Masked Rider in Nanoha 五十話 REVOLUTION OF DEEP BREATH
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 少女を抱き抱えたまま、なのはは周囲に自分達以外誰もいないとの報告に戸惑いを露わにしていた。視線のようなものはずっと感じている。しかし、レイジングハートは一切反応がないと応じていた。それに疑問が隠せないなのはだったが、それでも意識を切り替えてすぐに次の指示を出す。

 

「……レイジングハート、一応他のエリアもお願い」

”大丈夫ですよ。既に捜索中です”

「ありがとう」

 

 自身の思考を察しての相棒の返事に感謝しつつ、なのはは腕の中で眠る少女をどうするかと考えていた。ヴィヴィオと同じく聖王のクローンとも呼べるその存在は今後厄介なものになる。だが、それでもなのはには一つしか選ぶ道はない。少女はヴィヴィオの妹も同じ。ならば彼女の娘も同然なのだから。

 そう思い、なのははもう一度優しく少女を抱きしめる。その温もりに軽く微笑むなのは。そこへ聞き覚えのある音が聞こえてきた。その音が意味する事に気付いたなのはは安堵の表情を浮かべて視線を動かす。そこには予想通りスバル達がいた。

 

「「「なのはさんっ!」」」

「スバル、ティアナ、ギンガ……」

 

 どこか喜びを浮かべながら走ってくる三人へなのはは微笑みを返した。自分が無事だった事に安堵しているのだろうと、そう考えてなのはも喜びを表情に込める。それを感じ取りながら三人はなのはの腕の中に納まっている少女へ視線を向けた。

 

「この子が……」

「うん、ヴィヴィオのコピーの子」

「もう大丈夫なんですか?」

「レリックを破壊したし、もう戦う理由もないからね。後は邪眼を倒すだけなんだけど……」

 

 スバルとティアナの言葉になのははそう返していきながら表情を曇らせた。この少女の目の前ではそれは難しいと分かっているのだ。少女が暴走した原因は確実に邪眼。だがそれを少女へ証明する手立てがない以上、邪眼は彼女にとっては父親のままだからだ。

 ティアナもその事へ気付いたのか悔しげに唇を噛んでいる。スバルは眠る少女の横へ屈み、その髪を優しく撫でていた。幼い少女を自分勝手に戦場へ送り込んだ邪眼への怒り。それと共にこみ上げる少女と戦わず済んだ事への安堵感をその手にのせるように。

 

 そんな中、ギンガは一人周囲へ視線を動かしていた。邪眼がいないので不思議に思っているのだ。ギンガもなのはと同じく邪眼がここで待ち構えていると思っていたのだから。その様子になのはも気付き、先程のレイジングハートからの報告を伝えた。それに彼女達は戸惑うが、今は更なるエリアサーチの結果待ちとの言葉に頷いて周囲の警戒を始めた。

 

 未だに出現しているモニターには邪眼と戦うライダー達の様子と様々な場所が映っている。と、そこでティアナがある物に気付いた。

 

(あれ、今通り過ぎたのって……?)

 

 ゆりかごに進入する際作った入口から何かが入り込んだのだ。一瞬しか見えなかったそれはアギトがいる方向へと向かって行く。ティアナはその影に見覚えがあったが、どうしてそれがアギトのいる方向へ行ったのかまでは分からなかった。

 しかし、それがアギトの助けになると理解していたので不安はない。別のモニターへ目を向ければフェイトは走りながらではあるがライダー達へ向かっているし、はやて達もアギトの戦っている場所へ近付きつつあった。クウガへの援護にはそのままシャマルかシグナムが行くのだろうと予想し、ティアナは呟く。

 

「龍騎にはヴァルキリーズがいるからいいとして、残るは邪眼の本体だけ、か」

 

 その本体がどこにいるのか分からないがおそらくライダー達が負けるか勝利するまで現れないだろう。そう結論付け、ティアナはスバルとギンガになのはの護衛を任せ、自分は少し体を休める事にした。先程のゼクスとの戦いで魔力を消費したためだ。それを受け、ギンガはスバルと共になのはの傍に立ち、どこから襲われてもいいようにしていた。だが、ティアナが座ったのを見てその視線を周囲から動かさずにスバルへ声を掛ける。

 

「スバル、貴方もちょっとだけ休みなさい。さっきIS使ったでしょ?」

「ありがとギン姉。でも大丈夫だよ。そこまで長い時間じゃなかったし」

「それでもよ。休めそうな時に休んでおきなさい。……ほんの少しの差が勝敗を分けるかもしれないんだから」

 

 ギンガの噛み締めるような声にスバルは黙った。そう、ライダー達が勝利した後待っているだろう邪眼との決着。それは今までとは比べ物にならないぐらいの激戦だ。そんな時に疲労を残していてはどうなるか分からない。そうギンガは考えていた。スバルもそんな考えを察したのか小さく頷くとギンガへ明るく声を掛けた。

 

「なら少しだけ休ませてもらうね」

「うん、私もティアナが休憩終わったら休ませてもらうわ」

 

 ギンガはそう言うと優しく笑みを見せた。それにスバルも頷き、その場に座り込んだ。なのはは二人のそんなやり取りを聞きながら微笑む。やはり姉妹はいいなと改めて思って。笑みを浮かべたままなのはは少女へ視線を落として頭を撫でた。出来れば眠っている間に決着を着けたいと、そう願うように……

 

 

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 目には見えない空気弾がクウガを襲う。しかしそれを彼はペガサスの超感覚で視認し避ける。それに苛立ちを感じながらも邪眼は再度射撃を行う。そんな事を両者はもう何度か繰り返していた。だが、遂にその転機が訪れる。

 それこそクウガが待ち望んでいた瞬間。そしてクウガの賭けが成功した瞬間でもあった。クウガを襲う空気弾が途絶え、何かが床へ落下する音だけが響く。クウガはそれに気付き、視線を邪眼へと向けた。そこには……

 

「な、何故だ……? 何故力が失せていくのだ!?」

 

 そこには漆黒のグローイングフォームがいた。足元にはペガサスボウガンから戻ったただの瓦礫が転がっている。それを確認しクウガは体を赤へと戻すと邪眼へ向かって静かに告げた。

