IS/3th Kind Of Cybertronian 第九話「Real Steel3」 |
猛然と襲い掛かってきた鉤爪をジャンプして回避し、サンダーソードはカットオフの顔面を蹴り付けた。
ごん、と鈍い音が鳴る。巨大なディセプティコンは仰け反りつつ数歩後ろに下がった。
だが、すぐに体勢を立て直して向かってくる。
「マクシマルのちびすけめ。人間なんかの味方をしていると後悔させてやるぞ!」
「そっちこそ、今のうちに考え直したらどうだ!」
サンダーソードは両足のブースターを使って宙に浮かぶと、両手のプラズマガンを連射した。カットオフは両目からビームを撃って応戦する。
白熱するプラズマと赤いビームが激しく行き交う。互いに攻撃を避けつつ、距離を詰めてゆく。
サンダーソードもカットオフも、得意とするのは自身の最大の武器が威力を発揮できる、接近戦だった。
二体のトランスフォーマーの影が交差しようとした、その瞬間。サンダーソードは右手のエネルゴンセイバーを掲げ、カットオフは左の鉤爪を構えた。
先に仕掛けたのは大型ディセプティコンだった。アスファルトを抉りつつ、下からすくい上げるように鉤爪を振るう。
弧を描く分、直進するサンダーソードよりは遅い。回避・停止するよりも、むしろ速度を上げて敵の懐に飛び込むべきだ。
サンダーソードはブースターの出力を上げ、カットオフの胴体と腰を繋げる接続部に狙いを定めた。
メタリカトーを学んだサンダーソードは、相手の弱点や急所を見極める術を持っている。稼働する分、装甲が薄く刃が入れやすい接続部から、内部の神経回路をいくつか切断してやれば、カットオフの動きは少なからず制限されるだろう。
だが、カットオフは予想外の動きをした。
両足を地面を突き立て、急停止。左腕を振る勢いのまま、上半身だけを激しく横回転させた。
真横に広げられた鋼の両腕がサンダーソードを弾き飛ばす。彼はその勢いに抵抗せず、そのままカットオフの腕から逃れようとする。
だが、重機のディセプティコンはそれを許さなかった。ワイヤーで繋がった両手首を射出し、攻撃範囲を大幅に広げた。
まるで巨大な丸鋸のように、周囲にある建物や原油タンクを薙ぎ払ってゆく。コンクリートの破片やひしゃげた金属の柱が宙を舞う。
カットオフが無差別に破壊しているかと言えば、そうではない。回転によって鉤爪を振り回し、エネルゴンセイバーが届かない距離を保ちつつも、サンダーソードに向けてビームを発射していた。
サンダーソードは両手に握った剣で光線や飛んでくる様々な破片を払い落しつつ、両肩に備わった装甲板から手裏剣を六枚放った。
これは、彼が気に入っている武装の一つだ。意思一つで自在に軌道を変えられる上に、煙幕や爆弾など多様な効果を持たせることができる。
六枚の内の半分は、激しく振り回される鉤爪に叩き落とされた。だが、残りの三枚は防御を掻い潜ってカットオフの頭部や腹部、右足に衝突し、爆炎を吹き上げた。
それでも、敵の装甲を破るには至らなかったが、真っ赤な炎に包まれたディセプティコンは僅かに怯み、回転速度を落とした。
それを見て、サンダーソードは再び、カットオフに向かって突進した。
彼が装備している火器では、カットオフに致命的なダメージを与えることはできない。
エネルゴンセイバーを用いたメタリカトーの技をぶつけられるチャンスは、一つたりとも見逃したくなかった。
カットオフは炎を振り払うと、地面を駆けて近づいてくるマクシマルに、右の鉤爪を放った。音速を突破して迫る五本の槍に、サンダーソードは臆しもしない。
鉤爪を踏み台にし、カットオフの顔面に向かって跳躍した。その衝撃で、進行方向を下に九十度変えられた鉤爪がアスファルトを貫いて地中に潜る。
サンダーソードは、文字通りカットオフの目と鼻――は、付いていないが――の先でエネルゴンセイバーを振り上げた。
金色の刃が狙うのは、敵の視覚センサーだ。目が見えないという状態はトランスフォーマーにとっても不便なもので、気勢をそぐには十分な効果があるだろう。
だが、ユニクロン戦争を生き抜いた大型ディセプティコンは、そう易々と刃を受けたりはしなかった。
カットオフの目が赤く輝く。ビームを撃って、顔の前の蠅を撃ち落とすか、追い払うつもりなのだ。
刀身は既に音の壁を切り裂き、何物をも縦に割る勢いに乗っている。回避や防御に転じれば、その勢いは失われてしまう。
多少体勢を崩しても剣は振れるが、敵の装甲に弾かれるのが落ちだ。
