魏エンドアフター〜外史ノ超越〜
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明花「お姉ちゃん、どうしていつも同じもの食べるの?」

 

星「む、明花よ、これはメンマと言ってな。

  それはもうこれに並ぶもの無しとまで謳われている代物だぞ」

 

メンマを一掴みしひょいっと明花の口へ入れる。

 

明花「……固くてしょっぱい」

 

顔をしかめながら吐き出さないように一生懸命噛んでいる。

すんげぇ嫌そうな顔。

 

星「なっ……!いいか明花、この良さが分からねばこれから先幸せになる事などできん!

  人生の半分以上を損していると言っても過言ではない!

  ……良し、僭越ながら私がメンマの偉大さを教鞭して進ぜよう」

 

……子供相手に何を言っているんだ君は。

今からメンマの味をすり込んで仲間を増やそうとしてるのだろうか。

ほら見ろ、明花の顔。

めっちゃ困ってるぞ。

星はいつも俺と一緒に居るせいか、明花に良く懐かれている。

とりあえず明花が困っているのでメンマ講座は一旦中止とさせてもらうとして

 

一刀「どうも最近また賊の襲撃が増えてるみたいなんだ。

   派遣されてる部隊のおかげで無事にすんでるけど」

 

星「むぅ、せっかくメンマの素晴らしさを説いてやろうと……。

  賊の襲撃は珍しい事ではないでしょう、これまでにも数件の襲撃報告が入っておりますし

  たまたま時期が重なっただけでは?」

 

一刀「いや、そのうちの何件かの中には白装束も目撃されてるんだ。只の偶然とは思えない」

 

そう、これまでにも小規模な賊や以前に殲滅した賊の残党などによる襲撃報告は受けている

それ自体は今の警備体制などから無事に事なきを得ているが、所々から寄せられる共通の情報

 

「白装束を纏った者が指揮している」と

 

あの村の襲撃のときに俺も何人かの白装束を見かけた。

華琳に報告したところ兵の派遣を増やし、警備体制をさらに強めるとは言っていたが……

 

一刀「やっぱり不安だよなぁ……」

 

星「ふむ、一刀殿は少々賊に対して神経質になっているようですな。

  ……あのような事があれば無理もありませんが」

 

……真面目な話をしている中、メンマを噛む咀嚼音。

 

一刀「あの、とりあえずメンマ食べるの後にしてくれませんか」

 

結構大事な話をしてると思うんだけど……メンマのせいかいまいち締まらない。

 

星「む、一刀殿は私の唯一の楽しみを奪おうと言うのですか」

 

メンマが唯一の楽しみって……いやまぁ人それぞれだとは思うけど。

 

星「この独特の歯ごたえ、深みのある味。

  酒の肴にこれほど相応しい物はない。更に──」

 

一刀「あ、俺これから警邏だった。

   星、明花は任せたよ、じゃあね」

 

あぶないあぶない。

また星にメンマについて力説されるところだった

あれ捕まると2時間は開放してくれないからなぁ。

 

星「むぅ……良いか?明花。この独特の歯ごたえ、深みのある──」

 

同じセリフを繰り返す星。

どこかの宗教勧誘のようだ。

……メンマ教か。

嫌だなそれ。

すまん、明花。

星の激論を無傷で回避できるのは君だけなんだ、悪く思わないでくれ。

これから2時間は開放されないであろう明花に手を合わせその場を後にする

 

まぁ何だかんだで明花も星と話せて嬉しそうだったが

 

 

 

 

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そして警邏。

え?いや逃げる口実じゃなくて本当に警邏だったんだってば。

ちなみに今回一緒に回るのは凪の班

うむ、沙和や真桜の隊と比べてもなかなかに規律がちゃんとしてる感があるぞ。

この前蒸発しかけた奴もいるな

あれを体験しておいて尚凪の班で普通にしていられるのはなかなかに肝が座っているからではないだろうか

 

……まぁあいつら仮にも隊長の俺に平気で集るから肝っ玉が据わってるのは前からわかってたけど

 

凪「この街もかなりにぎやかになりましたね。

  大陸の中でも一、二を争うほどの大きさに発展しているでしょう」

 

一刀「ん、あぁそうだな。

   これもいろんな事を発展させた華琳や毎日皆の安全を守ってる凪達のおかげだな」

 

凪「い、いえ!これも皆隊長あってこそと華琳さまも仰っていました!」

 

一刀「俺は方法や知識を教えただけだよ。俺自身は何もやってない」

 

凪「いえ!この街の者の笑顔が絶えないのは隊長がその存在を賭けて勝ち取ったものです!

  ……もっと誇りにしてください」

 

一刀「はは、じゃあ俺も協力して、皆で勝ち取ったって事でいいんじゃないか?」

 

凪「……隊長はもっと自分を尊重するべきだとおもいます」

 

一刀「そうは言ってもなぁ……」

 

「おや御使い様、今日も見回りご苦労さん。これ、食べておくれよ」

 

そう言って饅頭屋のおばちゃんが肉まんを2つほど別けてくれた

 

一刀「お、ありがとう。いつも悪いね」

 

「なぁに、この街を守ってもらってるんだ。

 あたしらみたいな何の力も持たない民はこれくらいしかできないからね」

 

少し申し訳なさそうに言うおばちゃんに

 

一刀「何言ってんの。

   おばちゃん達は商売でこの街を賑やかにする。

   俺達はそれを守る。

   ほら、上手い事回ってるじゃん。

   俺も皆に元気でやってほしいしね」

 

「……本当にさ、ありがとうよ」

 

受け取った肉まんを食べながら警邏を続行。

この光景も街の人たちはもう馴染みのある風景の一部として受け入れているようだ。

 

一刀「うん、んまい。はい、凪」

 

隣で歩いている凪にぽんと肉まんを渡す

 

凪「隊長、今は警邏の途中なのですが」

 

ジトっと横目で訴えてくる

 

一刀「む、凪はせっかくの親切を無碍に扱おうっていうの?

