IS/3th Kind Of Cybertronian 第五話「Alien vs. Predator2」 |
IS学園の生徒達はまだ冬休み中だが、教師の仕事はもう始まっていた。
始業式を間近に控えており、その他の準備も山ほどある。
織斑千冬が職員室に入ると、新聞紙が目の前に迫ってきた。その下には細い足。
千冬は溜息をついた。
「……危ないぞ、山田先生」
その一言で、新聞紙がくしゃりと畳まれた。
現れたのは、短い緑色の髪をした、眼鏡の女性だ。
彼女がどこか幼く見えるのは、その顔を横断する、少し大きめの黒縁眼鏡の効果だけではないだろう。
名前は、山田真耶といった。
「あっ、す、すみません織斑先生!」
ぺこぺことしきりに頭を下げる真耶を見ていると、千冬は彼女が自分の生徒であるかのような錯覚を起こす。
もちろん、とうの昔に成人を迎えているのだが、見た目は学生に混じっていても違和感がない。それどころか、職員室にいる方がおかしく見えるくらいだ。
日本代表にも迫るISの使い手でありながら、どうしてここまで気が弱いのか、千冬には不思議でならない。
千冬は自分の席についた。
始業式前に、幾つか片付けなければならない書類がある。
しかし、真耶はまだ、同僚との会話を楽しみたいらしい。向かいの机から、ひょっこりと顔を出す。
「今朝のニュース、観ました? 爆発したガソリンスタンドって、けっこう近くですよね?」
真耶の視線が、手の新聞と千冬の顔を行き来する。
その事件のことは、千冬も知っていた。
深夜、町外れにあるガソリンスタンドが爆発事故を起こし、今朝になってようやく消火活動が終わったと、ニュースで報じられていた。
死者や怪我人はいないが、原因は未だ不明だという。
「……やっぱり、一連の事件と、何か関係があるんですかね?」
真耶が、若干声を落として言った。
千冬は眉を顰めた。
「私は探偵じゃない。今の時点では、何とも言えないな」
ここしばらく、世界中で奇妙な事件が頻発している。ガソリンスタンドや石油コンビナートから、燃料が盗まれるのだ。
それも、ガソリンタンク十個分などという低いレベルではない。
一晩で何十トンという大量の燃料が消え、その行方は誰にも分からない。
犯人の正体も、どんな手口を使っているのかさえ明らかになっていなかった。
それと並行して、さらに不可解な事件も起きていた。
駐車場に停めてあった車が忽然と消え、次の日には、同じ場所に戻されている。調べてみても特に異常はなく、飲みかけだったジュースの缶さえ、そのままになっていたという。
民間の車であれば持ち主の勘違いだと笑いごとで済んだのだが、問題は同じことが軍が所有する戦闘機や戦車でも起きていることだった。
当然、各国の軍は世界の安全と国の威信にかけて、この乗り物版神隠しについて捜査した。犯人を見つけ出し、締め上げて、手口と目的を聞き出すために。
…………事件は、まだ続いている。何一つ、謎が解き明かされないまま。
この二つの事件について、どちらも何の痕跡も残さないことと、スケールの大きさから、有名な犯罪学の教授が同一犯の仕業であると推測していた。
千冬に言わせれば、それは分かり切ったことであり、わざわざテレビに出て偉そうに発表するようなものではない。
世間の感想は様々だった。
不可解極まる事件の連続に不安を感じる者。
その魔術師のような鮮やかな犯行に感心する者。
中には世界滅亡の前触れで、神が人類に罰を与えている、などという者もいた。
ISを使った犯行だ、と囁く者も。
何にしても、重要なのは犯人を捕まえることだ。
今のところ、手伝える何がしかは無いが、千冬もそれを望んでいた。
(一夏も受験が近い。変な事件で心を乱されないといいが)
ふと、千冬は窓の外を見た。
早朝の空は青く澄みきっている。天気予報によれば、今日はずっと晴れているらしい。
