戦極甲州物語 拾壱巻
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 最初は当主となることを恐れていたわけではなかった。

 

「あの……兄上」

 

 次子という立場ならば長子に何かあれば自分が家を継ぐ立場であることは知れたことであり、当然にその覚悟を求められる。信玄はそれを理解できないほど愚かではなく、逃げようと思うほど臆病ではなく、むしろその器量と才覚ゆえに自身に覚悟を決めることを求めた。

 

「…………」

「あ……」

 

 だがだからと言って兄から家督を奪い取ろうという気に至ることなど決してなかった。まずは長子。そして妹たる自分はこれを支える。

 そう思っていた。

 しかし物心がつく頃になると、だんだん自身が兄から疎まれているのではないかと考えることが増えた。

 理由はわからない。別に暴力を振るわれるわけでも、無視されるわけでもない。ただ無言のまま、張り付いたような笑みを浮かべて離れていくだけ。嫌われているわけではないようだが、何となく拒絶されている……それが、信玄にとって無性に悲しかった。

 血の繋がりがあってもなくても戦乱の世では骨肉の争いを繰り広げる。長子と次子が家督を争うことなど何ら珍しくもない。

 だが信玄は信繁と争う気などまったくなかった。

 

――『……大丈夫か?』

――『乗馬にここまで手こずるとは。お前にも御せぬものがあるのだな』

――『…………』

 

 信玄が病などでつらいときは静かに声をかけてそばにいてくれたし、慣れない乗馬に手間取って落馬しかけたときも支えてくれた。

 例え無言であっても悲しいときにはそばにいて頭を撫でてくれた。

 幼少の頃より父の信虎は戦に明け暮れ、信玄に接する時間は少なく、接している時にしてもその愛情に思惑を感じて素直に喜べなかった。ああ、この人はあくまで『優秀な後継者』である自分を見ている。優秀だから、目にかけてもらえているだけだ……と。母も母で、とても学識と倫理観の高い人ではあったが、それゆえに夫に従い支えることが妻の役目という立場に固執しており、信玄を優秀な当主として育てようとすることに注力した。家臣たちは傅役の信方であっても例外ではなく、当主の娘、未来の主という目で見られる。ゆえに家族とはやはり違うので、当然のことなのだが態度は恭しくなる。一言で言えば窮屈なのだ。信方のことは好きだが、彼女の生真面目さもあって、家族のような気軽さはなかった。

 

 

 

 そうした点で、信玄にとって信繁の存在は特別だった。

 

 

 

「……これまですまなかったな、信玄」

 

 ある日のことだ。

 信繁がいきなり信玄の自室に訪ねてきてそう言った。信玄には理由はわからなかったが、信繁は信玄が今でも思い出せるほどの柔らかく、それでいてすまなそうな笑顔を見せてくれた。信玄の記憶に残る信繁の笑顔の中でも、最も古いものだ。どうして今まであんな態度を取っていたのか、それは話してくれなかったが、どうしても素直に信玄を見ることができなかったこと、そしてそれは決して信玄のこれまでの言動や、その器量と才覚にあるわけではないということを語ってくれた。そしてその当時の信玄にとって理由などどうでもよく、ようやく兄に心から懐いても甘えてもよいのだとわかればそれでよかった。

 それからというもの、信繁は信廉や信龍が時に羨むほど信玄を殊の外大事にし、信玄もそれがわかるからこそ信繁を心から慕った。

 甘えても許される相手。受け止めてくれる相手。

 それができるただ1人の人。兄。

 もし彼がいなければ、信玄は心を完全に押し隠し、周囲の期待に応えねばならないとそのために生きていったことだろう。誰に頼ることもなく、父や母、家臣団に認められる優秀な後継者になるためと。

 そう思えばぞっとする。そんな人形のような人生を送っていたかと想像すると恐ろしくてたまらない。

 

 

 

 

 

 時が経ち、信繁が先に元服を迎え、初陣を済ませた。

 この頃、信玄は信虎の方針に疑問を覚え、同じく異論を抱えているらしい信繁に対しても、もっと効率的で良い方法があるではないかと不服を抱くことが増えてきた。信虎は信玄を殊更気に入って、明らかに信繁や信廉、信龍よりも優遇していたが、信玄が自分に意見することにまで許すほどの器量はなく、信玄も当然それを察していたから真っ向から信虎のやり方に物申すことはできなかった。信繁に対しても、兄に対してあまりに不遜という思いと、そして昔の信繁の態度を思い出してしまい、真っ向からは言えなかった。ただその代わりに遠回しにこれはどうかと提案したり、兄を助けるという形で関与したりすることで自身の考えを信繁に訴えてきた。幸いにして信繁は信玄の意見を跳ね返すような人ではなかったし、信玄の意見に異があればきちんと話をしてさらに議論を深めることもできた。

 

――『ふむ……すでに他家では実証されていることだ。いきなり導入することは無理でも、少しずつ慣らしていけば理解も得られよう』

――『じれったいものですね』

――『私とて幾度もそう思うた。なぜこれが理解できぬのか、とな。しかしな、信玄。国政とは、施政とは、そういうものだ。早期に結果が現れることなど稀なことであり、そしてそういうものは往々にして徳政令のようなその場凌ぎ程度の短期的効果しか持たぬもの』

――『腰を据えて臨めということですか?』

――『そういうことだ。治水はいい例であろう。堤が決壊し、応急的処理を施した。それはけだし、被害を可能な限り抑えることになったろう。しかし応急処置はあくまでその場凌ぎ。時が経てばまた決壊してしまおう。本格的に改善し、抜本的な革新を行おうとすれば時間がかかる』

――『はい、兄上。しかと心に留めておきます』

――『そうしてくれると説いた甲斐もあったというもの。ただ信玄、制度導入や新技術への関心といったお前の姿勢もまた大事なもの。古きものを重視するのはよいが、固執してはならぬ。新しきもの、外への関心は常に必要な視点だ』

――『つまり、古い新しいではなく、それが良きものか悪しきものかを見極めよ、ということですね』

――『そういうことだ。ふふ、まあこれも、甘利殿たちの受け売りである部分も大きいのだがな』

 

 信玄自身にも自覚があることで、信玄の考えはかなり先進的で革新的だった。他家がすでにやっていることを発展させただけというものもあるのだが、なにぶん武田家は従来のやり方に固執しがちな一面がある。いや、そもそもにして武家社会、ひいては日ノ本そのものがそういう頑なな性格を持っていると言えよう。だから自身の意見が理解されることは少ない。信方や虎泰でもそれは変わらなかった。生真面目な信方に、歳を取り過ぎた虎泰ゆえに、新しい制度や思想の導入にはついていきづらかったという事情もある。

 その中で信繁は信玄の話を理解し、理解しようと努め、自分なりの意見を以って返した。器量と才覚が信玄に1人理解してもらえないという孤独を感じさせる場面も多かったが、決して信玄は孤独ではないのだと思うことができたのだ。信玄の考えや姿勢に理解が及び、なおかつこれに意見を返せることのできる信繁という兄がいたから。

 

「…………」

 

 それでも信玄は自身の抑えが利かなくなっていく。

 信繁がいるというのに……いや、むしろ信繁がいるからこそなのかもしれない。どうして信繁のように理解できる人間が他にはいないのか。もっとこの考えを広めたい。認めてほしい。

 だんだんと不満は大きくなり、ふと信玄は恐ろしくなった。

 

「……私は今、何を考えて……!」

 

 ある夜のことだ。布団を払い除け、体を起こし、信玄は嫌な汗が背中に流れるのを感じながら震える手を見下ろす。

 どうして父も兄もこんなことができないのだろう? どうしてわからないのだろう?

