魏エンドアフター〜不穏ナ白影〜
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一刀「ん──」

 

朝陽に顔を照らされ、その眩しさに目を覚ます

 

一刀「ん〜〜〜!ッ……いっててて」

 

伸びをしたと同時に脇腹に痛みが走る、そういえば昨日大会で折られたんだったな

さてと、ちょっと早いけど朝食を──

 

ぐいっ

 

寝台から起き上がり、布団を出ようとしたところで何かに腰を引っ張られた

すこしボケた寝起きの頭で目を横にやり、正体を確かめる

 

一刀「……は?」

 

一瞬目を疑う、いや、五感の全てを疑った。

夢かと思い、思い切り頬を抓るも

 

……いたい

 

痛いって事は夢じゃないって事で

 

???「んぅ……」

 

俺の横で睡眠を貪っているこの子は確かに存在するわけで。

 

な──

 

一刀「なんじゃこりゃぁぁ!!」

 

あまりの驚きに意識が覚醒し、思い切り声を上げる

 

はっ!しまった!

大声を出したら誰か来ちまう……!

 

…………

 

よし、誰にも聞こえてなかったみたいだな。

あれだけ大声で叫んで誰にも届かないというのもどうかと思うが。

いやそんなことよりとりあえずは今目の前にあるこの危機を回避しなければ──

よし、まずは状況を整理しよう。

まず俺は麗らかな朝陽を浴びて目を覚ました、寝起きの気分はまさに最高、言う事なし

そして少し腹が減ったので朝食を食べに行こうとしたんだ、うん。

んで起き上がろうとして──

 

横に恋。

以上。

 

わかるかっ。

そもそも何で恋がここにいるんだ?部屋はちゃんと与えられていたはず

それとも何か?昨日の宴会で酔った俺が恋を無意識に連れ込んで襲ってしまったとか?

確かに昨日の宴会はちょっと飲みすぎたかもしれない。

二日酔いじゃない事自体奇跡に近い。

酔いの勢いでやっちゃった、とか……?

 

……いや、いやいやそれはない。

うん、ないわー。

というか恋は俺よりも強いんだから間違いなく振りほどく事ができたはず。

いやしかし隣に居るこの可愛らしい女の子は間違いなく下着だろう、

玉のような肌を惜しみなく外気にさらしている

悲しきかな男の性、目の前にあるこの夢の詰まった膨らみを凝視──

 

……ええ乳やで……

 

言ってる場合かっ。

さっさとこの状況を──

 

華琳「ちょっと、なんで貴女達が一刀の部屋に行く必要があるの?」

 

雪蓮「えぇ〜だって私と一刀はもう只ならぬ仲だしー♪」

 

風「夢は寝て見てくださいねー、風はお兄さんを毎朝起こせと天からお告げが──」

 

華琳「ずいぶんと軽い天命ね、そんなものいっそ捨ててしまったらいいわ」

 

のほおおう!?

扉の向こうから今一番来て欲しくない人達の声が……!

ややややべぇどうしよう!

お、落ち着け俺!まずは恋に服を着せ──

 

恋「んん……」

 

……ええ尻やでぇ……

 

だから言ってる場合かっ

馬鹿か俺は!

 

あわわわわわ……。

こんな事をしているうちに災厄が刻一刻と近づいている

 

一刀「恋!恋ッ!起きてくれ!」

 

隣で安らかに眠っている恋の身体を揺すると眠そうに目を擦りながら身体を起こした。

 

恋「ん────一刀」

 

一刀「そうだね俺だね!聞きたい事は山ほどあるんだけどとりあえず服を着てくれるかな!

   なるべく急いで!」

 

恋「……コク」

 

のろのろと起き上がり、服に手をかける。

ふぅ、これでどうやら変な誤解をされずに済みそうだ

 

──と、一安心していると

 

恋「すぅ……すぅ……」

 

あ、ちょ、おま、そんな服を半脱ぎ状態で寝てたらますます俺の立場が──

モタモタしてる間に部屋の扉が勢いよく開け放たれ──

 

雪蓮「やっほー!一刀♪ご機嫌いかが──って」

 

華琳「だから人の話を聞きなさい!いつもいつも貴女は──は?」

 

風「……お兄さんもお盛んですねぇ」

 

あぁ、短い人生だったよ。

ごめんね父さん、母さん、じいちゃん。

どうやら孝行する前に旅立つみたいだ

 

恋「んん……?」

 

ははは、今一歩起きるのが遅いぜ恋殿。

二人で地獄へ旅立とうじゃないか

 

恋「……お腹すいた」

 

そう言うと起き上がって服装をただし、魔物の巣窟を後にする

 

え?……え!?あれ、ここで逃げるの!?

ままま待ってぇ!俺を一人にしないでぇ!

 

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その後、城内になんとも情けない男の悲鳴が響き渡ったのは言うまでも無い

そして散々しばかれた後、王間にて正座、目の前には華琳、関羽さん、雪蓮

本当に俺に正座させるの好きだね、君ら

 

愛紗「北郷殿?まさかとは思いますが、恋に手を出してはいませんよね?」

 

泣く子も黙るとはこの事、それどころか鬼だって逃げ出しそうだ

 

一刀「滅相もございません。

   私こと北郷一刀、蜀の大事な将軍様に手を出すなどとそんな大それた事を──」

 

華琳「ではなぜ貴方の寝台に、それも服が乱れた状態のあの子がいたのかしら」

 

ここで朝起きたら隣で寝てたって言ったら信じて──もらえないよなぇ……

 

一刀「なんと言いますか……俺にもよくわからなくて……」

 

雪蓮「あら、覚えていないという事は無意識で彼女を抱いたということ?」

 

風「最低ですねぇ」

 

桂花「ゴミ以下ね」

 

華琳「貴方の気の多さは理解しているつもり。

   けれどそんな軽々しい気持ちで女を抱くとは思わなかったわ」

 

一刀「い、いやだから抱いてないって!誓います!俺の頸をかけて誓います!」

 

春蘭「ならば死ね!!!」

 

あれ!?もう抱いた事確定してる!

