真・恋姫†無双RELOAD 第二話「居眠り法師」
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 目覚めてから荒野を歩き数刻後、三蔵は楽進たちの住む村へと到着した。

 

「ただいまー、じっちゃん帰ったでー」

「おお、帰ったか真桜。竹かごは売れたか?」

「ばっちりやでー、ガッポリ稼いできたわ!」

「そうかそうか、それは良かったわい。これで当分凌げそうじゃな」

 

 村まで辿りつくと村長が出迎えた。

 髭を伸ばしたいかにも村長、といった風体をしている。

 村長は一度三蔵を見るとほお、と感嘆の息を漏らした。

 

「私の村に徳の高そうなお坊さんが来るとは……珍しいこともあるものじゃのう」

「少し世話になる予定なのだが……構わないか?」

「いいですとも。歓迎しますぞお坊様」

 

 三蔵の居た時代より数百年は昔であったが、どうやらこのような小さな村にも仏教は布教されているようだ。

 間近で村をグルッと見渡してみるが、目立った建物はなにもない。

 本当になにもない、貧相な村だった。

 

「それでは三蔵法師様、今日は私の家にお泊まり下さい」

「……宿舎はないのか?」

「生憎小さい村でして……流れてくるものもおらずそのような宿などは……」

「ああ、わかった。それで頼む」

 

 あまり贅沢を言える身分でもない。

 無茶な注文をつけて追い出されても構わない。

 

 村長に案内されて家へと通される。

 家は古くさびれており、とても村長の家とは思えない。

 

(まぁ、……無いよりはマシか)

 

 案内された部屋に入ると扉に鍵をかけ、身体をベッドへと投げ出した。

 貧相な家だと言うのにベッドは有る。

 なかなか摩訶不思議な世界だと感じた。

 

(さて、どうするか)

 

 固いベッドに身を沈めて考える。

 

(時を遡ったのか、はたまた別の世界に来てしまったのか……、とりあえずは情報を集めるべきだ。それに……もし今が本当に漢の時代なら妖怪も共存しているはずだが、―――この小さな村じゃなにも分からんな)

 

 妖怪たちが牛魔王によりおかしくなったのはごく最近のことであり、それまで人と妖怪は共存していたのだ。

 であるからして妖怪たちも普通に生活していると思ったのだが……妖気がこの村からは全く感じることが出来ない。

 

 目を瞑り耳を澄ませる。

 部屋の外から村人たちの話し声が聞こえる。

 俺のことを話しているようだ、坊さんがどうとか説法を解いてもらおうとか勝手なことを抜かしている。

 

(とっととこの村を出て長安に向かうか……)

 

 そう心に決め全身から力を抜いた。

 疲労から、意識が底へと沈んでゆく。

 

(その前に……アイツらにも話を聞いておかないと……な………)

 

 

 

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「せやからー、あの人が管輅のゆうてた天の御遣い様やと思うんや。凪も昼前に見たやろ、あのデッカイ流星」

 

 真桜たちは三人で住んでいる家に帰ると荒野で拾った男について話を始めた。

 三人は都へ行って竹かごを売った帰り道で、天から流星を落ちるところをみたのだ。

 

 真昼に落ちた白い流星。

 気になってそこへ向かうとそこには一人の男が眠っていた。

 まっさらな青空と無限に広がる大地の上で、男は呑気に寝そべっていた。

 

 近くまで行って顔を覗き込むと、男性とは思えないほど整った顔をしている。

 金糸の髪の毛は風に揺られ日に照らされ、キラキラと光を放っていた。

 出会ったときに真桜は天の遣いと確信したのだ。

 

 だが、凪はそうは思わなかった。

 

「確かに私も初めはそう思ったが、彼はお坊様だ。仏教は無殺生、真桜も沙和も知っているだろう、彼は乱世を納める存在ではない」

 

 仏教とは仏陀に至るための道であり、倒れそうな国を立てなおす道ではない。

 仏教は国を救わない、仏教が救うのは人の心だけである。

 そのことを知っている凪は彼は天の御遣いではないと判断していた。

 

「でもでもー、真桜ちゃんの言ってることも正しいと思うの―。あの人絶対普通のお坊さんじゃないし、もしかしたら私たちを導く天命なのかもしれないって沙和も思っちゃった」

「むむむ……確かに、放してみると随分と感じの変わったお方だったな」

 

 三蔵法師様は僧侶でありながら汚い言葉を口にしていた。

 …………そんな訳で、凪は変な意味で期待を裏切られていたのだ。

 凪とてそう期待しなかったでもないのだが、少し話してみてこの人を天の遣いと仰ぐにはどうなのかと考えてしまった。

 それは、彼がどうみても破戒僧であったから。

 

「まー確かに凪の言いたいこともわかるんやで、あのにーさんがこれから訪れると言われる乱世を納める存在になるとはどうも思えん。でもな、ウチはにーさんを一目見た時思ったんや。この人は絶対一角の人やないってな」

「あー、それは私も思ったの―」

 

