リリカルなのは×デビルサバイバー As編 |
変化というものは、いきなり訪れるものである。それが良いことでも悪いことであってもだ。
そうであるなら、今からカイトに訪れる変化は、果たしてどちらのものになるのだろうか?
はやて達との出会いから数時間後、カイトは一人でテレビを見ながらご飯を食べていた。
そんな時、カイトの携帯の着信音が鳴り響いた。携帯を手に取り、着信相手を確認する。
「クロノ……? あぁ、戻ってきたのか。予想よりも速いな」
フェイトを連れ、ミッドチルダに向かった管理局員達。その中には当然クロノも居り、そのクロノから電話が掛かって来たということは、地球に戻ってきたという事がわかる。
「やっとでたのかっ!! 一体何をしていたんだ!?」
「何をしてたって、ご飯食べてたんだけど」
「ご飯……? って、何を言ってるんだ! ついさっきまで起きていた事に気づいていないのか!?」
会話のドッジボールとは、この事を言うのだろうか? クロノがいう言葉を、カイトは理解することができない。
「はぁ? 落ち着いてくれないか。正直なにが起こってるのか、俺にはさっぱりわからないのだけど?」
「……本当に気づいてないのか? あれだけの魔力で張られた結界だぞ?」
呆れた様な、クロノの声。
それにイライラしながらも、返事を返す。
「知らん。というか勘違いしてないか? 俺にリンカーコア……だっけ? あれの魔力を感じることは出来ない」
「……分かった。ちょっと待っていてくれ、すぐに迎えを君の方によこす」
「ちょっ!?」
カイトの返事も聞かずに、クロノからの通信が切れる。それだけ焦っているのだろうが、カイトにとっては非常に迷惑この上ない。
「なんだかなぁ……」
色々と思うことはあるものの、迎えが来てしまうものは仕方ないと、考えを変えてご飯を食べる事に集中する。何が起きても大丈夫なように。
* * *
時空航空艦アースラ……この艦にカイトが乗るのは、PT事件と呼ばれたあの事件以来だ。その風貌に当然変わりはないが、その代わりに管理局員達の慌しい様子を見ることが出来る。
管理局員に連れられ、研究区画のとある一室にカイトは来ていた。
そこにはクロノだけでなく、エイミィ……そしてフェイトの姿があった。
フェイトはカイトの姿を見るやいなや、すごい勢いで詰め寄り、襟を掴んだ。
「なんで……!? なんで、なのはを守ってくれなかったの!?」
「……はぁ?」
寝耳に水とはこの事か。やはり、カイトに事態を理解する事はできず、戸惑いながら視線をクロノ達へと向ける。
「フェイトちゃん、ストップストップ! さっき言ったでしょ? カイト君には、魔力を感知出来なかったんだって!」
「でも……! この人ならなのはを!!」
カイトは襟を掴んでいる、フェイトの手を強引に引き剥がした。
「どうでもいいけど、説明してくれないかな……。これ以上放置されるなら俺は帰る」
そう言って、カイトはクロノ達に背を向ける。それを見たクロノは慌てたように、カイトを止める。
「説明ならする! だからちょっと待ってくれ。ここでは映像を映せないから、口頭になるけど……」
「それでもいい。つまらん言いがかりを付けられるよりマシだ」
* * *
クロノからの話を要約すると、闇の書という名の危険な本があり、その本の守護騎士達となのはが接触。返り討ちになったという事らしい。それからなのはの状態と、どうして守護騎士達がそんな行動をしたのかを、クロノとエイミィから聞いた後のカイトの会との反応はというと。
「俺には関係ないな」
という、とても分かりやすい結論だった。
カイトの結論を聞いた、三名は面食らったように、ポカーンと口を開けている。
「聞いた所天使とは関係なさそうだし、というかクロノ。俺は、お前の言う一般人じゃないの? PT事件時に言ってた、素人は引っ込んでろ発言はどうした。今回はお前の望みどおり、引っ込んでてやるぞ」
