異世界で生きる
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四話

 

 

カロル・トロル。古代ドワーフの言葉で原初の石という意味を持つこの地下都市は、辺り一面を石に囲まれ、マグマの運河が流れている。この場所はかつて最初の先祖が生まれたと伝えられており、鍛冶と鉱石の神に愛されたドワーフに豊富な鉱石とそんな場所にさえも適応して進化した食料として栽培出来る特徴的な植物などをもたらした。それらはカロル・トロル限定の特産品として知られている。さらにドワーフの小さくも強靭な体躯に反して手先が器用なのも相まって、鍛冶技術を進化させていくのにそれほど時間はかからなかった。

 

 

ドワーフ達はその技術で最高の武器や防具を作り上げた。アクセサリーも言うまでもなく、地表の人間、エルフ、ドラゴニカ――龍と人を足した見た目――などの別の種族達に非常に好まれることになる。その見事な鍛冶技術でドワーフの右にでる者無しと言われたほどだった。そして各種族との貿易により蓄えた資源と資金で更なる発掘と人口の増加によって合計12の広大な地下都市、10の地上都市を作り上げた。

 

 

しかし、ここまでの繁栄を見せたドワーフ達も程なくして追い詰められることになる。

 

 

それは、鉱山資源確保のための地下回廊と呼ばれる洞窟から突如として魔物の軍勢が押し寄せてきたからだ。当時の記録書は現存しておらず、先祖のドワーフが発掘時に掘り当ててしまったのか、はたまた魔物の軍勢が狙って掘り進めて攻めてきたのかは定かではない。しかしそれによってドワーフ達の地下都市は次々と落とされていく事になる。

 

 

当然、ドワーフ達は反撃もした。王族を筆頭にしてその屈強な身体を持つドワーフの戦士達は日ごろから首都のコロシアムで鍛えた腕をもってして魔物達を退け続けた。最初は戦線は拮抗したものの、絶えることのない魔物の軍勢にドワーフ達は日に日に劣勢に追い込まれていく。元々戦士の数はそこまで多くなかったのも災いし、この時点ですでに地下都市は半分が魔物に占拠されてしまっていた。しかし、その中でも尚あがこうとする者達の活躍と、地表の他の種族の友の助けを借りてなんとか魔物を退ける事に成功した。

 

 

それから四半世紀。未だ進行してくる魔物の軍勢に日々対抗する毎日が続いている。ドワーフ達は先祖の教訓を生かし、戦士達の育成に力を入れているとともに他種族との交流や援軍の協定も取り結んでいる。地底回廊が抜かれれば次は地表に確実に攻め込んでくるとわかっている他種族は、この協定に特に反論も無く賛成した。やや例外はあるとしても、防衛力は格段に上昇し、2つ地下都市の奪還にも成功している。それでも種族の数としてはドワーフが勝っているのはかつての名残と言えるだろう。

 

 

同時にこの魔物の群れは冒険者にとっては一攫千金のチャンスでもあった。都市にはいくつかのギルドが建てられ、多くの冒険者が集まるのと同じく帰ってくることもない。しかし、ここで上手く戦果をあげられれば他国でも一目置かれるようになり、この国ではさらなる栄誉が待っている。国としては魔物が減ってくれるのに異論はないし、人の出入りは国益につながるのでこれは大して気にかけてはいない。入国の際に犯罪以外の魔物の襲撃については一切責任を負わない旨の誓約書を書かせている。だがそれでもなお、冒険者の数は増加の一途をたどっている。同時に犯罪者の数も増加傾向にあるのが最近の国の悩みではあるのだが。

 

 

そんな中、カロル・トロル地底回廊防衛線の最前線で珍しくほとんど何もない毎日がここ二週間で続いていた。普段であれば何処からともなく50は下らない数の魔物――通常冒険者が相手取る、もしくは遭遇するのは多くても10――が部隊長格と共にほぼ定期的に週一で攻め立ててくるのだ。願っても無い平穏ではあるが、交代制で守っている兵士達にすれば不気味で仕方なかった。学者達は冒険者により数が減ったのではないかとも考えているのだが、ここ二週間の間そこまで腕の立つ冒険者や人数は入っていない。入る前には洞窟前の建物で――死んでも名だけは残るように――名前を書かなければ入るための通行証、もしくはギルドカード提示による許可証がもらえないのですぐに調べられる。

 

 

都市では『一気に攻めてくるための、いわば嵐の前の静けさではないか』等と噂が飛び交っている。今では攻撃の前にと店を閉めだす所まである有様だ。念のために兵士により警戒をするように国が出した命令が変な方向にねじ曲がってしまったのだろう。この噂の流れを早々止められないと悟った国は、最前線の兵士とギルドの冒険者からなる偵察隊を地下回廊に派遣する事を決定した。数は合計10人編成。ドワーフ5人の国軍にエルフ2人、人間1人、アルマー1人のパーティ、個人参加でウォルファウンド1人だ。個々の能力は高く、X・SS・S・A・B・C・D・E・Fとランク分けされているギルドでも全員Bランク持ちと言う上級メンバーになる。

