袁紹・袁術伝 袁家の血筋は争えない 後編
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「一体、何ですの? この行列は……」

「だから、それを調べる為にこうして後をつけてるんじゃないですかー」

「二人とも静かにしてよぉ……」

 一刀達は村人の後に続いて、夜の村を歩いていた。村人達は特に騒ぐでもなく黙るでもなく、皆普通に歩いている。

「見たところ、みんな普通っぽいんだけどなぁ」

「ねぇねぇアニキ」

「ん?」

「あのじーちゃん、昼に会ったじーちゃんじゃない?」

 猪々子が指差す方を見れば、確かに昼に会った老人だ。

「よし、ちょっと聞いてみよう」

「あ、あたいも一緒に」

 一刀と猪々子は列から離れ、老人の方へと駆け寄る。「すいません」と声を掛けると、老人は「ああ」と頷いた。

「これは昼間の皆様。やはり来られましたか」

「やはり?」

「ええ。最近この村に来た方は、ほとんどがこの列に加わりますからな」

 最近この村に来たというのは、恐らく桃香が派遣した兵士達だろう。

「この列は何なんです?」

「それは見てからのお楽しみ───おや、聞こえてきましたな」

「?」

 耳を澄ますと、確かに音楽らしきものが聞こえてくる。弦楽器───二胡の音だ。

「ほれ、皆様も急ぎませんと、いい席が無くなりますぞ?」

「え、あ、ちょっと!」

 老人は意外なほどの早足で先に行ってしまった。見れば、他の村人達も音楽が聞こえた瞬間に早足になっている。

「ご主人様、これは……」

「一体、どうした事ですの?」

 一刀に追いついた斗詩と麗羽が首を傾げる。

「分からないけど───とにかく行ってみよう」

 

 こっそりと村人達の後をつけ、ついたのは村の外れ。古い廃寺だった。

 その前が村人達が集まっている。数から言えば、村の人間のほぼ全てがここにいると思っていいだろう。

 二胡の音は、その廃寺の中から聞こえている。

「これは何なんでしょう? この村の風習───儀式みたいなものでしょうか?」

「うーん。そういうものの割には、村の人たちの顔が期待に溢れてるって言うか何て言うか……」

「そうですか? わたくしには、みなさん貧乏そうなお顔って以外何も感じませんわよ?」

「そりゃ麗羽様くらい鈍けりゃ何も感じませんよ───って、いひゃい! いひゃいれふよ、れひははま〜!!」

「こ・の・く・ち・がっ! この口がそういう事を言うんですの!? 言うんですの!?」

 怒りに頬を紅潮させて猪々子の頬をぐにーっと引っ張る麗羽。

「おい、お前ら、いい加減に───」

 一刀がいいかけた瞬間、二胡の音が止んだ。

 はっとして廃寺を見る。

 と、その扉がぎぃっと音を立てて開いた。

 そして表れたのは───

 

「おーっほっほっほ。皆の者、今日もよく来てくれたの♪」

 

「み、美羽さんっ!?」

 驚く麗羽に、一刀も表れた少女の事を思い出した。

 反董卓連盟の時に同じ陣営にいた袁術だ。そして、その後ろから二胡を持って表れたのは、確か張勲という袁術軍の重鎮だ。

 二人は孫策に領地を奪われてから、蜀領の小さな城を奪い、そしてすぐに攻め込まれて逃げ出し、今は行方知れずとなっていたはず。

「ど、どうして美羽さんがこんな所にいるんですの!?」

「あたいらに聞かれても分かりませんってば〜」

「まさか、今度はこの村を足がかりに勢力を復活しようとしてるんじゃ……」

 困惑する麗羽達三人にはまるで気付かず、美羽は上機嫌で村人達に話し掛ける。

「今日も妾が皆の者を楽しませてやるのじゃ。とくと楽しんでいくがよいぞー?」

 美羽は背後に控える七乃に合図を送る。七乃は「はーい♪」とうなずき、二胡を奏で始めた。

「♪〜〜〜〜〜」

「おおっ……」

 一刀は美羽の歌に、素直に感心した。

 鈴を転がすような声と言えばいいのか。小さな少女が歌っているというだけでもかなりポイントが高いのに、可愛らしい声と見事な抑揚で歌い上げる様は人の心を揺さぶるものがある。どこか神々しいものすら感じるくらいだ。

 目を閉じて歌に聞きほれる者、手を振って声援を送る者、隣の老夫婦などは涙を浮かべて手を合わせて拝んでいる。

「♪〜〜〜───ふぅ。おしまいじゃ。妾の歌はどうじゃったかの?」

 小首を傾げて言う美羽に村人は拍手喝采。

 と、一刀は近くに先ほどの老人を見つけた。

「おじいちゃん、こんばんわ」

「おお、先ほどの。いかがです? 良い歌でしょう?」

「ええ……でも、これは一体?」

「あの子達は村の英雄なんじゃ」

「英雄?」

「うむ。もう何日くらいになるかのう。この村で悪さしとった兵隊くずれのチンピラをあの二人が退治してくれてたんじゃ。しかも村を救ってくれただけでなく歌も上手いというので、今では村の住人全員があの子達を応援しとるんじゃよ」