 

「時間が来たんだ」

「時間だと?」

「緑の力は感覚が鋭敏になるんだけど、それでアマダムに凄い負担をかけるみたいで制限時間があるんだ。それを過ぎると二時間変身出来なくなる」

 

 クウガはそう言い切って邪眼を見つめた。本来ならばクウガの姿でもいられないのだが、邪眼はグローイングフォームのままだった。邪眼は変身不可能ではなくクウガの本来の力を失った状態で止まっているのだろうと、そう判断しクウガは邪眼の反応を待った。

 実は邪眼が緑の姿を取った時、既にクウガの賭けは半分成功していたのだ。ペガサスフォームの制限時間を知らない邪眼。それを突いての逆転を成し遂げるには先に邪眼をペガサスへ超変身させなければならなかったために。

 

 故に、邪眼がペガサスへ変わった時点でクウガは姿を戻さないように自分もペガサスへ超変身し時間を稼いだのだ。そして、結果は彼の予想通りとなった。

 

 クウガから告げられた情報に邪眼は驚き、戸惑う。自分が知っていて邪眼が知らないクウガの弱点。それこそ、五代雄介が本物のクウガである証明。自分の長所も短所も把握し、迷い悩みつつも前へ進む五代雄介。みんなの笑顔のためにとの信念を持つ彼が変身するからこそクウガは仮面ライダー足り得るのだから。

 

 邪眼のように力に溺れ、それを自分のためにしか使わないような者はクウガになれても仮面ライダーにはなれないのだ。クウガが見つめる中、邪眼は必死に体を変化させようとしていたが、やはりその体は一切変化しなかった。それを確認してクウガは頷いて告げた。

 

「これでお前は二時間超変身が使えない!」

「くっ……まだだっ!」

「っ!」

 

 威圧感を失った邪眼へ走り出すクウガ。それを阻むように邪眼が電撃を放つ。しかし、レリックの力に頼る姿になったためかその速度も威力も恐ろしい程低下していた。全速力で走るクウガは襲い来る電撃を恐れる事なく駆ける。それと同時にその足が熱を増していくのを感じながら。

 クウガはその勢いのまま跳び上がり、一回転しながら蹴りの体勢へ移行する。そこを狙った邪眼の電撃が放たれるも、それをその蹴り足が弾くように突き出された。その光景に邪眼がたじろいた瞬間、その体へクウガのライダーキックが決まる。それが邪眼を吹き飛ばし床へ激しく叩きつけた。だがまだ邪眼は倒せていない。胸部の封印の文字に苦しむ様を見たクウガはそれを悟り、もう一度ライダーキックを放つべく構えようとして―――一度深く息を吸った。

 

「……これでっ!」

 

 そして呼吸を整えて構えその体を走り出す前の姿勢へと変えた瞬間、全身を電流が迸り体の色を赤から黒へと変える。黒の金のクウガ、アメイジングマイティだ。その変化に気付かずふらふらと立ち上がろうとする邪眼。そんな相手目指してクウガは走る。それと共にその両足が床を踏みしめる度に熱を増していき、その度にクウガの中へこの一撃でとどめにするとの想いが高まっていく

 やがて邪眼との距離がクウガの間合いとなる。その瞬間、クウガは力強く床を蹴って跳び上がった。そこから一回転し両足を繰り出す攻撃。それはゴ・ガドル・バを倒した際と同じ体勢。今のクウガが放てる最強の攻撃。

 

「ライダーキックっ!!」

 

 七十五トンもの破壊力を誇る必殺の蹴りが、立ち上がったばかりの邪眼を捉えて蹴り飛ばした。再び床に叩き付けられる事になった邪眼。その腹部には二つの封印を意味する文字が浮かんでいる。

 それが邪眼の体に亀裂を生じさせていくのを見ながらクウガは思う。まるで凄まじき戦士となった自分と戦っていたようだったと。黒い目の自分。それが否応無くそれを連想させたのだ。聖なる泉を失ったクウガは怪人と同じ。それをまざまざと見せられたようなものだった。

 

(……手強かった。俺が戦った未確認って、みんな同じように手強いって思ったのかな?)

 

 どこか場違いな事を考えつつ、クウガは邪眼の爆発を見届けてビートチェイサーへと駆け寄った。邪眼による攻撃で倒れたが幸い壊れてはいない事を確認し、クウガは小さく安堵の息を吐いた。だが、激戦が予想される玉座の間に持って行っては万が一もあるため、どうしようかと考えたクウガは一先ず置いてきたトライアクセラーを取りに行く。

 それを差し込んで動かせるようにした彼は視線を玉座の間の方へと向けた。邪眼の本体を倒した後、このゆりかごから脱出するためにビートチェイサーを使えるようにしよう。そう考えたクウガはビートチェイサーを駆って玉座の間目指して走り出した。

 

(光太郎さん、翔一君、真司君。俺、先に行ってます!)

 

 必ず来るだろう三人の仲間への思いを胸にクウガは走る。その先で待つだろう邪眼目指して……

 

 

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 クウガが邪眼を倒すためにペガサスの欠点を利用したのとは違い、アギトはその長所である部分を突いて状況を変え始めていた。それは音。それも騒音と呼ばれるレベルのものだ。五代と語り合った互いの昔話。そこで聞いた初めてペガサスになった際の記憶。それをアギトは思い出したのだ。

 

「はあっ!」

「ぐぬっ!? さ、させんぞっ!」

 

 マシントルネイダーが爆音を轟かせて邪眼を襲う。それを回避して電撃を放つ邪眼だったがその動きは何故か鈍い。そう、バイクの出す音が鋭くなった聴覚を痛めつけているのだ。しかもその音は止まる事なく響き続けて邪眼を苦しめる。全ては、ペガサスの超感覚は使いこなすのに心構えがいるとの五代の経験談からアギトが思い付いた作戦。

 超変身をこの戦いで初めて使った邪眼。故にまだその能力を使う事に慣れていないと踏んだアギトは、近くで大きな音を出して戦う事にしてみたのだ。スライダーモードではあまり音が出ないため、通常状態へ戻して攻撃しているのはそういう事。

