魔法世界に降り立つ聖剣の主 (改訂版) |
8:お家事情はどこでだって面倒なモンだ
それは何と表現すべきか……
一番適する表現は“船”だろうか?金と白を基調とした巨大なそれは、無機質な空間の中で異様な存在感を放っていた。
これを一つのオブジェか何かとして見れば悪くない造形品だが、インテリアにしては大袈裟過ぎるし、形からしてやっぱり船だよな〜。
しかも何だろうか…この船から醸し出される異様な雰囲気は?精錬された見た目と反して重苦しいというか、何というか……
「これはインサラウム家ご当主様方が代々守り続けて来た太古の遺産でございます。」
俺がこの妙な物体に目を奪われていると、突然聞き覚えのある声がした。
振り向けばそこにはいつの間にやらアン婆が俺と同じようにこの妙な物体を見上げて立ってたいた。
あれ?ここってめっさトップシークレットな感じの場所じゃないの?アン婆入って大丈夫な訳?
「アンブローンは先代の時よりこの場に踏み入ることを許されている。シュバル達も同様にな。」
あーなるほど、信頼されてる人達はオッケーってことね。そして心を読むなし。
「アンブローン。準備は出来ているな?」
「はい。お望みとあらば今からでも。」
「分かった。早速始めるとしよう。」
オイコラ待てや。二人で勝手に話し進めんなよ。何のことかさっぱりなんですが。
俺が側で困惑していると、親父とアン婆が突然こっちに向き直った。
いわいやいや、何ですか?何でそんなマジな目で俺を見るんですか二人してさ?σ(^_^;)
「若様、こちらへいらして下さい。」
「え?う、うん。分かった。」
いきなり呼ばれて若干ビックリしながらも二人の方に歩み寄ると、アン婆は何かの呪文を唱えた。
すると、アン婆の手元に古びた一冊のぶ厚い本がどこからともなく出現する。
宙に浮かぶそれが一人でに開いてパラパラとページがめくられて行く。
そして、中間辺りのページで本が止まるとアン婆はそこに書かれていたと思しき呪文を口ずさみ始めた。
次の瞬間、本から眩い光が放たれて周囲を覆い隠す。
またかよ!?何て思いつつ俺は目を瞑るが結局何も起きず終いで、ゆっくりと目を開ければそこはさっきまでいた場所とは違う景色だった。
いくつもの光る文章や数式が浮かび上がっている一面真っ暗な空間が一面に広がっていた。
側には相変わらず神妙な顔をした親父とアン婆がいる。十中八九これはアン婆が何らかの魔法をあの魔導書らしき本で行使したんだろう。それにしても随分と手の込んだ演出をするもんだ。
「ここはこの「聖王の天目録」の内部空間。ベルカ王国と、我等が仕えるアウグストゥス家、そしてインサラウムの歴史が眠る場にございます。」
手元に浮かぶ魔導書に、アン婆は視線を落とす。
要するにあの魔導書が聖王の天目録とかいう代物で、俺達は今その内部に存在するデータバンクみたいな所に転移したって所だろう。
「てか聖王の天目録って何?そして何でこんなとこに呼び出した訳よ?」
「当然の疑問でございますな。ではまず一つ目のご質問ですが……この魔導書、聖王の天目録、通称“聖天”は、初代インサラウム家ご当主によって生み出されたベルカ、アウグストゥス、そしてインサラウムの歴史、技術、魔法と言ったあらゆる部門の情報を記した高純度記録媒体なのです。」
おっとこいつは驚きだ。何かとよく分からない国であるベルカの過去やチートの塊であるインサラウム家の技術と魔法の宝庫とは下手したら…っていうか確実にこの世界に於いても国宝級のお宝なんじゃない?
