魔法世界に降り立つ聖剣の主
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9:何事も初めの一歩が肝心だ

 

 

 

 

「いい加減に起きんか!」

 

「ぐぼらぁ!!?」

 

 

突然鳩尾に走った衝撃で目を覚ます。

殴られたと思われる部分を両手で抑えながら絶賛悶絶中の俺は起きて早々気絶しかけるのを何とか堪えてヨロヨロと立ち上がる。

 

見渡せば文字や数字が浮かんだ真っ暗な空間。

そういえばアン婆が持ってた分厚い本の中に入ってたんだっけ。

そんでもって俺はツンデレリアクションをとった親父の見るからに殺傷力十二分な攻撃でオーバーキルされたんだっけ?

となるとさっきの鈍痛の正体は恐らく……

 

 

「いつまで寝ぼけておる気だ。もう一撃見舞われたいか?」

 

「いえ、結構でございますお父様。(^◇^;)」

 

 

やっぱり親父か。自分でノックアウトしておいて何ちゅう言い草だ。ていうかまずはあんな照れ隠しで繰り出すものじゃないような必殺技かましたことに謝ろうよ。

 

ここは一つジト目作戦で親父に謝罪を「死にたいか?」させるわけないじゃないですか〜!何言ってんですかいな!(^◇^;)

 

心を読まれたことにはもうツッコまない。とっくに慣れちゃったよ。

本当にこの国の人ってよく地の文を読みやがるし、その度に脅迫入れて来るから堪ったもんじゃない。

かくいう今現在に於いてもこの心の中の呟きを聞き取られていないか非常に心配だったりする今日この頃でございます。

 

 

「て言うか、何故にガチなストレートかますんだよ?一死んだお袋が見えたぜ。」

 

「馬鹿を言うな。あの程度で死ぬような柔な鍛え方はしておらん。寧ろあれしきで昇天する方が情けないというものだ。」

 

「いやいやいや。次元振動結界で思いっきり殴られて澄まし顔してたら正気疑うわ。」

 

「冥王の鎧の真の力はあれしきではない。お前とて実際にその破壊力を目にしているのだぞ?」

 

 

へ?目にしてるってどこでだよ?心当たりが全く……無いことも無いか。

思い返してみて一番始めに浮かんだのは俺が騎士の道を志す原因となったリモネシアとの戦闘だった。

 

あの時の親父が見せた規格外の殲滅能力。確かにあれはソニックブームとか魔力放出とかで出せる規模の被害じゃなかった。

走れば地面は抉れ、槍を突き出せば鋒に触れる前に敵は跡形も無くなる。

冷静に考えれば生身の身体能力だろうが何重にも施した強化術式の恩恵があろうがあんな風にはならな……なりそうだな、この人の場合は。

 

話を戻そう。

次元振動結界とやらで全身をコーティングしていたならば、足を踏ん張れば地面は普通に砕けるだろうし、鋒に触れたモノを軽くミンチにするくらいの破壊力を付与することだって容易い筈だ。

何と言っても大陸の地震所か時空間すら震わせる程のエネルギーを直接叩き込むのだ。その破壊力は計り知れない。

 

 

「けど、あの時は親父がそんなモノ使ってるようには見えなかったけど。」

 

「当然だ。意図してそのように展開していたのだからな。」

 

 

あれま?何でそんなことを?

気になって訪ねてみると、この能力は今現在に於いても秘匿されている力であるらしく、使用時は必ず不可視の状態になるよう出力用を調節しなければならないのだという。

初めてこの能力を発現させた初代ですらその姿を公に晒したことは無いという辺り徹底している。

 

恐らく初代は、聖王を象徴する能力が聖王の鎧であるという認識を確固たるモノとすべくそういう処置を取ったのだろう。

突然変異したとは言え、冥王の鎧もまた聖王の一族に組み込まれた力の一つ。見た目とか魔力の質とかも当然酷似しているから、人前で使ったら余計な勘繰りを受ける羽目になる。

 

 

「それは分かったけどさ。この能力って今発現させちゃって良いのか?俺って現在進行形でタキオン粒子の扱いで四苦八苦してる所なんだけど?」

 

 

ただでさえ扱い切れてない力がある時に、更に扱いが難しそうな能力を手に入れても正直並行して修行する余裕なんて無いんだけど。

まぁ、そんなことが分からない程この二人は阿呆じゃないから何か理由があるんだろうけどさ。

 

 