雀が何匹か、空を横切るのが見える。千冬は穏やかに目を細めた。
「まあ、昨日そんなことがあったんだ。今日くらいは何も起きないだろう」
しかし、そうはならなかった。
一郎ことサンダーソードのコア・コンシャスネスが、彼の記憶をランダムに再生していた。
人間でいえば、それは夢に近い現象だった。
まず、メタリカトーの修行の一環で、長時間の瞑想をしていた記憶が浮かび上がってきた。
今よりも幼く、身体を動かす方が好きだったサンダーソードはこの修行が苦手で、よく師匠に叱られたものだ。
結局、マスターにはならなかったものの、叩き込まれた技や精神は、今も自分の中で生きている。
次は、アイアコンにあるマクシマルズの学校に通っていた頃の記憶。
友人とエネルゴンクッキーの早食い(得意なことの一つだ)をやったり、レポートを忘れて廊下に立たされたこともあった。
異星文明の授業が、特におもしろかったことを覚えている………
痛みを伴う記憶もある。
サンダーソードは一時期、グレートウォーで活躍したダイノボット部隊のリーダー、グリムロックの教えを受けていたことがある。
マクシマルズにリフォーマットし、ヴェロキラプトルをスキャンした彼は俊敏かつ強力で、サンダーソードは何度も叩きのめされたのだ。
彼の型にはまらない野性的な戦い方は、メタリカトーの技だけに頼りがちだったサンダーソードに、新たな道を指し示した。
訓練が終わった後のオイル風呂は格別だった。
そして、惑星調査員として、宇宙に散らばる無数の星々を旅して回った記憶。
酸の海が広がる星や、陸地全てが砂漠の星もあった。知的生命体のいる星では、サンダーソードは彼らをスキャンすることが多かった。
そうすると、彼らと間近で接し、その文化を身をもって体験することができる。
そう、今の生活のように。
「………うう」
一郎は、目覚めると同時に呻き声を上げた。
体中が酷く痛む。昨晩受けた傷が、まだ治っていない。
インターナル・リペアも、エネルギーを十分に補充できない状態では、あまり頼りにはならない。
窓を覆うカーテンから朝日が漏れていた。
現在、午前九時十五分。今日の現場の集合時間に、完全に遅れている。
故意ではないにしろ、仕事を無断で休んでしまったことに罪悪感を覚えるが、今はそれどころではなかった。
一郎はオンボード・コンピューターに自身をスキャンさせた。
一秒後、スキャンの結果が返ってくる。
全身の駆動系、装甲にダメージ有り。現在修復中。
スパークにダメージ無し。
各種武装、センサー類には異常なし。
エネルギー残量、23%。戦闘モードに変形後、戦闘能力を維持できるのは約10サイクル。
全身の修復が完了するまで、後40メガサイクル。
天井を見つめていた一郎は、かなり苦労して体を反転させ、畳の上で四つん這いになった。
人間の姿でいる間は、敵のレーダーに感知されないステルス機能が働く。しかし、万が一ファンダメンツと遭遇した場合、勝てる可能性は限りなく低い。
少なくとも、昨晩のように三対一の戦いになったら、成す術もなくスパークを消されてしまうだろう。
敵の戦力は未知数。
こちらの戦力は………手負いのマクシマルが一体。
一郎は荒い息を吐いた。トランスフォーマーに呼吸は必要ないが。
絶望しか見えない。かのオプティマス・プライムでも、同じ状況に陥れば、少しは気弱になったに違いない。
(だけど、奴らの侵略を、黙って見ているわけにはいかない)
この地球には、ISというなかなか優れた兵器が存在する。真正面から戦った場合、数に劣るであろうファンダメンツは少し苦労する筈だ。
問題は、真正面から戦わない場合である。
こそこそ隠れてガソリンスタンドから燃料を盗んでいたということは、まだ自分達の存在を人類に知らせるつもりはないのだろう。
