本編 |
悪魔騎兵伝(仮)
第三話 帝国の灯
C1 馬上の談議
C2 置き去りな論議
C3 馳せる思い
C4 無意味な詮索
C5 無責任にばら撒かれた夢
C6 口惜しい夜
C7 暗黒大陸連邦より
C8 帰還
C9 後始末
C10 我が命…
次回予告
C1 馬上の談議
エグゼナーレを先頭に王侯貴族とその配下達の騎馬の集団が兵舎の横を勢いよく闊歩する。
エグゼナーレ『オルテンド王国にはどう伝えれば良いのだ…。それに暗黒大陸連邦は…。』
ファウスは煙が上がる兵舎の方を向くと馬を止め、兵舎の方へと駆け寄る。
立ち上る煙、黒ずんだ瓦礫、穴の開いた兵舎からは呻き声が漏れている。皮膚の残っている者や半分炭化している者等、兵士達の死体が兵舎の傍らに山となり無造作に置かれている。ファウスは口を閉ざし、暫くして馬から降りる。彼の背後より騎馬の音。死体の山に近づくファウス。後ろから現れるエグゼナーレを先頭とした王侯貴族とその配下達の騎馬の集団。
エグゼナーレ『なんと無様な。これが我が城の兵士達だと言うのか!!あのような輩どもの攻撃にやられるなんて何と情けない。恥さらしもいいところだ。』
鼻をつまんだ手を離し、ジェルンがエグゼナーレの傍による。
ジェルン『まったくですわ。モーヴェ殿は訓練をきちんと行っていたのかしら。』
モーヴェはジェルンの隣に馬をつける。
モーヴェ『無礼な!如何に精鋭と言えど不意打ちを喰らえばひとたまりもない。』
エグゼナーレ『あの程度の攻撃で…まったく不甲斐ない。』
ロペスビエルがエグゼナーレの傍らによる。
ロペスビエル『陛下。兵士とはいえ人なのですぞ!攻撃による被害を被れば、傷つき、痛がり、最悪の場合死に至ります。彼らは兵士の前に人なのですよ!』
エグゼナーレは口を閉ざし、黒ずんだ死体の山を見つめる。崩れた兵舎の扉を開くファウス。ファウスは胸に手を当てて、眼を大きく見開く。血を流し、黒ずんだ手足を動かしながら呻くシュヴィナ王国の兵士達を看病するシュヴィナ王国の衛生兵と軍医。
ファウスは足を進め、負傷兵の一人に近づき、しゃがむ。シュヴィナ王国軍医がファウスの方を向いて近づく。
シュヴィナ王国軍医『如何されたのですか?』
ファウスはシュヴィナ王国軍医の顔を見上げる。
ファウス『…僕に、僕に何かできることはありませんか?』
シュヴィナ王国軍医は眉を顰める。
エグゼナーレ『ファウス王子!』
ファウスの後ろからエグゼナーレの怒声。
エグゼナーレ『ファウス王子!』
ファウスは扉の方を向いた後、軍医の方を向く。
軍医『あなたにはあなたのやるべき事があるでしょう。早くお行きなさい。』
ファウスは目の前の負傷兵を見る。包帯が巻かれた頭部から見える丸く見開かれた眼はファウスを映している。 ファウスは眼を閉ざす。彼の頬を一筋の涙が流れ落ちる。
ファウス『こんなに苦しんでいる人が居るのに僕はただ見ていることしかできないなんて…。』
エグゼナーレ『ファウス!何をやっている!行くぞ!!!』
シュヴィナ王国軍医はファウスの肩を叩く。
シュヴィナ王国軍医『ここには我々がいます。貴方様のお気持ちだけ受け取っておきましょう。』
兵舎から出てくるファウス。騎乗したヨナンが一歩前に出る。
ヨナン『ファウス王子!先程の勝手な振る舞い!エグゼナーレ様の言葉を再三無視して!』
ファウスはエグゼナーレの前に出て跪く。
ファウス『申し訳ありません。でも、少し…少しだけ時間を下さい。お願いします。少しだけ…。』
ヨナン『ファウス王子!これ以上待たせるとは!おこがましいにも程がある!』
エグゼナーレはヨナンの方に掌を向ける。
エグゼナーレ『いいだろう。用件が済んだらさっさと行くぞ。』
ファウスは兵舎の方を向くと跪き、祈りを捧げる。エグゼナーレは眼を見開いてその様子を見つめる。ファウスは立ち上がり、馬に乗る。眉を顰め鼻息を荒げるヨナン。エグゼナーレは兵舎に積み重ねられた死体を暫く見つめた後、掛け声を駆けて馬を走らせる。ファウスはヴォルフガング・オーイーの隣に馬をつける。
ファウス『オーイー様。』
ファウスの方を向くヴォルフガング・オーイー。
ヴォルフガング・オーイー『何ですかな。』
ファウス『あの…オルテンド国王の侍従の子はどうしています?随分と酷い怪我を負って…。』
ヴォルフガング・オーイーは正面を向く。
ヴォルフガング・オーイー『ああ、その子ならば暗黒大陸連邦の控室で治療を受けております。』
ファウスは眼を見開いてヴォルフガング・オーイーの方を向く。
ファウス『暗黒大陸連邦の?』
ヴォルフガング・オーイーはファウスの方を向き、再び正面を向く。
ヴォルフガング・オーイー『ファウス様は御存じ有りませんか。あの子は元々暗黒大陸連邦からオルテンド国王に宛がわれた侍従なのですよ。』
ファウス『そう…なの。』
ヴォルフガング・オーイーはファウスの方を向く。
ヴォルフガング・オーイー『命には別条は無いと医者は言っておりましたがな。』
ヴォルフガング・オーイーは再び正面を向いて馬を走らせエグゼナーレの近くに寄る。
C1 馬上の談議 END
C2 置き去りな論議
トーマ城玉座の間にぞろぞろと入って来る王侯貴族及び配下達と合流する暗黒大陸連邦幹部達。エグゼナーレは早足で玉座に歩み寄ると腰を下ろし、溜息を付く。
エグゼナーレ『まずは、ああ言えばこう言う、こう言えばああ言う。あの身勝手な市民でもはどうにかならないのか。』
三大臣たちが駆け足でエグゼナーレの傍らに行く。パンデモはハンカチーフで額の汗を拭う。
パンデモ『お、お怒りはもっともでございます。しかし、これは帝国のせいなのでございます。帝国が革命を成就してしまった為に…その真似する輩が…。』
エグゼナーレはパンデモを睨みつける。
エグゼナーレ『分析などどうでもいい!あいつらを黙らせる良い方法を考えよ!!』
三大臣たちは顔を見合す。そして、エグゼナーレの方を向く。
モーヴェ『ただちに市民たちの武器を狩り、抵抗力を削ぐのです。』
ジェルン『増税を施し、奴らが軍備を整えることができないようにしましょう。』
パンデモ『徴兵年齢の幅を広げましょう。』
ヴォルフガング・オーイーが一歩前に出る。
ヴォルフガング・オーイー『なりません。そんなことをすれば、市民を再び怒らせ、国庫に負担をかけてしまうでしょう!』
モーヴェとジェルンがヴォルフガング・オーイーを睨みつける。
モーヴェ『その時は精強な兵で奴らを黙らせれば良いことだ!市民ごときに何を臆することがあろうか!』
ジェルン『だいたいオーイー殿は他国の新参者でしょう。よりにもよって帝国の前身、共和国の。エグゼナッセ王の覚えがめでたいからと言ってつけあがるのではないわ!』
ヴォルフガング・オーイーは口髭をなぞる。
ヴォルフガング・オーイー『確かにそうかもしれません。しかし、兵も金も民衆より産出される物なのですぞ!』
パンデモは眼鏡を掛け直す。
パンデモ『だからといって市民達の好き勝手にさせるわけにはゆかん!』
エグゼナーレは口を閉ざして目を細める。
モーヴェ『対帝国の為に、今奴らに不穏な動きをさせるわけにはいかん!』
ファウスは立ち上がる。その潤んだ瞳からは大粒の涙がこぼれる。
ファウス『もう…もう止めてください!沢山の…沢山の人が傷つき、死んでしまったのに…。エグゼナーレ様達は…悲しくないのですか!?苦しくはないのですか!!』
エグゼナーレは眼を見開いてファウスを見る。ファウスの頬から大粒の涙がこぼれ落ちる。ざわめきが起こり、その場にいる王侯貴族及びその配下達は顔を見合わせた後にファウスの方を向く。ヨナンが立ち上がり、ファウスを睨みつける。
ヨナン『ファウス王子!その言動!シュヴィナ王国に対する立派な内政干渉及び名誉棄損でありますぞ!場をわきまえられよ!!』
ジェルン『確かにオルテンド国王やP・エロ殿は残念だったわ。しかし、あとはたかが民衆と兵士ではないか。』
モーヴェ『決戦を控えた今、その様な些細な事に構う必要などありませんぞ!』
ファウスは胸に手を当て潤んだ瞳でエグゼナーレの瞳を見つめる。ヨナンはエグゼナーレの方を向く。
ヨナン『まったくこれだからアレス王国は躾が…。』
エグゼナーレはヨナンに向けて掌を広げる。ヨナンは口を閉ざし、座り込む。エグゼナーレは下を向き、暫くして顔をあげる。エグゼナーレは玉座から立ち上がると城壁へと出る。続く重臣達と王国貴族とその配下達。城壁の上から市街を見下ろすエグゼナーレ。
エグゼナーレ『アクマドを出港させよ!』
パンデモが前に出る。
パンデモ『ア、アクマドを!何をなさるおつもりで?』
エグゼナーレは振り向き、口を開く。
エグゼナーレ『これより、ジェイコッブのテロの犠牲となった人々の追悼を行う。』
夕焼けが背景を橙色に染める。トーマ城城壁から市街を見る王侯貴族とその配下達。グラルタ湾にアクマド及びミレニアム級戦艦が姿を現す。それらは単縦陣をとり、市街に近づく。海岸線が上昇し、家々から飛び出す市民達。彼らは固まって、アクマドの方を向く。空にエグゼナーレのホログラムが現れ、見上げる市民達。
エグゼナーレ『諸君らに告ぐ。まず、トーマ城襲撃未遂の件について、君達は一時の激情に身を任せてしまっただけだ。よって不問とする。』
市民達は顔を見合わせ、暫く杏色の背景の中にたたずむ。
エグゼナーレ『オルテンド国王を初め、他国の外交官、そして君達のリーダー達と我が軍の兵士達が卑劣なるジェイコッブのテロ行為によって多くの犠牲を強いられた。私はただただここに犠牲となった者達への追悼の意を表す。』
エグゼナーレのホログラムが消え、グラルタ湾に浮かぶアクマド及び主力艦隊からの空砲が赤い夕日に向かって放たれる。暫く夕映えを見つめる一同。
ヨナンはファウスの方を見た後、エグゼナーレの傍らに寄る。
ヨナン『エグゼナーレ殿…。確かに寛大な処置ではありますが、あれだけの事をしておいて何もお咎めが無いという事は…市民どもになめられませんか?』
