ハイスクールD×D×D&F
[全1ページ]

 セルヴィアとサティが殺された事件からはや10年。あの事件を引き摺って、オレに配下に当たる悪魔は存在しない。アジュカからも何度も催告があったけど、それも無視した。

 配下を作らないと言う異質から他の悪魔達からも嫌悪されているが、オレ自身あまり外出しないのが相俟って表立った迫害は見られない。出掛けるとしても教会を襲撃しては教会で悪く言われている人を解放してあげたり、聖剣を贋物とスリ変えたりするだけだ。

 その他はサクラやマリィと戦いながらも人生を楽しむように遊びまわった。本来なら学生でもするべき年齢なのだが、学業に関しては兄譲りだった模様ですでに終わらせ、ほぼ暇人と化している。なので自然と人間界の遊園地に遊びに行っても問題ない。

 

「ディアドラァ、いるな!!」

 

 オレを嫌ってない数少ない悪魔がご丁寧にアスタロト家の玄関口を破壊して入って来たようだ。

 もう毎回の事なのでアスタロト家のメイド達は動じる事をせず、扉の破壊以降はあまり騒がしい声がしない。もう動じる事がなくなったメイド達の代わりにマリィがオレの部屋に入って来て、オレの姿を認識するなり表情をほころばせて空中に文字を書く。

 

『サイラオーグ様が来た』

「わざわざ扉を破壊するのはアイツしかいないからなぁ」

 

 その言葉にさすがのマリィも苦笑を浮かべる。

 サイラオーグ・バアル。魔王に次ぐ権力を持つ大王、バアル家の次期頭首。肩書きを並べればそれなりに敬意を払う相手なのだが、本人の性格を知れば敬意を払う気持ちなんて砂1粒ほども残らない。

 動じることをしなくなったメイド達はサイラオーグを応接室に通す(サイラオーグが勝手に行ってる可能性もある)から、オレもやっていた開発を止めて応接室へと向かった。ついでに玄関口に寄って『|復元する世界(ダ・カーポ)』で修復する。

 応接室へ入ると、上質なソファーで胡坐をかく大王とその隣でしっかりと座る『女王(クイーン)』がいた。

 

「よっ、ディアドラ」

「『よっ』じゃないだろ!! 来る度に扉を破壊するな!!」

 

 サイラオーグの頭を叩き、対面するソファーにオレも腰を落とす。ここはオレの家なのでサイラオーグに敬意を表する気は無く、偉そうとは行かない程度に崩した姿勢で座る。

 

『久しぶり、クイーシャ』

「お久しぶり、マリィ」

 

 マリィはサイラオーグの『女王(クイーン)』クイーシャに挨拶をし、そこから本題を切り出す。

 

「で、今回はどんな用件で?」

「親友の家に来るのに理由が必要なのか?」

「大抵決闘の申し込みなのに理由を聞かない方がどうかしてる……」

 

 うんざりした気持ちを吐き出すようにため息をついて、ジト目でサイラオーグを見る。

 オレがサイラオーグと出会ったのはちょっとした勘違いで、『滅びの力』を見てみたいと思ったオレはバアル領のはずれに隠れるように住んでいたサイラオーグに襲撃を掛けたのだ。まァ後でサイラオーグが『滅びの力』を持ってない事を知って若干落胆したものの、力を求めると言う部分では共感したのでサイラオーグの修行に付き合うようになった。

 それからはサイラオーグの修行に付き合っていたので、オレも近接格闘はかなり上手になり、ついでに人間界で拾って来た猫仙人(を脅迫して)から仙術も覚えた。他にもサイラオーグと一緒に修行したのはいい思い出だ。

 それからと言うもの、若手悪魔の中で最強と名高くなったサイラオーグの強さについていける若手悪魔が存在しなくなり、多少経験を積んだ悪魔達も成熟してないサイラオーグに負けるのが怖くて戦おうとしない。結果、サイラオーグの喧嘩に付き合ってくれる悪魔が存在しなくなったのだ。たった一人、一緒に修行したオレを除いて。

 

「ま、今回は違うさ。グレモリー主催のグレモリーvsフェニックス戦の記録があるんだ。一緒に見ないか?」

「グレモリー? サーゼクスの出身家だったはずだけど……グレモリーって確かまだレーティングゲームの参加権なかったはずだけど」

『リアス様もミリキャス様もまだ未成年だよね?』

「だけどレーティングゲームにも例外があるのは知ってるだろ。殺し合いを禁ずるために、レーティングゲームをするし。今回もその一例で婚約話を断るためにやったんだとよ」

 

 サイラオーグにしてはよく調べてると感心したが、隣でクイーシャが微笑んでいたのを見て今回も彼女が調べたのだろうと考え付いた。ま、その行動は褒めるべき事なので、言っておくか。

 

「そこまで詳しく教えてくれてありがと。サイラオーグは頼りになる相棒で助かるよ」

「へっ、いいってことよ」

 

 サイラオーグは嬉しそうに頭をかいて笑みを隠し切れずにいた。

 そんなサイラオーグが少々気にはなったが、とりあえずサイラオーグが持ってきた記録映像を4人で一緒に見る。

 グレモリーの配下は質で構成しているようで、粗らしい粗は見付からない。しいて言えば、『女王(クイーン)』の動きに問題があったかな程度だ。最初に『戦車(ルーク)』が消えたのは痛いけど、それが『兵士(ポーン)』の動きをより良くしてるから、無駄な犠牲とは言えない。

 逆にフェニックスの配下はそれなりの質を持ちつつ数を揃えたようで、ランクにあわせた動きを着実にこなして少ないグレモリー配下をしっかり削っていく。フェニックス家の末娘が『僧侶(ビショップ)』にいたのは全員で首を傾げたが、護衛らしき『戦車(ルーク)』のおかげで大体の実情はつかめた。

 

「でも、グレモリーの『兵士(ポーン)』ってG並みの生命力だね」

 