 

 対する邪眼は別の姿へ変わって反撃をすれば平気なのだが、そうすると今度はスライダーモードにされた際の速度へ対処し切れなくなるかバーニングフォームの打たれ強さや怪力に負けてしまう。そう、超変身を駆使した戦いの経験値がない邪眼ではその真価を発揮させる事が出来なかったのだ。

 

「お、おのれ……小癪な真似をぉぉぉぉぉ!」

 

 邪眼が怒りに任せて放った電撃がアギトを直撃する。しかし、それを持ち前の防御力で耐え切ったアギトは感じる痛みを押し殺すようにマシントルネイダーで突撃した。その衝撃で吹き飛ぶ邪眼。アギトがそれに手応えを感じて頷いた瞬間、そこへ一つの存在が近付いてきた。それはアギトが願っていた援軍。そして邪眼にとっては想定外の邪魔者。

 

「ゴウラムさん……本当に来てくれたんだ……」

「な、何だと!?」

 

 両者の視線の先にいるのはゴウラムだった。アギトはクウガが強く思えば来てくれるとの言葉を信じて、助けに来て欲しいと願ったのだ。自分の言葉も理解してくれるとの一点に賭けて。それは邪眼を倒すための最後の一押し。太陽の光をここで浴びる事を目的としていた。

 アギト一人でもやろうと思えばゴウラムがいなくても何とかなる。しかしそれは確実ではない。故にゴウラムの協力を頼んだのだ。そんなアギトの考えを読んだのかゴウラムはそのままの勢いでマシントルネイダーへと接近していく。

 

 それを見てアギトはマシントルネイダーから跳び降りた。するとマシントルネイダーが瞬時にスライダーモードの状態へ変化し、そこへゴウラムが装着される。ゴウラムトルネイダーとなったのを見届けたアギトは邪眼へ向かって走り出した。これから自分の思い描く事を成功させるために。そして自身の偽物を打ち砕くために。

 

「ゴウラムさん、天井を突き破ってください!」

「何をするつもりかしらんがそうはさせんぞっ!」

「はっ!」

 

 アギトの言葉に従って動き出すゴウラムトルネイダー。それへ電撃を放とうとする邪眼だったが、それを阻止するようにアギトが飛び掛かる。その右拳に燃え盛る炎を宿して。それを見た邪眼はペガサスの姿からタイタンの姿へと変わる。その鎧ならばダメージを軽減出来ると踏んだのだろう。

 

「貴様の攻撃など受け止めてくれるわ!」

「ライダーパンチっ!!」

 

 繰り出される紅蓮の鉄拳。それは悪を許さぬ正義の鉄槌。力の二号との異名を持つ仮面ライダー二号のそれと同じ拳が邪眼の体を直撃する。その一撃は何と邪眼の鎧へ亀裂を生じさせた。当然ダメージも殺せるはずもなく邪眼はその場から大きく吹き飛ばさせる。

 一方、アギトの言葉を受けたゴウラムトルネイダーは、加速をつけその角を使って天井へ突撃していた。そう、マシントルネイダーをアギトが操縦せずとも動けるようにする。それが彼がゴウラムの協力を願った理由だった。

 

 ゴウラムトルネイダーは見事に大きな穴を開け、そこへ太陽の光を差し込ませる。アギトは邪眼が立ち上がる前に急いで光の下へ向かうと深く息を吸った。すると、それに呼応するようにその体が太陽の光を浴びて変化を起こす。

 赤く盛り上がった体は弾けるように消え、そこから銀色の体が出現した。それこそアギトの秘めた姿、シャイニングフォーム。それを見た邪眼は微かに息を呑む。かつて邪眼を倒せし者が放っていた光を思い出して。

 

「忌々しい光めっ! また我の邪魔をするのか!」

 

 邪眼の言葉を無視するようにアギトはベルトへと手を回すと、そこから出現したシャイニングカリバーを両手に歩き出した。それを見て邪眼は怒りのままに電撃を放つが、アギトは手にしたシャイニングカリバーで切り払いながら徐々に走り出した。襲い来る攻撃を物ともせず、アギトは邪眼へ迫るとその刃を振り落とした。

 

「はあっ!」

「馬鹿な!? 我が負けるなどと……有り得ん!」

 

 それはシャイニングクラッシュと呼ばれる攻撃。高速で何度も斬撃を叩き込むそれが繰り出され、邪眼を守る鎧全体へ亀裂が走る。それでも邪眼は何とか踏み止まると反撃に右拳を放った。そのパンチをアギトが素早く左手のシャイニングカリバーで払い、お返しとばかりに右足で蹴りを繰り出して邪眼を下がらせるとその場から跳び上がった。

 そこへゴウラムトルネイダーがすかさず回り込み、アギトを乗せると一旦距離を取るように動き出す。その上で構えるアギトの視線の先には彼の紋章が出現していた。その位置は丁度邪眼の真上。準備が完了したアギトに合わせるように体勢を整えた邪眼へ体当たりを敢行するゴウラムトルネイダー。それを受けて宙に叩き上げられた邪眼を待っていたのは同時に跳び上がっていたアギトだった。

 

「なっ?!」

「ライダーキィック!!」

 

 アギトの紋章を通り抜け、空中で邪眼を蹴り飛ばしたアギト。それと同時に邪眼の身を守る鎧が砕け散って激しい爆発を起こす。アギトはその爆発を貫くように床へ着地する。こうしてゴウラムトルネイダーとの連携技を以って邪眼へとどめを刺したアギトだったが、ふと何かに気付いて振り返った。

 そこにはアギトを見つめるはやて達がいた。アギトが邪眼へとどめを刺す瞬間を見ていたらしく、表情は喜びに満ちている。勿論その手はサムズアップを形作っていた。アギトもそれを返すとはやて達へと駆け寄ってその無事を喜んだ。

 

「はやてちゃん無事だったんだね! シグナムさんもシャマルさんも無事でよかった」

「当然や。ところで翔にぃ、それがアギトの最後の姿なんやな?」

「そうだよ。これが俺の切り札」

”カッコイイです!”