 そんなことを考えていて、本当に一瞬思い浮かんだこと。

 

 

 

 

 

――自分がやった方が手っ取り早いではないか。

 

 

 

 

 

 信じられなかった。そして嫌悪した――自身を。

 信玄にとって自分を大事にしてくれる信虎も信繁も大事な家族だ。父であり、兄だ。信廉と信龍もまた然り、大事な妹たちだ。

 だと言うのに、自分が今考えたことはそんな彼らを冒涜するものである。

 そして信玄の頭の中には、如何に気づかれず、如何に合理的で素早く自分が当主になるかという方策が。

 父を当主の座から引きずり下ろし、兄から嫡子の座を簒奪するための。

 

「っ!」

 

 自分ではない。こんなことを考える自分は自分ではない。

 その夜、信玄は布団に潜り、自身を強く抱きしめながら朝まで震え続けたものだ。

 それからも必死でそんな思いを抑えつける日々が続いた。

 

「……兄上……!」

 

 そんなときだった。

 信繁から山本勘助という牢人を紹介されたのは。

 外見は正直にも褒められたものではなく、その態度も身分に合わぬ横柄なところがあり、横に控える信方も渋い顔をしていたもので。

 それでも信繁は彼を高評価しており、信玄もしばらくすれば彼の能力が実に高いと満足を覚えた。信繁以外にも自分の考えについていき、理解できるだけの者ができたのは大きい。

 それ自体はよかった。

 問題は、どうして信繁が見つけたこれほどの人材を信玄の配下に回したのかということ。

 

「どうしてですか……兄上!」

 

 直接問い質そうと思えばできた。そんな機会はいくらでもあった。

 しかし信玄はそれができなかった。理由は実に簡単、それでいて……実に不安で怖い。

 信繁は元服と初陣を済ませた頃より、奇妙なことに自分を前に出そうとはせず、常に誰かを何かを支えるような行動ばかりしていた。信玄から見て、明らかに信繁は故意に前に出ず、また父の不興を買ってでも武田と甲斐の国力の充実のために動いていた。

 信虎と信繁の確執がもはや誰の目から見ても明らかと映り、信玄の耳にも度々、信虎が信玄に家督を譲りたがっているという話が舞い込むようになった。

 

「やめて……やめてください……私は、当主になんて……!」

 

 恐ろしい。

 父や兄を排除して当主になろうと考える自分がいて、自分の能力が彼らに勝っていることを理解してしまう自分自身が、信玄は殊の外恐ろしかった。

 この身は、この心は、この存在は、父や兄を不仲にし、そして彼らを毒牙にかけることすら厭わなくなってしまうのではないか。

 どうして父や兄まで、その恐怖を助長するかのように自分を当主に据えたがるのか。

 

 

 

 

 

「次郎よ。今日よりお前は武田晴信と名乗るがよい」

「めでたい。これでお前も一人前の武田の一門だ。しっかりな」

「おめでとうございます、姉上」

「おめでとなのだ、信玄の姉上!」

「次郎様……いえ、晴信様。この信方、感無量でございます……!」

 

 信玄が元服し、晴信と名を改めても、信玄はまったく嬉しさなどなかった。これでいつ家督が自分に来てもおかしくない。一人前という扱いになってしまったのだから。

 そんな折に初陣を迎える。目標は信濃の海野口城。敵将は名将、平賀源心。

 信虎は落城敵わず撤退することになるが、信玄はこの時初めて自分の中の恐ろしい存在の訴えに耐えきれず、自分の力で海野口城を陥落させてしまう。初めて経験する戦場の熱が、信玄の心の抑制を緩ませてしまったからかもしれない。

 信虎の喜ぶ顔を見ながら信玄はどこかで父はどうしてこんな城1つにここまで苦戦しているのかと見下している自分に気づく。そんな自分に吐き気を覚え、そしてまた信玄の策を見抜いていたかのように即座に救援にやって来た信繁にも、内なる恐ろしい存在の訴えに負けたにも拘らず、それゆえの結果をむしろ喜んでいるかのような信繁の行動に不平を抱き、そしてよくやったと褒めて頭を撫でてくれた兄にまでそんなことを思った自分を嫌悪した。

 父も兄も、どうしてわかってくれないのか。どうしてこんな自分を当主に据えたがるのか。やめてほしい。

 

 

 

 そんな思いが、信玄にある行動を決意させた。

 

 

 

「晴信、待たぬか! どういう事じゃ!」

「晴信、出家とはいったいどういうことだ? そんな話、私は聞いていないぞ」

 

 出家したのだ。家督争いを避けるために、そしてそれ以上に――自分の中の黒い存在を抑えつけるために。そのために仏門に入るということは、ある意味で実に理に適っていたと信玄は思う。仏門に入れば、仏に縋れば、この黒い存在を抑え、そしていずれは消し去ることができるのではないかと。

 ……だがそれで事が上手くいくなどということはなかった。

 信繁は家臣団と同様に戸惑ったが、以降は信玄を当主にしようとするかのような行動は減った。たまにそれらしいことを聞いてくるようなことはあったが、信玄がはっきりと否と言えば話はそれまでだった。家臣団もまた然り。

 その程度ならば信玄にも我慢できる範囲だ。機嫌が悪くこそなれ、充分抑え切れる。

 しかし信虎はそうはいかなかった。言動はより荒々しくなり、家臣に対する罵詈雑言や暴力は日常茶飯事。そしてついに……些細なことで家臣を誅殺するに至ってしまった。

 

――『兄上……』

――『…………』

 

 その時の信繁の顔は忘れたくても忘れられない。

 山県虎清・馬場虎貞・工藤虎豊・内藤虎資。4将の死に際して見せた信繁の悲嘆のほどは他の者たちとはまた違った。その悲しみの度合いが。まるで自分を責めるかのような苦しみが、歪んだその顔にはありありと浮かんでいたのだから。

 信玄でさえかける言葉が浮かばなかった。何と声をかけていいものかわからなかった。

 そんな折の、この事態。

 謀反。そして父からの非情な命令。

 信繁を、この手で、殺す。

 もはや信玄にどうしたらいいのかなど、わからなかった……。

 

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 信玄の覇気が急速に勢いを増した。これまでの圧でさえお遊びに過ぎないと言われても全くおかしく思わないほどの圧に、信廉はふらつきながらも足腰に力を入れて踏ん張った。それでも信玄からは一歩、また一歩と下がってしまう。信龍は完全に腰が抜けたか、尻餅をついて信玄を震える体で見上げていた。

 信繁とて例外ではない。むしろその圧を一番にぶつけられているのが信繁なのだ。さすがに今度ばかりは隠しきれないのか、苦しそうに顔を歪めている。それでも信玄から目を離すことはない。

 

「やはり……悟っていたのだな、信玄」

 

