SAO 奇跡を掴む剛腕 『SAO record 06』 |
迷宮区へ続く森の中、『軍』を見つけ、隠れて様子を見ていたテラス達は、彼らがその場を通り過ぎた後、何故こんな上層に軍が来ているかを話し合った。
そこで、一番有力な説が一つ浮かび上がる。
あくまで噂話程度だったそれは、軍のギルド方針変更だ。アスナとテラスのギルド、血盟騎士団の例会にて二人が聞いた話では、今までのように大人数で挑んで混乱を招くよりも、少数精鋭の高レベルプレイヤーの小隊を作り、その戦果でクリアへの意思を示すと言う方針ということらしい。そして、そろそろその第一陣が出てくるかもしれない、という報告もあったそうだ。
しかし、未踏破の層に挑戦しに来るのはいささか無謀ではあった。
ただの冒険程度ならまだわかる。だが、あの様子を見た限りでは冒険だけでは済みそうにない。レベルはそこそこ高そうには見えるが、あの人数ではボスモンスター攻略は到底無理だ。
確かに、ボスモンスターの討伐を成功させれば、宣伝効果は抜群だ。しかし、ここ七十四層のボスモンスターの姿を見た者は、血盟騎士団はおろか、他のギルド、ソロプレイヤーにもだれ一人いないだろう。それを踏まえて考えると、はっきり言ってしまえば『無謀』の一言だ。
通常、ボスモンスター攻略と言うものは、偵察に偵察を重ね、何度もちょっかいをかけながらその行動パターンを把握し、その戦力と傾向を確認して、弱点と要注意点をまとめた後、高レベルなプレイヤーの巨大パーティーを募り、ようやく挑むものなのだ。その常識的なことをせず、攻略に挑もうと言うのだから、無謀以外の何があると言うのだろうか。もっと言ってしまえば、この層のマッピングさえも話っていないのだ。
不安になったテラスだが、彼らがバカで無謀じゃないと言うことは理解していたため、自分たちも迷宮区へ行こうと諭す。二人もすぐに納得したか、すぐさま迷宮区へ向かった。
sideout
デモニッシュ・サーヴァントを倒した後、その前に戦っていたのと合わせ、合計五回ほどモンスターに遭遇したが、全員ほぼノーダメージで切り抜けてきた。
大技を何発も連続して使うキリトのスタイルと、アスナの少、中の多段攻撃のスタイルのアスナ。その二つを併せ持つように、長剣の連撃からの大技を好むテラスのスタイル。三人の戦い方はミスマッチにも思えたが、以外にも息ぴったりであった。
通常の一撃の威力に長けたテラスが敵の攻撃を弾き、大技を入れた後はキリトの大技連発か、アスナの高速多段攻撃が続く。さらに、その二人のどちらかの後に再びテラスが入り、同じように敵の攻撃を弾くことで、ほぼ相手の動きを完封できるのだ。
一番テラスが多く働いている分、二人は戦利品であるアイテムの分配は3・3・4と、必ずテラスに多く分け与えている。これは、この冒険を提案してくれたお礼でもあり、今回一番頑張ってくれているお礼でもあった。アスナいわく、テラスは「ガンバリ屋さん」で、弟みたいに思えるらしい。キリトも、これには少しばかし同意してくれた。
「いいなぁ、片手剣の上位スキル・・・」
「ん?お前、まだ使えないのか?」
「えっと・・・まぁ、はい」
不意にテラスが呟いた言葉に反応してしまうキリト。渋った顔でそれを認めたテラスの表情を見たキリトは、数秒の間をおいた後、ようやくその表情の理由を理解した。
「そっか。テラスは攻撃系統のスキル、三つ同時並行だもんな」
「き、気にしないでください!一つに絞り切れない僕が悪いんですから!」
「でもよ、『連結』のユニークスキルは、片手剣と両手剣のスキルも使えるんだろ?どれか一つが滞ってもおかしくはないって」
テラスのユニークスキル『連結』は、キリトの言葉通りに『片手剣』と『両手剣』の二つのスキルも使えるようになると言う破格のスキルなのだが、当然それは熟練度に比例する。
三つを同時並行であげて行くと言うのであるならば、ギルドに入らずキリトのようにソロでやるのが効率が良いだろう。でなければ、今のテラスのように、どれか一つが滞り、そのスキルの威力だけが低いままとなってしまう。そのことを瞬時に理解したキリトは、とても頭の回転が速いのだなとテラスは思っていた。
横にいるアスナは何も言わない。いつも自分のことを手伝ってくれるのに、逆に手伝ってあげられなかったからだ。本人が気にしないで、と言っても、アスナは性格上気にしてしまう。だからか、今はキリトに任せようと思ったようだ。
「一つ聞くけど、まともに使えんのは?」
「えっと、両手剣だけです。もともと、両手剣使いから長剣使いになったので、片手剣のスキルはあげてなくて・・・連結のスキルもあげないといけないから、大変で」
「ちょっと見せてみろ。俺、片手剣スキルは完全習得してるからよ」
「えぇっ」
「いいから、ほら」
「は、はい・・・」