カイトの言葉に、クロノは言葉をつまらせる。だが、引っ込みがつかないのかカイトに食って掛かる。
「あの時の言葉で気分を悪くしたなら謝る。だがそんな事を言っている場合じゃないんだ! あの本……闇の書は危険だ。今は少しでも戦力がほしい……それが悪魔の力なら尚更だっ!!」
テンションが上がっていくクロノと対比して、カイトのテンションはどんどん下がっていく。
「……悪魔の力、ね」
「……? なんだ?」
「いや、なんでもない。そういう事なら力を貸すことは出来ない」
その一言で、その場の空気が一瞬で凍った。カイトはその事を気にもせずに話をすすめる。
「俺はあまり悪魔の力を使いたくないんだ。今回の件で天使が関わっていたのなら、俺も関わらない」
そう言ったカイトの脳裏に思い浮かぶのは、悪魔の力を振るったが故に、人々に排斥され……殺されそうになった少女と、その力を持ってしまったからこそ、巻き込まれてしまった一人の女性の姿だった。
そのイメージを払うかのように顔を振ると、クロノ達をまっすぐと見て。
「という訳だ。俺は帰る」
カイトはクロノ達に背を向け、立ち去ろうとする……が、その前に、一つ問いかけた。
「……なのはのいる場所は分かるか? せめて、傷だけは回復させておくよ」
エイミィからなのはの部屋を聞き、なのはとユーノの居る部屋へと向かうのだった。
* * *
消毒用のアルコールの匂いが辺りに漂っている。病院とかで、よく嗅ぐあの匂いだ。
その匂いの中を、カイトは一歩ずつではあるが進んでいく。
エイミィに教えられた部屋番号を見つけ、カイトはその部屋の扉をノックする。すると、少年の声で「どうぞ」と聞こえてきた。
「失礼します」
一言言ってカイトは部屋に入る。
部屋にはユーノと、清潔そうな布団の中で少し苦しそうに、眠っているなのはが居る。
「あ、カイトさん…? どうかしたんですか?」
「傷だけは治してやろう、そう思ったんだ」
カイトはなのはに近づくと、手を伸ばし一言「ディアラハン」と唱えた。すると、あちこちにあった小さな傷が癒えていく。
「流石にリンカーコアは専門外だから、回復させることは出来ないけどね……」
先程より顔色は良くなっているが、なのはは相変わらず苦しそうにしている。
「そう、なのか……でもありがとう。なのはを心配してくれて」
「……俺は動いちゃ駄目だからな。せめてこれぐらいはする」
「動いちゃ駄目?」
「いや、なんでもない。それじゃ俺は帰るよ」
そう言うとカイトは、部屋から出ようとするが、カイトの目の前にいきなりディスプレイが現れる。
「うわっ!」
『っと、ごめんごめん。さっき言うの忘れてたんだけど、カイトくん、身体検査受けてから帰ってね?』
「そんな話もあったな」と、カイトは思う。朝になのはから聞いていたのを、エイミィに言われるまですっかり忘れていた。
『カイトくんの中には、本来ありえるはずのない、魔導のちからがあるの。前例のない事だから、慎重にならないとね』
「……別に、問題は無いんだけどなぁ」
『甘いよっ! チョコレートより甘いんだよっ!! 病は気からとも言うし、気をつける所は気をつけないと』
「いや、言葉の使い方間違ってない?」
一つ溜息をつきつつも、カイトは身体検査を受けることを了承する。エイミィの様子から、何を言っても無駄だと思ったためだ。
『それなら良しっ! あ、そうだ。クロノくんが言ってたんだけど明日か明後日、時間あるかな?』
「明日なら良いよ。明後日は駄目だ」
『そっか。なら、明後日カイトくんを迎えに行くから、待っててくれるかな?』
「別にいいけど、なんのよう――」
『ありがとっ! それじゃ、またね〜!』
了承を取り付けるやいなや、すごい勢いでウインドウが閉じる。
