魔導師シャ・ノワール無印偏 第二十話 プレシア
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「よう・・・待たせたかな?」

 

「もう、死んだかと思ってたわ」

 

ミストラル・ミシィール(魔法弾)で壁をぶち破り。

道を通らずにやっとの思いでプレシア・テスタロッサの元に辿り着いた。

 

プレシア・テスタロッサと俺が居る部屋の床は大きなステンドグラスのような見た目で

床の分厚いガラスから高域次元と黒い影のような虚数空間が見て取れた。

 

ここまでに来るまでに大分時間が掛かってしまった。

 

来るまでに倒した傀儡兵は3桁にも及ぶだろう。

 

だが、準備運動には丁度いいくらいだった。

 

 

 

 

「さてと・・・お仕置きタイムだ」

 

「・・・フンッ」

 

プレシアは、近くに佇ませていたフェイトにそっくりな子供が入っている。

大きなカプセルを自らの後ろへと手を振り。移動させた。

それと同時に俺はブリッツアクションを使用して肉薄するが。

それを見越してだろう。部屋の天井から紫色の無数の小さな雷が落ちてくる。

 

無差別の小規模面制圧魔法の一種だろう。

 

管理局に居るような普通レベルの魔導士なら危険な威力だ。

 

流石は大魔導師プレシア・テスタロッサというところだろう。

 

《ビシャアアアアアアアアアン!》

 

だが、俺にはこれくらい前に食らったものと比べると蚊に刺されたようなものだ。

 

 

「んな!ものがああああああっ!」

「っ!?」

 

未だに体には魔力は十分にあり。バリアジャケットは完全に機能している。

先ほどまで傀儡兵と戦っていた時に使用していた体の魔力ブーストも働いていて。

並大抵の攻撃は意味を成さない。無論、多少はダメージを受けるが。

俺は何事もなかったかのように一直線に接近して

横凪にクローシュを構え。非殺傷設定だが、骨を折るつもりで振るう。

 

 

「ぐっ!」

 

「おまえ・・・」

 

だが、クローシュの刃がプレシア・テスタロッサに届くことはなかった。

 

「・・・うっ!ゴホゴホッ!」

 

寸前のところで異常に気がつき。クローシュをプレシアに当たる寸前で止めていた。

 

咳き込むプレシアの手で押さえた口からは真っ赤な血が顎に伝って床を赤く染める。

 

 

「おまえ・・・もう、長くないんだな」

 

「・・・ええ」

 

 

今まで俺は人の死を身近で見てきた。傭兵団で数えるほどだが、仲間の死を看取ることもあった。

 

全員が全員でなかったが。今のプレシアがするような自分の死を悟ったかのように悲しげで澄ました顔をしていた。

 

 

「だからそんな馬鹿な手段に出たわけか」

 

ジュエルシードの暴走での次元崩壊によるアルハザードへの道...

 

「アルハザードには死者蘇生の秘術があるわ!それに私の体を直す術だって!」

 

「そうか・・もう、世迷言しか言えないか」

 

 

フェイトのことを虐げ。母親だと思わせて置きながら消えろというこの女。

 

いっその事、フェイトの為にも非殺傷設定を解除して殺したほうがいいか?

 

いや・・・今まで虐待をされて来ても。ずっとお母さんが大好きだったフェイトは

優しいフェイト・テスタロッサは母の死を望まないだろう。

むしろ、生きて欲しいと願うはずだ。

 

自分に例え振り向くことがないとしても・・・。

 

 

「一つだけ聞いておきたい」

 

「・・・なにかしら」

 

「お前は本当にフェイトが嫌いだったのか?」

 

「・・・」

 

 

この女はフェイトの事をアリシアの偽者だと大嫌いだと言うが

俺ならどこかの次元世界にでも捨てる。二度と姿を見ないでいいように

 

ジュエルシードなどの回収ならお金さえ出せば俺のような傭兵は幾人も雇えたはずだ。

 

姿が同じで処分が出来なかった?それとも・・・。

 