 大抵の傷は治ると言う反則的な能力を持つフェニックス家。ゆえに今回の勝負に初心者まるだしのグレモリーに勝機なんてあるはずもない…………のだが、勝てると信じてフェニックスに戦いを挑み続ける。満身創痍になっても勝てる事を疑わず果敢に挑み、幾度と無く再生するフェニックスは慈悲を与えるように何度も攻撃する。

 ベースは人間より5段階くらい劣っている青少年だからとっくに限界は超えているはずだ。なのに未だにリタイアせず、フェニックスに殴りかかる。何度攻撃を潰されようとも、毎回立ち上がって。

 

「……絶対に譲れない想いってやつかな」

「コイツなら楽しめそうだ」

『その時はなにか脅迫した方がいいんじゃないかな。リアス様の命は握った、みたいな感じで』

「マリィ、お願いですからサイラオーグ様に余計な事を吹き込まないで」

 

 意外と残酷な事を空中に浮かべるマリィにクイーシャが懇願するように頼み込んだ。

 まあクイーシャが心配するような事にはならないけどな。

 

「おいおい。俺はそんな卑怯な真似はしたくない。やるなら正々堂々とだ」

「ついでに付け加えると、今の『兵士(ポーン)』はまだ未熟だから戦ったってあんま楽しめないぞ」

『そっか。残念』

 

 なんでそこで残念がるんでしょうか? そこらへんの詳細を少々お聞かせ願いたいものですな、マリィ。

 結局グレモリーが投了(リザイン)して、戦いは終わった。

 そこで映像も途切れ、オレ達4人も現実へと頭を切り替える。

 

「この戦いは色々と参考になったな。《|魔剣創造(ソード・バース)》、ちょっと練習してみようかな」

「俺は特に無いな。せっかくだし、ディアドラが覚えてみたいと感じた技を試してみろよ」

「……それ、単に戦いたいだけだろ。ま、丁度いいし付き合ってもらうか。ルールはナシ・アリでいだろ?」

「ああ。文句は無い」

 

 ナシ・アリとは手加減・特殊攻撃のことだ。特殊攻撃と言うかオレ達の神器を許可してたらかなり面倒なことになるので基本的にやらない。

 それからマリィも一旦自室に戻って《|邪龍の黒炎(ブレイズ・ブラック・フレア》、《|龍の牢獄(シャドウ・プリズン)》、《|漆黒の領域(デリート・フィールド)》を取ってきた。クイーシャも戦う気はあったようで、腕に《|炎獄の麗爪(ヘルネス・クロウ)》をつけている。

 そして、4人による頂上決戦みたいな戦いがはじまった。神器を使わずとも地面に巨大なクレーターを入れる2人は、もはや悪魔と言う次元さえ超えているのかもしれない。

 結局今回の戦いもディアドラ&マリィが連勝記録を更新して終わった。

 

 その後、暇つぶしの材料として人間界にやってきた。

 今回は地上に出ると言う事でマリィの代わりにサクラが同伴し、なぜかサイラオーグとクイーシャまでついてくる。

 ちなみに「ディアドラってアスタロト家に引籠ってるわけじゃなかったんだ」とのたまったサイラオーグにはもれなく重たい一撃をプレゼントしてあげた。さすがに引籠りで開発は出来ないだろ。

 そんなことを思いながら遊園地のジェットコースターに乗ったり、フリーフォールに乗ったり、バイキングに乗ったり、ほぼ絶叫系を乗り回った。オレは絶叫系はそこまで好きと言うわけでもないが、サクラが一番好んでいる。サイラオーグ達もサクラに振り回される感じで絶叫系アトラクションに乗り、今はクイーシャだけが気持ち悪そうにダウンしていた。

 

「意外と軟弱だな」

「あ、あなた達がタフすぎるんです……」

 

 率直な感想を述べると気持ち悪そうにしながらも返答が帰ってきた。

 ひとまずクイーシャの気分が治るまでベンチで休憩していたが、不意に何かを思いついたようにサクラが表情を明るくさせる。

 

「マスター、他のアトラクションに行ってみようよ!!」

「いや、だって、クイーシャが……」

「クイーシャは俺が見とく。ディアドラは一緒に行って来いよ」

「う〜〜ん、そうだな。分かった。じゃあ頼むな」

 

 サクラの暴走を止めなかったからこんな事になったと言う罪悪感がまだあるが、ここはサイラオーグの言葉に甘えるとしよう。

 オレが了承すると、サクラは何故かクイーシャの方を見てウインクし、そのまま次のアトラクションへ向かう。ウインクの理由が分からずも、どんどん離れていくサクラを見失いそうだったので頭の中から追いやってサクラを追いかけた。

 それからも何度かサイラオーグとクイーシャと別行動になる場面があって、日が沈んだ頃には遊園地のアトラクションをかなり乗り回していた。

 

「ん〜、楽しめたな」

「ご迷惑掛けてすみません、サイラオーグ様」

「クイーシャさんは気にしなくていいんだよ。サイラオーグくんだってかなり楽しんでたと思うんだよ」

 

 サイラオーグの一言を厭味と受け取ったクイーシャをサクラが慰めるように言う。

 オレとしては遊園地と言うのは『個人が思い思いに楽しむ場』として考えているので、サクラの言葉には非常に同意する。

 そのまま冥界へ帰ろうと思った時、不意にきな臭い気配を感じた。ソレを感じたのはオレだけではないようで、クイーシャの方を見て笑っていたサイラオーグも一瞬で纏う気配が変わり、気配を感じた方角へ真剣に睨みつけている。

 

「ん〜、ちょっとドンパチやらすかな。サイラオーグは……」

「俺も行くぞ」

 

 「早く冥界に帰っておいてくれ」と言う言葉を遮ってサイラオーグが宣言する。ついでにサイラオーグの表情で何か危険なことが起こってると察したクイーシャも戦う意志が篭った視線をこっちに向けてきた。