 つまり、これが夜になると住人が忽然と消える秘密なんだろう。

 一刀が老人に礼を言って戻ると、舞台の上の美羽は満足げに聴衆を見回し、

「うむうむ! 皆が喜んでくれて何よりじゃ。ではでは今日は特別にもっと歌ってあげようかの? 七乃、もう一曲じゃ」

「は〜い。おひねりは忘れないで下さいね〜。それじゃ、いっきますよ〜」

「♪〜〜〜〜〜」

「上手いもんだなぁ。成都にだって、あれくらいの歌手はそういないぞ」

「…………」

 美羽の歌に聞きほれている一刀だったが、麗羽はむすっとして黙っている。

「どうしたんだ、麗羽?」

「何でもありませんわっ!」

「何で怒られないといけないんだよ……」

「あー……アニキ、ちょいちょい」

 猪々子に袖を引っ張られ、麗羽と距離を取る。

「ダメだよ、アニキ。今の麗羽様に声掛けちゃ」

「どうして?」

「みんなが美羽さんの歌に感動してるのが気に入らないんですよ」

「は?」

「わっかんないかな〜? あの目立ちたがりの麗羽様が、自分以外の奴が目立ちまくってるのを見てヘソを曲げないはずないじゃんかー」

「しかも、目立ってるのが美羽様だもんね〜……」

「二人って仲が悪いの?」

「悪くはない───とは思うけど……」

「まぁ、麗羽様にしてみれば、美羽様は妹みたいなものですから……」

「姉として妹が目立ってるって事が余計に気に入らないって事か……ったく、子供かよ……」

「あはははは……」

 困り顔で乾いた笑いの斗詩。と、猪々子が慌てた声を上げた。

「ちょっ、麗羽様がいないよ!?」

「え、ウソ! ど、どこに行ったの!?」

「ええぃ! どこまでも面倒かけやがって……!」

 麗羽を探して辺りを見回す三人。

「あ〜〜〜〜〜〜っ!!」

「猪々子、見つけたか!?」

「あ、あそこ……!」

 猪々子が指差した方を見れば、廃寺の前に進み出る金髪頭。

「ありがとうなのじゃー。ありがとうなの───じゃ……?」

 歌を終えて村人に手を振っていた美羽の動きがぴたっと止まる。その視線は、目前に現れた金髪頭に向けられていた。

 

「おーっほっほっほ! お久しぶりですわね、美羽さん」

 

「にょ───にょおおおおおおおっ!? れれれれれ麗羽姉さま!?」

 

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「ななななな七乃!! どうして、麗羽姉さまがこんなところにいるのじゃっ!?」

「わたしにだって分かりませんよぉ……」

「そんな事はどうでもいいのです! 美羽さん、あなたこんな所で何をしてらっしゃるの!?」

「な、何って……歌を歌って……その、路銀を……」

「あなた……それでも袁家の人間ですの? そんな大道芸で庶人からお金を恵んでもらうとは、恥を知りなさい! しかも、そんなにちやほやされてっ!」

 最後の辺りに本音を覗かせたりしてる麗羽にびしぃっと指を突きつけられて、美羽は言葉に詰まる。その後ろで七乃が非難の声を上げる。

「そんな事言っても、お金を稼がないと生きていけないんですよ〜? どこかの誰かのように、自分が滅ぼした相手に泣きついてタダでご飯を食べさせてもらってる甲斐性無しの自堕落さんとお嬢様は違うんですから!」

「だ、誰が『甲斐性無しの自堕落さん』ですの!?」

「あれ〜? お心当たりでも? わたしは誰の名前も言ってませんよ〜?」

「くっ!!」

 

「あ〜……あたいもちょっと張勲に賛成かも……」

「耳が痛いよ……」

 麗羽を追いかけて村人を掻き分けつつ、猪々子と斗詩はがっくりうなだれる。

「ま、まぁ、猪々子も斗詩も愛紗達を色々手伝ってくれてるから……」

「つっても、肝心の麗羽様が……」

「何もしないのが一番の貢献って言われてるくらいだもんね……」

「それはまぁ……否定はしないけど……」

 

「どういう事じゃ、七乃?」

 未だ麗羽が冀州を治めていると思っている美羽は、麗羽がどうしてうろたえているのか分からず七乃に問う。

「えっとですね〜、わたし達が孫策さんに国を追い出された後、袁紹さんは公孫賛さんの国を奪ったりとブイブイ言わせてたんですけど、その後曹操さんにぼかーんと負けちゃったんです」

「何とっ!?」

「まままま負けた訳ではありませんわっ! ちょっと───そう、ちょっと油断をして、そこをあの小憎らしいくるくる小娘が卑怯な手で───」

「それを負けたって言うんですよ〜?」

「ぐっ……!」

「で、国を追われた袁紹さんは、蜀に仕えていた公孫賛さんに泣きついて、蜀のご厄介になってるという訳なんです」

「何と……自分が滅ぼした相手に情けをかけてもらうとはの……」

「誰が伯珪さんを頼ったというんですの! わたくしはどうしてもと請われて力をお貸ししているんですわっ!」

「力をお貸しして───何をしてるんです……?」

「そ、それは……け、競馬とかおみこしとかむねむね団とか……?」

「はぁ? 麗羽姉さま、それは何のお仕事なのです?」

「お、お仕事と言うか……」

「何だか、ただ遊んでるだけみたいですね〜。そんな人に恥を知れとか言われるなんて、お嬢様かわいそう」

 そう言って、七乃は芝居がかった仕草で目頭を押さえる。

「ああ、七乃! 泣くではない!」

 信頼する部下の涙に、美羽も半べそで駆け寄る。

「七乃が泣くと妾も泣いてしまうぞ!? 泣いてはダメなのじゃ! だから───泣いて……泣いちゃ……うっ……ひくっ……」

「ちょ……み、美羽さん?」

 