   せっかくおばちゃんが俺たちのためにしてくれたことなのに?」

 

凪「う……」

 

ふふん、凪はこう言われると弱いんだよな。

 

凪「……隊長はどうして、そんなにも皆を守ろうとするのですか?」

 

一刀「え?」

 

受け取った肉まんを見つめながら、凪が問う

 

凪「皆を守りたいという気持ちは自分達も同じです。

  しかし隊長のその想いはどこか自分はどうなってもいいと言っているように取れます」

 

表情に陰りが見られる。

3年前のことを思い出しているのだろうか

 

凪「隊長は残されたものの悲しみを分かっておりません。

  皆のために……自分達の為に大切な人が居なくなる悲しみを分かっておりません」

 

……驚いた。

凪がこんなことを言い出すなんて。

それほどに俺はこの子達に不安を与えてしまっているのだろうか。

 

一刀「……もう十分学んだよ。

   皆には本当に感謝してるんだ。

   もう消えるなんて事はない。

   皆を悲しませる事なんてしないよ

   皆で幸せな世界を生きるんだ。……だろ?」

 

こちらに帰ってきてから華琳に皆の話を聞かされた時、自分の考えの浅はかさに気がついた。

最愛の人を守れたところで、自分が消えてしまえば守られた方は悲しみの底に突き落とされる。

平和な世を手に入れたところで、一緒に笑う人がいなければその喜びが霞んでしまう。

もちろん俺も消えたくは無かった。

それでもどこかでどうしようもない、運命だからと諦めていた

でも俺は帰ってきた。

愛する人のもとへ帰ってきた。

もう二度と皆を泣かせたりなんかしない。そう決めたんだ

もしこの先の俺の運命が消滅なのだとしたら、全力で抗ってやる。

必ずここに残ってやる

 

凪「……はい。その言葉が聞けてとても嬉しいです。

  ……これからもずっと一緒です」

 

そう言って、俺にはもったいないくらいの笑みを向けてくれた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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警邏も一通り終わり、城に帰り政務に励む。

……休みがほしい。

と、わりと書類が溜まっていたので稟と風に手伝ってもらっている──のだが

 

風「お兄さんお兄さん。ここ、間違ってますよ」

 

一刀「え?あ、ああ本当だごめん」

 

実に捗る。

捗る事この上ないのだが如何せん態勢に問題がある

稟は俺の対面の席に座り政務に励んでいる。

これはいい

 

風はといえば──

 

風「はいはいお兄さん。風の身体の感触を堪能するのは日が沈んでからにしましょう」

 

一刀「……誤解を招く言い方をしないでくれ」

 

いつもは明花が俺の膝に座っている為、風の癖も直ったかとおもいきや

 

風「むむむ、お兄さんにしては食いつきが悪いですね。

  ……幼女に目覚めてしまいましたか」

 

一刀「目覚めてねぇわ」

 

明花が星と遊ぶのに夢中になっているのをいいことに膝の上を占拠。

陣を張られた。

所々指摘してくれるので捗るんだが仕事がしにくい。

態勢もそうだが女の子特有の甘い香が──

 

風「おお、安心しました。やはりお兄さんですね、下の方のお兄さんが──」

 

一刀「反応してませんー!」

 

思わず語尾が伸びて小学生の反論みたいになった。

つか下の俺ってなんだ。

別の生命体みたいに扱わないでください。

 

風「我慢なんてする必要はないのですよ?お兄さんさえよければ、風はいつでもどこでも──」

 

挑発的な態度に加え艶っぽい声で誘惑しているのを見て

 

稟「ふっは──!!」

 

案の定、過剰なまでの妄想をした稟が鼻血を噴き出した。

 

一刀「ってうおおお書類ッ!書類に掛かってる!ああ警邏の報告書が!?」

 

風「お兄さんも薄情になりましたね。稟ちゃんよりもまずは書類の心配ですか」

 

一刀「誰のせいだ誰の!」

 

あわわわわ……

桂花に死にたくなるほど罵られる……秋蘭に無言の圧力をかけられる……

……華琳に殺される……!

 

風「仕方がないですねー、はい稟ちゃんとんとんしましょうねー。

  おお、今回はかなり盛大に噴いたようですね」

 

殺人でもあったんじゃないかと思うほどに床一面が血で染められていた。

……よく失血死しないね。

 

くそ、ここで稟がリタイアとは。

想定外の出来事だぜ……

 

風「稟ちゃんはしばらく寝かせておくとして。

  遊んでいる場合ではないのですよお兄さん」

 

え?俺なの?俺か風かのどっちかって言ったら風のせいだよね?

 

風「そんな無駄な事を考えている暇は無いのですよ。さっさと終わらせてください」

 

一刀「え、あれ!手伝ってくれないの?」

 

風「風の分はもう終わりましたからー」

 

なん……だと……?

あの騒ぎの中自分のやる事は全てやっておくなんて。

……これで完璧に風が責められる理由がなくなってしまった。

華琳がこなしている仕事量なんて俺とは比べものにならないのに、

こんな事で間に合わないなんて事になったら……

やべぇ、ガチで殺(や)られる。

 

風「お兄さんがどうしてもって言うなら手伝ってあげないこともないんですけどねー」

 

にやにやしながら俺を見る。

……ふん、見くびるなよ風。

俺だって仮にも将軍なんだ。

そう易々と頭を垂れるなどと思わないでほし──

 

 

 

 

一刀「お願いします、手伝ってください」

 

待て!俺の身体待て!条件反射で頭を下げるな!

 

風「仕方が無いですねー、どうしようもないお兄さんの為に風が一肌脱いであげましょう」

 

……何かもう俺の潜在意識から全てにおいて調教されてる気が──ん?

