英雄伝説〜光と闇の軌跡〜 119 |
リフィア達と別れたエステル達はエルナンからジンの滞在場所を聞き、ジンの滞在場所である共和国大使館に行く途中、エステル達が通り過ぎようとした店からピアノが聞こえて来た。
〜〜〜〜〜〜〜〜♪
「ほえ?」
「あ……。これって……ピアノ?」
「うん、レコードじゃないね。中で誰かが引いているみたいだ弾いているみたいだ。このメロディー、どこかで聞いた覚えがあるんだけど……」
ミントとエステルは急に聞こえてきたピアノの音に首を傾げ、ヨシュアも頷いた後、聞き覚えのあるメロディーに首を傾げた。
「凄く綺麗な音だね、ママ!」
「そ、そうね。でもな〜んかイヤな予感が……」
嫌な予感がしつつも気になったエステル達はピアノが聞こえてきた居酒屋に入った。
〜グランセル市内・居酒屋サニーベル・イン〜
そこにはボースで別れたエレボニアの演奏家、オリビエがピアノを弾いていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜♪
(……やっぱりお調子者(オリビエ)か。でも、演奏家なんてただの自称かと思ってたけど……)
(かなりの腕前みたいだね。プロの演奏家を名乗るだけはあるんじゃないかな。)
(うん……。ちょっとじーんと来ちゃうかも。)
エステルとヨシュアはオリビエの演奏に以外そうな表情をしながらも聞き入っていた。
(あれ?あの人、ママの知り合いなの?)
(あ〜、まあね。正直、ミントの教育には悪いから会わせたくなかったんだけどな……)
ミントに尋ねられたエステルは溜息を吐いた。そしてピアノの演奏が終わった。
パチパチパチパチパチ…………!!
演奏が終わると拍手が起こった。
「……今のは『琥珀の愛』といってね。本来は、オペラに使われる間奏曲でしかないのだけど……。そこはそれ、愛と真心でカバー。尽きせぬ愛とともに君たちに贈らせてもらうよ。」
拍手が終わった後、オリビエは静かに曲名を説明した。
「相変わらずのマイペースっぷりねえ……。はあ……感動して損した気分だわ。」
「お久しぶりです、オリビエさん。王都に来ていたんですね。」
「お兄さん。演奏、凄く上手だね!」
そこにエステル達がオリビエに近付いて来て、エステルは溜息を吐き、ヨシュアは挨拶をし、ミントはキラキラした表情でオリビエを見た。
「それはもちろん、大河に零(こぼ)れた人魚の涙が海に辿りつくように……。こうしてボクは、黒髪の王子様と感動の再会を果たしたわけさ。」
オリビエは片手で髪をかき上げて、エステル達を見た。
「……本当に相変わらずですね。」
「あー、はいはい。タワゴトはそのくらいにしてあたしたちを席に案内しなさいよ。気障なカッコしてるクセに気が利かないったらありゃしない。」
オリビエのセリフと様子を見たヨシュアは呆れた後溜息を吐き、エステルはオリビエの言葉を流して、毒舌と共にオリビエに命令した。
「エステル君……なんだか手強くなってない?」
そしてエステル達とオリビエは席に着いた。
「たしかオリビエ、シェラ姉と一緒にロレントの方に行ってたわよね?いつから王都に来てるの?」
「うーん、一月前くらいかな?君たちと別れてからロレントの街で、シェラ君と共にしばらく甘い一時を過ごしたのさ。だが、所詮ボクは漂泊の詩人にして演奏家……。シェラ君が涙ながら引き留めるのを振り切って麗しの王都に流れてきたわけだよ。」
「何と言うか……。信憑性ゼロの話ですね。」
「おおかた、シェラ姉の酒に毎晩付き合わされた挙句、たまらず逃げ出したんでしょ?」
オリビエの説明をヨシュアはさらっと流し、エステルは得意げな表情で真実を言い当てた。
「ギクッ……」
エステルの言葉を聞いたオリビエは表情を強張らせた。
「あと、アイナさんにまで酒を付き合わされちゃったとか?」
