英雄伝説〜光と闇の軌跡〜 〜白き花のマドリガル〜中篇(前半) |
〜ジェニス王立学園・講堂〜
舞台の照明がいったん消えて、語り手のジルを照らした。
「貴族勢力と平民勢力の争いに巻き込まれるようにして……親友同士だった2人の騎士はついに決闘することになりました。彼らの決意を悟った姫はもはや何も言えませんでした。そして決闘の日……。王都の王立競技場に2人の騎士の姿がありました。貴族、平民、中立勢力など大勢の人々が見届ける中……。セシリア姫の姿だけがそこには見られませんでした。」
語り終わったジルはまた舞台脇に引き上げ、照明が舞台を照らした。そこにはたくさんの人物達がユリウスとオスカー、そして審判役のザムザを見ていた。
「わが友よ。こうなれば是非もない……。我々は、いつか雌雄を決する運命にあったのだ。抜け!互いの背負うもののために!何よりも愛しき姫のために!」
紅騎士ユリウスはレイピアを抜いてセリフを言った。
「運命とは自らの手で切り拓くもの……。背負うべき立場も姫の微笑みも、今は遠い……」
蒼騎士オスカーは辛そうな表情でセリフを言って剣も抜かず立ち尽くした。
「臆したか、オスカー!」
「だが、この身に駆け抜ける狂おしいまでの情熱は何だ?自分もまた、本気になった君と戦いたくて仕方ないらしい……」
自分を叱るユリウスに答えるかのようにオスカーはレイピアを抜いて構えた。
「革命という名の猛き嵐が全てを呑み込むその前に……。剣をもって運命を決するべし!」
オスカーがレイピア構えるのを見て、ユリウスも構えた。
「おお、彼らの誇り高き二人の魂、女神達もご照覧あれ!!女神達よ……誇り高い2人の剣士達にどうか祝福を!………2人とも、用意はいいな!?」
騎士団長ザムザがセリフを言いながら片手を天井に向けて上げ、ユリウスとオスカーの顔を順番に見た。
「はっ!」
「応!」
「それでは………始めっ!」
ザムザの声と動作を合図にユリウスとオスカーは剣を交えた。
キン!キン!キン!キン!キン!キン!キン!
2人は攻撃しては防御し、お互いの隙を狙って攻撃したがどちらの攻撃もレイピアで防御され一撃が入らなかった。
(……ほう。かの『剣聖』の娘だけあって中々筋がいいな。得意な武器でないにも関わらずあそこまで動けるとは……。それにあの蒼騎士役をしている少女、あの者は確か………まあいい、今は一人の客として観させてもらおうか。)
リウイはエステルの剣技に感心した後、クロ―ゼの顔をよく見て、クロ―ゼの正体がわかったリウイはなぜクロ―ゼが学園にいるのか首を傾げたが劇を観る事を優先し、気にしなかった。
「やるな、ユリウス……」
「それはこちらの台詞だ。だが、どうやら……いまだ迷いがあるようだな!」
2人は剣を交えながら語った。そしてユリウスが連続で攻撃を仕掛け、オスカーは攻撃を防ぐのに精一杯で反撃ができなかった。
「くっ……。おおおおおおおおおっ!」
オスカーは雄叫びを上げて何度も攻撃したが回避されたり、レイピアで防がれた。
「さすがだユリウス……。なんと華麗な剣捌きな事か。く……」
「オスカー、お前……。腕にケガをしているのか!?」
利き腕を抑えたオスカーにユリウスは不審に思った後、ある事に気付き叫んだ。
「問題ない……カスリ傷だ。」
「いまだ我々の剣は互いを傷つけていない筈……。ま、まさか決闘の前に……」
強がるオスカーにユリウスは信じられない表情をした。その時控えていた議長が公爵に抗議した。
「卑怯だぞ、公爵!貴公のはかりごとか!?」
「ふふふ……言いがかりは止めてもらおうか。私の差し金という証拠はあるのか?」
議長の抗議の言葉に公爵は余裕の笑みを浮かべて答えた。
「父上……何ということを……!」
「いいのだ、ユリウス。これも自分の未熟さが招いた事。それにこの程度のケガ、戦場では当たり前のことだろう?」
「………………………………」
怒りを抑えているユリウスにオスカーは微笑みながら諭した。オスカーの微笑みを見たユリウスはかける言葉がなかった。
「次の一撃で全てを決しよう。自分は……君を殺すつもりで行く。」
「オスカー、お前……。わかった……。私も次の一撃に全てを賭ける。」
オスカーの決意にユリウスは静かに答えた。そして2人は同時に後ろに飛び退いてレイピアを試合前の構えにした。
「更なる生と、姫君の笑顔。そして王国の未来さえも……。生き残った者が全ての責任を背負うのだ。」
「そして敗れた者は魂となって見守っていく……。それもまた騎士の誇りだろう。」
ユリウスの言葉にオスカーは頷いた。
「ふふ、違いない。………………………………」
