ハイスクールD×B〜サイヤと悪魔の体現者〜 六話
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「ん……」

 

朝の日差しがカーテンから漏れた時、小さな声が漏れた。

 

少女は目を覚まして目をこする。

 

「ここ……」

 

初めて見る風景に疑問を感じる。

 

そこで気付いた。自分は今、ベッドの中にいたのだと。

 

「……にゃあ」

 

初めて味わうベッドの感触の虜になったのか、白音は再びベッドの中へ入ろうとした。

 

そんな時、下から楽しそうな声が聞こえた。

 

「?」

 

笑い声に吊られて白音はベッドからヒョコっと顔を出す。

 

 

 

 

 

リビングでの朝ご飯のワンシーン

 

鬼畜家の朝は早い。

 

現在、朝の六時なのだが、そこのテーブルには父、母、カリフ、そして黒歌がいた。

 

「そうなの〜……カリフがね〜」

「はい……ちょっと事故に遭った所を助けられて……」

「どんな事故なんだい?」

「変質者に襲われてたのを見つけて葬った」

「あらそうなのね〜」

 

向かい側で黒歌がカフェオレを吹きだすのだが、両親はそれを冗談として受け止めてただ笑うだけだった。

 

黒歌はカリフに慌てて耳打ちする。

 

「そう簡単に確信を言っちゃだめにゃ!」

「オレ、嘘つけないし、嘘は嫌いだし」

「あ〜……」

 

この理屈に黒歌もなぜだか嘆息しながらコーヒーを飲み干すカリフを見つめていた。

 

そんな時、カリフは何かを耳にした。

 

「あ、やっと起きたかにゃ」

 

猫の聴力で黒歌も気付いたのか、寝室に通じるドアを見る。

 

すると、そこから小さな影がひょっこりと姿を現した。

 

「まあ♪」

「おぉ」

 

母と父は嬉しそうにその影を見ると、そこには目を擦る白音がいた。

 

「姉さま……」

「おはよう。起きるの早いのね」

 

姉妹の間で朝の挨拶をかわすと、母が新しく小皿を用意した。

 

「白音ちゃんも朝ご飯どうぞ」

「……あ」

 

ここで白音も思いだしてきた。

 

ここは急遽住むことになった場所であり、友達が招いてくれた家だということを。

 

白音はトコトコとテーブルへ向かい、姉の近くの席に座る。

 

そんな白音に母は山盛りのフルーツと暖かいココアを差し出す。

 

「はい、たくさん召し上がれ」

「うわぁ……」

 

目の前には見たことも無いような色鮮やかなフルーツの山があった。

 

色んな色の果物に白音が目を光らせて覗く。

 

「白音、早く食べちゃいなさいな」

 

姉に急かされると、白音は一口サイズにカットされたフルーツをパクパクと食べていく。

 

そんなあまりに可愛い食事に父親も顔がとろける。

 

「いいねぇ……カリフもあれくらい可愛かったらああああああああああぁぁぁぁぁぁ!! こ、小指がああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

余計な一言の直後にカリフの踵が父の足の小指をピンポイントで捉えた。

 

激痛に床を転げ回る様を一家は無視する。あまりのスルー力に黒歌もタジタジだった。

 

そんな時、白音は手を止めていたのを母は見た。

 

「あら? どうしたの?」

 

そう聞くと、白音は俯いて言った。

 

「お腹一杯……」

「こら、折角おばさんが出してくれたのに食べないとだめにゃん」

「うぅ……」

 

黒歌からお叱りを受けてシュンとなる白音。そこで姉妹の間に母が入る。

 

「あ、ごめんなさいね。うちの子が他の子よりよく食べるからいつも通り出しちゃったわ」

「でも、白音ももっと食べないと成長しませんので……」

「うぅ……」

「いいのよ。実際、その量を食べきれるのはカリフくらいだから、ね?」

 

母がカリフに振ると、カリフはおもむろにパイナップルを葉を掴んで持って来た。

 

そして、口を開けて……

 

 

ムシャ

 

トゲ付きの皮ごと食らった。

 

