恋姫†無双 関羽千里行 第2章 16話
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第2章 16話 ―水関攻略―

 

 

馬超「だ...誰がおもらし女だあああああああああ!!!あいつら、ギッタギタにしてやる!行くぞ、蒲公英!」

 

 そう吠えると、馬超は目にもとまらぬ速さで駆けていく。その光景に一瞬茫然としていた馬岱だったが、事の重大さに意識を取り戻す。

 

馬岱「ちょっと!ってもう門開けちゃってるし!」

 

兵士「どうしましょうか!?馬岱様!」

 

 今馬超が敗走するようなことがあれば、この関を守ることはできない。折角ここまで守り抜いてきたのに、ここで陥落してしまえば今までの戦闘が全て無駄になってしまう。そう考えた馬岱は、

馬岱「しょうがない...私たちも出るよ!手遅れになる前にお義姉さまを連れ戻さないと!」

 

 

 

 

一方、一刀たちはと言うと。こちらもまさか本当にのってくるとは思っていなかったのか、皆一様に呆けた表情を浮かべていた。

 

雪蓮「一刀、あの子来るみたいよ。」

 

一刀「ああ、そうだな。ほら、門が開いたぞ。」

 

雪蓮「そうね。」

 

一刀「うん...」

 

雪蓮「...ねぇ。」

 

一刀「何かな?」

 

雪蓮「馬超って...実は頭弱い?」

 

 少々呆れたといった具合に苦笑いを浮かべる雪蓮。それを見て、

 

一刀「さあ、猪突猛進な所はあるかもね、あはは...って!迎撃しないと!」

 

雪蓮「各隊迎撃態勢をとれ!」

 

 既に部下に指示を飛ばし警戒態勢をとっている雪蓮。

 

一刀「切り替え早いな!こっちも迎撃態勢!それと門に寄せる部隊に通達!敵が釣れたぞ!」

 

 そうして指示を飛ばしているとまだ少し呆けた気持ちが残っているのか、霞がとぼとぼと寄ってきて尋ねた。

 

霞「なあ、一刀。」

 

一刀「なんだい、霞。」

 

霞「馬超はウチの言葉に反応してたやんな?」

 

一刀「そうみたいだね。」

 

霞「だったらウチ、馬超と戦えるんちゃうかな?」

 

一刀「そうなるんじゃないかな。少なくとも、霞を見つけたら真っ先に向かってくると思うよ。」

 

 すると霞はよほど戦えるかもしれないことが嬉しいのか、表情をぱぁっと明るくすると、

 

霞「いよっしゃあああ!やったるで!ウチちょっと前出てくるわ、後は頼んだで、華雄!」

 

華雄「ま、待て!貴様の任務は北郷の護衛だぞ!」

 

 あっという間に戦場の真っただ中に飛び込んでいってしまった。その姿がみるみるうちに小さくなっていく。

 

一刀「行っちゃったね...まあ、あれだけ楽しみにしてたし無理もないかもしれないけど。霞なら状況を見て対応できるだろうし、無茶はしないさ。」

 

華雄「それでは済まされん!くそ、相変わらず速いな...仕方ない。華雄隊はこちらに向かってくる敵を叩き潰すぞ!貴様らの力をこの私に見せてみろ!」

 

華雄隊「応っ!」

 

一刀「はは...華雄も、俺たちは囮なんだから作戦忘れないでね。」

 

華雄「うっ...わかっている!だがここで敵を殲滅してしまえば問題無かろう!」

 

 本当は霞のように敵に向かっていきたかったのだろう。だが今それをしてしまえば作戦を立てた意味がなくなるというものだ。

 

一刀「相手は騎馬隊なんだから、だんだん交代しながら弓部隊と協力して、相手の速度を殺しつつ味方と合流したところで反転して攻撃ってことになってただろ。相手のあの勢いのまま迎撃したら、こっちの被害が大変なことになっちゃうよ。」

 

華雄「しかし...」

 

一刀「しかしも案山子もないの!華雄だってこんなところで慕ってくれる部下の人たちを失いたくないだろ?それに、華雄にもいなくなられちゃったら俺が困っちゃうよ。」

 