痛い!皆の視線が痛い!もう身も心もボロボロな俺を誰か助けて……

 

雪蓮「まぁ本人に聞いてみるのが一番なんじゃない?」

 

華琳「それもそうね」

 

愛紗「で、どうなのだ?恋、なぜ恋は北郷殿と同じ寝台で寝ていたのだ?」

 

恋「……温かかった」

 

『…………は?』

 

うん、俺もそう言いたくなる。

何しろ今の時期は暖かいというか、布団をかけていると暑いと思うことさえある。

ちなみに昨日はそれほどではないものの決して寒くは無い。

 

恋「一刀は、温かい」

 

皆恋の言っている事がいまひとつ理解できていない、そして俺もその一人

 

愛紗「よ、よくわからないが……お前が一緒に寝ていたのは只単に北郷殿が温かかったからというわけか?」

 

恋「……コク」

 

そんなこんなで俺の無実は証明された。

いや最初から本人に聞いたらよかったのではないかと

秋蘭は最初から分かっていたようで「北郷が怒られているところを見ると心が和むのだ」とのこと

人の不幸は蜜の味とはよく言ったものだ……泣けるわー。

 

 

 

 

 

 

 

 

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で、とりあえず警邏に出る。

え?怪我?知らん。

だって退屈なんだもん。

蜀と呉の方々はあと数日はここに留まるとの事。

……自分の国はいいのだろうか。

そして街についたところで3班に別れ、それぞれの担当区域を周る

俺の班は真桜と北郷隊数名、とその中から

 

「北郷様!!」

 

皆同じ鎧を着ているため一瞬判らなかったが、すぐに駆け寄ってきた

 

一刀「えーっと……?」

 

兜を深く被っているため顔が判別しにくい。

いや取ってくれれば皆の顔は判るよ?

 

「私です!徐晃です!!」

 

兜を少しずらし、顔を見せる

 

一刀「あぁ徐晃さんか、同じ班だったんだね。初めてかな?」

 

徐晃「そうですね、何せ新人だったので北郷隊として警邏に出るのは初めてです!」

 

キラキラと目を輝かせている。

そんなに警邏が好きなのだろうか。

 

一刀「そっか、じゃあ初めまして、よろしくお願いします」

 

徐晃「あ、はい!こちらこそ!」

 

そう言って兜を被りなおし、隊の中へと混じる

 

真桜「……隊長、さすがに手出すの早すぎやで」

 

一刀「出してねぇわ」

 

 

 

 

 

 

 

「おや、御使い様じゃないか。いい桃を仕入れたんだ、食べるかい?」

 

警邏の途中、八百屋を営んでいるちょっと太めのおばちゃんは一つ俺の手に桃を置いてくれる。

 

一刀「お、いただきま〜す。もぐもぐ……んん!んまい!」

 

いやこれはマジでうまい。

俺の世界の桃とは比べ物にならん。

流石は無農薬。

 

「はっはっは!そうだろう?ここらじゃウチの店の桃が一番さ、もちろん買っていくだろう?」

 

ぬ、なるほどそういう魂胆だったか。

なかなか逞しく生きているじゃないかおばちゃん。

 

一刀「じゃあとりあえずここに居る人数分もらおうかな」

 

「あいよ!」

 

籠いっぱいに入った桃を北郷隊皆で食す。

真桜以外は口では申し訳ないというようなことを言っていたがすぐに桃にかじりついた

 

「あ、隊長。ゴチです」

 

うん、こいつらも最近吹っ切れてきてというかなんというか。

兵士皆が桃を食べながら警邏をする姿というのもなかなかシュールだな。

華琳にばれたら怒られるだろうけど

 

そのまま皆で桃を齧りながら警邏。

いや、別に怠けてるわけじゃなくてね。

こういうコミュニケーションも大事よ。

 

一刀「平和だなぁ」

 

真桜「そんな気の抜けた声出さんといてや〜ウチまでだれてまうやろ」

 

一刀「真桜が真面目に警邏しているところなんて見た事ないけどなぁ」

 

真桜「あ、今の傷ついた、傷ついたで。ウチかて毎日からくりいじっとるわけやないで」

 

「そうですね。

 李典さまがからくりをいじっていない時は大抵飲茶をしているかどこかで昼寝しているかですね」

 

桃をかじっている兵士が少し笑いながら答える

 

真桜「さぁ〜ってと、今日もバリバリ働くでぇ!」

 

一刀「マテやコラ」

 

ぐわしっと真桜の頭をつかむ

 

真桜「ちょ、堪忍してや!ウチかて徹夜続きで疲れとんねん!