「……」

「おっきい口〜」

 

その光景に黒歌は呆然となり、白音は別の所で驚いていた。

 

そんな二人を尻目にカリフは固い皮、芯さえも強靭な顎と乳歯で噛みちぎっていき、一分も経たない内にパイナップルは葉っぱだけしか残らなかった。

 

丸々一個のパイナップルを食べてカリフは言った。

 

「うま……」

 

そう言ってその他のパンやご飯をどう見ても二、三人分はあるであろう量を平らげていく。

 

「あんなに食べられません……」

「うん、そうだねぇ〜」

 

もうカリフの出鱈目さに気付き始めた姉妹だった。

 

 

 

 

 

 

朝ご飯から数時間が経った。

 

父は仕事、母は買い物に行ってる間に黒歌とカリフは話しこんでいた。

 

なお、黒歌と一緒にいる白音は猫耳と尻尾を出している。

 

「なるほど……この世界には天使、悪魔、堕天使とかいうのが三角関係ってわけだな」

「そうにゃ。その他にも精霊とか妖怪とか神話に出てくるような生物もいるわけだにゃん」

「なるほど……道理でお前等の気は人にも猫にも似てると思ったら……」

「そうにゃ、私たちは猫又って妖怪だにゃん」

 

黒歌の膝の上で白音は難しい話に付いていけておらずにコックリコックリと眠そうにしている。

 

「それにドラゴンには不思議な……」

「力と戦を呼び寄せ……」

 

ここまで来て、白音は寝てしまった。

 

 

 

 

 

丁度、昼時

 

昼食を食べ終わり、何故かカリフが家の周辺を案内している。

 

本当は母にやらせようとしたのだが、生憎母が夕食の買い物と準備で忙しくなる。

 

それに、黒歌や白音も懇願してきた。

 

話をしてもらった礼として適当に辺りを歩くことにした。

 

「なんだか店とか少ないにゃ」

「どこもこんなもんだ」

 

話しながら歩いていると、そこで同い年くらいの子供と遭遇した。

 

そして、カリフを見た子供たちは……

 

「うわああぁぁぁぁぁぁぁ!! 暴君だああぁぁぁぁぁぁ!!」

「ひいいぃぃぃぃぃ!! ごめんなさいいいいいぃぃぃぃ!!」

 

急に泣いて逃げてしまった。

 

黒歌はその光景にまたも呆気に取られて聞いてきた。

 

「……あの子たちは?」

「……生意気なクソガキどもだ」

「いや、でもあんな脅え方は……なにかしたの?」

「公園の湖で吊るして、どっか空き家のベランダから吊るして……そんくらいだな」

「あぁ……」

 

忌々しそうに唾を吐きながら言うと、黒歌は納得した。

 

そりゃ怖がるわ。

 

というかこの歳ですることか?

 

そう思っていると、白音が代わりに聞いていた。

 

「なんで仲良くしないの?」

 

純粋な質問だった。

 

今まで友達が欲しくてたまらなかった白音と友達を否定してきたカリフ。

 

対局の位置に反する二人なのだが、なにも、カリフは友達という概念を否定している訳ではない。

 

「弱い奴を相手にしか威張ることもせず、強い奴にゴマをするようなつまんねえ奴となぜ肩を並べにゃあならんのだ?」

「え? でもそれが普通じゃあ……」

 

黒歌の言葉をカリフは人差し指で制する。

 

「だから駄目なんだよ。普通に生きて退屈に生きるより周りから異常と思われても充実した生活を送りたい。それに……」

「?」

「何も理由無しに自分よりも弱い相手をいたぶり、悦に浸るようなくだらねえ野郎には絶対になりたくはない。男なら強い奴と堂々とぶつかって勝利をもぎ取る!!……これしかないだろう」

 

拳を握りながら不敵に笑うカリフに黒歌は不覚にも見惚れてしまっていた。

 

昨日の夜の残忍な姿などは既に身を潜め、今は立派な男の顔をしていたのだから。

 

すぐにいつも通りに黒歌は装う。

 