 

「大丈夫だ。俺は絶対に死なない。死ぬ状況になっても、死んでやらない。お前の親友は、負けるほど弱いと感じているのか?」

 

 そこまで言われたら何も言えなくなる。その言葉を拒否すれば、サイラオーグの強さを認めてないってことじゃないか。

 だからただため息をついて気持ちを整理し、一言だけ言葉を掛ける。

 

「絶対に死ぬなよ」

「おう、どんと任せろ!」

 

 逞しく宣言するサイラオーグの姿に、敗北する姿が見えない。

 サイラオーグが相手なら信頼する気持ちが生まれたから、ショック療法もあながち間違いでも無いのかも知れないと苦笑を浮かべる。

 それから聖剣の力を借りてオレ達4人の姿を誰にも見えないようにし、気配の方へ一直線に向かった。屋根を走る方が速いからある程度屋根を走っていたのだが、その気配の発生地がオレ達悪魔とかなり関わりのある場所だと知って驚く。

 

「こいつは驚いた。まさか駒王学園とはな」

「と言う事は対処に追われているのはリアス・グレモリー様とソーナ・シトリー様となりますね」

 

 なんで2人の魔王の妹と対面しなければならんと思いはしたが、今回は私情は捨てるべきだろう。シトリーの張ってる結界越しにでも今回の危険が嫌と言うほど伝わってくる。こんな事態ならば、いずれ魔王が出てくる事になる。

 場所からしてサーゼクスだから、この間の件もあってサーゼクスとは顔を合わせ辛い。なら来る前に解決した方が後腐れも無いだろ。

 

「とりあえず結界はぶち抜くか」

 

 結界の術式を見てオレ達4人が通れるほどの穴を開け、同時にそのまま結界を存続させる術式を魔力に組み込む。純粋に結界を破壊したら他の部分まで壊れるので迂闊な事は出来ない。

 オレが先行して結界に触れて穴を開け、姿を現したオレ達4人は駒王学園の校庭へと飛んだ。

 

「ありゃりゃ、クソうざいゴミ虫ちゃんが2匹も増えやがりましたのよん。まあ、ボクチンの聖剣(エクスカリバー)の肥やしになってくだせぇ」

 

 いきなり神父みたいな男が切りかかってきたので、思わず|破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)で受け止めてしまった。

 

「|破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)!!?? あっちのアバズレがもってんじぇねえんですかい!!??」

「貴様!! 悪魔のくせになぜ聖剣を扱える!!??」

 

 なんか教会コンビがウザイので軽く無視し、今回の事件の黒幕と思える人物に話し掛ける。

 

「これはこれはコカビエルさん。堕天使側はなにを考えているのかな?」

「ふん、たしか貴様はベルゼブブの弟君だったな。ちょうどいい、私達堕天使が望んでいるのは戦争だ。貴様の首も?ぎ取って愚図な悪魔にプレゼントするとしよう」

「とってもイケメンな俺様を無視してんじゃねえ」

 

 戦争かぁ。コイツの独断だとありがたいんだけどな。

 神父の聖剣攻撃を適当に捌きつつ考える。

 

「サイラオーグ、上級堕天使(コカビエル)と聖剣(イカレ)神父、どっちの相手がいい?」

「上級堕天使にする。横槍入れさせるなよ」

「分かってるって」

 

 神父の攻撃を片手でいなしながらサイラオーグがコカビエルまで行ける道を作り、サイラオーグとコカビエルの戦いが始まった。支援としてクイーシャがサイラオーグに付き、サクラはただ勝利を疑わずにグレモリーの治療をする。

 

「なんでさ!! 何であたらねぇぇぇぇぇぇ!! 無敵の聖剣様なんだろぉぉ!!」

「その答えは単純だよ。たとえ剣が最強でも使い手がお粗末だから。そんな分かりやすい殺気を飛ばして聖剣の力に振り回されてるようじゃお世辞でも使い手とは言えない。それじゃ、あんまり苛めるのも悪いし、適当に片付けるよ」

 

 |天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)を取り出してオレ自身の速度を上昇させる。

 さっきまでオレが優勢だったのにも拘らず、さらにオレの方が優勢になるので勝負は目に見えている。数十本もの裂傷が神父に刻まれ、動きが目に見えて鈍った。

 しかし虫の抵抗と言うやつだろうか。神父はいきなり距離をとって突きの構えを取る。

 

「伸びろぉぉ!!」

「何コレ?」

 

 普通の剣だったはずの聖剣が無数に枝分かれして一直線に伸びてくる。しかも見えない剣先が見えてる分の2倍はあり、見えてる方も幻影の贋物が混じってる。

 熟練者のコレは初見殺しといっても過言ではないだろう。しかしこの神父がやるには無意味だ。

 聖剣から感じる聖なるオーラを識別して剣先の総てを破壊する。

 

「グレモリー、コイツの聖剣って何なの? さっきから天閃(ラピッドリィ)、擬態(ミミック)、透明(トランスペアランシー)、夢幻(ナイトメア)を使ってきてるんだけど」

 

 威力は無いので破壊(ディストラクション)は無い。ついでに、傷の回復も見られないので祝福(ブレッシング)も無い。支配(ルーラー)は論外だな。

 

「あなたが言った4本の聖剣(エクスカリバー)を統合した物よ」

「なるほど。よく出来たな。7本揃わないと統合できないって言うのに」

「お前さん何を知ってるんですかい!!」

 

 神父の言葉は無視して適当に周囲を見回した。サイラオーグとコカビエルの戦いは見事なもので、コカビエル|は(・)よく善戦している。

 なら気にする必要はない。

 

「サクラ、『|穢れ無き熾光の聖剣(レーヴァティン)』撃って」

「分かったんだよ!!」

 

