英雄伝説〜光と闇の軌跡〜 133 |
〜グランアリーナ・ホール〜
「さて……いっしょについて行けるのはここまでのようだな。」
エステル達とアリーナに入ったリフィアはホールについて、呟いた。
「ママ!それにみんなもがんばってね!ミント、一杯応援するね!!」
「あたしもミントちゃんといっしょに精一杯応援させてもらいます。」
「ありがと、2人とも。」
「2人の期待に答えれるよう、精一杯がんばるね。」
ミントとツーヤの応援の言葉にエステルとヨシュアは笑顔で頷いた。
「フッ………こんな可愛いリトルレディ達に応援してもらえば、否が応でも力が出るものだね。」
「ハハ、せっかく応援してくれるのだから、期待には答えないとな。」
オリビエは酔いしれったかのような表情で答え、ジンはオリビエの言葉に苦笑しながら頷いた。
「最後まで諦めなければ、きっと勝機はどこかにあると思います。だから、頑張って下さい!」
「ん。あいつに勝てたら、エヴリーヌも一杯褒めてあげるね。」
「うむ!お前達の強さにあの戦闘狂が驚く所を楽しみにしているぞ!」
「3人共、ありがと!絶対、勝って見せるわ!」
プリネ達の応援の言葉に頷いたエステルは口元に笑みを浮かべて答えた。
「では余達は観客席に行くか!」
「はーい!」
「ん。」
「「はい。」」
そしてリフィア達は観客席に向かった。リフィア達を見送ったエステル達も控室に向かった。
〜グランアリーナ・選手控室〜
「は〜、あたしたちだけだとメチャメチャ広く感じるわねぇ。」
エステルは自分達しかいない控室を見渡して言った。
「団体競技や、サーカスなんかも出来るよう造られた場所だからね。昔は、大型魔獣との戦いなんていうイベントも行われていたみたいだよ。」
「へ〜、だからこんなに大きな控室になってるわけね。」
ヨシュアの説明に頷いたエステルは控室の広さに納得した。
「帝都のオペラ劇場に較べると設備の面では物足りないが……。屋外コンサートなんていうのも悪くないかもしれないねぇ。」
「何の話よ、何の……」
訳のわからない事を言うオリビエをエステルは呆れた表情で見ていた。
「しかし、今日はどうやら早く来すぎちまったようだな。考えてみりゃ一試合だけだから始まる時間は遅いはずだ。」
「え、そうなの。うー、試合があるまでただ待ってるのは退屈かも……」
ジンの説明を聞き、エステルは溜息を吐いた。
「だったら、試合が始まるまで場内を散策して来ようか?」
「ん、そうね。ジンさん、オリビエ。あたしたち散歩に行ってくるわ。」
「おー。時間までには戻ってこいよ。」
ヨシュアの提案に頷いたエステルはジン達に伝えた後、一端控室を出て行った。
「………………………………」
「へえ。どういう風の吹き回しだ?お前さんのことだからてっきりついていくと思ったが。」
控室を出て行くエステル達に着いていかず、黙っているオリビエをジンは珍しく思って、尋ねた。
「いやね、2人の雰囲気が少し変わったような気がしてね。あれは何か進展があったとみたね。」
「ほう、よく見ているじゃないか。確かにあの2人、この大会に妙なプレッシャーを感じていたみたいだが……。今日はどこか吹っ切れたようないい表情をしてやがったな。いやあ、若いモンはうらやましいね。」
オリビエの観察眼にジンは感心した後、笑った。
「でも、まだまだ仕込みは不十分といったところかな。もう少し進展した方が美味しく頂けるにちがいない。フフ……からかい甲斐がありそうだ。」
「やれやれ、悪趣味だねぇ。」
オリビエの趣味の悪さにジンは呆れて、溜息を吐いた。
「ゾクッ……」
その頃、控室を出たエステルが悪寒を感じたのか、突然身を震わせた。
「どうしたの?ひょっとして体調が悪い?」
エステルの様子を見て、ヨシュアは首を傾げて尋ねた。
「ううん……。何だか邪悪な意志を感じて……。人をダシに楽しんでやろうという調子にのったヨコシマな意志を……」
「……なんとなく誰だか見当は付きそうだね。」
エステルの言葉から、ヨシュアの脳裏には控室で自分達の事で何か言っているであろうオリビエの姿が浮かんだ。
〜グランアリーナ・ホール〜
「おお……。そこにいるのはエステル君とヨシュア君か!」
「ああっ、クラウス市長!?」
「どうしてこんな所に……」
観客席を廻り、観客席にいたアルバやクルツ達に挨拶をしたエステル達がホールまで戻ると、そこにはロレントの市長――クラフスがエステル達を見つけて、エステル達の所に来た。
「いやあ、久しぶりじゃのう。シェラザード君から話を聞いて王国各地を旅しているのは知っておったが……。2人とも、しばらく見ないうちにいい顔つきになったじゃないか。」
「はは……ありがとうございます。」
「うーん、自分じゃあんまり分からないけど……。市長さんの方は相変わらず元気そうね。ちょっと安心しちゃったわ。」
クラウスの賛辞にヨシュアやエステルは苦笑しながら答えた。
「はは、まだまだ若い者には負けてはおれんよ。それより、シェラザード君からリフィア殿下達と旅をしていると聞いて、最初は驚いたぞ。」
「あ、やっぱり市長さんはリフィア達の事を知っているんだ。」
「うむ。……リウイ皇帝陛下も含め、わし達ロレントの住民は10年前からメンフィル帝国の方々に本当にお世話になっている。君達が陛下直々から依頼を受けていると聞いて、驚いたと同時に君達の事を市長……いや、リベールに住む民の一人として誇りに思ったよ。」
「あはは……さすがにそれは言い過ぎよ。」
「僕達は遊撃士として、依頼を受けただけですから。」