「確かに、本来ならばこの力はもう暫し後期に封印を解除する予定だったのですが、例の如く若様が予想外の自体を引き起こされてしまわれたのです。」

 

 

例の如くとは失敬な。俺はいつだって常識を弁えて行動する控えめボーイだぜ?そんな型破りなことなんてした覚えは無いぞ。( *`ω´)

 

 

「この王家の封印は対象のリンカーコアに直接施すものであり、外部から特殊な解除式を打ち込まない限り一切解けることは無いのですが、どうやら若様が光速化の術式を行使する度に肉体だけでなくリンカーコアまでも変質させ、少しずつですが封印術に綻びが生じてしまったことで王家の魔力が漏れ出していたのです。」

 

 

げっ……リンカーコアって確か魔導士が皆持ってる魔力の発生器もしくは変換機みたいな奴だよな。

そんなもんが変質って…何回もフラッシュムーブ使ってたけど大丈夫なのかな俺の身体?

 

 

「それにより、若様は光速化している時のみ自動的に冥王の鎧を発動している状態にあったようなのです。」

 

 

およ?それじゃあもしかして今まで疑問だった「フラッシュムーブ中に空気抵抗云々ででズタズタにならないの何故に?」って疑問の正体はそれか?

 

攻撃に特化しているとはいえ、一応は結界術の一つである冥王の鎧が空気刃から俺の身を守っていたということか。

 

 

「これに関しては我々も如何に応じるべきか決定に難く、今まで保留としてきていたが、既に本来の機能を失いかけている封印術をリンカーコアにかけ続けるのは危険と判断し、此度の儀を執り行うこととなった。」

 

 

まあ言われてもみればご尤もだ。不安定な封印術がいつまでもへばりついていたらリンカーコアがどんな悪影響を受けるか分かったもんじゃない。

 

 

「あれ?それじゃぁさ。一度封印解除してからまた術式を施すのはダメなの?」

 

「普通の人間であったのならばそれも可能だったでしょうが、若様も含め、王家の方々はリンカーコアの出力が非常に高く、未だに活発な活動を始めていない幼児期でなければリンカーコアを傷つけないように注意しながら術をかけることは出来ぬのです。」

 

 

なるほど。つまりは心臓手術みたいなモノというわけだ。

デリケートな内側を傷つけないように手術しようにも、その鼓動があまりにも大きくて手元が狂わないとも限らないから下手に手が出せないって所か。

 

 

「この状態が長く続くのは若様の御身に多大な危険を及ぼし兼ねませぬ。早急に解印の儀に取り掛かりましょう。」

 

「それは分かったけど急ぐんならなんで気絶させられなきゃいけなかったんですかね俺?」

 

 

何だかんだで切羽詰まった状況らしいのに何故にそんな時間を無駄にするような真似をしたんねん。

お前は息子が心配じゃねえのか!みたいな感じで親父をジト目で見てみるが、当の本人は我関せずと言った顔でそっぽを向いてやがった。

この面に一発叩き込んでやりたいと思った俺は絶対に悪くないだろう。

 

 

「いえ、ご当主の行為は必要なことだったのですよ。」

 

「はぁ?(; ̄O ̄)」

 

 

突然訳の分からないことを言われて思わず素っ頓狂な声を挙げてしまった。

仕方ないじゃん?親父の殺す気満々の鉄拳貰ったのが必要なこととか……テメェらは俺を痛めつけて何が楽しいってんだ。

 

 

「若様。今しがた展開された魔方陣が消失していることにお気づきですか?」

 

 

少し呆れたような口調で聞かれたのは気に食わなかったが、俺は素直に自分の身体を流し見てみたが、確かにさっきまで胸に浮かび上がっていた魔法陣が綺麗さっぱり無くなっていた。

 

その箇所をさすってみると、若干の痛みを覚えた。魔法陣が浮かび上がっていた箇所と親父のストレートが炸裂した場所が被っていたのだ。そこで俺はふと気がつく。

 

 

「もしかしてわざわざ親父が冥王の鎧らしきモンで俺をぶん殴ったのは……」

 

「お察しの通り。封印術式の解除には王家の魔力を外部から注ぎ込む必要があったのです。流石に殴ることは無かったでしょうが……」

 

 

小声で付け足したアン婆の言葉を俺は決して聞き逃さなかった。

出来ればもうちょいソフトに頼みたかったよ。あの時は恥ずかしい思いしたとはいえさ。

 

 

「誰も恥じらってなどおらんわ!戯けたことを抜かすでない!」

 

 

