体を吐いてくる。

 

「クレア!」

 

 クリスがスパス12をその吐き出された液体へと投げながら、クレアの体へと覆い被さる。

 大半がスパス12に当たって阻まれながらも、その残った液体がクリスの背中に掛かる。

 

「ぐっ!」

 

 クリスの背中に激痛が走る。

 その吐き出された液体、強力な融解液はボディアーマーに阻まれながらもクリスの背中を焼いていた。

 

「兄さん!大丈夫!?」

「大丈夫だ……」

 

 呟きながらクリスは体を起こす。

 そこへ先程の虫型BOWが地を這いながら襲い掛かろうとするが、シェリーがその背中に飛び乗ると同時に頭部に散弾二発付きの強力なパンチを食らわせて沈黙させる。

 

「すまない」

「後です!まだ来ます!」

 

 狙いを負傷者とその介護者に向けたらしい無数の虫型BOWが徐々に迫ってくる。

 

「このままじゃ全滅する!」

「どうするクリス!?」

 

 アークとバリーの声を聞きながら、クリスは奥歯を強く噛み締める。

 確かに、このままでは全滅は時間の問題だった。

 

「一度退くんだ!こいつらがここで造られた物なら、どこかにデータが有るはず!それから対策を立てるんだ!」

「確かに!データさえあれば………」

 

 レンの指摘に、シェリーが頷く。

 クリスは短い思考の後、叫んだ。

 

「総員!一時撤退だ!こいつらの対処法を探す!」

『了解!』

 

 皆が復唱して引こうとするが、それに気付いたのか、虫型BOW達は一斉に退路を塞ごうとする。

 

「逃さないつもり!?」

「なんちゅう陰険な虫だ!」

 

 ジルとカルロスが叫びながら、トリガーを引こうとする。

 

「待て!オレが血路を開く!」

 

 そこへ、レンが叫びながら敵の群れへと突っ込んでいく。

 

「一人でカッコつけるなと言ってるだろうが!」

 

 その後にスミスが続く中、レンは一度銃も刀も鞘とホルスターに収める。

 敵との距離が寸前まで近づいた所で、レンは柄に手を伸ばす。

 

「ああああぁぁぁ!!」

 

 走りながら繰り出された居合が、まったく止まらない流麗かつ強靭な動きで三匹の虫型BOWを連続して斬り捨てる。

 継いで抜かれたサムライソウルが、至近距離から虫型BOWの複眼を狙ってポイント、三連続で銃弾が吐き出され、複眼を吹き飛ばしながら突き刺さった弾丸が内部を攪拌する。

 

「くたばりやがれ!」

 

 スミスがスラッグ弾を装填したAS12とゾンビバスターを縦横に撃ちまくり、レンの背後から襲いかかろうとする虫型BOWを駆逐していく。

 その背後から負傷者をかつぎながらSTARSメンバー達が続く。

 来た時の何倍も何十倍も感じられる距離を通り、一人、また一人とSTARSメンバー達が扉を抜ける。

 最後に、扉の前に立ちはだかって敵を防いでいたレン、スミス、カルロス、バリーの四人が残った。

 

「全員行ったな!」

「生きてる奴はな!」

 

 弾丸をばら撒きながら、四人が扉へと下がり始めた時だった。

 カルロスが腰の矢立に手を伸ばし、そこにもうエクスプローションアローが無い事に気付いた。

 

「しまった……」

 

 その隙を逃さず、虫型BOWが宙から襲いかかろうとする。

 

「馬鹿!」

 

 スミスが怒鳴りながら、左手だけでカルロスの体を突き飛ばす。

先程までカルロスがいた空間を、オオバサミがえぐる。

 

「虫風情が!」

 

 スミスが至近距離で右のAS12のトリガーを引いた。

 虫型BOWの頭部をスラッグ弾が吹き飛ばす。スミスが別の敵に左のゾンビバスターを向けようとした時、違和感に気付いた。

 

「スミス!!」

 

 カルロスの声に、地面に何かが落ちる音が重なる。

 肘から切断されたスミスの義碗が、オイルとスパークを巻き散らしながら、地面の上でケイレンしていた。

 