 

 ツヴァイがそう言ったのにはやても笑顔で頷き、アギトの全身を改めて見つめた。その力強さに彼女は思わず笑みを浮かべる。それに気付かず、シグナムとシャマルはアギトの姿を見つめ、かつての邪眼を倒した推測が間違っていなかったと感じていた。

 

「確かに光の姿と言えなくもないな」

「ええ、光を放っているみたい」

「ほんまやね……と、ゆっくりしてる暇はなかったわ。急いでなのはちゃんのいる場所へ行かんと」

 

 アギトの輝くような胸部を見つめながらシグナムとシャマルはやや感心する声を漏らす。はやてもその感想には同意したが、今は一刻も早く玉座の間に行かないといけないと思い出して周囲を促した。

 それに頷き返し、アギトはゴウラムトルネイダーへ飛び乗るとはやて達へ乗るように呼びかける。少しでも消耗を抑えようと考えて。それと戦いが終わった際の脱出に備えるためでもある。邪眼との戦いは激戦になる事間違いない。それで疲弊した自分達が確実に脱出するための備えにしようと考えたのだ。

 

 アギトの言葉を受け、はやて達がそれぞれゴウラムトルネイダーへ乗る。ただ安定感や定員を考えて彼女達は座る形だった。すると、そうやって動き出そうとしていたアギト達の横を何かが通り過ぎていく。それはある程度疲れが取れたために飛行魔法を使い出したフェイトだった。それに気付くもアギト達は呼び止める事無くその後を追う。

 

(フェイトちゃん、光太郎さんが心配なんだ。俺も手助けに行かないと!)

 

 既にかなり前を行くフェイトを見つめながらアギトは思いも新たにゴウラムトルネイダーを動かした。向かう先はRXのいる場所。今の自分ならば邪眼に遅れは取らないはず。そう確信してアギトは前を見据える。その先で待つ最後の敵との対決を意識するように……

 

 

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「最早ここまでだな、龍騎」

「くそ……」

 

 床に倒れ込み、鎧から煙を出している龍騎を見下ろし邪眼はそう冷酷に告げた。龍騎は何とか立ち上がろうとするも、もうそんな力もないのかただ床に伏せるのみ。アギトはそんな龍騎を見つめ今にも泣き出しそうな表情を浮かべていた。何度ユニゾンしようと思ったか。何度魔法を使って助けようかと考えたか。しかし、それをしようとする度に龍騎がアギトへ視線を向けたのだ。まだ駄目だ。そんな風に言うように。

 

「真司ぃ……」

 

 掠れる声で呟くアギト。そう、それでもやられてしまっては意味がない。彼女はそう考えながらもどこかで信じている事もある。それは、龍騎ならばここから何か逆転してくれるのではないかとの希望。だからこそ、それに一縷の望みを賭けて見守り続けている。邪眼はそんなアギトの最後の希望を消し去ろうと、その手に一枚のベントカードを取った。それはファイナルベントだった。しかしその瞬間、龍騎が何とか立ち上がり同じくファイナルベントを手にした。

 

「ほう……また相討ちにもっていくつもりか?」

「違う。今度は俺が、俺達が勝つ!」

「真司……?」

 

 龍騎の告げた言葉に疑問符を浮かべるアギトだったが、そこでようやく龍騎が言っていたユニゾンのタイミングを思い出した。そして何故その瞬間を指定したのかも理解してアギトはその顔に希望の輝きを浮かべた。

 

(そうか、そういう事かっ! 分かったよ、真司!)

 

 邪眼はそんなアギトに気付く事もなく馬鹿にするようにファイナルベントを使う。それに呼応して出現する漆黒龍がバイクへと変形していく。それと同時に龍騎もファイナルベントを使用し、ドラグランザーが変形していく。それに乗り込む龍騎。アギトも素早くその肩へと乗った。邪眼はそれにやや怪訝そうな反応を示すが、大した事は出来ないと思ったのか同じようにバイクへと乗り込んだ。

 

「行くぞっ!」

「来いっ!」

 

 同時に走り出す二台のバイク。共にウィリー状態で火炎弾を吐き出しながら進む。だが、その途中で邪眼には信じられない声が響く。互いの距離がもういくらもなく後はぶつかり合うだけとなった時に。

 

「ここだっ!」

 

 龍騎の声にアギトも頷き、二人は同時に叫ぶ。

 

「「ユニゾン・インっ!」」

「なっ!?」

 

 その声と同時に炎に包まれるドラグランザー。アギトの炎熱加速によって速度と攻撃力を増させた状態で突撃するドラグランザーに邪眼は息を呑む。だが、それでもまだ勝ち目はあると踏んだのだろう。そのまま両者はぶつかり合う。それが拮抗したのは僅かな時間だった。ドラグランザーが口を開いて、相手目掛けて再度火炎弾を吐いたのだ。それはアギトが使った轟炎だった。ドラグランザーを龍騎の使うデバイスと見立て、アギトがその口から吐かせたのだ。勿論、それには従来のドラグランザーの火炎弾も加えて。

 

 その強烈な一撃を受けて邪眼側の体勢が乱れた瞬間、龍騎達が押し返すように邪眼を弾き飛ばした。若干威力を相殺される形になりながらも邪眼へダメージを負わせる事に成功した龍騎。彼は邪眼よりも先に立ち上がるとその背に出現した翼を使って空へと飛び上がる。

 それを見た邪眼が負けじと空へ飛び上がるが、もう空中戦でも邪眼に勝ち目は無くなっていた。ファイナルでの衝突に敗れてダメージを負った状態では飛行そのものをアギトに任せている龍騎とは飛行速度が違ったために。しかも邪眼と違い龍騎は攻撃だけへ意識を集中する事が出来る。一人で全てをやろうとする邪眼と二人で力を合わせる龍騎とアギト。その結果は誰が考えても分かろうものだった。

 

「馬鹿なっ! 龍騎が我を上回るなど……っ!」

「たしかに俺だけじゃお前を超えられないかもしれない。でも俺にはアギトが、仲間がいる! だから超えられるんだっ!」

”一人で何でも出来るなんて思ってるお前に、アタシらが負ける訳ねーっ!”

