IS インフィニット・ストラトス 〜転入生は女嫌い!?〜 第五十四話 〜クロウ、出会う〜 |
(この男は、一体何者だ?)
首都からある程度離れた郊外の基地、その中のとあるブリーフィングルームでそんな事を考えていたのはクラリッサ・ハルフォーフだった。今、彼女の目の前には二人の人間が並んで立っている。
「いいかお前達、今回はこちらの方にわざわざ来てもらった。こちらは私の中でもトップクラスの技量を持ち、更には最高の指導者でもある」
「……」
ラウラの隣に立っているクロウはそわそわと忙しなく体を揺すり“この場から全力で逃げ出したい”という感情を体全体で表現していた。長机が何列にも並べられた部屋の中で、椅子に座りながら一人クラリッサは目の前の男について思考する。
(こいつ……IS学園の生徒、クロウ・ブルーストとか言ったか。履歴では特に目立った点は無かった……いや、確か──)
クラリッサは前に見た、目の前にいるクロウの経歴を思い返す。初めて見た時は特に何とも思わなかったのだが、最後に付け足されているのを見て驚愕した記憶があった。
『当経歴は偽造された可能性有り。本来の身元は不明』
(この男……何かあると言うのか?)
彼女の視線の先では “如何にクロウが素晴らしいか”と熱弁しているラウラの姿があった。その隣では、諦めモードに入ったクロウが片手を顔に乗せて天を仰いでいる。とうとう我慢出来なくなったらしく、隊員の一人が席を立ってラウラを見つめた。
「隊長、一つよろしいですか?」
「発言を許可する。何だ?」
「はっ。失礼ですが、私にはこの男がどうしても隊長が仰る様な人間には思えません」
その言葉を聞いてラウラの眉がピクリと動く。クラリッサも同意見だったので同じ様に席を立って隊員に続いた。
「隊長、貴方を疑う訳ではありませんが確かにその男は隊長の言葉とは大きくかけ離れています」
「ク、クラリッサ……お前まで何を──」
「失礼ですが、そもそも私達にはその男を信用する様な材料が何一つありません。その証拠を提示してはもらえませんか?」
その言葉を聞いていきなり慌て出すラウラ。その反応を見て、“本当にこの男には何かがあるのだ”とクラリッサは確信を得る。言葉を続けようと口を開いたその瞬間、初めてクロウが発言した。
「オーケー。アンタの言うことはもっともだ、副隊長さん。俺もすんなりと受け入れてもらえるなんざ、思っちゃいなかったさ」
「……」
「だがな、俺はラウラに頼まれたんだ。報酬に見合うだけの仕事はする、それが俺の主義だ」
「……それでは模擬戦などどうでしょう?」
いきなり発言するラウラに部屋にいる全員の視線が集まる。隣にいるクロウもラウラの言葉に唖然としていた。
「クロウとクラリッサが模擬戦闘をするのです。クラリッサ、お前も自分で確かめてみるといい。クロウの力を……」
「……分かりました。いいでしょう」
「それではお前達は至急、訓練場の準備をしておけ。クラリッサは機体の準備を30分以内に済ませておく様に。クロウ、こちらへどうぞ」
ラウラがクロウを先導して部屋の外に出ていく。ラウラが出ていった瞬間、クラリッサの周囲に隊員達が集まってきた。
「お姉様、本当に宜しいのですか?」
「その通りです。あんな男、私達が相手に──」
「そこまでだ。我らの隊長があそこまで信頼しているのだ、何かがあるのは確実だろう。だがケジメは必要なのだ。望んだ身でこんな事を言うのは我ながらおかしいとは思うが、得体の知れない男にお前達を教える資格は無いと私は考える」
「お姉様……」
隊員がキラキラと目を輝かせながらクラリッサを見ていた。クラリッサは自身を見つめる眼差しに対して苦笑を漏らしながらも、両手をパンと打ち合わせて隊員達に指示を下す。
「さあ、急いで我らが隊長のご命令の通りに動け!ぼやぼやするな!!」
「「「はいっ!!」」」
約30分後、基地内の訓練場にはクロウとクラリッサがいた。ラウラの言葉通り、速やかに準備を整えた隊員達は、既にモニタールームで二人の戦いを今か今かと待っている。クラリッサは既にIS“シュヴァルツェア・ツヴァイク”を装備済み、クロウはいつものコート姿で大地を踏みしめていた。更地の周りを壁で囲った様な訓練場に、スピーカーより発せられるラウラの声が響き渡る。
≪ルールはどちらかのISのシールド・エネルギーを0にした方が勝利。それで構いませんね?≫
「ああ、いいぞ」
「了解しました、隊長」
≪それではクロウ、展開して下さい≫