エグゼナーレは口を閉ざしてヨナンの方を向く。ヨナンは一歩前に出る。
ヨナン『譲歩は奴らを増長させるだけだと思うのですが…。それにオルテンド王国や暗黒大陸連邦に示しがつかないと…。』
エグゼナーレはヨナンに詰め寄る。
エグゼナーレ『ジェイコッブは討った!それにも関わらず貴公はこの地に住まう市民全ての首級をオルテンド王国と暗黒大陸連邦に差し出せというのか!?』
ヨナンは両手を振る。
ヨナン『めめめ滅相もございません。』
エグゼナーレはそっぽを向く。ヨナンは眼を見開き、顔を青くさせる。エグゼナーレはヨナンを見た後、ファウスを見る。
エグゼナーレ『ファウス王子!』
ファウスはエグゼナーレの傍らに駆け寄る。
ファウス『は、はい。』
エグゼナーレ『ヨナン王子と共に下がっていてくれ。』
ヨナンとファウスはエグゼナーレに頭を下げ、自らの配下の者達が居る場所に戻る。
エグゼナーレ『ガトンボー殿!』
ガトンボーが前に出る。
ガトンボー『はい。』
エグゼナーレ『話がある。来ていただきたい。』
ガトンボーは一礼し、玉座の間に向かうエグゼナーレと三大臣達とヴォルフガング・オーイーに続く。城壁から去りだす一同。ヨナンはカスターに歩み寄るファウスの方を睨みつける。
ファウス『カスター様。』
カスターはファウスの方を向く。
カスター『何だい?ファウス王子さんよ。』
ファウス『オルテンド国王の侍従の子は大丈夫のですか?』
カスターは顎に手を当てて立ちつくし、暫くしてファウスの方を向いて口を動かす。
カスター『ああ、シモ-ヌの事か。一命は取りとめているが…。』
ファウスは頷く。
ファウス『そう…。』
ファウスは顔をあげてカスターを見上げる。
ファウス『会いに行っても構わないでしょうか。』
カスター『別に構わないと思うが…ちっと神経質になっちまってるからよ。』
カスターは手を顎に当ててファウスの後ろの方を見る。
カスター『それよりもあちらさん方はどうするんだい?』
ファウスは振り返り、アレス王国の配下の者達を見つめる。ヴェイロークが一歩前に出る。
ヴェイローク『ファウス様。好きになさいませ。後の事はやっておきます。』
ヴェイロークはカストに目配せし、彼は前に出る。
カスト『ファウス様。私がお供いたします。』
ファウス『ありがとう。』
カスター『うーん、分かった。』
カストとファウスはカスターの後に続き、アレス王国配下の者達は城壁から去る。カスターは崩壊した喜びの塔を見た後、再び正面を向く。ファウスはカスターの隣に歩み寄る。
ファウス『…ごめんなさい。P・エロ様が亡くなっているのに僕…。』
カスターは溜息を付く。
カスター『気を使う必要は無いさ。いけすかねえ野郎だったが、ま、いざ居なくなると寂しいもんだ。故郷から離れた異国の地で死んじまうとはな。』
三人は紅に染まる崩壊した喜びの塔を暫し見つめ、再び歩みだす。
暗黒大陸連邦控室のドアに城内の照明によって影を投影させる三人。カスターはファウス達の方を向き、一礼する。
カスター『じゃ、様子を見てくるので暫くお待ちください。』
カスターは控室へ入って行く。顔を見合わせるファウスとカスト。怒鳴り散らすシモーヌの声。ドアが開いて頭にたんこぶのできたカスターが現れ、溜息をつく。断続的にシモーヌの声がドアの外に響く。
カスター『あかん!まだ爆発のショックから回復してないわ。』
ファウスはカスターの方を向く。
ファウス『そう…ですか。会うのはまた次の機会にします。ご迷惑をおかけして本当に申し訳ありません。』
ファウスはカスターに頭を下げる。カスターは首を横に振る。
カスター『いえいえ、どうか頭を上げてください。』
ファウス『いえ、元と言えばこちらが…シモーヌ君の事も考えずに身勝手でした。ごめんなさい。』
ファウスはカスターに頭を下げる。シモーヌの怒声が聞こえ、カスターは頭をかきむしりながら暗黒大陸連邦控室のドアの方を見る。
カスター『まいったな…。』
カスターはファウスの方を向く。
カスター『申し訳ない。それでは。私はこれで。』
暗黒大陸連邦のドアは軋む音と共に閉まる。ファウスは俯いた後、顔をあげ中庭が見える窓の方を向き、そこへ歩み寄る。ファウスは窓に掌を付け、青白く光る喜びの塔の方を向く。
C2 置き去りな論議 END
C3 馳せる思い
トーマ城城内中庭。崩れ落ちた喜びの塔の瓦礫に歩み寄るファウス。付き従うカスト。ファウスはしゃがんで焦げた瓦礫に手を伸ばして触り、撫でる。彼は黒く染まった掌を自身の方に向けてしばらくじっと見つめた後、満天の星空を見上げる。カストは黒く染まったファウスの手をハンカチーフで拭く。
ロペスビエル『何をなさっているのですか?』
花束を持って現れるロペスビエル。振り向くファウスとカスト。
ロペスビエル『どなたかと思えばファウス王子ではないですか。喜びの塔は崩壊の危険があるのであまり長居しない方が良いですよ。』
ファウスとカストは崩壊した喜びの塔を見つめる。ファウスとカストが見つめる中、ロペスビエルは花束を瓦礫の手前に置いて跪いて祈りを捧げる。ロペスビエルは立ち上がり、崩壊した喜びの塔の方を見る。そしてうつむき、溜息をつくとファウス達の方を向く。
ロペスビエル『こんなことしかできないのですが。』
ロペスビエルはスーツの懐から1枚の写真を取り出す。歩み寄り、覗き込むファウス。それには笑顔を浮かべるジェントンとロベスピエルと若い女性と女児が映っている。
ファウス『こ、この人は…。』
写真に写る若い女性を映した眼のファウスの顔は青ざめて崩れ落ちそうになるが、カストに支えられる。
ロペスビエル『ちょっとした…本当にちょっとした観光旅行だったんですがね。』
ロペスビエルは溜息をつき、写真の女児を見つめる。
ロペスビエル『この子はジェントンの娘でリオナといいましてね。シュヴィナ王国の内務官になってお父さんと叔父さんの手助けをするんだって元気な声でいつも言っていましたよ。今回の国外旅行をとても楽しみにしておりました。』
ロペスビエルは額に手を当てて目を閉じる。
ロペスビエル『まさか…あんな事になるなんて。』
芝がざわめき、ロペスビエルとファウス達の服が風にめくられる。ロペスビエルは満点の星空を見た後、再び写真を見る。
ロペスビエル『銭ゲバの傭兵め!いくら金の為とは言えあんな惨たらしい殺し方をするとは…。』
ロペスビエルはファウス達の方を向く。
ロペスビエル『見ましたか。あのフィルムに映る笑い顔を浮かべた女子供達。そんな奴らに臓器を抉り出され、面白半分に殺されたのだから…。彼女もあの子もとても痛かったと思います。とても怖かったと…。それを突きつけられたジェントンはさぞ辛かっただろうと。その挙句に殺害の実行者である女子供は教会の庇護の下無罪。』
ロペスビエルはため息をつき、喜びの塔の方を見上げる。ファウスは俯く。
ロペスビエル『こんな形になってしまって…ジェントンは悔しかったと…本当に悔しかったと思いますよ。』
ファウスは一歩前に出てロペスビエルに頭を下げる。ファウスの閉ざされた瞳から雫が落ち、芝の上に消えていく。
ファウス『ごめんなさい!』
ロペスビエルは眼を見開いてファウスの方を見る。
ロペスビエル『どうなさいました?ファウス王子!』
ファウスは顔をあげる。彼の頬からは一筋の涙が毀れ、潤んだ瞳はロペスビエルを見つめる。
ファウス『僕は、僕はそんなこと知りませんでした。なのに…なのに僕はジェントンさんにあんなひどいことを…それに僕があんなところで野営なんてしなければ…そのままトーマ城に進んでいれば助けられたかもしれないのです。ごめんなさい。本当にごめんなさい。』
ロペスビエルはファウスの両肩に手を添える。
ロペスビエル『何を言っているのです。ファウス王子。あなたは何も悪くありません。むしろ被害の拡大を抑えてくれたではないですか。それにあなたが言っていることは可能性の問題です。後悔などなさらずに今回の事を教訓にして次に生かせばいい。』
ファウスはロペスビエルの方を見上げる。
ファウス『でも、失われたものは二度と戻りません!!』
ロペスビエルは俯いた後、ファウスの方を見つめる。
ロペスビエル『それだけしかできないのですよ。それにあなただけの責任ではありません。こうなる事を予測しながら帝国に戦争をけしかけた盟主様をお諌めすることができなかった我々が悪いのです。』
芝を踏みつける音と共にヴェイロークが登場。ヴェイロークはファウス達の傍へ歩み寄る。
ヴェイローク『ファウス様!』
ヴェイロークの方を向く一同。
ファウス『ヴェイローク…。』
ヴェイローク『探しましたよ。暗黒大陸連邦の者に聞いたらもう既に去ったと言われたので…。』
ロペスビエルは写真を懐に入れ、ファウスに頭を下げる。
ロペスビエル『ファウス様。この様な者の下らない戯言に付き合っていただきありがとうございます。』
ファウスは拳を握った手を胸に当てる。
ファウス『下らないなんてそんな…。』
ロペスビエルは拳を震わせながら喜びの塔の方を見つめる。ヴェイロークはロペスビエルを見つめた後、ファウス達を見る。
ヴェイローク『王妃様より連絡が入っております。』
ファウスはヴェイロークの方を見る。
ファウス『お継母様から?』
ヴェイロークは頷く。
ヴェイローク『至急お戻りください。』
ファウスは頷いて、カストと共にヴェイロークについて行く。途中で振り向き、崩壊した喜びの塔の前で俯くロペスビエルの後ろ姿を見つめるファウス。
C3 馳せる思い END
C4 無意味な詮索
アレス王国控室のドアが開き、ヴェイロークとファウス、カストが入ってくる。ドアの方を向くアレス王国配下の者達。正面の大きなモニターには眉を吊り上げたビクトリア、玉座に座り頬杖をつくメフィス、宰相のバクールドが映っている。
ビクトリア『ファウス!お前はいったい私を何時間待たせるつもりなの!!』