 

 鍔迫り合いの最中、龍騎はアギトと共にそう言い切った。そこへドラグランザーが火炎弾を放って邪眼の気を引く。その隙を見逃さず龍騎が動いた。遂に邪眼の背にある不気味な翼を切り落としたのだ。それに伴い邪眼が床へと落下していく。そして龍騎も追い駆けるように床へと降下した。

 激しい音を立てて地面へ叩き付けられる邪眼と静かに降り立つ龍騎。そこで龍騎は告げた。もう後がないぞと。それを聞いた邪眼はある事に気付いて笑い出した。もう龍騎には自分を倒す手立てはない。ファイナルを使った以上、残る手札はストレンジのみ。それを凌げば勝つのは自分だと思い出したのだ。

 

「後がないのは貴様だ、龍騎。残った一枚で何が出来る! それがファイナルと同じ効果だとしても、それを耐え切れば我の勝ちだっ!」

「……そうかよ。なら、お望み通りにやってやる!」

 

”STRENGE VENT”

 

 邪眼の言葉に応えるように龍騎はストレンジベントを使った。それが一旦読み込まれてから別のベントカードへ変化し再度読み込まれる。

 

”FINAL VENT”

 

 それは邪眼の予想通りサバイブのファイナルベントへ変わった。その効果で再びバイクへと変わるドラグランザーへ乗り込み、発進させる龍騎。その車体が炎に包まれ、邪眼目掛けて突撃する。

 それを見た邪眼はアドベントを使い、漆黒龍を盾として使った。吐き出される火炎弾を邪眼は漆黒龍を盾にして防ぎ、その後の突撃に備える。そんな邪眼のやり方に強い怒りを覚える龍騎とアギト。そして自身と同じような存在を捨て駒に使う邪眼へ怒りを込めるようにドラグランザーも吼える。

 

 更に邪眼は漆黒龍を前へ突き飛ばして、ドラグランザーの勢いを弱めるようにぶつけた。ドラグランザーは踏み潰すようにして漆黒龍を撃破し、怒りと悲しみのまま邪眼へ突撃する。だが、その勢いはやはり衰えていた。それを見てほくそ笑む邪眼。これならば持ち堪えられる。そう感じたのだ。しかし、そんな思いを打ち砕くようにそこへ有り得ない音声が響き渡った。そう、たった一度与えられたチャンス。それを龍騎がものにした瞬間だった。

 

”FINAL VENT”

 

「なんだとっ!?」

 

 それは邪眼が知らない龍騎のもう一つの切り札。ジェイルが託した有り得ないはずのもう一つの龍の牙。通常状態時のファイナルベントがドラグランザーを本来の状態へと変え、龍騎の体が空へと舞い上がる。

 

”行けぇぇっ!”

 

 アギトの魔法による翼が龍騎を押し上げる。異世界にて龍騎士が得た力。アギトの炎とジェイルの爪。それが今結集し、悪夢を砕く力となって邪眼へ叩き込まれようとしていた。

 龍騎の体に巻きつくように動くドラグランザー。それがその体を一瞬だけ隠すと、龍騎は一回転捻りを加えながら蹴りの体勢へと移行していく。その瞬間、龍騎の体を真紅の炎が包み込む。アギトの炎熱加速だ。更にそこへドラグランザーの火球が放たれれば最強の必殺技が完成する。

 

「そんな馬鹿なぁぁぁぁ!!」

「ライダァァァァキィィィック!!」

 

 逃げようとした邪眼よりも速い速度で迫る龍騎が放つはファイヤードラゴンライダーキック。それが見事に邪眼を打ち砕き、爆発させた。龍騎はその爆発に包まれながらも平然と着地する。そして、それが収まるのを見届けて頷いた。すると、そこへ大勢の足音が聞こえてくる。龍騎がそれに気付いて振り向くと、そこにはヴァルキリーズがいた。全員が龍騎の姿を見て何かを悟り、笑みを浮かべながらサムズアップを見せる。

 

「みんな、無事だったんだな」

「ああ、当然だ」

「言ったはずだぞ、姉妹が揃えば負けないとな」

「あたし達にかかれば邪眼の一体ぐらい楽勝だよ!」

 

 サムズアップを返してからの龍騎の言葉にトーレがあっさりと返すと、それに続いてチンクとセインが言葉を紡ぐ。だが、その表情は喜びに満ちていた。今度こそ完全にラボを取り戻したとの想い故にだ。

 

「兄上もご無事で何よりです」

「苦戦していたようですが、兄様なら勝利すると信じてました」

「お怪我はありませんか?」

 

 セッテ、オットー、ディードという真司が教育係をしていた三人が揃ってその傍へ近付き彼の体を心配する。それに龍騎は拳を握ってみせる事で返事とした。その行動に誰もが小さく笑う。その場が和やかな雰囲気に包まれるもすぐにウーノが表情を凛々しくして口を開いた。

 

「少し休んでいたいけど、時間が惜しいわ。ゆりかごへ急ぎましょう」

「真司君、いいわね?」

 

 現状を確認し周囲へそう告げるウーノに続いてドゥーエが龍騎へそう問いかける。それに彼は力強く頷き返す。邪眼との最終決戦を考えれば変身をし直さねばならないが、ゆりかごへ向かうには飛行魔法が必須。ユニゾンは体にかける負担が大きいため、今は現状の状態でゆりかごまで飛び、そこで解除するべきだと考えたのだ。

 

「なら、善は急げッス!」

「行こうぜっ!」

 

 ウェンディとノーヴェが周囲を元気付けるようにそう告げて走り出すと、全員がそれに続けと動き出した。空を飛べない者達は空を飛べる者達が運ぶ事になり、チンクとセインをその腕に抱えて飛行する龍騎。その制御をアギトに任せ、龍騎はこの後待っているだろう戦いへ意識を向ける。

 

(絶対三人も勝ってるはずだ。なら、俺も急がないとな!)