「うわ〜〜〜〜〜〜〜んっ!!」

 

「え、あの、ちょっと……」

「お嬢様! 泣かないで下さい! 幾らあの意地悪さが無駄に大きなおっぱいに一杯詰まってるような人にお嬢様が悪口を言われたからといって、わたしが泣いてしまったのが悪いんですから」

「違うぞ、七乃よ! お前は悪くないのじゃ! みーんな、あのぐるぐるでパーなお姉さまが悪いのじゃ。だから泣きやんで欲しいのじゃ。そうじゃないと妾も、妾も泣いてしまうのじゃ〜!」

「お嬢様〜!」

 ひしっと抱き合う二人に、村人達も貰い泣き。そして、その感情は怒りに代わって矛先を麗羽に向ける。

「ふざけんな、このぐるぐる金髪頭!!」

「ワシらの美羽ちゃんと七乃ちゃんを泣かせおって!! 引っ込め引っ込め!!」

「そうだそうだ!! この村から出て行け!!」

「な、何ですって〜〜〜〜っ!!」

 遠慮の無い村人の罵詈雑言に、麗羽は顔を真っ赤にして大激怒。

「このわたくしにそんな事を言ってただで済むと思ってますの!? 一刀さん! 猪々子! 斗詩! どこにいますの!?」

「すいませんっ! ちょっと通して!」

「はいはーい、どいてどいてー。あ、コラ! あたいの斗詩に触んなよ!」

「れ、麗羽様〜、ここです〜」

 どうにか村人を押しのけ現れた一刀達。麗羽は八つ当たりのようの喚き散らす。

「あなた達! 主人であるわたくしがこんないわれの無い誹謗中傷を受けてますのに、どこで何をしていたんですのっ!?」

「勝手にどんどん出て行ったのは麗羽様じゃないっすかー」

「そうですよ〜。止めたのに、一人で行っちゃうんですもん」

「と言うか、俺が上司で麗羽は部下なんだが……」

 三人は口々に不満を言う。弱冠、一刀だけ方向性は違うのだが。しかし麗羽はそんな事お構いなしだ。

「黙らっしゃい! そんなところに突っ立ってないで、あの腹黒女にちゃんと反論なさい!!」

「反論っても、張勲の言ってることそのまんまじゃないですかー」

「麗羽様が仕事してないのは事実だもんね〜」

「邪魔はしてるんだけどな、邪魔は」

「あ・な・た・た・ち〜〜〜〜〜っ!!」

 身内からも非難を浴び、麗羽は怒り心頭。

 と、泣きじゃくっていた美羽が顔を上げて、きっと麗羽を睨みつけた。

「語るに落ちましたな、麗羽姉さま! 部下にすら悪口を言われていて、何が袁家の誇りですか! 敵に情けをかけられ、しかもその恩を仇で返してお気楽三昧……袁家の恥を晒してるのはお姉さまです!!」

「なーんですって!? 言うに事欠いて、このわたくしが、この袁家当主であるわたくしが、袁家の恥を晒してるとは聞き捨てなりませんわっ!! この小娘!!」

「妾が小娘なら、お姉さまは年増ではないですか! このタレ乳年増!! 大体、袁家当主はこの袁公路じゃっ!!」

「き〜〜〜〜〜っ!! 上等ですわ、貧乳小娘!! そこまで言うなら白黒つけて差し上げますわっ!!」

「望む所じゃ!!」

「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ」

「うむむむむむむむむむむむむ」

 額を突き合わせて睨みあう両者。

「白黒つけるったって、一体何をする気だ?」

「あ、それだったらわたしに提案があります〜♪」

 一刀の質問に、さっきまで泣いていたとは思えない笑顔で七乃が手を上げる。

「明日、また村の方々に集まって頂いて、お二人がそれぞれ芸を披露するんです。それで気に入った方に投票してもらって票が多い方が勝ちという事でどうでしょう?」

「うわ、完全アウェー状態の奴にそんな勝負提案するか、普通……」

「あうぇー?」

「えーっと、敵の領地って事だよ。袁術を泣かせちゃったから、麗羽はここでは完全に悪者だろ? それが分かってるのに、あんな提案をするなんて、あの張勲って人もえげつないなー」