「そして二つ目のご質問の答えは、この空間に入ることでインサラウムの歴史を伝え、若様の血に刻まれし聖騎士の証を呼び覚ます為にございます。」
「血に刻まれた?どういう意味だよそりゃぁ?」
「論じるより実際に見せた方が手っ取り早い。アンブローン。始めよ。」
親父の一声でアン婆な小さく頷き、また呪文を口ずさみ始める。
今度は何が起きるんだ?何て悠長に考えていた時、突然俺の胸から魔方陣が浮かび上がった。
「うおっ!?何じゃこりゃ!ちょいタンマ!!Σ(・□・;)」
「騒ぐな馬鹿者。」
びっくりしたら親父に拳骨落とされた。何でさ……
そんなこんなで魔法陣は浮かび上がったまんまなんだけどこれからどうするんだろうか?俺的には自分で発動した訳でもない魔方陣が身体にへばりついてるのは気持ち悪いんだけど。
「では、これよりインサラウム式血胤封印術解除の儀を執り行います。」
封印?解除?何の話しだよだからさぁ。さっきからわけ分かんないよ。(♯`∧´)
そんな心境を察してか、アン婆が聖天とかいう魔導書から目を話さずに告げる。
「若様には…いえ、インサラウムの血筋を引く方々には、生まれてすぐにとある封印術を施すことが義務付けられているのです。その封印の対象はインサラウム初代ご当主が発現させ、世代を渡って受け継がれて来た業。名を「冥王の鎧」と言います。」
また知らない単語が出て来たぞ?冥王の鎧だ?何かの防具ですかそれ?何かドラ○エに出て来そうな名前だな。
あれ?ていうかどっかで聞いたようなフレーズだなコレ。
「薄々と気づいているやもしれんが、これはベルカ王家に伝わりし御業たる「聖王の鎧」に所縁のある力だ。」
あぁ!思い出した!聖王の鎧。聖王の一族に受け継がれて来たっていう防御用チート能力。
結構前にアン婆がそんなこと言ってたっけな。
「ってか、縁があるって…そんな大層な代物なのか?その閻魔様の鎧ってのは?」
「冥王の鎧だ。馬鹿者が!」
ゴツン!と、また拳骨落とされたし。ちょっと冗談言っただけなのに酷いや……(´Д` )
「お戯れはそこまでにして下され。説明を続けますぞ?冥王の鎧とはご当主の申された通り、所謂聖王の鎧の亜種に当たる能力なのです。」
「へ?何たってそんなもんをインサラウムが持ってるわけよ?そりゃぁインサラウムはベルカ王族の親戚だって聞いてるけどそんな大層なものまで受け継いじゃうモンなの?」
「それが受け継いでしまうのですよ。インサラウムは元を辿ればアウグストゥス家の者。初代ご当主に至っては当時のアウグストゥス聖王の兄妹に当たるお人だったのですから。」
「what?(^_^;)」
兄妹?兄妹って要するにはブラザーってわけですか?いやいやいや、流石にこれは……
「嘘おおおおぉぉぉぉぉぉ!!!??Σ(゚д゚lll)」
ビックリする所の話じゃないでしょ!
は?何それ?インサラウムってベルカ王族の遠い親戚とかじゃなかったの?すげぇ近しい血縁関係じゃん!俺ってつまりは王族じゃん!?初耳だよそんなの!
暫くは聖天の内部空間で騒いでたけどやっぱり親父の拳で黙らされた。あ〜脳細胞がしんで行く……更に馬鹿になっちゃうよ俺。
「落ち着かれましたかな?」
「いやいやいや、全然まだ「ギロッ」…ハイ。モウスッカリレイセイニナリマシタデス。」
「左様ですか。では話を続けますぞ?初代インサラウムご当主は3代目アウグストゥス聖王の兄として生まれました。ですが、当時聖王に求められていた資質とはまた異なる力を有して生まれ落ちてしまったのです。」
「それが冥王の鎧だっての?」
「左様です。聖王の鎧は次期聖王が持つべき絶対的な資質とされていたのです。」
「だけど聖王の鎧はベルカ王族の血を色濃く受け継いでる奴なら必ずと言っていいくらい高確率で発現する能力なんだろ?それがどうして別物なんかに変わるんだよ?」
「確かに血筋によって遺伝する種の先天的固有能力ならばそうなったでしようが、聖王の鎧は我等の先祖が聖王に高い生存能力を有した戦闘兵器としての役割を持たせる意図で王族の遺伝子に組み込まれたものなのです。」
おいおい。王様を兵器にするとか昔の人は何考えてたんだ?道具扱いされてる王様なんてシャレにもならない話だな。それならいっそのこと飾り物の方がまだマシだぞ?
「そして冥王の鎧はその処置の中で偶然生まれた失敗作だったのです。」
「え?じゃぁ大した能力でもない訳か?」
「最後まで話を聞いて下され。確かに冥王の鎧は聖王の鎧のなり損ないとも呼ぶべきものですが、あくまでもそれは、“聖王の鎧に”ならなかった突然変異種というだけであり、決して脆弱な力ではないのです。」
「あ〜なるほど、つまりは強いんだけどさっき言った二つの条件を満たしてなかったからボツになったと。」
「言い方が何やら引っかかりますが概ねその通りです。完全な自動防御能力である聖王の鎧に対して冥王の鎧は指定物に浸透させることで魔術的、及び物理的な攻撃力を底上げする強化型攻撃魔法なのです。」
物質に浸透?鎧なんて言うんだからワンピースの覇気みたいに纏ったりするものじゃないのか?
内側にも流して強化するってことなのかな?