   くらぁ!そこの兵士@!あとで覚えとれ!お菊ちゃん突っ込んだるわ!」

 

俺にこめかみをぐりぐりやられて悲鳴を上げている真桜、それを見て笑っている皆。

……こういうのって良いよな、兵士も真桜を信頼し慕っているからこその悪ふざけ。

そして真桜もこの北郷隊の皆を信頼し大事にしているからこそ本気で怒ることはない。

まぁお菊ちゃんはマジで突っ込まれそうだけど

まるで友達同士のようなやりとりを聞いていると自然と俺も笑顔になっていた

 

真桜「隊長!なんで笑いながらぐりぐりするん!」

 

一刀「ん?いや真桜が気にする事じゃ無いよ」

 

真桜「せやったらもう堪忍してぇなぁぁ!」

 

皆が笑う、それを見ている街の人も笑う。

うん、やっぱり平和が一番だな

 

 

 

 

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

 

エエエエエエ。

今すごい良い話で終わるところだったんですけど。

やはり戦がなくなったからといって完全に安心できる世の中にはなっていないようだ

イラつきを覚えつつも、急いで悲鳴が聞こえた現場へ向かう

そこには大刀を抱えた大男と数人の賊、そして子供を取られ、為すすべも無く許しを請う女性

 

「おいおい、人様の服を汚して只謝れば済むと思ってんのか?」

 

数人の男達の中心に居る大男がそう告げる、見ると男の足元には菓子が落ちており、ズボンには拭けば取れるであろう些細な汚れ

 

なるほど、大方あの子供が不注意でぶつかって汚してしまったのだろう、

それを理由に突っかかってるのか。

 

……くだらねぇぇ。

 

そんなくだらない理由であの親子の笑顔を壊しているあの大男が心の底から憎らしい

ゆっくりと大男に近づき、桜炎を抜こうとした瞬間、隣をものすごい速さで何かが駆けていった

 

徐晃「ハッ!」

 

 

 

 

あっという間だった。

数人の男達は彼女の一撃の下意識を途絶え

大男は焦りながらも子供を人質に逃げようとしている

 

徐晃「その子を離しなさい。そうすればこれ以上手荒な真似は致しません」

 

大男「ち、近寄るな!近寄ればこの餓鬼切り殺すぞ!」

 

そう叫び子供の首筋に大刀を突きつける。

こいつマジでどつき回したろか。

 

徐晃「余程死にたいようですね。いいでしょう、お望み通りに」

 

自分の身の丈ほどもある、両端に刃がついた薙刀を振り回す

一瞬で男は意識を駆られ、力なく崩れ落ちていた

 

徐晃「殺すことはしません、我が北郷隊は無駄な殺生は致しませんので」

大男+αを連行する、やっぱりあの子も只者じゃなかったんだなぁ

 

真桜「あの動き、只者や無いで。ウチでも敵うかわからん」

 

確かに、あの動きはかなりの武を持っていると見て間違いない

っと、泣き叫んでいる子供を抱え上げ、宥める

 

一刀「よしよし、怖かったな。もう大丈夫だよ」

 

安心させるため撫でながらゆっくりと身体を揺すり、泣き止むのを待つ

 

一刀「落ち着いた?」

 

うん、と頷く子供

 

一刀「よし、良い子だね。ほら、お母さんだ」

 

そう言って泣きながらこちらへ駆けてくる女性へ子供を引き渡す

何度も頭を下げ、お礼を言ってくる母親を何とか落ち着かせ、無事に家まで送り届けた

 

徐晃「北郷隊長!賊の連行、完了いたしました」

 

敬礼をしながら報告してくれる

 

一刀「うん、ありがとう。君のおかげで無事に事が済んだよ、本当にありがとう」

 

深く頭を下げる

 

徐晃「あ、あの!?お顔を上げてください!私は兵士として当たり前のことを──」

 

一刀「それでもだよ。この街の人たちは俺にとって大事な人達なんだよ、だからありがとう」

 

また頭を深く下げる

 

徐晃「北郷様……」

 

真桜「隊長はこういう人やねん、諦め。

   ま、こんな人やからウチらも命を賭けてついていけるんやけどな」

 

そう、耳元で真桜がつぶやく

しばしの間の後

 

一刀「さて、警邏の続き!頑張りますか!」

 

そう、笑顔で皆に告げると

 

徐晃「北郷様、北郷様に私の真名を受け取ってほしいです、よろしいですか?」

 

一刀「いきなりだね……でもいいの?」

 

徐晃「はい、そもそも私は話に聞く北郷様の心優しさに惹かれ北郷隊に志願致しました。

   そして今貴方の温かさを感じ、それは間違いではないと確信いたしました」

 

一刀「そんな立派なもんじゃないよ?俺は只ここが好きなんだよ。皆と一緒だ」

 

徐晃「……やはり貴方は素晴らしいお方です、どうか私の真名を受け取ってください」

 

一刀「……わかった、そもそも君が預けてくれると言った時点で俺には断る理由が無いからね」

 

徐晃「はい!ありがとうございます!」

 

そう言って満面の笑顔を浮かべ

 

徐晃「私の真名は「詩優」と申します!!」

 

俺に真名を預けてくれた

 

 

 

真桜「流石は種馬やな」

 

一刀「なんで!?」

 

 

 

 

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城に戻り、華琳に警邏の報告書を提出、そのついでに

 

一刀「あ、そうだ華琳」

 

華琳「なに?何か書き忘れていたことでも?」

 

一刀「いや、そうじゃない。新しく俺の隊に入ってきた徐晃って子がいるだろう?」

 

華琳「まさかもう手を出したんじゃないでしょうね」

 

だからなんで……いやもういい、俺はそういう運命

 

一刀「違うよ、その子の実力を見てやってほしいんだ。

   真桜が言うには春蘭とも何合か打ち合えるかもしれないそうだから」

 

そう言うと華琳は少し思案。

 

華琳「そう、確かに一目見たときに只者ではないとは思っていたけど──なるほど。

   そこまでの腕を持っているなんてね」

 

何かいい掘り出し物でも見つけたように嬉しそうな表情、近々手合わせでもさせるのかな?