シュル……っと布が擦れる音

 

一刀「本当に脱がなくていいから!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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はぁ。

いやかなり政務は早めに終わったんだよ。

でもね、なんていうかメンタルに疲労が……

 

「北郷様!」

 

ん、この声は──

 

一刀「こんばんわ、詩優。どうしたの?」

 

詩優「はい!街に出ようと思っていましたら北郷様をお見かけしたので声をかけてみました!」

 

うん、いつもながらはきはきとして元気に溢れてる。

ええ子やで。

 

一刀「街に?俺も今から街に出ようと思ってたんだけど……何か用事なら俺がついでに行くよ?」

 

詩優「あ、いえ!夕飯を食べに行こうと思っていただけですから」

 

んー、まだなんというか態度が固いなぁ……よし。

 

一刀「そっか、俺も今から食べに行こうと思ってたんだ。一緒に行かない?」

 

詩優「え?よろしいのですか?」

 

一刀「もちろん、二人で食べたほうが美味しいし」

 

詩優「は、はい!それではお言葉に甘えさせて頂きます!」

 

ぺこりと頭を下げ、俺の半歩後ろを歩く──のでそれに合わせ俺も半歩後ろへ下がる

するとまた半歩後ろへ、俺も半歩後ろへ────だぁぁぁエンドレス!

 

一刀「えっと、俺の隣を歩くのは嫌?」

 

このままでは同じことの繰り返しになるのは目に見えているので繰り出す

 

詩優「え?あ、いえ!そ、そうじゃなくてですね、その……」

 

顔を赤くし、俯いてしまう。

……俺何かした?

 

一刀「あー……嫌なら別に無理して付き合う必要は無いよ?」

 

詩優「い、嫌だなんてとんでもないです!むしろすごく嬉しいんですけど……」

 

ガバっと起き上がり叫んだかと思えば語尾が小さくなりまた俯く。

いつもながらに忙しいね。

 

一刀「嫌じゃないなら俺は詩優と並んで歩きたいな。

   その方が話もしやすいし顔も見れるだろ?」

 

詩優「私の顔をですか?そんなものを見てもつまらないと思うのですが……」

 

一刀「何言ってんの。

   詩優程の美人はなかなか居ないぞ?そんな綺麗な顔してるんだからもっと自信持たないと」

 

そう言った瞬間ボッっと音が出るほどに顔を赤くし

 

詩優「き、ききき綺麗だなんてそんなことないですよ!?

   それに幼い頃からずっと鍛えられてきましたから筋肉質ですし!」

 

一刀「そう?すらっとした綺麗な手足じゃないか。ナイスプロポーションだぜ!」

 

言葉が伝わらないのをいい事に我ながら結構きわどい事をいっている気がする。

 

詩優「はぅぅ……」

 

ぷしゅぅぅぅ……と頭から湯気が立ち上る

 

一刀「うわっ!大丈夫!?しっかり!」

 

倒れそうになる身体を支える

 

詩優「す、すみません……ってわわわ!すみませんすみません!」

 

俺が身体を支えているのを確認したと同時にものすごい速度で遠ざかる。

何この子超楽しい。

華琳がいじめたくなる気持ちもわかる気がする。

……いや、いじめないよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

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深夜、星との鍛錬はもう日常では当たり前の事となっていた

これほどの武将相手に毎日鍛錬しているものだからそれなりに体力はつく。

……だってこっちはもうグロッキーなのに鬼のように責めてくるんだもん。

鍛錬もひと段落し、小休憩。

 

星「一刀殿もなかなかに体力の持続時間が長くなったではありませんか」

 

涼しい顔をした星が隣に腰掛け言う

 

一刀「毎日鬼将軍に鍛えられてるからね。

   というか星が疲れてるのを見た事ない気がするんだけど」

 

星「人を怪物のように言わないで頂きたい。

  私とて貴方ほどの方を相手にしているのです。

  かなり疲労していますよ」

 

じゃあその涼しそうな顔は?

もっと疲れてる表情出してくれないとへこむわ

 

一刀「あ、そうそう昼間の話だけど」

 

星「ん?一刀殿もメンマについて深く知りたくなりましたか?」

 

一刀「そっちじゃなくて白装束のほうね」

 

そう言うとあからさまにつまらなそうな顔をする。

……そんなにメンマについて語りたいのか

 

一刀「星はどう思う?本当に偶然時期が重なっただけだと思う?」

 

星「ふむ。賊だけならまだしもその白装束が目撃されてるとなれば話は変わってくるでしょうな」

 

メンマの事はとりあえず置いておく事にしたのか、真面目な顔つきで向かい合う

 

星「以前から思っておりましたが、奴らは何かを探しているように思えます。

  それも物ではなく人でしょう」

 

一刀「人、か。どうしてそう思うの?」

 

星「一刀殿は物を探しに来た村に火を放ちますか?」

 

……確かに考えてみればそうだ。

探しに来て火を放ち燃えましたなんて事になったら只の間抜けだ。

 

星「そういうことです。

  それも余程の事が無い限り生け捕りなどとは考えてはおらぬでしょう。

  今のところまだ見つかってはおらぬようですが……そろそろ痺れを切らす頃かと。

  火を放ち、あれだけの殺戮を犯したのに見つかってはいないのですから」

 

一刀「……かもね。これだけ探し回って全て俺たちが邪魔してるわけだからね」

 

星「その探し人が何者なのかはわかりませんが、

  奴らの手に渡れば間違いなく無事では済まぬでしょうな」

 

一刀「だね。先に見つけて保護するとかしないとなぁ」

 

星「あるいは……案外ここの者にとって身近な者かもしれませんな」

 

そう言って星は何かを思案する

 

一刀「心当たりがあるの?」

 

星「いえ、これだけ探し回っても見つからぬのなら、と考えただけです」

 

一刀「身近、ねぇ……」

 

白装束に加えて五胡の事もある。

平和になったと思ったらまた戦か

早く皆が心の底から安心できる世の中になればな

明花が幸せになれる世の中に……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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華琳「一刀、買い物に行くわよ」

 

俺は寝ぼけているのだろうか。

朝一番の、しかもこんな早朝からの覇王の言葉とは思えない。

うん、夢だなこれは。

最近華琳とまともに話せてないからなぁ。

こんな夢まで見るようになっちゃったのか。

……よし、目が覚めたら華琳を街に誘うとしよう。

ってわけでお休みぃ……。

 

華琳「私を無視して惰眠を貪ろうなんていい度胸ね」

 

あれ、夢なのに妙にリアルな反応。

夢の中でも華琳は華琳なんだなぁ……ぐぅ……

 

華琳「…………」

 

もぞもぞ

 

んぅ……?