「………………………………」
そして2人は互いに目を閉じた後同時に目を見開いて力を溜めた。
「はあああああー!」
「おおおおおおー!」
「「ハァッ!!」」
力を溜めた2人は両者同時に仕掛けた。その時
「だめ――――――――――――っ!!」
セシリアが間に入った。
「あ……」
「…………姫…………?」
「セ…………シリア……?」
2人の最後の一撃を受けてしまったセシリアは体をくずした。セシリアに気付いた2人は信じられない表情をした後、セシリアに駆け寄った。
「ひ、姫――――――ッ!」
「セシリア、どうして……。君は欠席していたはずでは……それにこの決闘場には私達以外入らない用、兵達が封鎖していたのに……」
セシリアの体を支えながら語りかけるオスカーにセシリアは優しく笑って答えた。
「よ、よかった……。オスカー、ユリウス……。あなたたちの決闘なんて見たくありませんでしたが……。どうしても心配で……戦うのを止めて欲しくて……。ああ、間に合ってよかった……妖精……さん……私の……願い……聞いてくれて……ありがとう……」
「セシリア……様……」
(ヨシュアったら、演技が本当に上手いわね……)
セシリアのために兵達を気絶させた妖精達が悲しそうな表情でセシリアを見た。
「セシリア……」
「ひ、姫……」
ユリウスとオスカーはセシリアにかける言葉がなかった。そしてセシリアは傷ついた体でその場にいる全員に語った。
「皆も……聞いてください……。わたくしに免じて……どうか争いは止めてください……。皆……リベールの地を愛する大切な……仲間ではありませんか……。ただ……少しばかり……愛し方が違っただけのこと……。手を取り合えば……必ず分かり合えるはずです……」
「お、王女殿下……」
「もう……それ以上は仰いますな……」
セシリアの言葉に公爵と議長は膝を折った。
「ああ……目がかすんで……。ねえ……2人とも……そこに……いますか……?」
「はい……」
「君の側にいる……」
ユリウスとオスカーはセシリアの手を握った。
「不思議……あの風景が浮かんできます……。幼い頃……お城を抜け出して遊びに行った……路地裏の……。オスカーも……ユリウスも……あんなに楽しそうに笑って……。わたくしは……2人の笑顔が……だいすき……。だ……から……どうか……。……いつも……笑って……いて……。………………………………」
そしてセシリアは幸せそうな表情で力尽きたようにセシリアの腕から力が抜けた。
「姫……?嘘でしょう、姫!頼むから嘘だと言ってくれええ!」
「セシリア……自分は……。………………………………」
ユリウスはセシリアの身体を何度も揺すって呼びかけ、オスカーはセシリアの身体を抱きしめた。
「姫様、おかわいそうに……」
「ああ、どうしてこんな事に……」
侍女たちは顔を伏せて悲しんだ。
「ク………私は結局何もできず、姫の命をお守りすることすらできなかった………自分が情けない……!騎士団長失格だ……!」
ザムザは無念そうな表情で悲しんだ。
「殿下は命を捨ててまで我々の争いをお止めになった……。その気高さと較べたら……貴族の誇りなど如何ほどの物か……。そもそも我々が争わなければこんな事にならなかったのに……」
「人は、いつも手遅れになってから己の過ちに気がつくもの……。これも魂と肉体に縛られた人の子としての宿命か……。エイドス、イーリュン、アーライナよ、大いなる女神達。お恨み申し上げますぞ……」
自分達の今までの行動でセシリアを苦しめた事を反省する公爵に同意した議長は空に向かって呟いた。
「まだ……判っていないようですね。」
その時、空が明るく照らし出され、3つの光が出た。
「……確かに私はあなたたちに器としての肉体を与えました。しかし、人の子の魂はもっと気高く自由であれるはず。それをおとしめているのは他ならぬ、あなたたち自身です。」
「ま、眩しい……」
「何て綺麗な声……」
「おお……なんたること!方々、畏れ多くも女神達が降臨なさいましたぞ!」
見守っている貴族の娘達は感動し、王都の司教が叫んだ。また、ユリウスとオスカーを除いたその場にいる全ての者達が空を見上げた。
「これが女神……」
「なんという神々しさだ……」
ユリウスとオスカーも空を見上げた。
「若き騎士たちよ。あなたたちの勝負、私も見させてもらいました。なかなかの勇壮さでしたが……肝心なものが欠けていましたね。」
「仰るとおりです……」
「全ては自分たちの未熟さが招いたこと……」
女神の言葉にユリウスとオスカーは無念そうに語った。
「議長よ……。あなたは、身分を憎むあまり貴族や王族が、同じ人である事を忘れてはいませんでしたか?」