 

一刀「じゃあそういうことだから」

 

華琳「待ちなさい」

 

立ち去ろうと踵を返すと、華琳に呼び止められる

 

華琳「そうね、では一刀。貴方がその徐晃という者と手合わせなさい」

 

……はい?

 

華琳「では明日の正午、中庭にて試合を行うわ。準備しておきなさい」

 

いやいや、ちょっとまて

 

一刀「なんで俺なんだ?春蘭じゃだめなのか?」

 

華琳「貴方の隊の者でしょう、ならば貴方が面倒を見るべきではなくて?」

 

いや、確かにそうだけどさ。

知ってるか?俺今怪我人なんだよね、しかも絶対安静の。

……まぁ警邏には出たけどさ

 

華琳「まぁでも貴方は怪我をしていたわね、では一月後にしましょう、それなら問題ないかしら?」

 

一刀「はぁ……わかったよ」

 

華琳「それともう一つ」

 

?なんだろう、何かしたかな?

 

華琳「呂布が蜀に帰るのを拒んでるわ、なんとかなさい」

 

一刀「え、なんで?何かあったのか?」

 

そういうと華琳は一瞬不機嫌そうな顔をするが、笑顔をこちらに向け

 

華琳「ずいぶんと貴方に懐いているじゃない?どんな手段であの猛獣を手懐けたのかしら」

 

笑顔で言ってくる華琳のこめかみには青筋が浮き出ている

前言撤回、不機嫌そうではなく不機嫌だ。

というかお怒りだ。

 

一刀「い、いやぁなんでだろうねぇ。俺にもよくわからないんだけど──」

 

華琳「それに、さっきからこちらを見ているわよ」

 

一刀「え?」

 

華琳の視線を追い、そのまま後ろへ振り返ると

 

恋「…………」

 

……見てる。

ものすごい見てる。

柱の影からめっちゃ見てる。

 

一刀「(……心臓止まるかと思ったわ。つか何?あれ俺のせいなの?)」

 

華琳「(知らないわよ。貴方の責任でしょう?なんとかなさい)」

 

一刀「(え!?何の責任!?全く心当たりがないんですけど……)」

 

華琳と俺がこそこそと言い合いをしていると

 

恋「……ん」

 

てててっとこちらに走り寄ってきた

 

一刀「えっと、どうしたの?恋」

 

華琳「(あら、もう真名で呼ぶ関係にまで発展していたのね、さすがだわ)」

 

耳元で殺気を放ちながら言う華琳の言葉は聞かなかった事にしよう

 

恋「…………」

 

だからそこで黙られると非常に困るんですけど……

 

一刀「えっと……そ、そうだ。何で恋は成都に帰りたくないの?」

 

とりあえず先程華琳が言っていた事を聞いてみる

 

恋「…………」

 

うむ、予想はしていたがやはり黙秘か。

 

一刀「皆困ってるんじゃないかな?」

 

恋「愛紗、怒ってた」

 

まぁそれはそうだろうと思う。

なんせ今は全武将がここに揃っている。

いくら戦が終わったとはいえまだまだ安心できる世の中ではない

 

一刀「じゃあ帰らないと、恋達が帰らないと成都の街の人たちも安心できないんじゃないかな」

 

恋「……かわいそう」

 

超他人事。

あれ、そもそもこの子は何で蜀に帰りたくないんだろう。

それを聞かないと話が進まない気がする

よし、再度チャレンジだ

 

一刀「どうして恋は帰りたくないの?」

 

恋「……一刀、いない」

 

いや、俺は今君の目の前に居て話をしている訳なんだけど

 

恋「帰ったら、一刀いない」

 

……わからん、結局のところ何を言いたいんだろう

 

一刀「(華琳さん、話が見えません。助けてください)」

 

華琳「(はぁ?今のを聞いてわからなかったの?どれだけ鈍ければ気が済むの?)」

 

ひどい言われようだがわからないものは仕方ない

 

華琳「(成都に帰れば貴方に会えなくなる、だから帰りたくないのよ)」

 

一刀「(どうして?)」

 

華琳「(……今ほど貴方をバカだと思った事は無いわ)」

 

ひでぇ。

俺は真面目に聞いてるのに

 

華琳(まさか呂布にまで種馬根性を発揮するなんて……

   動物的な分一刀の心の温かさに敏感なのかしら?)

 

一刀「とりあえず……どうしよう?」

 

華琳「私に聞かないでよ」

 

いや、ここ貴方の国ですが?

 

恋「……ここにいる」

 

いやいやそれはさすがにまずいだろう、そもそも蜀の皆さんが黙っていないはず

 

恋「だめ?」

 

うぉぉその視線はやめてくれ。

全力で保護したくなる。

 

一刀「と、とりあえずこの事は明日考えることにして、今日はもう部屋に戻ろう」

 

恋「……ん」

 

少し顔を伏せながらしぶしぶ頷いてくれる。

うう……何か知らないけどごめんなさい……

 

 

 

 

 

 

 

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そして部屋。

念のためだが俺の部屋だ。

 

 

 

 

 

 

 

恋「……」

 

なんで!?恋の部屋は俺の部屋とは正反対の方向なんですけど!