クラウスの褒める言葉にエステルは苦笑し、ヨシュアは謙遜して答えた。
「はは、多分そんな所を陛下が気にいられて依頼を君達に出したのかもしれないな。それよりも、武術大会に出場して決勝まで行ったそうじゃないか。年甲斐もなくつい見物に来てしまったよ。」
「え、見物のためにロレントから来てくれたの?」
武術大会を見るためにロレントからわざわざ王都に来たクラウスをエステルは驚き、尋ねた。
「いや、そうじゃないんだ。実は、グランセル城の晩餐会に突然、招待されてしまってな。それで、今朝の定期船で王都に到着したばかりなんじゃ。」
「お城の晩餐会!?」
「なるほど……そうだったんですか。その晩餐会、デュナン公爵に招待されたものじゃありませんか?」
「よく知っておるのう?元々、生誕祭の式典には夫婦で出席するつもりじゃったから近いうちに来ていたはずじゃが……。いきなり軍の女性士官がやって来て晩餐会に出るよう要請してきてなぁ。」
(その女性士官って……」
(カノーネ大尉だね、きっと。)
クラウスを招待した女性士官に思い当たったエステルとヨシュアは目配せをした。
「ただ、ミレーヌのやつは旅行の準備が整わなくてなあ。仕方がないのでわしだけ先に来たというわけじゃ。」
「そっか……ミレーヌおばさんは来てないんだ。」
「あの、市長。実は僕たちも、もしかしたらその晩餐会に出るかもしれません。」
「ほ……?」
ヨシュアの言葉にクラウスは驚いた。そして2人は公爵の提案で、武術大会の優勝者が晩餐会に招待されることを説明した。
「なるほど……。そういう事になっていたのか。陛下がご不調の折の晩餐会などあまり出たくはなかったが……。君たちが一緒なら気が紛れるといったものじゃ。こりゃあ、相手がロレントに恩人の一人のカーリアン様とはいえ、君たちには勝ってもらわなくてはならんのう。」
「あはは……うん、わかったわ!」
「ご期待に添えるよう頑張ります。」
「頑張りたまえ。………おお、そうだ。レナさんからエステル君に伝言を頼まれているんだったな。」
「お母さんから?一体何を伝えるように言われたの?」
母から伝言がある事にエステルは首を傾げた。
「うむ。……では伝えるぞ。………『エステル、何でも娘ができたそうね?帰ったらじっくり!説明してもらうわよ?』だそうじゃ。」
「なんでお母さんがミントの事を知っているの!?」
レナからの伝言を聞き、エステルはレナがミントの事を知っている事に驚いた。
「多分、アイナさんが伝えたんじゃないかな。キリカさんがミント達が僕達のサポータ―になった事を他の受付の人達に伝えたと思うし。」
「あ、そっか。」
ヨシュアの推測にエステルは納得して、頷いた。
「よければ、わしにも事情を説明してくれんかの?」
(……どうしよう、ヨシュア?)
クラウスに尋ねられ、エステルは小声でヨシュアに相談した。
(さすがにミントが”竜”である事は黙っていたほうがいいよ。僕がちょっと脚色を変えた説明をするから、エステルはそれに頷いて。)
(りょーかい。)
ヨシュアの提案にエステルは頷いた。
「実は………」
ヨシュアはクラウスにミントが竜である事を伏せて、ミントの種族が本人が認めた人物を生涯を共にする事と、ミント自身はまだ幼いのでエステルの事を親のように慕っている事を伝えた。
「なるほど、そうじゃったのか。”闇夜の眷属”にも色々あるのじゃな。……とりあえず、ロレントに帰ったらレナさんにちゃんとした説明をしないと駄目じゃぞ?わしに言伝を伝えた時、レナさんは笑顔だったが、なんとなく怒っている風にも感じられたぞ?」
「あちゃ〜……多分お母さん、相談もなくミントを引き取った事に怒っているわ……ブルブル……!」
クラウスからレナの様子を伝えられたエステルはその場で身を震わせた。
(母さんには包み隠さず、正直に話さないと駄目だね。)
(わかっているわよ!……うう〜……気が重いわ〜………)
「まあ、わしにはあまり詳しくはわからんが、とにかく君達ブライト家に家族が増えたという事でいいかの?」
「うん。そんな感じよ。」
クラウスの言葉にエステルは頷いた。
「うむ、そうか。では、帰ったらそのミント君という娘を君達ブライト性にして、ロレント市民として登録しておくよ。」
「え………ミント自身にも会っていないのにいいの!?」
クラウスの提案にエステルは驚いて、尋ねた。
「エステル君を親として慕っている娘だ。きっと、良い子なのだろう。レナさんからも手続きを頼まれている事だし、心配いらんよ。」
「助かります。」
「ありがとう、クラウス市長!」
クラウスの好意にエステル達はお礼を言った。
「それじゃあわしは観客席の方に行っておるよ。頑張ってな。エステル君、ヨシュア君。」
エステル達の様子には気付かず、クラウスは2人に激励の言葉を贈った後、観客席に向かった。
「まさか、クラウス市長も晩餐会に出席するなんて……。って事は、メイベル市長なんかも呼ばれてるのかしら?」
「可能性は高そうだね。たぶん、有力者たちを集めて話があるんじゃないかな。」
「うーん……まあいっか。何とか試合に勝って晩餐会に出れば分かるもんね!」
「うん、そうだね。そろそろ控室に戻ろうか。もうすぐ開場の時間だと思うよ。」
「ん、りょーかい!」
ヨシュアの提案に頷いたエステルは、ヨシュアと共に控室に向かった…………
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第133話 | ||
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