真恋姫†夢想 弓史に一生 第六章 第十話 仁徳の王
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〜○○side〜

 

 

 

「じゃあ、その作戦で行こ〜!!」

 

「桃香様。くれぐれも危険な所に赴かぬように…。分かりましたね?」

 

「も〜!!! 子供じゃないんだから、愛紗ちゃんに言われなくても分かってるよ!!」

 

「お姉ちゃんはドジだからな〜…。何かと心配なのだ。」

 

「鈴々ちゃんまで〜〜……。」

 

 

 

軍全体から笑い声があがる。

 

戦前だというのに何とも閉まらない空気だが、この人らしいと言えばこの人らしい。

 

 

 

生まれは貧しいが良家の血筋で、仁徳を持ち、天下にその名を轟かせるに十分なほどの理想を持つお方。

 

それでいて誰にでも優しく、ちょっと天然で、気配りの出来る主君らしからぬ主君…。

 

それが、私が志を共にしようと誓った主、桃香様なのだ。

 

 

 

「朱里。桃香様を頼んだぞ。」

 

 

 

黒髪の長髪を靡かせながら、愛紗さんは私に、主君であるはずの桃香様のお守りを頼んだ。

 

 

 

「はい!! 桃香様。主君は戦場に於いて、堂々と本陣で味方が帰ってくるのを待っていれば良いんです。愛紗さんや鈴々ちゃんなら大丈夫ですから。」

 

「うん!! でも二人とも、無事に帰ってきてね?」

 

「はっ!! この関雲長、必ずや桃香様にこの戦いの勝利をもたらせて見せましょう!!」

 

「鈴々もがんばるのだ!!」

 

「それではお願いします!!」

 

 

 

作戦通り、愛紗さんたち先陣部隊と、鈴々ちゃんが率いる追加部隊が先に進む。

 

敵は4里ほど先にいる黄巾賊。

 

 

ここ衢地は、交通の要衝で物資の宝庫…。ここを落とすことが出来れば、桃香様の名は一気に天下に知れ渡ることになり、資金や物資などの確保が楽になる。

 

軍師となって初めての戦だけど……雛里ちゃんも居るし、今まで学んで来た事をするだけだ。なんら難しいことは無い…。

 

 

 

「……朱里ちゃん…。」

 

「ん?? どうしたの雛里ちゃん?」

 

「斥候さんの報告で……敵の向こう側、四里くらいの所に別の部隊が居るって…。」

 

「別の部隊!? それって敵の別働隊かな??」

 

「分からないけど…でも、何のために別働隊が…?? まさか……本隊に連絡……とか??」

 

「う〜ん、それはあんまり考えられないかな…。私たちの軍は何処からどう見ても強そうな軍には見えないし…。なら、兵数で上回る向こうが助けを求める意味が分からないよね?」

 

「そうだよね…。とにかく、今は情報が欲しいね。」

 

「細作さんたちにこの事について情報を得てもらおう。幸い、戦場からは離れているから、合流するにしても時間がかかるだろうし…。」

 

「……このことを桃香様には……。」

 

「下手に不安を煽るようなことはしたくないけど……とりあえず知っていて欲しいから、伝えておかないと。」

 

「じゃあ……私、伝えてくるね…。」

 

「ありがとう、雛里ちゃん。」

 

 

 

私の親友、雛里ちゃんは、桃香様の居る本陣に向かって走っていく。

 

その後姿を見つめながら、先ほど彼女が言った言葉を反芻する。

 

 

『敵の向こう側、四里くらいの所に、他の部隊が居る。』

 

 

その部隊がどのような意味を持つ部隊なのか分からない…。

 

別働隊と言うならそれをする理由が見当たらない…。

 

他の諸侯の部隊と言うなら、何故我先に攻め込まない…。

 

賊を討ち、名を上げるために参加したはず……なら、攻め込まない理由が……。

 

まさか、私たちが戦っている所に漁夫の利目当てで参加するというのか……??