 

華琳「どうして一刀の部屋に呂布がいるのかしら?」

 

うむ、言いたい事はわかるが華琳。なぜ君もここにいるんだ

 

恋「ここで寝る」

 

はい、さらっと爆弾を投下しましたね。

そんな事言うとね?ほら─

そこにはこの世の終わりが居た

 

華琳「ずいぶんと見せ付けてくれるのね。私の目の前でまた他の女を抱くなんて」

 

話が飛躍しすぎです。

というかまたって何!前科有りみたいに言わないで!

 

一刀「れ、恋、これはいくらなんでもまずい。部屋はちゃんと与えられただろ?」

 

恋「……ここがいい」

 

神よ!存在するならばどうか俺を助けてください!

天に祈っている俺を余所に勝手に俺の布団へ潜り込んでいく恋。

あれもう寝る態勢ばっちり?

うおお華琳からドス黒いオーラが。

 

神よ!どうか!どうかお助けをぉぉ!

 

恋「すぅ……すぅ……」

 

今、神は存在しないという事が証明された

 

華琳「一刀?ちょっといいかしら?」

 

ちょっとでいいなら絶を置いていただけますか?

ええいもうこうなったらやぶれかぶれだ!

 

一刀「よし、じゃあ華琳も一緒に寝ようか。うん、それがいい」

 

いい具合に俺の脳は死滅し始めたようで、かなりテンパった事を口にしているに違いない。

 

華琳「な!?なななな何言ってるのよ!」

 

顔を赤くし、猛反発する華琳。

しかしブレーキの壊れたダンプと化した俺にそんなものは通用しない

 

一刀「いやぁ、今日も疲れたし。華琳も疲れたろ?なら寝よう」

 

華琳の手をひっぱり寝台へ引きずり込む

 

華琳「ちょ、まっ!一刀!?」

 

華琳を布団に押し込み、その小さな身体を抱きかかえる

 

一刀「よし、明かり消すぞ〜。じゃあおやすみ〜」

 

しばらく華琳は俺の腕の中でもがいていたが、次第に落ち着き

 

華琳「……ばか」

 

そう一言つぶやいて眠りに落ちた

 

 

 

 

 

翌朝、俺にしがみついている下着姿の恋を見て天災が降り注いだのは言うまでも無い

……なんでこの子は朝下着になっているんだろうね。

華琳が召還したメテオを何とか回避し、恋を説得するため蜀の皆さんと朝っぱらからの会議

 

一刀「えー、本日はお日柄も良く、お話をする場としてこれほど絶好な──」

 

華琳「どうでもいいわ、そんなことよりこの子の事よ。どうやら蜀に帰るのを拒んでいるようだけど」

 

どうでもいいって……

まださっきのこと気にしてるのか。

俺のせいか?あれ……

 

愛紗「ええ、理由を聞いても話してはくれず、こちらとしても困っているのです」

 

議題になっている本人はというと──

 

恋「……♪」

 

俺の横に張り付いていたりする。

まぁ待って見ようか皆。

とりあえず殺気を向けるのはやめてくれ

 

華琳「理由ならとりあえずは聞いたわ」

 

俺の横に居る華琳が思い切り絶を握り締めながら言う

 

愛紗「なんと。して、その理由とは?」

 

絶の柄に手形が着き始めた。

……どれだけの力を込めて握っているのか。

 

華琳「そうね、簡単に言ってしまえば、一刀と離れたくないらしいわ」

 

ちょっと!そんなこと言いましたか!?

……あ、言いましたね、言ったけどそこはほら、もっとオブラートに包んで──

あぁほら、蜀の皆(主に関羽さん)がめっちゃこっち見てる。

 

愛紗「ほう?北郷殿、それはどういうことでしょうか?」

 

なぜそれを俺に聞くのか。

果てしなく疑問だが今下手に何か言えば俺の命が消える気がする

 

一刀「え、えーっとですね。あー、俺にも良くわからなくて……」

 

星「ふふふ。愛紗よ。恋もついに良き殿方を見つけたという事だ」

 

紫苑「ええ、そうね。うふふ、まさか恋ちゃんまでが御使い様になんて……ふふっ」

 

どうやらこの二人には口を開かせないほうがいいようだ。華琳のこめかみに青筋が見える

 

愛紗「な!?そ、そうなのか恋!?」

 

まさかという表情を見せ、恋に詰め寄る

 

愛紗「認めん!私は認めんぞ恋!お前にはまだ早い!」

 

お父さんみたいなことを言い出した。

 

恋「……?」

 

一刀「れ、恋はあれだ!俺と勝負をして互いを認め合ったんだ!な、恋!」

 

頼む!頷いてくれ!そう視線で訴える俺に対し

 

恋「……?」

 

首をかしげる。

俺の作戦は2秒で砕け散った

 

音々音「恋殿!なぜそんなヘボに執着しているのですか!帰らないとセキト達が寂しがりますぞ!!」

 

へ、ヘボって……

 

恋「・・・・ねねに任せる」

 

音々音「なっ!?し、しかしですね!ここに留まっていては魏の皆さんに迷惑がかかってしまいます!」

 

恋「……迷惑?」

 

まるで捨てられた子犬のような眼差しで見上げてくる。

ぬおお……これを断るのは究極の拷問だぞ……

 

一刀「えっと、迷惑じゃないんだけどさ。ほら、恋がいないと皆寂しいと思うよ。

   関羽さんなんかは特に」

 

愛紗「な!?わ、私は只このまま恋を置いて行っては迷惑がかかってしまうと──!」

 

鈴々「愛紗はいつも恋にべったりなのだ、素直に寂しいって言ったらいいのだ」

 

愛紗「り、鈴々!!」

 

