fate/zero ?君と行く道?
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4話 夜間決闘

 

戦士の誉れとは何か?

それは数多の戦地を超え

幾千万の骸の山を築き上げ

その果てに華々しく散る事だ

 

 

 

 

 

 

 

オラクル細胞を使った手品紛いの一発芸をやったりして桜と戯れている内にすっかり日は沈み、冬木の街には街灯が灯り始めていた。

 

桜は遊び疲れたのか、俺の膝の上で眠ってしまっている。

気持ち良さそうに寝息をかいている桜を起こさないように注意しながら、オラクル細胞で出来た繊維を繋ぎ合わせてふかふかの枕を作り、そっと桜の頭を俺の膝の上から枕に移して立ち上がった。

 

 

「さてと、そろそろ行きますか。」

 

黒いコートを肩に羽織って窓から飛び出そうとした時、どこからか殺気の様なものを感じた。

思わず苦笑して肩を竦める。

 

 

「やれやれ血気盛んな連中がいたもんだ。」

 

とは言え探す手間が省けたのも事実。

俺は手の平を前にかざして頭の中にとある生物の姿を想像する。

すると、右手が淡く発光し、光の中から一匹の灰色の毛並みをした犬が現れた。

 

オラクル細胞で物を作る容量で生み出した分体だ。

一つの自立した生命の為、俺の身に何か起きたとしても活動出来るようになっている。

 

 

「桜に危害を加える奴が現れたら追っ払ってくれ。」

 

「ワン!」

 

「馬鹿っ、デカイ声出すんじゃねぇよ。桜起きちまうだろうが。」

 

俺にぴしゃりと叱られると子犬姿の分体は、くぅ〜んと申し訳なさそうに唸る。

それをわしゃわしゃと撫でた後、俺は窓から外に飛び立った。

 

 

出来るだけ人目につかないように注意しながら屋根から屋根に飛び移って移動して行く。

 

本当なら英霊に与えられる霊体化って能力を使いたい所なんだが、残念なことに俺は前の世界でも一応死んではいないからか霊体化出来ない。

死んでないなら霊じゃないから無理って事か?

ケチケチしやがって、そのくらい使えるようにしてくれたっていいじゃねぇかよ。

 

まぁその代わりと言っちゃ何だが、既に現界してるからマスターからの魔力供給がいらないって利点はある。

とは言えマスターに背後霊みたいに密かに付き従う事は出来ず、霊体化することによって実体化していた状態でつけられた傷を癒すって事も出来ないってのはちょっと痛い。

 

まぁ俺はそんな事しなくても大抵の傷ならすぐに治せるが、その度に一々オラクルを消費するから燃費が悪い。

そう何度も再生してたらすぐガス欠になっちまうだろう。

 

 

「まぁ元々イレギュラー召喚だったんだし、この際割り切っちゃおっと。」

 

そんなお気楽な発言をしているうちに殺気の発生源に到着した。

同時に先端にレンズが付いた筒状の分体を周囲に放つ。

倉庫と思われる建物の上に飛び乗って分体から送られて来る映像を受信しながら周辺の気配を探る。

 

目の前で打ち合ってるのは、赤い長槍と黄色の短槍を持った色男と、見えない剣らしき物をぶん回して応戦する女。

恐らく男の方がランサーで女の方がセイバーだろう。

 

二人の戦闘を色んな角度から観察する。

サーヴァントの戦闘能力とやらがどれほどのものか知っておきたかったのだが、見る限り充分俺の力も通じそうだ。

 

セイバーの後ろには赤い瞳に透き通るような白い肌と白い髪の姉ちゃんが控えている。

セイバーのマスターだろうか?それにしても堂々と姿を晒すなんて何考えてるんだ?

 

だがそんな疑問も色んな角度から観察する内に消え失せた。

ちなみに言っとくが、色んな角度から観さたけど下心なんて無いんだからね!絶対だからね!