 歯を食いしばりながらも口を開く信繁。信玄は無言のままだった。信虎を睨んでいたあの時と同じように信繁を睨みつけているが、瞳は揺れ続けており、信玄もまた何かに苦しむように顔を顰めていて。

 

「そうでなくば説明がつかぬ。お前は度々説得しようとする信方殿に、取りつく島もなく、それどころか話一つさせなかったそうではないか。それだけではない。今にして思えば、お前は家督や相続の話になると決まって頑なになった」

「…………」

「自分が当主に指名されることなどありえないと断じ、この兄が当主なのだと決めつけて。出家したこともそうだ。如何に山本殿からの提案だったとは言え、私の手伝いや外のことを知るためであったとしても、出家までする必要はない。そうした理由もあったのだろうが、お前は家督争いを避け、そしてそれ以上に、当主の座から離れんがために出家した」

 

 家督争いを避けるためであったことは信廉も信龍も知っていることだ。信虎とて知っている。これは隠されたことではない。信玄はそれを明確にして出家したのだ。

 だがしかし逆に言えば、それは信玄が、自身が後継者として有力な候補者となっていたことを自覚していたという証でもある。

 信方が説得しようとしてもなかなかその段階にすら入れなかったことといい、昌景や勘助が家督について信玄の意思を問うていた際に叱りつけたことといい、妹だからこそ兄である信繁の立場を立てていたという見方もできるが、それにしては徹底されている。家督とは決して長子が継ぐと決まっているわけではない。嫡子と長子とは同じではないのだ。確かに日ノ本でも大陸でも、武門に限らず貴族や皇族においても長子というのは無視などできない肩書きである。長子が継ぐべきであるという考えは実に根強い。だが絶対ではなく、次子や養子が継ぐこととて珍しいわけではない。

 

「信玄、お前は情報の分析と精査に優れている。それはお前が私の政務の助けにと持ってきてくれた情報からも窺える」

 

 情報は重要だ。その点で信玄が齎した民の実情に関しての情報はとても助けになった。だが民が望んでいることは数多い。

 情報を収集してきたら次に大事なのは分析と精査だ。実は信玄が齎した情報はそれほど多いわけではない。そもそも情報を収集するのなら、人海戦術こそが最も効率がいい。もちろん密かに進める必要があればその道に長けた者が必要になるだろうけれど、特に秘匿性の高いものではないのなら公然と行っても構わない。信玄は多くの情報を統合し、その中で本当に必要なものは何か、矛盾していることはないかを吟味し、その上で信繁に伝えてきた。そしてそれは功を奏している。

 

「ならばわかるはずだ。自身の能力が。そして私とお前の能力の差が」

「っ……」

「信玄、何故そこまでして当主となることを恐れる? 何故そこまで拒むのだ?」

 

 この時代、必ず家に明日があるとは限らない。いつ戦が起こり、いつ暗殺の魔の手が伸びてきてもおかしくないのだ。疫病や天災もある。その中で長子が家督を継ぐ前に死ぬことなど何ら珍しいことではなく、そうなれば自動的に次子が嫡子となる。ならば当然に次子とて家督を継ぐ覚悟がなければならない。いつ家督が自分にやってきても大丈夫だという姿勢が必要なのだ。

 兄を立てようとするのは決して悪いことではないが、信玄の場合は当主になることを拒んでいる。その理由が信繁にはわからないのだ。

 だがそれが信玄には不愉快だったようだ。肩を怒らせ、腕を振って身を乗り出し、叫んだ。

 

「?何故?……? 兄上こそ、兄上こそどうしてこの信玄の心をわかってくれないのですか!」

 

 怒りからくるだけの叫びであれば、これまで同様に信繁も揺らぐことはなかっただろう。しかしその叫びにはこの場の誰もが悲しみを真っ先に感じた。

 悲壮とはまさにこのことだろうと。

 ここにきて信繁が瞬きをして言葉を失くした。その隙をつくように、信玄は言葉を重ねていく。

 

「わかっていました! ええ、わかっていましたとも! 兄上が私を当主に据えようとしていたことくらい!」

 

 ずっと隠していた言葉。それを初めて口にして、信玄はやめろと訴える別の自分に気づきながらも、もう止めることはできなかった。

 

「父上や兄上を見ていてずっと歯痒くて歯痒くて仕方ありませんでした! もっといい方法がある! こうすればいいああすればいいのにどうしてそんなことがわからないのか! 幾度となくそう思ってきました!」

 

 呆然と見上げている信繁を見て、一層信玄の苛立ちは増す。さながら初めて思い至ったと言うかの如きその態度が癇に障る。

 気に入らなくて気に入らなくて気に入らなくて。

 信玄は堪らずに歩を進め、信繁のすぐそばへ。そして彼を鋭く見下ろした。

 

「しかし私が当主になろうとすれば、必ず長子たる兄上といがみ合うことになりましょう! 兄上にその気がなくとも、家中が割れる可能性はあるのです! 家督争いの末に滅んだ家の数々、兄上ならば重々ご承知でしょうに!」

 

 今のように。今この時のように。

 こんなときが来ないことを願ってやまなかった。そんな気持ちの1つを、父も兄も家臣たちもなぜ察してくれない。それともそんなことの1つを望むことさえ傲慢であるというのか。

 

「兄上と戦うなど、いがみ合うなど……憎み合い、奪い合い、殺し合うなど私は嫌なのです! それとも兄上は私とそうなりたいと言うのですか!?」

「……すまない」

「詫びなど聞きたくありません! 詫びなど口にするくらいなら……どうして私の気持ち1つ、汲み取ってくれないのですか……!」

 

 肩を怒らせ、髪を振り乱しながら信玄は腕を振るう。その様子に信繁は口にすべきではないと押し黙っていたことが正しかったのかを悩んだ。

 情に訴えるだけだから、そうして味方に据えようと思われるのは望んでいないからと先ほどは黙ったが、結局はそれも自分可愛さだったのかもしれない。

 信玄は泣いている。

 光源である月は信玄の背中。故に気づかなかったが、近づいてきてくれたおかげでようやく信繁は信玄の右の頬が赤く腫れていることに目が行った。

 信玄が自分を殴ったなどとは考え難い。誰かに殴られた……そんなことができる人間は限られている。

 

(……父上……!)

 

 とうとう信玄にまで父は力で従わせようとしたのか。

 そう思うと、もはや情に訴えるからと押し黙っていたのは逆に信玄を突き放すだけだったかもしれない。信玄だけではない。信廉や信龍もそう感じたかもしれない。

 父に突き放され、そして今度は兄にまで突き放され……信繁は信玄の気持ちを考えて、自身の行為は実はまったく信玄のことを考えていなかったものだったと思い至った。

 目の前にいる武田信玄は、信繁が良く知る『兄上』とは違う。同じような器量と才覚を持ちながらも、その身は1人のか弱い少女でもある。如何に当主として申し分ないものを持っていたとしても、決して彼女は人ならざる存在ではない。父を思い、兄を慕い、家のため家臣のため領民のためをと思い悩むことのできる1人の人間なのだ。当然、苦しみも辛さも悲しみも感じる。

 それもすべて打ち勝てるなどと、どうして思ったのだろうか。

 いつかはそうできるだけの精神的な強さを持てるかもしれない。けれど今は……まだ少女なのだ。その子にいきなり当主になれだの肉親を追放しろだの、あまりにひどい仕打ちではないのか。