華雄「...わかった。少々熱くなりすぎてしまった、すまない。」

 

一刀「うん、頼りにしてるからね。」

 

華雄「ああ、任せておけ!」

 

一刀「(うーん、でもやっぱり霞のことは心配だなぁ...)」

 

 一刀は伝令を呼び、雛里に霞の事を伝えるよう指示し、戦闘態勢に入っていった。

 

 

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 霞は馬超めがけて馬を進めていた。普段は冷静に戦況を把握することができる霞も、一時は自分の戦闘衝動の昂りからか少々思考が狭くなっていたが、いざ飛び出してみると己の行動に対する分析もできるほどに余裕が出てきていた。

 

霞「(うーん、つい勢いで出てきてしもうたけど、やっぱりまずったかなぁ。でも、ここまで来たら馬超をウチが引きつけて、囮部隊の負担を減らすしかないな。)」

 

 そう結論付けた霞は敵軍のまさに一番前を駆けてくる馬の旗を見つけるとそちらに向かっていった。それは馬超にも確認できたようで、

 

馬超「あの紺碧の旗は...さっきあたしを馬鹿にしてくれたやつの1人か!よし、お前たちはそのまま敵部隊に迎え!あいつは私が相手をする!」

 

馬超隊「応っ!」

 

 そうしてお互いが近づき、接触と同時に互いに一閃する。刃と刃の激しくぶつかる甲高い金属音が響き渡り、二人は少し距離をとった位置で立ち止まる。そしてその横を騎馬部隊が次々と通り過ぎていく。そうして全ての騎馬が通り過ぎた後、互いは相手の方へと振り向き、不敵な笑みを浮かべる。

 

馬超「やるな、お前!あたしは漢の忠臣、馬騰が娘、馬孟起!お前は?」

 

霞「知ってるで、錦馬超!ウチは張遼文遠、同じ馬術を扱う者として、アンタには負けられへん!」

 

馬超「上等だ!いっくぜ〜!せいっ、やあっ、はあっ!」

 

 好敵手に巡り合えた武人としての喜びからか、さっきまでの罵倒に対する怒りなど、馬超の頭の中からはすっかり消え去っていた。馬上からその細い体からとは思えない、重く鋭い突きを繰り出していく。そのどれもが、当たれば致命傷を免れないような一撃だ。対する霞もスピードを生かしてその一撃一撃を交わし、反撃の一閃を繰り出していく。その攻撃も、馬超の馬と槍さばきに綺麗にいなされてしまう。

 

馬超「へへっ!その程度の速さじゃあたしたちは捕えられないぜ!」

 

霞「そっちの攻撃もあたってへんけどな!でもウチらの速さはまだまだこんなもんじゃないで!」

 

馬超「そうこなくっちゃな!ならこっちも本気でいかせてもらうぜ!」

 

 通常の立ち合いとは異なり、馬を用いた戦いでは馬との呼吸を合わせることもその勝敗に深く関わってくる。しかし二人の戦闘は、さながら二人と二頭ではなく、二つの生き物が戦っているかのようであった。これも、互いに武将と馬の強固な信頼関係があってこそのものだろう。そこへ、

 

馬岱「お義姉さまー!」

 

 馬岱が馬を駆り部隊を引き連れて近づいてくる。それを霞から視線を外さず確認した馬超は、

 

馬超「遅いぞ、蒲公英!あたしは張遼の相手で忙しい。お前は先行した部隊を援護してやってくれ!」

 

前は向いたまま後ろに向かって声を飛ばす。

 

馬岱「何言ってんの!速く戻らないと連合軍に関を落とされちゃうよ!」

 

馬超「そうだな。あたしはこいつとの決着がついたら戻るから、それまで退路を確保しといてくれ。もちろん、先行したやつらと敵の前線を蹴散らした後でな。」

 

馬岱「もう、この状況でそんなのできっこないじゃん!」

 

馬超「できるとこまででいい。後は生き抜くことを考えろ。ここまで持ちこたえたんだ、最悪、虎牢関まで後退すればいい。責任はあたしがとる。」

 

馬岱「お義姉さま...分かった。みんな、先に行った人たちを援護に行くよ!お義姉さまも無茶はしないでね!」

 