 

 

と、おふざけはこの辺にして、あの真っ白な姉ちゃんにはマスターの証である令呪が見当たらないのだ。

十中八九この姉ちゃんはダミーだな。

となれば、付近に本物のマスターがいる可能性が高い。

更に索敵範囲を広げると……

 

 

「ビンゴ。」

 

見つけた、クレーンみたいなでっかい機械の上に狙撃銃を構えているオッサンがいた。

多分こいつがセイバーのマスターだろう。

 

偽のマスターで注意を引いてその隙に敵のマスターを見つけて狙撃する。

ムカつくくらい効率と結果を重視した戦法だ、蟲爺の記憶にもこんだけ結果に拘った方法を取る参加者はいないな。

同時に、オッサンと同じく狙撃銃を構えた姉ちゃんを発見した。

オッサンの協力者か何かだろう多分。

 

次に金髪の男、もしかしなくてもランサーのマスターだな。

しかし見るからに性根の腐った小男って雰囲気だ。まぁ魔術師何ぞこんなものだろう普通は。

 

最後に見つけたのは黒いマントを羽織って髑髏のお面をした不審者。

っていうか、あれってどう見てもアサシンじゃん。

介入する様子も無く静かに戦いを見守っている。

ただ偵察に来ただけなんだろう多分。

 

 

とりあえずこの場において確認出来るのはこんなもんだ。

まぁ他にも遠目に眺めるなり霊体化して潜んでるなりしてる奴がいてもおかしくはないがそこまで広範囲の気配を探るのは逆にこちらが気取られる可能性があるので遠慮したい。

 

 

「とりあえず観戦と行きますか。」

 

そう言ったそばからランサーが短槍の方を手放した。

長槍の方が宝具なのか?てっきり両方そうだと思ったんだけど。

両手持ちで握った真っ赤な長槍をランサーは目にも留まらぬ速さで振るう。

負けじとセイバーも迎撃するが、その瞬間驚くべき事が起きた。

ランサーの槍を受け止めた見えない剣が突然金色の光を放ち始めたのだ。

否、剣が発光したというよりも、フィルターを引っぺがされて隠していた刀身が露出したってとこかな。

その証拠に光っているのは槍を受け止めた切っ先の部分のみ。

心底驚いた様子のセイバーにもう一撃、二撃、三撃とランサーは槍を叩き込む。

その度にセイバーは険しい表情をしながらも切っ先を捌いて行く。

見るからに一方的な戦いになって来た。

 

初めの一撃で見えない剣の長さを見定めて最適な間合いを測ったんだろう。

セイバーが大きくバックステップして距離を取った後、勢い良く前に踏み込んだ。

一度開いた間合いの分だけ加速する、突風の様な猛進だ。

ランサーも同様に槍を突き出す姿勢で突進する。

 

セイバーは上半身を覆う鎧の耐久力に任せて相手の攻撃を弾きつつ懐に飛び込んで一刀両断にする腹積もりなんだろうが、そう簡単には行かないと思うが。

 

 

案の定、血飛沫が上がった、それもセイバーの。

 

 

分体で確認すると、セイバーの脇腹辺りから夥しい量の血が流れ、青い服が真っ赤に染まっている。

ランサーもまた無傷とは言えないようで、額から滴る血液を指先で拭っていた。

懐に入られた状態で振るわれた剣をよくもまぁ完全とは言えなくとも避けたものだと感心する一方で、ふと気がついた。

 

血は流れているのに、セイバーの鎧には損傷の痕が一切見られなかったのだ。

魔法で構築されているであろうあのいかにも硬そうな鎧をすり抜けて本体にダメージを与えたのか、はてまた鎧そのものを無効化したのか。

 

この場合は後者だろう。

さっき剣が光って見えた時も、剣を覆って見えなくしていたものを打ち消していたのならば説明が付く。

あの槍は接触している物の魔力を打ち消す能力があるってことか。

だから鎧を素通りして柔肌に攻撃出来た。

 