布団の中に何かが──あ、すげぇ良い匂い。

華琳を抱きしめたときの匂いに似てるなぁ。

 

ムニっ

 

ん、なんだろ、少しちいさいけどものすごく柔らかくて非常に気持ちいい。

そんな事を思っていると今度は相棒に刺激が来た。

そんなに刺激するなよぉ……って

 

一刀「夢にこんなリアルな感触があるかぁっ!」

 

華琳「あら一刀、おはよう」

 

案の定、華琳が俺の布団にもぐりこみいろいろと嬉しい事をしてくれていた

 

一刀「あのね、いろいろとおかしいからさ……」

 

華琳「おはよう」

 

一刀「いや、だから──」

 

華琳「お・は・よ・う」

 

一刀「……はい、おはようございます」

 

俺が挨拶を返したことに満足したのか、笑みを浮かべる。

……びっくりしたから思わずやめさせたけど、生殺し状態になったな。

……おはよう相棒。

でもまだお前が活躍するには早いぜ。

 

華琳「私は構わないわよ」

 

一刀「何度目かは分からんが人の心を読むのは禁止です」

 

心底明花がいなくて良かったと思う。

昨日は星と一緒に寝たようだ。

 

華琳「貴方がわかりやすいだけでしょう。

   そんなことより早く支度なさい」

 

どうやら俺のプライバシーはそんなこと扱いらしい。

この国に俺の人権はないのだろうか。

というか

 

一刀「え?朝議までまだ時間はあるだろ?何かするのか?」

 

華琳「だから、買い物に行くと言っているでしょう」

 

……はい?

 

窓から外を見る。

……まだ薄暗い。

 

華琳「な、なによ」

 

一刀「うむ、一応言っておこう。

   この時間に開いている店など一軒もありません」

 

華琳「開けさせればいいじゃない」

 

一刀「いや、それができたら営業時間なんて決めないからさ……」

 

華琳「曹孟徳直々の命令だと言えばすぐに開くわ」

 

いいかい皆、これが職権乱用ってやつだ。

良い子は真似しちゃ駄目だぞ。

どうやら今日は覇王の華琳ではなく少女としての華琳のようだ

 

一刀「まぁ今日は華琳を誘おうと思ってたからね。願ったり叶ったりだよ」

 

華琳「今日”は”?」

 

一刀「……いいえ。常々誘おうと思ってはいたのですが何分華琳様がお忙しいようでしたので」

 

いや、これは本当だぞ?

誘おうにも政務の数が激増してから華琳は休み無しで働いてたしなぁ。

 

華琳「まぁいいわ、それじゃ行きましょう」

 

一刀「何かほしいものでもあるのか?」

 

華琳「あら、ほしいものが無くては買い物に出かけてはいけないの?」

 

……あぁ、なるほどね

 

一刀「へいへい、良い店を案内しますよ」

 

華琳「よろしい」

 

 

 

 

というわけでとりあえず街へ到着。

何か前にも似たような事があった気がするけど……

とりあえずは、と?

……あの〜華琳さん?貴方が今真っ直ぐに目指している所はですね

女性の下着専門店では?

まるで既に決定していたかのように迷わず足を運ぶ華琳。

……思い出した。

そうだ、前にも華琳に下着を選ぶのを手伝わされたんだった……

 

華琳「一刀、何をしているの。早く行くわよ」

 

俺の案内とかいらないじゃーん。

え、つかちょっと待って。

 

一刀「え、何、やっぱり俺もそこに入──」

 

華琳「当たり前でしょう」

 

一刀「るんですよね、はい解りました」

 

やっぱりこうなるのか……

半ば諦めながら女性下着専門店へ入る。

さっさと選んで早くここから──

 

華琳「ちょっと待ってなさい」

 

……これなんて拷問?

客が誰も居ないからまだ救われるものの居たたまれなさが半端ない。

男物とは違う華やかな下着に囲まれたこの空間。

華琳が一緒に居るからまだ許されるのにそこに一人取り残される俺。

……想像しただけで胃が痛くなる。

 

一刀「いやあの、さすがにそれはキツいものが──」

 

華琳「待つのが嫌なら貴方も何か探してきたら?」

 

一刀「待たせていただこう」

 

俺を一人残して華琳が下着を選びに行った。

店員さんの俺を見る目が辛い。

目を合わせないように遠くを見つめる。

 

 

 

 

数十分程その拷問を受け、いい加減泣きそうになっていると華琳が戻ってきた。

 

華琳「これとこれ、どちらがいいかしら」

 

またその二択か。

よし、また俺の脳内変換により目の前の女の子を下着姿にしてみよう

いやらしく聞こえるかもしれないがこれは本人たっての希望だ。

 

……見える……見えるぞ……!

 

一刀「華琳の下着姿が……!見え──!」

 

ボゴォッ!

あぶふ!?

 

ようやくイメージが湧いてきた所で顔面に鉄拳を叩き込まれた。

い、痛い!

俺今超一生懸命やってたのに……

 

華琳「大声で変な事叫ぶんじゃないわよ!」

 

なに?

そうか、どうやら無意識に声に出てしまっていたようだ

 

華琳「で、どっち?」

 

一刀「すまん、今の一撃で全て吹き飛んだのでもう一度イマジネーションを働かせてみる」

 

華琳「いまじ……なに?」

 

もう一度精神を集中し、下着を着けているところから俺が脱がすところまでを全力で想像する。

……よし、よし……!来た、来たぞ……!この下着をつけた華琳の姿が!

 

なかなか手強い二択を持ってくるじゃないか……

ここまで強敵だとは思わなかったぜ。

可愛らしいピンク色の、所々に小さな装飾の着いた下着と、

大人っぽい黒レースの下着、そしてセットのガーターベルト!

 

くそう……タイプは正反対なのにどっちも似合うじゃねぇか。

そしてどっちも──

 

一刀「大好きだッ!!」

 

バシィッ!

へぶあ!?

