Fate/anotherside saga〜ドラゴンラージャ〜 第六話『温かい人々』
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苦しみは人間を強くするか、それとも打ち砕くかである。

その人が自分のうちに持っている素質に応じて、どちらかになる。

――ヒルティ

 

 

 

 

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「終わったな」

「うむ。思ったよりもあっけない終わりだったな」

 

 

剣に付いた血を布で拭いながら、サンソン達この村の警備兵が戻ってくる。

ネロも隕鉄の鞴「((原初の火|アエストゥス・エストゥス))」をその手から消す。

それを見た警備兵達が驚いている。

 

 

「すごいな。ヴィリーたちの言うとおり本当に剣を消しちまったぞ」

「ああ。変な力を持っているのは本当らしいな」

「すげーよな。オレもできるようにならないかな。いちいち剣を持ち歩く必要がなくなるぜ」

「どうでもいいけどあの子可愛いよな。少し話しかけてみようかな?」

「やめとけ、やめとけ。どう見てもあっちの小僧と良い仲じゃないか。絶対に見込みないって」

 

 

…………なんか変な会話してるな。

 

 

「こら、おまえら! しゃべってないで、こっちを手伝いやがれ!」

 

 

オーガの死体を一か所に集めていたサンソンが怒鳴り、おしゃべりをしていた警備兵達も慌ててその作業に加わる。

俺はその間にネロと気になることを話すことにする。

 

 

「なあ、ネロ。ここの警備兵達ってどう思う?」

「やはりそなたも気になっておったか。余から見ても、ここの者達はかなりの腕だと思うぞ」

「特にあの隊長のサンソン。あの警備兵の中でも、かなり強いんじゃないか?」

「あの者は連中の中でも一段階ずば抜けておる。純粋な剣の腕だけなら余よりも上……いや、それどころかあの太陽の騎士にも引けを取るまい」

「な! あのガウェインとか!?」

 

 

そこまで強いのか…………。

 

 

「無論、宝具や戦闘スキルを使用しないという前提の上だがな」

 

 

俺達が話しているうちに、サンソン達は三体のオーガの死体を焼却処理していた。

作業の終わった警備兵がこちらに戻ってくる。

 

 

「さて、改めて名乗らせてもらう。オレはサンソン・パーシバル。ヘルタント城の警備兵隊長を務めさせてもらっている」

「俺はタクト・コノエって言います。故郷から旅を続けてここまで来ました」

「余の名前はネロ・クラウディウス。至高の芸術家にして、ここにいるタクトを守る美しき剣だ!」

「そ、そうか……。とりあえず、オーガから村人を守ってくれたことに礼を言わせてもらう」

 

 

サンソンはネロのおかしな自己紹介に目をパチクリとさせていたが、特になにも言わずに話を続けた。

 

 

「いえ、いいんですよ。俺は当然のことをしたまでですから」

「たった二人でオーガ二匹を始末することを当然のことと言われたら、オレ達の立場がないんだがな……」

 

 

サンソンは若干呆れながらそう続けた。

うっ。

確かにそうかもしれない…………。

普通の人ならできないよな、こんなこと。

 

 

「ま、それはともかく。このことはオレの口からここの領主さまにも報告させてもらう。しばらくしたら領主さまから謝礼を用意してくださるだろう」

「謝礼ですか……」

 

 

お金にはあまりがっつく方じゃないけど、無一文の今はありがたくもらうとしよう。

……少しだけ、藤村先生を思い出して苦笑した。

あの先生には最後まで手を焼かされたからなー。

 

 

「ん? どうしたんだ?」

「い、いえ。何でもありません」

 

 

サンソンはまだ怪訝な顔をしているが、特に気にせずに話を続けてくれた。

 

 

「そうか? ……そういえばお前達、まだ朝食を食ってないんじゃないか? よかったら村の居酒屋まで案内するぞ」

「居酒屋、ですか……」

 

 

居酒屋って。

俺って未成年でお酒飲めないんですけど……。

いや、それともこの世界ではもう俺の年齢だと飲んでもいいのか…………?