 

 自分の先輩とも言える三人の仮面ライダーの勝利。それを心から信じながら龍騎は空を翔ける。その目に見える巨大な浮遊要塞で待ちうけるだろう戦い。それに必ず勝利してみせるのだと己へ言い聞かせて……

 

 

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「RXパンチ!」

「ふんっ!」

 

 RXパンチと邪眼のパンチが交差する。それが互いへあと少し届かずに止まり、即座に両者が次の攻撃を放つ。同時に放たれた蹴りはぶつかり合い、火花を散らして下ろされた。そこからもう一度拳を繰り出そうとするRXへ邪眼がすかさず電撃を放つ。それがRXの腹部を直撃し、その体を後ろへと飛ばした。床を転がるRX。それを見つめ、邪眼はゆっくりとRXへ近付いていく。蓄積されたダメージからかRXは立ち上がろうとしない。その体を邪眼が足蹴にする。

 

「無様だな、世紀王。所詮、ここまでだったという事だ」

「くっ……」

 

 RXが最初の頃の威勢を無くしたのを見て、邪眼は勝ち誇るように笑う。そして、とどめとばかりに踏みつけていた足を大きく上げて―――一気に落とした。だが、その瞬間RXの体が液体のように変化し邪眼の周囲を駆け巡った。それに戸惑いと驚きを隠せない邪眼。その液状のRXは邪眼の背後へ回った瞬間、実体化してその体を蹴り飛ばした。

 

「トゥア!」

「ぬおっ!?」

 

 体勢を崩す邪眼だったが、何とか踏み止まり即座に振り向いた。そこには青い体の仮面ライダーがいた。邪眼が初めて見る姿となったRXだ。

 

「き、貴様は……」

「俺は、怒りの王子! RXっ! バイオっ! ライダー!」

「バイオライダーだと?!」

「バイオブレードっ!」

 

 邪眼の驚く声を聞きながらバイオライダーはその腕から専用武器であるバイオブレードを出現させた。それを手にして邪眼へ向かっていくバイオライダー。それに対して邪眼は立ち直って電撃を放つ。しかし、あろう事かバイオライダーはそれを手にしたバイオブレードで受け止め、振り払われた電撃のエネルギーが周囲に火花を散らす。

 邪眼はそのバイオライダーの行動に微かに怯む。バイオブレードは電磁波などを受け止める事が出来るため盾としても使える事を悟ったのだ。その邪眼の動揺を見逃さず、バイオライダーは宙へ跳び上がった。それを見た邪眼が迎撃しようと動くもその行動を無駄にさせるようにバイオライダーは両手を交差させて叫ぶ。

 

「バイオアタック!」

「何っ!? ぐぬっ!」

 

 ゲル状となったバイオライダーは放たれた電撃をあっさりと無効化して高速で邪眼へと突撃しその体勢を崩す。更に着地した瞬間、彼は実体化してその手にした刃を構え逆袈裟に斬り上げた。バイオライダーの必殺技であるスパークカッターだ。それが邪眼へ更なるダメージを与えてふらつかせる。ここが好機だと踏んだバイオライダーは素早く姿を変える。鋼鉄の体のロボライダーへと。

 

「ぐっ……貴様ぁ!」

「俺は炎の王子! RX! ロボライダーだっ!」

 

 一度打ち破ったロボライダーに変わった事に疑問を感じる邪眼だったが、好都合とばかりに攻撃をしようとする。だが、ロボライダーはボルティックシューターを邪眼ではなく天井へと向けた。そして邪眼の電撃を耐えながらロボライダーが放った攻撃は見事に天井を破壊する。それと同時にロボライダーがRXへと戻っていく。これまでのダメージが蓄積されたその体へ太陽の光が降り注いだ瞬間、邪眼は目を疑った。

 

「な、何だとっ!?」

 

 RXの体が瞬時に癒えていったのだ。今までのダメージが嘘のように消え、そこには万全な状態に戻ったRXがいた。あまりの出来事に邪眼は言葉がない。そんな邪眼へRXは体中から眩しい輝きを発すると戦闘態勢を取った。その輝きに怯むように後ずさる邪眼。そこへRXの声が放たれた。

 

「太陽の光ある限り、俺は何度でも甦るっ!」

「そんな馬鹿なっ!?」

「罪無き人々を襲い、異世界を混乱と恐怖で支配しようとする邪眼。俺は、絶対に貴様を許さんっ!」

「ほざけっ! 回復しただけで調子に乗るなっ!」

「行くぞっ! トゥア!」

 

 再開する両者の戦い。だが当然ながら回復したRXとは対照的に邪眼は受けたダメージのためか動きが鈍っていた。その影響なのか電撃もどこか最初の頃の凄まじさを失っている。RXはそう感じながら冷静に邪眼の状態を分析していた。

 電撃をかわして邪眼の背後へ下り立つRX。そして、邪眼が振り向く前に後ろ回し蹴りでその体勢を崩した。更に追い撃ちとばかりに再び宙へ舞うRX。するとその姿勢が蹴りの体勢へと移行していく。だが、それは後方宙返りからのRXキックではない。それはかつての自身の必殺技と同じ姿勢。違いは片足ではなく両足での蹴りである事だろう。

 

「ライダーキックっ!!」

 

 故にRXキックとは呼ばない。しかし、以前と違いキングストーンのエネルギーだけではなく太陽エネルギーを加えたその威力はBLACKの頃の比ではない。奇しくもクウガが邪眼へ放ったものと同じ蹴りが邪眼へ炸裂しその体を大きく蹴り飛ばした。堪らず床を転がる邪眼を見ながらRXは着地すると同時に左手をベルト部分であるサンライザーへ回した。そこから出現するは光の杖。邪悪を許さない太陽の輝きを具現化したRXの必殺武器。

 

 それを手にしたRXはリボルケインを回すようにしながら右手へ持ち変えると、体を起こそうとする邪眼へ向かって走り出す。それに気付いて邪眼が電撃を放つ。迫る電撃をRXは転がるように回避する。そこへ追撃の電撃が放たれるもそれを彼は宙へ舞う事で避けながら邪眼へ迫る。

 

「トゥアっ!」

「落ちろっ!」

 

 RXを撃墜するべく放たれる最大威力の電撃。それを見たRXは手にしたリボルケインを投擲する。それが邪眼の腹部へ突き刺さり、その体を跪かせた。同時にRXも電撃で落下させられる。しかし即座に立ち上がったRXは邪眼の腹部へ刺さるリボルケインを手にするために駆け出した。