なので、サンダーソードは身に纏った青い鎧が胸の奥のスパークを守ってくれることを信じて、そのまま斬撃を繰り出した。
と同時にカットオフの左目からビームが発射され、サンダーソードの胸部装甲を直撃した。神経回路を駆け巡る激痛は、愉快な感覚とは言えなかった。
ビームの勢いに押されたサンダーソードは、胸から融解した金属の滴を撒き散らしつつ、背中から地面に落ちた。すぐに立ち上がり、ディセプティコンの巨影から飛び離れたが、追撃はなかった。
顔を上げると、カットオフは右目を手で押さえ、悶え苦しんでいた。爪の間から隙間見れば、カットオフの獣のような顔の右半分に縦一閃の刀傷が刻まれていた。右目は機能を失っている。
サンダーソードは胸の傷に手を当てた。ビームの熱で融かされ、穴が穿たれている。焼き切られた神経回路がずきずきと痛んだ。
だが、スパークに被害は及んでいない。
生きている。戦える。サンダーソードは両腕からプラズマ弾を発射した。何発も、何発も。
まだ混乱から立ち直っていないカットオフは、全身に被弾し、その場で後ろに倒れた。小さな地震が起こる。
傷ついたディセプティコンは、先程のような威圧感も自信も、すっかり失ってしまっていた。今は、ちょっと変わった重機にしか過ぎない。
サンダーソードも無傷ではなかったが、どうにか両足で立っていた。歩けるし、まだまだ戦える。
青い侍は武器を構えたまま、ゆっくりとカットオフに近寄った。もしかしたら、敵は自分が受けた印象ほど、ダメージを負っていないかもしれない………
機能が完全に停止したと確認するまで、油断するわけにはいかなかった。
遠方から爆音が聞こえる。爆発物に事欠かないこの場所では、驚くべきものではない。
サンダーソードは足を止め、前方に視線を振り向けた。カットオフの向こう、道路の奥から何かがやって来る。
大地を駆ける、黄色い首長竜……巨大なショベルカーだ。弾丸のような勢い。
それを見て、サンダーソードは忌々しげに唸った。彼の高性能の視覚センサーは、ショベルカーの操縦席に誰も乗っていないことを確認していた。
そして、窓にペイントされた、ディセプティコンのインシグニアも。
「スイング、トランスフォーム!」
疾走しつつ、ショベルカーが咆哮する。低い男の声だ。
車体上部が百八十度回転。アームが左腕、操縦席が右腕に変形する。
車体後部は、今や分厚い装甲を備えた胸だ。
右肩と左肩の間に、蟹のように平たい頭が生える。赤く輝く単眼。
無限軌道はそのまま二本の足に変形し、カットオフに劣らない巨体を支えた。
走行の勢いのまま、新手のディセプティコンがサンダーソードに接近してきた。彼らの間には、カットオフという障害物が横たわっている。
スイングは躓きはしなかった。外見よりもずっと軽やかに跳躍すると、カットオフを飛び越え、姿勢を整え………ショベルの左腕をサンダーソードに振り下ろした。
「粉々にしてやる、マクシマルめ!」
恐ろしい破壊力を予感したマクシマルは全力で後ろに跳んだ。
それは、パンチというより、爆撃に近かった。ショベルがサンダーソードの代わりに叩いた道路に、大きな穴が穿たれる。
アスファルトは微塵に砕け、その下の土は間欠泉のように吹き上がり、茶色い柱が天を突いた。
空中にいたサンダーソードは、発生した衝撃波に煽られ姿勢を崩したが、問題なく着地した。
道路は皹だらけで、お世辞にも良い足場とは言えない。幸い、空が飛べるサンダーソードにとって、それほど不利な条件ではなかったが。
スイングの右手から砲身が伸びる。その先にいるのは、当然サンダーソードだ。
放たれたのは電磁加速された砲弾。それが、一秒間に百発。
超音速で飛来する殺意を、サンダーソードは飛んで跳ねてかわした。それでも当たりそうな弾は、剣で叩き落とした。
戦況は、あまりよくない。
というより、かなり悪い。
サンダーソードはロボット流に舌打ちした。
こちらは、動けないほどではないにしろ傷ついている。
対して、途中参加のスイングはまったくの無傷だ。
今は倒れているカットオフも、死んでいるわけではない。その内、復活して戦いに参加するはずだ。
古兵のディセプティコン二体に、若輩者のサンダーソードがどれだけ立ちまわれるか。
(これくらいで弱音を吐いてたら、ファンダメンツとはとても戦えないぞ)
砲弾をエネルゴンセイバーで打ち返すと、サンダーソードはスイングと向き合った。敵は熱くなった銃身を冷却している最中だ。