 真桜も沙和も、三蔵の持つカリスマ性に惹かれていた。

 一目見るだけで只者ではないと思わせる風格と態度。

 そして思慮深層な目と纏う法衣の質の高さ。

 彼が天から来たのでないのなら、一体彼はなんなのだ。

 

「…………」

「凪ー」

「凪ちゃーん」

「…………わかった。話を聞いてみよう。これからも義勇軍として活躍するより、どこかへ仕官した方が効率は良いと考えていた。もし彼が本当に天の御遣いなら、彼を私たちの天命と考え彼に仕えよう」

 

 凪は決心する。

 自分の想像とは違ったが、よくわからない魅力を放っていた。

 それを知るためにも、少し話す必要がある。

 

「それじゃ、みんなでにーさんとこ行こうか。村長さんの家にいるんやろし、どうせ暇しとるって」

「よーし、楽しくなってきたねー! 凪ちゃん、真桜ちゃん。早くいくのー」

「さ、沙和。そんなに引っ張らないで……」

 

 三人は立ちあがり三蔵の元へと向かった。

 自分たちの未来を紡ぐために。

 

 

 

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 コンコンコン

 

 扉が短い間隔でノックされる音で目を覚ました。

 身体を起こし扉を見据える。

 

「―――誰だ」

「私たちです」

「…………楽進たちか。入れ」

「失礼します」

 

 ガチャリと扉が開くと三人が部屋に入ってきた。

 顔を見るが、三人ともおちゃらけた雰囲気ではない。

 ―――なにか俺に用事があるのか?

 

「三蔵法師様にお話があって来ました」

「……言ってみろ」

「ハッ。―――あなた様は、天の御遣い様なのでしょうか?」

 

 ―――天の御遣い?

 随分と大層な呼び名だ、朝廷がありながら天を名乗るなど自殺行為にしかならないだろうに。

 

「違う。それは民衆の考えた創作話かなにかか?」

「ちゃうでにーさん。都におる管輅っていう有名な占い師がおってな。ソイツがゆうには乱世を鎮めるために使わされる遣いやと言われとるんよ」

「……乱世だと」

 

 今の時代が良く分からないが、楽進達がいまだ活躍していないと言うなら未だ乱世は起こっていないはずなのだが……。

 

「これから世は乱れる……というより、既に世は乱れております。宦官と外戚たちの内部抗争いより朝廷は腐敗し、もはや満足に機能しておりません。朝廷の権威は失墜し、あらゆるところで農民たちによる反乱が起こっております」

「最近では黄巾党っていう賊たちが村を襲って回ってるのー、私たちの村もなんどか襲撃されて……みんな大変な目にあってるの!」

 

 書で読んだことがある。

 漢王朝が終わったのは黄巾賊による反乱がおこり、各土地の諸侯たちが名を上げることによって群雄割拠の時代になったのが大きな理由だったはずだ。

 この世界でも俺のいた世界と同じ歴史の通り動いているのだろうか。

 

「それで……俺は天の御遣いじゃないんだが、これで話はしまいか」

「でもなにーさん、アンタ流星に乗って落ちて来たんやん? これはどう説明するんや」

「―――流星に乗って落ちただと?」

 

 あまりに信じられない情報で咄嗟にオウム返しをしてしまう。

 ―――流星に乗って落ちた、俺がか? 

 まさか荒野に寝そべっていたのはそれが原因だというのだろうか。

 口を一文字に結び、顎に手をやる。

 

(あの時包まれた風によって俺はこの地に流星として落とされた……?)

 

 だとすれば、元いた場所に帰るためには再びその銅鏡の力を使うしかない。

 だがこの世界にそもそもそんなものがあるのかもわからないし、それを探す手間は天竺に行くよりも困難だろう。

 

 ギリリと奥歯を噛む。

 どうしようもない現実に打ちのめされた気分だった。

 

「なんやにーさん、……顔色悪いで」

「御気分が優れないのでしょうか……でしたらまた日を改めさせていただきますが」

 

「なんでもねぇよ。―――クソ」

 

 ポケットから煙草を取り出し口に含む。

 フィルターを乱暴に噛みしめ、ケースの中に入れていたライターを握りしめる。

 

 ―――チンッ

 

 軽快に開き、火が灯ったのを確認してから口元を寄せ煙草に火をつける。

 一服。

 開いた窓に向けて白い息を吐く。

 灰皿はないので窓から落とすことにして枠に肘を賭けた。

 

「はぁ。――――――……………何見てんだお前ら」

 

 外にやっていた視線を戻すと三人はビックリしたような眼で俺を見ていた。

 

(煙草が珍しいのか?)

