英雄伝説〜光と闇の軌跡〜 340 |
〜アクシスピラー・屋上〜
「や、やった……!」
「ヘッ……見たか!」
地面に跪いているレーヴェを見たエステルは喜びの声を上げ、アガットは不敵な笑みを浮かべた。
「はあ、はあ……」
「武術大会の時以上に疲れたねえ………」
クローゼは息を切らせ、オリビエは疲れた表情で溜息を吐いた。
「……なかなかやるが、俺の修羅を止めるほどではない。」
しかし、地面に跪いていたレーヴェは平気な様子で立ち上がった!
「ど、どうして……!?」
それを見たエステルは信じられない表情をした。
「所詮、お前たち遊撃士は人を守るだけの存在だ。『理』に至りもしなければ『修羅』に届く道理はない。小手調べはここまで―――そろそろ全力で潰してやろう。」
「くっ………だったら………!」
レーヴェが剣を構え直すのを見たエステルは腕輪を掲げて、カファルーを召喚しようとしたが
「……だったら、レーヴェ。ここから先は僕1人で挑ませてもらうよ。」
「ヨ、ヨシュア……!?」
静かに呟いたヨシュアの言葉に驚き、行動を中断した。
「ほう……」
一方レーヴェも驚き、興味ありげな視線でヨシュアを見た。
「大丈夫、エステル。確かにレーヴェは強すぎるけど、それでもレーヴェにもダメージは効いている。あとは……僕にやらせてほしい。」
「ヨシュア……」
「ヘッ、本当なら俺も落とし前を付けたいところだが……。仕方ねえ、お前にだったら譲ってやってもいいぜ。その代わり……絶対に負けるんじゃねえぞ!」
ヨシュアの言葉を聞いたエステルは心配そうな表情で見つめ、アガットは口元に笑みを浮かべて激励の言葉をかけた。
「はい、必ず。」
そしてエステル達は2人の戦いを見守る為に後ろに退いた。
「フフ、確かに今の戦闘で俺の機動力は幾らか落ちている。その一点においてのみ、勝機があるかもしれないが……それでも勝率は限りなく低いぞ?」
「……分かってる。姉さんが救い、教授が繕い、父さんが解き放ち、そして今、エステルと共にあるこの魂……。遊撃士としての心得と”漆黒の牙”としての技……」
レーヴェの言葉に静かに頷いたヨシュアは答えた後
「その全てをもって……”剣帝”に挑ませてもらう!!」
双剣を構えて高々と叫んだ!
「いいだろう……来い……”漆黒の牙”!」
一方レーヴェも剣をヨシュアに向けて、叫んだ!
そして2人は戦い始めた!2人の戦いはほぼ互角で一進一退の攻防だったが、その攻防の途中、ヨシュアがレーヴェに一閃を喰らわせる事に成功した!
「フフ……やるな。……ならばこちらも全開で行かせてもらうぞ。」
「!!!」
そしてレーヴェは周囲の空気を震わせるほどのすざましい闘気を纏った!そして一気に間合いをつめてヨシュアに一閃を喰らわせた!そこからの攻防はレーヴェが圧倒的でヨシュアは防御するのに精一杯だった。
「くっ……!」
レーヴェの攻撃を双剣で受け止めたヨシュアは鍔迫り合いの状態で呻いた。
「どうした、ヨシュア!唯一勝るスピードを活かさずにどうやって勝機を掴むつもりだ!?」
「………………………………。……ねえ、レーヴェ。1つだけ答えて欲しいんだ。どうして教授に協力してこんなことをしているのか……」
レーヴェの言葉に対し、ヨシュアは静かに問いかけた。
「!!」
ヨシュアの問いかけに対し、レーヴェは顔色を変えた。