 父を追放させるような真似はさせたくないから自分がやる。そしてその後、その不忠者たる自身を信玄に追放させることで、信玄に父を追放するという汚名を着せることなく、信玄が当主になるにふさわしい形を整えようとした。それが、信玄のためであり武田の家のためだと信じていた。

 『信玄のため』……それが今やどれだけ信玄を置き去りにしたものだったか、信繁は痛いほど知った。目の前で悲しみに泣き叫ぶ妹を見て。

 

「……信玄」

「この上、まだ言い分がおありですか?」

「ああ。妹の気持ち1つ察してやれなんだ兄の弁明を、聞いてはやってくれぬか?」

「……聞きたくないと言ったら、どうなさるおつもりですか?」

「…………」

 

 返す言葉はなかった。もはやそう言われてそれでも聞けと言える資格はないように思う。

 しかし信玄は黙り込む信繁を見て僅かの間逡巡し、「……聞きましょう」と言ってくれた。それにまず礼を言ってから、信繁は少し間をあけて話し始める。

 

「私とて、お前たちと戦いとうはない。お前たちと手を取り合って共に武田家を盛り立てていくことができれば、どんなに幸せなことかと思う」

 

 嘘偽らざる本音。情に訴えかける言葉以外の何でもないかの如し。それゆえに先ほどは口にしなかったのだが。

 けれど今となっては、もはや隠そうという気はなかった。

 

「されどそれが叶わぬのならば、せめてお前たちのためにできることをしたかったのだ」

「世迷言を……! 兄上ならば叶えられたでしょうに! 何を夢物語のように言いますか!」

「信玄……」

「兄上は先ほど、私が情報の分析と精査に長けていると言いましたね。ならばその私が、兄上の本当の実力がどれほどのものかわからずにいると思いますか?」

 

 信玄が歯痒く思っていた理由は、自らの考える方策の方がより効果的だという以外にもう1つある。

 それは、信繁が自らの実力を出し切っていないということ。それも故意に。

 信繁がその実力を如何なく発揮してくれていれば、信虎ももう少し信繁を見てくれるのではないか。そうすれば信虎が自分に向ける意識を、僅かでも信繁に向けてくれるかもしれない。もしかすると信虎と信繁の和解に繋がるかもしれない。

 希望的観測と言えばそこまでだが、可能性の1つではあった。なのに信繁は常に遠慮し、信玄を立てるように動く。これを歯痒いと言わずして何と言えというのか。

 

「そうすれば、尚の事家督争いの火種になると思うたからだ」

「っ……」

 

 自惚れているわけではないが、今の信玄にならば信繁とて簡単に負けるとは思わない。いや、むしろまだ有利であるという自信もある。

 信玄の器量と才覚は確かに群を抜いているが、現時点では信繁の知る『武田信玄』にまだまだ敵わない。『武田信玄』とて最初からああだったわけではない。時に負け戦を経験し、時に大洪水に頭を痛め、時に謀略に失敗して歯噛みし。その積み重ねによって戦国の世に名を知られるほどの名将となったのだ。

 信繁はそんな『武田信玄』の副将として一生を遂げた。先の37年の生涯の経験は、如何に今の信玄が優れたものを持っているとは言え、早々容易く敗れ去るほど軽いものではない。信繁が能力を如何なく発揮していれば、後継者は信玄こそが相応しいという意見が全会一致を成すことはなかったろう。

 信玄が見せる能力の片鱗は、多くの者の目を惹いた。その未来に賭けたいと、誰もが思うほどに。これが拮抗し合えば、それこそ家督争いは先鋭化することだろう。

 信玄の器量と才覚は、信玄が自らの能力を隠そうと思う以前に、すでに周囲の知るところだったのだ。それは先の軍議の間にて信玄が覇気を放った際、信虎がようやく目を覚ましたかと言っていた時点で明らか。

 

「その時点で私は出奔するべきだったのやもしれぬ」

 

 昌景と勘助が出奔を促した時ですら、すでに遅かったのだ。出奔するのならば、信玄がその器量と才覚を見せる前が一番適当であった。

 

「しかし私にはできなんだ」

「当主の座に未練でも湧きましたか?」

「あ、姉上! それはいくらなんでも――」

「信廉は黙っていなさい」

「姉上!」

「信廉、よいのだ」

 

 振り向くこともなく言い置く信玄に信廉は口を挟むが、信繁の方からやんわりと止めた。先ほどとは違う、兄として妹を見る優しげな声色と温かみの戻った瞳を向けられ、信廉はこれ以上は無粋なのだと察して静かに引き下がる。

 信繁はゆっくりと信玄を見上げた。相変わらず信玄は鋭く見下ろしてきている。その覇気も強いままで、少しでも気を緩めれば意識を持っていかれそうだ。信繁は胆力を総動員しなければならない中で、そちらにばかり意識を取られて言葉に力がなくならないよう、一言一言に気持ちを込めて。

 

「未練などない」

「嘘です」

「あ、姉上……容赦ない……」

「信龍も黙っていなさい!」

「は、はい! ごめんなさい!」

 

 俊敏な獣を思わせるくらいの素早さで信龍は一歩……と言わず五歩分は下がって土下座する信龍。相当信玄の覇気に縮み上がっているらしい。土下座をした信龍は完全に虎の着ぐるみに隠れてしまい、まるで虎が平伏しているようにも見える。

 ……実際、ここに本物の虎がいても、信玄の前では牙を収めてしまいそうだが。それくらい信玄の覇気は凄まじい。今の信繁の答えがそれほどに気に入らなかったようだ。

 それも当然かと信廉は思う。慕っていた相手に自身の気持ちを汲み取ってもらえず、それどころか責められた挙句に嘘までつかれたとあっては、信廉でも許せない。もちろん、嘘はついていないのであるが……。

 

「信廉もそう睨むな。今の言葉が正確でなかったことは詫びる」

「では兄上は姉上の仰る通り、当主の座に未練があることをお認めになられるんですか?」

「いいや、それは違う。真実、当主の座に未練はない。然れども、何の未練もないわけではないと、そう言いたかったのだ」

「では何の未練が?」

 

 つい信廉も口調がきつくなってしまう。責めるように、詰るようになってしまう。

 信繁はここにきて少し慌てたように首を振った。その、普段信玄に迫られて困っている時のような少し頼りない態度に、信廉は口には出さず、僅かな温かみを感じた。ああ、いつもの兄上だ……と。こんなふうに過ごしていたい。そう思う自分の心を、信廉はきっと信玄もそうなのだろうと共感を覚えながら受け入れる。だからこそ、嘘をつかれることが許せないのだろう。

 

「……お前たちのそばに、いてやれないことだ」

 

 だから。

 信繁のその言葉は、信玄の、信廉の、信龍の心に、強く響いた。

 

 

 

 

 

「いや、?いてやれない?、ではないな。私が、お前たちのそばに、いたかったのだ」

「――――」

「兄上……」

「あにうえ……!」

 

 

 

 

 

 僅かに信玄の目が驚いたように見開かれた。すぐにその表情は消えたけれど、信繁はそれでも満足だった。少しでもこの気持ちが伝わったのなら、それでいい。

 信廉や信龍にも伝わっていたようだ。信玄の覇気にやられて腰を抜かしていた信龍だったが、ようやく立てるようになったか、静かに立ち上がって信繁を見据えている。自分も同じだと言わんばかりにその首を何度も縦に振って。

