真・恋姫†無双〜だけど涙が出ちゃう男の娘だもん〜[第26話]
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真・恋姫?無双〜だけど涙が出ちゃう男の((娘|こ))だもん〜

 

[第26話]

 

 

「え〜と、楽文謙だったよね? 何か、ボクに用でもあるのかな?」

 

ボクは、目の前で((熱|いき))り立って((睨|にら))めつけている楽進に問いかけました。

彼女は何を怒っているのでしょうか?

ボク自身には身に覚えが無く、ちょっと困惑していました。

 

「真桜のことです」

「真桜のこと?」

「そうです。真桜が貴方の旗下に加わったと聞きました。それを取り消して下さい」

 

楽進は李典から経緯を聞いて、ここに来たみたいです。

でも、それが何故怒る理由になるのかボクには理解出来ませんでした。

 

「なんで?」

「卑怯では、ありませんか!」

「……卑怯?」

「村を救って欲しいと云う、人の弱みにつけ込んだのです。卑怯以外の何物でも無いでしょう!」

 

どうやら楽進は、ボクが無理やり李典を配下にしたと思っているようでした。

そうだとすると、彼女自身は曹操に仕えている訳では無いのでしょうか?

でも、人材収集マニアこと曹操が勧誘しなかったとは考えられません。

ボクは不思議に思って楽進に聞いてみる事にしました。

 

「君は華琳…曹孟徳に仕えている訳ではなの? 勧誘されなかったのかな?」

「……勧誘は、されました。ですが。孟徳さまは、わたしを((慮|おもんばか))って下さって、事が済んでから答えを聞くと言って下さいました」

 

ボクは、やっと楽進の心情が理解出来ました。

彼女にとって曹操は、自分の意を((汲|く))んでくれた恩人。

一方、ボクは人の弱みに付け込む卑劣漢。

そんな風に思っているのかもしれないと。

 

「つまり君にとってボクは、真桜の弱みに付け込んで((誑|たぶら))かした極悪人という訳だ……」

「……」

「そして。そんな極悪人に大事な友達は任せられないから真桜を自由にして欲しいと、そう言いたい訳?」

「……そうです」

 

ボクの自身を非難するかのような物言いに、楽進は少し気((拙|まず))くなったようでした。

勢い勇んで乗り込んで来てみたものの、やはり緊張しているのでしょう。

普通の感覚を持つ者ならば、王位についている者に((此処|ここ))まで言えるだけでも凄い事です。

それだけ李典に対する思いが強いのかもしれませんね。

だから、ボクは自分の考えを楽進に話してみようと思いました。

 

「まず、誤解があるとイケ無いから断わっておくけど、ボクは真桜が配下になってくれた事に感謝しているし、これからも共にあって欲しいと思っている。それは彼女だけで無く、他の将軍たちにも言える事だけどね」

 

「……」

 

「だけど、ボクは勧誘を強要した事は一度も無いし、付け込んだ事も無い。そして、皆がボクの元から去る事に反対もしない。もちろん、留意を((促|うな))がす事はするけどね。だって、ボクは共にあって欲しいから」

 

楽進は((訝|いぶか))しげにボクの話しを聞いていました。

ボクは、そのまま話し続けます。

 

「ボクたちは、自分の在り方を自身で決める事が出来る。そして、ボクは自分の思いだけが正しいからと、他のモノに自分の思いを受け入れるように強要や強制をしたりはしない」

 

楽進の友達を思う気持ちは((称賛|しょうさん))に値しますが、自身の思いを強要するのは頂けません。

ボクは彼女に、それを伝えようと思いました。

 

「……何を言っているのですか? そんな風に言って、はぐらかさないで下さい!」

「別に、はぐらかしている訳では無いよ? 君が思い違いをしているみたいだから、説明しているのさ」

「わたしの((何処|どこ))が、間違っていると言うのですか!」

「君は、せっかちさんだねぇ。間違っているのでは無くて、思い違いだよ。ボクは君の考えを否定したりしていないから、悪く取らないで欲しいなぁ。ね?」

 

楽進は潔癖症なのか、物事の白黒をハッキリさせたがる性質の持ち主のようでした。

第一印象が悪いせいなのかも知れませんが、ボクの言葉を悪く取るのは勘弁して欲しいものです。

それを指摘すると楽進は黙ってしまって、更に((羞恥心|しゅうちしん))の為か少し顔を赤らめてしまいました。

 

「大抵の人達は君と同じように自分の考えだけが正しいと思って、それを他のモノに押し付けて強要する。それが当たり前だと思ってしまっている。

 でもそれは、自身の“権利”を明け渡してしまう行為に他ならない。何故なら、自分の考えを他のモノに承認して貰わなければ満足出来ないという事だから」

 