馬超「ああ!」

 

 そう言って馬岱の部隊も先程と同じように二人の隣を駆け抜けていく。そうして馬超も再び目の前の敵に意識を集中し直す。

 

馬超「悪いな、待ってもらって。」

 

霞「ええよ。ウチも対等な勝負がしたかったしな。不意打ちなんて野暮な真似はせぇへんよ。...それじゃ、改めていくで!」

 

馬超「おうっ!我が白銀の剛撃、その身に受けてぶっとびやがれ!っしゃうらぁーーーっ!」

 

 その声とともに二人と二頭はまた2つの生き物となり、互いに刃を交えていく。

 

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雛里「斉射後、槍部隊は吶喊して前曲の部隊と入れ替わり、騎馬隊に攻撃をかけて下さい!」

 

兵士「応っ!」

 

雛里「祭さん!」

 

祭「わかっておる!...よし今じゃ!ってーい!」

 

 無数の矢が雨となって敵騎馬隊に降り注ぐ。その矢をかいくぐってきた騎馬も槍兵たちがいなしていく。

 

雛里「今のところ作戦通りに進んでいますね...思春さんも、うまく回り込んで関にとりつけそうです。」

 

祭「じゃな。あとは愛紗と星がうまく相手を包囲しておるかどうかじゃが...」

 

雛里「いえ、相手を完全に包囲する必要はないんです。逃げ場が無くなればその分敵の兵隊さんは必死になって抵抗しますから。適度に包囲を開けて逃げ道を作っておいた方がこちらの被害も少なくて済みます。」

 

祭「なるほどのう。では儂は霞を迎えに行くとするか。奴にはたんと灸をすえてやらんとな。」

 

雛里「はい、お願いします。」

 

祭「おお、雛里もなかなかのいじめっこじゃの。」

 

雛里「あわわ!しょ、しょういうちゅもりでは...あぅ...」

 

さっきまでの軍師としての冷静な顔はどこへやら、顔を赤くして身悶える雛里。それをみた祭は楽しそうに雛里の頭を帽子の上からわしわしと撫でると、

 

祭「わかっておる。では、行くとするか。黄蓋隊ついてこい!」

 

黄蓋隊「応っ!」

 

 自分の部隊を率いて戦場へ向かっていく。それと入れ替わりに、一刀と華雄の部隊がこちらへと戻ってくる。それを見た雛里も居住まいを正してそれを迎える。

 

一刀「ただいま、雛里!今どんな感じだい?」

 

雛里「お二人ともおかえりなさいです。今、戦況はこちらに有利です。作戦はほぼ成功といっていいでしょう。」

 

一刀「霞の方は?」

 

雛里「今さっき、祭さんの部隊に向かってもらいました。」

 

華雄「しかし、それではここの防備が薄くなりはしないか?」

 

雛里「敵さんの半分は呉軍と袁術軍の方たちが受けてくださっているので大丈夫かと。華雄さんも一息入れたら反転して迎撃に参加して下さい。」

 

華雄「そうか、わかった...くっ。」

 

 華雄は何か気がかりなことがあるのか、少し悔しそうな表情をすると、部隊へと戻って行った。その背中を見つめ、

 

雛里「あの...華雄さんどうかされたんでしょうか?」

 

一刀「うーん、なんか孫策さんと昔何かあったみたいだから...敵の攻撃を半分呉の人たちに受けてもらってるのが気になるんじゃないかなあ...」

 

雛里「はあ...いったい何があったんでしょうか。」

 

一刀「さてね...でも話したくなったら華雄の方から話してくれるさ。それじゃ、俺も向こうに戻るよ。」

 

雛里「はい、いってらっしゃいませ、ご主人様。」

 

一刀「ああ、いってきます!」

 

 そのメイドのようにも聞こえる口調に一瞬クスりとし、俺は前線へと戻って行った。

 

 

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夏侯淵「華琳様、北郷軍と呉軍が馬超の釣り出しに成功したようです。さらに、袁術軍が呉軍に手を貸しているという報告もあり、戦況はこちらに有利です。」

 

曹操「そう。やっぱりそうなったのね。」

 

夏侯淵「我々はどう動きますか?」

 

曹操「そうね、桂花はどう思う?」

 

荀ケ「は。華琳様の他勢力の実力を見極めるという意味ではこのまま静観し、事の成り行きを見守るのが最善かと。馬超の誘引成功と同時に北郷軍の部隊が関の制圧に動いたという報告もありますし、今ここで動いても得られる戦果はないと考えます。」

 

曹操「言えてるわね。では私たちはこのまま待機よ。でも、呉軍と北郷軍の動きには特に注意を払うように。今後、私たちの覇道の障害となる者をこの目に焼き付けておくのよ。」

 

一同「はっ!」

 

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さらに別の場所では...

