英雄伝説〜光と闇の軌跡〜 213 |
グランセル城に到着したエステル達はまずヒルダと女王に尋ねる事にし、予定外の客達――現メンフィル皇帝、シルヴァン達の歓迎パーティーの準備で忙しく駆け回っていたメイド――シアを見つけ、ヒルダの居場所を聞いた後、ヒルダがいる広間に向かった。
〜グランセル城内・1階広間〜
「クローディア様!?それにエステルさんも……」
クロ―ゼとエステルに気付いた女官長――ヒルダは驚いた。
「ヒルダさん。ただいま戻りました。」
「えっと、お久しぶりです。」
「ええ、本当に……。姫様がエステル殿に協力なさっていることは私も存じ上げております。2人とも……ご無事で何よりでした。」
変わらず元気の様子のエステル達を見てヒルダは微笑んだ。
「ヒルダさん……」
「ふふ、ありがとう。実はここに戻ってきたのはギルドの調査を兼ねてなんです。メンフィルの王様達を歓迎するパーティーの準備で忙しいと思うのですけど、ヒルダさんに少々お聞きしたいことがありまして。」
「私でよければ何なりと。ただ、エステルさんの申しました通りあまり時間がとれないので、そこはご了承下さい。………ここで話すのはいささか人の目がありますね。客室を使わせていただきましょう。」
ヒルダの提案に頷いたエステル達はヒルダと共に客室に向かった。
〜グランセル城内・客室〜
「なるほど……。例の脅迫状の調査をなさっているのですか。では、お知りになりたいのは犯人の心当たりでしょうか?」
エステル達から脅迫状の件を聞いたヒルダはエステル達に確認した。
「はい、正にそれです。とりあえず脅迫状の届いた所を一通り回ってみることになって……」
「それはご苦労様です。ですが、心当たりといってもさすがに見当も付きませんわね。城の人間がやったのではないことだけは自信をもって断言できますが……」
「うーん、やっぱりそうよね。」
「城に届いた脅迫状は誰に宛てたものだったのですか?シード中佐は王家宛とおっしゃっていましたが………」
ヒルダの話を聞いたエステルは唸りながら頷き、クロ―ゼは心配そうな表情で尋ねた。
「恐れながら女王陛下に宛てたものでした。陛下宛ての不審な手紙は検(あらた)めさせていただいていますから私も内容は存じております。まったく、恐れも知らぬ不届き者がいたものですね。」
「ちょいと失礼……。他に、城に届けられた手紙で不審なものはありませんでしたかね。王室に対する批判めいた内容の文書とか。」
「それは……」
ジンの質問にヒルダは言葉を濁したが
「ヒルダさん。私の方からもお願いします。できるだけ多くの判断材料が欲しいんです。」
「そこまで仰られるなら……。幾つか無記名の文書が届いているのは事実です。ただ、王室に対する批判というものではありません。リシャール大佐の減刑を嘆願するものが多いですわね。おそらく一部の王都市民によるものではないかと……」
リベール王女であるクロ―ゼの頼みを聞き、ヒルダは答えた。
「そ、そうなんだ……」
「ふむ、さすがボクがかつてライバルと目した人物だ。逮捕されてもなお人気とはね。」
ヒルダの話を聞き、クーデターの犯人だったリシャールが未だに人気がある事を知ったエステルは驚き、オリビエは感心しながら頷いた。
「大佐が有能な人物であったのは誰もが認める所でしょうから……。それを惜しむ人がいても何ら不思議ではないでしょうね。」
「しかし、そうした手紙と脅迫状は関係なさそうですな。どうやら王室を動かすことが目的というわけではなさそうだ。」
「うーん、それが分かっただけでも良しとしますか。そうそう、ヒルダさん。もう1つ聞きたいことがあるんですけど……」
そしてエステルはレンの両親の事を尋ねた。
「クロスベルの貿易商、ハロルド・ヘイワーズ……。ええ、存じていますわ。」
「ええっ!?」
「ヒルダさんのお知り合いですか?」
ヒルダの答えを聞いたエステルは驚き、クロ―ゼも驚きながら尋ねた。
「いえ、2日ほど前に城内の見学を希望された方です。たまたま手が空いておりましたので私が案内させていただきました。確かに、奥様とお嬢様をお連れになっていましたね。」
「そ、そういうことね……」
「両親がどこに行ったかの手がかりにはならなさそうだね。」
重要な手掛かりにはならなかった事にエステルは苦笑し、オリビエは頷いた。
「ただ……少々気になることが。」
「気になること?」
ヒルダが真剣な表情で語った言葉にエステルは首を傾げた。