「前に……カリン姉さんの復讐が目的じゃないって言ったよね。『この世に問いかけるため』……それは一体……どういう意味なの?」
「………………………………。……大したことじゃない。人という存在の可能性を試してみたくなっただけだ。」
「人の可能性……」
レーヴェの言葉を聞いたヨシュアは訳がわからない様子で呟いた。
「時代の流れ、国家の論理、価値観と倫理観の変化……。とにかく人という存在は大きなものに翻弄されがちだ。そして時に、その狭間に落ちて身動きの取れぬまま消えていく……。俺たちのハーメル村のように。」
「!!」
「この都市に関しても同じことだ。かつて人は、こうした天上都市で満ち足りた日々を送っていたという。だが、”大崩壊”と時を同じくして人は楽園を捨て地上へと落ち延びた。そして都市は封印され……人々はその存在を忘れてしまった。まるで都合が悪いものを忘れ去ろうとするかのようにな……」
「………………………………」
「真実というものは容易く隠蔽され、人は信じたい現実のみを受け入れる。それが人の弱さであり、限界だ。だが”輝く環”はその圧倒的な力と存在感をもって人に真実を突きつけるだろう。国家という後ろ盾を失った時、自分たちがいかに無力であるか……自分たちの便利な生活がどれだけ脆弱なものであったか……。そう……自己欺瞞によって見えなくされていた全てをな。」
「それを……それを皆に思い知らせるのがレーヴェの目的ってこと……?」
レーヴェの話を聞いたヨシュアは真剣な表情でレーヴェを睨んで尋ねた。
「そうだ。欺瞞を抱える限り、人は同じことを繰り返すだろう。第2、第3のハーメルの悲劇がこれからも起こり続けるだろう。何人ものカリンが死ぬだろう。俺は―――それを防ぐために”身喰らう蛇”に身を投じた。そのためには……修羅と化しても悔いはない。」
「………………………………。それこそ……欺瞞じゃないか。」
「…………なに?」
不敵な笑みを浮かべて言ったレーヴェだったが、ヨシュアが呟いた言葉を聞き、目を細めた。
「僕も弱い人間だから……レーヴェの言葉は胸に痛いよ。でも……人は大きなものの前で無力であるだけの存在じゃない。10年前のあの日……僕を救ってくれた姉さんのように。」
「…………ッ……………」
「そのことにレーヴェが気付いていないはずがないんだ。あんなにも姉さんを大切に想っていたレーヴェが……。だったら……やっぱりそれは欺瞞だと思う。」
「…………クッ………………」
ヨシュアの言葉を聞いたレーヴェは顔を歪めた後、鍔迫り合いの状態でヨシュアを後ろに押し返して、自分も一端後退した。
「カリンは特別だ!あんな人間がそう簡単にいてたまるものか!だからこそ―――人は試されなくてはならない!弱さと欺瞞という罪を贖(あがな)うことができるのかを!カリンの犠牲に値するのかを!」
「だったら―――それは僕が証明してみせる!姉さんを犠牲にして生き延びた弱くて、嘘つきなこの僕が……。エステルたちと出会うことで自分の進むべき道を見つけられた!レーヴェのいるここまで辿り着くことができた!人は―――人の間にある限りただ無力なだけの存在じゃない!」
レーヴェの叫びに対し、ヨシュアも叫んだ!
「!!!」
ヨシュアの言葉にレーヴェは驚いたその時、ヨシュアは一気に間合いを詰めて、連続で突きの攻撃をした後、最後にすざましい一撃でレーヴェの剣を弾き飛ばした!