 オレの言葉に応えてサクラは両手を前に伸ばし、手のひらに光の玉を作り始める。あまりにも純粋すぎる光は聖剣と呼ばれるほどの力を持ち、余波でも近くにいたグレモリーの悪魔達を動けなくさせるには十分すぎる。

 

「おいおいおい。悪魔が光を扱えるなんて反則だぜ。つか光じゃ人間様は殺せな……」

「統合した4本の聖剣、たしかに回収したよ」

 

 神父の腕を切り落として聖剣(エクスカリバー)を回収し、ついでに|天閃の聖剣(エクスカリバー・ミミック)を腹部に突き刺して地面に縫い付ける。

 

「それと1つだけネタ晴らし。あの子の光はオレ達悪魔にとって有害であり、熱量は太陽にも勝る。伊達で9つの世界を滅ぼした魔剣の名を冠してるわけじゃないよ」

「そんなのアリですかぁぁ!! ここに来てのチョー展開!! 悪魔なら悪魔らしくもっと穏便な方法で……」

「生憎、悪魔だから残酷な手段を実行できる。じゃあな〜」

「――――『|穢れ無き熾光の聖剣(レーヴァティン)』――――」

 

 紅、碧、蒼。

 3色の光を持ったサクラの聖剣は神父を飲み込み、校舎の一部も飲み込み、端に逃げていた博士らしき男も飲み込んだ。

 しかもそれだけに留まらず、多少距離があった結界でさえ障子紙の如く突き破って結界を破壊してしまった。あまりの破壊力と神力に殆どが絶句し、知っていたサイラオーグとクイーシャはコカビエルに追い討ちを掛けて終わる。

 

「ぐっ、バカ……な……!! 悪魔が、それほどの光を有するとは……!!」

「まったく、アレで全力の1400万分の1って言うんだから驚かされるよな」

 

 愕然とするコカビエルを他所にサイラオーグが呆れとも取れるため息をついてポツリと漏らす。

 身近にいたクイーシャもサイラオーグの呟きがきこえて苦笑を浮かべる。

 まァそんな2人の会話はさておき、オレは神父から奪った統合された聖剣を見せて問い掛ける。

 

「それじゃそっちのシスター、この聖剣ってオレがもらって良い?」

「なッ!! ダメに決まっているだろう!!」

「じゃあ破壊してみせれば? 剣技なら受けて立つよ」

 

 サクラの『|穢れなき熾烈光の聖剣(レーヴァティン)』の余波を受けて立ちづらいと思ったからそう宣言して見せたのだが、意外な事にシスターはホントに根性だけで立ち上がった。

 それだけでも驚愕する事なのだが、そのシスターはなにかの言霊をつぶやいて空間を歪ませた。そこまで大きくない、せいぜい15〜20センチくらいのゆがみで、とても攻撃に使えないと判断して気を緩める。予想ではなにか重要な物を入れておく空間倉庫と言ったところか。

 予想通りシスターは歪みに手を入れて、何かを探るように無造作に手を動かし――不意に動きが止まった。そしてそのまま手を一気に引き抜き、同時になにか聖なるオーラを放つ物も空間の歪みから飛び出す。

 

「この刃に宿るセイントの御名において、我は解放する――デュランダル!!」

「道理で見付からなかったわけだ」

 

 多少探していたのもあって見付からなかった事に得心が行った。

 

「奇しくもエクスカリバーvsデュランダル。どちらが聖剣の頂上に立つのか、試してみようか」

「望むところだ!!」

 

 オレの言葉にどこか嬉しそうな笑みを浮かべてシスターは思いっきり切りかかってくる。

 その一撃は非常に澄んでいて、剣技には見惚れるものがある。しかし悲しいかな、彼女もまたデュランダルの力に振り回されていた。その後にも剣戟が続くが、最初ほどの魅力は無い。どうせなので一瞬の交錯の後に互いの武器を入れ替える。

 

「なッ!? いつの間に入れ替えた!!」

「最後の瞬間だよ」

 

 エクスカリバーを持って尋ねてくるシスターにオレはデュランダルを持ちながら答える。

 

「せっかくだし、実演してあげる。本当の力を発揮した聖剣が、どれほど強力なのか」

 

 デュランダルから漏れる聖なるオーラをシスターが使っていた時の3倍に増やして剣を構える。

 悪魔に使えるはずが無いと言う慢心があるのか、シスターの警戒心は薄くなっている。ゆえに、一瞬でその慢心を打ち砕く。

 1撃目で体勢を無理やり崩させて、2撃目で命を刈り取る必殺の剣技――――燕返し。

 そのせいでエクスカリバーはものの見事に砕かれ、|破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)を犠牲に何とか生き延びた。

 

「バカなッ!! デュランダルは想像を遥かに超える暴君で、私の言う事を聞かずに触れるものを何でも切り刻むのだぞ!!」

「それは弱いからだろ。車で時速100キロ出しててもカーブを曲がれる奴は曲がれる。曲がれないから言う事を聞かないように見えるだけだ」

 

 要は本人の資質の問題。エクスカリバーは元々破壊する予定だったので計画に狂いは無く、デュランダルの力で欠片も残さず消滅させる。予想外な形で聖剣の頂上対決が決したのは不満だ。

 ってそう言えばサイラオーグの姿が見えないな。

 

「サイラオー……グ……?」

 

 見えたのは不意を疲れたように地面に伏すサイラオーグと必死に看病するクイーシャ。2人を見下しているのはかなりの満身創痍で、10枚あった漆黒の羽が8枚ほど減らされたコカビエル。

 その状況は、誰がどう見てもサイラオーグの不利にしか見えないだろう。

 

「くそ悪魔め、俺の体をこんなにボロボロにしやがって。自らの主を失ってまでここまで戦うとは」

「……どういうこと?」

 