 

美羽「のう、七乃。」

 

七乃「なんですか?お嬢様。」

 

美羽「雪蓮は大丈夫かの?妾は心配でたまらんのじゃ。」

 

七乃「ほんと、お嬢様は孫策さん好きですねぇ。あんな怖い人のどこがいいんですか?」

 

美羽「むむ。確かに雪蓮は怒るとすんごく怖いが、それは決まって誰かが悪いことをしたときじゃ。悪いことをしたら叱ってやるのは当たり前じゃ。」

 

七乃「まあ、そうですけど...(孫策さんじゃなくて、もっと私に甘えて欲しいのになぁ。)」

 

美羽「何か言ったかの?」

 

七乃「いえ、なんでも~♪まあ、そんなに心配なら、孫策さんを助けに行っちゃえばいいんじゃないですかぁ?」

 

美羽「おお、そうじゃな!よし七乃!全軍出撃じゃ、雪蓮を助けに行くぞ!うははー!」

 

七乃「あらほらさっさー♪じゃ、兵士のみなさんはジャンジャン進軍しちゃってくださ〜い♪」

 

兵士「応っ!」

 

 

 

 

 

伝令「周瑜様!」

 

冥琳「なんだ。」

 

伝令「袁術様の軍が、孫策様のいる部隊に向かっているようです。このままでは我が軍と敵軍を巻き込み混戦状態になる模様です!」

 

冥琳「...はぁ、やはりそうなったか。雪蓮もすっかりなつかれたものだな。」

 

兵士「はぁ。」

 

冥琳「まあ、一応それも織り込み済みだ。いつものことだしな。援護に向かった部隊に道を開けてやるよう伝えてくれ。我が軍はこぼれた敵部隊の相手をする。また、左翼の明命に袁術軍が雪蓮と合流したことを確認したら、敵に横撃を加えるように伝えろ。反対側は北郷軍の連中がうまくやってくれるだろう。」

 

伝令「はっ!」

 

冥琳「どうせこれも七乃の入れ知恵だろう。あとであやつと少し話しをせんとな...」

 

 

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馬岱はというと、少々まずい状況に追い込まれていた。というのも...

 

雪蓮「ほらほらっ!どうしたの?!そんなんじゃお話にもならないわよっ!」

 

馬岱「うー!こんな所で時間とられるわけにはいかないのに...」

 

 丁度先行した部隊に追いついたところを、反転してきた雪蓮に見つかってしまったのであった。武では一歩先を行く武人を前に、形勢はどんどんと悪いものになっていく。

 

雪蓮「こっちは久しぶりなんだから、もっと楽しませて頂戴!」

 

 さらに悪いことに、雪蓮と対峙している馬岱には、雪蓮の後ろから迫りくる砂塵が確認できていた。今あの数に押し寄せられたら、撤退する前に自軍が壊滅してしまうこともありうるだろう。

 

馬岱「(そろそろ後退しないと...)ってえーい!」

 

 馬岱は大きく一振りする構えを見せると、それを防御しようと剣を構えた雪蓮を尻目にとっとと撤退することにした。

 

雪蓮「あーっ、ちょっと!正々堂々私の相手をしなさいよーっ!」

 

馬岱「ふーんだ!伯母さんの相手なんかしてられないもんねっ!じゃあねー!」

 

 片方の目に人差指をあて舌を突き出すと、馬岱はしかれつつある包囲網の中に雛里によって意図的に作られた穴を見つけ、味方を指揮してそこを通過していった。

 

雪蓮「伯母っ!?ちょっと、アンタ待ちなさいっ!誰か馬を!」

 