サンダーソードは、散々弾を撃ち込んでくれたお返しに、スイングにプラズマ弾をお見舞いした。
スイングは避けることさえしなかった。前方に掲げたショベルの左腕を盾にし、プラズマ弾を防ぐ。
サンダーソードは右側から回り込むように走りながら、プラズマ弾を撃ち続けた。
幸い、カットオフに回転攻撃によって、辺り一帯の建物は悉く薙ぎ払われており、走行を邪魔する物はない。
「おとなしくしていろ!」
スイングは再び、右腕のレールガンを連射した。
間断なく刻まれる銃痕がサンダーソードを追う。身軽なマクシマルは、0.5秒前にいた場所に弾をぶち込まれながらも、慌てることなく精密な射撃を敢行していた。
もちろん、スイングにも優秀な予測装置が搭載されており、弾道計算などお手の物だ。しかし、その体重と図体のせいで、完全にはかわしきれない。
肩や足にプラズマ弾を受け、スイングは苛立たしげに唸った。そして、どうやら一番頼れる武器に物を言わせるつもりのようだった。
スイングは足の無限軌道を回転させ、削られる地面を犠牲に加速すると、サンダーソードに向けて巨大な左腕を繰り出した。
大質量の必殺パンチに、サンダーソードは臆することなく立ち向かった。
脚部のブースターで加速。ショベルと衝突する寸前で体を捻り、パンチを左手に見流しながら回避。
そのまま、独楽のように高速で回転しつつ、エネルゴンセイバーの切っ先を外側に向け、スイングの左腕を切り裂いた。
そして、反撃を受ける前に高速で敵から離れる。ヒット&アウェイだ。
相手が増えたからといって、焦りは禁物である。
どう気張ったところで、サンダーソードには、大型ディセプティコンを一瞬で戦闘不能にするような兵器は搭載されていない。
細かくダメージを与え、敵を逆上させることで隙を作らせ、より大きなダメージに繋げる。
それがサンダーソードの作戦だった。
「ちょこまかと動きおって……これでも喰らえ!」
スイングが、傷を負った左腕を前に突き出した。
サンダーソードは二本の刀を交差させて構えた。果たして、ビームが出るかミサイルが出るか。
だが、実際にはそのどれでもなかった。次の瞬間、空中にいたサンダーソードは、強烈な力でスイングの左腕に吸い寄せられた。
「うわあっ!?」
まるで、見えない手に掴まれているかのようだ。サンダーソードは全力でブースターを吹かしたが、僅かに引き寄せられる速度が遅くなるだけで、抗えない。肩と腰の装甲板はがたがたと震え、今にも剥がれ落ちてしまいそうだ。
センサーが訴えるところによれば、スイングの左腕のショベルから、強力な磁力が発生している。頭から爪先まで金属製のトランスフォーマーを相手にするには最良の武器だろう。
つまり、サンダーソードにとっては最悪ということだ。
必死の抵抗もむなしく、小柄なマクシマルはスイングの左腕に激突した。甲高い音が辺り一面に響く。
ショベルの表面に貼り付いたサンダーソードは、まるで蠅取り紙に捕らわれた蠅のように哀れだった。
「はははは。こうなると、もうちょこまかできまい?」
スイングが単眼を光らせながら哂う。
サンダーソードは何か言い返そうかと思ったが、事実、指一本動かせない状態だった。
指を握り込んだ両手は、エネルゴンセイバーの柄とショベルに挟まれたまま固定されている。
プラズマ弾を撃とうにも、磁力のせいで腕の装甲が展開できず、砲身を外に出すことができない。
そこで、サンダーソードはスパークのエネルギーを電撃に変え、スイングに放つことにした。
そのために必要なのは、一瞬の精神集中………だが、スイングはそれを待ってくれるほど、優しい男ではなかった。
左腕を龍の首のように天高く掲げると、躊躇いもなく地面に向けて振り下ろした。先端にサンダーソードをくっつけたまま。
スイングは、サンダーソードのスパークどころか、ボディ全体を粉砕するつもりのようだ。
そして、このままだと、その目論見は確実に成功する。
ああ、畜生、とサンダーソードは吐き捨てた。この時ばかりは、他種族のコミュニケーションに特化したミニサイズの体が恨めしい。
サンダーソードの両肩に備わった装甲板のスリットから、四枚の手裏剣が射出される。
当然、それらは磁力に吸い寄せられ、ショベルの表面に貼り付いた。
サンダーソードは、念仏と、創造神プライムに捧げる祈りを胸の内で唱えると、手裏剣を起爆させた。