エステルからアイナの名前が出てくると、オリビエは表情を静止させ、何も喋らなくなった。
「あれ、オリビエってばアイナさんのこと知らないの?シェラ姉の親友で、ロレント支部に受付やってる人なんだけど。ウワバミ度で言えばシェラ姉を上回るという……」
オリビエの様子に首を傾げたエステルは尋ねたが
「……ハハハ。やだナア えすてるクン?ソンナ名前ノ 人ナンカ ミタコトモ キイタコトモ ナイヨ?」
なぜかオリビエは裏返った声で片言で答えた。
「……声が完全に裏返ってるんですけど……」
「お兄さん〜。どうしたの?」
「エステル、ミント……そのくらいにしといてあげなよ。つらい……とてもつらい事があったんだと思う。」
オリビエの答えにエステルは突っ込み、ミントは尋ね、事情を察したヨシュアは哀れなものを見るような目でオリビエを見た。
「ブツブツ、まさかシェラ君以上に底ナシだったなんて……。……あああ…………。穏やかに微笑みながら注ぎ込むのはやーめーてー!」
エステル達の声が聞こえていないオリビエはロレントで植えつけられたトラウマを思い出して、叫んだ。
「ほえっ!?」
「フ、フラッシュバック!?」
「アイナさん最強伝説が着実に出来上がりつつあるね……」
突然叫んだオリビエにミントやエステルは驚き、ヨシュアはアイナの恐ろしさに体が震えた。
「はあはあはあ……。まあ、それはともかく……。キミたちは他の地方を回りながら王都まで来たんだろう?何か面白いことはあった……ようだね。そろそろこのボクにもそこの可愛いリトルレディを紹介してくれないかな?」
我に返って、気を取り直したオリビエはミントを見て、エステル達に尋ねた。
「ハァ……あんたにだけは会わせたくなかったんだけどな。…………まあ、いいわ。ミント。」
「はーい!こんにちは、お兄さん!ママの子供のミントだよ〜!よろしくね!」
エステルに促されたミントは元気良く、自己紹介をした。
「フッ……漂泊の詩人にして愛の伝道者、オリビエ・レンハイムだ。ボクの事は『オリビエお兄さん』と呼んでね♪」
オリビエは髪をかき上げて、ミントに流し眼を送って言った。
「やめんかー!……全く、これだから純真で可愛いミントにコイツみたいな変態と会わせたくなかったのよね!」
「ハハ……相変わらず、エステルはミントに過保護だなぁ。」
オリビエの言葉に反応して叫んだエステルの独り言が聞こえたヨシュアは苦笑した。
「当り前よ!こんな奴、ミントに悪影響を与えるだけの!存在だからね!」
「ハッハッハ!そう褒めないでくれよ。照れるじゃないか♪」
「褒めてないっつーの!………つ、疲れる………」
「ママ〜、大丈夫?」
エステルの毒舌をオリビエは笑って流し、エステルはすかさず突っ込んだ後、疲れて机にうつぶせた。ミントはうつぶせているエステルの体を揺すって尋ねた。
「ほう♪エステル君とヨシュア君……いつの間にこんな大きな子供を作ったのかな♪」
ミントのエステルに対する呼び方に反応したオリビエはからかう表情でエステル達を見た。
「それ、絶対言われると思ったわ………ミントはあたしの養子みたいなもの。だから、ミントはあたしの事『ママ』って言っている訳。だから断じてヨシュアと結婚している訳でもないからね!?わかった!?」
エステルは溜息を吐いた後、事情を説明した。
「ほう…………………フム。」
エステルの説明に頷いたオリビエはミントを凝視した。
「ほえ?ミントの顔に何かついているの?」
「…………イヤな予感しかしないわ……」
「ハハ……奇遇だね。僕もそう思うよ。」
オリビエに見られたミントは首を傾げ、エステルはジト目でオリビエを見て、ヨシュアは苦笑しながら答えた。
「フム………今でこれだけ可愛いとするとエステル君達並に育てば………フフ、今から楽しみだよ♪」
「予想通りの答えだね………」