 そこへ、

 

美羽「しぇ、れーん!」

 

 美羽が袁術軍を率いて駆け寄ってきた。幸い、冥琳の指示と西涼騎馬隊が撤退しつつあったことで、戦場の混乱は免れていたようだった。

 

雪蓮「いいとこに来たじゃない、美羽!悪いんだけど馬を一頭借りるわよ!」

 

美羽「馬?それはかまわぬがどうするのじゃ?」

 

雪蓮「あの鼻もちならないガキんちょを追っかけてぶちのめすのよ!だから早いところ馬を!」

 

 そう言って早く早くと美羽にせがむ孫策を見た七乃は、少し考える素振りを見せてからこう言った。

 

七乃「でも、孫策さん。勝手に突出するとまた冥琳さんに怒られるんじゃないですかぁ?」

 

 冥琳の名前を出されて意気が削がれる雪蓮。そこへ追い打ちをかけるように、

 

雪蓮「うっ!そ、それはいいのよ!いいから馬を...」

 

七乃「でも冥琳さん、孫策さんが囮やるのだって結構しぶってたじゃないですか。その上、また危ないことをしようものなら、それはもう烈火のごとく怒るんじゃないですか?」

 

雪蓮「う...」

 

 だんだんとその勢いをしぼませていく雪蓮。そして、トドメとばかりに、

 

七乃「お嬢様だって、孫策さんが危ない目にあってるかもしれないって急いできたのに、目の前でもっと危ない所に行こうとしてるなんて、嫌ですよね?」

 

美羽「そうじゃな。雪蓮、危ないことはやめてたも。妾からの一生のお願いじゃ。...それでも駄目かの?」

 

 上目使いで、その上ウルウルとした目で雪蓮を見つめる美羽。その姿に、

 

雪蓮「ああーっ、もうっ!わかったわよ!行かないわよ。それでいいんでしょ?」

 

 雪蓮はすっかり戦意を喪失してしまった。そうして美羽が雪蓮に抱きついて喜んでいる影で、

 

七乃「(ホントは孫策さんがいなくなった方が、私的にはいいんですけど...止めなかったら私があとで冥琳さんに殺されちゃうし。まあ、今回のところは半泣きになってる可愛いお嬢様が見れたってとこで良しとしましょうか。)」

 

 そうこぼしつつ、美羽の姿を映す七乃の瞳はキラキラと輝いていた。

 

 

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星「愛紗、どうやら袁術軍が動いたようだな。」

 

愛紗「ふむ。ここで袁術軍が前に出てくるか...そんなことは雛里たちの作戦にはなかったはずだが。」

 

星「まあ、戦場では何が起こるかわからんからな。我ら将にできることは、こういう状況に応じてうまく兵を動かしてやることだ。」

 

 その言葉に、愛紗は心底以外そうに、

 

愛紗「ほう。お前もたまにはまともなことを言うのだな。」

 

星「失敬な。私は北郷軍では一番常識的な人間だと自負しているぞ。」

 

愛紗「どの口が言うんだ、全く...(やはり、お前はこの世界でも変わらないのだな...)」

 

星「ん?何か言ったか?」

 

 そうぼやく愛紗に疑問符を浮かべる星。

 

愛紗「いや、なんでもない。とにかくこれは好機だ。やつらもこちらに援軍がきたと思って動揺するはずだ。この機に我らも攻めるぞ。」

 

星「それには同意だな。だが、私が変人だと思われているなら納得いかん。この戦が終わったらそれは改めさせてもらうぞ。」

 

 憤慨する星に、昔の事を思い出しクスリとしながら愛紗は言った。

 

愛紗「わかった、わかった。酒でもなんでも付き合ってやるから、今は目の前の敵の事に集中するぞ。」

 

星「...愛紗、お主は妖術使いの類か何かか?」

 

 自分の考えを読まれたと思ったのか、星がいぶかしげに尋ねてくる。それに気を良くしたのか、

 

愛紗「ふん。私にしてみれば、南方からきた怪しい数々の品を集めているというお前の方がよっぽど妖術使いらしいぞ。」

 

星「待て、怪しいかどうかはこの際おいておいても、私は愛紗に南方の品を集めているなどと言ったことはないぞ。どこでそれを...」

 