 そんな3人を見ていて今更ながらに理解した。例えもっと早くに出奔すべきだと悟ったとしても、信繁にはどのみちできないことだったと。

 

「信玄、特にお前は昔から私に懐いてくれた。私の記憶にはお前の怒る姿も泣く姿もあるが、一番に出てくるのは、いつもお前の笑う姿だ」

「…………」

 

 初めて見せてくれた本当の笑顔。躑躅の花を摘んできてくれた少し恥ずかしそうな笑顔。兄上と呼んで抱きついてくる屈託のない笑顔……幾らでも思い出せる。

 その1つ1つを思い出しながら柔らかい笑みを浮かべる信繁に、信玄は僅かに頬を赤らめながら目を瞬かせた。

 

「自惚れかもしれぬが……私はこう思ったのだ。お前は私が兄であったから、笑顔でいられたのではないかと」

 

 かつて信繁が信玄を避けていた頃、信玄の笑顔はどこかぎこちなかった。信玄が初めて本当の笑顔を見せてくれたのは、信繁が信玄に近づいた日のことだったように思う。虎昌と昌景に背中を押され、信玄を受け入れていこうと決めて話をしに行ったあの日。

 あれ以来、信玄は幾度となくその笑みを向けてくれた。兄上兄上とついて回り、何かあれば嬉しそうに信繁に語り、寂しいことがあれば信繁に抱きついて。

 そんな妹を放り出して出奔することは、到底できようはずがなかったのだ。

 色々と理屈をつけて出奔せずにいたが、突き詰めていけば実はこんな単純なことだ。事実、信繁は信玄に信虎を追放させたくはなかったのだし、それは信玄が本当は心優しい子だから、そんなことをさせたくなかったという理屈を立てていた。これも偏に、信玄という妹を大事に思ってのこと。

 

「お前が元服を済ませ、初陣を迎えたあたりからだったろうか……どこか、お前の笑顔が曇ってきていると感じた」

「な、何のことですか……?」

「この兄とてそこまで鈍くはないぞ。お前が私のことならわかると言うように、私もお前のことはわかるつもりだ」

 

 信玄としては隠していたつもりだった。それが強気の態度になってしまう理由の1つでもある。もちろん、生来の強気さも大きな理由ではあるのだが。

 

「か、肝心なことは何もわかっておられないくせに、よく言えたものですね」

「そう尖るな」

「尖ってません!」

 

 このように。

 信繁がこみ上げるおかしさに堪らず吹き出し、信玄はその顔を一気に紅潮させた。それが伝播したのか、信廉と信龍も小さく笑う。

 信玄が睨んでも効果はない。この時ばかりは信龍をして可愛いという感想しか出てこない。

 

「けだし、私はお前の多くをわかってやれはしなかったのだろう。それでも、私なりにお前を理解しようとした。何とかお前が本当の笑顔を取り戻してくれるように」

 

 しかしそれも悉く失敗に終わり、状況は悪くなる一方だった。

 そして起こってしまった信虎による4将の誅殺と討死。殺されるところを間近で直に見てしまった信玄の放心した姿は、今でも信繁の脳裏に焼き付いている。

 

「信玄、お前は言っていたな。?怖い?と」

「…………」

 

――『兄上……私は、最近父上が……怖いと、そう感じます』

 

 あのとき、信玄は震えていた。それでも甲斐源氏の名流の子であると自分を律しようとする信玄を見て、信繁が何ら思わないわけがなかった。

 

「このままではいられないと思うた」

 

 これ以上、信玄の笑みを奪っていくことを許容するわけにはいかないと。信玄たちのそばにいてやれないことは悔しい限りだが、だからと言ってこのまま手をこまねいているわけにもいかない。

 動くしかなかった。

 兄として、『武田信繁』として、武士として、何より男として。

 昌景がかつて背中を押してくれた言葉もあった。

 

――『お前とて、自らを兄上と慕う女子を泣かせてそのままにしておける奴ではあるまい。このまま嘆いておるより、苦労を受け入れてでも気張ってみる方が、建設的だとは思わぬか?』

 

 妹が苦しんでいる姿を見て何もしない兄になど成り下がりたくはなかった。大事な者たちが泣いていることを知って、無視するような男で在りたくなどなかった。

 甲斐の武士は荒々しさと猛々しさを持つ。それが悩みの種にもなったが、信繁もまた甲斐に生まれ、甲斐で育った武士。甲州武士の、そして武田の血はやはり色濃く流れている。いつまでも黙っていられるほど、信繁も大人しい人間ではないのだ。皮肉にも信虎の気性の荒さが遺伝していた証なのかもしれない。それが信虎へ叛意を向けることになるとは、皮肉の利いていることであるが。

 

「信玄。信廉。信龍」

「「「…………」」」

 

 まっすぐに。ただまっすぐに3人の妹を見て、信繁は言う。

 

 

 

 

 

「私は、お前たちのために、生まれてきたのだ」

 

 

 

 

 

 信玄が、信廉が、信龍が、一言も発せずに固まっていた。

 されど、その言葉に何より打たれていたのは、実は信繁自身かもしれない。

 そう……今初めて、信繁は自分がこの世に再び生を受けた意味を、見出すことができたのだ。

 どうしてもっと早くこんな簡単なことに気づかなかったのだろう。どうしてこんな大事なことに行き着かなかったのだろう。

 この世のためでも武田の家のためでも天下のためでもない。

 ただ、この3人の妹たちを守るために、支えるために――武田信繁は長子として今一度生を与えられたのだと。

 

「ざ、戯言を……よくそんな心にもない言葉を吐けたものですね……!」

「違う!」

 

 信玄が視線を外しながら言う。

 その口調には先ほどまでの力はなかったが、それでもまだ信繁を拒むだけの意思があった。

 だから信繁は声を荒げた。これだけは……ようやく見つけた自分の存在の意味だけは、拒まれたくなかった。身を乗り出し、信玄に迫る。

 

「天はお前に武田の君主となるべく才を授けた! そして私にはお前を助け、支える力を! 生まれる順番は違ったとしても、私たちはこうなる運命にあったのだ!」

「私は……そんなこと望んでいません! どうして……どうして天は兄上を選ばなかったのか! そうすれば……そうすれば、私は、兄上とずっと……!」

「私とてお前たちと共に在りたい! お前たちを愛しく思うからこそ――」

「やめてください!」

 

 信玄は吼え、腰の刀を抜き放った。

 迫る信繁が背を反らさねばならぬほどの至近距離に切っ先を置き、信玄は目に涙を滲ませて荒い呼吸をしながら歯を食いしばっていて。

 すでに覇気はなかった。しかし信繁も信廉も信龍も動けない。触れれば、近づけば、それだけで信玄は壊れそうだったからだ。

 

「兄上は……兄上はそうやって、私をいつも惑わせ、誑かそうとするのです……! もうたくさんです!」

 

 理由も明らかにされずに距離を取られ、ようやく近づけたと思えば今度は自身を差し置いて信玄を当主に据えようとして。

 そのくせ甘えさせ、優しくし。

 なのに今度は謀反。そして殺せと命じられ。

 あまつさえ事ここに至って胸をこの上なく痛くさせ、心を揺さぶろうとする。

 

