銀の槍、心労をためる
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 将志が洗い物をしていると、白いドレスに紫色の前掛けをかけた女性が空間の裂け目から現れた。

 将志はその気配に洗い物を中断して振り向くと、その場に固まっている女性に声をかけた。

 

「……紫か。今日は何の用だ?」

「……ちょっと荒事を頼みたいのよ」

 

 将志は紫の言葉に小さくため息をついた。

 

「……また随分と唐突だな。荒事が必要な事態が起きるのか?」

「ええ。というか、ひょっとしたら幻想郷中が大騒ぎになるでしょうね」

 

 紫は薄く笑みを浮かべながらそう話す。

 それを聞いて、将志の表情が一気に引き締まった。

 

「……用件を聞こうか。うちの山の連中を総動員するとなれば、それ相応の騒ぎになるはずだからな」

「そうね……まず、最近になって随分と妖怪が増えてきたと思わない?」

「……そうだな……今までこの日の本の国には居なかった妖怪が一気に増えたな」

「そこで、幻想郷自体を結界で隔離しちゃおうってわけよ」

「……相変わらず話の脈絡が繋がらんな……が、そうせざるを得ない事態が迫ってきているのだな?」

 

 話が繋がらない紫の言葉に、将志は額に手を当ててため息をつく。

 そんな将志を見て、紫は楽しそうに笑った。

 

「ええ。まあ、これをするともう幻想郷と外の世界を自由に行き来することは難しくなるわ。いえ、実質不可能と見たほうがいいでしょうね」

 

 紫がそういうと、将志は納得したように頷いた。

 

「……なるほど、そんなことをすれば妖怪達は黙っては居ないだろうな」

「ええ、だからお願いできるかしら?」

「……結論から言おう、今回に限ってはうちの山の連中も当てには出来ん」

 

 将志は紫の問いに、眼を伏せながらそう答えた。

 それを聞いて、紫は首をかしげた。

 

「……どういうことかしら?」

「……確かに、今俺はこの銀の霊峰を統治している。だが、それを成しているのは規律でも法でも力ですらない。あくまで個人の感情なのだ。今回の件、銀の霊峰内で分裂が起きたとしても全く不思議ではない」

 

 現に将志は銀の霊峰において人員の管理こそすれ、特に規律も戒律も布いていない。

 将志は何をしていたかと言えば、積極的に下の様子を見に来て話をしていた。

 銀の霊峰の妖怪にとって、将志は指導者であると同時に、目標であり友人でもあるのだ。

 将志が心を取り戻してからと言うもの、その繋がりはさらに強化されていたのだった。

 しかしそれ故に、彼らを縛れるものは何もなかった。

 紫はそれを聞いて扇子を口元に当てながら話を続けた。

 

「それは貴方が見限られるということかしら?」

「……どうだろうな。見限る者も居るだろうし、説得を試みるものもいるだろう。いずれにせよ、一度話し合う必要性がある」

「そうね。この結界は妖怪達のための物。それを理解させるのは難しいかもしれないけど、根気良く説得しなければね」

「……そうだな。ところで、この結界に関して質問なのだが、どこまでが範囲になるのだ?」

「そうね……東の果ては博麗神社、というところしか決めてないわ。後は人里と妖怪の山、銀の霊峰、太陽の畑、冥界、地底の入り口、迷いの竹林、魔法の森……主立った所はそれくらいね」

 

 将志はそれを聞いて安堵した。

 もし、迷いの竹林が対象外になっていた場合、将志は永遠亭の存在がバレるのを覚悟で頼むつもりであったからだ。

 

「……もう一つ質問だ。妖怪や人間にはどう説明するつもりだ?」

「そこが一番の問題ね……人間は良いのよ。まだ理屈で分かってくれる人が多いし、反発しても押さえ込もうと思えば抑え込めるから。問題は妖怪達なのよね。外から人間をさらって来る者からすれば、死活問題になりかねないものね」

「……だが、そこはもう考えてあるのだろう?」

「もちろん。世の中には神隠し、と言う言葉があるものよ」

 

