キリトSide

湖の主釣りイベントから二日が経った。

どうやら若いプレイヤー達は本当に情報を流さないようにしてくれたらしい。

二日間は平和に過ごすことが出来た。

しかし、その二日目の夜にそのメッセージは届いた。

『明日、ボス攻略戦を行う。是非、協力されたし』という内容で、メッセージの送り主はヒースクリフだった。

俺とアスナは取り敢えず話を聞いてからという返事をしておいた。そして、翌日…。

「アスナ。準備は出来たか？」

俺は久しぶりに全身を黒の装備で固めている。

「うん。大丈夫だよ」

アスナも装備で身を固めているのだが、変わっているところがある。

それは装備している騎士甲冑が血盟騎士団のものから、ルナリオの特注品である騎士甲冑になっているのだ。

俺がルナリオに頼んで作っておいてもらった。

前の装備をモデルにしているが、質や精度は段違いに上だ。

服の色は黒を基調に赤の線が入り、スカートは騎士団の時同様に赤いのを穿いている。

アスナ曰く、俺の妻ならば黒衣衆に近いものがいいとのこと。

「必ず二人で戻るぞ……。アスナ」

「うん！」

俺達は騎士団本部のあるグランザムに向かうためにコラルの転移ゲートへと向かった。

コラルの転移ゲート前の広場に着いた時、そこにはニシダさんが居た。

「少しよろしいですか？」

「はい……」

俺は短く答え、アスナは静かに首を縦に振った。

「ご存知の通り、私は電機業界に勤めています。

　しかし、二年間もこの世界に閉じ込められてしまいました。

　これでは元の世界に戻っても会社からお払い箱になるだけでしょう。

　それに、最前線で戦ってくれている人達の事もどこか違う場所の事かのように思っていました。

　そう思うと、この世界でずっと釣りをして過ごしていくのもいいのではないかと考えていました」

ニシダさんはポツポツと語り出した。今までため込んでいたものが溢れてきたのだろう。涙も流している。

「ニシダさん…。わたしも、半年前まではそう思っていました」

今度はアスナがゆっくりと語り出した。ニシダさんも顔を上げて話を聞いている。

「わたし、向こうでの家族とか、友達とか、生活とかを取り戻したくて…、

　このゲームが始まってからずっとレベルを上げたり、強くなることばかりに集中してきたんです。

　周りからも一時期【狂戦士】って呼ばれていました」

その話は聞いたことがあった。

攻略組のギルドの中で死にもの狂いで戦っているプレイヤーがいて、

その様から【狂戦士】の異名が付けられている者がいたと。

まさかそれがアスナだったのか。

「わたし、夜は毎日泣いて過ごしたんです。眠ると元の世界の事を夢で見て怖くて。

　だけど半年前のある日、わたしがギルドの人達と迷宮の攻略に行こうと向かっていた時でした。

　迷宮前の広場の芝生で寝ている人を見つけたんです。

　その人レベルも高いのに、芝生で寝ていて。わたし頭にきちゃって、その人に文句を言ったんです。

　『こんなところで寝ている暇があったら、迷宮に入って攻略を進めてください』って」

アスナの話しを聞いて俺は思い出した。そうだ、この話しはあの日の……。

「だけどその人、わたしにこう言い返してきたんです。

　『今日はアインクラッドで最高の気温、最高の気象設定だから迷宮に潜るのはもったいない』って。

　それを聞いてわたし、この人はこの世界でちゃんと生きているんだって、

　この世界でちゃんと一日を過ごしているんだって、そう思ったんです。

　そうしたらその人が『酷い顔だぞ。お前も寝ていったらどうだ？』って言ました。

　ギルドの人達には先に行ってもらって、わたしもその人の隣で横になったんです。

　そしたらすごくポカポカしてて、すぐに眠くなってきちゃって。

　わたしの様子をみてその人、『ついててやるから、寝ておけ』って言ってくれて、わたしすぐに寝ちゃったんです。

　それで起きてみたら夕方になってて、その人が起きたわたしに優しく微笑みかけてくれました」

俺はその時の事をしっかり覚えている。忘れるはずがない。なんせ俺はあの時から…、

「その人が……キリトくんです」

君の事を好きになっていたんだから……。

キリトSide Out

To be continued……