ファウスはモニターに向かって頭を下げる。
ファウス『申し訳ありません。お継母様。』
ビクトリアは腕組みをする。
ビクトリア『まったく!あきれた子だこと。だからあの様なことも平気でできるのですわ。』
ファウスは顔をあげてビクトリアの方を向く。
ファウス『あの様なこと??』
ビクトリアは眉を顰め、眼を閉じて溜息をつき、再び眼を開く。
ビクトリア『お前は自分のした事が分かっていないのですか!?ヨナン王子から聞きましたよ。お前は盟主領にて内政干渉まがいのことをしたそうではないですか!!』
ファウス『内政干渉?』
ファウスは眼を見開いて一歩前に出る。
ファウス『僕…僕、何か悪いことをしてしまったのですか!』
ビクトリア『自分のしたことを分かっていないなんて!!』
ビクトリアは額に手を当てる。
ビクトリア『まったくこんな子が王子なんて…。』
ビクトリアは手を下げて、俯くファウスの方を見る。
ビクトリア『いいですか。お前はシュヴィナ王国の内政において口出ししたのですよ。次期盟主様に死者を弔った方が良いと吹き込んだそうではないですか!』
ファウスは眼を見開いて顔をあげる。
ファウス『えっ!?で、でもそれは…。』
ビクトリアは片手を腰に当てる。
ビクトリア『でもではありません!今回は次期盟主様が物分りの良い方でよかったものの、もしそうでなければお前も我が国も危なかったかもしれないのですよ!』
ファウス『ごめんなさい。』
ビクトリアはそっぽを向く。
ビクトリア『謝ってすめば争いなんて起きないわよ!』
ビクトリアは再びファウスの方を向く。
ビクトリア『いいこと。お前は今、アレス王国の代表者なのですよ。もう少しそれを自覚して行動してほしいものだわ!』
ファウスはモニターに向かって頭を下げる。
ファウス『申し訳ありません。』
ビクトリア『本当よね。これからは身勝手な行動をしないで頂戴!分かった?』
ファウス『はい。』
ビクトリア『まったく、返事だけは一人前なんだから。』
モニターは切れる音と共に、画面を黒くする。
静寂。
ヴェイロークがファウスの傍による。
ヴェイローク『今宵はもう遅く、そろそろ御就寝した方がよろしいかと。』
ファウス『う…うん。』
寝室に入るファウス、カストとヴェイローク。扉の外からはざわめきが聞こえる。ベッドに座り込み、布団を抱きかかえるファウスは棚に並べられた備品の方を暫く向く。ヴェイロークが一歩前に出る。
ヴェイローク『王妃様のことは気になさいますな。』
ファウスは首を横に振る。
ファウス『お継母様は僕の為を思ってああ言ってくれているの。』
ファウスは窓の方を向く。
ファウス『ねぇ、ヴェイローク。』
ファウスは俯く。ヴェイロークはファウスに歩み寄る。
ヴェイローク『何でしょうか?』
ファウス『オルテンド様や他の人達は天国へ行けたのかな。』
ヴェイロークはファウスの後髪を見つめる。
ヴェイローク『さあ、生前善行を行えば天国へと悪事を働けば地獄へと聖職者達は言っておりますが、死んだ後の事など誰にも分かりませんよ。』
ファウスは頭を上げる。
ファウス『だったら人は死んでしまったら何処へ行くの?本当に天国と地獄は存在するの?』
ヴェイローク『ファウス様。』
ファウス『この世に馳せた思いは何処へ消えてしまうの?』
ヴェイロークはファウスの正面に行き、ファウスの顔を見つめてファウスの両肩を掴む。
ヴェイローク『ファウス様。いいですか。その様な事を詮索しても何も得られませんよ。産み落とされ消えるまで限られた間にやるべきことは沢山あるのですから。』
ファウスは暫く俯いた後に顔をあげる。
ファウス『そう…そうだよね。でも、どうしても考えてしまうの。』
ファウスの潤んだ瞳には月明かりに照らされる崩壊した喜びの塔が映えている。
ファウス『思いを遂げられずに消えてしまったら…。僕は…。』
ファウスはヴェイロークに抱きつく。
ヴェイローク『ファウス様…。』
ファウスはヴェイロークを見上げ、俯く。
ファウス『ごめんなさい。ヴェイローク…。』
ヴェイロークはファウスの頭を撫でる。
C4 無意味な詮索 END
C5 無責任にばら撒かれた夢
ファウスの寝室の扉が開き、カストが現れる。青く彩られた構造物を映すトーマ城の廊下の窓。佇むファウスは眼前のガラスに手を当てて白い吐息によってそれを曇らしている。
カスト『ファウス様。こんなところにおられたのですか。』
カストの方を振り向くファウス。廊下の向こう側からデンザインが現れ、ファウス達に歩み寄る。
デンザイン『おや、ファウス様。この様な朝早くにこんな所で何をやっておいでかな?』
ファウスはデンザインの方を向き、再び窓の方を向く。
ファウス『兵舎の方へ行きたいの…。』
デンザインは眉を顰める。
デンザイン『夜遊びがまだ足りないというのですか?あのヨネス王子さえ外出をひかえているというのに!いいかげんになさいませ!』
ファウスはデンザインの方を向く。
ファウス『そんな夜遊びなんて!僕は…。』
カストはファウスの前に出る。
カスト『デンザイン様!いくらなんでも言いすぎです!ファウス様がその様な事をするはずがないではないですか!!』
デンザインはカストに掌を向け、ファウスの前に歩み寄る。デンザインを見上げるファウス。
デンザイン『いいですか。ファウス様。ビクトリア様はファウス様に勝手な行動をするなとおっしゃられたのですよ。少しはお立場というものをわきまえられた方がよろしいかと。』
ファウスは俯き、白い吐息を口から漏らす。
ガラスを叩く音。
窓の方を見る一同。窓の外ではエガロが手を振る。デンザインは窓を開ける。
デンザイン『エガロ!貴様は何をしておる!?』
エガロは窓のサッシから上半身を乗り出して腕組みする。
エガロ『偵察も任務なもんでな。』
デンザイン『嘘を付け、だいたいブラブラとふらついておっただけであろう。』
エガロは頭をかきむしり、顔を上げる。
エガロ『それより面白れえもんが見れるぜ。』
ファウスが一歩前に踏み出す。
ファウス『面白いもの?』
エガロは城門のある城壁の方を指さす。
エガロ『ま、あっちの城壁に来てみれば分かる。』
エガロは翼を羽ばたかせ、城門のある城壁の方へと向かう。デンザインは靴音を鳴らしてエガロの行く方向へ付いて行く。ファウスとカストは顔を見合わせた後、デンザインの後ろに続く。
デンザインを先頭にファウス達が城壁に出る。ファウスの横に着地するエガロ。
エガロ『ありゃりゃ、もう終わっちまったか…。』
ファウスはエガロを見た後、正面を向く。城壁を取巻く市民達。先頭には市民代表のジージェットが出て跪いている。城壁から彼らを見下ろすエグゼナーレと三大臣にヴォルフガング・オーイー。軋む大きな音とともに城門が開き、ジージェットが入っていく。彼の後ろ姿を見つめる市民達。
ジェルン『エグゼナーレ様!お考えなおしを!彼らは私達に牙をむいたのですよ!そんなやつらをやすやすと玉座の間に入れるなんて!』
ヴォルフガング・オーイーはエグゼナーレの方を向く。
ヴォルフガング・オーイー『ガギグルスの様な思慮の浅い事は止めておいた方がよろしいかと。下手をすれば自爆テロをされてしまいますぞ。』
エグゼナーレは振り返り、二人を見つめる。
エグゼナーレ『余が決めた事だ!決まったことに対して後からねちねちと言うものではないよ!』
ジェルンとヴォルフガング・オーイーは俯く。エグゼナーレはゆっくりと首を回し、ファウスの方を向く。
エグゼナーレ『おお、これはファウス王子ではないか!』
エグゼナーレはファウスの方に歩み寄る。
ファウス『エグゼナーレ様…。』
ファウスはエグゼナーレに向かい一礼する。
エグゼナーレ『今、ちょうど使いの者をやろうとしたところだ。君とヨナン王子に。』
ファウスは顔を上げ、エグゼナーレの方を向く。
ファウス『使いの者…ですか?』
エグゼナーレ『これより新しく市民の代表に選出されたジージェットの謁見を受ける。君達にも見ていてもらいたい。』
ファウス『僕達にですか?』
エグゼナーレはファウスを見つめる。
ファウス『は、はい。』
エガロは翼をはためかせてアレス王国控室へと向かい、ファウス達はエグゼナーレの後を付いて行く。
トーマ城玉座の間。中央の玉座に座るエグゼナーレ。両脇に並ぶ、王国貴族とその配下達。赤い絨毯を歩き、周りを見回すジージェット。彼は額から汗を流して赤絨毯の上にうずくまり、跪く。
エグゼナーレは頬杖を付き、ジージェットを見下ろす。
エグゼナーレ『どうした。ジージェットよ。』
ジージェットは顔を上げ、エグゼナーレの方を向く。
ジージェット『いえ…。』
エグゼナーレ『緊張してしまっているのか?よいよい。お前は先程城壁の前で言った事をこの場で再び言えばいいのだ。』
喉を鳴らし、口を開くジージェット。シュヴィナ王国兵士Aが駆け込む。エグゼナーレはジージェットに向かい掌を向け、シュヴィナ王国兵士Aの方を向く。
エグゼナーレ『何事か!?』
シュヴィナ王国兵士Aがエグゼナーレの耳元に囁く。
エグゼナーレ『お父様から!もう…。』
エグゼナーレは立ち上がり、顎に手を当てる。暫くしてジージェットの方を向き、シュヴィナ王国兵士Aの方を向く。
エグゼナーレ『分かった。繋いでくれ。』
シュヴィナ王国兵士Aは一礼してその場から去る。機械音とともにモニターが現れ、映し出されるシュヴィナ王国国王で貴族連合盟主であるエグゼナッセとその背後のテーブルに並ぶ各国の指導者達、及び各国の軍司令官達は彼らの方を向く。
エグゼナーレ『お父様!』
エグゼナーレは跪いて頭を垂れる。
モニターに映るエグゼナッセはエグゼナーレを見下ろす。
エグゼナーレ『申し訳ございません。私の力が及ばず、市民の反乱が起きてしまいました。』
モニターよりざわめきの音。各国の王達は互いの顔を見合す。
エグゼナッセ『そうだったな。』
