恋姫外伝〜修羅と恋姫たち 十の刻
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【十の刻 武の極み】

 

 

 

 

 

茶店での一件の翌日、疾風と趙雲、程立、戯志才の四人は、街から少々離れた場所に来ていた。ここなら邪魔が入らないからと存分に戦おうと、趙雲が早速やる気を見せる。

「ではさっそくお手合わせ願おうか」

と自らの分身である槍を疾風に向ける趙雲。

対する疾風は腰にある刀に手をかけたかと思いきや、その刀を鞘ごと投げ捨てる。

「…どういうつもりです、武器を捨てるとは私を舐めてますかな?」

自らの武を侮られたかと、怒りを露にする趙雲。

そんな趙雲にいつもと変わらぬ風に

「俺の流派は無手なんだ、気にせず来な。」

と、飄々と答える疾風。

「…無手で私とでやろうとは、後悔めされるな!」

そんな疾風の態度を挑発と取ったか、怒気を収めぬまま槍を持つ手に力を込める趙雲。

そして疾風がわずかに構えた瞬間、趙雲は槍をもの凄い速さで繰り出してきた。

ビシュ

空気を切り裂くような鋭い音と共に繰り出される目にも留まらぬような突き。

だが、なんと疾風はその槍を素手で掴み取っていた。

「!?なんと私の槍を素手で掴むとは」

疾風は驚きの余り呆然としている趙雲に対し、ブンッと掴んでいた槍先を投げ捨てるとそれまで抑えていた物を開放するように気を放つ。

「殺す気でない攻撃など俺にかすりもしないよ…本気で来なよ趙子龍…じゃないと退屈だよ!」

ゾクッ

その瞬間、趙雲はもとより少し離れた場所で見守っていた、程立と戯志才のニ人まで呼吸が出来ないほどの重圧を感じる。

(な、なんだこの気は…殺気とは違う。だが、こんな呼吸が止まりそうなほどの重圧今まで感じたことがない…こ、こんな気を人が出せるというのか…。)

趙雲は背中に嫌な汗が流れるのを感じながら、それでも口元に笑みが浮かぶのを止められなかった。

(私は、私はこの男の前に立ってることが恐ろしい…震えが止まらず今すぐ逃げ出したくなるほどに…だがしかし同時にこの男と戦えることに愉悦を感じ歓喜に打ち震える自分もいる。)

趙雲は恐怖と歓喜に魂が震えるのを感じながら、改めて槍を構える。

「先ほどは失礼仕った、どうやら侮っていたのは私の方でしたな」

と軽く頭を下げ再び疾風と向き合う、その目には先ほどにはない覇気で溢れていた。

 

そして槍を疾風に向けると、体全体の闘気を高めていく。

「では私も慢心は捨て本気で参りますぞ!!」

そう言って疾風に向かって駆け出す趙雲

疾風が構える中、趙雲の無数の突きが襲い掛かる。

「いくぞ、この趙子龍の本気の突き、見事受けてみよ、ハイ、ハイ、ハイー!!」

先程放った突きとは明らかに違い、気迫のこもった槍先が何十と疾風を襲う。

だがそれでも陸奥には届かない。さすがに槍を掴むような真似は出来ないようだが、それでも全てかわしきられてしまう。

「どうした陸奥殿、あれほどの大口を叩いた割には避けるのが精一杯ですかなーー!!」

自分が本気で放った何十、何百という突きをこれほどまでに見事にかわしきる陸奥に恐怖と賞賛を感じながら、あえて挑発するように口元を歪める趙雲。

それに対し疾風も口元に笑みを浮かべながら

「なら、いく」

と言い放つと無数の突きが交差する中、あえて前に出る。

それまで見事に趙雲が放つ槍をかわし続けていた疾風だが、前に出ることで間合いが詰まり体を槍先が掠すめるようになる。

それでも引かず前に出る疾風、趙雲はさらに限界を超えた速度で突きを放とうとしたが、疾風の間合いに自身が入り込んだ瞬間、己の『死』を本能的に感じ瞬間後ろへと跳んだ。

ガシィィ〜!!

趙雲が跳んだ瞬間、疾風の蹴りが趙雲の顔面を襲った。瞬間的に腕を上げ防御したがそれでも体ごと浮かされた。

「ぐ、ぐむう」

(なんという蹴りの威力、あの瞬間後ろに跳べなければ死んでいたな)

趙雲は己が感じた恐怖に全身が総毛立つの感じながらも再び槍を構えようとした、とその瞬間疾風が追撃をかけるごとく趙雲の懐に入る。

「む」

趙雲が反応し構えると同時に疾風の回し蹴りが趙雲の胴に向かって放たれた。

「くっ!」

それになんとか反応し背を向けた疾風を串刺しにしようかと槍を放とうとする趙雲

ゾクッ!?