「この………変態が〜!あたしの目が黒い内は絶対、アンタみたいな変態をミントに近付かせないからね!……もし、ミントに手を出したらただじゃすまないからね!」
オリビエの予想通りの答えにヨシュアは呆れ、エステルはミントを抱きしめてオリビエを睨んだ。
「ハッハッハ!それで今日はこのボクに会いに来てくれたのかな?」
「なんでアンタみたいな奴にわざわざ会いに行かなくちゃならないのよ……人探しの途中でよっただけよ。」
オリビエの言葉にエステルは溜息を吐いて否定した後、答えた。
「へえ……。いったい誰を捜してるんだい?」
「ジンさんといって、カルバード共和国から来た武術家の遊撃士です。よく酒場に来ているらしいのですけど、オリビエさん、ご存じありませんか?」
「ああ!あの熊のように大きな御仁か。何度かお目にかかった事はあるけど今日はまだ見かけてないねえ。」
ヨシュアに尋ねられたオリビエはジンの特徴を言いながら、答えた。
「そっか……。今日は酒場に来ないのかな?」
「カルバード共和国の大使館にいる可能性が高そうだね。」
「それじゃあ、出発だね!」
「フッ……。早速、行ってみるとしようか。」
そしてエステル達が居酒屋を出るとどさくさに紛れてオリビエがエステル達について行こうとしていた。
「だ〜か〜ら、なに自然な流れで付いてこようとしてんのよっ!?」
外に出た時、オリビエがまだ自分達に付いて来ている事に気付いたエステルはオリビエを睨んだ。
「ハッハッハッ。つれない事を言うもんじゃないよ。旅は道連れともいうし、ボクも人捜しを手伝おうと思ってね。それとも……。邪魔されたくないのかな?」
「な……!」
オリビエの言葉にエステルは驚いて、オリビエを見た。
「いやはや。初々しいったらありゃしない。蕾であることを自覚したばかりで咲くのを恐れためらう乙女……。……フフ、いい感じで色気が出てきたみたいだねぇ。」
オリビエは目を妖しく輝かせて、エステルを見た。
「…………〜〜っ………………」
オリビエの言葉を聞いたエステルは顔を真っ赤に染まらせて、オリビエから視線を外した。
「???何を言ってるんですか?」
「ねえねえ、オリビエさん。どうしてママはお顔を真っ赤にしているの??」
「フフフ、それはねえ……」
首を傾げているヨシュアとミントにオリビエはもったいぶるような口調で説明しようとしたところ
「せいやっ!」
「あ〜れ〜っ!」
エステルが素早く棒を出して、オリビエを店の中へ吹っ飛ばした。
「うわああ、なんだ〜っ!?」
「お、お客さん、しっかり!」
「だめじゃ……。白目をむいているわい……」
店の中は吹っ飛ばされたオリビエのせいで慌ただしくなった。
「エステル……。何を怒っているのかしらないけど、ちょっとやりすぎなんじゃ……」
「うん。………オリビエさん、大丈夫かな?」
エステルの行動にヨシュアは呆れながらエステルを責め、ミントはオリビエが吹っ飛ばされた方向をチラチラ見て、尋ねた。
「……インパクトをずらして派手に吹き飛ばしただけだもん。大したダメージじゃないわよ。」
「フフフ……。エステル君の……照れ屋さん……」
エステルの言葉に答えるかのように、オリビエの声が店の中から聞こえて来た。
「……確かに大丈夫そうだね。」
「オリビエさんって、凄く頑丈なんだね〜。」
オリビエの言葉を聞いたヨシュアは脱力し、ミントは珍しいものを見るかのような目でオリビエが吹っ飛ばされた方向を見て、言った。
「ほらほら、人捜し再開。グズグズしてないでとっとと大使館に行くわよ。あ、ミントははぐれないためにあたしと手を繋ぎましょうね。」
「はーい!」
(……なんで僕だけ怒られるんだろう?)
エステルの理不尽さにヨシュアは訳がわからず、首を傾げた。そしてエステル達はジンを探して、共和国大使館に向かった…………
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