エグゼナーレは顔を上げ、エグゼナッセを見つめる。エグゼナッセはオルテンドのはとこで若きオルセンド王国軍人オルセンソと紫の長髪をたなびかせる美顔の暗黒大陸連邦元帥ギャンザー・ハウエルの方を向く。
ギャンザー・ハウエル『しかし、元凶であるテロ集団は壊滅させたのでしょう。』
エグゼナーレはモニターから眼をそらす。
エグゼナーレ『…ですが、犠牲をだしてしまいました。オルテンド国王とP・エロ外交官、それに兵士多数と内務官…。私は…。』
オルセンソは一歩前に出る。
オルセンソ『テロ集団を討伐したことは名誉なことです。亡くなったオルテンド王もこれで浮かばれるというもの。』
エグゼナーレは顔を上げ、眼を見開く。エグゼナーレはエグゼナッセの方を向く。
エグゼナーレ『お父様!し、しかし、私の治世で反乱が起きてしまったのです!長く平穏だったシュヴィナ王国を治める者としてお父様の、御先祖様の顔に泥を…。』
エグゼナッセ『もう良い。』
エグゼナッセはエグゼナーレを見た後、玉座の間を見渡す。
エグゼナッセ『アレス王国にヨネス王国、それにアンセフィム殿達か。』
エグゼナッセは丸くなっているジージェットの方を向く。
エグゼナッセ『あの男は?』
エグゼナーレは立ち上がりジージェットの方を見る。
エグゼナーレ『市民代表のジージェットと言う男です。』
エグゼナッセは腕を組み、顎に手を当てる。
エグゼナッセ『ジージェット?聞いた事が無い名だな。』
エグゼナーレはエグゼナッセの方を向く。
エグゼナーレ『父上、この男は新たに選任された市民代表です。』
エグゼナッセは顎に手を当て、人差し指で顎を軽く二回叩いきながらジージェットの方を見つめる。
エグゼナッセ『で、ジージェットとやら貴様はなぜこの場におるのだ?』
ジージェットは汗だくになった顔を上げ、再び下げる。
ジージェット『恐れながら国王陛下!わ、私どもはエグゼナーレ様の心意気に感謝しておるのです。パノラマウンテンの気違いの謀略によって混乱し反乱を起こそうとしてしまった我々をエグゼナーレ様は何のお咎めも無くお許しになられた。わ、我々は心より国王陛下の庇護のもと生活していきたいと考えておるのです!』
ジージェットは全身を震わせる。エグゼナッセはエグゼナーレの方を向き、微笑む。
エグゼナッセ『息子よ。良くやった。』
エグゼナーレは首をかしげる。
エグゼナッセは視線を各国指導者達、及び軍司令官達に向け、再びエグゼナーレの方を向く。
エグゼナッセ『ユグドラシル大陸、要塞島での僭称国家樹立。』
クリシュナ王国国王ロト・クリシュナはグリーンアイス連邦議員ダランセルは眉を顰た顔を見て鼻で笑う。ガイデン王国国王ゴウゾ・ホッタールは頬杖をし、ギャンザー・ハウエルは顔をしかめる。
エグゼナッセ『シグニ群島に北方九洲での独立運動。』
南部バンガロール産官複合体千年大陸連邦従属王国国王ヤマバッツ・アルフォンソ・バンガロール56世は顔をしかめ、千年大陸連邦魔術元帥ウィストンチンは眉を顰め、顎に手を当てる。
ダランセルは眼を見開いて口を開いたロト・クリシュナの方を向き、笑った口を手で隠す。ロト・クリシュナはダランセルの方を見た後、そっぽを向く。
メルミン王国国王ルッソとルソタソ王国国王ゼンドは互いに顔を見合わせ、溜息を付き、セレノイア王国議員で熊獣人のクーマン・ベアードの方を向く。その際、額に装着したショダ・コーンの角とロッリ・コーンの角が当たる。
重臣のウカツとその甥のドムを両脇に齢14歳になるゼムド王国国王ヴィクトリーはルッソとゼンドの様子を見つめている。
エグゼナッセ『ロメン帝国の剣闘士奴隷の乱、ヒート王国の大規模農民一揆を皮切りに今、各地ではとどまることのない火種が拡散されている。』
ロメン帝国皇帝タルキィサスは頬を膨らませて眼をそらし、ヒート王国国王タルカは顔を真っ赤にして眉を吊り上げる。
エグゼナッセ『仕方のない事かもしれぬ。無名の獣人、次は一介の傭兵隊長。ロズマールの行ったユランシア大陸の秩序を崩壊させる行為は民に上に立つものの苦労と隠された無数の刃の恐怖も知らせぬまま、良い面のみ真実と思い込ませ、無責任にばら撒かれた夢を掴ませようとしているのだ。甘い囁きで彼らを起こそうとしてはいけない。シーン皇国においてゴールドソン・ヨミに不法占拠された武斗島に対して300年間も対話路線の外交を重視した為に今頃になって近隣に武力行使をされているではないか!』
シーン皇国防衛大臣センゴクは青ざめ、汗をかく。
エグゼナッセ『横頬を叩いてでも目覚めさせ、秩序を取り戻さなければならない。しかし、この様な収束しない混乱の中で民心を得ると言う事は大したものだ。』
エグゼナーレは一歩前に出、一礼する。
エグゼナーレ『ありがたいお言葉ですが、父上、私に死者を弔うように言ったのはファウス王子であります。』
エグゼナッセは眉を吊り上げ眼を見開くが、すぐに咳払いをして再びモニターを見つめる。国家指導者と代表者達のざわめき。
エグゼナーレ『お褒めの言葉を頂くのは私ではなく、ファウス王子の方が適切かと。』
唖然としながらエグゼナーレを見つめるファウス。エグゼナーレはファウスの手を取る。ファウスは顔を赤くし、下を向く。エグゼナーレはファウスをモニターの前まで連れてくる。モニターを見上げるファウスはすぐに跪く。
ファウス『盟主様…。僕は何もしていません。思った事を言ってしまっただけです。乱を治めたのはエグゼナーレ様です。犠牲になった方々を弔う為にアクマドまで使用して…。』
ファウスを見つめるエグゼナーレ。
エグゼナッセ『良くできた子だな。マール王。こちらへ。』
アレス王国国王マールがエグゼナッセの傍らに歩み寄る。顔を上げるファウス。
マール『はい。』
エグゼナッセはマールの方を向く。
エグゼナッセ『貴殿の息子は実にすばらしい。誠実な良い子だ。』
マールはエグゼナッセに向かい一礼する。
マール『我が不祥の息子ながらお褒めにあずかり光栄でございます。』
ファウスは顔を上げ、マールの方を向く。
ファウス『お父様…。』
マールはファウスの方を向く。
マール『これ、ファウス。盟主様からお褒めの言葉を頂いているのだぞ。』
ファウスはエグゼナッセの方を向き、再び頭を下げる。
ファウス『ありがとうございます。』
ヨネス王国国王ヨハンはヨナンの方を向き、眉をひそめた後にそっぽを向く。ヨナンは青ざめ、下を向く。マールは自身の席に戻り、ファウスは自国の配下の者達が居る場所に戻る。エグゼナッセはオルセンソに目配せする。オルセンソはエグゼナッセの傍らに歩み寄る。
エグゼナッセ『さて、この様な時に誠に申し訳ないのだが、オルセンソ殿にはこの場でオルセンド王国国王として戴冠してもらおうと思っておる。』
オルセンソ『そんなすぐに…。』
エグゼナッセはオルセンソの方を向き、再び正面を向く。
エグゼナッセ『不服か?』
オルセンソ『いえ、少し戸惑っただけです。ただ、王が亡き今、私にどこまで国家の舵取りの大任ができるかと…。』
エグゼナッセは顎を上げる。
エグゼナッセ『大丈夫。君ならできる。それに血縁者はもはや君しかおらんのであろう。』
オルセンソ『ハッ!』
エグゼナッセ『ここに本物が無いのは残念だが…。』
オルセンソは跪き、エグゼナッセから代替品の月桂冠を戴冠する。眼を見開いてオルセンソの方を向くカスター。
オルセンソ『ありがたき幸せ。』
一同拍手。
エグゼナッセ『遠征が終了すれば本物でもう一度するとしよう。』
オルセンソは自分の席に戻る。
エグゼナッセ『これより、我々はこれよりロズマール帝国国境線上メーメル平原へと向かう。』
アンセフィムは立ち上がる。
アンセフィム『何と!』
アンセフィムはエグゼナッセを見つめ、座る。
アンセフィム『まだ兵站の打ち合わせすら済んでいない状況でありますが…。』
バイオレッタはアンセフィムを見、エグゼナッセを見る。
バイオレッタ『帝国と国土を接する我々を差し置いて…ということでしょうか。』
エグゼナッセ『そうではない。我々は国境付近へ本陣を移し、帝国の出方を見ると言うだけのことだ。』
アンセフィムは歯ぎしりする。
エグゼナッセ『行軍の状況は伝える。アンセフィム殿達は互いに協力して兵站の打ち合わせを終了させ、この地に再び戻ってくればよいことだ。』
エグゼナッセはアンセフィムとバイオレッタを見た後、スカートー、ハンザイサに目配せする。アンセフィムは暫く眼を閉じ、再び目を開いてエグゼナッセを見つめる。
アンセフィム『…分かりました。御期待に添えるよう努力いたします。』
バイオレッタ『こちらも御期待に添えるよう努力いたします。』
エグゼナッセは2、3回頷くとエグゼナーレの方を向く。
エグゼナッセ『留守は任せたぞ。各国の王子達が集結して大変になるとは思うが、お前ならやれるだろう。』
エグゼナーレは跪く。
エグゼナーレ『はい。』
エグゼナッセ『では、健闘を祈る。』
エグゼナーレ『父上こそ御無事で。』
モニターの画像が消え、玉座の間に光が差し込む。
アンセフィムはバイオレッタに近づき、カスターはガトンボーの傍らに駆け寄る。玉座の間にざわめきが起こる。エグゼナーレは振り返る。
アンセフィムはバイオレッタに手を差し出す。
アンセフィム『貴国と我が国に確執があるのは分かっている。しかし、状況が状況だ。今は手を取り合って…。』
バイオレッタはアンセフィムの差し出した手をはたく。
バイオレッタ『ケセラセラ、我が国が主体となった兵站のプランとしてならご協力しましょう。』
アンセフィム『貴女は分かっているのか!これはキ連におけるロズマール帝国における領土の切り取り…。』
アンセフィムはエグゼナーレの方を向き、再びバイオレッタの方を向いて咳払いする。
ハンザイサ『アンセフィム殿、この様な場でその様な発言は睨まれますぞ。』
バイオレッタ『一国の国王ともあろうものとは思えない。笑える。』
