セキレイ-翼と拳と恋物語-
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2020年、時期は春。桜が蕾をつける程度に暖かくなったこの時期。

いつもと変わらぬ光景。

町はいつもの日々。

車が行き交い、人が行き交い、物資が行き交い。

何もかもが混じり合い溶け合う、この二十一世紀の日本は大都会・東京。

そんな街は、今日も今日とて平和だった。

 

「今年もダメ、か…………二浪なのに、どうしよう…………母ちゃんになんて言えば…………」

 

「帝都大学の合格発表か…………若いねぇ、あんなに頑張れて」

 

青年はそう呟き、都立・帝都大学の前を素通りする。

都の中心部に居を構える帝都大学は、日本最大規模の設備と生徒数を誇る。そして現在、その帝都大学の前には男女を問わず大量の若人が波を作り、お祭りもそっちのけの大騒ぎになっていた。このうち三割は勝ち組で、五割が負け組、あとの二割は見る組だろう。

煉瓦造りの門の合間から見えるその光景、青年の視界には、さえない受験生の青年が落ち込んでいる姿が目に映った。掛ける声などもとよりない。だがこう思う。あぁ、青春だなぁと。

 

そんな街、そこは東京だった街。

 

いまや名を改め、新東帝都(しんとうていと)と呼ぶべきか。

地図としては旧東京都に位置し、国籍も一応日本に存在するが、この土地は既にある人物の所有地と化している。個人で所有出来る土地の広さではないが、事実上ここは『彼』の庭なのだ。

 

彼の庭で、彼の家で、彼の遊び場。

彼、その者の名は御中(みなか)広人(ひろと)――――――――世界を牛耳るとまで言われる程に肥大化した企業『M.B.I』の社長。創始者にして創造者、そして稀代の天才の一人である。

 

M.B.I――――正式名『MID BIOLOGIC INFORMATICS』。

製薬会社に始まり今では世界のほとんどにその名を刻む一大企業に発展した。

その本社はこの帝都のど真ん中に位置し、この帝都で一番高いとされるタワー状の企業ビルであり、外観は塔のようでもある。そして何故かイギリスの時計塔(ビッグベン)を連想させる。

今やスーパーから食品から運送会社から製薬会社から、なにからなにまでその名を刻み、ありとあらゆる企業に精通する存在になったその本社を、一人の青年が見上げていた。

視線を正面に戻すと、なにやら白髪の女性が深刻そうな顔で電話をかけていた。

 

「焔か? 悪い、また光と響がちょっかいを出していてな…………頼めるか? ――――――――あぁ、すまんな。助かるよ、今度店に顔出すからその時に。あぁ、感謝する」

 

閑話休題。

青年の名は白羽(しらは)黒人(くろと)。今年の末で二十一歳の美青年、フリーターである。

身長187cm、体重72kg、ビジュアル系っぽい顔立ちで、若干筋肉隆々な身体と肩にかかるくらいの長さの黒髪が特徴。デニムに黒革のブーツ、七分丈の無地・黒シャツを愛着している。

 

身内はいるが一人暮らしの為に、当然のように炊事洗濯は全て彼が賄っている。

そして今日も、スーパーで昼食・夕食の食材やらの買い物を済ませた彼は、自宅への道中にふとこのビルに立ち寄った。別になんの事はない、ただの気まぐれ程度の事だ。故に気まぐれにその場を立ち去る。

帝都のはずれにある自宅はワリと大きく、豪邸という呼び名が相応しい。一人暮らしには大きすぎるが、見栄を張るにはもってこいのサイズだった。一人暮らしとは言ったが実際は両親もいる――のだが、世界各国を巡る仕事をしている為に、家に帰るのは年に一回あるかないか程度――が、いないのと同義。

 

 

そして余談だが――――――――彼は格闘技と二次元が好きだ。

幼いころは、友達と遊んで家に帰った後の退屈な時間を、アニメを見て過ごしていた。

それはもう毎日欠かさず、食事を終えればすぐアニメ、寝て起きてもすぐアニメ、学校や幼稚園で語るのも大体アニメ。同年代の子たちよりも頭の良かった彼は、設定などもよく理解したし、記憶力も良かった。

今でもアニメは欠かさず見るし、週刊誌も欠かさず読む。グッズも買うし、ゲームもする。

一人暮らしだから料理もするし、家事は一人でこなせる。そんな彼がたしなむ格闘技は、ある物語の主人公の武術をモデルにしている。その名を――――まだ明かさないでおこう。

今から十年ほど前の話だが、彼はその主人公の武術にえらく感銘を受け、現存するあらゆる武術から利用出来る『オイシイ』動きばかりを抜き取り、その武術を現実的に再現する事に成功した。

はやい話、彼は自力で『二次元を現実に持ち出している』のだ。それ故に、その身体は人より抜きん出た筋力と腕力と脚力と体力と、全てが人並み以上に鍛え上げられている。否、そうしなければ空想を現実には持ち出せない。

そしてそんな彼にとって、現実こそが理想であり、理想こそが現実なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

自宅に着くや否や、キッチンへ一直線。包丁を取って野菜を切り刻む。

油を引き、肉を炒め野菜を炒め、湯を張った鍋に叩き込む。そしてカレールゥを落とし、余熱でルゥが解けるのを待つ事十数分。そこから彼はのんびりと昼寝を決め込む事にした。

カレーは一日寝かせてからが美味しい、という彼の持論である。

そして急だが、彼の家族構成を紹介しよう。

 

