fate imaginary unit 第十話 |
「チッ」
ガブリイル・アダモフは地面に向かって唾を吐く。
油断していた。
流石英霊。
かなり離れていた距離から見ていたはずなのに気付かれた。
マスターの方には全く気付かれていなかったのでこれは早々に決まるかと思ったがどうも上手くいかないものだ。
アダモフはポケットからドロップを取り出し、口に含むと味を感じる間もなくガリガリと噛み砕く。
アダモフの風貌はこの時期の冬木においてはそれなりに目を惹くのだろう。
たまにすれ違う人々の視線を感じる。
中には殺気の籠った視線を送ってくる者もいた。
しかし、アダモフはその視線を気にすることなく歩きだした。
「全ては、ツァーリの勝利の為だ……」
誰に言うのでもなくそう呟くと、アダモフは古びた家屋の中に足を踏み入れた。
「ツァーリ。やはりこの闘い一筋縄ではいかないようです」
アダモフが恭しく頭を下げたその先には皇帝がいた。
正確には皇帝だった人間が自分で作ったのか豪奢な椅子に座ってアダモフを見下ろしていた。
その威厳はこの古びた家屋でさえ衰える様子はなかった。
「そうかそうか。分かった。御苦労だった」
彼はおもむろに椅子を離れると外を見るように窓に目をやった。
「この冬木という地まだ見知らぬ土地ではあるが、どうにも持っている魔力が他の街に比べて幾分か高いようだ。これならば、結界を作ることも造作ない」
クククと笑いを噛み殺したような声を上げた。
「しかし、ツァーリがキャスターのようなクラスで召喚されるとは思ってもみなかったです」
アダモフがそう言うと、キャスターは口を歪めた。
「どうにも、他のクラスも埋まっておったし、一応儂は一時期魔術の類に興味を持ったことがあってな」
あれは余りにも短い期間だったから史実を読んでも出てこないだろうな。とキャスターは答えた。
「それは、我が先祖代々に伝わる書物に書かれておりました。『我がツァーリ――イヴァン4世は死刑にした人間の体を使って新しい人間を精製する術などを一部に人間に研究させ、自ら使用してオプリーチ二ナに活用したと』」
アダモフの言葉を聞くとキャスターは物凄く愉快そうにハハハと声を出して笑った。
そして昔を懐かしむように遠い目をした。
「そうか。アダモフ。貴様は儂の部下であったアイツの子孫にあたるのか。言われてみればなるほど確かに目つきと体つきは似ているな。違うのは服装くらいか」
恐縮です。とアダモフは頭を下げた。
「しかしアダモフよ。その言葉は少し先があってな。あの時の儂はだな、魂の方も拷問してみたくなってな。『死』という心臓や脳が止まって我が責め苦が終わってしまうのはなんとも興ざめでな。そちらの方も研究させていたぞ」
結果は微妙だったがな。とキャスターは苦虫を噛み潰したような顔をした。
そんなキャスターに向かってアダモフは自らの銃を携えて言葉を発した。
「これさえあれば、ツァーリの手を煩わせることすらありません」
「ふむ……」
キャスターは何かを考えるように顎に手を置いていたが、やがてアダモフを見据えた。
「アダモフよ。貴様はマスターだけ狙え」
「と仰いますと?」
「ふむ。まず第一にこれは貴様も知っているだろうが、儂らサーヴァントは大抵の攻撃は効かぬ。それに当たったとしても大した効果は得られない。それに比べてマスターはただの人間。当たる所にもよるが銃弾一発で仕留められる」
「なるほど……」
「第二に、と言ってもこれが主たる理由なのだが……。お前が倒してしまっては儂が殺せないじゃないか」
「これは失礼しました」
英霊というものはそういう悲鳴を上げるのだろうな。
キャスターは豪快に笑うと霊体化して姿を消した。
説明 | ||
聖杯戦争は別にサーヴァント同士を戦わせる必要はない。 むしろマスターを殺してしまった方が効率がよい。 そう考えていた青年がいた。 |
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二次創作 第三次聖杯戦争 Fate | ||
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