 麗羽は突然の提案に面食らったようだった。

「はぁっ!? そんな勝負をどうしてこのわたくしが受けなければならないんですの?」

「おや、逃げるのですか、麗羽姉さま?」

「な、なーんですって!?」

「敵を前に背中を見せるとは───袁家の誇りはどこにいったのかのう、なぁ七乃?」

「あ〜ん、その小さいクセに精一杯勝ち誇った顔で胸を張ってるお嬢様は素敵です〜♪ 所詮、袁紹さんに袁家の家名は不似合いだったっていう事じゃないですか〜?」

「うむうむ。そうであろうそうであろう。やっぱり麗羽姉さまではな。はっはっはー♪」

「ぐぬぬぬぬぬ……」

「あちゃ〜、こりゃダメだ……」

「ダメだね、全然……」

 頭を抱える猪々子。斗詩は諦め顔で肩を落とす。

「ダメって何が?」

「麗羽様だよ……あそこまで挑発されたら───」

「勝負を受けるって? まさか。幾ら麗羽だって、こんな不公平な勝負───」

「いいですわっ! その勝負、受けて立ちます!!」

「受けちゃったなぁ……」

「でしょ? 麗羽様、誇りだけは百人前なんだよ……」

「もう諦めてますけどね……」

「改めて……苦労したんだな、二人とも……」

 二人の今までの苦労を思い、そっと涙を拭く一刀。

「一刀さん! 何をメソメソしてますの!? さっそく準備に取り掛かりますわよ! 猪々子、斗詩、あなた達もです!」

「ええ〜! 勝負を受けたの麗羽様じゃないですか〜」

「わたし達は無関係ですよ〜」

「何を仰いますの? このわたくしが勝負を受けたと言う事は、あなた達も受けたという事です! い・い・で・す・わ・ねっ!?」

「ったく、仕方ないな……」

「ゴメンなアニキ……」

「何とかご主人様の負担が軽くなるようにしますから……」

「ありがとな……」

「ふふん。もし麗羽姉さまが勝ったら、妾が何でも一つ言う事をお聞きして差し上げましょう。まぁ、妾が負けるわけないがのう。はーっはっは♪」

「あーら、一つだけとはけちですわねぇ。わたくしは二つ聞いて差し上げますわっ!!」

 両者の間に散る凄まじい火花。

 やれやれといった感じで三人が麗羽の元に行こうとした時、七乃が再び手を上げた。

「もう一つ提案です。人数的に不公平なので、そちらから一人助っ人をいただきたいんですけど〜?」

「助っ人ですって!? 何でそんな条件を───」

 言いかけた麗羽に、村人から容赦のない罵声が飛ぶ。

「きたねぇぞ、ぐるぐるー!!」

「正々堂々勝負しろー!!」

「勝負したところでお前なんか美羽ちゃんに勝てるわけないけどなー!!」

「ぐぬぬぬぬぬ……いいですわっ! 一刀さん、あなたがお行きなさい!」

「お、おい、麗羽!?」

「さぁ、猪々子、斗詩、行きますわよ!!」

 一刀の反論も聞かずに、さっさと麗羽は行ってしまった。

「ああなったら麗羽様、どうにもなんないからさー」

「すいません、ご主人様……」

 猪々子は疲れきった顔で、斗詩は心底すまなさうな表情で、麗羽の後についていく。

「え〜っと……」

「よろしくお願いしますね、天の御遣い様♪」

「ああ……えっと……よ、よろしく……?」

 七乃にぎゅっと手を握られ、曖昧に頷く一刀。

 その二人を背に、美羽は居並んだ村人に向かって大きく手を振っている。

「妾は絶対に負けないのじゃー! 皆も応援をよろしくお願いするのじゃー!!」

 割れんばかりの歓声と拍手を浴びている美羽の後姿に、一刀はただただ「早く帰りたい……」と思うしかなかった。

 

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「えーっと……」

「わたしと美羽様は寝台で寝ますから、御遣い様は床で寝てくださいね?」

 あれから、半ば呆然としたまま一刀は美羽と七乃に連れて行かれ、この宿の部屋に来たのだった。

 ちなみに、隣は麗羽達の部屋。宿の一階で鉢合わせになり、また一悶着あった事はもう忘れたいので思い出さないと決めた一刀である。

「にしても七乃よ。この者が、あの天の御遣いなのか?」

 美羽は毛布を口元まで被り、じーっと一刀を見つめている。視線には明らかな不審の色。

「そうですよ。光を反射する白き衣を着ているっていうのが、天の御遣いの特徴なんです。そうですよね、御遣い様?」

「んー。まぁ、一応俺が天の御遣いと呼ばれてる奴ってのは確かだよ。でも……」

「でも?」

「御遣い様って呼ばれるのは恥ずかしいな。一刀って呼んでよ」

「では一刀さん、わたしの事も七乃と呼んでください。お嬢様も真名で呼んでもらっていいですよね?」

「こ、こんな得体の知れない奴に真名をあずけるのかや!?」

「だって、この勝負を手伝って貰うんですから、それくらいはしないと。協力するには信頼が一番大切ですよ?」

「それはそうかもしれんが……」

「無理に真名をくれる必要は無いぞ? 俺は別に───」

「ふんっ! 部下が真名をあずけた者に、主人である妾が真名をあずけんわけにはいかんのじゃ! 妾の事は美羽と呼べ。よいな!?」

「……分かった。ところで美羽」

「何じゃ?」

「勝負って……一体何をするつもりなんだ?」

「何をって歌うに決まっておろう? 妾の歌に村人はメロメロなのじゃ! 明日も普通に歌えば、麗羽姉さまなどぷっぷくぷーのぷーなのじゃ!」

「あ〜ん! その始まってもいない勝負にあっさり勝ったつもりでいる器の大きさ、素敵です〜!」

「はっはっはー。そうであろう? これぞ王者の風格というものじゃ」

「よっ、このチビっ子女王♪」

「はーっはっはっはー♪」

「…………」

 何だかついていけなくなった一刀は、グッタリした顔で椅子に腰掛けた。

 隣の部屋からは何かを布を切り裂くような音や猪々子と斗詩の悲鳴じみた声が漏れ聞こえるのだが、とりあえずそれは無視しておく。

 ───帰ったら……絶対に軍の再々編を主張してやる……

 