「ぐ、ああ………」

 

 スミスが愕然とした表情で、自分の肘までとなった左腕を見る。

 

「退くんだスミス!」

 

 レンの一言にスミスは我に帰ると、素早く切断された義碗からゾンビバスターを抜き取り、通路へと転がり出、カルロスもそれに続く。

 

「お前達も早く!」

「退くぞサムライ!」

「分かっている」

 

 レンが扉の方を向いて走り出し、バリーがM60E3の残弾を撃ち尽くすとそれに続こうとした時だった。

 突然レンは立ち止まると、バリーに道を譲る。

 

「何を…」

 

 言葉の途中で、自分を追い越そうとしたバリーの背中にレンは蹴りを入れて彼を通路へと叩き出した。

 

「レン!お前まさか!」

 

 スミスが慌ててレンの方へと向かおうとするのを、レンはサムライソウルの銃口を向けて押し留め、扉のこちら側に有った開閉スイッチを柄尻で押し込んだ。

 

「誰かが、足止めをする必要が有る。一時間だけ時間を稼ぐ。その間に対処法を」

「レン!!」

「馬鹿!お前一人で!」

「レーン!!」

 

 皆の叫びが響く中、無情にも扉は閉ざされる。

 扉が閉ざされる音を聞きながら、レンは無数の敵に対峙して刀を正眼に構え、サムライソウルに新しいマガジンを叩き込む。

 

「我が剣、大通連と我が銃、サムライソウルに賭けて、これより先は一歩も通さぬ」

 

 レンの周囲を、虫型BOWがゆっくりと囲み、徐々にそれを狭めていく。

 

「水沢 練、いざ、参る」

 

 その包囲網へと向けて、レンは走り出した。

 

 

 

 扉が閉じると同時に、急いで開閉スイッチを押そうとしたシェリーの腕を、クリスが掴んで止めさせた。

 

「離して!」

「ここで開けば、全員死ぬ」

 

 シェリーはハッとして、そこにいる負傷者と疲れた表情のSTARSメンバー達を見た。

 

「……あいつの言う通り、対処法を探すしかない。サムライが、命を賭けて時間を稼いでいる間に………」

 

 シェリーの腕を浮かんでいる手に、必要以上に力が篭る。

 それに気付いたシェリーがクリスの顔を見ると、そこにはあまりにも悲壮な表情が有った。

 

「地図によれば、まだ調べていない研究室はこの奥のを除けば6箇所あるな」

 

 アークが手早くモバイルのデータを検索していく。

 

「負傷者の搬送とガードにメンバーの半分は残れ。残る半分で研究室の探索を行う」

「ああ、こうなれば核弾頭でも構わねえ。あのクソ虫どもを皆殺しにしてやる…………」

 

 クリスの指示を聞きながら、スミスが残った右腕でゾンビバスターのグリップを強く握り締めた。

 

「すぐそこに医務室があったはずです。そこにみんなを!」

 

 レベッカが負傷したジルに肩を貸しながら、医務室のある方向を指差す。

 

「急げ!」

 

 皆がそこを走り出す中、ミリィとシェリーが残って閉じたままの扉を無言で見つめていた。

 

「二人とも……」

「今行きます」

 

 クレアが声を掛けようとした所で、ミリィは扉に背を向ける。

 シェリーも背後を振り返りながら、通路を走り出した。

 

(お願い、無事でいて……レン………)

 

 走りながら、ミリィは左の薬指にはめられた指輪を強く握り締めた。

 

 

 

 最早何度目かになるかお互い分からない銃撃の後、レオンは物陰に身を隠し、荒い呼吸を押さえ込もうとする。

 通路には今までの激戦を物語る弾痕や空薬莢、そして血痕が床と壁に巻き散らかされ、その中に残弾の尽きたスパス15と、弾丸を喰らって半ばから大破したOICWが無造作に放置されていた。