「別に好きでもなんでもないわ・・・」

 

「その割には間があったな」

 

「五月蝿いわね・・・嫌いなのは本当よ。でも、時々ではあるのだけど

 傍にアリシアが居るように思えて手放せなかった。

 そして、アリシアと違うと思うと無性に苛めてしまうのよ・・・」

 

「それでアルハザードか・・・」

 

「ええ!取り戻すのよ!過去の全てを!」

 

プレシアがこちらへと杖を付きつけたのを見て

後ろへと小さくステップして俺はプレシア・テスタロッサへとクローシュを構える。

 

そんな時に念話が届いた。

 

【終わりですよ。次元震は私が抑えています】

 

落ち着いた口調で響く女の声。管理局の艦長だ。

次元震を抑えるほどとなるとかなりの使い手だろう。

 

 

【暴走させている駆動炉も時機に封印されます。

 貴女の元には執務官が向かっています。

 忘れられし都アルハザード。存在しているかどうかも怪しい唯の伝説です】

 

「違うわ!アルハザードへの道は次元の狭間にある。時間と空間が砕かれた時。

 その狭間に滑落していく輝き・・・道は確かにそこにある!」

 

【随分と分の悪い賭けだわ。貴女はそこに行ってなにをする気ですか?】

 

狸め・・・俺と奴(プレシア)との会話は船を通して聞えていただろうに

恐らくは唯の時間稼ぎ。ということはすぐ近くまで執務官が来ている。もうあまり時間は無いようだ。

 

 

「取り戻すのよ・・・こんなはずじゃなかった・・私とアリシアの全てを!過去と未来を!」

 

こんな筈じゃなかったか・・・。

その言葉で脳裏に薄っすらとぼやけた記憶のノイズが奔る。

 

忘れてしまったほど昔の記憶。

 

幸福で。やっぱり不幸だった前世の記憶....

 

《ドン!》

 

青い閃光が輝き。壁が崩壊し。そして、執務官が現れた。

執務官は頭からは血を流し。流れた血で開けないのか左目を瞑っている。

恐らくここに来る間に俺と同じように傀儡兵と戦ったのだろう。

 

「世界はいつだって・・・こんなはずじゃないことばっかりだよ!

 ずっと昔からいつだって誰だってそうなんだ!

 こんなはずじゃない現実から逃げるか抗うかは個人の自由だ!

 だけど、自分の勝手な悲しみに無関係な人間まで巻き込んでいい権利なんてどこの誰にもありはしない!」

 

随分と説教じみたことを言う執務官だ。こいつも昔、辛いことが・・・。

 

そうこうしている内にも、時の庭園はジュエルシードの暴走でゆっくりと崩落を開始しており。

 

プレシア・テスタロッサからやや離れた場所の天井からは金色の髪の少女とオレンジの髪を靡かせた女性が舞い降りる。

 

「フェイトに・・・アルフか」

 

フェイトの瞳を見ると力強い意思が垣間見える。

あんな事を言った母親に会う決心とは、どれほど必要なのだろう。

 

フェイトはこちらを見つけると頬を緩ませて駆け寄ってきた。

 

「ノワール!」

 

「ああ、言わんでも分かる。行って来いよフェイト」

 

「はいっ!」

 

 

右手にバルディッシュを持ったままゆっくりとプレシア・テスタロッサに向き合った。

 

フェイトは優しい子だ。いくら酷いことを言われても暴力に訴えたりはしないだろう。

 

 

「かあさ「なにをしに来たの?」っ!」

 

 

話しかけたフェイトを冷たく突き放すプレシア・テスタロッサ。

 

「・・・あなたに言いたい事があって来ました」

 

「・・・」

 

「わたしは・・・アリシア・テスタロッサじゃありません。

 あなたが作ったただの人形なのかもしれません。

 だけど、わたしは・・・フェイト・テスタロッサは

 あなたに生み出してもらって、育ててもらった。あなたの娘です!」

 

「・・・フ、フッハハハハハ!アーハッハハハ!!

