IS インフィニット・ストラトス 〜転入生は女嫌い!?〜 第五十二話 〜夏休み、それは至福の一時〜
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臨海学校も終わり夏休みも直前に迫った晴れた平日の放課後に、クロウ達はいつも通りアリーナで特訓をしていた。現在は一夏の悲鳴がアリーナに響き渡っている。

 

「ちょ、ちょと待っ──うわわわっ!?」

 

「ほら一夏、逃げるだけじゃなくてしっかりセシリアのビットの動きを見て学べよ〜」

 

「そんな事言ったって──うわっ!?セシリアも少しは手加減してくれぇ!!」

 

「ですがクロウさんから“本気でやれ”と言われておりますので。そこですわっ!!」

 

アリーナでは一夏の逃走劇が展開されていた。四基のブルーティアーズが一夏を追っかけまわしてアリーナを所狭しと駆け回る。一夏はそれをただ回避するだけなのだが、何分セシリアの技術が高いので楽々回避、と言うわけにも行かずにギリギリの所で踏ん張っていた。

 

「さてお前ら、これから一夏に攻撃するよう言ってみる。そこでお前らだったらどうやってセシリアを攻略する?」

 

アリーナの観客席では恒例のクロウによる戦闘講義が行われていた。ちなみに生徒は箒、鈴、シャルロット、ラウラの四人である。その中でいち早く手を挙げたのはラウラだった。

 

「おうラウラ、言ってみろ」

 

「はい。セシリアは一対一の状況下では距離を詰められたら終わります。それと先に四基のビットを潰してしまえば攻撃力は半減するかと」

 

「正解だ。まあセシリアの機体のコンセプトから言って、一機だけで戦うってのはあんまり無いと思うがな。これからはどうやって相手を崩すのか、考える様に戦ってみろ。特に箒、これからはお前のメニューも用意しておくからな。夏休みが明けたら本格的にやるぞ」

 

「うむ、承知した」

 

「そう言えば、クロウは夏休みの間はどこに行くの?」

 

「俺か?俺はまあ、ここにいるだろうな。他に行くあても無いし」

 

「……クロウ、さっさと一夏に指示出したら?」

 

「おお、そうだな。一夏、攻撃してもいいぞ。ただし雪片は使うなよ」

 

クロウの言葉が届くと、アリーナの一夏は反転してセシリアと対峙する。そして新しい武器を呼び出した。

 

「来い、粉雪!!」

 

すると一夏の周囲に白い雪の様な粒子が集まり、四つの武器を創りだす。それは“粉雪”、一夏の新しい力だった。粉雪を見たクロウは何やら座り心地が悪いかの様に体をもぞもぞと動かす。

 

「クロウ、どうしたのですか?」

 

「いや……あれを見るとこう、背筋がな……」

 

「アンタ、柄にもなく恥ずかしがってんの?」

 

「一夏がお前を目標にしている一つの証拠だろう。気にする事でもあるまい」

 

「まあ……そうだな」

 

クロウ達が観客席で会話している間にも、一夏とセシリアは戦っていた。両者とも自分のビットを展開して撃ち合いを続けている。数分後、様子を見ていたクロウからストップがかかった。

 

「そこまでだ、二人とも。今日はその辺りでいいだろ」

 

「ああ、分かった」

 

「分かりましたわ」

 

そう言って二人はアリーナの地上に降り立ってISを解除する。クロウ達も席を立ってアリーナに向かった。四人が着くと二人がゆっくりとクロウ達の方へ歩いてくる。

 

「セシリアはやっぱりビットの使い方が上手いんだな」

 

「一夏さんもこれから次第ですわ。射撃武器は使えば使う程慣れてきますから」

 

「そうだな、一夏も射撃武器が増えたし、この夏休みの間に特訓メニューを一新しておくか」

 

「ねえクロウ、そう言えばクロウのISって新しくなったんだよね?」

 

「そうだな。新しくなったっていうより、本来の姿に戻ったっていうのが正しいが」

 

「クロウの機体だが、何故あそこまでの力を出せるのだ?」

 

「スピードもISとは段違いですわね」

 

「何故あそこまで強力なのですか?」

 

「お前ら、いっぺんに質問するな。ちゃんと答えてやるから」

 

シャルロットの問いが引鉄になったのか、全員が次々と質問をクロウに投げかけてくる。辟易したクロウは全員を落ち着かせてゆっくりと質問に答えていく。

 

「そうだな。その質問の答えだが、こうしなけりゃ生き残れなかった、って事だな」

 

「そ、そうなのですか?」

 

「ああ。俺の世界じゃ敵味方含めて、全長100m越えがザラだったからな」

 

「……何か凄いな」

 

「そういう事だ。その結果、ブラスタを改造して生まれたのがリ・ブラスタって訳だ。納得したか?」

 

「ああ、うん」

 

一夏がクロウの言葉に頷いてやっと質問が終わった。クロウは最後の締めとばかりに少しだけ声を張り上げる。

 

