英雄伝説〜光と闇の軌跡〜 外伝〜激突!闇王と剣帝の邂逅〜後篇 |
〜アイナ街道・夜〜
正遊撃士の中でも実力が高いアガットを軽くあしらったロランスだったが、さすがに今回の相手は悪すぎた。
「フッ!」
「……!」
リウイの神速の突きの攻撃をロランスは必死で回避し続けた。
「ハッ!」
「クッ……!」
リウイの斬撃を正面から剣でロランスは受け止めた。
「普通の相手ならいい判断だ。だが半魔人の俺相手にそれは悪手だ……!」
「……!?」
攻撃が受け止められても余裕の笑みでリウイは剣に力を入れ、ロランスを武器ごと真っ二つにするかのように押した。押し返そうとしたロランスだったが、全く押し返せず徐々にリウイの剣が自分の顔に近付いて来る事に危機を感じ、一端剣を退き後ろに跳んで後退した。
「そんな……!?」
「隊長が苦戦するなんて……!」
頼みの綱のロランスが苦戦している事に特務兵達は信じられない表情で驚いた。
「どうした。その程度の腕か?」
リウイは疲弊した様子を見せずレイピアの切っ先をピタリとロランスに向けて挑発した。
「……………やはり強い。だが、一撃は入れて見せる……!今度はこちらの番だ……!」
ロランスは剣を握りしめ、アガットと戦った時とは明らかに違う動きでリウイに襲いかかった!
「はあっ!」
「………………」
キンキンキンキン!
本気になったロランスの攻撃は隙がなく目にも止まらない速さだったが、リウイは冷静に攻撃を次々と捌いていた。
「セアッ!」
「!!」
隙がないはずの連続攻撃の最中に放ったリウイの反撃にロランスは驚き、咄嗟に剣で防いだがリウイの放った攻撃――フェヒテンケニヒは勢いが凄過ぎたため、防御の体勢のままでロランスは吹っ飛ばされた!
「ふっ!」
吹っ飛ばされ岩に当たる寸前のロランスは受け身を取って岩に当たるのを回避した。しかしその隙を逃さずロランスが着地した瞬間を狙ってリウイはクラフトを放った!
「フェヒテンアルザ!」
「くっ!?」
キンキンキン!……ザシュ!
「っ!」
リウイの連続追撃を剣で捌いたり、回避していたロランスだったが連続攻撃の最後の攻撃が脇腹を掠り、斬られた痛みに顔を一瞬顰めた後また後ろに跳んで後退し、クラフトを放った!
「そこだっ!」
ロランスは剣から衝撃波でできた竜巻――零ストームをリウイに放った。
「ウィンディング!」
しかしリウイの風の魔法剣によって攻撃は相殺された。
「向かってくる者全てを滅する剣にして”人”を護る剣………まさか修羅と理の剣を同時に扱うとはさすがは剣の王と言われた『剣皇』ですね……」
「そういう貴様こそ中々の腕だ。貴様の剣は”人”を捨て、修羅となるがための破壊の剣……ただの猟兵ではないな?」
「フフ……そこまで調べ上げているとはさすがはゼムリアの覇者、メンフィルですね………」
リウイの言葉にロランスは口元に笑みを浮かべて答えた。
「フッ。お前の実力なら我が軍の将となれるだろう。どうだ?我等の軍門に降るのならかなりの待遇を約束してやろう。」
「フフ……魅力的な話ではあるが謹んで断らせていただこう。自分にはやらなければならない事があるのでね……!」
リウイの勧誘にロランスは口元に笑みを浮かべながら断った。
「そうか。……さて、そろそろ決めさせてもらうぞ……!」
「………………」
そしてリウイとロランスはお互いを睨み、力を溜めた。
「オオオオオォッ!」
「はああああああっ!」
そして2人はそれぞれSクラフトを放った!
「我が魔の力に呑まれよ!……魔血の目覚め!!」
リウイが内に秘めたる力を剣に込めて震った魔の力が籠った衝撃波はまるで津波のようになり、それがロランスを襲った!
「むんっ!受けて見ろ、荒ぶる炎の渦を………鬼炎斬!!」
対するロランスが放った強烈な斬撃は炎を纏ったような衝撃波となり、それがリウイの放った技とぶつかりあった!
ドン!バキバキバキ……!
ぶつかりあった衝撃波は周囲にも余波を生み、近くに生えていた木は音を立ててなぎ倒された。そしてぶつかりあった衝撃波の内、リウイが放った衝撃波がだんだんとロランスの放った衝撃波を押した後、ロランスの衝撃波をも呑みこみ、ロランスを襲った!
「ぐっ……おおおおっ!………ぐあっ!?」
リウイの衝撃波を受けてしまったロランスは苦悶の声をあげながら押し返そうとした。しかし耐えきれず後ろに吹っ飛ばされた。
「終わりだっ!」
吹っ飛ばされたロランスを追って、リウイはロランスに向けてレイピアを斬り上げた!