今は準備の段階で、敵地でも存分に暴れられるよう、力を溜めているのだ。もしかすれば、人類にとって、いずれ致命傷となるような工作も進めているかもしれない。
そして、時がくれば、油断し切っている敵に向けて、それまで溜め込んできたすべてのエネルギーを解放するのだ。
たくさんの人間が犠牲になるだろう。あるいは、この星に住む、すべての命が。
サヴェッジファングの言っていた、ダークエネルゴンのことも気になる。
もし、ファンダメンツがダークエネルゴンを利用する方法を見つけていた場合、話は地球の中では終わらない。
遠く離れた故郷―――セイバートロン星に、再び争乱が訪れる。
鋼の大地が、鉄屑とオイルで汚される。
地球とセイバートロン星。二つの星の平和を守らなければならない。
マクシマルズの信念に従って。
しかしそれは、サンダーソードの能力を越える大任だ。一体では、到底果たせはしない。
仲間が欲しい。
安定してエネルギーを供給し、傷を癒せる設備も。
セイバートロン星には、仲間がたくさんいる。設備もある。
しかし、今は帰ることも叶わず、連絡を取る手段もない。
手足を動かすと、ブレインサーキットに火花が散るような痛みが走る。一郎は奥歯を食いしばった。
彼に与えらえた選択肢は少ない。
一つは、このまま一体でファンダメンツに戦いを挑み、スクラップにされる。
もう一つは………地球人に助けを求めるか。
別の次元の宇宙から来た異星人のロボットが、地球の資源を狙っている。まるでB級映画の設定のようだが、それを地球人に信じさせるのは簡単だ。
一郎が、彼らの目の前で変身すればいい。
それでも駄目なら体を調べさせる。金属生命体が、この星の技術で作れるものかどうかはすぐに分かるはずだ。
難しいのは、一郎が地球人の敵でないという証明である。
マクシマルズの信念もインシグニアも、彼らを信じさせる力にはならない。いやむしろ、自分達を騙すための罠であると受け取る者の方が多いだろう。
その場合、彼らは一郎を捕獲し、来るべき侵略者に対抗するための材料にするかもしれない。
(だけど……それしか方法がないのなら……)
重要なのは地球とセイバートロン星の安全であり、間違っても一郎の保身ではない。
もしも、スパークがマトリクス・ディメンションに還るような事態になったとしても、そのことで平和が守られるのならば、一郎は喜んで実験材料になるつもりでいた。
一郎は生まれたての子山羊のような弱々しさで立ち上がると、よろめきながら窓に近付いた。
食べ物はないが、せめて日の光を浴びたい。
そう思い、一郎は無造作にカーテンを開いた。しかし、光を浴びることはできなかった。
窓の外に、巨大な鷲がいた。白い頭と、焦げ茶の羽に覆われた胴体。
全長は二メートルほどだろうか。それが大きな翼を広げて、日光を遮っている。
一郎は、カーテンを開いた姿勢のまま硬直した。
こんな街中に、鷲なんていたのか。
しかし、街中どころか、世界のどこを探してもこんな化け物のような鷲はいないと判断すると、慌てて窓から離れた。
鷲が、嘴を動かすことなく声を発する。
「俺はキラーウィンド。後で命乞いする時は、その名を呼んでくれ」
そう名乗った鷲のプレダコンは、嘴の一撃で窓を叩き割ると、翼を畳んで部屋の中に入ってきた。
一郎は後ずさりつつ拳を構えた。あまりにも追撃が早すぎる。
「どうして、僕の居場所が」
「エナジーシグネチャーを探知できないから、少し手間取った。だが、顔さえ知ってれば、探し方はいくらでもある」
一郎は床に散らばったガラスの破片を蹴り、キラーウィンドの顔にぶつけた。
相手が翼でそれを払い除けると同時に、背中を向けて扉へと走る。今は逃げるしかない。
扉を蹴破り、鉄骨で作られた廊下に出る。一郎の部屋は二階にあり、手摺の向こうに道路が見えた。
階段を下りている暇はない。
一郎は手摺に足をかけ、道路に向かってジャンプした。