例の如く心を読まれ、空手チョップで不可視の足場とキスさせられる俺。

こんな体験にももう慣れたから一撃て意識を手放すなんてことにはならないが痛いことに変わりはない。

 

俺は若干足元がおぼつかない状態でヘロヘロと立ち上がる。あのまま寝てたらまた「起きんか!」とか言われて今度は頭を踏んづけられそうだ。

 

 

「お戯れはそこまでにして下さりませ。儀式を次の段階に移しますぞ?」

 

「分かっている。」

 

「戯れで毎回ノックアウトさせられてたら堪ったもんじゃねえし……」

 

 

俺のぼやきを他所に、アン婆は呪文を唱え始める。

すると、アン婆を中心にして魔法陣が辺り一面に広がり、強い光を放つ。

 

 

「我、王家の記憶と英知を担いし者。法と秩序の番人也。聖王の剣よ、盾よ。盟約に従い血の枷より今こそ汝を放たん。」

 

 

淡々と言葉が紡がれて行く毎に光はその強さを増し、それはやがて一筋の螺旋を描いて俺の周囲を取り囲んでいく。

 

 

「古より伝わりし法の守護者よ、弱き者の盾となれ…世を導く光となれ……。」

 

 

とうとう真っ暗闇な背景が真っ白に染まり出した辺りで、今度は親父が目を瞑りながら詠唱を始める。

 

 

「太陽は万物の為に…そして、王の愛は民の為に……聖域に伝わりし御言の下に参じたまえ。冥王の力よ!!」

 

 

詠唱が終わると同時に、周りに渦巻いていた光の奔流は俺の体内に吸い込まれて行き、周囲は再び闇に沈んだ。

 

始めこそ何が起きたのか分からず困惑するばかりだったが、すぐにそれは驚愕にへと姿を変える。

 

 

「こ、こいつは……!?」

 

 

俺の身体から炎のようにメラメラと揺らめく青い光が溢れ………

 

 

 

 

……………出ない?

 

 

 

 

 

いやいやいや!そこは何か起きようよ!完全に真の力覚醒ムードだったじゃん!ついさっきまでの緊張感返せよ!(´Д` )

親父やアン婆も驚いてる所を見る辺り本格的に予想外のシチュエーションになってるらしい。

 

何か異常が起きたのかもしれないということでアン婆が解析術を俺にかける。

だが、そこでまたも驚くべきことが起きた。

 

何と俺の体を包んだ術式の光が、ガラスが砕けるような音を立てて霧散したのだ。ちなみに俺は自力で解除なんてしちゃいない。

もう何がなんだか。俺を含めた全員が困惑している。

 

 

「解析術式を無意識の内にディスペルした?これはもしや……」

 

 

アン婆が何やらブツブツ言ってるけど多分碌なことじゃないんだろうな〜……親父なんて頭抱えちゃってるし。

 

 

「推測ですが……」

 

 

唐突にアン婆が呟いた事で視線が集まる。

当人は顎に指を添えたまま聖天をじっと見て、そこに映し出されているであろう俺の状態から導き出された結論を言葉にした。

 

 

「恐らく若様は過去に微弱な覚醒を繰り返された為に微弱ながらも冥王の鎧が自動的に発動し続けているのやもしれませぬ。」

 

「何だと!?」

 

 

驚愕の声を上げたのは親父だった。まぁ普通に驚きだよな。常時展開型じゃないのが欠点の冥王の鎧が低出力だけどオートで発動してるんだから。

 

ん?何で俺はこんなに冷静でいられるのかって?そんなの決まってるじゃないか。

 

 

「もう訳が分からねぇからだよコンチクショウ!!」

 

 

 

 

 

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一悶着あったが、結果的には収まった。

 

冥王の鎧に関しては、展開しているのは本当にごく僅かな出力だからとりあえず勝手に魔力が尽きて行くなんてゾッとしないことにはならないそうだが、このままでは一生涯この能力があって無いようなモノになりかねないとのこと。

まぁ、さっきみたいに軽くかけた程度の魔法ならば低出力な時空振動で術式をおじゃんに出来るそうだが、本当にそれくらいのことにしか効果を現さないそうで、少なくとも今のままだと本来の使い方はまず不可能だそうだ。

 

そんな訳で、これからはそっちの修行も積んで能力をコントロール出来るようにするらしい。

その時の親父が「一刻も早く王家の力を御する為だ。明日からの修行は今まで以上に苦難なものとなるだろう。覚悟しておけ。」とか言ってたけど勿論冗談だよね?これ以上厳しくなり用が「何を戯けている?この程度が限度などと思っているならばまだまだよ。」……ジーザス、どうやら俺は明日死ぬらしい。

 

俺は諦め気味にニヒルな笑みを浮かべる。

だってもう笑うしかないんだもの!これ以上修行がキツくなったら普通に死ねるぜ!?断言出来るぜ!!