 リボルケインのエネルギーに苦しみながらも何とかRXを迎撃しようと拳を打ち出す邪眼。その攻撃を前転するように回避しつつRXはリボルケインを掴んで強く突き入れる。それが邪眼の体から火花を吹き出させた。

 

「こ、こんな事が……こんな事がぁぁぁぁ!!」

「邪眼っ! 五万年前、アギトの光に敗れた時点で、貴様は既に滅ぶ事が決まっていたんだ!」

「何故、何故だ……何故我が勝てぬ……不完全とはいえ、光の力さえ取り込んだというのにっ!」

「力に溺れ、どこまでも他者を見下す貴様にアギトの光は味方しない! そして、自分一人で勝つ事が出来ると思い上がった。それが―――貴様の最大の敗因だっ!」

 

 その瞬間邪眼の手がRXの首を掴む。しかしRXはそれを振り払う事もしない。無言で更に強くリボルケインを突き入れるのみだった。それが邪眼の体から抵抗する力を奪っていく。ゆっくりと離れる邪眼の手。そして遂に邪眼からリボルケインが引き抜かれた。全身から火花を噴出させながら邪眼はもがくように消滅に抗おうとする。それを後ろにし、RXは勝利のサインを描いていく。それが終わると同時に邪眼が後ろへ大きく倒れ込み爆発して果てた。

 

 その爆風に身を晒しながらRXは視線を天井に出来た穴へ向けた。先程よりも上昇が遅くなった事を感じてそれを確かめていたのだ。そこから見える空は先程よりも迫る速度が遅くなっており、彼が抱いた予想を裏付けている。

 

「……きっと動力炉を破壊したんだな。これで後は玉座の」

「RXっ!」

 

 現状から事態を把握するRX。そこへ女性の声が聞こえてきた。それに反応したRXが振り向いた先には喜色満面のフェイトがいた。彼女は先程の爆発を聞いてからここへ現れたため、今自分の目の前にRXがいる事でその勝利を理解した故の喜びだ。

 

「フェイトちゃん、無事だったか」

「はい。エリオとキャロもヴィータ達と一緒に動力炉へ向かって、さっき破壊出来たと連絡が」

「そうか。なら、残るは……邪眼の本体だけだ」

 

 フェイトの言葉を聞いたRXはクウガへその旨を教えるべく通信を行いつつ周囲に映るモニターへ視線を向けた。フェイトもそれに倣い、視線をモニターへ向けて彼の言葉へ頷く。アギトははやて達と共にゴウラムトルネイダーで移動していて、龍騎はヴァルキリーズと共にゆりかごへ向かっている。そしてクウガは既になのは達と合流していたからだ。全員が無事健在である事を確かめ安堵する二人。これで全ての戦力が揃うとそう思ってフェイトはそっとRXへ近付いた。

 

「あの、光太郎さん」

「……何だい?」

 

 フェイトの呼び方から何かを察したRXは優しい声を返す。フェイトもそれを理解し笑みを浮かべるが、すぐにやや躊躇うような表情へ変わった。そんなフェイトに小さく笑みを浮かべるRXだったが、それでも黙ってその続きを待つ。

 やがて意を決したフェイトはRXへ抱きついて告げた。絶対に共に帰ろうと。それにRXは驚く事無くフェイトの肩へ手を静かに置いて頷いた。その温もりを嬉しく思いつつ、フェイトは名残惜しそうに離れた。そこにはもう魔導師としてのフェイトが立っていた。

 

「行きましょう、RX」

「ああ!」

 

 二人は揃って走り出す。その光景はお互いにとっては馴染みとなった雰囲気を与える。それを感じながらRXは思う。先程見た中に邪眼はどこにも映っていなかった。そう、邪眼の本体は自分達を待っているのだろうと。

 

(俺達が全員玉座の間に揃うのを待っている。その理由は……何だ?)

 

 その狙いが読めず、RXは困惑しながら走る。何か嫌な予感がするとの不安を振り払うように玉座の間を目指して……

 

 

-6ページ-

 玉座の間でクウガと合流したなのは達はその姿に軽い驚きを見せていた。黒の金のクウガはRXに近い印象を与えたのだ。それについてなのは達が尋ねるとクウガはこう答えた。

 

「これが俺の安心して使える最後の姿なんだ」

「「「安心して?」」」

 

 その言葉になのは以外が疑問符を浮かべる。なのはだけはそれが何を意味するかを理解し納得していた。そして、スバル達へ凄まじき戦士の事を説明する。クウガでさえ制御出来るかどうか不安になる力。それがクウガの本当の最後の姿なのだと。その言葉から三人はその恐ろしさを感覚的に感じ取った。仮面ライダーでさえそれを使う事に不安を抱く力。それは、本当に恐ろしいものだと思えたのだ。そんな三人にクウガは優しい声で告げる。そんな力を使わなくても自分は邪眼に勝てるから大丈夫との自身の想いを。

 

「大丈夫。ここには俺だけじゃなくて三人も仮面ライダーがいる。それにスバルちゃん達だっているしね」

「五代さん……はいっ!」

 

 憧れの人物から頼りにされている。そう感じてスバルは嬉しそうに握り拳を見せた。ティアナもギンガもそんなスバルに笑みを向け、なのはもそんな雰囲気に笑みを零す。そこへレイジングハートからの報告が入った。

 

”マスター、反応がありました”

「っ!? どこ!?」

 

 なのはのその声にクウガ達が雰囲気を変える。戦士のそれへと。そんな空気を感じながらなのははレイジングハートが告げた邪眼の現在位置に驚きを隠せない。それは事もあろうに玉座の間だったのだ。一度は反応がないと言われたにも関らず、そこにいるとの報告になのはは思わず視線を玉座へ向けた。すると、それに呼応するようにそこへ空間の歪みが出現した。次の瞬間にはそこに邪眼が座っていた。クウガはそれに驚きを浮かべるもすぐになのは達を庇うように前へ移動し毅然と構えた。

 

「まぁ待て。今は我にも戦う気はない」

「どういう事よ!」

 