「あ……」
剣を弾き飛ばされたレーヴェは弾き飛ばされた手を見つめた。
「はあっ……はあっ…………はあっ……はあっ……」
そしてヨシュアは疲労を隠せない様子で息を切らせていた。
「や、やった……」
「ヘッ……勝負アリ、だな。」
「フッ、勝負がついたようだね………」
「ヨシュアさん………」
その様子を見守っていたエステル達は明るい表情をした。
「ふうっ……はあっ…………ふうっ……ふうっ……」
一方ヨシュアはかなりの力を使った影響なのか、戦闘後でもかなり息を切らせていた。
「俺に生じた一点の隙に全ての力を叩きこんだか……。まったく……呆れたヤツだ。」
「はあ……はあ……。……ダメ……かな……?」
レーヴェの言葉を聞いていたヨシュアは何度も息を切らせながら尋ねた。
「フッ……。”剣帝”が剣を落とされたのではどんな言い訳も通用しないだろう。素直に負けを認めるしかなさそうだ。」
「…………あ………………」
不敵な笑みを浮かべたレーヴェの言葉をヨシュアが聞いて呆けたその時
「やったああああっ!」
エステル達がヨシュアに駆け寄った。
「凄い!凄いよヨシュア!あの”剣帝”に勝ったんだよ!しかも……剣だけを弾くなんて!」
「そうでもしない限り……万に一つの勝ち目もなかったからね。なるべく相手を傷付けずに無力化することを優先する……。父さんに教わった遊撃士の心得が役に立ったよ。」
はしゃいでいるエステルにヨシュアは立ち上がって苦笑しながら答えた。
「そっか……」
「なるほどな……。”教授”に仕込まれた技術と”剣聖”から教わった心得……その2つを使いこなせば俺が敗れるのも道理か……」
「レーヴェ……」
「………………………………。俺は人という存在を試すために”身喰らう蛇”に協力していた。その答えの一つを出した以上、もはや協力する義理はなくなった。そろそろ……抜ける頃合いかもしれないな。」
「あ……!」
レーヴェの答えを聞いたヨシュアはいきなりレーヴェに抱きついた。
「良かった……本当に良かった!……レーヴェが……レーヴェが戻って来てくれた!」
「お、おい……」
自分に抱きついて嬉しそうに言うヨシュアにレーヴェは戸惑った。
「父さんに引き取られてからもずっと気にかかっていたんだ……。……声や顔は思い出せるけど誰なのかぜんぜん思い出せなくて……。やっと思い出せたと思ったら……敵として立ち塞がっていて……。……ずっと……不安だったんだ……」
「そうか……」
「あ、あの〜……」
ヨシュアとレーヴェの会話を聞いていたエステルは戸惑いながら声をかけようとした。
(やれやれ……。マセてても、まだまだ甘えたい盛りのガキってところか。)
(そ、そうなのかなぁ?)
アガットの小声の言葉にエステルは首を傾げ
(な、なんだか………凄く仲がいいんですね………うらやましい…………)
(ちょっと、クローゼ………そこで顔を赤らめないでよ………)
さらにクローゼの小声の言葉にはエステルは顔を赤らめ
(ああっ、ボクのヨシュア君が他の男にあんな風に甘えて………ボクのシャイな男心はジェラシーでバーニングさっ。)
(あんたはまぜっ返すなあっ!)
オリビエの小声の言葉を聞いたエステルはオリビエに怒った。
「ご、ごめんエステル……何だかはしゃいじゃって……。まだ何も解決してないのに……」
「ヨシュア……。もう、そんなことでいちいち謝らなくていいわよ。久しぶりの仲直りなんでしょ?いっぱいお兄さんに甘えなくちゃ!」
「あ、甘えるって……」
「フフ……。エステル・ブライト。……お前には感謝しなくてはな。」
「ふえっ……!?」
レーヴェの言葉を聞いたエステルは驚いてレーヴェを見た。
「ヨシュアの事……。俺には出来なかったことを軽々とやってのけたのだから。そして、様々な者たちを……あげくの果てにはあの”剣皇”達をも導いてここまで辿り着いた……。フフ……本当におかしな娘だ。」
「な、なんか全然、感謝されてる気がしないんですけど……」
レーヴェの言葉を聞いたエステルはジト目でレーヴェを睨んだ。
「アガット・クロスナー。竜気をまといし必殺の重剣技、なかなかどうして大したものだ。フフ……少しは前に進めたようじゃないか?」
「お、おう……。って、したり顔で分かったような口利いてんじゃねえっての!オッサンそっくりだぞ、あんた!」
そして次に声をかけられたアガットは戸惑いながら頷いた後、レーヴェを睨んで言った。さらにレーヴェはクローゼに視線を向けて言った。