 

今度は普通に張り手で頬を叩かれた。

 

華琳「だ・か・ら!大声で何を言っているの!」

 

顔を真っ赤にしながら怒っている。

すまん、どうしても俺のリビドーが抑えきれない。

 

一刀「よし。この俺を本気にさせたことを後悔させてやろう」

 

並べられた二つの下着にそう呟く俺をちょっと引いた目で見る華琳。

 

きた……きたきたきたぁぁ!!

 

一刀「こっちだ!!!」

 

そう言って黒レースのガーターを指差す

 

華琳「そ、そう。じゃあこれにしようかしら」

 

一刀「あ、いやでもやっぱりこっちのも──」

 

華琳「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

俺がいつまで経っても一つに絞らないので結局両方お買い上げ。

俺の金で。

別にいいけどさ。

つかむしろ俺の買ったものを着けてくれるなんてうれし──いや、なんでもない。

 

さてと。

下着選びに何時間かかったのか、もう粗全ての店は開いている時間になっていた

今更だが俺は朝食を食べていない。

朝起きて顔洗う時間しかくれなかったし

 

一刀「華琳は朝ごはん食べた?」

 

華琳「そんな時間あるわけないでしょう、私が貴方の部屋に行った時間を考えて見なさい」

 

いや、だったら食べてから来た方がよかったんじゃないかね、と考えていても仕方がないので

 

一刀「じゃあとりあえず何か食べようか、華琳はどこか行きたい店はある?」

 

華琳「貴方に任せるわ」

 

ふむ。

華琳の舌を満足させられるような店に行かなきゃいかんわけなんだが……

どうしよう、俺からしたらこの街の料理は皆美味いんだよなぁ。

 

ん〜〜〜〜……あ、そうだ

 

一刀「すまん、ちょっとその前に取りに行くものがあるんだ。いいか?」

 

華琳「なに?まさか私と街に来ているのに仕事?」

 

一刀「いや、仕事じゃないよ。

   ちょっと繕って貰ってるものがあるんだ」

 

いつも衣装を頼んでいるおっちゃんの居る店へ直行する。

 

一刀「おっちゃ〜ん、あれできてる?」

 

「おお御使いさま。もちろんできてますよ、なかなかに良い出来に仕上がりました」

 

おっちゃんが奥の部屋に戻りちょっと大き目の箱を持ってくる

 

一刀「いつもありがとうおっちゃん」

 

「いえいえ、私としては天界の衣装を作らせて頂けるだけで満足ですよ」

 

箱を受け取りとりあえず華琳を試着室へ押し込む

 

華琳「ち、ちょっと!いきなりなに?」

 

はい、と華琳に箱を手渡す。

 

一刀「これを着てみてくれないか?

   華琳の身体に合わせて作ってもらったんだけど」

 

華琳「私の……し、しょうがないわね。待ってなさい」

 

カーテンを閉める。

しばらくして試着室からちょっと顔を覗かせ

 

華琳「よく私の身体に合うものなんて作れたわね」

 

一刀「い、いやそれはほら……な?」

 

苦笑いしかできない。

営みの時にさりげなく触って確かめたなんて言えない。

 

華琳「まぁいいわ」

 

シャッとカーテンを閉じる。

そして待つこと数分

 

華琳「で、できたわよ」

 

カーテンが開け放たれ、中に現れたのは

 

一刀「おおお……」

 

想像はしていたがまさかこれほどだとは思わなかった。

思わず言葉を失うほどに彼女は美しかった。

 

華琳「な、何か言いなさいよ」

 

顔を赤らめ、視線を外しながらそう呟く華琳

 

一刀「あ、ああ。これはやばいな、犯罪だ」

 

華琳「犯罪って何よ!」

 

一刀「いや違くて!それほどに似合いすぎてるってこと!」

 

華琳「……え?」

 

改めて華琳を眺め

 

一刀「うん、すごく綺麗だよ。華琳」

 

華琳「あ、当たり前じゃない。私を誰だと思っているの」

 

照れ隠しをする華琳もまたその魅力を引き立てたりして

 

華琳「それにしてもなかなか良い見栄えの服だわ、貴方が考えたの?」

 

一刀「いや、俺の世界には元々あるものだよ。

   そのデザインは俺が考えたものだけどね」

 

華琳「でざいん?」

 

一刀「ああ、意匠の事ね」

 

華琳に着て貰っているそれはパーティーなどで着るであろう黒いドレス

シルクのように艶のある生地に膝上までの裾、肘上までの手袋にストールを羽織っている

自分で作っておいてあれだけどこれやばいな。

 

一刀「何か大きな催しの時に着るといいよ、それはそういう服だから」

 

華琳「あら、私にくれるの?」

 

一刀「もちろん。

   華琳に着てほしくて作ったんだから」

 

華琳「そ、そう……ありがとう」

 

……この時々見せる素直なところがまた可愛いんだよなー

 

なでなで

 

華琳「ッ〜〜〜。お、お腹が空いたのでしょう?早く行くわよ!」

 

そう言って試着室に戻りもとの衣服へ着替える。

うん、もったいないがまた今度着てもらおう

 

そして朝食という名の昼食をとり終え、街をブラブラ。

……こうしてると平和なのにな。

まだ賊の襲撃報告は0にはならない、戦がなくなったこの世界でなぜまだ人々が傷つき涙を流すのか

この狂った世界はもうどうにもならないのではないかと時々思ってしまう

 

華琳「何を考えているの?」

 

不意に華琳が俺を覗き込んできた

 

一刀「……いや、平和だなってさ」

 

せっかくの楽しい気分を壊したくはないので少し内容を省く

 

華琳「それにしては難しい顔をしていたようだけど?」

 

顔に出てたか。

俺ってそんなにわかりやすいのかなぁ……

 

華琳「何を考えていたのかは知らないけど、貴方は貴方の信じた道を行けばいいのよ」

 

……考えていた内容を知らないのにこんなにピンポイントな事を言ってくるところは流石華琳

 

華琳「それに、貴方がそんな顔をしていては皆が不安になるわ。気をつけなさい」

 

一刀「……そうだな、悪かった」

 