「お嬢様の方は、とても楽しげに見学してらっしゃったのですが……それと対照的に、ご両親の方は心ここに在らずといった雰囲気でした。私と話すときは普通にしていましたが多分、無理をしていたのかもしれません。」
「ここを初めて見学したにも関わらず心ここに在らずという雰囲気か……。悩みごとがあった可能性は高そうだな。」
「そうですね……。その時点で、何かのトラブルに巻き込まれていたのかもしれません。」
「ふむ、そのあたりに行方を捜す手がかりがあるのかもしれないね。」
ヒルダの話を聞いたジン、クロ―ゼ、オリビエはそれぞれ意見を言った。
「ヒルダさん、ありがとう。結構いいヒントを聞かせてもらっちゃいました。」
「それはようございました。ところで姫様、それに皆様……。今夜は当然、グランセル城にお泊りになられるのですよね?」
「へっ……?」
ヒルダの質問にエステルは驚いた後、首を傾げた。
「私はシルヴァン皇帝陛下達にお祖母様と共に応対する必要もありますから、王都に滞在している間はやっかいになるつもりですが……。皆さんはどうなさいますか?」
ヒルダの質問に答えたクロ―ゼはエステル達を見て、尋ねた。
「先ほど言ったようにボクはエレボニア大使館でやっかいになるつもりでね。ご好意だけ受け取っておくよ。」
「俺もカルバード大使館に泊まらせてもらうつもりだ。謹んで辞退させてもらおう。」
「うーん、あたしはアガットとティータ、ミントにも相談してみないと…………レンちゃんの事もあるしね。」
「そうでしたね………」
オリビエ達の答えを聞いたクロ―ゼは納得して、頷いた。
「それでは、いつお泊りになって頂いても構わないようお部屋の準備をさせて頂きます。」
「ありがとう、ヒルダさん。」
「よろしくお願いします。」
「お任せください。私は歓迎パーティーの準備に戻りますが皆さんはどうぞごゆっくりなさってください。それでは失礼します。」
そしてヒルダは客室を出て行った。
「さてと……。次は女王様に会わなくちゃ。女王宮にいらっしゃるんだっけ?」
「はい、多分そちらだと思います。」
「フッ、それでは挨拶させていただこうか。」
そしてエステル達はアリシア女王に話を聞くために女王宮に向かった。
〜女王宮・テラス〜
「ふふ……。やっと来てくれましたね。」
エステル達が女王がいるテラスに来るとリベールの女王――アリシア女王は微笑みながら、エステル達の方に振りむいた。
「へ……」
「お祖母様……?」
自分達が来る事をわかっていた様子の女王にエステルとクロ―ゼは驚いた。
「ピューイ!」
「あれ、ジーク?」
「なるほど……。ふふ、ジークが気を利かせてくれたんですね。」
自分達が来る事を知っていた理由がジークと気付いたクロ―ゼは微笑んだ。
「ええ、貴方たちが来ることを教えてくれました。お帰りなさい、クローディア。そしてエステルさん……よく来てくださいましたね。事情はカシウス殿から一通り聞かせてもらいました。本当に……色々と大変でしたね。」
「あ……。えへへ、気遣っていただいてどうもありがとうございます。でも、やるべき事は見えているしクローゼたちも助けてくれています。だから、あたしは大丈夫です。」
女王に気遣われたエステルは恥ずかしそうに笑いながら答えた。
「そう……。ふふ、しばらく見ないうちに本当に頼もしくなりましたね。…………オリビエさんもジンさんもようこそいらっしゃいました。どうぞ、部屋にお戻りください。紅茶の用意をさせてもらいます。」
そしてエステル達は女王と共に女王の私室に向かった。
〜女王宮・アリシア女王の私室〜
「そう……。脅迫状の件で来たのですか。まさか、各国の大使館や教会にまで届いていたとは……。単なる悪戯とは思えなくなってきましたね。」
エステル達から事情を聞いた女王は真剣な表情で答えた。
「はい、そうなんです。そこで、関係者から話を聞いて脅迫犯についての目星をつけようということになって……」
「お祖母様は、今回の件に関して何か心当たりはありませんか?特に国内に関してですけど……」
「そうですね……。クローディア。あなた自身はどう思いますか?」
クロ―ゼの質問に対し、女王は逆にクロ―ゼに問い返した。
「私……ですか?」
「あなたも王位継承者ならば日頃から国内情勢について考えを巡らせているはず……。それを聞かせてもらえますか?」
「は、はい……。………………………………」
女王に言われたクロ―ゼは頷いた後、しばらくの間考え、そして答えを言った。