「クローディア姫……いや、王太女殿下だったな。女王宮で俺が言った言葉、今でも覚えているかな?」
「『……国家というのは、巨大で複雑なオーブメントと同じだ。』あの時の貴方の言葉、今ではこの上なく真実に思えます。でも……そうした仕組みだけが人の世のあり方ではないと思うんです。
私は探してみたい……数多の巨大な歯車が稼働する中でも人が人らしくいられる世のあり方を。甘いと仰られるかもしれませんが……」
「そこまで思い至ったのなら俺ごときが口出すまでもない。その誇り高き決意に敬意を表させてもらおう。」
「……ありがとうございます。」
レーヴェの言葉を聞いたクローゼは微笑んで頷いた。そして最後にレーヴェはオリビエを見て言った。
「そちらは……オリヴァルト皇子か……ここ一年ほど、ハーメルの事件について嗅ぎ回っていたようだが。」
「やれやれ、さすがに”結社”には筒抜けだったか。」
レーヴェの言葉を聞いたオリビエは溜息を吐いた。
「…………………………分からんな……何故それほどに拘る。仮にも皇族、大人しくしていれば見ずとも済むことだろう。」
「……そうだな、理由は君と似ているかもしれない。都合の悪いことからは目を逸らし、安易な平穏のみを享受する……そんな欺瞞は見逃せないというだけさ。……ただ、君のように世の中全ての欺瞞を叩き潰そうとは思わないがね。いまこの手の届くところで明らかにしていくつもりだ。」
「フッ……精々気を付けることだな。眼前の敵ばかりが牙を剥くとは限らんぞ。」
「ご忠告、ありがたく受け取っておこう。」
不敵な笑みを浮かべて言ったレーヴェの忠告にオリビエは口もとに笑みを浮かべて頷いた。
「………………やはり、今はお前達の傍にいないか………」
そしてレーヴェはエステル達を見回して、若干残念そうな表情で呟いた。
「へ?いないって………誰の事??」
レーヴェの言葉を聞いたエステルは首を傾げて尋ねた。
「……プリネ・K・マーシルン。……奴には個人的に聞きたい事がかなりあったのだがな………」
「……………(やっぱりレーヴェもプリネを姉さんだと疑っているんだね……)……………」
「あ〜……プリネなら今はモルテニア――メンフィルの戦艦にいるから、後であたしが会えるようにしておくわ。(あれ?もしかしてレーヴェもプリネがカリンさんである事に気付いているのかな??)」
レーヴェの言葉を聞いたヨシュアはレーヴェから目を逸らして考え込み、エステルは答えた後、心の中で首を傾げていた。
「……そうか。感謝する。」
エステルの言葉を聞いたレーヴェは口元に笑みを浮かべて言った。
「そういえば……どうしてレーヴェはここにいたの?まさか、この魔法陣みたいなのが”輝く環”ってことはないわよね?」
「いや、これは単なる光学術式だ。”根源区画”より送られた力を“奇蹟”に変換するためのな……」
エステルの疑問にレーヴェは静かに答えた。
「!!!」
「”根源区画”……そこに”輝く環”があるんだね?」
レーヴェの言葉にエステルは驚き、ヨシュアは静かに尋ねた。
「ああ……。この”中枢塔”はいわば、”環”の力を都市全域に伝えるためのアンテナ兼トランスミッターにあたる。その直接的な影響範囲はおよそ半径1000セルジュ。端末である”ゴスペル”を中継すればリベールはおろか、大陸全土にも影響を及ぼすことができるそうだ。」
「と、とんでもないわね……。それじゃあ、異変を止めるには”根源区画”にある”輝く環”をどうにかする必要があるのよね?」
「そういうことだ。だが、”環”はそう簡単にどうにかできる代物ではない。アーティファクトの一種らしいが、自律的に思考する機能を備え、異物や敵対者を容赦なく排除する。1200年前、”環”を異次元に封印したリベール王家の始祖もさぞかし苦労させられたそうだ。そしてお前たちは、その苦労に加えて”白面”も相手にしなくてはならない。」
エステルに尋ねられたレーヴェは静かな表情で警告した。
「!!」
「……当然、そうなるだろうね。でも、レーヴェが協力してくれたら教授にだって対抗できる気がする。」
「こいつめ……。俺が付いて来るのを当然のようにアテにしてるな?」
「へへ……」
苦笑したレーヴェに見つめられ、ヨシュアが口元に笑みを浮かべたその時…………!
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第340話 | ||
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