 だからなに?今更、あなたを娘だと思えとでも言うの?」

 

「あなたがそれを望むのなら・・・それを望むのならわたしは、世界中の

 誰からもどんな出来事からもあなたを守る。わたしはあなたの娘だからじゃない

 あなたがわたしの母さんだから」

 

 

フェイトはプレシアに向かって手を伸ばすが。一瞬だけ目を閉じてから吐き捨てるように言い放つ。

 

「・・・くだらないわ」

 

「・・・」

 

フェイトの気持ちはプレシア・テスラロッサへは伝わらなかったようだったが。

 

「フンッ・・・そこの傭兵」

 

「なんだ?」

 

口から血を流しニヒルに笑いつつプレシア・テスタロッサが急に話しかけてきた。

 

「その人形は私にとってどうでもいい存在よ。だからいらないわ。どこへなりでも連れて行きなさい!」

 

「母さんッ!?」

 

やはり、欠片ほどかもしれないがプレシアはフェイトの事を・・・。

だから俺は答えを吐き出した。

 

「そんなこと知るか。フェイトはフェイトだ

 自分で好きなように生きていくだろ。誰にも縛られず好きなようにな」

 

「ノワール・・・」

 

「フフッ・・・無能でさらに鈍感な傭兵だったわね。貴方は・・・」

 

そう言い終わると。手に持った杖先で床を叩き。

途端に緩やかだった、時の庭園の揺れが地震が直下で起こっているかのように揺れ始めた。

床にヒビが入り。次々と崩落していく。崩落した瓦礫は次元空間に飲み込まれていった。

 

恐らくは、時の庭園に奔らせていた自らの魔力で庭園の基礎を吹き飛ばしたのだろう。

 

「なっ!馬鹿な真似を!」

 

「フハハハ!私は旅立つの!アルハザードにね!」

 

暴走も防がれているジュエルシードから僅かに漏れる魔力と共に次元空間へ落ちるつもりのようだ。

 

【み、みんな!時の庭園が崩れます!は、早く脱出して!】

 

無差別に女の声の念話が飛んでくる。アースラの管制員か。

 

 

「フフッ・・・アリシア・・・」

そうしている間にもカプセルの中にいるフェイトそっくりな子供に寄り添っているプレシアの足元も崩れ始め。

ゆっくりと虚数空間へと飲み込まれていく。

 

「母さん!」

 

「待てッ!」

 

プレシアの後を追おうしたフェイトの腕を掴んで止めようとするが

 

《ガシャン!!》

 

同時に俺とフェイトが居た床も崩れる。

 

 

「フェイトッ!ノワールッ!」

 

慌てたアルフの声を聞きながら。ゆっくりと落ちる体でフェイトの腕を掴み。そして....

 

「生きろッ!」

「えっ?」

 

 

アルフに向かってフェイトを空中で投げ飛ばした。

 

自分の身を犠牲にして....

 

 

 

 

 

 

 

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『あとがき』

 

作者は物語で主人公が死んだりする作品が意外と好きです。

最近はそんな映画などアニメ作品は少ないですけど・・・。

 

 

※読んでくれてありがとうございます!感想などなどはお気軽に!

※誤字脱字などの指摘もどんどんお願いします。

※また誤字脱字や妙な言い回しなど見つけ次第修正しますが特に物語りに大きな影響が無い限り報告等は致しませんのであしからず。

説明
神様などに一切会わずに特典もなくリリカルなのはの世界へ転生した主人公。原作知識を持っていた筈が生まれ育った厳しい環境の為にそのことを忘れてしまい。知らず知らずの内に原作に介入してしまう、そんな魔導師の物語です。 ※物語初頭などはシリアス成分が多めですが物語が進むにつれて皆無に近くなります。 ※またハーレム要素及び男の娘などの要素も含みます。さらにチートなどはありません。 初めて読む方はプロローグからお願いします。
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私は報われないのは大嫌いです(アサシン)
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