そんな俺の心情を読み取ってくれたのか、サンソンはにっこりと笑う。

 

 

「なーに、心配するな。居酒屋とはいえ酒以外の飲み物も出してくれる。それにあそこの料理はけっこう旨いんだぞ?」

「うむ。余も空腹だぞ、タクトよ。こやつの話に甘えさせてもらおうではないか」

「でも、いいんですか? 領主さまへの報告もあるんですし、お忙しいんじゃないですか?」

「余計な気は使わなくてもいいさ。それにその居酒屋は領主さまの城へ行く道の途中にあるからな」

「……わかりました。それならお願いします」

 

 

サンソンは満足そうに頷いて他の警備兵に話し出した。

 

 

「よし、お前ら聞いたな! これから我が村を救ってくれた偉大なる旅の魔術師と剣士をヘナーおばさんの居酒屋<サントレラの歌>にまで護送するぞ!」

「え。いや、ちょっと…………!?」

 

 

サンソンの口から出てきたあんまりの言葉に俺は思わず狼狽してしまう。

が、周りの警護兵達が笑っているところを見ると、ただの冗談ようだ。

……いや。

まあ、冗談じゃないと俺も困るけど。

 

 

「余と奏者を護衛するというその態度。うむ、悪くない。大義であるぞ、そなたら」

 

 

ネロさん、嬉しそうですね…………。

元ローマ皇帝としての血がたぎるんですか?

だけど、警備兵達はそんなネロの様子に気を悪くせず、むしろその態度をジョークとして受け取ったのか、悪乗りしてくれる。

 

 

「ははー。おほめに頂き光栄です」

「ささ、女王陛下。どうぞこちらへ」

「うむ、うむ! 苦しゅうないぞ、褒めてつかわそう!」

「「ははぁー!」」

 

 

…………ここの人たちは、とてもノリがいいってことはわかった。

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「へー、それじゃお譲ちゃんはあっちの少年を守るナイトなのかい!」

「そうだぞ。余はタクトを全力で守り、タクトは余に全力で守られる。うむ、実にわかりやすい関係ではないか!」

「ハハハハハ! こんなジェミニと変わらない年頃の女の子に守られるなんて情けないな、小僧!」

「いえ、そんなこと言われても……」

「なんの取り柄もなさそうな男を守る、お姫様みたいな女の子なんてな。普通逆じゃねーか? ほら昔話みたいな。お姫様を守るかっこいい騎士とか忠実な従者とか。もしくは見習い騎士とそれに守られる村の少女とかさ」

「確かにな。それが男の方はなにもしないで女の方に守られるなんてな……」

「おいおい、ちょっと待てよ。このボウズのほうは確か魔術師なんじゃなかったか?」

「そういえばそんな話も聞いたな」

「本当だぞ、みんな! あのボウズはジャックの怪我を一瞬で治しちまったんだ! 俺はこの目でちゃんと見たんだ!」

「おい、小僧! それって本当なのか?」

「ええ、まぁ……」

「へー! そんな歳で魔法が使えんのか!?」

「すっげーな、少年!」

「今まで見たことのある魔術師はみんなヨボヨボのじーさんだったもんな!」

「お。だったらちょうどいいじゃねーか。まだ若いのに魔法を使いこなす天才少年魔法使いにそれを守る美少女剣士! まさしく昔話じゃねーか!」

「おお! 確かに!」

 

 

えーっと……。

なんでこんな状況になったんだっけ?

ていうかなに、このカオスな状況?

確か発端はサンソン達に案内してもらった居酒屋<サントレラの歌>で食事をしている時だった。

……ちなみに無一文だった俺達はこの居酒屋の女主人、ヘナーおばさんに相談して食事代はここで働いて返すという約束になった。

どうせいつかは働かないといけないんだからこっちとしてもありがたい話だった。

……まあ、ネロに接客業ができるかは非常に怪しいところだけど。

サンソン達警備兵は領主への報告やらオーガの使っていた武器の始末やら、まだ色々と仕事が残っていたのですぐに行ってしまった。

それで食事をしていた俺とネロのところにロバートやジャック達がお礼を言いにやってきた。

おじさん達は警備兵にオーガと俺達のことを知らせジャックの傷をお医者さんに見てもらった後、俺達のことを探していたらしい。

ジャックの腕の傷はもう完全に塞がっていて何の問題もないそうだ。

ちゃんと治ったか心配だったから本当に良かった。

それにしてもあの傷が完全に塞がるとはさすがは俺の使える中で最強のコードキャストの一つだ。

…………ありがとな、凛。

で、その後は村の人達が質問をしまくってきた。

さっきまで多少の警戒――というよりは遠慮をしていたみたいだけど、ロバート達との会話でみんな好奇心を抑えられなくみたいだ。

答えても、答えても次々と質問してくる。

おまけにみんなテンションが高い。

ネロは嬉しそうに答えているけど俺は少し疲れたぞ……。

 