華琳「そんな顔をするのは私の前だけにしなさい。

   言ったでしょう。

   貴方の全てを私が受け止めると」

 

……やっぱり華琳には敵わないな

 

一刀「あぁ、ありがとう。華琳」

 

俺の愛する女の子は、寂しがりやで、素直じゃなくて、でもどこまでも優しい。

そんな彼女だから、こんなにも心が安らぐのだろう。

その小さな身体で全てを包み込もうとする、

優しき覇王だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-7ページ-

ある日の昼下がり、明花と一緒に街へ出ていた

特に何をするわけでもなく只ブラブラして買い食いして──と

最近明花との時間が取れていなかったからな、父と呼ばれているからには娘と遊んでやらねば

しばらく歩いていると手を繋いで歩いている親子を見つけた。

この子の母親が生きていたらあの画は明花だったのかもしれない

俺がその親子に目を奪われていると、不意に繋いでいた手が強く握られた

俺の様子が変だと思ったのか、心配そうな表情で覗いてくる。

……一番辛いこの子に気を使わせるなんてな

胸をギュっと押しつぶされるような感覚に襲われる。

この子の心は俺なんかより全然強いんだな……

頭に手を置きうりうりと撫で回す。

 

 

 

 

 

「久しぶりだな、北郷一刀」

 

いつの間に立っていたのだろう、目の前に俺と年はさほど変わらない男が立っている

その空気から少なくとも友好的なものではないとわかる

 

一刀「……俺はあんたなんか知らないぞ」

 

明花を後ろへ押しやり男と対峙する

 

「ふん、気に入らないが……まぁ当然か。

 この外史の貴様が俺を知っているはずはないからな」

 

外史……外史?

何だそれ?

 

突然意味不明な事を言われ混乱するが今は気にしないことにする。

 

一刀「俺に何か用か?」

 

その男の名も少しは気になったがこんな訳わからん事を言う奴だ。

ろくな事にならない

 

「貴様にも用はあるが……今はそこの娘に用がある」

 

そう言って後ろに隠れている明花を見る。

この明らかな敵意を抱いている男が明花に用があるだと?

絶対にだめだ。

 

一刀「断る、あんたみたいな得体の知れない奴に俺の娘は関わらせない」

 

強く睨むが、その男はふんと鼻で笑い

 

「親子ごっことはお笑いだな。

 ……自分ひとりでは何もできない愚図が!」

 

段々と口調が強くなっていったため、何かしてくることはわかっていた

案の定、身を反らした俺の眼前を上段の蹴りが空を切る。

 

一刀「明花、どこか近くの建物へ逃げろ。誰かが必ず匿ってくれる」

 

明花を背中越しに押し、桜炎に手を添える

 

一刀「こんな街中で騒ぎを起こすのか?捕まえてくれって言っているようなものだぞ」

 

「ふん、そんな間抜けな真似はしない。

 今はあの娘の居所が分かっただけで良しとしよう」

 

男は踵を返し立ち去ろうとする

 

一刀「逃がすわけないだろ」

 

踵を返した男の背中目掛けて居合。

 

一刀「ッ!?」

 

完璧な死角からの攻撃にも関わらず、その男はそれを避けてみせた。

 

「少し熱くなってしまったが今は貴様とやりあっている時ではない。

 その時が来たら俺が丁重に葬ってやる」

 

そう告げると、その男は霧のように掻き消えた

 

……何なんだ一体。

明花を狙っている──なぜだ?

あんな小さな子に何をする気だ?

只ひとつ分かる事はあの男は明花に災いしかもたらさないであろうという事。

ふざけるな。

やっとあの子は傷が癒え始めたんだ。

また幸せを掴みかけているんだ。

あの男は間違いなく村を焼き払った集団に関わりがあるだろう。

だとしたら明花を見つけ出すために村を襲撃したというのか?

──なぜ?

不意に、いつか庭で見た光景を思い出した。

……明花は何者なのだろうか

俺が考えに耽っていると服の端をくいっと引っ張られる

 

明花「とうさま、大丈夫?」

 

一刀「なっ!明花!危ないからどこかへ隠れてろって言ったろ!」

 

つい大声で怒鳴ってしまった

 

明花「だってあの人、怖かったんだもん……とうさまが……」

 

俯きながらも俺の服を放そうとはしない

 

一刀「……ごめんな、でも明花に何かあったら俺はどうすればいいんだ。

   明花にもしもの事があったら俺生きていけないぞ?」

 

明花「……うん、ごめんなさい」

 

ぎゅっと腰に抱きついてくる。

……この子が何者だろうと関係ない

この子を幸せにする。

誰がなんと言おうとこの子は幸せになる権利をもっている。

あんな奴らに邪魔はさせない。

絶対、幸せに生きていくんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、星と庭での鍛錬

 

一刀「星の言ってた事はどうやら正解だったみたいだよ」

 

星「ん?なんのことですか?」

 

一刀「白装束は何かを探していた。

   それは物じゃなく人だって、言ってたろ?」

 

星「ふむ、確かに言いましたな。

  で、正解だったという事は何かがあったのでしょう?」

 

一刀「……今日、白装束と関係してる奴に襲われた。明花を狙ってたんだ」

 

そう言うと星はめずらしくかなり驚いた顔をする

 

星「それは本当ですか?」

 

一刀「こんな嘘ついてどうするんだよ。連中の探し物は間違いなく明花だ」

 

少しの間。

そして星が何か思案する仕草で聞いてくる

 

星「しかし分かりませぬ。

  あんな幼子を攫って一体何をしようというのか」

 

確かに普通に考えればそうなるだろう、あんな小さな子を攫ったところで何も利益はない

 

しかし俺は明花の「力」を見ている。

あの「力」こそが白装束の奴らが明花を欲している理由かもしれない。

 

一刀「明花はちょっと変わった力があるんだよ」

 

そう言って以前、明花が放った光が触れた枝へ案内する

 

一刀「な?まだ花が咲く季節じゃない。

   他の木も緑一色だ。

   そんな中この枝だけ花が咲いているんだよ」

 

星「これは……」

 