 手の中のデザートイーグルのマガジンを交換すると、レオンは自らの状態を確かめる。

 ボディアーマーはすでに何発もの弾丸を喰らって役に立たなくなりつつあり、かすめた弾丸の銃創が手足に二つずつ。

 内、足の一つは肉までえぐられていた。

 ポケットから救急スプレーを出して傷口へと拭きつける。

 激痛をこらえながらも、応急処置をしつつ、レオンは相手の様子をうかがった。

 ハンクが隠れていると思われる物影の手前には、先程の交戦による物と思われる血痕が壁に付着していた。

 

「条件は五分か………」

 

 止血用パッドを傷口に貼り付けながら、レオンは相手の隙を探る。

 戦況は完全に膠着していた。

 この状態を打破出来るにはどうすればいいかを考えていたレオンが、ふと胸ポケットを探っていた指に触れた感触に気を取られる。

 それを取り出して見て、今更ながらそんな物を持っていた事をレオンは思い出した。

 

「そういえば、何でかまだ持ってたな、こんなのを………」

「そろそろ、楽しみ終えたか?」

 

 突然聞こえてきてハンクの声に、レオンは身を固くする。

 

「先に行った仲間の事が気になってしょうがないんじゃないのか?」

「そういうお前はどうなんだ?」

「死神の仲間は死人だけだ」

 

 ハンクの笑えない冗談に、レオンは苦笑しながらデザートイーグルを強く握り締める。

 

「次の一撃で決着をつけるのはどうだ?お互い逃げも隠れもしない。早く撃って当てた奴の勝ちだ」

「…………」

 

 レオンは、自分の今の状態から勝機を計算する。

 長年扱ったデザートイーグルは完全に自分の体の一部のように扱えるが、この傷ついた体ではハンクとの早撃ちで先んじられるとは思えない。

 ふとそこで、レオンは手の中にある物と、前にハンクに狙撃された時の事を思い出した。

 

「いいだろう」

 

 レオンは返答しながら、素早く手の中の物を細工する。

 

「じゃあ、合図だ」

 

 ハンクの指から、そこいらから拾った空薬莢が跳ね上がる。

 極僅かな、だが二人の間には最高潮の緊迫感を張り詰めた時間の中、空薬莢が宙を舞い、そして床に当たって甲高い音を立てた。

 二つの人影が完全に同時に物陰から飛び出す。

 レオンのデザートイーグルが、正確にハンクの額を目指す。

 だが、一瞬早く同じようにレオンの額に向けられたハンクのSIGPRO SP2009が弾丸を吐き出した。

 レオンの指がトリガーを半ばまで引いた瞬間、発射された9ミリパラベラム弾がその額の中央に命中する。

 ハンクが勝利を確信した時、レオンの額に貼り付けれている止血パッドに気付いた。

 そして、次の瞬間には、銃口から発射された50AE弾がハンクの頭蓋を貫き、脳髄をかき乱しながら後頭部からそれらをぶち撒けた。

 

「……レンの言った通りだな。お前の狙いは正確過ぎるんだよ」

 

 未だ硝煙を上げているデザートイーグルを構えたまま、レオンが呟いた。

 中央に弾痕の開いた額の止血パッドから流れ出した血がレオンの顔面を通り過ぎ、それが床に雫となって落ちると同時に止血パッドも額から剥がれ落ちる。

 そして、その下に仕込まれた物、弾丸を目前で防いだ小さな金属板―五年前、着任と同時に付ける気でついにつけず終いに終わったポリスバッジが、床へと落ちて甲高い音を立てた。

 中央でひしゃげたポリスバッジを拾おうとしたレオンが、突然膝から崩れ落ちる。

 とっさに手をついて転倒を免れたレオンは、ポリズバッジを拾い上げてポケットに入れようとするが、思い直して胸へと付けた。

 

「悪いが、先に進ませてもらう………仲間が待っているんでな………」

 

 着弾の衝撃で割れた額からおびただしい血を流しつつ、レオンは足を引きずりながら壁に手を付きつつ、ハンクの死体に背を向けて進み始める。

 だが、角を曲がろうとした所で、力を失った体が前のめりに倒れ、誰かがそれを支えた。

 