アンセフィムは眉を顰める。スカートーが一歩進み出て、ハンザイサに目配せして腕組みする。
スカートー『領地が敵国の眼前にさらされている状況、確かに国王の中には欲深な方もおられます。国家の先行を考えれば心配事が増えるのも分かります。』
バイオレッタはそっぽを向く。ハンザイサはスカートーの方を向く。
ハンザイサ『で、おばさん。どうするんだ?』
スカートーは眼を閉じる。
スカートー『アンセフィム殿はロズマール王家の直系、領土の地理には詳しいのでアンセフィム様のプランを中心に練って言った方がいいかと。で、誰がおばさんじゃ、ボケ。このロリコンジジイが。』
バイオレッタは眼を見開き、口を開ける。ハンザイサは片目を閉じて腕組みする。
ハンザイサ『バイオレッタ殿もロズマール出身。アンセフィム様は記憶喪失と王宮に居た時間が長いと聞き及びます。ここに至っては市民の出で現場の地理にも詳しいバイオレッタ殿のプランを主体とした方がよろしいかと。ロ、ロリコンちゃうわ!対象年齢がが低いだけで…。』
スカートーは眼を開き、ハンザイサと目線を合わした後にそっぽを向く。ガトンボーは腰に手を当て、バイオレッタとハンザイサの方を向く。
ガトンボー『仲睦まじいですな…。』
カスターはガトンボーの正面に回り込む。
カスター『聞いているのか!オルセンソは強硬路線で唯一の血縁者だが一度は勘当されている奴だ!あんな奴が王位に就けば半島の諸勢力に武力行使を行うぞ。駐屯兵も増やすよな!』
ガトンボーはカスターの方を向く。
ガトンボー『その可能性はありますが。』
カスター『ああ、何で他国の尻拭いの為に自国民が犠牲にならないといけないのだ!』
ガトンボー『まだ起こって無い事を嘆くのはおよしなさい。』
エグゼナーレは周りを見回すジージェットを見た後、彼の傍らに歩み寄る。エグゼナーレの影がジージェットの上に伸びる。ジージェットはゆっくりと顔を上げ、エグゼナーレの方を向く。
ジージェット『あ、あの私はどうすればよろしいのでしょうか。』
エグゼナーレ『もう下がってよいぞ。』
エグゼナーレは三大臣とヴォルフガング・オーイーの方を向く。
エグゼナーレ『誰か、この者を城壁の外まで送ってくれ。』
三大臣とヴォルフガング・オーイーは顔を見合わせ眉を顰める。
ジェルン『失礼ながらエグゼナーレ様。この様な下賤の者にその様な気遣いは必要ではないですか。』
エグゼナーレは三大臣とヴォルフガング・オーイーから眼をそらす。
エグゼナーレ『…余が行く。』
三大臣とヴォルフガング・オーイーは互いに顔を合わせる。
モーヴェ『いくらなんでもエグゼナーレ様が行くなんて…。』
ヴォルフガング・オーイー『ならば私が行きます。』
エグゼナーレ『よい。余が行く。決めた。』
三大臣とヴォルフガング・オーイーは再び互いに顔を合わせる。
パンデモ『な、ならば我々もお供いたします。』
ジージェットは立ち上がり、エグゼナーレに深々と一礼する。ジージェットを先頭にエグゼナーレと三大臣にヴォルフガング・オーイーは玉座の間から出ていく。
C5 無責任にばら撒かれた夢 END
C6 口惜しい夜
アレス王国控室のファウスの部屋。扉を叩く音。
ヴェイロークの声『ファウス様。暗黒大陸連邦の方が御目通りをと。』
扉が開いて現れるファウスと傍らのカスト。彼らの正面にはヴェイロークとガトンボーに包帯を頭に巻いてそっぽを向くシモーヌが居る。ファウスはシモーヌの方を向く。
ファウス『シモーヌ君!!』
ガトンボーが一歩前に出る。
ガトンボー『シモーヌの容体が回復したのでこちらに。』
ファウスはガトンボーの方を向く。
ファウス『そんな…わざわざ出向いて頂かなくても。』
ファウスはシモーヌの正面に出る。
ファウス『お体の方は大丈夫ですか?』
シモーヌはファウスの方を向いた後、顔をそむけて頷く。
ガトンボー『申し訳ありません。傷の方はだいぶ癒えてきたのですが…。』
ガトンボーはシモーヌを小突く。シモーヌは頬を膨らませる。ガトンボーは溜息を付く。ガトンボーはファウスに向かい頭を下げる。
ファウス『いいえ、あんな事件の後ですもの無理もありません。』
ガトンボー『それでは我々はこれにて失礼を…。』
ファウスは一歩前に出る。
ファウス『あの、この城の中庭の花畑にいきませんか?少しはシモーヌ君の気分転換にもなるかもしれません。』
ガトンボー『お気づかいに感謝いたします。』
ガトンボーはシモーヌを小突いて、二人はファウス達に背を向ける。
ファウス『あ、あの僕も行きます。』
振り向くガトンボーにシモーヌ。ファウスはヴェイロークの方を向く。
ファウス『ね、いいでしょ。ヴェイローク。』
ヴェイローク『よろしいですが、あまり寄り道はしないように。』
ヴェイロークはカストの方を向く。
ヴェイローク『カスト、ファウス様を頼んだぞ。』
カスト『は、はい。』
ファウスは先頭に立ち、カスト、ガトンボーにシモーヌがその後を付いて行く。
トーマ城中庭花畑。通路にはファウス、カストにガトンボーとシモーヌ。シモーヌは花畑の方へ駆けていく。
カストはファウスに耳打ちする。ファウスはカストの方を向く。
ファウス『彼はあの爆発の傷がまだ癒えていないんだよ。そんな酷い事をいうのはよしてカスト。』
カストは俯く。シモーヌはファウスに駆け寄り、花をファウスに差し出す。
シモーヌ『んふふふふふふ。』
ファウスはかがんでシモーヌの差し出す花に手を伸ばす。シモーヌは笑顔で人差し指を撥ねさせ、花弁を散らせる。
シモーヌ『ぼんっ!』
唖然とするファウスの方を向き頬笑みを浮かべるシモーヌ。
シモーヌ『んふふふふ。んはははははは。』
ファウスは花弁の散った花を受け取る。花畑の方に駆けていくシモーヌ。
ガトンボー『も、申し訳ありません。やはりショックからまだ立ち直れていないようで…。』
ファウス『いえ、仕方のない事です。可哀相に…。』
暗黒大陸連邦士官Aが駆けてくる。
暗黒大陸連邦士官A『大変です!ロズマール国境線上において貴族連合軍とロズマール帝国軍が衝突いたしました!』
ガトンボー『何と!』
暗黒大陸連邦士官Aはファウスの方を向く。
暗黒大陸連邦士官A『おお、アレスの王子様もおられましたか。』
暗黒大陸連邦士官Aはガトンボーの方を向く。
暗黒大陸連邦士官A『詳細はまだ伝わってきておりませんが激戦とのことです。』
ガトンボー『そうですか。』
ファウスとカストは顔を見合わせる。ガトンボーは顎に手を当て、ファウス達の方を向く。
ガトンボー『すみません。我々はこれで失礼いたします。』
ファウスとカストは頷く。ガトンボーはシモーヌの方を向く。
ガトンボー『シモーヌ、行きますよ。』
シモーヌは立ち上がり、ガトンボーのもとへ駆け寄る。ガトンボーにシモーヌは暗黒大陸連邦士官Aについて早足で去る。ファウスはガトンボー達の方を向き、花畑の方を向く。そして、手に握った花弁の散った花に眼を向ける。カストはファウスに近寄る。
カスト『ファウス様!急ぎ戻りましょう。』
ファウスはカストの方を向き、頷いてカストと共にその場を去る。橙色に染まる石造りの通路に落ちた花弁が風に舞い上がる。
青白く染まるアレス王国控室のベランダ。ファウスはベランダに寄りかかり月明りに照らされるグラルタ湾の方を眺める。靴音。振り向くファウス、ヴェイロークとカスト登場。
ファウス『ヴェイローク、カスト…。』
ヴェイロークとカストはファウスの傍に寄る。
カスト『こんなところに長居していては風邪をひいてしまいますよ。』
ヴェイローク『お休みにならなければお体に触りますよ。』
ファウス『ありがとう。ヴェイローク、カスト。』
ファウスは再びグラルタ湾の方を見つめる。
ファウス『悔しいんだ。』
ヴェイロークとカストは顔を見合わせ、ファウスの背中を見つめる。
ヴェイローク『ビクトリア様のことですか?褒められなかったとはいえ気になさいますな。国家の事を考えれば…。』
ファウスは首を横に振る。
ファウス『違うよ。お父様が異国の地で戦っておられるというのに僕はこんなところでじっとしている事しかできないなんて…。』
ファウスはグラルタ湾の水面の煌めきを見つめる。
C6 口惜しい夜 END
C7 暗黒大陸連邦より
窓から朝日が差し込みファウスの顔を照らす。ソファの上で寝息を立てるカスト。その隣にはヴェイロークが座っている。小鳥の囀りが軍靴の音にかき消される。ヴェイロークが立ち上がり、扉に近寄る。扉を叩く音が室内に鳴り響き、起きあがるファウスとカスト。
デンザインの声『ファウス様。デンザインでございます。』
ヴェイロークは扉を開けるとデンザインが入って来る。乱れたベットの上で上半身を起こし、眼をこすりながらデンザインの方を向くファウス。カストはソファから起きあがり、欠伸をする。デンザインはファウスの方を向いた後、ヴェイロークの方を向く。
ヴェイローク『デンザイン卿。何かあったのですか?』
デンザイン『おお、ヴェイローク卿。暗黒大陸連邦から何かあるらしい。至急玉座の間に来てくれと。』
ヴェイロークは顔をしかめ、デンザインの方を見る。
ヴェイローク『暗黒大陸連邦が?いったい何があった?』
デンザインの方を見つめるファウス。デンザインはファウスの方を見ると、彼に近づいて行く。
デンザイン『御起床になられましたか。ファウス様。玉座の間に皆が向かっております。お早く御支度を。』
ファウスは2、3回頷くと立ち上がる。カストは箪笥の引出しから着替えを取りだし、ファウスの傍らに寄る。ファウスは寝巻を脱いで着替える。
トーマ城玉座の間。腰に手を当て窓からグラルタ湾を見つめるガトンボー。隣にはアンセフィムとバイオレッタ。エグゼナーレと三大臣、ヴォルフガング・オーイー、ヨナンにアドヴァンにヨネス王国配下の兵士、ファウスとアレス王国配下の陣営、そしてスカートーにハンザイサが玉座の間に入って来る。
ガトンボーは後ろを向き、再び前を向く。エグゼナーレが握りこぶしを胸に一歩前に出る。