「さて、数日後から約一ヶ月間の夏休みになるが、目一杯楽しんでこい。また学校が始まったら授業漬けの毎日だからな。それじゃあ今日は終わり!!」

 

パン、とクロウが両手を叩いて終了の合図を出す。ぞろぞろと更衣室に行く面々に向けて、クロウは最後に付け足した。

 

「あ、それとお土産はしっかりと頼むぜ。出来れば大量に」

 

「……アンタ、その一言言わなきゃ綺麗に終わったのに」

 

鈴のツッコミが静かなアリーナに響き渡った。こうして夏休み前最後の特訓は終わりを告げたのである。

 

 

 

 

「さて貴様ら、よく聞け。今日で授業は終わり、明日から夏休みとなるが最後の注意を言っておこう」

 

教卓で千冬がクラスメイトに向かって静かに通達する。今日はとうとう最後の授業日、全員顔には出さないが、“早くこのHRが終わって欲しい”と願っている事だろう。

 

「いいか、夏休み中は決して問題を起こすな。くれぐれもIS学園の一員と言う事を忘れるな。それではこれでHRは終わりだ。それぞれ、夏休みを楽しむように、以上」

 

そう言い残して千冬が教室から出ていく。教室の扉が閉められたとたん、生徒達から爆音の様な歓声が上がった。

 

「やっと夏休みだ〜!!」

 

「ねぇねぇ、どこ行く?」

 

「私、実家に戻ってのんびりしたいな〜」

 

生徒達が千差万別の夏休みの予定を話す中、クロウはただ一人手早く鞄の中に勉強道具を閉まって教室から出ていこうとした。その様子を見て、一夏が声をかける。

 

「クロウ!一緒に帰ろうぜ!!」

 

「ああ、いいぜ」

 

一夏に返事を返してクロウは教室の外で一人待つ。他のクラスもHRが終わったのか、廊下は多くの生徒達で溢れかえっていた。壁に体を預けながら廊下の生徒を見ると、誰もが笑顔を浮かべている。

 

「あれ?アンタどうしたの?」

 

物憂げな表情をしているクロウに話しかけたのは鈴だった。彼女のクラスもHRが終わったのだろう、肩から学生鞄を下げている。

 

「鈴か。ただ一夏を待っているだけだ」

 

「教室の中で待ってればいいじゃない。どうしてわざわざ外に出てきてるの?」

 

「いや、単にあの空気がな……」

 

「空気って何よ?」

 

意味が分からない、と言った顔をする鈴。そのままクロウと同じく壁に体を預ける鈴に向けて、クロウは渋々と喋った。

 

「まあその……女だらけの空間がな。どうもまだ慣れない」

 

「何言ってんのよ、もう噂になってるわよ?アンタが女嫌いを卒業した事」

 

「……は?」

 

「アンタ、女の情報網を甘く見ない方がいいわよ?所々ではアンタと千冬さんが良い空気になってるって噂もあるんだから。まあアタシはそれを聞くたびに否定してあげてるけどね。感謝しなさいよ?」

 

「……感謝します」

 

そこでようやく一夏が教室から出てきた。箒、セシリア、シャルロット、ラウラも一夏の後に続いて出てきてクロウに合流する。

 

「さて、帰るか」

 

クロウが先導して生徒達をかき分けながら進んでいく。流石に校舎を抜けると人ごみは無くなり、ようやく話が出来る状態となった。

 

「そういや俺はここに残るが、お前らはどうするんだ?」

 

「ああ、俺は家に帰るかなぁ。そろそろ掃除もしておきたいし。クロウも一回寄ってくれよ!ここからそんなに遠くないしさ」

 

「私は……」

 

「箒、お前も帰れるなら帰っておけ。帰れる場所があるってのはいいもんだ」

 

クロウの妙に実感のある言葉を受けて、箒がゆっくりと頷く。次に夏休みの予定を話したのは、セシリアだった。

 

「私も一旦、イギリスへ戻りますわ。色々と手続きがあるので」

 

「僕も帰ろうかなぁ、お父さんと話したいし」

 

「私も部隊を残したままだ。一旦帰ってクラリッサと今後の予定を煮詰めなければ」

 

「うーん、私も戻らなきゃいけないのよねぇ。国の偉い人に呼び出されて」

 

全員が夏休みの予定をそれぞれ述べる。どうやらIS学園に残るのはクロウだけらしい。そのまま談笑して寮へと入る七人。途中で一人、二人と別れて最後にクロウは一夏の部屋の前についた。

 

「じゃあな、一夏。呼んでくれる時は電話でもしてくれ」

 

「ああ、分かった」

 

一夏達はすぐに寮を出て行ってしまう。少し性急過ぎる気もしないでもないが、一夏と箒以外は全員代表候補生なのだ。なるべく早く国に帰って仕事を色々とこなさればいけない。

 

「クロウ、ほんとに学校にいるのか?」

 

「ああ。まあ他に行くところもないしな。お前達は楽しんでこい」

 

そう言ってクロウが自室へと戻る。元々クロウと一夏の部屋はそこまで離れていないので、すぐに自室に着いてしまう。鍵を取り出して開けようとしたその時、クロウはふと違和感を覚える。

 

(鍵が……空いている?)