「不戦条約そのものに関して国内で反対する勢力はほとんどないと思います。ですが、クーデター事件後、極右勢力が追い詰められているという話を聞いたことがあります。それが脅迫状という形で現れた可能性はあるかもしれません。」
「ふふ……さすがね。私の意見も大体同じです。」
クロ―ゼの答えに満足した女王は頷いた。
「えっと、どういう事ですか?」
話を理解できないエステルは尋ねた。
「リシャール大佐以外にも軍拡を主張していた人々は少なくありませんでした。ですがクーデター事件後、そうした主張は完全に封じられた形になっています。さぞかし不安と不満を募らせていることでしょうね。」
「えっと、要するに……リシャール大佐以外の軍拡主義者の嫌がらせですか?」
「そう言っても差し支えないかもしれません。もしそうだとしたら……それは彼らの罪というより他ならぬ私の責任でしょうね。リベールでは言論の自由が認められているのですから……」
エステルの質問に答えた女王は辛そうな表情で答えた。
「お祖母様……」
「あんまり同情する必要ないと思うんですけど……」
「いえ、言論の自由というものは何よりも増して貴いものです。軍拡論にしても、愛国の精神から来ているのは間違いありません。そうしたものをすべて検討しつつ国の舵取りをしていくこと……。それが国家元首の責任なのです。」
女王は真剣な表情でエステル達に語った。
「………………………………」
その様子をクローゼは黙って見ていた。
「ふむ、しかしそうなると……実際に条約が阻止される危険は低いということですかね?」
「脅迫犯が軍拡主義者ならばそう言えるかもしれませんね。リシャール大佐が逮捕された今、彼らに事を起こす力はありません。問題は、それ以外の人間が脅迫犯だった場合なのですが……。その可能性については私にも見当がついていない状況です。」
ジンの質問に答えた女王は目を伏せて、犯人に目星がつかない事を語った。
「そうですか……」
「アリシア女王。1つお聞きしてもよろしいか?」
「ええ、何なりと。」
そこにオリビエが女王に尋ね、尋ねられた女王は頷いた。
「陛下はなぜ、今この時期に不戦条約を提唱されたのですか?何しろクーデター事件の混乱も完全に収まりきってはいない状況だ。今は国外よりも国内のみに目を向けるべきだと思うのですが。」
「ちょっとオリビエ……」
オリビエの際どい質問にエステルはオリビエをジト目で睨んで注意した。
「ふふ、オリビエさんの仰る通りかもしれませんね。ですが不戦条約に関してはクーデター事件よりも以前に三国の政府に打診していました。それを遅らせたとあっては国家の威信にも関わるでしょう。それに『クロスベル問題』も再び加熱しているようですしね。」
「ほう……」
「クロスベルって……レンちゃんの住んでる自治州?」
女王の答えを聞いたオリビエは感心した声を出し、エステルはある土地名が出た事に驚いた後、尋ねた。
「ええ、エレボニアとカルバードの中間に存在している自治州です。近年、この自治州の帰属を巡って両国は激しく対立してきました。」
「ま、帝国と共和国のノドに刺さった魚の骨みたいなもんだ。それに関するイザコザをひっくるめて『クロスベル問題』って言われている。」
「そっか……そういう場所だったんだ。」
女王とジンの説明を聞いたエステルは納得した。
「つまり、不戦条約を通じてリベールが魚の骨を抜く……。それを狙ってらっしゃるのですね。」
そしてオリビエは感心した様子で尋ねた。
「一朝一夕に片づく問題ではないでしょう。ただ、そのきっかけを提供できればと思っていました。そしてそれは、大陸西部の安定とリベールの発言権を高めることにも繋がるはずです。」
「フッ、お見それしました。どうやらリベール侵攻は想像以上の愚行だったらしい。それを改めて痛感しましたよ。」
「今さら何を言ってるんだか……。あ、そうだ。ちょっと話は変わりますけど。」
オリビエの発言に呆れたエステルだったが、レンの両親の事を女王に説明した。
「まあ……そんなことが。」
「さすがに女王様には心当たりはないですよねぇ?」
話を聞き、驚いている様子の女王にエステルは確認した。
「ええ……申しわけありませんが……。グランセル城を訪ねていたらヒルダ夫人が知っていると思いますが……もう訪ねてみましたか?」
「はい……」
「ヒルダさんにも心当たりはないそうです。」
「そうですか……。お望みでしたら、クロスベルの自治政府に連絡を取りましょう。いつでも相談してください」
「あ……はい!」
