魔法世界に降り立つ聖剣の主 (改訂版) |
4:どんだけ練習積んでも本番では緊張するんだよ
お師匠様方ががインサラウムに戻ってから三ヶ月後の事。今現在俺は大勢の人達を背に移動中です。
隣には親父がいて、少し後ろにはシュバルさんにカイさん、ゼンガーさんが連れ添っていた。
皆一人一人が「騎士甲冑」とかいう戦装束を身に纏い、物々しい雰囲気を放っている。
そう、今俺達は戦場にへと向かっているのだ。
事の始まりは今から半日程前の突然入って来た報告と父の提案が原因だった。
「リモネシア連邦が一個大隊を率いて進軍を開始した」
今までなりを潜めていた筈の連邦が何故今になって侵攻を開始したのか疑問だが、アン婆が言うからには「我々が連邦は暫く動かぬと高を括っており、裏をかけると考えたのやもしれませんな。」とのことだった。
何だよその浅い考えは?周りが敵国でいっぱいになってるベルカに油断する暇なんてあるかって。
そんな事を言ったら、アン婆も同じように連中の馬鹿さ加減に呆れの色を示していた。
こっちとしてみれば一々出陣の手間が掛かるし金も使うし時間も浪費する。
それを狙ってるんだったならばいやらしい狡猾さだけど、幸いな事に連邦にはそんな単純な事を考えつくような利口な頭の持ち主はいないらしい。
そんなこんなで早急に部隊を投入する事が決定した。相変わらずの手際の良さで戦支度を整えて、親父は部下を引き連れて行く。
親父が出陣してそれを見送る事は何度かあったからその時は何ともなかったんだけど、今日は少し…というかかなりいつもとは違っていた。
「此度の出陣にはシオンを随伴させる。」
この一言で俺は凍りついた。
それって俺に戦えって事か?と震える声で尋ねると、親父は「着いて来て本陣から戦場を見下ろすだけだ」と答えた。
直接戦場に放り込まれないだけまだマシだが、それでもガチな戦場にそろそろ10歳越える所っていうガキを連れて行くか普通?
戦場なんて知らないけど怖い所ってのだけは分かる。
そこで繰り広げられてるのは喧嘩なんかでも俺がいつもやってる訓練なんかでもない。文字通りの“殺し合い”なんだ。
いっつも死ぬ思いで訓練していても、そういう人の生き死になんて前世で死ぬ一瞬でしか味わった事なんて無い。
受け身で感じる死ならともかく、他人のしに対しての免疫は未だについていない。
親父達がいるから負けは無いと思うけどそれでもただただ怖かったんだ……人の命が簡単にも潰えて行く場に立つのが。
俺が真っ青になっていると、親父は俺の頭に手を置いて、こう語り掛けた。
「お前は周囲の者よりも強い…強過ぎる力を持っている。故にその力の意味を知らねばならぬのだ。お前は確かにまだまだ年端もいかぬ幼子だ。だが同時にお前は強者であり、それ故に強者の義務を自覚する必要がある。この父を恨むのならば好きにせよ。それでも私にはこうする他に術は無いのだ……」
諭す様に、励ます様に、そして何よりも詫びる様な声色に俺は思わず息を呑んだ。
いつも凛としていて、叩いても殴ってもビクともしない、鉄の柱みたいに芯の通った親父が見せた僅かな弱々しい表情。
それが、辛い決断をして俺に戦場を見せる事を決めたという事実を物語っていた。
自惚れみたいだが、俺は既にそこら辺の大人だろうが兵士だろうが余裕で倒せるだけの力を持っている。
だけどそれを手にするには俺はまだまだ未熟だった。前世の年齢差っ引いても俺は結局精神的にはただの未熟者なのだ。
だからこそ、強過ぎる力に押し潰されないように、親父は生まれ持ったポテンシャルを御し切る術を教えた。
俺を鍛えたのも、湧き上がる強大な力に、俺が内側から食い破られてしまう事を恐れたから。
こうして俺に戦場を体験させる事で力の意味…その偉大さと恐ろしさを同時に理解させ、身につけたモノを正しき道に使ってくれという願いがあったからだ。
いきなり子供に銃火器を寄越してその正しい使い方と間違った使い方を教え込むような行為だが、俺が持っているのは道具みたいにすぐに捨てられるモノでもない。
それを理解した上で文句なんて言える訳が無い。
恐怖はまだ残っていたけど、俺は無言で頷いた。
すると親父は少し決まり悪そうにしながらも俺を伴って軍列の先頭に立った。
こうして冒頭に至る訳だが、やっぱり怖いなぁ……だってまだ震えが止まんないもん。
理解もしたし納得も行ったけどこればかりはどうしようもない。初めての戦場なんだから怖くて当然だろう。
浮かない顔をしていると、後ろから声をかけられた。
「若様。不安を禁じ得ぬのは承知の上ですが、ご心配なさらず。我等インサラウムはまさしくこのベルカに於いても無双の軍勢。連邦如き雑兵の集まりに遅れはとりません。」
「うん。ありがとゼンガーさん。」
そう。ゼンガーさんが言う通り、インサラウムはこのベルカの中でも屈指の実力を持った騎士一族であり、それが率いる軍もまたチート集団と言えるのだ。
お師匠様達は熱心過ぎるくらいに俺の修行を見てくれてるけど、それが終われば他の兵士達の育成やら戦略に戦術の構築やら事務仕事やらをこなしている。
どんだけハードスケジュールなのか想像しただけで眩暈がするが、それを苦もなくと言った表情で済ませてしまうこの人達はやっぱり色々と常識から外れている。
シュバルさんにいたってはもう一人手塩に掛けてる弟子がいるって何だかんだで嬉しそうに言ってたけど、多分“あの人”だよね。そのお弟子さんって。
脱線してしまったから話を戻すけど、今回の戦闘は十中八九こちらの圧勝で終わるだろう。
一人いただけでも大軍を壊滅させられると噂されているウチの人外四人組が揃っている時点でコレ何の無理ゲー?