カイトとユーノは顔を見合わせると、同時に「なんだこれ」と言った。
とはいえ、その場で立ち尽くしていても、意味なんてある訳がなく、カイトは部屋から出ていく。部屋から出るとき、カイトはふと思う「あれ? 身体検査何処で受けるんだろう」と。
* * *
海鳴市にある、とあるマンション。そこに一人で住んでいた八神はやてに、家族と呼べる者達が現れたのは、6月の最初の頃だった。
最初は自分を主と崇める、彼女たちに戸惑ったものの、はやての言葉と時間がはやてと騎士たちの絆を育んでいった。
晩御飯も食べて、リビングでゆっくりしているはやてのもとに、ヴィータが服を持って近づいてくる。
「はやて、はやて! 一緒にお風呂に入ろうぜ!」
「うん、えぇよ〜。シグナム達はどうする?」
シグナムと……他二人居るのだが、この場合は二人の内の一人である女性に話しかけている。
黄色というより、ベージュのような温かい髪の色を持つ女性……名をシャマルといった。
「私は後で入るとします。シャマルはどうする?」
「私もそれでいいです。はやてちゃんか、ヴィータちゃんどちらかならともかく、二人も入って更に私達も入るとなると、さすがに狭くなっちゃいますから」
二人の返答を聞き、少し残念そうにしながら、はやてはヴィータと風呂に入りに行った。それを見てから、シグナムはシャマルと……一人の屈強そうな男性、ザフィーラに声をかけた。
「どうかしたのか? お前が改めて話がある。等と言うのは、珍しいが?」
「あぁ、私もそう思うが……一つ気になる奴が居てな?」
「気になる?」
シグナムは頷き、夕方――ヴィータと共に、主であるはやてを迎えに行った時のことを話した。
「強大な魔力を持つ、男の子……ですか?」
「あぁそうだ。だが、奇妙でな? 魔力は感じるのだが、リンカーコアが無いと見える」
「え? それっておかしくないかしら? まさか、魔力を動力とする人形……でも無いみたいね?」
シグナムは再び頷く。少年――カイトの髪に触れた時に、確認している。
「……強大な魔力を持つのなら、あの白い少女の様に蒐集するか?」
「いや――。それは駄目だ。あの少年は、主を助けてくれた少女の友人であり、主とも仲良く話してくれた者だ。主との約束も守れない我らが言うのもあれだが……それでも、主の友人を傷つける事は避けたい。そうだろう?」
シャマルとザフィーラも、その言葉に同意をする。
「でも気になるわね……。リンカーコアが無いのに、魔力を持ってるなんて。一度、検査した方が良いんじゃないかしら?」
「あぁ、そこでだ。主にその少年と、もう一人の少女と遊ばれるように、進めたいと思う。それに、シャマル……お前が着いて行ってはくれないか?」
「なるほど! そこで私がばれない様に、検査をすればいいんですね?」
「あぁ、そうだ」と、シグナムは言う。別れ際、はやてはカイトとすずかと連絡先を交換している。一緒に遊ぶことは、カイトたちが了承さえすればだが、容易なことと言えるだろう。
「せっかくできた、はやてちゃんの友達ですもんね……。私、頑張りますっ!」
「あ、あぁ……。是非、頑張ってくれ」
うっかり属性を持つシャマルだが、その能力は確かなものである。少々心配ではあるが、シグナムはシャマルを信じることにした。
「……その関係上、もしかしたら今まで以上に負担がかかるかもしれないが皆、頼むぞ」
「気にするな。主のためだ」
嫌な顔ひとつ見せず、任せておけと言うザフィーラを見て、シグナムは思う。彼らが同じ騎士であって、良かった……と。
後はヴィータにも同じ話をするだけだ……と、思うのだが風呂から上がってきたヴィータはもう、眠気に誘い込まれており、この話は明日へと持ち越されることになるのだった。
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