一瞬滞空して、数秒後にはアスファルトの上に着地している筈だった。
だが、何時まで経っても地面が近付いてこない。それどころか、みるみる内に遠ざかっていく。
一郎は顔を上げた。
瞬く間に追いついてきたキラーウィンドが、一郎の両肩に鋭い鉤爪を食い込ませ、空を飛んでいた。
「キラーウィンド航空、ご利用ありがとうございます。快適な空の旅をお楽しみください。……行き先はスクラップ置き場だが」
キラーウィンドが愉快そうに言う。
一郎はもがいたが、抵抗にもならなかった。
「……思い出した。たしか、事故でブレインサーキットが故障して、自分の部下達を撃ち殺したプレダコン航空部隊の小隊長だったな」
その後、リペアを拒んだキラーウィンドは逃走し、行く先々でオートボットやマクシマル、そして自分の同族達、合わせて八体を殺害。
九体目の犠牲者が出る前に捕えられ、プレダコンの刑務所に機能停止状態で収監された。
それが元気に地球の空を飛んでいるとなると、サヴェッジファングが自分の仲間にするために逃がしたのだろう。
キラーウィンドは自らの凶行を恥じることなく、むしろ誇るかのように笑った。
「楽しいぞ、スパークを撃ち抜かれた相手が、壊れた人形のように崩れ落ちるのを眺めるのは。ついさっきまで命乞いをしていたのが、一瞬で静かになるんだ」
住宅街を過ぎると、キラーウィンドはビル街に入った。
道行くサラリーマンやOLが足を止め、こちらを指差すのが見える。携帯電話のカメラで、巨大な鷲を撮影する者もいた。
逃げようとする者はいなかった。
彼らの頭にあるのは、この光景がニュースでどう報じられるか、または撮った映像が動画共有サイトでどのような反響を生むかであり、自分達が危険晒されることなど夢にも思わない。
鷲は、既に哀れな少年を鉤爪で捕えている。少なくとも、彼を放して潰れたトマトのようにするか、巣に持ち帰ってヒナ達の餌にするまでは、自分の安全は保障されていると思っているのだ。
キラーウィンドは、そんな彼らを見て、けけけと声に出して笑った。
向かって左に建っているガラス張りのビルに近付き、体を右に傾ける。そして、一郎の肩を掴んだまま、彼をビルの壁面に叩き付けた。
「うわっ!」
ガラスが割れ、その破片が地上に降り注ぐ。
キラーウィンドは、一郎を壁面に擦り付けるようにして飛んだ。ガラスの窓は砕け、割れ、それが連鎖してゆく。
都会らしいスタイリッシュなビルは、今やひび割れたキャンディーのような有様だ。
鋭いガラスの雨に、巨大な鷲を見物していた人々が、悲鳴を上げて逃げ惑う。
ビルから離れたキラーウィンドは、その光景を満足そうに見下ろした。
「はははは。見ろ、この星の支配者があのざまだ。はははは、おもしろい」
一郎は口に入ったガラスを吐き捨てると、キラーウィンドを睨みつけた。胸のスパークから力を引き出し、右手に集める。
いつまでも、こんな奴の好きにさせておくわけにはいかない。
「なら、もっとおもしろくしてやる!」
一郎は肩を掴む鉤爪に、右手で触れた。そこからスパーク・エネルギーボルトを流し込む。
キラーウィンドの全身を、電流が駆け抜けた。
鷲のプレダコンは機械式の絶叫を上げると、たまらず一郎を空中に放り出した。
「サンダーソード・マクシマイズ!」
地面に叩きつけられる前に、一郎はサンダーソードの姿に変身した。少年の体が、青い鎧に包まれてゆく。
「キラーウィンド・テラライズ!」
その上で、キラーウィンドも変身した。
鉤爪を持った足が伸びて、そのままロボットモードの足となる。
鷲の胴体が展開し、収納されていた機械の体が出現する。
白い腕が生え、バイクのヘルメットのようにつるりとした頭が飛び出る。額にはプレダコンのインシグニア。
オプティックセンサーを保護するレンズの形状は鋭く、如何にも狩人といった雰囲気を醸し出していた。
口元には二本の短いスリットが刻まれていて、そこから赤い光が漏れている。