 それは前にたまたま一刀から聞いた事のある話だったが、どうやらこちらでもそんなことをしていたらしい。そこに、

 

伝令「袁術軍、敵部隊と接触!」

 

愛紗「よし!我らの目的は敵を追い返し、関を奪うことだ。皆の者、命を惜しめよ。関羽隊、我が旗に続け!」

 

関羽隊「応っ!」

 

 部隊に向かって声を張り上げる愛紗。その心中では、たまには星をやり込めてみたいというかねてからの思いが叶い、上機嫌になっていた。そうして星の方を見返し、

 

愛紗「行くぞ、星!」

 

星「...ああ!」

 

 疑問符を頭に何個も浮かべているような表情から、瞬時に一軍を率いる将としてそれを引き締める。

 

星「趙雲隊も行くぞっ!関羽隊に後れをとるなよ!」

 

趙雲隊「応っ!」

 

 

 

 

 

 

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 一方、北郷軍前曲では。

 

伝令「報告!呉軍の孫策様が敵将馬岱と交戦!討ち取るまではいかなかったようですが、作戦通り敵部隊を押し返した模様!」

 

一刀「そうか、ありがとう。それなら俺たちも頑張らなくちゃな。」

 

華雄「...」

 

一刀「華雄、どうかしたのかい?」

 

華雄「いや、なんでもない。華雄隊、雑兵どもを蹴散らすぞっ!ついてこい!」

 

華雄隊「応っ!」

 

 その掛け声とともに前線へと駆けだしていく華雄。しかし、この場では自軍と敵軍の勢力はまだ拮抗している状態であった。

 

一刀「華雄!」

 

華雄「どけぇっ!(孫呉の小娘なぞに、遅れをとってなるものか!)」

 

 一刀の叫びもむなしく敵軍を割り裂かんと突出していく華雄であったが、その無茶な行軍により、すぐにその勢いも収まっていく。

 

華雄「ええい、どうした!それでも貴様らは我が軍の兵士か!」

 

 思うように進軍できないことに焦れる華雄。その焦りは周囲への注意を疎かにしていた。そこへ、関の上から華雄の後ろの北郷軍に向かって矢の雨が降り注ぐ。

 

一刀「危ない!」

 

 キィイイン!

 

華雄「!」

 

 まさに華雄の胸中を射ぬこうとしていた矢は、間一髪のところで追いかけてきた一刀の逆刃刀によってはたき落とされていた。一瞬のことにしばし呆然となる華雄。

 

一刀「危なかったね、なんとか落とせてよかったよ。華雄、ここはみんなと足並みを揃えるんだ。一軍で突出するのは無謀だよ。」

 

華雄「ああ...(北郷がいなければ、確実に私は死んでいたな...)」

 

 どこか借りてきた猫のようにおとなしくなる華雄を少し不思議に思いながらも、一刀は別の事を考えていた。

 

一刀「(あの矢、突然軌道が変わって飛んできたみたいだけど...そんなことあるわけないか。)」

 

兵士「報告!包囲に向かっていた関羽様と趙雲様、そして呉軍が両翼から挟撃!敵軍が後退していきます!」

 

 その思考もすぐに戦況把握のために遮られる。

 

一刀「わかった!よし、華雄。一緒に騎馬隊を押し返すぞ!」

 

華雄「ああ!」  

 

 まだ少し呆けたような表情を浮かべていた華雄も、すぐに将としての自覚を取り戻し、自分の部隊に檄を飛ばす。

 

華雄「北郷隊と共に敵を押し返すぞ!我らが主君にこれ以上無様な姿を見られるわけにはいかん!皆、粉骨砕身、敵を踏み潰せ!」

 

華雄隊「応っ!」

 

 自分の失態を悔いる暇は今ない。華雄にできることは付いてきてくれる兵士に檄を飛ばすこと、そして一人でも多くの敵を蹴散らすことだけだった。

 

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 その頃、霞と馬超の一騎打ちにも決着が着こうとしていた。

 

霞「(あかんな...)」

 

 馬上での勝敗は、馬術において一枚上手である馬超に傾きつつあった。

 

霞「(流石は錦馬超と言われるだけはあるで...どうしたもんかなぁ。)」

 

 そうして付け入る好機を探っていたところへ、

 

 ヒュン!