「あら、お嬢様、もう寝ちゃったんですねー」

 どれくらい時間が経ったのか。七乃の声に目を向ければ、美羽はすやすやと寝てしまっていた。

「ふふふ、明日は勝負ですから、ゆっくりお休みになって下さいね」

 ぽんぽんと美羽の頭を撫でている七乃の横顔は、まるで璃々をあやす紫苑のようだ。

「七乃は美羽に仕えて長いのか?」

「んー、お嬢様が生まれてからお世話していましたら……長いと言えば長いですね」

「ふーん。にしても驚いたよ。いきなり勝負するとか一人よこせとか言い出すし……しかも、しっかり自分達が有利になるように事を運んでるしね」

「ふふふ。あの三人の事はよく知っていますから。要は袁紹さんの強すぎる自尊心をくすぐってやればいいんですよ。あとの二人は、何だかんだ言っても袁紹さんの後をついていくだけですから」

「あー、まぁ確かに……」

 一刀は苦笑いしてから、ふぅっと息を吐いた。

「で、狙いはなんなの?」

「はい?」

「嘘泣きしてまで俺達を勝負に引きずり込んだ狙いだよ」

「あらら。バレていました?」

 七乃は笑って手の中の小瓶を見せた。「目薬」と書かれた紙が貼られている。

「さすが天の御遣い様。ぼけーっとしてるようで、結構鋭いんですねー」

「ぼけーっとしてるってのは余計だっての。で……聞かせてくれるかな?」

「ん……丁度良かったから、でしょうか?」

「丁度いい?」

「ええ。さすがにこのまま二人で旅をするのも限界でしたし、かと言って孫策さんのところにお世話になれる訳ないでしょう?」

「だろうなぁ」

「かと言って、曹操さんは……ほら、曹操さんって女色の気があるじゃないですか? そんな人の前に、天女の如きお嬢様を差し出すなんて、狼の前に肉を置くようなものです!」

「あー……」

 つまり、七乃もそっちの人間という事らしい。

「と言う訳で、下るなら蜀かなーと思ったんですけど、お嬢様の性格上素直に下るとも思えないですし……」

「と言う事は、その為に兵士の失踪事件を……?」

「あははは。そうじゃないですよ。お嬢様が歌ってたのは、本当にただの路銀稼ぎです。ただ、時々練習してたお嬢様の歌が上手くなりすぎて、村の人だけじゃなく調査に来た兵士さんも魅了しちゃった時に『あ、コレ使えるかなー』って」

「兵士じゃなく、もっと上の人間を───って事かな?」

「はい。まぁ魅了できなくても、蜀の幹部の人と関係が作れたらいいなーって。わたし達、一度は戦争しちゃってますしねー」

「なるほど」

「まぁ、袁紹さんはともかく、天の御遣いほどの方が来るとは思ってませんでしたけど」

「だから、俺を引っ張ってきたって事か……俺と二人きりで直接話す為に」

「袁紹さん達のいる場で話したって無駄ですし、かと言ってボヤボヤしてると都に帰ってしまうでしょう?」

「確かに」

「まぁ、そういうわけで、お嬢様共々よろしくお願いしますね♪」

 あっさりと言ってのける七乃に、一刀は呆れるのを通り越して思わず笑ってしまった。

「まぁ、また面倒を起こさせられたらたまらないしな。そっちが望むなら俺から桃香に話してみるよ」

「はーい、ありがとうございまーす♪」

 差し出された手を握り返しながら、一刀はどうやって桃香達を説得しようかと考える。

「あ、でも、そうなると勝負の結果って別に関係無いのかな?」

「わたし的には関係ないですけど、お嬢様はそうじゃないと思いますよ? それに───」

 七乃は隣の部屋を指差した。

「袁紹さんが引き下がる訳ありませんよ」

「同感……」

 未だガンガンバタバタとうるさい音と、猪々子と斗詩の泣き声が聞こえる。

 二人の苦労を思い、本日二度目の涙を拭う一刀であった。

 