女王の心強い言葉にエステルは明るい表情で頷いた。
「………それにしても”レン”ですか……………………」
しかしその後、女王はレンの名前を口にし、考え込んだ。
「……あの〜。実はカルバードの大使さんもレンちゃんの事をどこかで知っている風な様子だったんです。もしかして女王様もどこかで聞いた事があるんですか?」
「………はい。ただ、お恥ずかしながらどこで知ったのか思い出せないのです。………聞き覚えがあるのは確かなんですが………恐らく、数年前にその名を聞いた事があるような気がするんです………」
「そうですか………あ、そうだ。実は女王様にお願いしたい事がありまして。」
女王の答えを聞いたエステルは肩を落とした後、ある事を女王に頼もうとした。
「何でしょう?私で協力出来る事があるのでしたら、協力しますが。」
「えっと…………今、お城にいるお客さん………リフィアのご両親――シルヴァン皇帝陛下かカミ―リ皇妃に会えないでしょうか?」
「………………なるほど。確かにシルヴァン皇帝陛下宛にも届きましたから、直接聞く必要がありますね。………必ず会えると保証はできませんが、できる限りの事はやってみます。少し待っていて下さい。」
そして女王はヒルダを呼び、ヒルダに伝言を伝えた後、ヒルダが戻って来るまでエステル達を自分の私室に待たせ、待っている間、紅茶を淹れなおした。
「そう言えば、メンフィルの今の王様とお妃様ってどんな人なんですか?」
ヒルダが戻って来るまで紅茶を楽しんでいたエステルは唐突に尋ねた。
「………シルヴァン皇帝陛下とカミ―リ皇妃ですね。………まず、カミ―リ皇妃ですが……やはりお母上似なのか、容姿もそうですが、性格もどことなくカーリアン殿に似ていました。」
「フッ………あの美しく、扇情的な”戦妃”のご息女となると、さぞかしすばらしい女性だろうね♪会うのが楽しみになって来たよ♪」
女王の話を聞いたオリビエはカミ―リの姿を妄想して、表情を緩めた。
「頼むから、いつもの調子で声をかけるのだけはやめてくれよ………国際問題になっちまう。」
「そうね!しっかり見張っとかないと!」
「あ、あはは………それでお祖母様。シルヴァン皇帝陛下はどのような方なんですか?」
オリビエの様子を見てジンは溜息を吐いて注意し、エステルはジンの言葉に大きく頷き、クロ―ゼは何も言えず苦笑した後、女王に尋ねた。
「今までその名しか知られていなかった現メンフィル皇帝、シルヴァン皇帝陛下ですが………さすがはリウイ皇帝陛下の血を引くご子息と言った所でした。礼儀正しい方ですが………若々しい方ですがどことなく”覇気”を感じました。それと夫妻揃って帯剣している所を見ると、武の腕に相当の自信があるようにも感じられました。」
「へっ!?王様とお妃様なのに武器を装備しているの!?」
「ふむ。両親達があれだけ強いのだから、その子供達が強くてもおかしくはないか。」
「さすがは”大陸最強”を誇る国の王と妃と言ったところかな。」
「そうですね………さすがは”剣皇”と謳われるリウイ皇帝陛下のご子息とご息女ですね………プリネさんやリフィアさんのように武の腕も相当なのでしょうね………」
女王の話を聞き、シルヴァン達が武器を装備している事にエステルは驚き、ジンやオリビエ、クロ―ゼは納得した。
「ご歓談中ですが、失礼します……」
その時ヒルダが戻って来た。
「ヒルダ夫人。シルヴァン陛下達はなんと?」
戻って来たヒルダに女王は尋ねた。
「はい。最初は乗り気でないご様子でしたが、みなさんの名前――エステルさんの名前を出しますと陛下達はぜひにと、エステルさんに会う事を希望されました。」
「へっ!?な、なんでメンフィルの王様とお妃様があたしなんかに会いたいの!?」
ヒルダの話を聞いたエステルは驚いて尋ねた。
「フフ………正遊撃士になる為の旅でリフィアさんとプリネさんがお世話になったから親として………兄姉として挨拶をしておきたいのかもしれませんね。」
「あ、なるほど。………それにしてもリフィアの両親か。………うん、なんだか会うのが楽しみになって来たわ!………それじゃあ、女王様。あたし達はこれで失礼します。」
「はい。………クロ―ディア。陛下達に失礼のないようにね。」
「はい、お祖母様。」
そしてエステル達はヒルダの案内によって、シルヴァン達が滞在しているグランセル城の離宮に向かった………
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