 突然始めたコカビエルの言動にグレモリーが眉をひそめる。

 するとコカビエルは心底可笑しそうに大笑いを上げる。それは聞いてて苛立ってくるほどムカつく笑いだが、内容は大体推測できるので苛立ちは徐々に凪いでくる。

 だからコカビエルが真実を語っているうちに|祝福の聖剣(エクスカリバー・ブレッシング)でサイラオーグの傷を治す。

 コカビエルから語られるのは総ての勢力にとって絶望の話。先の三つ巴戦争ですべての勢力は疲弊し、神や魔王は死んで、それから3大勢力は『これ以上疲れる戦争をしない』と誓った。しかしコカビエルは堕天使が至上の種族だと思っているようで、人間が混ざった堕天使勢力と言うのに嫌気があるみたいだ。

 

「俺は戦争を始める、この機に! おまえたち魔王の弟妹の首を土産に! 我ら堕天使が最強なのだと、サーゼクスにも、ミカエルにも、知らしめてやる」

 

 ルシファーに、ミカエル、ねぇ。傲岸不遜な物言いは別に言いとして、コカビエル程度で最強の種族を知らしめる事は出来ないと思うんだけどね。

 

「ふざけんな!! お前の勝手な言い分で俺の町を、俺の仲間を、俺の部長を、アーシアを消されてたまるかッッ!! それに俺はハーレム王になるんだ。お前なんかに俺の計画を邪魔されちゃ困るんだよ」

「赤龍帝はやっぱり面白いな」

「サイラオーグ様、あまり無茶しないでください。まだ完全に治ったわけでは……」

「大丈夫だ。|祝福の聖剣(エクスカリバー・ブレッシング)のお陰でだいぶ治った」

 

 まだ動けないだろと言いたい傷を負いながらゆっくりと立ち上がるサイラオーグ。

 その根性は賞賛に値するが、今は大事を取った方がいいだろ。

 

「サイラオーグ、その怪我じゃまだ難しいだろ。だから、《|雷天の覇爪(セブン・ヘブンズ)》を構えておいてくれ。撃ち落としてくる」

「ッ!! 頼む!」

 

 サイラオーグの言葉を背に受けて、クイーシャも柔らかに微笑む。

 そのままコカビエルと向き合い、オレはコカビエルにちょっとだけ声を掛ける。

 

「コカビエル、だっけ? 1つだけお願いがあるんだ」

「ふんっ、どんな願い事か知らんが断……」

「絶対に撃ち落とすから、生き残れよ」

「何を……」

 

 コカビエルの声に被せて発せられた言葉は、『間違っても死んでくれるなよ』と言うあまりにも侮辱した言葉だ。

 格下だと思っている相手にそんなふざけた事を抜かされて、幹部としての自尊心から怒気を発するコカビエル。

 コカビエルが答える前に黄色の光線がコカビエルの羽を撃ち抜く。反動でその羽が散ったが問題は無いだろ。

 

「ッ!? おまえ、何をした!!」

「答える気は無いよ『acedia』」

 

 緑の光線がまた羽を撃ち抜き、コカビエルの羽が散る。

 ちなみにこの光線、|『superbia』(レッド)が嗅覚を、|『invidia』(オレンジ)が固有感覚を、|『ira』(イエロー)が視覚を、|『acedia』(グリーン)が聴覚を、|『avaritia』(ブルー)が触覚を、|『gula』(インディゴ)が味覚を、|『luxria』(ヴァイオレット)が痛覚を、それぞれ奪う能力を持っている。

 里村紅葉の力を何とか再現しようと思って考え抜いた魔法だ。サクラの協力がなければ絶対に完成しなかった魔法の1つでもある。

 聴覚を奪われて会話すら成り立たないと一瞬で考え抜いたコカビエルは攻撃の届かないように高度を上げる。

 しかしそうは問屋が卸さない。

 

「アクシオ!!」

 

 ただの呼び寄せ魔法。と言うか視界内にある物を取り寄せるだけの怠惰を極めた魔法。

 この魔法は冥界にとっくに存在していたので開発する必要も無かった。だから改良して、人すら取り寄せる事が出来るようにしただけ。しかしそれでも視覚と聴覚を失った堕天使を取り寄せるには効果は十分すぎた。

 目が見えなくても自分が引き寄せられていると気付いたコカビエルは必死に抵抗するから、さらに追い討ちを掛ける。

 |『invidia』(オレンジ)と|『avaritia』(ブルー)の光がコカビエルの羽を撃ち抜き、反動で2枚の羽が落ちる。これでコカビエルは右翼の5枚すべてが無くなり、飛ぶ事はままならない。しかも固有感覚と触覚を奪われるという二重苦だ。

 

「クッ!!」

 

 せめてもの抵抗とばかりに光の槍を飛ばしてくるが、目標が定まってない槍なんか避ける事はそう難しくない。ただ、光の槍自体は少々厄介なので、さっさと毟るとしよう。

 

「|『superbia』(レッド)、|『gula』(インディゴ)」

 

 赤と藍色の光がコカビエルの両腕を落とし、ついでに右の羽も一枚落ちた。

 ようやくコカビエルの抵抗が終わり、コカビエルはオレの手元に取り寄せられる。

 コカビエルの頭を鷲掴みにして地面に思い切り叩き付け、最後の光――|『luxria』(ヴァイオレット)で残る3枚の羽を切り落とす。

 

「がッ!? な、何……だ、これは……!!」

 

 最後の痛覚を奪われて、最後の言葉を苦痛に呻きながら口にする。

 実はこの光、7色全部に当たるとその人の体内で異常な変化が起こる。コカビエルはその異常な変化を受けて戸惑っているのだ。わざわざ説明するのも面倒なのでさっさとコカビエルの傍から立ち退く。

 

「最後は任せた」

「任された」

 

 オレの軽口に答えるのは雷光を纏うサイラオーグ。

 右手に集束された雷光は時折サイラオーグから離れて地面を焼き、とても近づけると感じさせないほどの電流が流れている。オレ達悪魔にとって厄介な雷光は、なぜか不思議と安心感があり、絶対に勝てると思わせるものがある。