エグゼナーレ『ガトンボー殿。我々を集めて何用か?』
ガトンボーは振り返る。
ガトンボー『単刀直入に申し上げます。アンセフィム様、バイオレッタ様を含め、我々は撤退させて頂きます。』
エグゼナーレの握られた拳は解かれ、腰下に下がる。
エグゼナーレ『兵站の打ち合わせがすんだのか?』
眼を見合すスカートーとハンザイサ。ガトンボーは首を横に振る。エグゼナーレは一歩前に出る。
エグゼナーレ『なら、なぜ?』
ガトンボーは咳払いをし、一同の方を見つめる。
ガトンボー『貴族連合は敗北いたしました。』
エグゼナーレ『何を馬鹿な。お父様の指揮する貴族連合軍が負けるはずは無い。』
ガトンボーは溜息をつき、エグゼナーレの方を向く。
ガトンボー『残念ながら事実でございます。我々は…。』
エグゼナーレは顔を赤くしてガトンボーを睨みつける。
エグゼナーレ『嘘を言うな!これは我々に対する侮辱だぞ!』
ガトンボー『嘘ではございません!これが嘘であればどんなによいことか。盟主殿は消息不明。』
エグゼナーレは眼を見開く。
エグゼナーレ『お父様が。』
ガトンボーはファウスの方を向く。
ガトンボー『アレス王国マール王は殿を努め討死。』
ファウス『お父様が…そんな!』
その場に崩れ落ちるファウスを支えるカスト。カストはガトンボーの方を睨みつける。
ファウスの手はカストの腕を握りしめる。
カスト『う、嘘を言うな!国王様が討ち死にするわけがない!』
ガトンボーはファウスの方を見る。
ガトンボー『戦争に参加した各国の王侯、軍司令官からの情報です。多少は錯綜しておりますがほぼ正確です。』
ファウスを揺すり、見つめるカスト。ファウスはガトンボーを見上げる。
ガトンボー『胸に狼のエムブレムをつけた新鋭の人型機構と激戦の末、むこうの左胸部にある狼のエムブレムを突き刺したものの、自機のコックピットに剣を突き刺された所を見たと。』
ファウスの手がカストの腕から離れ、下に垂れさがる。胸に手を当て、ファウスの方を見つめるエグゼナーレ。ヨナンが前に出る。
ヨナン『わ、我が国は、父上は大丈夫なのか!?』
ガトンボーはヨナンの方を向く。
ガトンボー『ヨハン王は健在です。』
ヨネスは胸を撫で下ろす。
ガトンボー『今、各国に駐屯する我が軍が救援に向かっているところです。』
ヴェイロークはファウスの肩を持ち、エグゼナーレに向かい一礼する。
ヴェイローク『エグゼナーレ様。失礼ながら我々は退席させて頂きます。』
エグゼナーレは青ざめた顔で頷き、その場から去るアレス王国陣営。鳴り響く軍靴の音。
ファウスの寝室。ヴェイロークにデンザイン、ベットに座り込んでシーツを握り締めるファウスの傍らにはカストが座っている。カストはファウスの手を握り締める。
カスト『ファウス様。大丈夫、きっとお父様は生きておられますよ。きっと…。』
ファウスは2回頷き、両手を合わせて頭を垂れる。腕組みをするヴェイローク。足踏みをするデンザイン。靴音が騒がしく鳴り響いた後、扉を叩く音が木霊す。
シャロン『シャロンでございます!大変です!!』
ヴェイロークは腕組みを解き、扉へ向かう。
ヴェイローク『何があったのだ?』
ヴェイロークが扉を開くと汗だくのシャロンが飛び込んでくる。
シャロン『ロズマール帝国から…ロズマール帝国のゼオン皇帝より…。』
デンザインの足踏みの音がやむ。ヴェイロークはシャロンの両肩を掴み揺する。
ヴェイローク『落ち着け、何があったのだ!?』
デンザインはシャロンの方へ歩み寄る。シャロンは喉を鳴らし、ヴェイロークを見つめる。
シャロン『ロズマール帝国皇帝ゼオン・ゼンゼノスより通電が。』
デンザイン『何!』
ファウスは眼を見開いてベットから立ち上がり、扉へ向かう。傍らに寄るカスト。
カスト『ファウス様。どちらへ?』
ファウスは扉を開ける。ヴェイロークがファウスの傍らに寄る。
ヴェイローク『ファウス様!』
ファウスは無言のまま早足で廊下を歩く。続くアレス王国陣営。トーマ城玉座の間。玉座の間の赤絨毯の上を歩くファウスとヴェイローク、デンザインにシャロンとカスト。
ゼオン・ゼンゼノス『もうこれ以上犠牲を出すこと必要もないでしょう。我々は貴族連合との講和を望みます。』
膝を落とし呆然と立ち尽くすエグゼナーレ。モーヴェが前に出る。ヴォルフガング・オーイーが手をかざし、モーヴェの開かれた口が閉じる。ファウスの歩みが止まる。モニターにはゼオン・ゼンゼノス、イシュトリッタール、ヴロイヴォローグにアリファベルト・ハンクロッツァ、そして壮麗な台に置かれる貴族連合盟主エグゼナッセの首とアレス王国の旗に包まれるマール王。
2、3歩歩いた後によろめき、その場に崩れ落ちるファウスを受け止めるヴェイローク。
イシュトリッタール『講和に応じさえすれば即刻このお二方の遺体を返却致し、敗走部隊の追撃を止めましょう。』
ゼオン・ゼンゼノスはイシュトリッタールの方を向き、再びモニターの方を向く。エグゼナーレは頭を上げ、握り拳を振るわせる。ヴェイロークは唖然とするシャロンとカストの傍らのデンザインに目配せしてファウスをお姫様抱っこして出口へ向かう。
ヴォルフガング・オーイー『・・・暫し待たれよ。我々も王侯や各国の指導者達と話し合わなければ決められぬ。』
イシュトリッタール『何を言う。攻め入ってきたのはそちらの方ではないか!そしてこちらが勝ち、そちらが負けた。この場で即答を。』
エグゼナーレが立ち上がる。ヴェイロークは後ろを振り返り、正面を向くと玉座の間から出て行く。トーマ城城壁。巡回するシュヴィナ連合兵士を背にしたヴェイロークの顔をファウスは見つめる。
ファウス『ヴェイローク…。』
ファウスは眼を見開いて口に手を当て、辺りを見回して顔を赤らめる。
ヴェイローク『気がつかれましたか。』
ファウスは溜息をつき俯く。ファウスを下ろすヴェイローク。
ファウス『お父様は…。』
ヴェイロークは首を横に振る。
ファウス『そう…。』
ファウスの眼から大粒の涙がこぼれ、握り拳を振るわせる。ヴェイロークはしゃがみ、ファウスを抱きしめる。デンザインに連れられる肩を落としたカストとシャロンが玉座の間から出てくる。デンザインは溜息をつき、ヴェイロークの傍らによる。
玉座の間から出てくる三大臣とヴォルフガング・オーイー。
ジェルン『まったく王子様は困ったものね。強情に仇討ちばかりを主張するんだから。』
モーヴェ『今、講和を蹴って帝国へ進行したとしても勝算は無いからな。』
ヴォルフガング・オーイー『まったくもってこちらに向かっている王侯貴族の子息の大半が引き返していると言うこと。連合軍陣営自体の混乱。』
パンデモ『気持ちは分からなくもないですが、次期盟主として押されている以上、冷静にならなければ。』
ヴォルフガング・オーイーと三大臣達は後ろを振り向き、溜息をつくと前を向いて歩き出す。
ジェルン『それにしてもゼウステス99世と通信が繋がってよかったわ。』
モーヴェ『なんとか他の王侯貴族達と連絡を取り持って、王子様を説得し、帝国との間を取り持ってくれた。』
パンデモ『ゼウステス99世は今回の遠征に参加していないですからね。』
モーヴェ『まったく最初から勝てる見込みなど無かった等とほざきよってからに!』
ヴォルフガング・オーイー『遠征に参加していないのはゼウステス99世様だけ、兵力を温存して何やら企んでいるのかもしれませんぞ。』
パンデモ『む、気をつけるに越したことはありませんな。元々ゼウステス99世の父上は貴族連合盟主でありましたから。我々もオンディシアン教皇様との関係をより親密にしていかなければなりませんな。』
ヴォルフガング・オーイーと三大臣達はその場から去って行く。泣いているファウスとそれを抱きしめ彼らの背中を見つめるヴェイロークと一同。
デンザイン『私は本国に国王戦死の報告をしてこよう。』
デンザインは肩を落としてその場から去る。
C7 暗黒大陸連邦より END
C8 帰還
グラルタ軍港。停泊するサンダーバード級軍用機を見つめるエグゼナーレと三大臣にヴォルフガング・オーイー、ファウスとアレス王国陣営にヨナンとヨネス王国陣営。サンダーバード級軍用機に乗り込むアンセフィムとチレ、続くバイオレッタとハンザイサ、スカートーに暗黒大陸連邦兵士達の一群。
ガトンボーは後ろを振り向き一礼して、しかめっ面のシモーヌを引き連れてハッチに入っていく。ハッチが閉じ、轟音が鳴り響く。サンダーバード級軍用機は動き出し、飛び立ち、暫く空中を旋回する。サンダーバードの横の円状の翼を覆う半円のハッチが開き、整列した戦車が空砲を放つ。エグゼナーレは顔を上げた後、俯く。
エグゼナーレ『行くぞ。』
エグゼナーレは早足で三大臣とヴォルフガング・オーイーを連れてその場を去る。ヴェイロークがファウスの前に出る。
ヴェイローク『では、我々も行きましょう。』
ファウスは頷き、アレス王国陣営は肩を落としながら去る。
アレス王国控室。ファウスはマーアの方を見る。
ファウス『繋いで。』
マーアは頷いた後、機器の方を向いてぎこちない手つきでボタンを押す。モニターが現れ、暫くしてビクトリアとメフィス、バクールドが映る。
ファウスは頭を垂れ、跪く。ビクトリアはファウスを見下ろす。
ビクトリア『ファウスか。何か用があるのですか?』
ファウスは眼を見開いて顔をあげる。
ファウス『お、お母様。僕はお父様の葬儀のために戻ります。』
ビクトリアは顎を上げる。
ビクトリア『なりません!』
唖然とするファウス。
ビクトリア『お前はそこに留まって、第二次遠征隊の一員として尽力しなさい。』
ファウスは両手を床に着く。
ファウス『そ、そんな。』
ビクトリアはそっぽを向く。
ビクトリア『何を泣き言など言うか。』
ヴェイロークが前に出る。
ヴェイローク『ビクトリア様!失礼ながら貴族連合とロズマール帝国は講和を結びました。もうここに居る必要はないのでは?』