 

 だがあまりそういう顔でもないような気がする。

 だとしたらいったい―――、

 

「に、にににににににーさん今なにやったんや!?」

 

 良く喋る関西弁の女が目を丸くして問いかけてきた。

 ……どうって言われてもな、

 

「普通にライターでタバコに火を付けただけだろうが……まさかお前らライターも見たことないのか?」

「ら、らいたー? なんやそれ、まさかそれでいつでもどこでも火ぃがつけられるっちゅーんかいな!?」

「当たり前だろ、これはそう言う機械だ」

「妖術でもなんでもなく、カラクリなんかそれ!?」

 

 ベッドに腰かける三蔵に乗り出してくる李典。

 その迫力に三蔵は少し後退する。

 

「あ、あぁ」

「ウチ一生のお願いや! それウチに見せて―な!」

「……壊すなよ」

 

 大したものでもないので投げて渡す。

 李典は慌てたようにしてワタワタとお手玉した後ライターを観察する。

 

「えーっと、たしかここを上げたら……なんやこの歯車は……ここを回したら火が出るんか……」

「真桜! 今はそんな場合ではないだろう!」

「なに言うてんねん凪! これに構わんで一体何に構えって言うんや!」

「三蔵様に決まっているだろう! さ、三蔵様、このような代物いったいどこで……」

 

(このような代物つってもな……)

 

「俺の居た所じゃ普通に流通していた。そんなもの、子供の小遣いでも手に入る」

「な、なんやて!? ほんまかそれ!」

 

 驚愕する一同にやはりか、と納得する。

 この時代では未だライターの様な文明の機械は作られていないのだろう。

 物珍しいのか何度も火打石を回す李典。

 

(このようすだと……長安に行ったところで何も分からないだろうな。そもそも、寺に入れるかどうかもわからん)

 

 なにも頼ることのできない身に改めて戸惑う。

 なにせ数百年も前の時代だ。

 都だって当然姿を変えているし、その土地の風習もわからない。

 増してや巷には賊が横行していると言う。

 

(随分と楽しい所に送ってくれたじゃないか……あのクソ野郎)

 

 苛立ちを隠さずに遠くを眺める。

 大きな山があり畑が有り荒野があった。

 

 三人の相手をするのも飽きたのでその風景をじっと見ていると……なにやら村よりずっと離れたところに集団らしきものが見えた。

 彼らは総じてなにか棒きれの様な―――刀を持っている。

 官軍かなにかだろうか……それにしては、防具を身につけていない。

 

 疑問に思ったので防具を身につけていない代表として楽進に聞いてみる。

 アイツらは何だ?と。

 楽進は俺の指さす方を眺めるとサッと顔色を変えた。

 

(どうやら、官軍ではなかったみたいだな)

 

 やはり賊だったようだ。

 小さな村であるから見張り番もいるのだが、その高さは大したものではない。

 二回建ての村長の家にいた俺の方が早く見つけてしまったと言うのだから、見張り番は昼寝でもしていたのだろう。

 

「真桜、沙和! 賊だ! 賊が近づいてきてる!」

「ちょ、ホンマかいな!?」

「えええーーーーーーーっ、今すぐ村の人たちに伝えなきゃ!」

「さ、三蔵様はこの部屋でご避難無さっていて下さい!」

 

 三人は飛びだすようにして部屋を飛び出した。

 少しすると村の中で大きく銅鑼が鳴らされる。

 おそらくこれがこの村の賊襲撃の合図なのだろう。

 家の中に居る住民たちは一斉に飛び出し、男性たちは各々農具を握りしめ村長の家の前に集まった。

 

(戦が始まるのか…………)

 

 こちらから確認するに賊は200程度。

 村の住民は300はいそうだが、女子供は戦えないだろう、だいたい戦える農民は百数十ってところである。

 

(……この村、壊滅すんじゃねぇだろうな?)

 

 他人事のようにそう考える三蔵。

 この男は決して他人のために武器を振るわない、振るうのはいつだって自分のため。

 戦う理由を他者に求めたりはしないのだ。

 

(さて、今の内に逃げるか……それとも……)

 

 賊たちは走ってきておりもう数刻もすればこの村に辿りつくだろう。

 窓から階下を見れば、先ほどの三人が村人を奮い立たせ攻勢に出ようとしている。

 ……まぁ見るからにあの三人の力量は村人たちとは違った。

 おそらく彼女らがいればこの襲撃もなんとか切り抜けることが出来るだろう。

 

(―――寝るか)

 

 三蔵は窓枠でタバコの火を押し消し下から聞こえる激をBGMに、横に転がる。

 

(…………なにか忘れているような気が)

 

 外から女性の号令の声が聞こえた。

 

 三蔵の瞼は静かに下りる。

 開戦の幕は、今まさに上がろうとしているのに―――。

 

 

 

説明
調子に乗って三話投稿。


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コメント
kenさん応援ありがとうございます。近々続きをあげますんで是非読んでやって下さい!(karura)
最遊記と恋姫のコラボって、両方大好きなので超うれしいです!頑張ってください!(ken)
筆が乗っていたので一気に書き上げました、次の展開を考えるだけでもう楽しくして仕方ありません。この調子で良いところまでいけたらなー……と思います。あ、誤字指摘ですが場所が分かりませんでした……ごめんなさひ(karura)
更新早いっすねー。……見習おう。さすが我らが三蔵様!薄情というかなんというか。「俺は俺だけの味方だ」でしたっけ?良いっすなー。あ、あと「〜構わない」→「〜敵わない」ですかね?(じゅんwithジュン)
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