「……面目次第もありません。」
「そして公爵よ……。あなたの罪は、あなた自身が一番良く判っているはずですね?」
「………………………………」
女神の一人、エイドスの言葉を受けた2人は自戒した。
「そして、今回の事態を傍観するだけだった者たち……。あなたたちもまた大切なものがかけていたはず。胸に手を当てて考えてごらんなさい。」
「「「「「「………………………………」」」」」
侍女や貴族、その場にいる全員が黙って考え込んだ。
「ふふ、それぞれの心に思い当たる所があるようですね。ならば、リベールにはまだ未来が残されているでしょう。今日という日のことを決して忘れる事がないように……イーリュン殿、アーライナ殿……今だけ力をお貸し下さい……」
「わかりました……」
「………仕方ない。今回だけ特別に我が”混沌”が起こす奇跡を使ってやろう……」
そして女神達の光は消えて行った。
「ああ……」
「消えてしまわれた……」
「…………ん……」
女神達がいなくなった事に肩を落とした侍女たちだったが、その時セシリアが声を出し起き上がった。
「あら……ここは…………」
「ひ、姫!?」
「セシリア!?」
「セシリア……様……!」
(さてと……長かった劇もこれで終りね。)
目覚めたセシリアにユリウスとオスカーは驚いた表情で呼びかけ、マーリオンはセシリアに駆け寄り、パズモはセシリアの肩に止まって心配げな表情でセシリアを見た。
「まあ……ユリウス、オスカー……それに妖精さん達も。まさか、あなたたちまで天国に来てしまったのですか?」
「「「「………………」」」」
セシリア以外は驚いて言葉が出なかった。
「こ、これは……。これは紛う方なき奇跡ですぞ!」
セシリアが生き返った事に司教は驚愕した。そして侍女たちがセシリアに駆け寄った。
「姫様〜!」
「本当に、本当に良かった!!」
「きゃっ……。どうしたのです2人とも……。あら……公爵……議長までも……。わたくし……死んだはずでは……」
(まあ………エイドスだけでなく、我が主神イーリュンやアーライナまでお力に……フフ、お芝居とは言え違う考えを持つ女神達が力を合わせるなんて素敵ですね、ペテレーネ様。)
(ええ……幻燐戦争の時、ティナさんといっしょに傷ついた方達を癒すために戦場を駆け回ったあの頃を思い出します……)
ティアとペテレーネは劇の内容の奇跡に微笑みを浮かべた。
「おお、女神達よ!よくぞリベールの至宝を我らにお返しくださった!」
「大いなる慈悲に感謝しますぞ!」
公爵と議長は天を仰いだ。
「オスカー、ユリウス……。あの……どうなっているんでしょう?」
自分だけ事情がわかっていないセシリアは2人に尋ねた。
「セシリア様……。もう心配することはありません。永きに渡る対立は終わり……全てが良い方向に流れるでしょう。」
「甘いな、オスカー。我々の勝負の決着はまだ付いていないはずだろう?」
「ユリウス……」
「そんな……。まだ戦うというのですか?」
また決闘をしそうな言葉を聞いたセシリアは不安そうな表情をした。そしてユリウスは静かに首を横に振って語った。
「いえ……。今回の勝負はここまでです。何せ、そこにいる大馬鹿者が利き腕をケガしておりますゆえ。しかし、決闘騒ぎまで起こして勝者がいないのも恰好が付かない。ならば、ハンデを乗り越えて互角の勝負をした者に勝利を!」
「待て、ユリウス!」
「勘違いするな、オスカー。姫をあきらめたわけではないぞ。お前の傷が癒えたら、今度は木剣で決着をつけようではないか。幼き日のように、心ゆくまでな。」
「そうか……。ふふ……わかった、受けて立とう。」
ユリウスの言葉に驚いたオスカーだったが、不敵な笑みを浮かべて答えたユリウスに微笑んで頷いた。
「もう、2人とも……。わたくしの意見は無視ですか?」
「そ、そういうわけではありませんが……」
「ですが、姫……。今日の所は勝者へのキスを。皆がそれを期待しております。」
「……わかりました。」
そしてセシリアがオスカーに近付き、キスをした。
「きゃあきゃあ♪」
「お2人ともお似合いです♪」
侍女たちはセシリアのキスしているところをはやしたてた。
「女神達も照覧あれ!今日という良き日がいつまでも続きますように!」
「リベールに永遠の平和を!」
「リベールに永遠の栄光を!」
「リベールに永遠の誇りを!」
ユリウスが叫んだ後、公爵や議長、ザムザがそれぞれ叫んだ。その時………!
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