ビクトリアはヴェイロークを見る。
ビクトリア『エグゼナーレ様は次期盟主に指名されていた。盟主のエグゼナッセ様がお亡くなりになった今、盟主様はほぼエグゼナーレ様に確定でしょう。』
ビクトリアはファウスを見る。
ビクトリア『ファウス。お前はアレス王国の心象を良くするためにそこに留まるのです。いいですね。』
ファウスは顔を下げ、右手を握り締める。
ヴェイローク『しかし、我がアレス王国は次期王を建てていません。』
ビクトリアは眉を顰め、ヴェイロークを見た後、眼を閉じて、暫くして開ける。
ビクトリア『…各国も混乱を極めているという。まっ、まあ、それが収まるまではアレス王国は暫くこの私が治めます。盟主様も…そのまだ教皇様に任命されておりませんし…。』
ヴェイロークはファウスを見た後、ビクトリアを見る。
ヴェイローク『では、王が選定されるのは盟主様が確定された後ということになりますか。』
ビクトリアは頷き、ファウスの方を見る。
ビクトリア『亡きお前の父上もきっとそう言われる筈。これは国家の為なのですから。』
ファウスは立ち上がり、俯く。
ファウス『…はい。』
ビクトリアは溜息をつき、バクールドに目配せをする。バクールドはビクトリアの方を向いた後、その場から去る。
ビクトリア『先日、ロズマール帝国のヴロイヴォローグとかいう獣人が我が王の遺体を返還しに来ました。』
暫くしてアレス王国兵士達が棺桶を担いでくる。モニターの中央に置かれるそれには花束を敷き詰められた上にマールの遺体が置かれている。ファウスは顔を上げて一歩前に踏み出す。
ファウス『お父様!』
ファウスはその場に膝を着いて、モニターへ近づいていく。手を掲げるファウスの眼からは涙が毀れている。
ファウス『お父様。お父様。』
ビクトリア『葬儀に出席できないのだから王に暫くの間別れを告げなさい。』
ファウスの瞳に映るマール遺体。
城壁を歩く俯くファウスとカスト。
カスト『ファウス様が…葬儀にも出られないなんて…。ひどすぎます!』
ファウス『もう、いいよ。カスト。国の為だもの。』
ファウスとカストの横をシュヴィナ王国兵士の何人かが駆けていく。顔をあげるファウス。
ざわめき。
トーマ城玉座の間の手前ではシュヴィナ王国兵士達の人だかりでき、シュヴィナ王国の兵士二人が血に染まった白い布切れを被せられた担架を運んでいく。ファウスとカストは顔を合わせ、そこへ駆けて行く。ファウスはシュヴィナ王国兵士Aに近寄る。
ファウス『いったい何が?』
シュヴィナ王国兵士Aはファウスを見る。
シュヴィナ王国兵士A『ファウス王子様か。』
シュヴィナ王国兵士Aは少し屈んで前の方を指差す。
シュヴィナ王国兵士A『宅配員が斬られたのです。』
唖然とするファウス。
ファウス『どうして!?』
シュヴィナ王国兵士A『それは…宅配員がダンボールに盟主様の御首を入れて持ってきたのでエグゼナーレ様の逆鱗に触れて。』
ファウスは眉を顰め、カストを連れて人ごみを掻き分けて進む。人ごみから抜け出ると、城壁の床に飛び散った血しぶきの跡、開いたダンボール。そして、散乱する保冷剤と新聞紙の破片。ダンボールの送り主の所にはアリファベルト・ハンクロッツァと書かれている。
ファウスは暫し、立ち尽くす。眼を見開いて手を口に当てるカスト。ファウスは傍らのシュヴィナ王国兵士Bを見つめる。
ファウス『・・・エグゼナーレ様は?』
シュヴィナ王国兵士Bはファウスを見、前の方を指差す。
シュヴィナ王国兵士B『・・・あちらの自室にこもっておられます。』
ファウスはシュヴィナ王国兵士Bが指差した建物へと駆けていく。付いて行くカスト。薄暗い廊下を渡るファウスとカスト。
すすり泣く声。壮麗な装飾が施された扉の前で止まる二人。ファウスは扉に手を当て、しゃがんで鍵穴から中を覗く。
内部では薄明かりの下、エグゼナーレはエグゼナッセの生首を見つめている。
エグゼナーレ『お父様・・・お父様。』
エグゼナーレはエグゼナッセの生首を抱きしめた後、自身の顔に近づけてその唇にキスをする。
エグゼナーレ『こんなにもお慕いしておりましたのに・・・。』
エグゼナーレの頬を涙が垂れている。エグゼナーレは眼を閉じ、暫くして開けるとエグゼナッセの唇に舌を入れてディープキスをする。ファウスは鍵穴から離れ、立ち上がる。
ファウス『エグゼナーレ様・・・。』
カストがファウスの傍らによる。
カスト『ファウス様。何が?』
ファウスは首を横に振って、胸に手を当てる。
C8 帰還 END
C9 後始末
トーマ城アレス王国ファウスの寝室。ヴェイロークは扉を開き、アレス王国の方角を向き祈りを捧げるファウスを見て俯くと扉を閉じる。扉を2回程叩く音が鳴り、靴音が響く。
デンザイン『どなたか?』
モーヴェ『大臣のモーヴェだ。』
デンザイン『この様な時間に何の御用でございましょう?』
モーヴェ『ファウス王子は?』
デンザイン『ファウス様ならば喪に服している最中でございます。』
ヴェイローク『我々はこの地に残る故。』
モーヴェ『ファウス王子はご立派であらせられるな。第二次遠征に参加する予定だった王侯達のほとんどが自領に引き返す中、この地に留まることを決心なさるとは真に立派な志。ロズマール帝国と講和を結び、アクマドがあるとはいえ、先の戦で精鋭を失った心ともない我が軍には強力な味方。シュヴィナとアレスの友情。我々、シュヴィナの者達も感謝いたします。では、私はこれにて。』
扉の軋む音。
ヴェイローク『大臣がこんな所にそのような事を仰せられに来たのでは無いでしょう。』
扉の軋む音。
モーヴェ『いや、流石に喪に服している最中に…。』
ヴェイローク『何かあったのですか?』
モーヴェ『…いや、実はロズマール帝国の兵士がヴァルデガの関所付近に現れまして…。』
デンザイン『講和を結んでおいて兵を遣すとは…。何という悪逆!』
モーヴェ『守備部隊は壊滅し、そやつは城下町に入り込みました。』
デンザイン『か、壊滅と?敵の兵力の規模は?』
モーヴェ『胸に狼のエムブレムを付けた新鋭の人型機構1機…。』
ヴェイローク『た、たかが1機の人型機構に関所の守備部隊が壊滅させられたというのか!』
ファウスの寝室の扉が少し開く。モーヴェは頷く。
モーヴェ『悪逆非道の帝国は偽りの講和により我々を騙まし討ちにしたのです。まあ、幸いヨネス王子達の部隊が討伐に向かっている故、大丈夫かと。』
ヴェイローク『まずいぞ、各国の王侯が四散している状況で本軍に攻め入られでもすれば…。』
ファウスの寝室の扉が勢い良く開き、ファウスが飛び出す。
デンザイン『ファウス様!?』
ファウスはアレス王国控室から駆け出して行く。
ヴェイローク『ファウス様!どちらへ?』
トーマ城に停泊するヴェルクシュイヴァン級機動城塞の格納庫にたむろするエガロとその配下達。
エガロの配下A『はぁ〜。』
エガロは煙草を口から外すと床に押し付ける。
エガロ『これから…どうすっかな。』
駆け込むファウスはロード・ヴェルクーク級人型機構に乗り込み、発進させる。眼を見開いて立ち上がるエガロとその配下達。
C9 後始末 END
C10 我が命…
トーマ城城下町スラム街。崩壊した大量の建物と瓦礫の山、破壊された大量のヨネス王国のヴェルクーク級人型機構と破壊されたヨネス王国機動城塞。
ヨネス王国人型機構3機を、ナイフを両手に持ち、左側は逆手で持つ、胸に狼のエムブレムを付けたヴェイ・コマンダー級人型機構が1機を蹴り、突進してそのコックピットにナイフを突き刺す。背後を取り、上段に剣をかざす2機目を肘打ちで仰け反らせ、一刀両断に切り裂き、切りかかる3機目を肩部の砲塔で粉砕する。
その場から離れた距離に居るヨネス王国のロード・ヴェルクーク級人型機構が一歩後ろに下がり、その手前に紺色のパラディン・ヴェルクーク級人型機構が出る。歓声を上げる見物人達。中には酒を飲み、弁当を食べている者、賭博をする者も居る。
アレス王国のロード・ヴェルクーク級人型機構が彼らの背後に現れる。見上げる彼ら。アレス王国のロード・ヴェルクーク級人型機構に登場するファウスがヴェイ・コマンダー級人型機構に通信するが、モニターはノイズを映した後に消える。ヴェイ・コマンダー級人型機構の肩部の砲塔がファウス機の方を向くが、再び元の位置に戻す。ファウス機は方向転換する。
紺色のパラディン・ヴェルクーク級人型機構とヨネス王国のロード・ヴェルクーク級人型機構は顔を見合わせる。砲音が鳴り、爆発が巻き起こる。煙の中から飛び出すヨネス王国人型機構。駆け寄るアレス王国ロード・ヴェルクーク級人型機構。仁王立ちする右腕を失った紺色のパラディン・ヴェルクーク級人型機構。ヨネスがヨネス王国ロード・ヴェルクーク級人型機構のコックピットから飛び出、ファウス機を見上げる。
ヨナン『ファウス・・・か。』
ファウスのホログラムがヨナンの隣に映る
ファウス『ヨナン様!大丈夫ですか?』
ヨナンはファウスのホログラムを睨みつける。
ヨナン『だ、大丈夫なわけがないだろう!部隊は壊滅…。』
金属音が鳴り、正面を向くヨネスとファウスのホログラム。紺色のパラディン・ヴェルクーク級人型機構の剣がヴェイ・コマンダー級人型機構の腹部に当たり、弾き飛ばされる。押される紺色のパラディン・ヴェルクーク級人型機構。
ヨナン『な、なんて硬さだ…。』
ヨナンは青ざめ、紺色のパラディン・ヴェルクーク級人型機構を指さす。
ヨナン『ア、アドヴァンの奴でさえ、あの通りだろうが!』
ヴェイ・コマンダー級人型機構へと切りかかる紺色のパラディン・ヴェルクーク級人型機構を見た後、ファウスのホログラムを見つめるヨナンはコックピットから飛び出る。
ファウス『ヨナン様!どちらへ?』
ヨナン『お、俺は応援を呼びに行ってくる。』