楽進はボクの話しを聞いて、訝しげな表情を見せました。

ボクは続けて話していきます。

 

「それは、自分だけでは幸せになれないと思っているという事。

 相手に間違っていると認めさせて屈辱感を与え、自分の考えを受け入れさせたと云う優越感を感じる事でしか幸せを感じられないという事だからね」

 

「……」

 

「でも、多くの人達が思っている正しい事とは、“自身にとって((都合|つごう))の良い事実”でしか無いし、悪い事とは“自身にとって都合の悪い事実”にしか過ぎない。ときに自分を悪く言う人がいるけれど、それは、その方が自身にとって都合が良いからであって、本当に悪いと思って言っている訳ではない。

 そんなモノを押し付け合えば、当然の((如|ごと))く言い争いが起こるし、長じては戦争になる。今の君と、ボクのようにね」

 

ボクが楽進の瞳を見詰めると、彼女は目を背けてしまいました。

少し((気拙|きまず))そうです。

 

「ボクは、自分の思いだけが正しい事だと思っていない。ある事実を、正しい事や間違っている事だと決められる権利は、自分だけのモノでは無いから。

 自分が正しくなければ、幸せになれないとも思っていない。他のモノの承認を得るか否かに関わらず、幸せになれる事を知っているから」

 

「……」

 

「真桜のみならず、他の将軍たちも自身で在り方を決められる。

 だからボクは、真桜が本心から華陽軍を辞めたいと言うのなら反対しなし、自分の思いを強制したりはしない。それを決めるのは、彼女の権利なのだからね」

 

楽進に真意は伝わらないかもしれませんが、ボクが行動を束縛しない事は理解してくれるでしょう。

ボクが結論を告げた事を受けて、楽進は((此方|こちら))を向いて話しかけてきます。

 

「……では。真桜が辞めたいと言えば、辞めても良いのですね?」

「そうだね。残念だけれど、縁が無かったという事なのだろうから、そういう事になるね」

「分かりました。ありがとう御座います」

 

楽進は頭を下げて一礼し、そのまま天幕を出て行きました。

于禁と云う人物も一礼して、その後を追うように続きます

李典は天幕に残って気((拙|まず))げにボクを見ていました。

 

「随分と、生真面目な友達みたいだね?」

 

ボクは李典に話しかけました。

 

「すみまへん。凪には後で良う言っときますさかい、許しておくんなはれ」

「ふふふっ。別に気にしていないから、大丈夫だよ」

「せやけど……」

「彼女をどうこうする積もりは無いから、安心すると良いよ」

「……おおきに」

 

ボクに楽進を処罰する気が無い事を理解すると、李典は少し安堵したようでした。

 

「それにしても、人とは悲しいものだね。それとも祝福されていると言うべきなのかな。自分の都合の良いように、事実を解釈出来るという事なのだから」

 

ボクは先ほどの楽進を振り返り、誰に言う訳でも無く、そう((呟|つぶや))きました。

 

「何がやろか?」

「楽文謙のことだよ。彼女は、華琳が自分を慮って配下にしなかったと思い込んでいるのだからね」

 

ボクの呟きに李典が疑問を投げかけてきました。

それに返答しましたが、彼女は良く理解していないようです。

 

「孟徳さんは、文謙さんに村を救う事を確約していないという事ですよ」

 

ボクの言葉を((補填|ほてん))するかのように、諸葛亮が李典に話しかけました。

李典は諸葛亮に顔を向けて話しかけていきます。

 

「どーいう事や?」

「『((綸言|りんげん))汗の如し』と云う((諺|ことわざ))があります。人の上に立つ者の言葉は、出た汗のように取り消せないという事です」

 

李典は諸葛亮の言葉を聞いても未だ良く分からないようでした。

 

「……つまり?」

 

「つまり。文謙さんを配下にしたら、村を絶対に救わなければ成らなくなるという事ですよ。でなければ、忠誠を得られませんから。でも、賊の総数も分からないのに確約を与えてしまっては、行動が制限されて退く事が出来なくなってしまいます。

 そういった危険を回避する為に、孟徳さんは文謙さんを配下にしなかったのだと思います」

 

「な?!」

 

李典は諸葛亮の言葉に瞳を大きく開けて絶句しています。

賊を追い払って援軍が来た事で安心していたところに、それが確かなモノでは無い事を知って二の句が続かないようでした。

ボクは、そんな彼女に話しかけていきます。

 