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 明けて次の日。

 廃寺の前で一刀は大きなタルに水を入れていた。

「これ一刀、準備は出来たか?」

「ああ、七乃の指示通り、水とハチミツを入れたよ」

「そうか。では味見をしてみるのじゃ」

 美羽は置いてあった杯でハチミツ水をすくって一口飲む。と、笑顔だった顔がすぐに曇る。

「一刀、量を間違えておるぞ? こんなに水っぽくてはダメなのじゃ!」

「いいんですよ、お嬢様」

 手に紙の束を持った七乃が戻ってきた。昨日の夜作った、美羽に投票してくれるようにお願いするチラシである。七乃はそれを村に配ってきたのだ。

「それは村の皆さんに振舞うものですから薄くてもいいんです」

「皆に飲んでもらうものだろ? だったら、なおさら水っぽかったらダメなんじゃないのか?」

「うむうむ。一刀の言う通りじゃ」

「大丈夫ですよ〜。村の人たちはハチミツ水なんて飲んだ事ありませんから。ちょっとの甘味でも感動ものですよ」

「ふーん、そういうもん───ん?」

「どうしたのじゃ?」

「いや……今こっちを見てる奴がいたような……」

「きっと先走った村の者であろ? それより妾もハチミツ水を飲みたいのじゃ! もっと濃いやつじゃ!」

「でも、ハチミツはもうありませんし〜」

「いや、あるぞ?」

 一刀はハチミツ水が注がれた杯を美羽に渡した。

「ハチミツは喉にいいからな。歌う前にと思って、ちょっと取っておいた」

「おおっ。よくぞ気付いたぞ、一刀!」

 渡された杯を両手で受け取ると、美羽は一気にそれを飲み干した。

「んくっ、んくっ……ぷは〜〜〜! やはりハチミツ水はこうでないとな! 一刀、褒めてつかわす♪」

「ありがとうございます、一刀さん♪」

「いや、それほどでも……」

 思わず照れてしまう一刀であったが、

 

「あ〜ら、随分と仲良くやってるようですわね」

 

「くっ、麗羽姉さま!?」

 現れたのは不機嫌そうな顔の麗羽だ。その後ろにはやつれた顔の猪々子と斗詩がいる。多分徹夜なんだろう。

「北郷さん、また見境なく女に手を出そうとしてるんですの? まったく呆れた方ですわ」

「いや、そういうんじゃなくて……て言うか麗羽。その登場の仕方、何か悪役っぽいぞ?」

「あ、悪役!? どうしてわたくしが悪役なんですの!?」

「いや、アニキの言う通りじゃないっすか……」

「絶対に後でボロ負けする悪役だよね……」

「黙らっしゃい!」

 徹夜の恨みか、後ろで愚痴る部下を一喝し、美羽と向かい合う麗羽。

「いいですわね、美羽さん。この勝負に勝った者が言う事を聞く───さらに、勝った者が袁家の当主となるのです!」

「いや、何か話が大きくなってる───」

「望む所ですわ、姉さま。この妾の力を存分に思い知るのです!」

「おーっほっほ。上等ですわ! では、ごきげんよう」

「アニキ〜、ほんじゃーねー……」

「失礼します……」

 意気揚揚と立ち去る麗羽。その後に続く半分ゾンビな二人。

「大変だなーホント……」

「敵に同情するでない! 七乃、一刀、この勝負絶対に勝つぞー!!」

「おー♪」

「おー……」

 

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「♪〜〜〜〜」

 美羽の歌に聴衆は酔いしれいている。そして、美羽の歌の良さを上手く引き出す二胡の音。七乃もまた、弾き手としてかなりの力量なんだろう。

 一刀が村人に配ったハチミツ水も大好評だ。

「♪〜〜〜〜───ふぅ。おしまいじゃ!」

 終わりを宣言すると、村人達から割れんばかりの拍手が起こった。

「ありがとうなのじゃー! ありがとうなのじゃー!」

 

「うわ〜、麗羽様。あっち盛り上がりまくりですよ?」

「ふん! あんな子供の歌、わたくしの魅力で一瞬に忘れさせてみせますわ!」

「そ、それより、本当にこの格好で行くんですか……?」

「当たり前ですわ! 何の為に徹夜で色々用意したと思ってるんですの!?」

「徹夜したのはあたいと斗詩っすけどね〜……」

「ええい、いちいちうるさいですわっ! ほら、行きますわよ!」

 

 美羽と七乃の出番が終わり、続いては麗羽達の番だ。昨日の事で、村人は完全にアンチ麗羽。登場前から既にブーイングが響いている。

 出番を終えた三人は、村人達の輪の後ろから舞台となっている廃寺を見ている。

「ふっふっふ。勝ったな」

「楽勝ですね。お嬢様、エライっ! お嬢様、美少女っ!」

「はっはっはー。もっと褒めるがよいぞ!」

「にしても、アイツら芸って何をするんだ?」

「ふん。どうせ大したものではあるまい」

「何をやったところで、この圧倒的に美羽様支持の状況じゃ、こちらの勝利は決まったようなものですよ」

「確かになぁ。お、そろそろ幕が開く───って、えええええええええええっ!!!」

 一刀は思わず立ち上がってしまった。ブーイングをしていた村人達も思わず声を失う。

 そこに現れたのは───

 

 ウサギの耳を風になびかせた、三人のバニーさんだった!!

 

「ば……バニーガールだとっ……!!」

「な、何じゃ、あのハレンチな格好はっ!?」

「あれ? あれ? 村人さん達の様子が……」

 七乃の言う通り、村人達はブーイングを止め、一瞬呆気に取られ、そして次の瞬間───

 

「うおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 凄まじいまでの絶叫が周囲を覆い尽くした。

「おーっほっほっほ。以前一刀さんに聞いた衣装がここで役に立つとは。受けてます! 受けてますわー!!」

「い、いやらしい目で見られてるだけですよぉ……」

「いや、斗詩と麗羽様はおっぱいでかいからいいけどさー。あたいは───ああ、悲しくなる……」

 堂々と仁王立ちで胸を揺らしている麗羽バニー。

 恥ずかしげに両腕で体を隠している斗詩バニー。

 そして、胸の辺りをペタペタ触ってため息ついてる猪々子バニー。

 三者三様ではあるが、そこにあったのはまさにバニー天国!