一刀「な?皆恋がいないと寂しいんだよ。

   だからさ、帰ろう?ここへはいつでも遊びに来ればいいからさ」

 

恋「……ん」

 

ほっ……なんとか頷いてくれた。

これで何とか華琳も召還獣を使わないでくれそうだ。

そんなこんなで恋の蜀への帰還は決定した。

そして今回一番頑張ったであろう俺に対する罵詈雑言の数々。

いやね、薄々わかってはいたんだ。

でもさ、俺何も悪くないよね。

……はぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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早朝の会議を何とか無事に終え、今日は警邏の当番ではないので政務の仕事を多めにやらされる

無論、俺としては御免被りたい訳なんだけど、三国が平定してからというもの、政務のほうが激増したらしい

というわけでこうして少しでも皆の力になれればと思い、頑張っているわけなんだけど……

 

一刀「──駄目だ」

 

ゴトっと机に頭を強打し、その態勢のまましばらく動かなくなる

こんなに天気がいいのにこんな所に引きこもってひたすら書類の処理とは……

よし、ちょっと気分転換に外の空気でも吸いに──

 

春蘭「北郷!!大変だ!!」

 

行こうとしたところで春蘭が大声を出して部屋に入ってきた。

……口から心臓出るかと思った。

 

一刀「いやぁ今日も書類仕事頑張んないとなぁ!あぁ忙しい!」

 

春蘭「そんなことをしてる場合ではない!!

   近隣の村が何者かに襲われている!!すぐに準備をしろ!!」

 

一瞬俺の怠け具合を見抜かれたかと思い焦ったがそうじゃないらしい

ってそんなことどうでもいい!!村が襲われてるって!?

 

一刀「な、賊か!?敵の数は!?」

 

春蘭「わからん!!だが数はそれほど多くは無い、私とお前で鎮圧しに行く事になっている!

   機動力を優先して連れて行く兵は200程にする!」

 

俺に話が回ってこないほど緊急事態だったのか!?いや、それよりも早く行かないと──!

 

一刀「わかった!!すぐ準備する!!」

 

寝台に立て掛けてある桜炎を腰に差込み、すぐに部屋を出た

そしてすぐに洛陽の街を出発、道中、再度敵の情報を把握する

 

一刀「敵の正体はわからない、数は100前後──情報はこれだけか?」

 

春蘭「あぁ、なんせ私たちも先程襲撃の情報を聞いたからな。

   しかし敵の数が少ないと言っても相手は村の住人だ。

   力も無ければ抵抗する術を何も持ってはいない、急ぐぞ!」

 

どうやら聞いてからすぐに飛び出したらしい。

春蘭らしいといえばらしいが危険なことこの上ない

というか俺と春蘭で行く事になってるってのも出任せか。

自分の独断で動かせる兵が200だったのだろう。

多分後から華琳がすぐに援軍を送ってくれるはず。

今は先を急ごう。

俺と春蘭、そして200騎の兵が馬を駆る。

 

ようやく村が見え始めたとき、異変に気づいた

 

一刀「煙……くそ!あいつら村に火を放ったのか!?」

 

春蘭「全軍!全速前進!!!村を──!!民を救うのだ!!!」

 

「おぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

 

そして村の入り口付近に着いた時、小さな少女がぼーっと突っ立っていた

 

一刀「君!!大丈夫か!?怪我はない!?」

 

少女「お母さん……」

 

ポツリと呟いて火の海と化した村へ入っていこうとする

 

一刀「お母さんがまだ中に居るのか!?」

 

少女「お母さん……!」

 

おぼつかない足取りで歩き始めた

 

一刀「君のお母さんは俺たちが必ず助ける、だから君は安全な場所へ避難していてくれるかい?」

 

少女「……お母さんを助けてくれるの?」

 

一刀「あぁ!必ず助ける!だから君は皆と待っていてくれ!」

 

少女「……うん」

 

そう言って少女は意識を失ってしまった

 

一刀「北郷隊!!この子をすぐに安全な場所へ!!!」

 

「ハッ!」

 

俺がそうこうしているうちに春蘭はもう村の中へ入っていったようだ

 

くそ……!戦は終わったってのに何でこんな……!

 

怒りと悔しさに歯を食いしばり、村の中へと入る

そして俺の目に飛び込んできたのはこの世の光景とは思えないほどの物だった

燃え盛る炎の中を村人が逃げ惑い、悲鳴や泣き声が飛び交い、何人もの人が倒れている

一瞬呆気に取られたがすぐに村人の救出に取り掛かる

 

一刀「皆!!こっちだ!!ここを行けば俺たちの兵が居る!!

   そいつらの指示に従って避難してくれ!!」

 

「は、はい!ありがとうございます!!」

 

何人かの村人はそちらに向かって走り出した

 

くそ……!あの子の母親はどこだ!?早くしないと──!

 

一瞬、脳裏に最悪の光景が思い浮かんだがすぐに振り払い捜索を続ける

暴れまわる賊の中に、何人かの白装束を見かける。

 

あれが風の言っていた奴らか……!

 

どうやらこの賊自体は大したものではないようだ。

しかしあの白装束が指示をしているのが所々で窺える

そして何かを必死に探し回っている女性を見つけた。

多分この人があの子の母親だろう、どことなく顔つきが似ている

 

一刀「見つけた……!くそ!このままじゃ──!」

 

自分の子供と逸れ、気が動転しているのか周りのことが目に入っていない様子。

こちらの呼びかけも聞こえていない

そしてその後ろからは大刀を抱えた賊が迫っていた

全力で走る。

 

あの人を救わなければあの子はどうなるんだ……!この親子の幸せはどうなるんだ!!