「レオン!!大丈夫か!」

「よお、アーク……首尾はどうだ?」

 

 支えてくれたのが親友だというのに気付いたレオンの顔に、僅かに笑みが浮かぶ。

 

「妙な虫型BOWに阻まれて、一時撤退した所だ。今サムライが一人で時間を稼いでいる。オレはお前の事が気になって来てみたが………」

「そうか、じゃあオレもレンの奴を手伝わないとな……」

「無茶言うな!そんな体でどうするつもりだ!」

 

 傷だらけのレオンをアークは怒鳴りつけるが、レオンはアークを押し退けて前へ進もうとする。

 

「待てレオン!お前はもう下がれ!」

「行かせてくれ、アーク」

 

 慌てて前に回りこんで止めようとするアークを、レオンは静かにその肩に手を置いた。

 

「オレもサムライと同じだ。五年前のラクーンシティから、こんな生き方しか出来なくなった……どうせ死ぬなら、銃を握り締めたまま、一匹でも多く化け物共を道連れにしてやる………」

 

 静かな、だが重い言葉を呟くレオンを、アークはしばし無言で見つめたが、やがてその肩をレオンに貸した。

 

「付き合ってやるって言ったはずだ。オレも行くぞ」

「……悪いな」

「なあに、後で返してもらうさ。色々とな」

 

 二人の男が、再び戦場へと戻ろうとしていた。

 

 

 

「どきやがれ!!」

 

 スミスが右手でゾンビバスターのトリガーを引く。

 生身の腕ではその反動を押さえ込めず、大きく腕を跳ね上げながら、目の前のハンターαが断末魔を上げるのをスミスは確認した。

 

「大丈夫か?片腕で……」

「ああ、かなり痛えだけだ」

 

 別のハンターαを倒したカルロスが心配そうに聞いてくるが、スミスは無愛想に答えながら前へと進む。

 

「本当にこの先にあるんだろうな?レンを助けられるような武器が?」

「確証は無い。だが、この先に有るのが対BOW用兵器の研究室ってだけだ」

 

 同行しているバリーの言葉に、スミスの足が速くなる。

 

「なんでもいい!あいつを助けられるんだったら、オレは何だってやってやる!!」

 

 興奮しているスミスをなだめようともせず、カルロスとバリーは研究室を目指すスミスの後を追う。

 やがて見えてきた研究室の扉を、スミスは安全を確かめもせず飛び込むと、いきなりゾンビバスターを天井目掛けてぶっ放した。

 

「おとなしくしろ!ここはSTARSが占拠する!なんでもいいから武器をよこしやがれ!」

「ひぃ!」

「て、抵抗はしないから命だけは!」

「オレが悪かったです!自首しますから殺さないで!」

 

 中にいた白衣を着た研究員らしい者達が、自分達にいきなり向けられた銃口に悲鳴を上げながら、ある者は手にしていたファイルを取り落とし、ある者は慌てて床に腹ばいになり、ある者は泣きながら命乞いを始める。

 銀行強盗紛いのスミスの所業に、バリーとカルロスはただ唖然としていた。

 

「てめえら、この先にいるデカ虫に効く武器は有るか?」

「虫?ROW“レギオン”の事か?」

 

 研究員の一人の鼻に熱い銃口を押し付けながらのスミスの問いに、震えながら研究員は答える。

 

「ROW!あいつらが!」

「レギオン、それが名前か………」

 

 顔を見合わせたバリーとカルロスだが、スミスは無視して尋問を続ける。

 

「名前なんざどうでもいい。あいつらを殺せる武器は無いかって聞いて…る……」

 

 言葉の途中で、スミスは研究員の背後にある物に目を奪われた。

 

「何だこいつは?」

「まさか……こんな物が………」

 

 そこには、大型機械用の整備台に鎮座する巨大な甲冑を思わせる機械が有った。

 

「レギオンを倒せるという点なら、こいつでも出来るが……」

「何なんだ、こいつは?」

 

 スミスの問いに、ようやく銃口をどけられた研究員が火傷している鼻先を押せえながら説明を始める。

 