「真桜。ボクは君に言ったよね? 『歓迎会は、仲間の大切な家族を助けた後になるから』って。ボクは村を救うとは言っていないけれど、君の大事な人達を助けるとは言ったんだ。どんな事をしても、どんなに手を汚したとしても、ボクはそれを成し遂げると確約しているんだ」

 

李典はボクの言葉に、ハッと気付いてボクを見ます。

 

「もちろん、華琳が悪いという訳じゃない。彼女の立場や兵数では、そうするしか道は無いのだから。ボクが同じ立場だったなら、同じ事をしただろうしね。ボクには民を受け入れる事が出来る場所と、それを((叶|かな))える為の力があったから確約出来たに過ぎない」

 

「……そうやったね。大将は、ウチに約束してくれはったんや」

 

ボクの言葉に、李典は自分に言い聞かせるように呟きました。

 

「真桜が華陽軍を辞めたとしても、ボクは君の大事な人達を見捨てたりはしない。

 だからね、真桜。今回の件が終わった時に、もう一度君がどうしたいのかを問うよ。それまでに、良く考えておいて欲しい」

 

「……ええのん? そないなこと言うて」

 

「ふふふっ。さっきも言っただろ? ボクたちは自分で在り方を決められるってさ。もちろん、このまま共に在って欲しいとボクが思っている事は、忘れないでね?」

 

「そうやったね……。ホンマおおきにな、大将」

 

ボクの気遣い混じりの((揶揄|からか))うような物言いに、李典は笑顔を取り戻したようでした。

彼女は一礼してから天幕を出て行きます。

楽進たちの所へ行ったのかもしれません。

ボクは、それを((咎|とが))める事はせずに見送りました。

 

 

「((主|あるじ))は、ズルイですな」

 

李典が天幕から出て行くのを確認した後、趙雲がボクに話しかけてきました。

 

「……どうして星は、そういう人聞きの悪い事を言うのかな?」

「私の時には、真桜みたく言っては下さらなかったではありませんか」

 

ボクが曹操の勧誘を止めなかった事を、趙雲はまだ根に持っているようです。

でも、彼女のちょっと((拗|す))ねた物言いは、とても可愛いとボクは思いました。

 

「だから、星には謝ったでしょ? ボクの気持ちを伝えていない内に、ああ云う事になったから」

「では。私にも共に在って欲しいと、主には思って頂けているのですかな?」

「あたりまえでしょ?」

「そうですか。それならば良いのですよ。ふふふっ」

 

ボクの返答に気を良くしたのか、趙雲は満面の笑顔になります。

それから暫く皆と雑談してからボクは解散を告げました。

近日中に魏延たちが来れば賊との戦闘です。

だから、休める時に休むに越した事は無いと思ったからでした。

 

 

 

 

曹操一行と楽進という名の大型台風が、ボクを((翻弄|ほんろう))してから3日後に魏延たち本隊が到着しました。

そのときに魏延が趙雲を見かけて一騎打ちを所望して騒動になったり、それを厳顔がゲンコツで魏延の頭を殴ることで鎮静化させたりと、大変な一日になりました。

その後、賊との戦闘で、どちらが手柄を立てるかで競うという風に決着したようでした。

 

数日間、旅の疲れを取らせるべく本隊に休息を取らせました。

賊の方も味方を集め終わったのか、こちらへ向けて進軍してくる気配があると、偵察隊から報告がありました。

兵に休息を取らせている間中ボクは曹操から何とか理由をつけて逃げようとするのですが、すぐに見つかってしまってストレス塗れの日々を送ります。

ボクの胃に穴が開きそうと云うその時、偵察隊から賊が((此方|こちら))に進軍し始めたと報告があり、こちらも迎え打つべく進軍する事になりました。

こんなにも賊との戦闘が嬉しかった事は今迄にありませんでした。

 

賊さん。本当に、ありがとう。

 

 

 

(さて。やっと、この地獄の日々ともオサラバです。サッサと片付けて橋頭堡に戻りましょうか)

 

そう思って、解放感と、いつに無いヤル気に((溢|あふ))れているボクでありました。

説明
無難な人生を望み、万年やる気の無かったオリ主(オリキャラ)が、ひょんな事から一念発起。
皆の力を借りて、皆と一緒に幸せに成って行く。
でも、どうなるのか分からない。
涙あり、笑いあり、感動あり?の、そんな基本ほのぼの系な物語です。
『書きたい時に、書きたいモノを、書きたいように書く』が心情の不定期更新作品ですが、この作品で楽しんで貰えたのなら嬉しく思います。
*この作品は、BaseSon 真・恋姫†無双の二次創作です。
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