 

まそりゃぁ親父みたいな騎士になるには確かに死ぬ程努力しなきゃならないのは分かるけどだからって本当に死ぬのは勘弁だ。

だが明日からは最低でも心停止しては蘇生されるを繰り返すくらいの地獄は覚悟していた方が良いだろう。

 

 

 

この時俺は考えてもいなかった。

冗談半分で思ったことが一切合切これっぽっちの誤りも無く現実のモノになろうとは……。

 

 

 

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俺がorzとなる余裕すら無くして気味の悪い笑いを漏らしていると、突然アン婆が俺にさっきとは違い、かなり丁寧かつ高度な術式を行使して俺のバイタルデータらしきものを取ると、本に表示されているであろうデータを眺めながら「ふむふむ」と口漏らしながら頷き始める。

そして少しだけ思案した後親父の方に顔を向ける。

 

 

「ご当主。この際儀式は最後まで行ってしまいましょう。二、三予想外の事態とはなりましたが幸い進行に支障を来たす程の弊害は御座いませぬ。中断してしまうよりかはまだ益があるかと。」

 

「そうだな。中途半端とは言え冥王の鎧は発現しているのだからそれが最善と言えるか……よし分かった。やってくれ。」

 

「は。かしこまりました。」

 

 

また俺を置いてきぼりにして二人が何やらよくわからないことを口走っている。

ここまで来たら何が起ころうが意地でも……もう驚かない。ていうか驚く気力すら湧きそうにない。サプライズイベントの連続コンボで流石にお腹いっぱいです。

 

 

「ではこれより儀式の最終段階、魂の具現化による武具の精製に入りまする。」

 

「魂の具現化?武具?今度は何するわけ?」

 

 

俺の問いに対して親父は視線だけこちらに向けながら解説を入れる。

 

 

「魂の具現化とは読んで字の如く対象の魂を元に強力な魔道具を生み出す術だ。今回はお前の魂を元にデバイスに当たる武具を生み出すのだ。」

 

 

魂をベースにした武器?要するにブ○ーチの斬○刀みたいなもんか?ソレは大層な儀式まで行ってまで作るに値する代物なんだろうか?

 

 

「シオンよ。歴代のインサラウム家当主は皆、この儀式によって生み出した己の分身とも言える武具を持って生涯戦い抜いて来たのだ。私の星槍ディアムドとてこの儀式で生み出したものなのだ。」

 

 

おいおいマジでかよ!?

あの反則突撃槍を作っちまうような儀式だってのか!

確かにあれだけのスペックを持ったデバイスを作れるならば半端なモノはでき用が……否、俺に於いてはそれが適応されるのか?

ただでさえイレギュラーな事態を散々引き起こした上に未だ未熟の域を出ないこの俺が親父のように行くとは思えない。

 

一抹の不安が横切るが、それは目の前に片膝をついて俺の肩に手を置く親父によって掻き消される。

 

 

「案ずるな息子よ。お前は確かに前代未聞と言える事例を多発させた異端児やもしれん。されど、それはお前が他者に劣っている理由にはならぬのだ。寧ろ誇るが良い。我々にすら予測出来ぬ可能性を秘めた己の才覚に。よいな、信じて疑うでない。お前自身の魂を信じるのだ。」

 

 

真っ直ぐな眼差しと力強い言葉を受けて、俺の中の不安はいつの間にやら完全に霧散していた。

 

そうだよな。確かに問題絶賛続発中の俺だけどだからって弱気になることなんて無いよな。

この際これも俺の個性で俺なりの強みなんだって開き直ってしまおう。

 

そう決意して俺は親父の目を見つめ返して大きく頷いた。

親父も満足気に口元を釣り上げて立ち上がると俺に道を開けるように後ずさった。

 

そして俺はその先にいたアン婆に歩み寄り、短く「やってくれ」と断りを入れる。

 

 

「では参りますぞ。」

 

 

再び無言で頷くと、呪文が唱えられる。

 

 

「捧ぐは騎士の意志、振るうは聖なる剣。」

 

 