星がその枝の花を突きながら呟く

 

一刀「この枝は明花から零れ落ちた光が触れた場所なんだ」

 

星「ふむ……これは氣ではないでしょうな。

  確かに治療に氣を使う者はいますがそれはあくまでも治療であって、

  このように自然の摂理を無視出来る程のものではない」

 

あまりにも不可解で理解が及ばないものを目の当たりにし、沈黙する。

 

一刀「……なぁ、星」

 

星「わかっています。

  このような力があろうとあの子はあの子です。

  皆の幸せを願う心優しき少女です

  皆で守りましょう、あの子の未来が幸せな景色で多い尽くされるように」

 

俺の言おうとしていることが分かったのか、星は俺にそう言ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはりあの娘は北郷によって保護されていた。

 それに奴の動き、これまでの外史からは考えられん」

 

「なるほど、それでそんなに機嫌が悪いのですか」

 

「黙れ。それよりあの娘を手に入れる方法を考えろ。

 それとあの介象とかいう者も厄介だ」

 

「やれやれ、またしても我々の邪魔をする者が現れるとはね」

 

「ふん、どのみち全員始末してやるさ」

 

「ふふ、ああ……貴方のその表情、素敵ですよ」

 

「ちっ……ゲイ野郎が」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-8ページ-

白装束の狙いが明花だとわかった。

そしてそれに関係している男が街にいた

確かに今は外交が盛んで普通の格好をしていたら敵だとわからない

故に街への侵入を許し、一歩間違えれば明花の命に関わっていたかもしれない

そのため明花が街へ行ける時が極端に減った。

明花自身は気にしていないと言うが

俺としてはもっと自由に行きたい所へ行き、友達と遊んでほしい。

しかし狙いが明花である以上仕方ない……か

 

 

もきゅもきゅ……もきゅもきゅ……

 

 

それに最近五胡の情報が入ってこない。

あの最後の決戦で全滅していてくれたならいいが

風によれば俺が帰ってくる前に何度か小規模の襲撃を受けているという

楽観視はできない。

どこかで力を蓄えて大軍で攻めてくるかもしれないんだ

しかし全く情報がないので探しようがない。

当てもなくこの大陸中から何かを探し出すなんて事はまず不可能だ

今の魏軍の兵数は二百万は無かった筈。

しかし戦が終わった後も志願者が結構出ているらしいから軍事力に関しては問題ない。

 

 

もきゅもきゅ……もきゅもきゅ……

 

 

…………

 

 

一刀「星」

 

星「はい、なんでしょう」

 

一刀「しばらくメンマ禁止」

 

星「な、なんですと!?」

 

 

メンマ禁止令を受けた星はイジけて部屋に閉じこもってしまった。

……俺の部屋に。

そんな地味な嫌がらせを受けつつも政務──は部屋なので無理。

ということでちょっくら街へ。

仕方ないからメンマも買っていくか。

今日は俺一人なのでそんなに警戒する必要もないだろう、いざとなったら逃げるし。

いつものように街を徘徊。

適当に暇を──

 

 

……え?

 

目を擦ってもう一度確認する。

 

……ええ?

 

 

俺は疲れているんだろうか。

紐パン一丁の筋肉達磨が俺に熱い視線を注いでいる。

やばいな、まさか幻覚が見えるようになるとは。

ちょっと華琳に仕事減らしてもらおうかな。

 

「ご主人さまぁぁぁん♪」

 

人の声とは思えない音で言葉を発した。

うあ……寒気がした。

あんな化けもんにご主人様なんて呼ばれる奴はもう世界一の不幸者だな。

 

「んもぅ!!どうして無視するのよん」

 

何か俺のほうを見て言っているようにも見えるが、あれは俺が見てる幻覚なんだ

そうだ、だってあんなのが街に居て捕まらないわけがないだろ?

……只単に怖くて近寄れないってだけかもしれんが

 

「ぶるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

一刀「うわっ!?」

 

いきなり耳を劈くような怪物の咆哮が聞こえた。

ドズゥゥン……と俺の目の前に跳躍してきたそいつは

 

「久しぶりねん、ご主人様♪」

 

一刀「寄るな化け物ッ!悪霊退散!」

 

「んまぁ失礼しちゃうわねッ!」

 

目の前に現れたのは俺の2倍はあるんじゃないだろうかと思う巨人。

加えて変態。

 

「まぁ落ち着いて、とりあえず自己紹介しようかしらん」

 

そう言って口元に手を添える。

はっきり言おう。

気持ち悪い。

 

貂蝉「私は貂蝉、しがなぁぁい踊り子よ」

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

 

一刀「すまん、もう一度頼む」

 

貂蝉「んもぅ、そんなに私に興味津々なのね?私は貂蝉、しがなぁぁい踊り子よ」

 

一刀「ざっけんなぁぁぁぁぁぁ!!」

 

頭を抱えてわしわしとかき乱し、天を仰ぐ

こ……!こいつがあの絶世の美女と言われた貂蝉!?どのへんが!?

おま歴史上の人物バカにすんのも大概にしろよ!

 

貂蝉「そんなに私との再会をよろこんでくれるだなんて、感激しちゃうわん♪」

 

身体をくねらせバチコンと音が聞こえてきそうなウィンク。

きもい。

 

一刀「誤解のないように言っておく!喜んでないし俺はお前なんか知らねええええ!!」

 

ああ……なんというパラレルワールド。

これがあの貂蝉?