 そんなサイラオーグの後方に待機するのは9本の雷槍。その一本一本が即死を予感させるものであり、相対する羽目になったコカビエルの恐怖は計り知れない。

 

「――――『|全てを超越した(トールハンマー・)|九つの雷光(フルアクセス)』――――」

 

 その瞬間、視界が光に包まれ、空気が爆発した――――

 目が眩むほどの激しい閃光と消えてもなお鼓膜を震わせる轟音がまだ周囲の空気を包み、雷槍の一本に被弾したのか駒王学園を包んでいた結界が壊されている。

 

「1回破壊されたとは言え、また結界を破壊するとは。相変わらず馬鹿破壊力だ」

「この技考えたのディアドラだからな」

 

 少々疲労が篭ったようなサイラオーグの視線をかわしつつ、さきほどまでコカビエルがいた場所に視線をやる。

 この技は何度も見たので、相手に当たった時は墨も残らず燃え尽きると知っている。雷鳴がサイラオーグと相手の2点で鳴り響く事も。

 

「あぁ、気付いたのか。そうだ、変な横槍が入って避けられた」

「―――ふふふ、面白い限りだ」

 

 突然空から楽しそうな笑い声が響き、校舎の屋上に白い物が降り立つ。

 体にはドラゴンのような鎧を纏い、籠手の部分には宝玉。右手に掴んでいるのはコカビエルの体。

 サイラオーグの一撃すら避けてコカビエルを救出する技術には賞賛ものだが、コカビエルを超える強さと言う事で自然を体が戦闘態勢を作り始める。それから放たれる力量差はオレ達にとても近く、戦うとなれば少々苦戦するだろう。しかも、あれは能力が危険だ。

 

「『|白い龍(ヴァニッシング・ドラゴン)』、二天龍の片割れ」

 

 《|白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)》―――― かつて赤龍帝と時を同じくして争った二天龍、白龍皇アルビオンが封じられし神器(セイクリッド・ギア)。

 しかも鎧と化している以上、禁手(バランス・ブレイカー)状態の《|白龍皇の(ディバイン・ディバイディング)鎧(・スケイルメイル)》だ。

 その能力は10秒ごとに相手の能力を半減させるもので、同時にその力の分|白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)が力を増す。

 正直相手にしたくない面倒な神器(セイクリッド・ギア)だが、コカビエルを握られている以上相手にしないと悪魔側の方で統制が取れなくなる。

 ひっそりと白龍皇の所持者の背後を取ったクイーシャが背後から白龍皇に襲い掛かるが、白龍皇の所持者はそれに気付いていたようでひらりとかわす。

 

「フリードも回収しなければならないか。これらにはまだ聞きだしたい事がある。始末はそのあとだな」

 

 こっちを無視するような物言いに少々イラッとして|『luxria』(バイオレット)の光を飛ばす。命中こそしなかったもの、こっちの言う事を認識ぐらいはしてもらえるだろ。

 

「あのさ、その堕天使は置いて行ってもらいたいんだよね。さすがに悪魔領で堕天使を暴れさせて、堕天使に回収されたら悪魔の威信に関わる。しかもここは魔王の妹が通う学校。魔王の威厳すら揺るがしかねないんだ」

「そんなこと、知ったことではないな。俺はコイツを無理やりにでも連れて帰るようにアザゼルに言われたんだ」

 

 アザゼル? ってことは白龍皇は堕天使に属しているのか。にしても、この声、もしかして彼?

 

「ヴァーリも悪魔の血を継いでいるなら説得してくれよ」

「そんな事は……ちょっと待て。なぜ俺の名前を!!」

「あ〜、やっぱり白龍皇ってヴァーリだったんだ。ちなみに名前はカマかけてみただけ」

 

 なんとも面倒な事態になりそうだと頭が痛い感覚を覚えつつ、どうやって穏便にまとめるか考える。

 堕天使の不始末は堕天使でつける。それはとっても理解できる考えだが、ここまで暴れられて「はいさよなら〜」ってなったら悪魔側の威厳に関わるんだよな。

 

「……とりあえず『実刑判決はこっちに任せてくれない?』って聞いておいて」

 

 ヴァーリがこの会話を握り潰す事も可能だろうと考え、余計な事はもう言わない事としよう。

 

『しばらく独自に楽しませてもらうよ。たまには悪くないだろ、またな、赤龍帝ドライグ』

『それもまた一興か。ではな、白龍皇アルビオン』

 

 オレとヴァーリで会話している間に二天龍同士でも会話していたようで、ほぼ同時に会話が終わった。

 さすがにこれ以上はオレ達が手を出すものでもないので、退散するべきだろう。

 

「サイラオーグ、大丈夫か?」

 

 とりあえず声を掛けながらサイラオーグの再生能力を活性化させて怪我を治す。

 クイーシャはサクラが治すから問題はないと思う。サクラは純粋に回復魔法を覚えているので、オレより命の安全は確保されているだろう。

 

「このくらいなら大丈夫だ。悪いな、コカビエルを討ち取れなくて」

「しょうがない。幹部級だったんだからよく頑張ったってところだろ。何より全力じゃなかったしな」

 

 そう、サイラオーグは全力を出せる武器を冥界に置いて来てるのでそれなりに戦力低下している。《雷天の覇爪(セブン・ヘブンズ)》ですら、サイラオーグの全力を受け止める受け皿にはなりえない。

 怪我が完治したサイラオーグは立ち上がって体の状態を確かめる。

 

「どうしてあなた達がここにいるの?」

「遊びに来たんだよ。それとも、遊びに来たら行けないの、リアスお嬢様?」

 

 お嬢様呼ばわりに少々眉をひそめる少女、リアス・グレモリー。サーゼクス・ルシファーの妹だ。

 そのまま無視してもいいだろうが、あとでサーゼクス達の追及がウザくなりそうなので、適当に相手をするつもりだ。

 そこでクイーシャが1つ提案をする。

 