 

「なあ。あんた達の名前って何て言うんだい?」

「俺はタクト・コノエって言います。そして向こうの少女がネロ・クラウディウスです」

「うむ。そなたら覚えておくとよいぞ」

「さすが旅人さんだけあって、珍しい名前をしているんだな」

「ああ、そうかもしれませんね」

 

 

ま、それもそうだろう。

俺の名前は元々日本風の名前だからな。

 

 

「お譲ちゃんの名前も変わってるな。“ネロ”なんて普通、男の名前だろ?」

「余とタクトの故郷では女にも男にも似たような名前を付けるという風習があったからな。おかげでこのような男風の名前になったのだ」

 

 

自分で作った設定だけどあまり多用するとバレるかもしれないな。

とはいえ、こうでもしないとネロの名前を説明できないしなー……。

どうしたもんか。

 

 

「へえ。そうなのか。そういえばロバートたちから聞いたんだが、その口調とか服装も故郷の習慣なんだって?」

「うむ、そのとおりだ。余の故郷では普通のことだぞ?」

「はー。珍しい所もあるんだな」

「なあなあ。タクトとネロってなんで故郷を出たんだ?」

 

 

うわ!

一番してほしくない質問が来た!

 

 

「そ、それは……」

「バカか、お前。なんでそんな質問してるんだよ」

 

 

黙ってしまった俺とネロを見て、別の人が呆れたように言う。

た、助かった……。

 

 

「年若い男女がたった二人で旅をしてるんだぜ。そんなの駆け落ちに決まってるだろ!」

 

 

助かってなかった!

 

 

「駆け落ちだと!? よ、余とタクトが駆け落ち………………………………………………そ、そんなの………………………………恥ずかしいではないかっ!」

 

 

ネロさん?

ものすごく嬉しそうな顔で恥ずかしがらないでくださいませんか?

こっちまで恥ずかしくなってくるじゃないか……。

ていうか冷静に考えたら駆け落ちってのもあながち間違ってないような気も……。

 

 

「ひゅーひゅー!」

「お幸せな、お二人さん!」

「きゃー、すてき!」

 

 

俺達の反応を見た村人達がはやし立ててくるが、それに対して怒りは湧いてこない。

だってからかっているけど、村の人達が心から俺達の事を祝福しているのがわかったから。

ほんの少し前に出会ったばかりの得体のしれない旅人に対してここまで温かい対応ができるなんて。

ここの人達は本当にいい人ばかりだ。

……でも。

だからこそ気になる。

この村に流れる冷たい気が。

どうして、こんな村にオーガが三体も現れたのか?

どうして、ジャック達はあんなすぐに命を捨てる覚悟ができたのか?

どうして、サンソンをはじめとするここの警備兵はあんなに強いのか?

なんだか嫌な感じがする。

別に俺とネロに危険が降りかかるような感じではないんだけど……。

 

 

「お、まだここにいたか」

「サンソンさん? どうかしたんですか?」

 

 

そんな考え事をしていると、この村の警備兵隊長サンソン・パーシバルに話しかけられた。

先ほど別れたはずだがいつのまにか戻ってきていたらしい。

 

 

「さっき領主さまから謝礼が出るかもしれないって話をしただろ」

「ええ、言っていましたね」

「それが領主さまに今回の件を報告したら、旅の話も聞きたいから今から城に来てくれないか、と言われたんだ」

「思ったよりも早いんですね……」

 

 

こういうのはもっと時間がかかることだと思っていたんだけど。

 

 

「ああ。普通ならもっと時間がかかるんだが、旅人がこの村に来ることも珍しいし、その旅人がモンスターを退治してくれるなんてもっと珍しいからな。領主さまもお前たちに興味を持たれたらしい」

「なるほど」

「領主さまは今すぐでもなくていいから、落ち着いたら城に来てほしいと言ってはいたがどうする?」

「……そうですね。ええ、わかりました。領主さまにお会いします」

「お、そうか。じゃあすぐに出発するか?」

「あ、ちょっと待ってください。……ネロ!」

 

 

城に行く前にネロにもちゃんと話をしておかないと。

 

 

「おい、ネロちゃん! 旦那さまが呼んでるぞ!」

 

 

………………いつのまにか俺はネロの旦那にされたらしい。

あっ!