「ぐあああっ!?」
リウイのレイピアによって斬られたロランスは斬られた部分から血飛沫を上げて、近くの川に落ちた!
ドボーン!!
「た、隊長――!!」
「そ、そんな……隊長がやられるなんて……!」
倒れている特務兵達はロランスがやられた事に絶望した。
「………逃がしたか。」
いつまでもたっても川から浮かんでこないロランスを不審に思ったリウイは呟いた。
「フフ……よろしければこの私が追って、止めをさして来ても構いませんわよ、リウイ様。」
そこにファーミシルスが夜闇の空より不敵な笑みを浮かべて、リウイの元に降り立った。
「必要ない。奴から得られる必要な情報は得れた。約束通り、ここは見逃してやれ。……お前の事だ。俺がロランスと交渉を始めた時から、すでにいたのだろう?」
「フフ、リウイ様のご想像のままにと言っておきましょう……それで?そこに倒れている雑魚共が大使館の周りを嗅ぎまわっていたネズミ共ですか?」
リウイの言葉にファーミシルスは不敵に笑った後、倒れている特務兵達に顔を向けて尋ねた。
「ああ。一応こいつらの大元である者の企みを知っておく必要があるから、生かしておいた。」
「なっ!?誰が貴様等ごときに我等の計画を話すものか!」
「た、企みだと!?閣下の崇高な計画をなんと思って……」
「闇に落ちよ!……ティルワンの闇界!!」
「「ギャァァァッ!?」」
リウイに反論しようとした特務兵達はファーミシルスの魔術によって、悲鳴を上げて地面に伏せ、何も言わなくなった。
「………ファーミシルス。まだ、こいつらには聞きたい事が山ほどあるのだぞ?」
せっかく捕えた情報源を殺したと思ったリウイは溜息をついて、ファーミシルスを咎めた。
「ご安心を。死ぬ一歩手前に手加減してありますわ。このような者共がリウイ様に対して、無礼な口調をするものですからつい、手が出てしまいましたわ。」
咎められたファーミシルスは悪びれもせず、微笑しながら答えた。
「フゥ。……まあいい。では、そいつらの事は頼んだぞ。…………決してティアの目に触れない所で拷問をしろ。」
「………相変わらずティア様には甘いですわね。いくらイーリュンの信徒とはいえ、ティア様はメンフィル皇女であり、リウイ様のご息女。母親と違い、生まれた時から皇族として教育されていたのですから、国のために必要である事は理解していると思いますが。」
リウイの指示にファーミシルスは溜息を吐きながら答えた。
「……別に甘い訳ではない。母親であるティナの性格によく似たあいつの事だ。俺達の目を盗んでこいつらを逃がす可能性もある。そういった可能性もあるからティアにはこいつらと会わせてはいかん。……さすがに自分の娘を罰したくはないのでな。」
「……それが甘いというのですが………わかりました。こいつらは王城の牢屋に監禁して、拷問をいたします。あそこで行われている事はティア様も黙認していますから……それでは、失礼いたします。」
そしてファーミシルスは倒れている特務兵達を拘束した後、2人を両手を使ってそれぞれ抱え、夜闇の空へと舞い上がり、飛び去った。
「……………まさかイリーナに目をつけるとは思わなかったな………リベールで運びうる暗躍が落ち着くまでイリーナが外に出る時、レンを共につけるか。ティファーナの娘から母親直伝の技を受け継ぎ、人間でありながら全属性の魔術を習得したあいつならあの程度の者達ごとき、なんなく撃退できるだろうしな。………そろそろ行くか……」
ファーミシルスを見送り、ロランスが落ちた川を睨んだ後、リウイは外套を翻してルーアンのホテルに向かって行った。
〜川下・岸〜
そこにはリウイにやられた後、水中を泳いで撤退したロランスが岸に上がって呻いた。
「ぐっ……ここまでやられるとは……」
ロランスはリウイに斬られた部分を手で押さえ呻いた後、持っていたオーブメントで回復アーツを発動した。
「水の力よ……ティアラル!」
発動したアーツはロランスの傷を癒した。傷が治ったロランスは立ち上がった。
「………あいつらが捕えれたのは痛かったが、まあいいだろう……メンフィルは関与しないと言質を取ったから問題はあるまい。……懸念していた事の一つがなくなり、大佐も安心するだろう……」
独り言を呟いたロランスは川上を見つめた。
「今の剣技が剣を極めし皇、『剣皇』の技か……フッ、手も足も出なかった俺が『剣帝』を名乗る等、おこがまし過ぎるな……まだ修羅になりきれていない証拠か……」
そしてロランスは人間離れした動きでその場を去った。
その後ファーミシルスに拘束され、王城の牢屋でメンフィル兵達に拷問され、孤児院の放火やテレサ襲撃の報いを受けるかのように地獄を味わった特務兵達は拷問によって自分達の情報を吐かされた後、冥き途へと旅立った…………
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