「詳しく言えば、冥王の鎧は次元振動結界…要するに時空間規模の地震に匹敵する衝撃を接触した対象に流し込む事で内外から粉砕する能力なのです。」
「時空間規模の地震って……いやいやいや!何ですかそれ!?」
いきなり物騒な単語が出て来たな。時空間の地震ってことはワンピースの白ひげの能力みたいなもの?チート過ぎるでしょそれって。
「確かに、こと攻撃面に於いては圧倒的な効果を発揮します。ですが、聖王の鎧とは違い外部からの攻撃に対して自動的に発動することは無く、単純な防御力だけならば聖王の鎧の方が高いポテンシャルを秘めていた故にこれは失敗作と断じられたのです。」
ああ、なるほどね。確かに戦闘能力だっているけど同時に生還する力も求められてた当時のベルカ王族に於いては攻撃特化の冥王の鎧は規格外な能力だったってことか。
「初代はその出自故に物心つくと同時期に王位継承権を剥奪されると同時に王宮を追われ、民草にその身を落としました。ですが初代は名を変え、身を偽り、長い時を経て騎士としての身分にまで上り詰めたのです。」
マジで?一般市民に成り下がってからの大出世じゃん。ベルカの騎士になるのってかなり基準値が高いから才能もあって努力もしないと平民から騎士になるなんて出来ないんだぜ?ご先祖様は随分と苦労したんだろうな〜。
「でもさ。初代は何の為に騎士になったんだよ?昔の地位に返り咲きたかったとかそんな理由じゃないよな?」
「いかにも。初代が騎士となり、聖王のお側に馳せ参じられたのは、当時の聖王であらせられた初代の妹君を手の届く場所から支えるためであったのです。」
なるほど。妹が心配で仕方なかったから努力して就職したわけだ。良い話だな〜。
「けどさ、初代は物心ついた頃にはもう追っ払われてたんだろ?妹はもっとちっちゃかったんだろうし、兄貴のこと覚えてんのかね?」
双子でもない限り、妹は兄が王家を追放される時にはまだヨチヨチ歩きのお子ちゃまだった筈。
そんな時のことまで赤ん坊が覚えているとは考え辛い。心配だったのは分かるけど自分だけ側から生暖かい視線送ってたりしたら変態扱いされかねないよね。
「若様の仰る通り、妹君は聖王に即位しても兄がいた事は知っておられてもその兄に関する記憶は一切持っておられませんでした。それでも初代は構わなかったのでしょう。ただ己の誓った道を進み、妹に忠誠を捧げ、その背を支える義務を己に課していたのです。」
「何でそんな真似したんだ?さっさと自分の正体カミングアウトすりゃ良かったのに。」
「そういうわけにはいかなかったのですよ。そこで堂々と正体を明かしてしまえば国に混乱を巻き起こす恐れがあり、尚且つ聖王にいらぬ心労をかける可能性があったのです。」
まぁ言われてみれば当然だな。聖王の兄がよく分からない理由で王位から蹴落とされて妹に付き従ってるなんてことが発覚すりゃ、当然の如くド偉い騒ぎになる。
仮に妹にだけ告げたとしてもいきなり「自分が兄です」とか言って混乱させる訳にもいかなかったんだろう。
「じゃぁ終始聖王は兄貴に気づかなかったってことか?」
「逆だな。聖王は初代に一目会った時より薄々と気付かれてはおられたのだ。」
「何で?覚えてないんじゃなかったの?」
「そればかりは理屈で説明出来る事ではあるまい。恐らく、短い間とはいえ、共に在りし日の記憶は無くとも“思い出”は魂の奥底に刻みつけられていたのだろうな。」
どこか遠くを見るような目をして親父は語る。一度は離れ離れになっても妹の為に騎士となり、一本筋の通った生き方を貫いたご先祖様に想いを馳せているのだろう。
その姿はどうしようもなく……
「「似合わね〜」」
「………」
アン婆にまで言われて親父は顔を引きつらせながら押し黙る。
だって仕方ないじゃん?本来こんなロマンチストな人じゃないんだもん俺のお父上様はさ。“思い出”って何ぞ?中年オヤジが思い出ってちょっと…ねぇ?(^_^;)
「シオン、良い機会だ。お前に良いモノを見せてやる。」
突然親父が声のトーンを落とす。何ですか?何をしようとしてやがりますかこの人は?
俺が冷や汗をかいていることなどお構い無しに、親父が右拳を小さく挙げて握り締める。
すると、親父の右腕が銀色の光に包まれて強い光をはなちはじめた。
まさかあれが冥王の鎧か?スパロボの念動力みたいなビジュアルだけど……って、いやいやいや!何をいかにも「必殺技出すぞ?」みたいなノリで力込めてんの!?
さっき説明であったよね!それの能力!聞いただけでもエグさ丸出しの技だよ?そんな危ないモノ人に向けて使っちゃダメって教わらなかったの!?
「あ…元々戦闘用のモノだからある意味正しい用途ではあるのか…じゃなくて「天誅!!!」ギャァァァァ!!!」
胸に叩き込まれた親父のストレートパンチで俺は意識を刈り取られた。
あとがき
インサラウム家の生い立ちとか色々カミングアウトしました。
因みに今回出た冥王の鎧ですが、シオンは白ひげの能力みたいなものとか言ってますけど流石にあんなにはなりません。
ただし、デカい衝撃波を出したり触れた相手を木っ端微塵にする感じの能力で、一応触れたそばから衝撃が通るんで防御にも使えるって感じの能力です。
次回はシオン君の更なる覚醒及びデバイス入手回です。そういえばデバイスの設定決めてなかった。どうしよ?
まぁそこの所はリクエストあったらコメントして下さい。こちらでも大体考えておきますので。でわでわ
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