「BOW指揮用機動装甲ユニット、タイプMV―2000“ギガント”だ」

 

 それは、SF作品に出てきそうな大型のパワードスーツだった。

 右腕に当たる部分にはガトリングガンが、左腕には大型のカノン砲が取り付けられ、両肩には二門の小型レールガンが装備されている。

 それにゆっくり近づきながら、スミスはそれに触れてみた。

 冷たく光る装甲からは、兵器特有の威圧感が漂っている。

 我知らず、スミスは圧倒されていた。

 

「そもそもこのギガントは、BOWの実戦運用の際のハーメルンシステムを使用した戦術指揮を目的とし、なおかつふいの暴走の際にそのBOWの殲滅をもコンセプトとして…」

「能書きはいい。動くのか?戦えるのか?」

 

 説明の腰を折られた研究員が、静かに首を横に振る。

 

「使えないのか!?」

「兵器としては完成している」

「じゃあなんで!」

「こいつは、使用者の脳に直接神経インターフェースを電子接続しなければいけないんだ。残念だが、専用の改造を受けた人間でなければ………」

「神経の電子接続……こいつからじゃ無理か?」

 

 スミスは、半ばから切断された自らの義腕を研究員に突き出す。

 しげしげとそれを見つめた研究員は、その構造をチェックして考え込んだ。

 

「可能かもしれん……」

「よし、お前らは見逃してやるから、オレをこいつに早く乗せろ!」

「分かった。こっちも死にたくないしな………」

「オレも手伝おう。機械なら得意だ」

 

 カルロスが側に置いてあった工具箱を取りながら、ギガントへと歩み寄る。

 

(待っていろ、レン。今助ける!)

 

 スミスは無言でギガントを見つめていた。

 

 

 

「動かないで!」

 

 クレアは研究室に飛び込むと同時に、中にいた科学者らしき男に銃口を向ける。

 

「やっと来たか………」

 

 男は座っていたイスから立ち上がると、静かにクレアの方へと向き直った。

 

「どうぞ撃ちたまえ。私は償いきれぬ罪を犯した………」

 

 科学者はそう呟くと、自らを銃口にさらす。

 そこで、クレアと一緒だったシェリーがその科学者の顔をまじまじと覗き込むと、その顔が驚きの表情を浮かべた。

 

「トムおじさん!?」

「……まさか、シェリー?シェリーなのか!?」

「知り合い?」

 

 科学者とシェリーの顔を交互に見たクレアが、銃口を下ろす。

 

「パパの同僚だった人。小さい頃よく遊んでもらったけど………」

「驚いた。てっきり家族全員ラクーンシティで死んだ物だと………」

 

 しばし絶句していた二人だが、ふと我に返ったシェリーが口を開いた。

 

「トムおじさん、お願い!この先にいる虫型BOW、いえ、ROWの弱点を教えて!」

「ROW!?あれが!」

 

 驚いているクレアを脇に、シェリーの真摯な顔を見たトムはイスへと座り直した。

 

「弱点か……そもそもあのROW“レギオン”は……」

「DNAコントロールによって創り出された相互情報交換性を持つ戦闘用生体コンピューター」

 

 言おうとしていた事をシェリーに言われたトムが一瞬驚愕するが、やがて大きく息を吐いた。

 

「さすが、あの二人の娘だな。少し見ただけで気付いていたか………」

「どういう事?」

 

 いまいち理解できないクレアが首を傾げる。

 

「つまり、あのレギオンとかいうROWは、こちらの攻撃パターンを完全に解析し、それに適した攻撃をお互いに何らかの情報伝達手段、おそらくは超音波を使って連絡しあっていたのよ」

「つまり、こっちの攻撃は全部見透かされいたって事?」

「そうよ、私達は無数の敵を相手にしていたんじゃなく、レギオンという一つの群体そのものを相手にしていた訳」

「パーフェクトだ」

 

 トムが満足げに頷く。

 

「だとしたら、レンの刀の攻撃パターンも解析されちゃう!トムおじさん!何か手は!?」

「分かっているはずだ。手は一つしかないと……」

 