鷲の頭が、フードのようにロボットの頭に乗ると、変形が終了した。
「なかなかやるな。だが……お楽しみはこれからだ」
そう言って、キラーウィンドは右手に大型のエナジーライフルを出現させた。
サンダーソードは脚部のブースターを起動させ、上昇。キラーウィンドと向き合う。
朝のビル街に突然現れた二体のロボットを見るため、周囲のビルの窓に人が集まっているのが見えた。
こんな場所で戦えば、例え勝ったとしても、多くの人々を巻き込んでしまう。どこか、人のいない場所に行かなくては。
「来い、キラーウィンド!」
サンダーソードはバトルマスクを装着し、更に上昇した。
だが、キラーウィンドは、それを追いかけようとはしなかった。
「いいや、どこにも行かない。俺がそんな間抜けだと思っているのか?」
サンダーソードは舌打ちとともに動きを止めた。完全に思考を読まれている。
キラーウィンドの顔は表情を変えられるタイプではないが、可能ならば確実に嘲笑を浮かべているだろう。
「どこかに行きたいなら、好きにしろ。俺は、この辺りにいる人間どもを殺した後で追いかける」
エナジーライフルの銃口が地上に向けられる。そこには、ガラスの雨に懲りもせず、非日常を見物しに来た人々が集まっていた。
高出力のビームが当たれば、人間など一瞬で蒸発してしまう。
サンダーソードは呻いた。最悪の状況だ。
敵はぴかぴか、こちらはボロボロ。まともに戦えるのはたったの十分。
その上、何百人もの人質を取られてしまった。
回避やプラズマガン、その他の遠距離攻撃という選択肢が消える。
サンダーソードは流れ弾による犠牲者を出さないために、キラーウィンドの攻撃を防御し続けなければならない。
サンダーソードはエネルゴンセイバーを両手に持ち、構えた。
マクシマルズの戦士は、どんなに不利な状況であろうと、最後まで希望を捨てないのだ。
キラーウィンドがエナジーライフルのトリガーを引く。
真っ直ぐに飛んできた光線を、サンダーソードは下段から上に擦り上がる刃で弾いた。そのまま敵に返すこともできるが、避けられてビルにでも当たったら人間達が危ない。
サンダーソードは体を前に傾け、空中で前進。一気に距離を詰める。
キラーウィンドは、後退するかエナジーライフルを撃つと思いきや、逆にこちらに向かって突撃。
互いの速度は音を超える。
衝突の瞬間、サンダーソードは横薙ぎにエネルゴンセイバーを振り出した。
が、キラーウィンドは鷲の姿に変身し、身長差を利用して斬撃を回避。
サンダーソードの背後に回ると、振り向きざまにロボットモードに戻り、エナジーライフルを撃った。
両者の間の距離、約五メートル。サンダーソードは、これなら外さないと判断した。
横回転の遠心力を乗せて振り抜いたエネルゴンセイバーが、光線を射手の左肩に打ち返す。
キラーウィンドはその衝撃でくるくると宙を舞ったが、体内のジャイロ機能によってすぐに体勢を立て直した。
焦げ茶色をした両翼の先端が折れ、中からミサイルポッドが現れる。
連射。サンダーソード目掛けて飛来するミサイルの数は百発。
半分が真っ直ぐな、半分が上下左右から包み込むような軌道を描く。
一発一発が、ビルに当たれば一瞬で瓦礫の山に変えてしまう威力だ。
ジェットロン部隊を例に出すまでもなく、ディセプティコンやプレダコンズが、航空戦力に力を入れていたことを思い出す。
サンダーソードは右手のプラズマガンを展開した。
ノーマルモードから、連射モードに切り変え、掃射。威力を絞ったプラズマ弾は確実にミサイルを撃ち抜き、ビルの谷間を爆炎で飾った。
これで、プラズマガンに割り当てていたエネルギーの残量がゼロになる。
戦闘機能停止まで、残り約八分。
剣を握る手に、倦怠感がじわりと滲み出す。人間でいう空腹も感じていた。
それでも、まだ倒れるわけにはいかないのだ。