敵さんは気の毒だ。無能な指揮官に無謀な指示を出されて虎口に飛び込んで行くなんてあんまりってもんだろう。
まぁ敵の不幸を嘆いた所で仕方ないんだが、やっぱりそれでも人間なんだから理不尽な死に様は肯定出来ない。
だけど、これから起こりうるであろう一方的な蹂躙劇を、一瞬たりとも見逃さないようにする覚悟は出来ていた。
あまりに凄惨な光景に盛大にゲロ吐くかもしれないし、思いっきりチビるかもしれない。
それでも見届けよう。親父と皆の戦う姿を…その勇姿を。
そんな感じで厨二みたいな決意表明をしてる内に陣を構える高台に差し掛かった。
即座に魔術による結界やら天幕やらが設置され、数秒で殺風景な空き地が軍事拠点に早変わりした。
結界一枚一枚から天幕のパーツの一つ一つを敷設するに至るまで役割分担が決められており、それらが同時に動く事でより効率良く、より迅速に作業を終えるインサラウム軍の早業に、俺は唖然とするばかりだった。
そして、兵隊さんの一人に戦場を逐一見渡せる所にまで案内され、そこから前に広がる景色を見渡せば、だだっ広い荒地を青と白を基調とした軍服を纏った集団が横断しているのが見えた。
恐らく百や千の数ではない。恐らく何万という途方もない大軍勢が、こちらを目指して進軍中だった。
俺は今まで抱いて疑わなかった勝利を初めて危ぶんだ。
大地を埋め尽くす程の敵に対してこちらは精々数百程度。現実的に考えればお話にもならない。
元々ベルカは少数精鋭を基本とする軍を構えているって話だから多勢に無勢の戦いを強いられるのは覚悟してたけどこれはいくらなんでも差が大き過ぎる。
本当に親父達はこんな大軍を相手に勝利出来るのか?一抹の不安が横切った。
そんな俺の不安を余所に、インサラウムの軍勢は親父達を戦闘に隊列を組み、敵を見据えていた。
敵が迫ってくる中、親父は右手に携えた黒と銀色を基調とした突撃槍を天に掲げる。
「インサラウムに付き従いし勇者達よ!今宵は久しき戦の時!我等が故国の地を土足で踏み荒らす愚者共に鉄槌を下す為の戦だ!」
親父が高らかに上げた声はそれなりに距離のあるこの本陣にまでちゃんと響き渡って来る。
その一言一言が大気を震わし、魂の奥底にまで染み渡って行くようであった。
「ベルカの子らよ!故国を守護せし盾となれ!インサラウムの騎士よ!敵を貫く矛となれ!」
凄い人だってのは昔から分かっていた。ただ強いだけの人じゃないってことは分かり切っていた。
だけど、ちゃんとその場に居合わせたことが無かったから実感を持てないでいたが、今になって漸く分かる。
「敵は壮大。されど我等は一人一人が幾百の敵を打ち払う一騎当千の軍勢なり!恐れるな、信じよ!我等の矛は折れぬ!我等の盾は砕けぬ!」
これがジェラウド・インサラウム。ベルカの中に於いて最強の名を欲しいがままにする「金剛の星槍」の異名を持つ男。
「我等が騎士の魂を、気奴らにとくと知らしめるのだ!勝利は我等にあり!!」
『『『オオオオオオオオ!!!』』』
これが俺の父、真の騎士の姿なのだと。
あとがき
突然の親父が無茶ぶりするん回でした。
いや〜自分で書いててジェラウドさんそりゃないよやめたげてよ〜(´Д` )って思いました。
でもまこうでもしないとシオン君に色々と経験積ませられないんでご容赦下さい。
次回は初のまともな戦闘描写を書く予定。
ただし主人公じゃなくてその親父と仲間達のザ・濃い人達による大虐殺劇になることは間違いないでしょうね。
でわでわ
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こんだけ時間かけて書けた内容がこれか……orz | ||
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