押し切られたテラスはメニューウィンドウを開く。ありえないぐらい速く指を動かすのを見た後、それに驚きながらもキリトはテラスのステータスを謝りを入れながら拝見した。
やはり筋力値よりの能力構成は戦闘から見てとれたが、それに対する敏捷値の高さには驚かされた。装備品をまともにつけず、防具もすらもまともに付けていないテラスの防御力は、武器防御に依存していることが良くわかる。背中や腰辺りに鞘を見ないことから、ストレージ内からの早抜きでいつもやっているのだろうと、これもまたすぐに理解した。
そして、肝心なスキルの部分。ある程度まであげられた『索敵』に、完全習得された『投剣』。同じように完全習得された『武器防御』と、上位技が使えるのが『両手剣』のスキルだけだった。案の定、『連結』と『片手剣』のスキルは、完全習得まで長い道のりを示している。
強いて言うのであるならば、片手剣よりも連結のスキルの方が上だ。一週間ほどソロで潜っていれば、もしかしたら上位技が使えるぐらいにまではなるかもしれない。あくまでその程度としか言えいが、今のテラスにとってはいい方なのだろう。
この能力構成にキリトは、投剣を完全習得してしまったせいだと判断した。いや、どちらかと言うと連結のスキルのせいと言った方が良い。
もし、このままテラスが両手剣使いのままであるならば、相当な実力者になっていただろう。遠距離からの投剣で牽制しつつ、重い両手剣での威力の高い一撃。典型的ではあるが、実はそれが一番強い。テラスのこの中途半端な能力構成に、流石のキリトも頭を抱えてしまった。
「まぁ、何だ。無責任だと思うが、頑張れとしか言えないな」
「あ、いえ。僕、中途半端ですから・・・現実でも」
最後にぼそりとつぶやいた言葉に、キリトは反応しなかった。聞こえなかったのかなとテラスは一人納得するが、それが本当かどうかは定かではない。だが、あまり気にしていない様子なので、聞こえてはなさそうだった。
「あ・・・」
歩いていた足を止める。
目の前にあった大きな扉は、今までの層にあったボス部屋の扉に良く似ている。そして、何とも言葉にするのが難しい妖気が湧きあがっているように感じられることから、この扉がボス部屋のものだとすぐに理解した。
「の、覗いてみます・・・?」
「ボスモンスターはその守護する部屋から絶対に外に出ない。覗くだけなら問題ないだろうな・・・たぶん」
「え、えぇっ!?さ、最後に不安な言葉を付け足さないでくださいっ!!」
「ま、まぁまぁ。とりあえず、開けてみましょう」
「うぅ・・・わかりました」
「一応、転移アイテムを用意しておこう」
全員が手に転移アイテムを持ったのを確認すると、テラスは手に力を込め、ゆっくりとその扉を開いた。
ゴゴゴ・・・ともぎぃ・・・っ、とも、まったくと言っていいほど音も出ず、滑らかに動いた扉の奥は暗闇だった。いくら目を凝らしても、いくら目をこすって手も何も見えない。もしかしたら、ボス部屋じゃないんじゃないか。そう発言しようと、テラスが口を開いた時だ。
突然、扉から少し離れた床の両端に、小さくボッと青白い炎が浮かび上がった。思わずぎょっと驚いてしまうテラスに、後ろで同じように驚いているアスナとキリト。
そしてまた一組。さらにまた一組と、炎の列は続いて行く。ボボボと、たちまち部屋全体は青白い炎の光に包まれた。そしてついに、この部屋の主と呼べるモンスターの姿が見えてしまった。
見上げるほど大きな巨体に、全身が盛り上がった筋肉に包まれている。肌の色は周囲の色に負けないほどの他い青。一瞬、紫に見えなかったこともないが青だ。そして肝心な顔は、骸骨でもなければ変なモンスターでもない。ヤギだった。
顔の側面から突き出ているぐにゃりと曲がった太い角。眼は怖いぐらい青白く光っており、こちらをしっかりととらえている。それは、口をあんぐり開けて呆然としているテラスを見下しているようにも見えた。
ヤギ顔の悪魔型モンスターと自分たちまで距離までがあるのに、テラス達は足がすくんだように動けなかった。例えをあげるとするならば、蛇に睨まれた蛙だろうか。そんなことを考えるテラスの頭は、ずしんとモンスターが踏みだした大きな一歩の足音で一気に真っ白になる。
そして――――
「う」
「「っ?」」
「うわああああぁぁぁぁっっっ!!!!出たあああぁぁぁぁっっっ!!!!」
振り返ると同時に二人の手をつかみ、大きな悲鳴を上げながら逃げ出した。
説明 | ||
HPが0になることは死を意味するデスゲーム『ソードアート・オンライン』。 攻略ギルド『KoB』に所属する主人公テラスは、『剛腕』の異名とともにアインクラッド攻略を目指す。 |
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