 

確かに、それなら傍観している理由も頷ける…。

 

もしそうだと言うなら、私たちの作戦の邪魔になる…。

 

いっその事、こちらから使者を出し、他の所を攻めるように言うべきか…。

 

しかし、この地を選んでやって来たというなら……簡単には退かないだろう…。

 

 

 

「ふぅ〜……。これが、戦場の難しさと言うものなんですね、水鏡先生…。」

 

 

 

軽く弱音を吐いたところで頭を振って考えを纏める。

 

とりあえず、今は謎の部隊が何処の誰であるのかを把握しないことには……。

 

 

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「諸葛亮様!! 報告致します!!」

 

「っ!? どうでしたか!!」

 

「はっ。謎の部隊の旗は赤と白で模様付けされ、金で縁取られた白い十字架とその上に同色で『誠』の文字がありました。」

 

「……『誠』……。」

 

 

そんな旗は聞いた事がない。

 

と言うことは、あれは賊の別働隊?? でも、何のために…。

 

 

「ありがとうございました…。もうしばらく情報を集めて持ってきてもらえませんか?」

 

「了解しました。」

 

 

 

細作の男は敬礼をして去って行った。

 

 

謎の部隊への対処は、相手が動いてからでもどうにかなる。

 

それに、まだ手を出してこないと言うことは様子を見ているのかもしれない。

 

ならば、今は目の前の敵を打ち倒すことだけを考えよう。

 

 

「それでは皆さん!! 作戦を始めてください!!!!」

 

「「「「応っ!!!!!」」」」

 

 

こうして、不安が残ったままではあるが、我が軍の初めての戦闘が始まる。

 

 

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〜聖side〜

 

 

「お頭!! 細作からの報告で……義勇軍が動いたらしいですぜ!!」

 

「動いたか……。さて、どうするのかな??」

 

 

細作の報告では、関の旗が先行し、次いで張の旗が動いたと言う。

 

と言うことは、関羽と張飛が先立って賊に当たるという事だな…。

 

だが、出陣タイミングがずれていることを加味すると……。

 

 

「……どうやら、向こうさんも同じ考えのようだな…。」

 

「同じ考えってことは……峡間に敵を誘い込むってやつか?」

 

「そうだ…。どうやら、劉備の所にもこの辺りの地理に詳しい者が居るらしいな。」

 

「………朱里と雛里が居るかもなのです。」

 

「ん?? その二人の名前は??」

 

「私の妹の諸葛亮と妹の友達の?統ちゃんなのです。」

 

「「何だって!?」」

 

 

橙里のその言葉に俺と一刀が驚く。

 

 

「……あんちゃんたち、知っとると?」

 

「あぁ……天の国では有名人だからな……。」

 

 

 

諸葛孔明、?統士元と言えば、三国志を代表する名軍師たちだ。

 

その智謀の高さ、見識の深さから稀代の天才と認められていたが、初めは誰にも仕えていなかったことで、伏竜・鳳雛と呼ばれていた。

 

そんな二人だが、史実ではその後劉備に仕える。

 

諸葛亮が劉備に仕えた事で、それまで有意に戦いを進めていた曹操は突然苦しめられる。

 

そして劉備は諸葛亮の実力を賞し、自分を魚に例えて水魚の交わりと言った。

 

 

また、?統はその力をして曹操を連環の計に掛け、蜀呉連合に勝利をもたらした。

 

成都攻略時に、落鳳破で命を落としてさえいなければ、天下を取っていたのは劉備だったのかもしれない…。

 

 

しかし、俺の知る三国志では諸葛亮も?統も参軍はもっと後だったはず……。

 

ここが外史だから、多少変化が起きてるということか……。

 

 

「橙里。それは本当の話か?」

 

「多分……そうだと思うのです。」

 

「何でそう思うんだい? 橙里ちゃん。」

 

「妹達と私は、水鏡母さんの所でこの大陸の細かい地形の地図を見せてもらったのです。それに、二人とも仕えるべき主君を見つけたと言って出て行ったと水鏡母さんが言ってたのです。ならば……。」