「帰るのは明日にしませんか? サイラオーグ様も今日はお疲れでしょうし、グレモリーの方の質問には最低限答えた方が得策ですから」

「あっ、それは私も賛成なんだよ。ひなたぼっこしたいんだよ」

「ひなたぼっこって……。まァいいか」

 

 サクラの暢気とも言える言葉に怒るべきなのか呆れるべきなのか非常に迷った。

 まァサクラがやりたいならそれでいいかと思い、今日は人間界に宿泊する事にした。多少夜遅いのもあって近隣の宿泊地には泊まる事ができなかった。なので奥の手、ソーナ・シトリーに頭を下げて1泊だけの滞在許可をもらった。

 グレモリーに頭を下げなかったのは聖剣デュランダルを持ったシスターさんが泊まると思ったから。境界の根底を揺るがす事を激白してくれたお陰で、自失状態だったし間違いないと思う。

 

「会長!! コイツは俺達が頑張って張ってた結界を軽々と通り抜けるような奴なんですよ!! 絶対信用なりません!!」

「さすがに上級悪魔に手を出すと色々と面倒だから出さないよ。ついでに魔王の反感も買いたくないし」

「テメェ!! だったらその面倒が無かったら手を出すって言うのか!!」

「例えだっての」

 

 メンドクサイな〜と思いつつも、互いに禍根を残さないように相対する。

 

「もし会長に変な事をしようとしてみろ!! 絶対に俺がお前をぶっ倒す!!」

「その前にセラフォルーに殺される」

「セラフォルー様と呼べ!! あの方は魔王なんだぞ!!」

「知らないって幸せだなぁ」

 

 少なくとも魔王達の性格を知れば敬意を払う気持ちは結構薄くなる。まぁ、魔王だからあんなノリになるんだろうけど、尊敬は出来る人たちなんだよな。

 シトリーのお嬢様も同意見のようで、なんとも複雑そうなため息をついた。

 

「ま、転生悪魔には負けないつもりだから倒すのは不可能だと思うけど」

「ほう、言ったな!! 絶対に倒して……」

「いい加減にしなさい!! ディアドラも挑発しないで」

 

 家主(ソーナ)に叱られたので大人しく引っ込み、匙と言う少年も噛み付くのを止めた。

 その後、適当に話してたら匙の夢が「会長(ソーナ)と出来ちゃった婚をすること」と判明。セラフォルーに報告すべきなのか迷ったオレは悪くないと思う。

 

「う〜む、報告したら人間界が滅びそうなんだよな〜」

「言うなよ!!言うなよ!! 絶対言うなよ!!」

「え、フリ?」

「違ぁぁぁぁぁうぅぅうぅぅううう!!!」

「匙、五月蝿いです」

 

 壁越しながらシトリーのお嬢様に叱られて大人しくなった匙少年。その姿は少々面白かったので今回は黙っておく事にした。

 実行したら99%の確立で殺されるだろうし。

 

「どうでもいいけど、オレに勝てる自信の元って何だったの?」

「ふっふっふ、聞いて驚け!! なんと俺は|『兵士』(ポーン)4つ分も消費して転生したんだ!!」

「へぇ〜」

「何だよ、反応が薄いな〜」

「オレと一緒にいた悪魔は|『兵士』(ポーン)7駒分消費した子を持ってるし」

 

 ほぼ人格が無いと言う事で2駒分減っているのはこの際秘密にしておこう。4つ程度で偉そうにしてるし。

 

「ちなみに持ってる神器(セイクリッド・ギア)は何?」

「7つってイッセー並みかよ!! 持ってるのは《|黒い龍脈(アブソーブション・ライン)》だ」

「あぁ〜、ヴリトラの最後の神器(セイクリッド・ギア)か。ちょっと探してたんだよな。欲しいなぁ」

「やらんぞ!!?」

 

 ま、死んだ時にでも貰うからいいか。

 

「なあ、ソーナ会長って昔はどんな人だったんだ?」

「知らない。オレ自身あまり他の悪魔と関わらなかったし。シトリーのお嬢様を知ったのはセラフォルーの惚気話からだったから」

「ソーナ会長のお姉さんってそっちの気の人なんだ」

 

 セラフォルー、なんか言い方が不味かったらしい。まァ面白そうだし誤解は訂正しないでおくか。

 

「そんなわけでオレの知ってるシトリーのお嬢様の情報は少ないよ」

「なんだ、残念」

 

 それからも他愛も無い会話をして匙が眠るまで話し相手になる。ちなみにオレは今夜は寝ないつもりだ。同じ悪魔だとしてもシトリーがオレを攻撃しないとも限らないので、今日ばかりは警戒した方がいいだろ。何よりオレはサイラオーグほど気配に敏感な方じゃないし。

 そのまま不眠で気配を探りながらシトリーとその眷属達の行動を警戒する。

 まァ夜まで行動ありませんでしたよ。なにか魔法らしい魔力をまったく感じなかったので、オレの動きを知っていたと言うことも無いだろ。

 

 そして翌日、シスターの人はグレモリー眷属の悪魔に転生したそうだ。なんでも神がいないと知った以上そのシスター、ゼノヴィアを教会側は異端者として扱い、教会から追放したそうだ。そこで路頭に迷うところでグレモリーが拾い、悪魔として転生させたらしい。

 エクスカリバーはもう1人のシスターに渡して、教会の方へ返しに行ってもらったそうだ。まァ全部又聞きなので真相は分からないけど、教会がやりそうなパターンではあるから真実だと思う。

 

「……………………………っと。ここまでがオレ達4人が地上にいた経緯だよ。その後、コカビエルの力が結界か漏れて戦闘に加入。以上だよ」

「アスタロトの次期当主はパーティーにも行かない引籠りだって聞いたけど、人間界に来るほどの勇気はあったのね」

「……リアス・グレモリー、それを最初に言い出した奴を教えて。冥界戻ったら骨も残らず滅してやるから」

「アジュカ・ベルゼブブ様よ」

「あのクソ兄貴ッ!!」

 

 高らかに笑い声を上げるアジュカの姿を想像すると、余計に腹が立つ。

 

「ディアドラ、お前張本人なのに知らなかったのか?」

「ディアドラ様があまり外出されない方だということもあって割りとこの噂は有名です」

「私だって聞いたことあるかもなんだよ」

 

 サイラオーグ、クイーシャ、サクラの順にそう言い放ち、オレは地面に手を着いて深く落ち込む。どうやらオレ以外知っていたようだ。

 知ってたならせめて教えてくれ。そう思うオレは間違っているのだろうか?