存在が失礼だわ

 

貂蝉「まぁいいわん、ご主人様にちょっとお話があるのよん」

 

一刀「俺はない、それじゃ」

 

シュタっと手を上げさっさと退散。

関わっちゃいかん。

あいつは絶対俺のケツを狙っている。

 

 

 

 

 

貂蝉「外史」

 

 

 

 

 

筋肉達磨がその言葉を口にした瞬間、ピタリと体が止まる

 

一刀「……お前、あいつの仲間か?」

 

貂蝉「それはないから安心してちょうだい。私の話を聞いてくれるかしらん?」

 

少なくともこの筋肉達磨からは敵意を感じない。

こいつは何か手がかりを知っているのかもしれない

 

一刀「……わかった」

 

俺は頷き、妖怪の後についていく。

周りの視線が痛い。

 

貂蝉「ここでいいかしら♪」

 

そう言って化け物が店内へ入る。

同時に中に居た客が額に汗を浮かべ店を出て行く。

もうこの店には客が来ないかもしれない。

席に着き料理を注文。

すると卓ひとつでは足りない程の料理が運ばれてきた。

 

一刀「どんだけ食うんだお前は!」

 

貂蝉「やぁねぇ、育ち盛りはこれくらい食べないと立派になれないわよ」

 

……人の股間に視線を注ぐなスキンヘッド。

結構真剣に身の危険を感じるのでさっさと話を聞く事にする

 

貂蝉「そうね、まずは外史について理解してもらおうかしら」

 

そう言って手を顔の前で組み両肘を机に乗せ、まじめな顔をする

筋肉が圧縮され凝縮され、大変な事になっている。

 

 

貂蝉「この世には外史という幾つもの世界が散らばっているの。

   そしてその外史は水のようにそれぞれの器に溜まっていくわ。

   そのいくつもの外史には必ずそれぞれの終端がくる。

   その終端がくればその器は崩れ、新たな器に外史が生まれる──はずだった」

 

そこで言葉を区切る。

見た目が見た目なだけに迫力が半端ない。

 

貂蝉「しかしそこに突如現れた少年によって外史が大きく変わるわ。

   普通ならば外史の終端を迎えれば、その世界に居た住人もろとも消えてなくなる。

   世界が消えるのだから当然ね。

   でもその少年と、その少年を想う少女の想いが強すぎたのね。

   そう……3年前、その少年は外史の運命を変えたわ。

   普通ならば正史に沿ってその外史は終わりを迎えるはずだった。

   でも少年の彼女達を想う気持ち、彼女たちの少年を想う気持ちがあまりにも強すぎた。

   ついにその外史は、外史という枠を超えようとした。

   何度も繰り返される運命に、ついにその想いが勝(まさ)った。

   消滅するはずだった外史は残り、少年は元の世界に戻るという異例。

   そしてその強い想いが引き合わされ、再びその外史に降り立った」

 

 

……それは──

 

 

貂蝉「私たち傍観者は輪廻にうんざりしていたわ。

   悲しい外史は何度も生まれ変わり新たな悲しみを生む。

   そうね、私はずっと見てきたの。

   外史の行き着く決まった運命を。

   でもね、その悲しい外史の運命を、少年は打ち破って見せた」

 

 

全身が震える。

この大男が話す物語には心当たりがありすぎた

 

 

貂蝉「……だから私達はもう傍観者をやめたわ。

   幾度もの輪廻の中で、唯一少年が帰還を果たしたこの外史を、

   この幸せな世界を守るためにね」

 

 

お、落ち着け。

とりあえず落ち着け俺。

 

一刀「ちょ、ちょっと待ってくれ。うまく頭が回らない」

 

つまりなんだ?外史っていうものの数だけ俺が居て、その外史の全ての運命を俺が打ち破ったと。

で、この世界は今回が初めてじゃない、何度も華琳達との別れは繰り返されていたと。

何度も輪廻する外史の中で唯一俺が帰ってこれたのがこの外史──ってことか?

 

 

貂蝉「外史はそれぞれの器に溜まるって言ったわね?

   その器に入る量は決まっている。

   運命という言葉がぴったりかしら。

   それを超えたら外史は崩壊し消えるわ。

   でもこの外史は違う。

   成長しすぎた外史に器が耐えきれていない、

   よって外史を受け入れようと器が枠を超えひとつの世界になろうとしているの。

   このままでは正史にも影響を及ぼすかもしれない。

   だから本来ならばこの世界は終わるべきなのよん。

   それでも私達はこの外史に滅んでほしくない。

   この幸せな世界を消されたくないの」

 

 

大男はその身なりからは考えられない程に真剣な眼差しを向けてくる

 

 

貂蝉「おっと、つい熱くなっちゃって話がそれちゃったわ♪

   つまり私が言いたいのは、白装束の目的はこの外史の破壊。

   何故明花ちゃんを狙ったのかは調べてみないことにはわからないけれどこの幸せな世界を続けていくにはあの子も必要不可欠な存在でしょう?。

   だから今、貴方のこの世界での役目は──あの子を守る事よん」

 

 

あの子を守る事が──俺の、役目。

あの子を守る事で、華琳達を守ることにもなる。

 

 

貂蝉「正史への影響は私達が何とか抑えてみるわ♪」

 

どぅふふ♪と身体をくねらせまたしてもバチコン。

……まじめに話してるのか?こいつは。

 

一刀「正直、今の話を聞いてはいそうですかって全部鵜呑みには出来ない。

   でも連中が明花を狙って、悪意に利用しようとしてるのなら──」

 

目の前にいる大男の目を真っ直ぐ見据え

 

一刀「どんな事をしてでも、俺はあの子を守ってみせる」

 

そう言うと貂蝉は

 

貂蝉「今はその言葉が聞けただけでも満足よん」

 

本当に嬉しそうな笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

そんなこんなでぶっとんだ話をされた俺だが100%信じていない訳ではない

貂蝉が言っていた事には身に覚えがありすぎるし、あの真剣な表情を作っているとも思えない。

それでもまだ半信半疑だった。

だってそうだろ?

いきなりこの世界が何度も輪廻しているなんて聞かされてみろ。

胡散臭い事この上ないし、狂言にしか聞こえない。

 

でも……だぁぁぁぁぁ!!

わからんことを考えてもわからんもんはわからんのじゃ!!

はぁ……俺は皆が笑ってくれればそれでいいんだけどなぁ。

……よし。

とりあえず今俺に出来る事は明花を守る事だ。

絶対に守り抜く。

あんな得体の知れない集団にあの子を渡して堪るか。

必ず、守ってやるからな。明花。

 

説明
ヽ(`Д´)ノ
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コメント
華琳に黒いドレス・・・・・・・・・ビューティフォー・・・。(本郷 刃)
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