サンソンもにやにや笑ってやがる!

 

 

「どうしたのだ、タクトよ?」

「いや、ここの領主様がさっきのオーガを退治した謝礼をしてくれるらしいんだ。それで今からお城にむかうって話になったんだけど」

「ふむ。すぐに向かうのか?」

「まあ、俺はそのつもり。これからのこともあるし、領主様には一度会っておかないといけないしね」

「そうか。では行くとしようか」

「それじゃあ、サンソンさん。案内をお願いします」

「ああ、任せろ」

 

 

そう言って俺達が<サントレラの歌>から出て行こうとすると、後ろから村の人たちの温かい声が聞こえてきた。

 

 

「じゃあな、ネロちゃん! また会おうぜ!」

「旦那さんを取り逃がすんじゃねーぞ!」

「タクトが浮気したらワタシに言いにおいで! 二度と浮気なんてできなくなる、きっつーいお仕置きを教えてあげるからさ!」

「ひゅー、ひゅー!」

「お譲ちゃん! なにか買い物するならうちに来いよ! 安くしとくからさ!」

 

 

……ネロ、こんな短い時間だけで村の人達と仲良くなりすぎだろ………………。

皇帝だった時、市民の人気者だったって話はあながち嘘でもなかったのか…………。

 

 

「うむ。皆の者、心遣い感謝するぞ!」

 

 

ネロが花のような笑顔を村の人達に向ける中、俺達は<サントレラの歌>を出た。

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あとがき

前回、ネロが無双している〜、とのコメントをいただいたので、今回はこの小説におけるネロの戦闘能力について書きたいと思います。

 

まず、ヒロインのネロですが、彼女は元サーヴァント(セイバー)ということもあり、この世界でもかなり強い部類に入ります。

伊達にエネミーやらサーヴァントやら『モンスター』やらを倒してきたわけではないのです。

ただし、現在はサーヴァントではなくなっているので、筋力についてはそこまで化け物レベルではなくなっています。(もちろん、ただの少女よりはよっぽど強いんですが)

だいたい普通の成人男性と同じくらいの力で、オーガにははるかに及ばないって感じですね。

純粋な戦闘技術に関しては、普通の兵より圧倒的に上ですがサンソンには劣ります。

無論、宝具を使用した場合この世界で勝てる『人間』はほとんどいません。

 

 

強さを表にしてまとめると、だいたい――

 

ネロ(宝具使用時)>>>>>>サンソン>>ネロ(通常)>>ヘルタント警備兵>>>>>>>>拓斗(一般人)

 

――みたいな感じです。(もちろん、あくまでだいたいの基準ですので、時と場合によってこの表はひっくり返ります)

 

 

まあ、一言でいうと『この作品でのネロの実力はサンソンに並ぶか並ばないかくらい』となります。

異論は色々ありそうですが、あくまでこの作品での設定ということでご容赦ください。

 

 

次回はある意味急展開です。

……もしくは超展開?

 

 

では、また次回お会いましょう。

(最近運動不足な気がしてならない)メガネオオカミでした。

 

説明
更新遅れて申し訳ありません!(土下座)
次回はもう少し早く投稿したいと思います!

というわけで、第六話です。
残念ながらストーリーはそこまで進みません。
……これだけ更新が遅れたのにort

そんなこんなで、第六話『温かい人々』
お楽しみいただけたら幸いです(^^)
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コメント
「色々な意味で」特殊な場所ですよね。(メガネオオカミ)
おお、待ってました! まあヘルタントはかなり「特殊」だから初めて領内に入った人は戸惑うよね。(kuorumu)
タグ
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