「もう、たくさんです!」

 

 信玄が刀を振り上げた。

 信廉と信龍が止めようとするが……信繁は怯むことなく、ただこれだけは言わねばならないとばかりに声を張り上げた。

 

 

 

 

 

「どんなに偽ろうとも、例えこの身が虚ろであろうとも――お前たちへの愛慕の情だけは偽れん!」

「――――!」

 

 

 

 

 

 信玄が刀を振り下ろそうとする動きが一瞬止まった。

 それが合図だった。

 

「姉上! おやめください!」

「信玄の姉上!」

 

 信廉と信龍が信玄に取りつく。もう耐えられないとばかりに、2人とも頬に涙を伝わらせながら。

 

「兄上を殺さないで、信玄の姉上!」

「姉上も……兄上を殺す姉上など、どうか、私たちに見せないでください!」

 

 必死の叫びだった。

 だがそれは……不要なものだったのかもしれない。

 信玄の手からはすでに力が抜けており、刀が静かに床に落ちた。信廉はすぐにその刀を取り、信繁の手を縛る縄を切る。そんなことをすれば反逆の証になると信繁が忠告する暇もないほど素早く。例え何を言われたところでやめなどしないと言わんばかりだった。

 自由になった身で、信繁は改めて信玄を見上げる。

 

「信玄」

「……っ……う……」

 

 信玄の目からさらに涙がとめどなく。身を震わせ、しがみつく信龍を払いもせず。力失くしたように信玄は膝を折って。

 咄嗟に支えようと信繁が動く――より早く、信玄は信繁の胸に飛び込んだ。

 

「ぅ……ぁ、っ……兄上……あにうえ……!」

 

 拒むはずなどない。信繁はどこかまだ不安そうな声に、しっかりと信玄を抱き締めた。

 その暖かさに、心地よい力加減に、優しさに。信玄は信繁の襟を強く掴み、信廉と信龍の前であることも構わず、大声を上げて泣く。

 

「う、ああああぁぁぁぁ……あにうえ! あにうえぇぇぇぇ……!」

 

 信玄を抱き締めるとやけに固い感触。鎧を着込んでいるのだから当然だが、信繁は無性に歯痒かった。

 覇気を振り乱していた先ほどの信玄には甲冑が一層信玄の存在を際立たせていたが、今となっては甲冑が無粋で仕方ない。まるで信玄を縛り付ける呪いのかかった呪縛そのもののようにさえ映る。

 

「すまぬ……信玄」

「っ! 馬鹿!」

 

 突然顔を上げ、涙を溢れさせながら睨み上げて信玄は叫んだ。その勢いに信繁が呆気に取られるが、そんなことお構いなし。

 馬鹿馬鹿と繰り返す信玄。だが信繁はその言い様があまりに無邪気すぎて浮かべる表情に困るばかり。

 

「ふ……う、ぐ……ぶれいもの! うぬぼれや! かいしょうなし! あにうえのばか!」

 

 散々な言われ様だなと思いながら、全てを受け止める。

 

――『?何故?……? 兄上こそ、兄上こそどうしてこの信玄の心をわかってくれないのですか!』

 

――『詫びなど口にするくらいなら……どうして私の気持ち1つ、汲み取ってくれないのですか……!』

 

 先ほど、信玄が信繁のことをわかっているように、信繁も信玄のことをわかっていると言った。

 だが自分が察してやれなかった信玄の心の暗部は、こんなにも積もり積もっていたのだと痛感せずにはいられない。馬鹿という言葉、その1つ1つに、察してやれなかった分の重みがある。もっと早くに自分がこの世に今一度生を受けた理由に行き着いていれば、こんなことにはならなかったのだろうかと思うものの、今更考えたところで詮無いことだ。

 

「兄上……私は、怖い……! 自分が、怖くてたまらないのです……!」

 

 それよりも今は、信玄を安心させてやりたい。受け止めてやりたい。それこそが兄として今すべきことだ。

 信玄が鼻声の混じった詰まり声のまま、静かに、ゆっくりとその気持ちを明かしてくれる。信繁は震える信玄の背中を、息が詰まらないようにと撫でながら聞き入った。

 天性の器量と才覚を持ったが故の孤独感や義務感。自身の心に潜むどこまでも合理主義一辺倒なもう1人の自分の影。

 信玄の笑顔が曇っていると感じた時期と、信玄が初陣の際に自身の暗部に負けてしまった時期が重なり、そういうことかと信繁は納得した。同時に、あのときは信玄の器量と才覚のほどを本物だと感じて信繁は嬉しくも思い、やはり信玄こそが当主に相応しいと再確認させられたが、実はそれこそが信玄にとって重荷であったのだと気づかされる。

 どれだけ信玄を置き去りにしてしまったのか、信繁は自身の至らなさを悔いる。

 

(おそらくは自身を強く抑制してきたことによる反動……溜まった不満が我慢しきれずに発露したということなのだろう)

 

 民衆たちと同じだ。

 統治者による悪政・暴政に耐えられずに一揆を起こす彼らと理屈としては同じ。信玄はそれを幼少の頃より抑え続けてきた。本来、幼い子供は心に忠実なのに、その能力によって幼い頃から聡明で敏かったがゆえに早くから自身をどう律するべきかを弁えていた信玄。『我慢』や『忍耐』というものを知り、そう在るべきと抑え続けてきた。長きに亘る本音や不満が溜まり、漏れてきていたのだろう。信玄自身はそれを悪しきものであると認識していたからこそ抑えていたのであり、それが表に出てきても当然受け入れられず、より強く自分を抑えようとする。

 まさに悪循環。これが信玄を追い詰めていったのだろう。

 

「恐れるな、というはあまりにお前の身をわかってやれぬ言葉……だから信玄、私はこう言おう。私はどんなお前を見ても変わらない、と」

「っ!」

 

 信玄が伏せていた顔をゆっくりと上げた。恐る恐るというふうに。

 しかし信玄の目に映る信繁はとても優しげに笑っており、その温かみは冷えていた信玄の心をゆっくりと温めていく。

 

「意見があれば聞こう。正しければ頷こう。間違っていれば正そう。褒めるべきは褒めよう。叱るべきは叱ろう。お前はただ、少しずつその抑制を緩めるだけでよい。少しずつでよい。焦らず、ゆるりと参れ」

「……それができたら、苦労は――」

「しかしそんなことは容易いと思うておる自分がいる。そうなのであろう?」

「う……」

「それでよいのだ、信玄。それは自信というもの。過ぎた自信は身を滅ぼすが、自信を否定すべきではない。自信を否定することは、自身を否定することだ」

 

 自信とは、書いて字の如く、自分を信じるということ。自分の考えを、自分の在り方を、自分の思いを、自分の力を。それらを過信すれば、すなわち驕りに繋がるが、逆に否定すれば、自分を否定することである。自分は間違っている、自分は受け入れられない……そんなつもりでいれば、何が自分か分からなくなり、心は圧迫されてしまうだろう。

 今の信玄は全てを負の視点で見てしまっているようなもの。要はそれを少しずつ変えていけばいい。

 

「でも……そうなれば私は……兄上を……!」

 