「そっか……じゃあ……白音とは友達にならないかにゃん?」

「え?」

「む?」

 

突然、黒歌が白音を前に出して言うと、白音もカリフも意外そうに洩らした。

 

「友達って奴をなぜそんなに欲しがる?」

「別にいいんじゃないかにゃ? 友達って結構役に立つんだにゃ」

「ほう?」

「友達なら気兼ねなく話せるから色んな情報も収集できるから何かと便利にゃ」

「ふむ……そういうことか……」

 

確かにそれはある。確かに黒歌という存在がいなければこういった世界の情報も知らされることはなかったし、戦うこともできなかっただろう。

 

そもそも人間全てを否定している訳ではない。なにより、自分と同じ様に全てをさらけ出して欲望のまま生きるような奴を気に入ることなど多々ある。

 

そのことを黒歌に聞いてみたらそれも『友達』という輪に入るという。

 

「それなら白音も私も友達でいいかにゃん?」

「友ね……そんな肩書はともかく、オレの邪魔さえしなければどうせもいい」

「じゃあ友達ってことで。白音は?」

「は…はい……嬉しいです……」

「……」

 

物静かにカリフを見て照れる白音の姿が今は亡き弟の片割れを思い起こされる。

 

悟天も最初は引っ込み思案だったが、いざ関わってみると分かった。あれは慣れた奴にしか素は出さないと。

 

(多分、この白音って奴も同じタイプだな……)

 

不覚とは思うが、カリフは悟天やトランクスのお守を“させられていた”ということもあって、子供は苦手だが、扱い方は心得ている。

 

そして、弱い奴相手にはムカつかない限り、手を出すことはない。

 

故に自分が子供相手だと甘いと勘違いされることもあり、そのことが我慢できない。

 

故に辟易していた。

 

「……まあいい、白音はそこいらのガキとは違うと思うからな……勝手にしやがれ」

「ついでに私も」

「ご勝手に」

 

なんだかもう訳が分からなくなっていた状況にカリフももう投げやりになっていた。

 

「次だ次。行くぞ」

「おー」

「にゃあ」

 

そうして彼女たちが別の場所に行こうとすると……

 

「やっほー!」

「?」

「にゃ?」

 

後ろから別の声が聞こえたと思って黒歌と白音が振り向く。

 

「またか……」

 

カリフはなぜか顔に手を当てて辟易してた。

 

黒歌たちが見たのは母親らしき人物に手を引かれている少女がこっちに手を振っていた。

 

「カリフくーん!」

「あら? 朱乃のお友達?」

「うん!」

 

そう言って手を振ってくるのが見なくても分かる。

 

カリフは適当に手を上げて軽く振って返すと、朱乃と呼ばれた黒髪ロングヘアーの少女は一層嬉しくなった。

 

「お母さんお母さん! あの子私よりも一歳下なんだって!」

「そうなの。じゃあ朱乃はお姉さんね」

「うん!」

 

明るく会話しながら遠ざかっていく親子にカリフは小さく洩らした。

 

「なにがお姉さんだ……返さねえとすぐ泣くくせに……」

「あの子は?」

「……前に色々と…」

 

溜息を吐くカリフはそうとだけ言って再び歩き出す。

 

まだ一日は終わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼の案内は終わり、既に日は傾いていた。

 

ある程度の探索も終わり、父も既に家に帰っていた。

 

夕食は全員でテーブルを囲んで食べた。

 

もっとも、カリフだけは一人でフルコース級の料理を誰よりも速く平らげてテーブルを後にした。

 

そして、カリフは家の庭へと出た。

 

「? 何してるのにゃん?」

「あぁ、いつものことだよ。体を鍛えてるんだ」

 

黒歌の問いに父が代わりに話すと母も乗ってきた。

 

「なにやってるか分からないけど、先週は親指だけで逆立ちして家の周りを何回も周ってたわ」

「にゃあ……」

 

もう一日だけでカリフという規格外さには驚かれっぱなしだったのだ。大抵のことにはもう驚かない。

 

そうとだけ聞くと黒歌はおもむろにキッチンへと向かった。

 