 トムの問いに、シェリーは考えていたただ一つの手段を口にした。

 

「向こうが未解析の戦力を持って、解析されるよりも早く殲滅する…………」

「その通りだ」

 

 頷きながら、トムは側のコンソールを操作する。

 

「五年前、ウィリアムが死んだと聞かされて、初めて私は自分の罪を理解した。それ以来、私はずっと対BOW用兵器の研究をしてきた。そして、ようやくこれが完成した。」

 

 研究室の中央、BOWの培養用に使われるカプセルを覆っていたシールドが開いていく。

 その中に有ったのは、BOWではなく奇妙な物体だった。

 

「これは?」

「パラサイトアーマー“ベルセルク”。ネメシスシリーズの全く逆のコンセプト、すなわち非力な人間にタイラントタイプに匹敵する戦闘力を与える事が出来る」

「じゃあ!」

「だが、これに寄生された人間は莫大な負荷をその体に負う事になる。生半可な人間では………」

 

 トムの説明を聞いたシェリーは、無言で腕のプロテクターを外す。

 

「シェリー、まさか………」

「私の体は、五年前感染したG―ウイルスの影響で強化されてるの。それじゃ不足?」

「……いいだろう」

 

 着衣を脱いでいき、シャツとスパッツだけの姿のシェリーを見たトムは、ベルセルクの活性処理を始める。

 カプセル内部に活性用リキッドが流し込まれ、ベルセルクは不気味な脈動を始めた。

 

「OKだ」

 

 シェリーは無言で拳を握り締めると、カプセルを一撃で叩き割る。

 開放されたベルセルクは宿主を求め、シェリーの体へと絡みつき、その皮膚に自らの神経を突き刺していく。

 

「くっ………ああっ!」

 

 神経と神経が絡みつく激痛に耐えながら、シェリーはただレンの事だけを思った。

 

(今行く。待ってて、レン!)

 

 

 

「はあああぁぁぁっ!」

 

 神速で繰り出された刃が、音速超化の高音を周囲に響かせる。

 その音が消えた時、そこには斬り伏せられたレギオンの死骸が三つ転がっていた。

 

「光背一刀流……《閃光斬・日輪(にちりん)》………」

 

 大きく呼吸を乱しながら、奥の手の一つ、音速超化の連続斬撃を繰り出したレンが、疲労のために膝を付きそうになるのをなんとか堪える。

 

(今ので、12、いや13か)

 

 冷静にカウントしつつ、レンは一度刀を鞘に収めて居合の構えを取る。

 その周囲360度全てを取り巻くように、レギオンが待ち構えている。

 

(居合の間合いに入ってこなくなったな。やはり、こいつらには高い知性が有る……)

 

 油断無く構えているレンの背筋に、突然悪寒が走る。

 

(見ている……何かがオレを………)

 

 消えない悪寒を堪えながらも、レンは演習場の向こう、遠くに見える最深部へと続く扉を睨みつける。

 

「そこか」

 

 低く呟くと同時に、周囲のレギオンが同時に溶解液を吐き出してくる。

 

「食らうか!」

 

 レンは360度全てから襲ってくる溶解液の一角を居合で斬り裂くと、それによって生じた僅かな空間に突撃する。

 その勢いのまま、目前のレギオンに全体重を乗せた刺突で串刺しすると、その頭部にサムライソウルを速射する。

 

「待っていろ、オレが行けなくても仲間達がそこへ行く。だから、この場はこの命に代えてでも守り通す!」

 

 扉の向こうに叫びながら、レンは次の敵へと対峙する。

 

 約束の時間の半分が、ようやく過ぎ去った所だった………

 

説明
※注意 本作はSWORD REQUIEMの正式続編です。SWORD REQUIEMを読まれてからの方がより一層楽しめるかと思います。
 ラクーンシティを襲ったバイオハザードから五年。
 成長したレンは、五年前の真実を知るべく、一人調査を開始する。
 それは、新たなる激戦への幕開けだった…………
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