 信繁に勝る能力に自信を持てば、いずれ信繁にも危害を加えかねない。それが信玄の恐れることだったのだが……信繁は軽く信玄の額を小突いて返した。

 大した痛みもないはずだが、それでも信玄はやや大仰に反応してしまう。

 

「舐めるな、信玄」

「え……?」

「この私を誰だと思うている?」

 

 別に驕るつもりなどないが、信繁は意識してやや傲岸不遜に返した。

 

「仮にも私はお前の兄。例え妹が自身より優れていたところで、妹に侮られるほど愚鈍ではない。どれほど才があろうとも、自分に自信を持たぬ者に負けるほど無能とは思うておらぬ」

「……ふふ。なんとまあ、いつも控えめで及び腰の兄上のくせに」

「何とでも言うがよいわ。私とて男だ。天下を視野に入れておる身でいつまでも妹の尻に敷かれているようではな」

 

 そう言いながら信繁は立ち上がり、信玄の頭に手を置いた。撫でるというより、幼子をあやすように。普段の信玄なら幼子扱いするなと突っぱねるところであるが、今はその手を払わず、信繁に続いて立ち上がりながらその手に自身の手を重ねる。

 

「それに、お前が暴走しようとしても私だけでなく、信廉も信龍もいる。お前は先ほどから父上や私に対して危害を加えかねぬと何度も口にしているが、信廉や信龍へ危害を加える可能性は口にしておらぬ。それはすなわち、お前にとって2人は姉の自分が守るべきと思うておるからであろう」

 

 どんなに追い込まれても、信玄は信廉や信龍に牙を剥くことはなかった。自身より能力が低く、立場的にも下の者だからと判断していた部分もあったかもしれないが、下の者だからこそ守るべきであるという認識があるからこそ2人に危害を与えるという考えは微塵もなかったとも言えよう。

 そもそもにして民や家臣を憂いているからこそ信玄の持ってきた情報は信繁の政務の助けになった。本当にただその能力が自分が権力を得るためだけに振るわれていたのなら、そんなことのために使われることはなかっただろう。一旦は信繁の信頼を得るためという思惑があったとも到底思わない。何せ信玄は信繁の妹。信頼など最初から持ち合わせている。

 

「信玄、お前はその能力を誰かの、何かのために使っている。決してお前の心は薄汚れているのではない。言ってしまえば、抑圧されたお前の一部が拗ねて悪戯を働いてしまった。私からしてみれば、その程度だ」

「その程度、ですか?」

「そう、その程度だ。その程度のことで、私のお前に対する姿勢は何ら揺らぐことはない」

「兄上……」

「もう一度言おう、信玄。私を舐めるな。私のお前たちへの愛慕の情は、その程度のことでは些かも揺らがぬ」

 

 今こうして吐露された事実を聞いたところでまったく。

 それを伝えるために、信繁は少し強く信玄を抱き締める。その強さに、しかし信玄はむしろ同じように抱きついてきた。

 

「はい、兄上……!」

 

 そのとき信玄の浮かべた笑顔は、記憶にある笑顔よりもやや大人びたものであったけれど、同じ?本当の?笑顔であった。

 

-3ページ-

 

「いつまでこうして待っていればいいんですかね〜……」

 

 すでに中山・笹尾の両砦では仲間たちが戦の準備を万端にして敵がやってくるのを待っているであろうというのに。できればすぐにでも帰って武川衆の仲間たちと戦列に並んで戦いたい。

 教来石景政は朽ちて崩れそうな恵林寺の門の前で馬を撫でながら愚痴を零す。

 周囲には信虎配下の兵と虎泰配下の兵がいるが、彼らは彼らでまったく口を利かない。おそらくは信玄が発していた覇気にやられたのだろうが、いつまでも情けのないことだと景政は思う。しかし周囲の兵からしてみれば、あの信玄の覇気に当てられておきながらしばらくすればケロリとしている景政の方がおかしく見えている。幼い頃から精鋭の武川衆にあって育ってきた景政にしてみれば、このくらいの精神力は普通なのだが、兵たちにはその頭の馬の被り物もあり、景政が単純に鈍感なだけではないかという疑念もつきないのだけれど。

 

「おっと、お戻りでしょうか?」

 

 馬の被り物の耳が動く。「それ、動くんですか?」という兵の疑問も知らず、景政は寺の方へと視線を向けた。

 

「あれ?」

 

 最初に映ったのは信玄……ではない。

 先頭を歩くのは信玄ではなく、信玄や信廉、信龍を脇に控えさせ、さらに後ろには大きなガタイをした男を連れて進む1人の青年。

 誰だと思った途端、周囲の兵たちがざわつき始め、一部の兵が――虎泰配下の兵だ――すぐに膝をついて頭を垂れた。

 

「えっと……」

「こりゃ、貴様! 頭が高いぞ!」

「はえ!? ああ、はい! はいです!」

 

 近くにいた虎泰配下の兵を従えていた隊長格の男の声に、景政も慌てて膝をつく。ただ誰に対する敬意の印なのかがわからない。

 青年たちは寺の門をくぐり、周囲の兵たちを見回した。

 信虎配下の兵たちはどうするものか戸惑っているが、そこで信玄がため息をついて1つ前に出た。

 

「そこ、何をしていますか! 兄上の御前でしょう!」

「し、しかし信玄様……これが御館様に知れれば、ただでは……」

「御館様ならばここにおられる」

 

 すると今度は後ろにいた男が口を開いた。そしてその目は前にいる青年へと向けられた。

 景政はその青年に目をやっていたが、兵たちを見回していた彼と不意に視線があった。その顔がやや怪訝そうに。よくよく見れば視線が僅かに上へ向かっており、景政も頭の被り物に目がいっているのだろうとすぐに察した。景政はこれを変などと思っていないのだが、だいたい初対面の人間にはそういう顔をされ、身分が上ともなるとだいたいは無礼だとか取れと怒られるのだ。

 だが、青年は違った。

 

「そなた、武川衆の教来石景政か?」

「へ? あ、はい、そうなのです!」

 

 いきなり声を掛けられ、名前を呼ばれ、景政は今度こそ自然に頭を下げた。

 初対面だろうと名前が通っていれば知られていてもおかしくはない。少なくとも武川衆は精鋭で聞こえた武士団だ。甲斐を中心とした周囲の隣国あたりにもその名は知られている。だが景政自身はまだ若輩の身にて、大きな手柄も上げたことはない。なのにどうしてこの青年は自分を知っているのだろうか。

 

「そうか、そなたが……聞いてはいたが、本当に馬の被り物をしているのだな」

「兄上、いちおう非礼の段に当たりますが?」

「構うまい。何せ武田一門の信龍がこのようなものを着込んでいるのだしな」

「それもそうですね」

「むう……やっぱり被りたいかも」

 

 驚いたことに青年も信玄も怒りはしなかった。それどころか笑って済ませてしまう。

 彼らからすれば、脇に控える信龍が虎の着物を着込んでいるかららしい。まあ確かに、あれに比べれば馬の被り物も少々印象としては劣るかもしれない。

 その信龍は信龍で馬の被り物に興味があるのかじっと見てきているが。

 ふと、景政は我に返る。

 

(信玄様が兄上と呼ぶ人で、武田一門……次子の信玄様が兄上と呼ぶ人なんて1人……信繁様?)