 

「成程……。仕えるべき主君が劉備であったなら、その可能性は大いにあるということか…。」

 

「そういうことなのです…。」

 

 

天下の諸葛孔明、?統士元ならこの戦を勝ちに導くことはたやすいはずだ…。

 

だが、俺たちの存在で想定外の事態が起こることも…。

 

 

「じゃあ、橙里の妹とその友達の力、しかと見させてもらおうか…。」

 

 

戦場に目を戻すと、劉備軍の先陣と賊の先陣がぶつかる寸前だった。

 

力だけで見れば新兵だらけの劉備軍の方が圧倒的に不利だが、率いている将は月とすっぽん…。

 

戦況を長引かせて、敵を多く引き付けるなら簡単にやってのけるだろう…。

 

 

さぁ、見せてくれ。劉備軍の強さを…。

 

 

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〜関羽side〜

 

 

「勇敢なる戦士達よ!! 我に続けぇぇぇぇぇーー!!!!!!」

 

「「「「「応っ〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」」」」」

 

 

私の号令により、兵達は賊たちに向かって突撃していく。

 

 

兵数差は今のところはそれほど無い。

 

しかし、直ぐに向こうは砦から出てくるであろう…。

 

 

私の役目は、その援軍も含めた賊全軍を砦から引き出すこと。

 

当然、それまで敵と接敵し続けなければならないので、被害は甚大なものになるだろう。

 

しかし、私たちの軍が敗れれば、この作戦自体が無意味なものへと変わる。

 

 

この作戦を成功させ、桃香様の御名を世に知らしめる為に……私が頑張らなくては……。

 

 

「くっ……雑兵と言えど、流石に数の違いがあれば手強いか……っ!!」

 

「関羽様!! このままでは前線が崩れるのも時間の問題です!!」

 

「分かっている!! しかし後方の陣地で戦況を観察している敵を引き出さなくては、意味が無いのだ!!」

 

「しかし……!!」

 

 

賊の数が段々だが増えてきている…。

 

 

「もう少しだけ踏ん張ってくれ!! 頼む!!」

 

「は、はっ!!!」

 

 

マズイな…。兵達が敵の数の多さに怯み始めている。

 

私が……この軍を率いる将である私が鼓舞しなくては……。

 

 

「おい!! こっちに女が居るぞ!!」

 

「おお、上玉じゃねーか!! ぐへへ、野郎共!! ひん剥いちまおうぜ!!」

 

「おうよ!! 姉ちゃんの身体に俺様の槍を―――――」

 

………下朗が…。

 

青龍偃月刀を振りかぶり、一撃の下、賊を真っ二つに切り裂く。

 

 

「ひっ!?」

 

「失せろ!! 下郎に用は無い!!」

 

「………なんだとぉ!! おいっ!! やっちま――――」

 

 

ザシュ!! ドスッ!! ブォン!!

 

 

賊の言葉が終わる前に、男共の首を吹き飛ばしていく。

 

その姿を見て賊共は怯え、震え上がる。

 

 

「おおっ………流石関羽様だ!! これなら俺たちは負けるはずが無い!! 関羽様が居る限り!!」

 

「当然だ!! 我等は中山靖王の末裔、劉玄徳が率いる兵なり!! 餓鬼道に落ちた獣どもに負けるはずが無い!! だからこそ!! 皆、あと少し……あと少しだけ踏ん張ってくれ!!」

 

「「「「応っ!!!!」」」」

 

 

兵達の士気は上がり、賊共を少しずつ押し返す。

 

このまま……このまま相手の後方を引きずり出せれば……。

 

 

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〜諸葛亮side〜

 

 

「愛紗さんが兵士を奮い立たせ、前線は少しですが持ち直してます。」

 

「でも!! このままだと危ないんでしょ!!」

 

「……はい。 予想以上に賊が連れ出せていません…。ですが、今は前線で頑張っている人たちを信じるほかありません。」

 