 

馬超「!」

 

 霞の後方から馬超に向かって矢が一矢飛んできた。それをガードした馬超は今まで集中していた目の前の霞から周囲に意識を飛ばす。

 

馬超「(いつのまにか大分押されてんな...蒲公英も退いてるみたいだし、関の方にも敵が詰めてきてる...こりゃ、完全に退路を断たれる前にとっとと撤退するに限るか。)」

 

霞「もろたで!でぇりゃああああああ!」

 

馬超「しまったっ!」

 

 それを見逃さずに打ち込む霞に驚愕し、急いで防御をしようとする馬超。しかし、霞の得物の刃は馬超の首筋を捕え、すんでの所でその動きを止めていた。

 

馬超「...なぜあたしを殺さない?」

 

霞「今のは援護もあって、ウチがずるっこかったからな。また今度、一対一で誰にも邪魔されないところで勝負しようや。それまでにウチも腕をあげておくさかい。」

 

 そう言って武器を収める霞。一瞬きょとんとした馬超であったが、すぐにニタリと笑うと、

 

馬超「そっか。じゃあまた今度だな。でも、次討ち合ったら今あたしを獲らなかったことを後悔するぜ?」

 

霞「そんときはそんときや。じゃ、またな。」

 

馬超「お前も、次に会うまでつまらないとこで死ぬなよ!じゃあな!」

 

霞「アンタもなー!」

 

 そう言って互いの健闘を称え合い、馬超は虎牢関まで引くために撤退していったのであった。それを見送る霞の後ろから、矢を放った人物がやってくる。

 

祭「儂の矢を防ぐとは。馬超とやら、なかなかやるではないか。しかし、行かせてよかったのか?」

 

 状況を察知したそう尋ねる祭に対して、

 

霞「いいんや。それはそうとありがとな、祭。あのままやったらウチはたぶん負けとった。」

 

祭「ふむ。これに懲りたら勝手に動かんことじゃな。まあ、どうせ後で愛紗にこってり絞られて、そんな気はもう起きなくなるじゃろう。おお、怖い怖い。」

 

 自分が普段酒絡みで怒られているのを思い出したのか、祭はおかしそうにしつつも体を震わせていた。

 

霞「あちゃぁ、それを忘れてたわ。ほんなら、その場には一刀もいれて、鬼が出てこられへんようにせんとなぁ。」

 

 そうやっておどけみせる霞であったが、心のうちでは一刀の護衛としての役割を忘れて飛び出してきてしまったことを後悔していたのであった。

 

  その後、北郷軍、呉軍、袁術軍によって連合軍を苦しめてきた水関が攻略されたことが、連合軍全体に知れ渡った。

 

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―あとがき―

 

 読んで下さった方は有難うございました!

 

 というわけで今回は水関攻略戦をお届けしました。今回、登場人物が多くてあっち行ったりこっち行ったりしましたが...わかりにくかったら申し訳ない!それと、思春さんはちゃんと仕事してましたよ?ほんとですよ?どこかの武闘大会の時みたいにいつのまにか消えてたりしませんよ?

 

 そして次回からはあの人がいる虎牢関です。関係ないですけど、某○国無双2の虎牢関にいる誰かさんは殺戮的に強かったですよね...箱壊しまくって矢を集めたのはいい思い出。

 

 それでは、今後もお付き合いいただけるという方は次回もよろしくお願いしますね!

 

説明
恋姫†無双の2次創作、関羽千里行の第16話になります。
それではよろしくお願いします。

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コメント
予想と違ったか、、(qisheng)
軌道が変わった弓矢・・ 外史の修正力でしょうか?華雄が敗北する、という結果を作ろうとしたが、イレギュラーである一刀に防がれたという感じですかねぇ?(Alice.Magic)
かゆうまさんは冷静になれば凄く強いと思うんだ!皆気付いてないけど、漢ルートでマスターア○ア&あ○ご君の二人と渡り合っているんだぞ!?・・・うん、翠はここの外史でも平常運転だな。(きまお)
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