 

 この青年が武田信繁であるとようやく思い至った景政は、またも予想を裏切られた気分だった。

 信繁も信玄も、もちろん信廉も信龍も仕える家の子息子女ゆえ、当然知ってはいたし人柄なども聞いてはいた。ただ初めて会った状況が状況だったので、信玄も信廉も信龍も、聞いていたほど頼りになる人間に見えなかった。むしろ信虎だけが予想通りだったと言えよう。勘気に触れれば殺されるという噂に違わない気性の荒さ。それに比べて信玄たちは頼りない少女たちにしか見えなかったのだ。

 だが今はどうだろうか。信玄も信廉も信龍も息を吹き返したかのようにその目には力が宿り、威厳を取り戻している。武田一門に相応しい覇気だ。そしてその覇気も先ほどまで押さえつけられるような息苦しいものではなく、景政の武士としての魂を揺さぶるような鮮烈なものだった。

 そして信繁。

 あの信虎の息子とは信じられないほどに落ち着いた覇気の持ち主だ。なのに、信玄たちを従えさせながらまるで引けを取ることがない。

 

(じゃあ、後ろにいるのは?甲山の猛虎?飯富様?……2人とも捕まっていたのにどうして……え、信玄様が解放したってことですか? ええええええええ!? それって下手したら謀反……!)

 

 途端にアタフタしだした景政を、やはり信繁たちは怪訝そうに見下ろすだけ。

 落ち着きのない娘ですねと信玄が呆れ、信繁は先ほどまで泣き喚いていたお前の言葉ではないなとからかい、信玄は顔を赤くして睨み上げた。

 それに苦笑しつつ、信繁は信玄を脇に避けさせ、自身が再び前に出る。

 

「皆、この状況に少なからず揺らいでいよう。この中には父上に刃向かうことに躊躇いを覚える者もいよう。そうした者はここに残れ。無理について来いとは言わぬ。だが……邪魔をするならば、私は退かぬ。刀を抜いてそなたらを斬り伏せてでも先へ向かう。もし私に続く気があればついて参れ」

 

 それだけを言い、信繁は信玄たちを率いながら歩き出す。

 すぐに虎泰配下の兵が馬を寄越し、信繁たちの下で跪いた。信繁たちが馬に乗り、その目を西の方へと向けた。その視線に映るのは信濃より来襲した敵だろうか。それとも……甲府、躑躅ヶ崎館なのだろうか。

 そのとき、一部の信虎配下の兵が槍を取って信繁へと向けた。これに気づいた信玄たちが鋭く睨み、盾となるように動こうとしたが――

 

「――――」

 

 信繁が顔を向け、彼らを見据えた。

 

「はうっ!?」

 

 途端、景政を以ってその目を、心臓を、射抜かれたような感覚が走る。

 それまで落ち着いていた覇気が牙を見せた。そしてその牙は、先ほど信玄が垂れ流していた重苦しい覇気よりも痛烈で。

 兵たちは槍を取り落し、その手を心臓や頭へと忙しなくやっては戸惑っていた。

 本当に刺されたかのような感覚だったのだ。戦いに慣れない者ではそう勘違いもしよう。

 しかし気づけば、景政もまた手が心臓に置いていた。まったく無意識のうちに。

 

(この方は……)

 

 信玄とはまた違う覇気。信玄たちでさえ、?甲山の猛虎?さえも従わせる人物。

 景政は信繁から目が離せなくなる。自分はもしかしたらとんでもない相手に不敬を働いたのではないか。そんな気にもなる。

 だが信繁は景政の不敬など意にも介していないようだった。

 その背中はもちろん何も言わない。だが信玄たちは皆その背中に続く。

 

――ついて来る者はついて来い。刃向かうならば容赦せぬ。

 

――この身は、もはや何人にも止められぬ。

 

――止まらぬ。

 

 景政がその背中から感じ取ったのは、ただの妄想か。ただの思い込みか。それはわからない。

 けれど景政はそれを否定する気はまったくなかった。

 放心する景政の前で、信繁が手を掲げて。

 

「これより我らは躑躅ヶ崎館へ舞い戻る。皆、遅れるな――続けぇ!」

「おお!」

 

 虎昌の雄叫びに続いて虎泰配下の兵たちが槍や刀を掲げて咆哮を上げた。

 信繁が「はあっ!」と掛け声をあげて馬を走らせ始め、信玄たちがそれに続く。蹄の音が重なり、夜の帳の中を数十の騎馬が走り去っていく。

 

「――っ! 私は何を呆けてますか!」

 

 唐突に我に返り、景政は自分の馬に飛び乗る。

 そして景政は他の兵たちが呆然とする中、彼らのことなど意にも介さずに馬を走らせる。小さくなっていく背中へ向かって。

 

 

 

 ついて行こう。これを逃せば、きっと一生の後悔となる。

 

 

 

 景政はただ、その直感に従って馬を走らせた。

 

 

 

 

 

――続く――

 

-4ページ-

 

【後書き】

 長くなったなあ、このシーン……と、自分でも呆気に取られているところです。

 ようやくこのシーンも終わりました。前回の後書きの通り、原作の和解のシーンを拙作に合わせてアレンジした形に仕上げました、如何でしたでしょうか? 些か無理にあれに似た展開にしていったので、やや強引さやおかしさを含んでしまったのではないかとも思いますが。

 

 信繁が転生した理由というのは、彼にとってやはり気になることだと思います。だからそれを明らかにするための回でもありました。まあ、ある意味では彼が自分でそう思えばそうなのだという見方もできますが、少々冷めた見方はあまりしたくないというのが私の本音ですので。それに『私はお前たちのために生まれてきたのだ』というセリフは、私としては外せませんでした。原作の展開でもいいセリフだと思いますが、拙作では転生という事情がある信繁にとって、このセリフほど転生という要素を引き立てるものはなかなかありませんので。かと言って軽い雰囲気の中でホイホイとこのセリフを使っても、逆に印象が悪いだけなので。こういうシリアスな展開だからこそ活かせたのではないかなと思います。

 

 次回はようやく信虎との対決、そして戦への対処へとなります。ようやく合戦シーンだと、気合を入れ直しております。

 それでは失礼いたします。

 

説明
戦極甲州物語の12話目となります。

前回の前書きにてコメントへのお礼を書き忘れるという愚を犯しました。失礼しました。
玖巻と拾巻でコメントを下さった方、誠にありがとうございます。中には何度も下さっている方もいらっしゃるようで、毎回励みとなっております。最近、投稿速度がめっぽう遅くなっていて申し訳ありませんが、せめてその分楽しんで頂けるよう努めて参ります。
重ねて、御礼申し上げます。ありがとうございました!
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コメント
教来石氏時代の諱は景政だったはずでは?(ふるおり)
更新お疲れ様です。本当に焦らしてくれますなぁ(褒め言葉)でもとても面白かった、悔しい、でも感じてしまう……な、心境です。(通りすがりのジーザスルージュ)
あの名シーンがより深くなって蘇っている。ヤベェ原作に加えてほしい。(赤トンボ)
更新乙です。最初のほうの話を読む限り、この後信繁は名前を捨てて全国巡るみたいですがこの後どういう展開でそうなるのかwktkが止まらないです。(Leon)
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