ヨナンはその場から駆け去っていく。紺色のヴェルクーク級人型機構がコックピットを切り裂かれ、ビルに飛ばされる。剥き出しのコックピットからは腹部から内臓がはみ出、血だらけのヨネス王国の巨人血腫アドヴァンが居る。近寄るファウス機のコックピットのハッチが開き、ファウスが現れる。
ファウス『だ、大丈夫ですか?今、傷の手当てに…。』
アドヴァンはファウスを睨み付ける。爆音。四散するアドヴァン機、投げ出されるファウス機と地面に叩きつけられるファウスにアドヴァン。
ファウス『あぅ。』
ファウスは頭を押さえた後、アドヴァンを見る。
ファウス『だ、大丈夫で…ひっ?』
ファウスの目に映る両足を吹き飛ばされたアドヴァン。ファウスはアドヴァンに向かい走る。アドヴァンはファウスを睨み付け、手を払う動作をする。
アドヴァン『馬鹿野郎!早く自機に戻れ!』
ファウス『そ、そんな!でも、それでは…あなたが。』
アドヴァン『私情にとらわれるな!このままでは共倒れだ!早く自機に戻れ!!』
立ち止まるファウス。
ファウス『そんな…できない。僕はあなたを見殺しにすることなんて!そんなの嫌だ!!』
肩部の砲塔がファウス機に向けられる。アドヴァンは舌打ちし、ファウスを見た後、笑みを浮かべ、槍を地面に突き刺すとそれを腕で握りしめ、立ち上がる。
アドヴァン『我、死に場所を見つけたり!』
アドヴァンの眼が七色の光のオーラに包まれる。
アドヴァン『見えた!あの七色の光ぃいいいいい!!』
アドヴァンは槍をしならせ呪文を唱えると、ヴェイ・コマンダー級人型機構の左胸部の狼のエムブレムへ七色の火の玉となり飛んでいく。
アドヴァン『我が名はアドヴァン!ファウス王子、後は託したぞおおおおおーーーーーっ!!!』
ヴェイ・コマンダー級人型機構は手をかざすが、アドヴァンは狼のエムブレムを貫き、廃墟のビルに当たって焦げ目を作る。ヴェイ・コマンダー級人型機構のバックパックに穴が開き、燃料があふれ出す。
ファウス『…アドヴァンさん。』
ファウスはのけぞり、砲を上空へと発射するヴェイ・コマンダー級人型機構を見つめた後、それの背後の廃墟のビルを見ると頷き、自機に乗り込む。
ファウス機は立ち上がり、ヴェイ・コマンダー級人型機構へと駆け寄る。バランスを崩すヴェイ・コマンダー級人型機構へレイピアを構えて突進する。ヴェイ・コマンダー級人型機構はファウス機の突進したレイピアの一撃をかわし、コックピット部分に蹴りを入れる。ファウス機はバランスを崩し、その場に倒れこむ。ヴェイ・コマンダー級人型機構はナイフをファウス機のコックピットに向けて突く。
抜刀したエガロが上空より現れ、ヴェイ・コマンダー級人型機構のナイフを斬り払い、ファウス機のコックピットを叩く。
エガロ『開けろ!!さっさと開けろ!!!』
ファウス機のコックピットが開き、刀を持った手を押さえ入るエガロ。エガロは片目を閉じ、ファウスを見る。
エガロ『ち、流石にしばらくこっちは使えそうにないぜ。』
エガロはヴェイ・コマンダー級人型機構の方を向く。
エガロ『まったく!指揮官がみすみす一兵卒みたいなことをやるんじゃねえ!』
ファウス『ご、ごめんなさい。』
エガロは計器のボタンを押し、補佐用の操縦輪を装着する。転がるファウス機。地面を突き刺すヴェイ・コマンダー級のナイフ。ファウス機はレイピアで背中から溢れる燃料が体を覆うヴェイ・コマンダー級人型機構の横腹を突くが、レイピアは弧を描いてしなる。
エガロは眼を見開く。レイピアを戻すファウス機にナイフを投げるヴェイ・コマンダー級人型機構。ファウス機は起き、レイピアを構えてナイフを弾き、横に飛ぶ。爆発が巻き起こり、土煙を立てて崩壊する廃墟のビル群。廃墟のビルの背後に隠れるファウス機。エガロは計器のボタンを押して、画面に映るヴェイ・コマンダー級人型機構を見る。
エガロ『ちっ、何て装甲だ。それにまるで隙がねえ。』
エガロはファウスの方を向く。
エガロ『が、暫く逃げ隠れしてりゃ奴はそのうち燃料切れだ。』
ファウス『逃げ回るなんて、そんなの卑怯だよ。』
エガロはファウスを睨み付ける。
エガロ『馬鹿か、お前は!!そんなこと言ってる余裕があるのか?奴は相当な手練れだ!現に…。』
エガロは舌打ちする。ファウス機は横に飛び出し、ヴェイ・コマンダー級人型機構の方に頭部を向けると斜め後方の廃墟のビル群の中に逃げ込む。爆音が鳴り、倒壊するファウス機が先程まで隠れていたビル。
エガロ『現に手も足もでねえじゃねえか…。』
青ざめ、俯くファウス。ファウス機は真横のビル群へと駆ける。ファウス機の頭部が七色に輝くヴェイ・コマンダー級人型機構を捉える。ヴェイ・コマンダー級人型機構はファウス機が身を隠すビル群の方角へ砲撃する。爆発と倒壊が起こるビル群。
エガロは喉を鳴らし、額から汗を垂らす。ファウスはエガロの方を見つめる。
ファウス『どうしたの?』
エガロ『光やがった…。』
エガロは眉を顰めて舌打ちをし、画面に映るヴェイ・コマンダー級人型機構を見つめる。
エガロ『まずいな。ああなっちまたら操縦主が死ぬか、機体が破壊されるまで動き続ける…。』
ファウスは眼を見開く。
ファウス『そんな…。』
エガロ『よくあることだが厄介だな。援軍が来るまで持ちこたえられるか…。』
ファウス機は手前のビル群れに入る。爆発と共に倒壊する後方のビル群。エガロはファウスの方を向く。
エガロ『確か左胸部に穴が開いていたな。』
ファウスは頷く。
エガロ『こうなれば、やりたくはねえがやるしかねえ。』
エガロはファウスの方を向く。
エガロ『ファウス様。』
ファウス機はヴェイ・コマンダー級人型機構の近くのビル群に駆け込む。爆発と共に倒壊する後方のビル群。ファウスは操縦席から身を乗り出す。
ファウス『は、はい…。』
エガロ『守れないかもしれねえが、その時は許してくれよ。』
ファウスは頷く。爆発音。ファウス機は崩れ落ちる廃墟のビル群れから躍り出るとヴェイ・コマンダー級人型機構の左胸の穴にレイピアを突き刺すが、レイピアはしなりファウス機は持ち上げられ、前方に投げ飛ばされる。
ファウス『うわっ!』
ファウスは操縦席から投げ出され、エガロはバランスを崩して転倒する。レイピアが投げ捨てられ、肩部の砲塔がファウス機に向けられる。眼を閉じるファウス。エガロはファウス機の腰部のマンゴーシュを見る。ファウス機は腰部からマンゴーシュを取り出し、ヴェイ・コマンダー級人型機構の左胸部へ投げる。左胸に開いた穴から肩部の砲塔にかけマンゴーシュが貫き、大爆発を起こす。
ヴェイ・コマンダー級人型機構の頭部と左半分が吹き飛ばされ、倒れこむヴェイ・コマンダー級人型機構。ファウス機は投げ捨てられたレイピアを取り、半壊し、燃え盛るヴェイ・コマンダー級人型機構に向ける。
吹きさらしにされたコックピットからは血だらけのロズマール帝国軍人大佐で犬獣人のヴロイヴォローグが頭を押さえて居る。エガロは腕を押さえて、倒れこみ、ため息をつく。エガロに駆け寄るファウス。
ファウス『エガロ、大丈夫。』
エガロはファウスを見る。
エガロ『王子、何やってんだ。早く奴にとどめを刺せ。早く!』
ファウスは首を横に振り、ファウス機のコックピットのハッチを開け、出ていく。
エガロ『お、おい!おい!!』
エガロは舌打ちする。ファウスはコックピットのハッチの端まで進む。ファウスを睨み付けるヴロイヴォローグ。
ファウス『もう、勝負は着きました。降伏してください!』
ヴロイヴォローグは眉を顰める。
ファウス『これ以上、無駄な争いは必要ありません。どうか降伏を…。』
ヴロイヴォローグは笑い出す。
ヴロイヴォローグ『はははっ、降伏だと?何を言うか!貴様らに付けられた帝国の汚名!悪辣なことをする貴族どもめが!!』
ファウスは胸に手を当てる。
ファウス『えっ、な、何を…何を言っているんですか?あなたは講和を破り、ヴァルデガの関所を…。』
ヴロイヴォローグは眉を顰め、ファウスを睨み付ける。
ヴロイヴォローグ『とぼけた奴だ。帝国の使者として来たがこれでは捕縛され処刑されようと攻め入って殺されようと我が国の濡れ衣は変わらん。だがな小僧!どんな奴らにも決してあの光を消させはせぬ!!ガギグルスと共に歩み、ゼオンと共に築きあげた帝国を!!!ハンクロッツァごとき小人の為に…貴様らのえげつない手段によって消してはならんのだ!あの灯りを!!』
立ち上がるヴェイ・コマンダー級人型機構。ヴロイヴォローグはファウスを見下ろす。ファウス機のコックピットから出てくるエガロ。
ヴロイヴォローグ『我が命、帝国の灯とならん!!』
ヴロイヴォローグは腹に無数に巻きつけられたダイナマイトと共にファウスに飛びかかる。唖然とするファウス。ファウスに手を伸ばすエガロ。
アレス王国の白いパラディン・ヴェルクーク級人型機構の一閃により、ヴロイヴォローグの胴体は真っ二つにされてファウス機との中間で爆破し、四散する。
ファウス機のコックピットのハッチ、地面に落ちる焦げ付いた無数の肉片。崩れ落ちるファウス。エガロは立ち止まり、アレス王国の白いパラディン・ヴェルクーク級人型機構を見る。白いパラディン・ヴェルクーク級人型機構のコックピットのハッチが開き、ヴェイロークが現れ、ファウス機のコックピットのハッチに飛び乗る。
ヴェイローク『大丈夫ですか?ファウス様…。』
ファウスは暫し、呆然とする。
子供A『せっかく特等席まで来たのに〜。』
ファウスはゆっくりと下を見下ろす。子供達が5、6人瓦礫の上に座って居る。
子供B『え〜もう終わったの〜。つまんな〜い。』
子供C『もっと、見たかったのにぃ。』
子供D『次まだぁ。』
エガロがファウスの後から子供達を見下ろす。
エガロ『おい、ガキども!ここは危ねえぞ!』
子供A『きゃー怖い!』
子供B『逃げろ逃げろ〜。』
子供達は笑いながら駆けていく。
子供たちの声『きゃはははははははは。きゃははははははは。』
エガロは腕組みをする。
エガロ『まったく・・・。』
コックピットのハッチに呆然と立ち尽くすファウス。
C10 我が命…