 

 

ちなみにアルマ―とは平均身長120cm程度の見た目二足歩行の猫。索敵能力やトラップ解除など手先が器用で何故だか種族全員商売上手。戦闘能力は低いが、その分『1パーティに1アルマー』と言われるほどにその道の能力と宝物発見能力は高い。男女の判断がしにくく、性器の有無か声の高さから判断することが多い。

 

 

そしてウォルファウンドは見た目二足歩行の狼か犬の獣人だ。高い俊敏性と脚力、嗅覚、聴力を持つが同時に弱点にもなりうる。性格的には忠義に篤い者が多く、主と見定めた者には絶対の忠誠を誓うことでも有名だ。その主を探すため、そして自身の武を高めるために部族を出るものも多い。最近では一定の年齢に達したウォルファウンドに対する成人の儀とされていたりもする。また、男女の判断はアルマー同様だ。

 

 

「……見事なまでに出くわさないな」

 

 

「にゃぁ……ざっと見てきた限りにゃと、ここ近辺には姿がにゃいにゃ」

 

 

辺りを警戒しつつ進んでいくも、まったくもって出くわすことがない。アルマーを偵察に出すも、結果は同じ。それがより一層彼らの不安をあおることになるのだが、そこは上級冒険者。長年の経験と実力によってそれらはすぐに心の内に沈められる。それからさらに歩き続けること一時間。警戒を怠ることなく突き進んでいたために多少の疲労感を覚えた彼らは、ようやく広けた場所に到着する。だが、一息つけると思うのもつかの間、辺りを漂う死臭に全員が顔をしかめた。

 

 

「ッ!……おいおい、どんだけ死んでんだよこりゃ」

 

 

「通りで連中が来ないわけだ。こりゃあざと見ても100は下らないぞ?」

 

 

辺り一面に敷き詰められるようにして広がる魔物の死体。真っ赤な肌にしわだらけの醜悪な顔つきをし、鎧と武器を使い軍としてやって来る人型のそれは、ガリアンと呼ばれている。地下都市に攻め込んでくる魔物の6割がガリアンだ。ランクは単体だとDランクに属するが、軍として一個小隊を相手取るとなればC〜Bに上がる。さらにその中に指揮官クラスがおり、数が増えればAランク依頼として扱われることになる。基本的に軍として移動するために単体の依頼は少ないので、ガリアンの相手は大体Cランクの上位の者か、Bランクからになる。

 

 

「これは……見事に一突きで死んでいる。他の死体も急所を突いているものが多い」

 

 

「それに、奴ら自身の武器で死んでるのもいるわ。死に方から見ても腕をひねり上げてそのまま刺した様にしか見えない。もしこの数の混戦状態のままこれをやってのけたのなら、相当な手練れとみて間違いないでしょうね。首ごと証明部位の兜が持ち去られてるんだから、冒険者じゃないかとは思うけど……」

 

 

「……もしかして、これ全部一人でやってのけたのかにゃー?」

 

 

「んな馬鹿な!この数だぞ?それこそSSランク位じゃねぇとこんな芸当出来るわけねぇよ。でも、そんな高ランク持ちが入った記録はなかったし、連続してこの場所で戦闘があったんじゃねえの?」

 

 

「そうかのぅ?」

 

 

それを踏まえて、この場所を見てみよう。周りには100以上のガリアンが横たわっており、中には部隊長クラス・指揮官クラスも見受けられる。証明部位となる首から上が持ち去られていることから高ランクの冒険者によるものではないかとエルフとアルマー、ウォルファウンド、一部ドワーフは推理するも、他のメンバーはそんなはずはないと反論する。そしてこのまま話していても仕方がないと、しばらくの間死体や周辺の探索をするが、出てきたのは真新しい肉の骨らしきものと果物の芯だけ。とりあえず誰かがいるということはわかったものの、それが地下都市や自分達に害を為すのか否かがわからない。そのため前に進もうとしたとき、ウォルファウンドの耳と鼻がピクリと動いた。

 

 

「金属音と新しい血の匂い……何かが、いや、誰かが争っている?」

 

 

「……何も聞こえないぞ?本当か?」

 

 

「お主のような人間にはわからないだろうが、ウォルファウンドの聴覚と嗅覚は信用に値する。そんなことも知らんのか?」

 

 

「し、知ってたさ!さ、さっさと行こうぜ!」

 

 

誤魔化すように即座に移動した人間の青年にドワーフ達とウォルファウンドの男は軽くため息をついた。彼のパーティメンバーの三人はいつものことだと言わんばかりに少しばかり気恥ずかしそうにしながらもそれに着いていく。なんだかなぁ、と今までの雰囲気を崩された様に感じつつ、一同は小走りで移動を開始した。

説明
何かと不幸な人生をイケメンハーレムの友人のせいで送ってきた主人公、漣海人。しかも最後はその友人によって殺され、それを哀れんだ神達は力を与えて異世界へと飛ばしてくれた!!とにかく作者の好きなものを入れて書く小説です。技とか物とかそういう何でも出てくるような物やチートが苦手な方はご注意を。
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