 

只ひたすらに走った、そしてようやく手が届きかけたとき

 

 

 

 

 

 

ドスッ

 

 

 

 

 

「あ……」

 

迫っている賊とは違う、横から飛んできた矢がその母親の胸を貫いた

 

一刀「────!!」

 

「へへへ、そんなところでウロウロしてるからこうなるんだぜ?」

 

下品な笑い声がその場を包み込む

 

「さてと、こいつは何か金目のものは──ケッ!何も持ってやしねぇ!クソが!」

 

そう言い捨てると、倒れている母親の身体を蹴り飛ばした。

 

 

 

 

瞬間

 

頭の中で何かが弾けた

 

 

 

 

一刀「何……を……!」

 

「あぁ?なんだてめぇ?……いい服着てるじゃねぇか兄ちゃん」

 

一刀「何してんだお前ぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

彼を支配しているのは、怒りでも悲しみでもない

 

 

 

底知れぬ憎悪

 

 

 

一瞬にしてその大男は肉塊になり、彼の身体には返り血がべっとりと付いていた

 

一刀「ぁ……ぁぁぁ……」

 

絶命している母親を抱きかかえ、その顔を見る。

あの子を必死に捜している表情のまま息絶えていた

 

一刀「ぁぁぁ……ぁぁぁぁぁ!!」

 

その絶望を映した母親の表情を見た瞬間、彼の彼としての意識は途絶えた。

 

 

 

 

一刀「ぁあぁぁぁぁぁぁぁああぁぁあああぁぁああぁああ!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

春蘭side

 

春蘭「くそ……!生存者はこれだけか!?……いや!まだだ!!まだ──」

 

この悲惨な状態を諦めきれず、春蘭はまた捜索部隊と共に駆け出した、そして──

 

「ぁあぁぁぁぁぁぁぁああぁぁあああぁぁああぁああ!!!!!!!!!!!!!!!」

 

春蘭「ッ!?」

 

彼の声、しかし聞いたことも無いような叫び声が春蘭の耳を貫いた

 

春蘭「一刀!?……くそ!一刀!」

 

彼の優しいあの声からは想像もつかない雄叫びが、春蘭の胸を不安という色で支配した

そして数分後、ようやく彼を見つけたとき、春蘭は自分の目を疑った

 

彼が──一刀が何の躊躇もせず賊を切り殺している。

恐怖に慄き、逃げ惑う賊を追いかけ、絶命する。

絶命した者でさえも尚、執拗にその体に刃を突き立てている。

彼の目には大粒の涙。

そして一切の光を感じない。

もはや意識すらないのではないかとさえ思えた。

 

一刀「────────!!」

 

言葉にならない雄叫びを上げながら、自分で殺めたであろう賊の死体を更に切り刻む。

 

春蘭「やめろ一刀!もうやめてくれ!」

 

こんな狂気に染まった彼を見ているのは辛かった、耐えられなかった。

しかし彼の耳には届かず、賊を殲滅し、それでもまだ得物を振り回している。

 

春蘭「頼む……!!もう敵はいないんだよ!一刀……!」

 

彼の背中を抱きしめると、ようやくその暴走が止まり

 

一刀「しゅん……らん?」

 

いつもの優しいあの彼の顔に戻っていた。

心の底から安心した

 

一刀「……あれ?……俺……」

 

そして自分の身体を見て、乾いた笑いを漏らし

 

一刀「はは、なんだこれ……俺がやったのか……?」

 

見るも無残な賊の、元は人であったであろうその肉塊を見て

 

一刀「────」

 

ドサッ……と彼女の胸の中で意識を失った

 

春蘭「一刀……」

 

ようやく華琳の援軍が到着し、全軍で生存者の捜索を続けた

そしてその村の生存者数名を連れ、城へと引き返した

 

 

 

 

 

 

 

-7ページ-

 

華琳「そう、間に合わなかったのね」

 

春蘭「は……、申し訳ありません。……私がもっと早くに──!」

 

歯を食いしばる彼女を見て、華琳は胸を締め付けられた

 

華琳「いいえ、貴女はよくやってくれたわ。その功績は賞賛に値する」

 

春蘭「…………」

 

しかし彼女は顔を上げようとはしない。

それはそうだろう、彼女は功績を挙げたくて出撃したのではない

村の者達を救うために誰よりも早く、罰を受けるとわかりながらも独断で村へ向かったのだから

 

華琳「少し休みなさい。これは命令よ」

 

春蘭「……御意」

 

小さく呟き、春蘭は王間を後にした

 

……あの集団の目的はなんだったのか。

いや、正しくはあの”白装束”の目的はなんなのか

以前にも何度か洛陽と成都間の移動中、襲撃は受けたが被害は無く無事に事が済んでいた

しかし今回のこの行動は何か目的があるとしか思えない。

賊を使い、金目のものを奪う。

しかし白装束はそんなものに興味があるとは思えなかった。

なぜなら以前の襲撃時、街を襲うのではなく

直接軍へと当たってきた。

高価なものがほしいなら村や街、留守になっている城を狙ったはずだ。

何かを探している……のだろうか。

 

秋蘭「華琳様」

 

考えこんでいるといつの間にか秋蘭が立っていた

 

秋蘭「北郷が目を覚ましたようです」

 

華琳「……そう、わかったわ。下がりなさい」

 

秋蘭「は」

 

春蘭から一通りの報告は聞いた。

その中で最も驚いたのは一刀の暴走

そして彼が我に返ったとき、すぐに意識を手放したと聞いた

言いようも無い不安を抱えながらも、一刀がいる部屋へと足を運んだ

 