爆炎を貫く、七条の光線。
射線を計算・予測すると、光線はそれぞれ違うビルを撃ち抜く。
ビルの内部には、まだ生体反応が残っていた。
この体一つで、全てを防ぐのは無理だと判断。
サンダーソードは、まず両手のエネルゴンセイバーを投擲した。
二条の光線はエネルゴンセイバーと衝突し、軌道を変え、道路に穴を空けるに留める。
続いて、両肩と両腰の装甲板を投げる。
装甲板をぶつけられた四条の光線は青空へと消えて行った。
そして、最後の一条。サンダ―ソードは全速力で飛び、光線の前に立ちはだかった。
光線は、胸の鎧に着弾。装甲が融解し、内部の回路を焼かれる痛みに、サンダーソードは苦悶の声を上げた。
直後、光線を追って発射された小型ミサイルが、彼を炎で包み込んだ。
サンダーソードのエナジーシグネチャーが爆炎の中に消えたのを確認すると、キラーウィンドは満足げに頷いた。
戦闘開始から終了まで、ぴったり3サイクル。悪くないタイムだ。
左肩を故障しているが、大した問題ではない。
もし、サンダーソードのエネルギーが十分で、戦場がこんな街中でなければ、もっと時間がかかっていただろう。
キラーウィンドはくっくと笑った。
地球の虫けらを守って死ぬとは、如何にもマクシマルの腑抜けらしい終わり方だ。
自分は、間違ってもそんな真似はしない。強いプレダコンに与えられた権利は、弱者の蹂躙である。
キラーウィンドは手首に内臓されたコムリンクを起動させた。サヴェッジファングに繋げる。
「邪魔者は消えた。粉々だ」
『よくやった。今、ポータルを開く』
「ああ……いや、待て」
キラーウィンドのレーダーが、背後から接近してくる存在を感知する。
それなりに速い。鳩や雀、ヘリコプターが出せる速度ではない。
飛行機や戦闘機でもない。どちらも、こんな狭いところまでは入って来れない。
すると、つまり………
キラーウィンドは振り返った。
ビルの谷間に、人間の女が浮かんでいる。黒髪の、気の強そうな女だ。
ノースリーブのアンダースーツの上に、機械の鎧を身に纏っている。
肩と腰に巨大な装甲が付いているのは、さっき殺したサンダーソードに似ているが、こいつは全体的に黒い。
「貴様がどこのどいつかは知らないが、随分と暴れてくれたな。今すぐ武装を解除し、投降しろ」
女が、印象通りの声音で言い放つ。ガントレットに包まれた手に、長刀が出現した。
キラーウィンドはインターネットに接続し、女の顔を検索。一秒と経たず、検索結果が出る。
女の名前は、織斑千冬。
ブリュンヒルデの異名を持つ、世界最強のIS操縦者。
キラーウィンドは機械の笑い声を上げた。
ボーナスステージの始まりだ。
・用語解説・
コア・コンシャスネス:トランスフォーマーの記憶や人格の要となる中枢意識。複製保存も可能。
アイアコン:オートボットの首都。
エネルゴンクッキー:読んで字のごとく。トランスフォーマーのおやつ。
グレートウォー:ここではメガトロンとコンボイがリーダーだった頃の戦争を指す。
グリムロック(マクシマル):ダイノボットのリカラーの玩具が存在する。
リフォーマット:G1トランスフォーマーが、マクシマルやプレダコンになること。
インターナル・リペア:自己修復機能。
オンボード・コンピューター:トランスフォーマーの体内に装備された補助コンピューター。
サイクル、メガサイクル:セイバートロン星における「分」と「時間」。
マトリクス・ディメンション:トランスフォーマーにとっての死後の世界。
コムリンク:通信装置。
説明 | ||
にじファンから移転。 本作品は、ISとトランスフォーマーシリーズのクロスオーバーSSです。オリジナル主人公および独自設定を含みますのでご注意ください。 |
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