まず父親。

名前は白羽 須佐(すさ)、年齢不祥。

息子にすら年齢を教えず、黒人が十五歳の頃に仕事で家を飛び出し、現在はヴァチカン市国にて聖十字騎士団式剣闘術(クリストアーツ)を習っているとの事。このことから、常軌を逸した戦闘好きで武闘好きが窺える。所属の企業はM.B.I軍需鉄鋼部門の統括。

 

そして母親。

白羽 詠子(よみこ)、年齢不詳の超絶美人。外見は二十代前半である。

父親と同じく戦闘が大好きで、現在はインドにて『プンチャックシラット』と呼ばれる伝統武術を学んでいるとの事。所属はM.B.I政治経済部門の統括。なお、父親より強い腕っ節が自慢である。

 

この二人が世界各国を駆け巡ると、その行先は大体M.B.Iの息のかかった国になる。

というか、そのために二人は動いている。そして同時に趣味のためにも動いている。比率は仕事:3、趣味:7の割合。何故かと聞かれれば、御中の指示に従うのが心底嫌だから。M.B.Iで働いてはいるものの、両親は御中とは知人の間柄であり、そして同時に彼の事を心底嫌悪する半ば怨敵のような間柄でもある。

 

「「御中死ね」」

 

が口癖だったのを、彼はよく覚えている。

そしてそんな両親(バトルマニア)をもった彼は、当然ながら武術に通ずる人間に育っていた。

国内で学べる武術はすべて親の指示で習得し、後々は自分の『理想の武術』の完成の為にそれらを進んで会得していた。そんな事は五歳の頃から続いていた為、当然高校には行っていない。

が、学力は大卒レベル以上はあると本人は言う。実際、帝都大学の過去問はすべて簡単だったそうな。親が親なら子も子、優秀さは遺伝するというのは本当らしい。

 

 

 

 

 

 

 

昼時を過ぎ、日も暮れはじめようかという時間。

黒人はふと喉が渇いたので、冷蔵庫の中の麦茶を取り出そうとした。しかしピッチャーの中にはなにも無く、そして昨夜寝ぼけて飲み干して空になったピッチャーを冷蔵庫に戻したことをようやく思い出した。

おまけに炊き出し用のティーパックも切れている。

 

「二度手間だなぁ……まぁ、いいか」

 

距離にしてみれば、ここからスーパーまでは大した距離じゃない。

切れていた麦茶を買いに行くついでに、黒人は小遣い稼ぎをと意気込んで外に出る。

と。町中に出て五分もしないうちに、何故かボンテージファッションの女性が二人、鬼の形相で街を駆け回っていたのは忘れたい記憶。そしてそのお姉ちゃん達から巫女服を今風に改造した女の子が逃げていたが、彼にとってはまぁ全てがどぉでもいい事である。一分したら、もう誰が誰で何が何だか忘れていた。

 

そんな彼の収入源は、少し変わっている。

この街は、人間換算で言えば相当に広い。そんな帝都の人通りの少ない路地裏――簡潔に言えばよろしくない人間の溜まり場に足を運ぶ。防音用の養生を施された高層ビルとビルの合間。するとまぁ溜まっている溜まっている、彼からすればゴミ同然の連中が。

元からその辺りを縄張りにしていた彼らが、たかだか工事程度で動く訳も無い。幾度も立ち退きを敢行されているが、彼らはその度にそこに戻ってくるそうだ。別にそこじゃなくてもいいんじゃないか、と言いたいが、

その人たちの中に、黒人は堂々と足を踏み入れる。当然こんな異端がやって来たなら、彼らの反応は決まっている。武力による排除、ならず者たる彼らの選択はこれ一択だ。だが、

 

「ご苦労様不良諸君、よく頑張った。僕に喧嘩を売った褒美として、財布の中身を頂戴してあげよう」

 

彼らの対峙する青年は、武道に通ずる青年である。

ただの不良である彼らが、まともに太刀打ちできる筈などないではないか。

だが売られた喧嘩は買わなければならない。挑発されれば受けて立つし、こちらの挑発に乗れば即戦闘、それが黒人の主義だ。同時に敗者は勝者に何をされても文句は言えない、というのも彼の思想である。ゆえに、彼は敗者から所持金全てを奪う。これが、黒人の収入源だ。

 

しかし退屈だった。黒人は心底退屈していた。

何故こんなに弱い人間しかいないのかと、何故この世には自分が愛する二次元のように馬鹿げた強さを誇る超人はいないのかと。いたなら、何故自分の前に現われてくれないのかと。

不良達からかすめ取った所持金を勘定しながら、黒人はそんな事を考えていた。

 

 

 

だが彼は知らない。

この後、彼は自分の欲求が満たされそれ以上が与えられる事を。自分の理想が他人の空想へと刃を向ける事を、そしてその思いを賭けて彼は戦場を駆け抜ける事を。

縁より続く輪廻は、この街『帝都』で、巨大な因果の渦となって愛憎狂乱渦巻く華を咲かせる。

2020年は春、同時に青年・白羽黒人の人生の初恋の年でもあった――――

 

 

説明


※二次ファンから移転してきたものです。

セキレイのクロス作品、という分類なのでしょうか。
「なんか混ぜたいなぁ」と思った作品のスキルやらなんやらを、セキレイに織り交ぜてやっていこうという作品です。
カメ更新なので、悪しからず。楽しめるように、尽力。
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コメント
続き無いのー?(マドカン)
|ω・)続編マダー(チラッ(暇人)
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