 

 

 

 

 

 

扉を開けると寝台の上で一刀は窓の外を見ていた、何を思っているのだろうか

 

華琳「一刀」

 

華琳が呼びかけても反応はない。

ひたすら外の景色を見つめている

 

……しばしの沈黙。

 

一刀「なぁ、華琳」

 

その沈黙を破ったのは彼だった

 

一刀「俺さ、皆を守るとか……そんなこと言ってたけどさ」

 

今にも消えてしまいそうな彼の声。

苦痛に耐える彼の声は聞くに堪えられなかった

 

一刀「村の人を助ける事すら……できない」

 

窓の外を見つめながら、歯を食いしばり、布団を握り締めている

 

一刀「あの賊を斬った時にね。……怖かったんだ」

 

ぽつりぽつりと語り始める

 

一刀「頭に血が登って、目の前が真っ赤になって、

   もう自分が何をして何を考えてるのかもわからなくなってきて……

   情けない話だけど……もう訳がわからなくなって──」

 

気が付いたら賊の一団を殲滅していた。

春蘭からはそう聞いている。

 

一刀「気が付いたら、皆死んでたよ」

 

そう話す彼の姿を見ていられなくなった私は、一瞬目をそむけてしまう

 

一刀「はは……だよな。俺も自分が怖いよ」

 

華琳「ち、違うわ、そうじゃな──」

 

一刀「なぁ、ここに小さな女の子が運ばれてきたろ?どこにいるかわかる?」

 

華琳「……それなら客室で眠らせているわ」

 

一刀「そっか……連れて行ってもらえるかな?」

 

華琳「ええ。……身体は大丈夫なの?」

 

一刀「ああ、問題ない」

 

そう言って部屋を後にした

 

 

 

 

 

 

その少女が眠っている部屋に一刀をつれてくると、

彼は眠っている少女の隣に腰掛け優しく髪をすく

 

一刀「この子はさ」

 

ゆっくりと彼が口を開いた

 

一刀「朝起きて、一番最初に「おはよう」って言ってくれるはずの人が……いないんだよ」

 

本当に悔しそうな、悲しそうな顔で

 

一刀「”お母さん”って、甘えたいはずの人が……いない……!」

 

その目からは次から次へと雫が零れ落ちていく

 

一刀「この子はこれから誰に「おはよう」って言ってもらえるんだろう。

   誰に甘えられるんだろう……。

   誰に──愛情を注いでもらえるんだろう……!」

 

震える声が部屋に響く

 

一刀「母親っていう世界で一人しかいない大切な人を──失ってしまったんだ」

 

感情を抑えられなくなった彼の目からは、絶え間なく雫が零れ落ちる

 

一刀「約束、したんだ……!絶対……君のお母さんを助けてあげるからって……!」

 

嗚咽を漏らしながら、彼は悔やんだ

 

一刀「この子と……約束……!」

 

もう耐えられなかった、これ以上彼が苦しむのを見ていられなかった。

 

彼を抱きしめた。

強く、強く抱きしめた。

 

一刀「華琳……?」

 

華琳「貴方は何も悪くない──なんて言っても、無意味なんでしょうね」

 

彼は一瞬驚いたような顔をしたが華琳に抱かれたままで居る

 

華琳「だから──今は泣きなさい。

   貴方の悔しさを、悲しみを……この子の気持ちも、全部私が受け止めるから」

 

華琳「そして強くなりなさい。貴方のその優しさを失わずに──強くなりなさい」

 

一刀「ああ……。ああ……!」

 

そういうと、彼は華琳の背中に手を回した。

そして彼女の胸の中で声を殺して泣いた。

只ひたすらに泣いた。

彼女はそれを抱きしめてやる事しかできない。

それがなによりも悔しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

春蘭「……行くぞ、秋蘭」

 

秋蘭「あぁ、そうだな」

 

部屋の前に居た二人は引き返す、そして秋蘭は今まで感じた事の無い姉の怒りを感じた

それは彼の弱さに対するものでも、自分の不甲斐なさに対するものでもない

彼をあそこまで苦しめていること、彼をあそこまで苦しめる原因を作ったあの集団

自分の愛した、大切な人にあんな悲しい顔をさせた奴らが──何よりも憎い……!

そしてその怒りは秋蘭も同じだった。

彼は優しい。本当に心の底から優しい。誰もがそう感じるだろう

そんな優しい彼に人を殺めさせてしまったこの時代、

あの集団、そしてすぐに対応できなかった自分に

ひたすらな怒りを感じていた

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

あの襲撃から数日。

蜀、呉はその報告を受け自国が襲われるかもしれないという事で少し早く帰還した

あの時の少女は城で面倒を見る事になった、主に俺がだが

最初は母親の死を聞かされ、泣き叫び、嘔吐し、食事を受け付けなくなる事もあったが

今はなんとか落ち着きを取り戻し、悲しみはあるが普通に生活している

この子の心が強くてよかった。

この子がショックで立ち直れなかったら俺は一生自分を憎んだだろう

ちなみに名前は明花(めいふぁ)というらしい

そしてその惨劇から一月が経過し、俺も何とか落ち着きを取り戻した

その間、以前よりも厳重な警備体制、小さな村や町への兵の派遣など、様々なことを執り行った。

もう二度と、あんな事は起こさせない。

この子のような悲しみを味わわせてはいけない

そう、皆が誓った

 

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一刀が暴走・・・・強くなったガゆえの代償か・・・(スターダスト)
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