ラウラの言葉に従って、正面に右腕を伸ばしたクロウがコートを捲くって右手首を顕にする。そこには赤と青のラインが入った銀色のブレスレットが付けられていた。
「行こうぜ、リ・ブラスタ!!」
クロウの言葉と共に、ブレスレットが赤色に輝き始める。赤色光はそのまま広がってクロウの体を包み込んでいった。数秒後、光が弾け飛ぶとその中心にはリ・ブラスタRタイプを身に纏ったクロウの姿が。先程まで着込んでいたコートは既に影も形も無くなり、ISスーツとリ・ブラスタに身を包んだクロウがクラリッサに問いかける。
「おいあんた、準備は?」
「何時でも構わない……来い」
そう言うとブゥゥンと音を立てながら手刀を展開するクラリッサ。クロウも同じく構えを取ってクラリッサと相対する。
≪それでは……始め!≫
「ハアアアアッ!!」
「うおおおおっ!!」
クラリッサは手刀を、クロウは手首部分の篭手を回転させて互いにぶつかり合う。クラリッサの手刀と、クロウの拳が火花を上げながら鍔迫り合いを起こす中、二人の戦いの火蓋が切って落とされた。
「お、お姉様が……」
「何なのよ、あの男……」
モニタールームでは、“シュヴァルツェ・ハーゼ”の隊員達が目の前にあるモニターを食い入るように見つめていた。その後ろにはラウラの姿も見える。
(流石クロウ、いとも簡単にクラリッサを手玉に取るとは……)
隊員とラウラが見ているモニターの中では圧倒的な試合が展開されていた。クロウは射撃武器を一切使わず、近距離武装だけで戦っているにも関わらずクラリッサを終始押しているのである。クラリッサも距離を取って射撃武器で攻撃を加えようとするが、距離を取る様な隙が全く無かった。手刀だけではなく、ワイヤーブレードも駆使しているのだが、全てクロウに叩き落とされている。
「あ、お姉様!!」
とうとうクラリッサが倒れ込んでしまった。ラウラが手元にある二人のステータスを示すタブレットを見てみれば、クラリッサのシールド・エネルギーが0を示している。当然の結果だと思いつつも、ラウラは隊員達をかき分けてモニターの前にあるマイクを手に取った。
「そこまでだ、勝者はクロウ。異存は無いな、クラリッサ?」
≪……はい。文句無しに私の負けです≫
「二人とも、先程のブリーフィングルームに来てください。クラリッサはクロウを連れてくるように」
そう言ってラウラは通信を切る。振り返ると、隊員達が“信じられない”と言った表情をしていた。そんな隊員達めがけてラウラがぴしゃりと言い放つ。
「これで分かっただろう。クロウはどこぞの馬の骨とは違う。その強さは教官と同じ、いや下手をすれば教官より強いかもしれん」
その言葉を聞いて隊員達の顔が更に驚愕に染まる。ラウラが言う“教官”とは誰のことを指すのか、その意味は隊員達全員が知っていた。
「確かにいきなり私と同じ年代の男に教えを受けるのは癪かもしれんが、それを望んだのは貴様らだ。そして私は断言しよう、クロウの特訓を受ければ貴様たちは必ずレベルアップする。分かったか!!」
「「「……はい!!」」」
隊員達が揃って綺麗な敬礼をラウラに返す。それを見て満足げな顔を見せると、ラウラは隊員たちを引き連れて、モニタールームを出ていった。
「無事か?」
クロウがリ・ブラスタを解除して目の前に座り込んでいるクラリッサに右手を差し伸べる。クラリッサは露わになっている右目でクロウを睨みつけながら失笑した。しかしその目にも、その口調にもつい先程まであった高圧的な感情は無い。
「ふっ、今まで戦っていた人間に対する言葉ではないな」
「そりゃ失礼した。それ以外の言葉を知らないもんでな」
クロウが言葉を返すと、再びクラリッサが笑みを零す。クロウの顔をしっかりと見上げながらクラリッサは目の前の手を取ると、一気に立ち上がった。
「先程までの非礼を詫びる。歓迎しよう、クロウ・ブルースト。ようこそ、シュヴァルツェ・ハーゼへ」
「ありがとよ、副隊長さん」
「紹介が遅れたな。私はドイツ特殊作戦部隊“シュヴァルツェ・ハーゼ”副隊長、クラリッサ・ハルフォーフだ。呼ぶときはクラリッサでいい」
「俺はクロウ・ブルースト、クロウでいい。短い間だが、よろしく頼むぜ」
二人は大人の笑みを零す。そこには少年ではなく、大人の雰囲気を纏った二人が静かに握手を交わしていた。
説明 | ||
第五十四話です。 ドイツ編その1。見事ドイツ入りを果たしたクロウ。だがラウラの推薦とは言え、いきなり受け入れられるはずもなく…… |
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