 邪眼の第一声に困惑するなのは達。ティアナだけはそれが何かの作戦ではないかと思い、警戒するように叫んだ。それに邪眼は小さく笑うとこう言い切った。

 

―――絶望を与えるのは、ライダー共が全て揃ったところで始めんとな。

 

 それにクウガ達は納得してしまった。納得してしまったのだ。あまりにも邪眼らしい理由のために。だが、警戒を解く事はしない。いつ攻撃されてもいいように身構え、その視線は邪眼へと注がれていた。同時になのはは腕の中で眠る少女をどうするかと考える。下手な事をしてまた邪眼に利用されると不味い。そう思うなのはへ邪眼が少女の事に気付いてつまらなさそうに告げた。もう利用価値の無い物に用はないと。それを聞いたなのはが反射的に鋭い視線で邪眼を睨みつける。それでも沸き上がる怒りを何とか押し殺して彼女は少女を優しく後ろの方へ下ろした。

 

 しかし、クウガはそんななのはへ少女を連れて一度ゆりかごから出る事を薦めた。それならば何の気兼ねもなく戦えるだろうからだ。だが、それを聞いた邪眼はもうこの部屋から出る事は許さないと告げる。もしそれを破るのなら、いますぐにでもこのゆりかごを墜落させるとも続けて。それにクウガ達が疑問符を浮かべる。今もゆりかごは静かに上昇を続けていたからだ。邪眼はそんなクウガ達の考えを理解し嘲笑うかのように言い放った。

 

「既に聖王は力を失った。にも関らず、どうしてこのゆりかごは浮いていると思う? 我がそのコピーの遺伝子を取り込んでいるからだ。しかし、我がここから消えるだけでこの船は墜落する。動力炉も……先程破壊されたのでな」

 

 邪眼がそう告げるのと同時にそこへRXとフェイトが現れ、玉座に座る邪眼に気付いて警戒しながらクウガ達の方へと近付いていく。しかし、邪眼が少しも攻撃をしてこない事に疑問を抱き、RXはクウガの隣に立つと視線を邪眼へ向けたまま尋ねた。

 

「どういう事だ、クウガ」

「邪眼は俺達が全員揃うまで待つつもりです」

「……そういう事か」

 

 クウガの返事にRXは理解したとばかりに頷いて邪眼を睨む。フェイトも同じ事をなのはから聞かされ、同じように邪眼へ睨みつけるような視線を向けた。この期に及んでまだ自分達を侮っていると感じたからだ。しかし、邪眼の余裕を自分達が壊す事はしない。全員揃ってからの方が戦力的にも確実だからだ。邪眼がどんな策を弄してきたとしてもそれならば勝てる。そう誰もが思っていたのだから。

 

 やがて、そこへアギトとはやて達が現れた。そして同じように邪眼に気付くも誰も攻撃していない事と攻撃されていない事を悟り、不思議に思いながらも警戒しつつクウガ達へと合流する。それぞれが事情を説明される中、フェイトはエリオ達へ念話を使い玉座の間の状況を伝えていく。それから少ししてヴィータ達が現れる。玉座に座る邪眼に目つきを鋭くするも、事前に聞いていたためそのままクウガ達へ合流した。

 

「ご苦労さん、ヴィータ。ザフィーラもお疲れ様や」

「エリオ達が来てくれて助かったぜ。あたし達だけじゃもう少し手こずったからな」

「どういう事?」

 

 はやての言葉に小さく笑みを浮かべるヴィータ。その答えにシャマルが少し不思議そうな声を返す。それに答えたのはザフィーラだった。

 

「ヴィータの突破力をブーストで底上げし、エリオがそのヴィータを背負う形で突撃して破壊力を増させて、やっと動力炉を破壊出来たのだ。最初二人でやった時は傷一つつかなくてな」

「そうか。よくやったな、エリオ、キャロ」

「いえ、お役に立ててよかったです」

「でも、おかげで少し疲れました」

 

 シグナムの言葉に少しだけ嬉しげに答えるエリオとキャロ。そんな二人に笑顔を浮かべる周囲。アギトはクウガとRXへビートチェイサーの近くにゴウラムが待機している事を伝えていた。それに二人は頷き、いざとなった時の脱出手段を考えていく。

 やがてそんな三人の耳に大勢の足音が微かに聞こえてきた。それが何を意味するかを考え、三人は小さく頷き合うとなのは達へ告げる。龍騎達がもうすぐここへ来る事を。それになのは達も頷き返し、気持ちをもう一度引き締め直す。

 

 そして邪眼が通路の方を見つめて小さく呟いた。

 

「来たか……」

 

 それと同時に龍騎がヴァルキリーズとアギトを伴って現れた。その互いの無事を確認し合って喜びを見せる一同だったが、すぐにそれを消して合流すると同時に邪眼に対して構えた。それを見つめ、邪眼はゆっくりと玉座から立ち上がる。待ちに待った瞬間がやってきたと、そう感じながら。

 

「さて、ようやく揃ったか。別れの言葉は交わしたか?」

「そんな必要はない!」

「覚悟しろよ!」

「俺達が揃ったのならっ!」

「もう絶対負けないっ!」

 

 RXが、龍騎が、アギトが、クウガが告げていく言葉に全員が頷き、凛々しいままに邪眼を睨む。それを受け、邪眼は高笑いを上げると一言だけ返した。

 

―――では、絶望の幕を上げるとしよう……

 

 遂に邪眼との最終決戦の時が来た。揃いし四人の仮面ライダーとなのは達を前に、邪眼は少しも動じる事無く立ちはだかる。果たして、邪眼の余裕は一体どこからくるのか? 予言はどのような形で現実となるのか? そう、誰もそれを知らないのだから……

 

 

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次回、邪眼との決戦開始。そして、同時に予言の最後の部分が近付いてきました。

説明
なのは達の勝利に呼応するかの如く、ライダー達も邪眼へ反撃を開始する。ある者は自身の欠点を利用し、またある者は自身の秘めた力を解放する事で。
本物を似せただけの偽物では、強くあろうとする本物には勝てない。それを証明するかのように四人のヒーローは立ち向かうのだった。
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