「そんな……。」

 

 

少人数の敵相手に全軍で畳み掛けてくると思っていた私だが、賊たちはそのようなことをせず、一部の兵がまだ後方の陣に残っている。

 

このことから、別働隊だと思われていた部隊は別の諸侯であろうと推察される。

 

何故なら、もし別働隊ならこの状況で呼び戻さない理由が分からないし、全軍で攻め込むのに離れていては各個撃破される恐れがあるからだ。

 

では、あの諸侯はやはり漁夫の利目当て。

 

この戦で弱った賊を討とうと言う狙いだろう…。

 

 

私はそれをずるいとは言わない。

 

この乱世で効率よく名を上げるためには必要な手であろう。

 

 

 

「……それにしても…遅いですね…。」

 

「どうしたの…? 朱里ちゃん…。」

 

「桃香様は、謎の部隊が賊の向こう側にいると言う話は聞きましたか?」

 

「うん。雛里ちゃんからそう聞いたよ?」

 

「実は、その部隊にむけて細作を放ち情報を得てくるようにしたのですが……彼らの帰りが遅いんです…。」

 

「う〜ん……まだ情報が得られてないとか??」

 

「それも……確かに考え得ることですが……。」

 

 

しかし、それなら情報収集が上手く行かない旨を伝えに来てもいいはず…。

 

 

「じゃあ、朱里ちゃんはどうしてだと思うの?」

 

「私は……どういった手段かは分かりかねますが……放った細作は全て捕らえられたのではないかと思っています。」

 

「捕らえるって!! 細作さん全員を!!?」

 

「はい。」

 

「ほぇぇ〜〜……。そんなことって出来るのかな〜??」

 

「あの軍の細作が優秀で、私たちの細作を見つけるたびに捕らえていったと言うなら分かるのですが……。」

 

 

とは言え、向こうは有名筋ではない諸侯…。そんなところに優秀な細作が居ようものか……。

 

 

「捕らえられたとすると……細作さんたち、ひどい事されてないかな……。」

 

 

……桃香様は変わっている。

 

掴まった細作の身の安否など考える君主が何処にいようか……。

 

これこそがこの人の慈愛。この人の仁徳の証なのだ。

 

 

「今は考えても仕方ありません……。」

 

 

冷たく言い放つようだが、今はしょうがない。

 

目の前の敵に集中できなければ、この戦は直ぐにこちらの負けになるほど事態は逼迫している。

 

何か……何か状況を打開できる手は無いか……。

 

 

 

「お邪魔するぜ。お嬢さん方…。」

 

 

 

聞きなれない男の声が背後から急に聞こえ、びくっと身体が震えると、鳥肌が立つと共に背筋に嫌な汗が浮かぶ。

 

桃香様を見ると、どうやら私と同じようで、仄かに血色ばんでいた顔が、血の気の引いた土色に変わっている。

 

二人して、ゆっくりとしか動かない顔をぎこちなく動かし後ろを見ると、見たことのない服の上に浅葱色の羽織を着た男が、にこやかな笑顔を浮かべて立っていた。

 

しかし顔は笑っていても、その男の目だけは何かを見通すように、冷たく残忍な目をしていた。

 

 

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後書きです。

 

 

今話からは劉備軍の皆さんが登場です。

 

 

人が増えてくると書き分けが大変ですね………。

 

なるべく原作を意識しながら言葉選びはしているんですが……いやはや……。

 

もし、違和感を感じる人がいればアドバイス戴けると幸いです。

 

 

 

さて、劉備軍の本陣に急に出現した聖の目的とは……??

 

次話をお楽しみに!!

 

次話はまた日曜日に上げます!!

説明
どうも、作者のkikkomanです。

第六章第十話の投稿になります。
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コメント
>将軍さん コメントありがとうございます。 おっと……投コメでネタバレが……。でも、皆さん分かってますよね?? (kikkoman)
謎の男は聖なのか!? 次話が楽しみだな(将軍)
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