が、その瞬間危険信号が趙雲の中に駆け抜け、またしても後ろへ跳ぶ

ぶわっ

すると疾風の体が独楽の様に回転し、趙雲の顔面めがけ先程と逆の足で後ろ回し蹴りを放ってくる

「ちい!」

その蹴りを紙一重でかわし、再び間合いをあけ槍を構えなおす趙雲

「最初の蹴りをかわしても体が空中で回転し再び蹴りが襲ってきた、あのような蹴り技があるとは…」

と趙雲が感嘆すれば

「((旋 | つむじ))を初見で防ぐでなく、かわすとは、な。」

と疾風も賞賛の声をあげる。

再び疾風に槍先を向けながら趙雲は、このままでは勝ち目がない事を悟っていた。

(このまま突きを数多く放っても、陸奥殿には届かんだろう…ならば残った全ての力を一撃に込め、最後の突きにすべてを賭けるのみ!!)

覚悟を決めた趙雲は、全身の力を抜きただ最高の突きを放つべく刃先に集中していく

それを感じ取ったか、疾風の気も高まっていく

両者の間に高まる緊張、もはや程立と戯志才も声を出すことすら出来ない

(思えば初めて槍を持ったあの日からの修練は、この瞬間の為にあったのやもしれぬ)

趙雲の中に今まで放った無数の突きが交差する

「ではまいるぞ陸奥殿、この突きこそ趙子龍が今放てる最高の突きだーー!!」

そう言い放つと趙雲は疾風に向かって駆け出す

「ハイーー!!」

気迫の篭った掛け声と共に、趙子龍の最高の突きが疾風を貫いた、と次の瞬間疾風の体が霞み消え去った

(なんと!あの突きをもかわしたというか…ならば後ろか!)

驚愕したのも一瞬、趙雲は己の槍をそのまま振り回すように後方にと水平に薙ぎ払う。

 

だがその槍もかわし疾風が懐に入り、その右拳を趙雲の腹部へと押し付ける。

 

「があっ!?」

 

次の瞬間、腹部に押し付けただけの疾風の拳から、趙雲の背中へと衝撃が走る。

 

「陸奥圓明流、虎砲」

 

その疾風の声を背に腹部を抑えながら倒れそうになる体を、己の槍で支える趙雲。

 

「…まだ、だ…まだ終われん、よ、ぐっ」

 

激痛が走る体を気力で支え、再び槍を構える趙雲…だがもはや誰が見ても戦える体ではない…。

 

「星殿!もう無理です。」

 

そう叫びながら駆け寄ろうとする程立、戯志才。

 

「来るな――!!」

 

だがその二の足を踏み留まらせる趙雲の激昂。

 

「すまぬ…まだ終われんのだ。」

 

「星ちゃん…。」

 

その趙雲の決意に満ちた瞳に何も言えなくなってしまう程立と戯志才。

 

「さ、さてやろうか、陸奥殿…。」

 

そう言いながら再び槍を疾風に放つ趙雲。

 

その突きは先ほどまでの閃光のような突きとは比べ物にならないほど弱々しい。

 

だが趙雲の口元に浮かぶ感情は何なのだろうか…。

 

「ならいくよ」

 

そう言うと疾風は趙雲の突きを左手で払い、そのまま頭部へと蹴りを放つ。

 

趙雲の目に映るはもはや己ではかわせない神業のような蹴りだった。

ガシィィィーー!!

(ああ、届かなかったか……)

頭を蹴り抜かれながら、趙雲を襲った感情は悔しさでも悲しさでもなく、ただ遥かな高みにあるであろう武への憧れであった。

 

 

どさ…。

「「星ちゃん(殿)!?」」

疾風の蹴りを受け大地に横たわる趙雲を見て、硬直の解けた程立と戯志才が駆け寄ってくる。

「…生きておるよ」

そんな二人に無事だと声を出す趙雲

「「ほ〜〜」」

その声を聞き、安心したかその場にへたり込む二人

そんな二人の様子にくすりと苦笑を向けながら

「…あのような動きを人が出来るとは、武の極みとは遥かに遠いですな……。」

と趙雲は誰に言うでもなく言葉を漏らした後、いつか自分もあの高さまで上り詰められるのだろうか?と、今はまだ手の届かぬ空に手を伸ばすのであった。

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※解説 【陸奥圓明流】

旋-つむじ

蹴りを放ったあと、身体をコマのように回転させて逆の足でも蹴りを放つ二連蹴り。

 

虎砲-こほう

拳を相手の体に密着させた状態から放つ、身体を陥没させるほどの威力の当て身。布団に拳が触れた状態で、布団を動かさず貫通できるように毎日何年も続けると出来るようになるらしい。

 

 

 

説明
いつの時代も決して表に出ることなく

常に時代の影にいた

最強を誇る無手の武術『陸奥圓明流』

その陸奥を名乗る者が『恋姫』の世界にいたら?

というifのお話


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コメント
虎砲は原作でも出番の多い、陸奥の代名詞的な技の1つなので、是非作中で使いたかった技ですね。(南斗星)
至近距離ならこれという技ですね。(アルヤ)
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恋姫†無双 と修羅の刻のクロス 主役はオリジナルの『陸奥』 

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