 三人はこれを徹夜で作っていたのだろうか。

 猪々子と斗詩の悲鳴は、あまりにきわどいこの格好に対するものだったのか。

 村人達には女性や老人もいるものの、若い男の熱狂は完全に針を振り切っている。

「くっ……正直やられたぜ……」

「何をやられておるのじゃ、お前はっ!」

 片膝ついてうなだれる一刀の後頭部を美羽が叩く。

「ええいっ! 姉さまも姉さまじゃ! 袁家の誇りとか言っておいて、あんな、あんな───」

「まさかお色気で来るとは……」

「おーっほっほっほー! 皆様、小娘の歌では刺激が足りませんでしょう? この究極の美こと、わたくしの体を見て目の保養をなさるがよろしいですわーっ!」

 

「うおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

「斗詩〜……」

「なぁに、文ちゃん……」

「仕える主人を変えるのって今からでも間に合うかなぁ……」

「多分、もう遅いよ、文ちゃん……」

 

「うむむむむむ……ええぃっ! もう我慢ならん! あのハレンチ年増に文句を言ってやる!!」

「あ、お嬢様!」

 止める間もなく、美羽は村人達の輪の中へと飛び込んでいった。熱狂している人たちの間に、美羽の小さな体が飲み込まれていく。危険だった。

「お嬢様!」

「俺が行く!」

 美羽に続いて集団の中に飛び込む一刀。

「おい、どいてくれ!」

 叫ぶが村人達は舞台上の麗羽達に夢中である。

「ほーら、斗詩さん! ここでポロリですわよ! ポ・ロ・リ!」

「そんなの出来るわけないじゃないですかぁっ!!」

「えーい、あのパッパラ女! これ以上煽るなっての!」

 毒づきながら人を掻き分ける。ようやく、視線の先に美羽を見つけた。

 ───良かった。

 思ったその時、一刀は美羽のそばできらりと白く光るものを見た。

「っ!」

 それは明らかに白刃の煌き───

「くそっ!!」

 一刀はもう村人を突き飛ばす勢いで前へ走った。美羽はどうにか前に行こうともがいている。その背後から振り上げられる白刃───

「このぉっ!!」

 前の人を突き飛ばし、押し倒し、一刀は走る。そして美羽の体にタックルするように覆い被さる。瞬間、腕に熱い感覚を感じた。

「くっ!?」

「か、一刀? 一体、何を───お、お前、怪我をっ!?」

 一刀の右腕から血が流れている。近くにいた女性がそれに気付いて悲鳴を上げた。

「きゃああああああっ!?」

 途端、歓声がピタリと止まる。そして異変に気付いた者たちが我先にと距離を置く。

 群衆の中にぽっかりと開いた空白地帯。その中心ににいたのは、腕から血を流す一刀と、抱きかかえられた美羽。

 そしてもう一人は───

「く、くそっ!?」

 その男は白刃を放りだすと逃げ出そうとした。その背後に鋭い声が飛ぶ。

「猪々子!! 斗詩!!」

「あいあいさー!」

「はいっ!」

 主人の言葉に二人は一瞬で武人の顔になると、村人達の間を駆け抜け、風のような速さで男に追いすがる。

「う、うわぁぁぁぁぁっ!!」

「おっりゃぁぁぁぁっ!!」

「てぇぇぇぇぇぇぇいっ!!」

 猪々子バニーと斗詩バニーのダブルキックを背中に食らい、男は天高く舞い上がった。そのまま墜落。意識を失いピクピクしてる。

 

『成敗っ!!』

 

 ポーズを決めてハモる二人に、

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 本日一番の村人達の歓声が爆発した。

 

 

「か、一刀大丈夫か!?」

「ああ、大丈夫。かすっただけだよ」

「お嬢様〜! ご無事ですか!?」

「な、七乃、妾は無事じゃ。でも一刀が……!」

「いや、ホントに大丈夫だって。ちょっと血が出てるくらいだから」

 七乃の応急処置を受けながら、一刀は心配そうな美羽の頭を撫でる。

「美羽は怪我はないか?」

「う、うん……」

「美羽さん!!」

 駆け寄ってきた麗羽は、美羽の姿を確認するなりぎゅっと抱き締めた。

「ぷわっ!? れ、麗羽姉さま……?」

「良かったですわ……」

「え……?」

「怪我はありませんよね? 痛いところは無いですよね?」

「は、はい……」

「ああ、良かった……」

 万感の思いを込めて抱き締める麗羽。美羽はおずおずとその背中に腕を回すと───

「うっ……ね、姉さま……姉さま〜〜〜〜〜!」

 胸に顔を埋めて泣き出す美羽。

 抱き合う二人に、一刀と七乃は顔を見合わ───

「一件落着───かな?」

「ええ、そうですね♪」

 

-6ページ-

 

 

「納得いきませんわっ!!」

 成都への帰り道。馬の背で、麗羽はまた同じ事を言い出した。

「しょうがないじゃないですか〜、麗羽様〜」

「そんなに駄々をこねないでくださいよ〜」

「ふんっ!」

 二人にたしなめられても納得せずにむくれ顔。

 結局、あの勝負は美羽達の勝ちで終わったのだ。

 どうしてだと激怒する麗羽に村長─── 一刀達と会った老人が村長だったのだ───は、一言こう言った。

 