セイバーもそれを悟ったのか、腰だめに剣を構え直す。

直後に身体を覆っていた鎧が次々と消滅して行き、今まで隠蔽されていた剣が姿を現した。

金色に光る刀身は思わず息を飲む程の美しさと神々しさを放っており、感じ取れる魔力は正に規格外と言えた。

 

 

「やはりあの剣は…」

 

ランサーの赤い槍がセイバーの剣に触れた時からまさかとは思っていたが、今確信した。

アーサー王の伝説で語り継がれる騎士王アルトリア・ペンドラゴンの愛剣。

 

((約束された勝利の剣|エクスカリバー))だろう。

 

 

「ていうかアーサー王って女だったんだ。」

 

俺の世界にもアーサー王の伝説は存在していたが、「アーサー王は女の子でした」なんて設定はなかったし、蟲爺の記憶にもちゃんと男だったと記録されている。

 

 

「まぁそこの所は気にしなくても良いかな。」

 

元々史実の真偽なんて興味も無いし、重要なのはアーサー王としての能力の数々だ。

 

人類最強と謳われる規格外の宝具に加えて龍族の因子による強力な魔力、精霊や神々から与えられたあらゆる加護の数々。

史実から想定され得るものを上げて行くだけでも思わず溜息が出るほどのハイスペックさだ。

 

なるほど、最優のセイバークラスに相応しい…否、その中でも特に強力な部類に入る英霊だ。

それを技量一つで押してしているランサーも大概だが。

 

 

「あっちはフィオナ騎士団の一番槍、ディルムッド・オディナか。」

 

二本の槍に魅惑の呪いがかかった泣き黒子。

これだけで個人を特定するだけの情報としては十分だった。

((破魔の紅薔薇|ゲイ・ジャルグ))を使用したのが更なる決め手となったわけだが、あの男が輝く貌と言われた男ならば、もう一つの切り札が残っている。

セイバーはどうせ貫通されるなら身軽になった方が良いと思ったようだが、それは悪手だ。

 

そんなことはつゆ知らず、騎士王が魔力を放出しながら勢い良く飛び出した。

ジェット噴射の如き勢いで吹き出される魔力に後押しされ、金色の剣が音の速さで振るわれる。

常人ならざる一撃を前にして、長槍を持つ美男子は

 

 

不敵に笑っていた

 

 

セイバーが剣を振るう一瞬前に、ランサーは左足で何かをすくい上げた。

それは先程手放した黄色い短槍。

一瞬の早業でそれを左手に握りしめ、無防備な敵の喉笛を貫くべく突き出す。

 

再び交差する二人。

お互いの武器を振るった腕には決して浅くない傷が刻まれており、鮮血が流れ出していた。

 

程無くしてマスターの回復術によりランサーの左手の傷が癒えていく。

だが、セイバーの左手の傷は一向に塞がる気配を見せない。

セイバーと偽マスターが驚愕に目を見開く。

 

 

「決して癒えることのない傷を与えるという呪いの短槍、((必滅の黄薔薇|ゲイ・ボウ))か。綺麗な顔してえげつない得物持ってやがる。」

 

鎧を解除していなければあの一撃は防げただろうに。

ともあれ、これでセイバーの左手は使い物にならない筈。

現にセイバーは切りつけられた左手を握ったり開いたりしているがうまく動いていない様子だ。

 

 

「ありゃぁ、手の腱をやられたな。」

 

手を握れなくなるということは剣を取れなくなるということ。

それは剣士には致命的だ、おまけにただでさえ苦戦させられた相手に片手で戦わなければならないのだ。

 

 

「終わったな、最優ってのもあんがい呆気ないもんだったねぇ。」

 

このままランサーの勝利で終わるかと思っていた時だった。

 

 

空に突然の雷鳴が響き、巨大な影が飛来した。

 

 

 

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