未来から来た息子
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 この部屋の主である高校生の時雄は目の前にいる人物を怪訝な表情で見ていた。

「えっと、言ってる事がよくわからなかったんだが、もう一度言ってくれるか?」

「いいよ、父さん」

 先ほどからずっと見せている笑顔を崩さずに彼は答えた。

「僕は智也。この時代から約二十二年後の未来から来た、あなたの息子だよ」

 時雄は眉間を指で押さえた。智也と名乗った彼が冗談ではなく本気で言っているように見えたからだ。

「そんなSFみたいな事を信じろと言われてもな……。いや、目の前であんなブラックホールみたいな穴が空いて中から人が出てきたら、自分の頭を疑うか信じるかの二択しかないが」

「父さんなら信じるって、僕は信じてるよ」

 まったく崩れない智也の笑顔を一瞥してから、時雄はため息をつく。

「その「父さん」っていうのやめてくれ、俺はまだ高校生だ。百歩譲って信じるにしてもだ、もう一つ解せない事がある」

「何かな」

「なんでお前は女装してるんだ」

 そういって時雄は智也の服装に目を向けた。白を基調として各所に大小のフリルやリボンがあしらわれた、いわゆるロリータファッションだ。もちろん、下はスカートである。

「この時代に流行っていたっていう『男の娘』のつもりだけど、変かな?」

「変とかそういう以前に何だよそれ……」

 聞き慣れているはずの言葉が何故か違う意味を持っているように感じられ、時雄は眉間にしわを寄せて智也を睨んだ。智也はきょとんとした表情に変わっている。

「大体おかしいとか思わないのか。女装だぞ、女装」

「男がスカートをはいてもいいじゃない」

 もう一度、眉間を指で押さえる。自称未来人の感性が理解できない。

(しかも悔しい事に似合ってる。最初に見た時、女の子かと勘違いしたじゃないか)

「どうしたの、父さん」

「何でもない」

 再びため息をついた後、改めて智也に目を向けて時雄は問いかける。

「じゃあ、未来から来たというのもその女装もいいとしてだ。お前は何しに来たんだ。俺の顔を見に来ただけとか言わないだろうな」

「それはついでかな。メインの目的はあるよ」

「何なんだ」

「それは――」

 智也が語り始めようとした時、ドアが勢いよく開けられた。

「やっほー! 時雄いる?」

 満面の笑顔で女の子が入ってくる。

「杏! 俺の部屋に入ってくる時にドアを壊す勢いで開けるなって言ってるだろ!」

「ごめんごめん、次から気をつけるから――って、ん?」

 杏と呼ばれた女の子は時雄の注意を受け流しながら、部屋に時雄以外の人物がいる事に気づいた。

「……時雄、この子は誰」

「えっ。あー、こいつは……」

 時雄は言葉に詰まった。彼女に説明するにしても色々と複雑すぎるからだ。未来から来た女装している自分の息子です、なんて容易に信じられない要素のオンパレードを並べたって受け入れてくれるとは思えない。

「まさか、時雄の彼女!?」

「ちげーよ!」

 即座に杏の言葉を否定する時雄だが、当の杏はどうやら時雄の言葉が聞こえなかったらしい。

「へ、へー、時雄にこんな可愛い彼女が出来たんだー。じ、じゃあ、私はお邪魔ね」

「だから違うって言ってるだろ! 少しは人の話を聞けよ!」

「ふふっ」

 二人の様子を黙って見ていた智也が吹き出した。

「どうやら心配しなくても大丈夫だったみたいだね。それじゃ、僕は帰るよ」

 そういいながら智也は二人に向かって笑顔で手を振ると、自分の後ろに突然現れた『穴』に入り込んだ。その直後に穴は急速に縮み、何も無かったかのように消失した。

「……今の、何」

「あー……本当に、なんて説明すればいいんだ」

 三度、眉間を指で押さえる。

「あっ!」

 その直後、時雄は突然声を上げた。

「な、何!?」

(あいつの目的って、結局何だったんだ?)

 

 二十二年後の街中を歩きながら、智也は先ほどまでの出来事を思い出していた。

「いやあ、あの様子だったらまったく問題ないね」

 智也は笑顔のまま手に持っていたジュースを口にする。

「過去の父さんと母さんの仲を進展させろって父さんから言われたけど、別に僕が行かなくても大丈夫だったじゃない。だって今と全然変わってないんだもの」

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即興小説で作成しました。お題「ナウい息子」制限時間「1時間」
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