詠唱が進んで行くと、並行して俺達の足下に巨大な魔法陣が敷かれ、その中にインサラウムの家紋が浮かび上がる。

それが発する光が次第に増して行くのを眺めながら俺はたった今どれ程までに高度で大規模な魔法が行使されているのかを認識した。

 

儀式の場所を一々この情報空間にしたのも恐らくはこれらの術を徹底的に隠しつつ、より確実に成功させたかったのだろう。

魔法の中には空間の状況がほんの少し違っただけで効果が半減してしまうようなデリケートなモノも存在しているという。今アン婆が発動しているのはそういう類の魔法であると判断出来る。

 

そんな思案に耽っていると、俺の体内で何かが湧き上がるような感覚を覚えた。反射的に胸の上に手を重ねる。

触れてみれば、その部位だけがハッキリと分かるほどに熱を帯びており、現在進行形で身体に異変が起きていることを理解した。

 

 

「血肉は鋼に、志は刃に、聖騎士の御魂の下に来たれ…天を突く命よ。汝の主の名は……」

 

 

突然アン婆が詠唱を中断して俺を正面から見据えた。

 

なるほどね。これから一緒に戦ってく相棒を生み出すんだ。他ならぬこの俺が名乗りを上げなきゃならんよな。

 

 

「俺の名はシオン・インサラウム。至高の騎士に至る男だ!」

 

 

これは俺の決意表明。

俺の理想像である人と同じ最高の騎士になること。

 

共に戦場を渡り歩いてく相棒を手にする今日を、一人前の騎士になる道のりの第一歩とするならばここいらで声高らかに目指すモノを宣言してしまおうという俺なりの気合いの入れ方だった。

 

力の篭った俺の言葉に二人は一瞬驚いた顔をしたけど、すぐにその表情を笑みに変えて最後の詠唱に入る。

 

 

 

 

                   太陽は万物の為に

                ソール・ルーケト・オムニブス

 

 

                 そして王の愛は民の為に

             エトカリタ・レーグ・ビーヴト・ポピュラス

 

 

                  愚者の道を歩みし者よ

               ノス・ストルチ・クイアンブラトビア

 

 

                 浄福の光を以て汝を救わん

              ルクエス・セ・ビアテドゥ・アドバドス

 

 

 

 

それは王の在り方を示す言葉。

そして王に弓引く者達に対する警告にして宣戦。

 

その宣言に応えるように俺の胸の中に灯っていたモノは光る球体の姿で体内から外へとすり抜ける。

光は俺の目の前で停滞し、徐々に形を変えて行く。

 

強い光のせいで輪郭がハッキリ見えないのに、俺にはソレが何なのかすぐに理解出来た。

 

本能めいたモノに突き動かされ、眼前の光に手を延ばし、その一端を握り締める。

次の瞬間光は霧散すると同時に今度は俺の身体が光に包まれ、やがて消える。

 

光の殻を破って出て来たのは鞘に収まった無骨な剣。

そして知らぬ間に俺が身に纏っていたのは赤を基調とした装束だった。

 

俺は全身を流し見た後、右手に握った剣に視線を戻す。

機械的な基部を持ち、刀身を隠す黒い鞘を引き抜く。

その中からくすんだ銀色の刃が現れ、それを根元から鋒にかけて手で撫ぜると、名も無き剣は刀身に淡い光を浮かべた。

 

そうして俺はたった今手にした相棒の感触を感じ取って行く。

 

 

(妙な気分だ。初めて握ったのにビックリするくらい手に馴染みやがる。それにこの肌触り……まるでずっと昔から慣れ親しんだような……)

 

 

そこで俺は当たり前かと納得する。

この剣は俺の魂から生み出されたモノ。ならば俺の身体の一部も同然だ。

自分の身体の感触なんだから覚えがあるのは言うまでもないか。

 

俺が一人物思いに浸っていると、親父が俺の側に歩み寄り、俺と剣を相互に見やって一泊間を置いた後、仕事の時とかに見せるいつも以上に凛とした姿勢で告げた。

 

 

「この時を以てお前は騎士の道を歩み始めた。故に新たな名を授けよう。汝が掲げし二つ名は“閃光”剣の名は“聖剣アークライナス”。」

 

 

名を与えられたことに対する感謝の意を示す為、俺はその場に跪いて頭を垂れた。

 

 

「襲名の御恩、痛み入ります。これより我が全霊を以て騎士の道を貫き祖国の剣となる事をここに誓います。」

 

 

こうして騎士としての俺は始まり、ただの子供でいられる時間は終わりを迎えるのだった。

 

 

 

 

 

 

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