 

「だってマスター、聖……」

「サクラァ、それ以上は口にチャックしような」

 

 サクラが何を口走ろうとしたのか一瞬で理解して、サクラの口を塞ぐと同時に殺気全開で軽く脅しを掛ける。

 分かったと言わんばかりに首を何度も振るサクラにようやく安心して椅子に座る。

 まったく、普通に考えたら戦争ものなんだから心の内にしまっとくぐらいしてくれよ。

 咄嗟にサクラの口を塞いだのは自分でもナイス判断だと思ったが、この場では少々不味かったかもしれない。

 

「ディアドラ、貴方は何を隠してるの? 場合によっては……」

「魔王(サーゼクス)に報告する? いいよ、別に。オレが隠してる事は3勢力を巻き込んだ戦争になるかもしれない事だし」

 

 隠してる事はそれなりにあるので、実際にオレが隠してる事が明るみに出れば戦争回避はなかなか免れないだろう。

 第一、旧魔王軍が絡んでる話は戦争の引き金となりかねない。一応水面下に隠しているけど、もし冥界中に広がれば旧体制を好んでる悪魔達はこの案に乗るだろう。アジュカに報告はしてないが、あの人も独自にこの情報は入手してるはずだ。『|覇軍の方程式(カンカラー・フォーミュラ)』なんて呼ばれる人だし、何よりオレはまだそう言った方面ではあの人に敵わないと知っている。オレの情報操作を軽々超えてこの情報を掴んでくれる。

 戦争になると言う言葉に全員が蒼白になり、ある程度の事情を知っているサクラだけが沈痛な面持ちで無言になる。

 

「好奇心は猫を殺す、その言葉の意味を良く知った方がいいよ」

「…………そう。ならこの件は首を突っ込まない事にするわ」

 

 若干悔しそうな表情をしながらも、早々に矛を収めたグレモリー。しかしその目は絶対にここじゃ終わらせないと物語っていた。

 一応宣告した以上、もしグレモリーのせいで戦争が起こるとなったら責任はグレモリーに押し付けるかと画策しておく。

 とりあえずこっちの事情説明は終わったので、今後の事態についてある程度の話をする。

 とは言ってもグレモリーから話を聞くだけなんだけど。

 

「堕天使側から会談の申し込みか。まあ必然と言えば必然か。今回の件は明らかに堕天使側の行き過ぎだからな」

「もしこれで何の弁解も無ければ悪魔側と天使側が手を組んで堕天使の殲滅を覚悟しても不思議ではないですからね」

 

 そうなる可能性も考えているのかごく一部を除いてとても沈痛な面持ちで首を縦に振る。

 たとえ今が平和でも影ながらせめぎ合っている勢力が消えればバランスが壊れてもおかしくない。なるべく早めに戦争反対の意識を塗り込まないと2回目の戦争が起こっても間違いは無い。集団は一枚岩じゃないのが面倒なんだよなぁ。

 

「その会談、貴方達もちゃんと来てね」

「グレモリーのバカ娘、もう一回言ってみろ」

 

 さすがに聞き逃せない言葉が耳に入ったから、バカ呼ばわりしつつ聞き返す。

 

「ディアドラ、余計なことで挑発するな」

 

 しかしサイラオーグに窘められて、燻った炎をむりやり抑え込んで憮然とした表情を作る。

 

「そしてリアス、なぜ俺達まで参加する事になった?」

「事件に関わった上、コカビエルを倒した。それ以上に理由が必要かしら?」

「引籠りの王として断固拒否する。会談はグレモリーで勝手にやってくれ」

 

 駒王学園が事件の場所だったから会談に来る魔王はサーゼクスかセラフォルー。なら逃走しても問題はない。

 

「都合の良い時だけ引籠りと言いますね」

「ちなみにディアドラの言葉は却下よ。お兄様から連れて来るように言われているもの」

 

 サーゼクス、これほどアンタに殺意を持った瞬間は無いよ……! 次会ったら半殺しにしてやる!! …………返り討ちかもしれないけど。

 

「安心して頂戴。会談に参加するのは貴方達4人だけじゃないから。私達グレモリーも事件に関わったのだから会談の場で事件のしなくちゃいけないの」

 

 グレモリーの言葉は誰もが知らなかったようで驚きの表情を浮かべている。赤龍帝の青年なんて特に。

 その表情には多少なりとも満足がいったので、意地を張ることを止めて一回大きく息をつく。

 

「…………まァ、しょうがないか。こっちの滞在費用はグレモリーに押し付けとく」

「仕方ないわね。イッセーの家に泊まりに来なさい。まだ部屋は余ってるから4人とも泊まれるわよ」

 

 非常に面倒な予感がするけど、とりあえず我慢しとくか。

 脇の方で悪魔に転生したシスター2人が仲良くなっているのを見て、感じた面倒な予感が少しだけ薄れた。

 

「それじゃしばらくよろしく」

 

説明
にじファンから流れてきました〜
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
3886 3759 0
タグ
ハイスクールD×D

Lugner vixenさんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。

<<戻る
携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com