 

そう、確かに朝閉めて出ていったはずなのに部屋の鍵は空いていた。不審に思ったクロウはゆっくりとドアノブを回し、音を立てずにドアを開けていく。開いた隙間からするりと部屋に入ってすぐに中の様子を伺うと、何者かがクロウのベッドに座っていた。謎の人物はクロウに背を向けてベッドに座っているのでまだ気づかれてはいない様だが。

 

(誰だ?まさか……)

 

クロウはこの世界での自分の立場をもう一度思い出す。世界で二人しかいない男性IS操縦者、厳密に言えばクロウは違うのだが傍から見たらクロウも、一夏と同じ存在に見えるだろう。そんなクロウの価値は計り知れない。偽装だったとは言え、シャルロットも元々は一夏とクロウのデータを盗む様に言われていたのだ。

 

(……一気にやるか)

 

いくらIS学園のセキュリティレベルが高いと言っても、完璧な訳ではない。世の中に“完璧”と言う言葉は存在しないに等しいのだ。覚悟を決めたクロウは鞄を脇に置いて、一息に飛び出した。謎の人物はクロウの接近に気づくがひと呼吸遅い。先手を取ったクロウは相手の襟を掴んでベッドに押し倒す。そしてマウントポジションを取ると相手の顔をゆっくりと覗き込んだ。

 

「……千冬?」

 

「ク、クロウ。少し痛いので手をどけてくれると嬉しいのだが……」

 

ベッドの上で声を絞り出したのは千冬だった。クロウは千冬だと分かると、慌てて手を離す。

 

「お前、何やってんだ?鍵はどうした、鍵は」

 

「それはその……寮監権限と言う物で……」

 

体を起こして語尾を濁らせながら、千冬が恥ずかしそうに言葉を絞り出した。クロウは呆れて物が言えなかったが、本題を聞き出す為に千冬に問いかける。

 

「それでお前、何で俺の部屋にいるんだ?」

 

「ああ、聞きたい事があってだな。貴様、夏休み中はどこにいるのだ?」

 

「そんな事か。一夏達にも言ったが今の所予定が無いんでな。ずっとここに居るつもりだぜ」

 

「そ、そうかそうか」

 

「……お前、まさかそれを聞くためにここに入り込んだのか?」

 

「い、いや!違うぞ、私は……そう!これを渡しに来たのだ!!」

 

そう言って千冬はクロウのベッド脇にある紙袋から、数冊の冊子を取り出した。クロウには覚えが無いので、千冬が持ってきた物だろう。

 

「何だそりゃ?」

 

クロウが疑問の声を上げると、千冬の顔が教師のそれに早変わりする。千冬はクロウに冊子を手渡すと説明を始めた。

 

「これらはIS学園を卒業した者達が取る進路などをまとめた物だ。お前もこの学園を卒業した後の進路を少しは考えておけ。早いかもしれないが、こういう物は早く考えるに越した事はないからな」

 

「そうか。ありがとな、千冬」

 

「べ、別にこれくらいは教師として普通だ。そ、それではな」

 

そう言って千冬は紙袋を置いたまま立ち上がり、ドアから出ていこうとする。しかし一旦外に出ていった後、再びドアを少しだけ開けて部屋の中のクロウに問いかけた。

 

「ク、クロウ。夏休みは本当にここにいるのだな?」

 

「ああ、何回も言ってんだろ。俺はここにいる」

 

「そ、そうかそうか……それでは」

 

最後に何やら訳の分からない事を言い残して千冬は去っていった。残されたクロウは何が何だか分からないまま、ベッドに体を投げ出す。

 

(夏休みは……暇しそうにないな)

 

何処か予感めいた考えが頭をよぎる。クロウは千冬が持ってきてくれた紙袋から冊子を数冊取り出し、読み始めた。こうして、様々な人物の思いが交錯する夏休みは幕を開けることとなる。

 

 

 

説明
第五十二話です。

まずはすみません。約一ヶ月も放置してしまって。

ぶっちゃけ言うとほかの小説も滞り気味だったので、昨日の日曜日を使って全ての最新話を書き上げました。

その結果、作者の指と背中の筋肉が悲鳴をあげています。

まあ、完成したからいいんですけどね……

流石に夏休みが終わってしまったので今までみたいに週一の投稿は難しいですが、出来るだけスピードを落とさない様に頑張っていきたいと思います。

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コメント
次回も楽しみにしてます!(クライン)
千冬が可愛くて最高です(氷狼)
次回楽しみにしています。(y)
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IS インフィニット・ストラトス SF 恋愛 クロウ・ブルースト スーパーロボット大戦 ちょっと原作ブレイク 主人公が若干チート ハーレム だけどヒロインは千冬 

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