「あれって芸じゃなくね?」───と。

 

「まぁ、バニーガールの衣装を着るだけじゃ芸とは言えないよなぁ」

「はっはっはー。まぁ、麗羽姉さまにしてはよく考えたというところではないか? のぅ七乃♪」

「そうですねー。そして考えが至らず結局負けちゃうところも、まさに袁紹さんって感じですよね〜♪」

 手綱を握る七乃と、その前にちょこんと腰掛けている美羽が顔を見合わせて微笑む。

 勝負に勝った二人の願いは、自分達を蜀に招き入れろというものだった。

 それが目的だったし、一刀だけでなく麗羽達からも進言があれば桃香も断りきれないだろう。

 麗羽に世話をさせるという名目なので、美羽もすんなりと納得した。

 ───知将、張勲の思い通りってわけか。

 横目で見ると、視線に気付いた七乃がにっこり笑う。その笑顔の下に、色々な策略が渦巻いているかと思うと、恐くもあり頼もしくもありといったところだ。

 美羽を襲ったのは、以前に七乃に退治された兵隊くずれのチンピラだった。その復讐に美羽を襲ったのだ。

 こうして、一刀達一行は美羽、七乃という新しい仲間を連れて成都へと帰っていくのであった。

 

 

「そう言えば」

 七乃は思い出したように声を上げた。

「わたし達が勝ったら、袁紹さんは二つのお願いを聞いてくれるんじゃなかったでしたっけ?」

「おお、そうじゃそうじゃ。そうであったな。もう一つお願いを聞いてもらえるんじゃった」

「あ、あら。そうだったかしら……?」

「うーわ、麗羽様、とぼけてる」

「麗羽様、そこはいさぎよくいきましょうよ」

「分かりましたわ! まったくうるさい人たちだこと!」

 非難集中に根負けした麗羽が美羽に問う。

「で、お願いっていうのは何なのかしら?」

 問われた美羽はちょっと考えてから───

 

 一刀を指差した。

 

「一刀は妾が貰うのです」

 

「えええええええええええっ!?」

 

 麗羽、猪々子、斗詩が一斉にハモる。

「どどどどうして一刀さんですのっ!?」

「一刀はなかなか気がきくし、妾の事を守ってくれたのです。ですから、妾のしもべにしてやるのです」

 満面の笑みで美羽が微笑みかけてくる。

「よろしくの、一刀♪」

「よろしくって……」

「だ、ダメですわっ! 一刀さんはわたくしのオモチャ───もとい、部下なのですから! あげるわけにはいきませんっ!」

「いや、だから俺、上司……」

「姉さま! 袁家の人間が嘘を仰るのですかっ!? 一刀は妾が貰います!」

 言い合う二人の後ろでは、猪々子と斗詩がジト目で一刀を睨んでいる。

「まーた女を殺したよ、あのち○この遣い」

「これは早速、桃香様や愛紗さんに報告だよね」

「ま、待て! 俺が何か悪い事をしたのか!?」

 いわれの無い非難に、一刀は七乃に助けを求める。

「七乃! 何とか言ってくれ!」

「うーん。美羽様のものって事は、わたしのものでもあるんですよねー……だったら、わたし的にも大歓迎ですよ♪」

「あ、あのなぁっ!」

「はい、二人目ー。ち○こ大爆発ー」

「ご主人様、不潔です」

「だーかーらー!!」

 もう泣き出しそうな一刀をよそに、元凶である袁家の二人はまだ言い争いをしている。

 

「だから、一刀さんはわたくしのものですわっ!!」

 

「いいえ! 妾のしもべです!!」

 

 まったく仲がいいんだか悪いんだか。一刀は深く深くため息をついた。

 

 ───この二人、何だかんだでそっくりなんだな……

 

 そう。袁家の血筋は争えないのだ。

 

 

説明
祭り終了間際に出来上がりました。
どこに需要があるのか分かりませんが、袁紹・袁術伝 後編です!(弱冠、張勲伝になってるかもですが)

SSにしてはちょっと長くなってしまったかとも思うのですが、読んでくださったら幸いです。
美羽好きです。七乃も。
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コメント
村長軽くね。(シルヴェ)
>ビスカス様 ありがとうございますー。やはり恋姫と言えばハーレムでこそでしょうw(ととと)
落ちが自分的に大好きでした!!(ビスカス)
>nemesis様 ご意見ありがとうございます! 口調はゲームを見ながら書きましたが、おかしな点があったかもしれませんです。あと七乃は美羽が話に入ってこないと割と有能なのかなというイメージがあってこうなりました。美羽は麗羽と話すと敬語になるのでバカっぽさが出し切れなかったかもしれませんです〜。(ととと)
>rim様 同士がここに!w 七乃も美羽もいいですよね〜。(ととと)
>MiTi様 滲み出る袁家愛を感じていただけたら幸いですw(ととと)
七乃ってこんなキャラだったっけ?口調にちょっと違和感が。七乃も美羽も、もっと馬鹿っぽかったかと。(nemesis)
七乃も美羽も好きなんで楽しく読めました。2人の拠点イベントこんなのがよかったなぁ(rim)
う〜む、袁家を主役にこのような話を作れるとは…見事!!(MiTi)
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ct004khm 真・恋姫†無双 恋姫†無双 麗羽 美羽 

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