何事かと思った白音が姉の後に付いていく。

 

それに気付いた黒歌は白音に何か言うと白音は小さく頷いた。

 

その後、黒歌が何かを取りだして父の元へ向かっていく。

 

「パパさ〜ん」

「ん? どうしたのかな?」

 

そう言って黒歌が背中に隠していたビール瓶を出して見せる。

 

その様子に父が嬉しそうに声を洩らす。

 

「おぉ、これは……」

「昨日はお酌したいって言ってたからやってみるにゃん」

「んしょ、んしょ……」

 

後から白音がお盆に一つ大きいジョッキを乗せて運んできた。

 

そのシチュエーションに父も男泣きする。

 

「まさか、こんなに可愛らしい子たちが酌してくれるなんて……カリフだとビール瓶を無理矢理口に突っ込んで押さえつけるとか……マジ死ぬかと思った…うぅ…」

「……苦労してるのにゃん。飲んで忘れましょうぜ」

「うん……白音ちゃんもありがとう」

 

そう言って辿り着いた白音の小さい頭を撫でてやると、白音は少し驚いたようだが、すぐに小さく笑った。

 

「えへへ……」

「母さん。今ここにオアシスが見えるよ」

「うふふ……」

 

父としては感無量の一言だった。

 

明りが洩れる家の中から笑い声が聞こえてくる。

 

夜の帳に包まれた家の周りをカリフは親指逆立ちで汗を流して歩いている。

 

「あと……三十周……」

 

そう言った後、カリフはペースを速めて家の周りを回る。

 

カリフの鍛錬が始まったころに家から白音が出て来てスポーツドリンクを道に置く。

 

「……ここに置いていい?」

「あ? あぁ……わりいな」

「うん」

 

白音は嬉しそうにカリフの修業を観察してくる。

 

視線は気になるが、カリフも直接邪魔になることはないと思い、そのまま放置した。

 

こうしてカリフの修業は一時間で終わった。

 

結局、白音はずっと修業風景を見ていただけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして就寝

 

一日が終え、カリフも寝床に入る時だった。

 

「部屋がない?」

「そうにゃ。ただでさえ部屋が碌にないから今日も私たちはこの部屋で寝るにゃん」

「……またソファーの上か」

「いやいや、カリフくんもここで寝るといいにゃ」

「はぁ?」

 

なんでそうなる? とばかりに返すと白音がオズオズと出てきた。

 

「姉さまと一緒に寝ちゃだめ?」

「だから、オレは一人で……」

「だめ?」

「……」

「……うりゅう……」

 

泣くなこりゃ……これだから極力子供とは関わりたくないんだよ……まだこれが近所のクソガキなら放置してやるんだが、こいつ自身は嫌いではないし、泣かれたら後がうるさい。

 

「……寝るときは静かにしろよ」

 

そうとだけ短く言うと、嬉しそうに白音はベッドの中へ潜りこむ。

 

そんな妹の姿を見て黒歌も苦笑しながらベッドに行くが、カリフはここで言っておく。

 

「言っておくが、寝てるときは絶対にオレに触るなよ? 間違えて殴り飛ばしても知らんからな」

「えぇ〜……一緒に寝ないの〜?」

「同じ部屋で寝るだけでも最大の譲渡だ」

 

そう言って物置から掛け布団を持ち出してカリフは床に寝そべる。

 

その様子に黒歌は軽く溜息を吐いたものの、強くは言えずにこのままで寝る。

 

「んじゃおやすみにゃ」

「すぅ……すぅ……」

「寝るのはやっ!」

 

既に眠りに入っていたカリフに吊られてか白音も小さく寝息を立てているのを聞いた。

 

その姿に黒歌は久しぶりに微笑んだ。

 

「ま、なんというか……おやすみ」

 

白音の頭を撫でて黒歌も床についた。

 

 

 

猫又姉妹の鬼畜一家生活記録はここで一旦は終わる。

 

また明日には違った破天荒で賑やかな出来事が起こるだろうと胸に思って……

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変わり始めた日々
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