まず爆音が響き、光学センサーが真っ赤に染まり、全身を引き裂くような衝撃がサンダーソードを襲った。屈強のディセプティコンもこれには耐えられず、背中から倒れ込んだ。
どんな勇敢なマクシマルでも、自爆は滅多にしない。しかし、その爆風のおかげで、サンダーソードは磁力の罠から逃れることができた。
吹き飛ばされた勢いのまま、敵から離れ、地面に落ちる直前で姿勢を整え着地。だが、予定していたようには行かず、右の膝が地を着きそうになる。
粉々になるよりはマシだが、ゼロ距離爆破によるダメージも、そう軽くはない。
何より………右手に握っていたエネルゴンセイバーは、まだスイングのショベルに貼り付いたままだ。
スイングはそのことに気付くと、立ち上がり、これ見よがしに、エネルゴンセイバーを地面に叩きつけて破壊した。刀身は圧し折れ、柄は曲がり、もはや鉛筆を削る役にも立たない。
二刀流を得意とするサンダーソードにとっては、片腕をもぎ取られたのと同じくらいの痛手だった。エネルゴンセイバーそのものは生成が可能ではあるが、戦闘中には無理だ。
サンダーソードは、残ったエネルゴンセイバーを正眼に構えた。
だが………得てして、悪いことは続くものだ。
ダウンしていたカットオフが立ち上がり、スイングの隣に並んだ。
「だらしがないぞ、兄弟」
「すまねえ、スイング」
二足歩行の重機達が短く言葉を交わすと、赤い三条の視線がサンダーソードを貫いた。
殺気が混じった、レーザーのように剣呑な視線。これ以上、戦いを長引かせるつもりはないようだ。
固まっていたディセプティコン達が、ぱっと二手に分かれた。スイングは右に、カットオフが左に跳ぶと、それぞれの速度でサンダーソードに向かって走り出した。
サンダーソードは両腕と両肩の兵器を展開し、攻撃を仕掛けた。プラズマ弾が飛び、爆炎が牙を剥く。
しかし、まだほとんどダメージを負っていないスイングはもちろん、仲間の助勢によって自信と戦意を取り戻したカットオフも、まったく怯まない。
サンダーソードは、迫り来る津波に小石を投げ付けているような気分になった。まあ、危険度は似たようなものだ。
カットオフが獣の雄たけびを上げながら、右の鉤爪を発射した。
既に見切った攻撃だ。恐れるに足らない。
サンダーソードは冷静に、エネルゴンセイバーの切っ先を鉤爪に向けると、刀身から一条の稲妻を放った。
青白い稲妻は毒蛇のように鉤爪に絡みつくと、ワイヤーを這い上り、カットオフ本体に噛み付いた。
「がががっ、がっ!」
感電したカットオフは背を仰け反らせた。勢いを失った鉤爪が、サンダーソードの目の前の地面に突き刺さる。
サンダーソードはエネルゴンセイバーを閃かせ、カットオフの腕と鉤爪を繋ぐワイヤーを切断した。これで、敵の武器が一つ減ったことになる。
それを喜ぶ間もなく、サンダーソードの足が道路から離れた。
自発的な行動ではない。スイングが発生させた超磁力だ。
憎たらしいマクシマルが自分の胸の前にやってくると、スイングは磁力を止めた。当然、突如として慈悲の心に目覚めたわけではない。
スイングは左腕を野球のバットのように振り抜き、先端のショベルでサンダーソードを叩きのめした。
今度は、着地さえできなかった。地面に落ちたサンダーソードは何度もバウンドし、転がり、ようやく停止すると、その場に横たわった。
右肩の装甲は、大きく歪んでいた。スイングのショベルから胸のスパークを守るため、咄嗟に防御したのだ。
お陰で、サンダーソードはまだ生きているが、エネルゴンセイバーを杖代わりに立ち上がるのがやっとだった。エネルギーも、残り少ない。
今、彼の足を支えているのは、胸の中に燃える使命感だった。
ファンダメンツを野放しにしておけば、この星も、セイバートロン星も闇に覆われる。スパークが消えるその瞬間まで、諦めるつもりはない。
大地が揺れる。二体のディセプティコンが近付いてくる。
スイングがレールガンの銃口をサンダーソードに向けた。カットオフの目は赤く光っていた。
「言い残す言葉は?」
サンダーソードはスイングを睨みながら答えた。
「お前たちには負けない」
そして、電磁加速された砲弾と、赤いビームがサンダーソードに殺到した。
説明 | ||
にじファンから移転。本作品は、ISとトランスフォーマーシリーズのクロスオーバーSSです。オリジナル主人公および独自設定を含みますのでご注意ください。 | ||
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