 それは妖怪の食糧問題に対する解決策を端的に示した答えだった。

 しかし将志の表情は晴れない。

 

「……それはさておき、本気でどうするつもりだ? 確かに解決策は用意してある。だが、相手を納得させられるかは別問題だ」

「そうなのよね……これだけやれば十分と思うのだけど……」

 

 その紫の発言に、将志は首をゆっくりと横に振った。

 

「……一つ言っておこう。いくら説得しても、絶対に全ての妖怪達を納得させることは出来ない。これは確実だ」

「……それは何故かしら? 自らの存在は保障されるし、食料にも困らない。その上で何故?」

 

 紫は薄ら笑いを浮かべながら将志に問いかける。

 将志は額に手を当てて、呆れ顔で答えた。

 

「……分かっていて言っているだろう? 妖怪の最大の敵は退屈だ。人間をさらってくることを生きがいにしている妖怪は、間違いなく反発するぞ」

 

 将志のその言葉に、紫は陰鬱な表情でため息をついた。

 

「はあ……そうよね……その一点だけがどうしても解決できないのよ……ねえ、その辺りここの妖怪達で何とかならない?」

 

 紫は将志に人間をさらうと言う行為を、妖怪との闘争で代用できないか訊いてみた。

 しかし、将志は首を横に振った。

 

「……無理だ。妖怪と人間では違いすぎる。相手と戦うのと、玩具で遊ぶのとでは違うものだ」

「あら、まるで人をさらったことがあるかのような言い回しね?」

「……実際にさらったことがあるが?」

 

 将志がそういうと、紫は眼を点にした。

 今までの将志の行動原理から言って、人をさらう要素が全くないからである。

 

「……はい? いつ?」

「……随分と前に、この神社を建築する時だ。作業的なものではあったが、周囲に見つからずに人をさらって来るというのは、今思えばなかなかに面白いものだったぞ?」

 

 将志はそういうと、当時を思い出して楽しそうに笑った。

 紫はそれを見て乾いた笑みを浮かべた。

 

「……良くそれが癖にならなかったわね?」

「……ははは、当時の俺は愚直な虚け者だったからな。それに、俺はやはり強者と戦ったほうが楽しい」

「そうよね、貴方はそういう人だったわね。それにしても、何とかならないものかしら……」

 

 将志が発した言葉に、紫はため息をつきながら肩をすくめた。

 

「……まあ、それに関しては後でいいだろう。一番の問題は結界を張ることだ」

「ええ、そうね。当日、間違いなく妨害しようとするでしょうね、反対派は」

「……それを防ぐのが俺達の役目だ。味方もきっと少なくはないだろう。古くから存在する理知的な妖怪は味方についてくれることだろう」

「お願いするわ。貴方達のことは信頼しているわよ」

 

 将志と紫はそういうと笑いあった。

 しばらくすると、紫は将志に対して質問をした。

 

「……ところで、その格好は何?」

「……む? 服が汚れないようにする前掛けだが?」

 

 今の将志の服装は、いつもの小豆色の胴衣に紺色の袴、そしてピンク色のフリルが付いたエプロンだった。

 紫はその珍妙な格好に引きつった笑みを浮かべる。

 

「……どこで手に入れたのかしら?」

「……大陸からやってきた妖怪からだ。服に油染みが付いたりしなくて助かる」

 

 ちなみに、エプロンを送った妖怪は将志が家事をしているなどとは欠片も思っておらず、美的センスも正常であることを明記しておく。

 

「そ、そう……それじゃあ、他のところに説明に行かせてもらうわね」

 

 将志は紫がスキマに入っていくのを見送ると、洗い物を再開した。

 

 

 

 

 

 

「……ということなのだが、お前達はどう思う」

 

 しばらくして、将志は銀の霊峰の重鎮達を集めて説明を行った。

 意見を求めると、全員黙り込んだ。

 

「……正直に言うと、俺はあんまりその結界を張るのは乗り気じゃねえ。乗り気じゃねえが、大将の言うことも良く分かる……俺は大将に合わせる」

 

 一人は苦い顔をしながらそう答える。

 

「私は聖上に付き従うのみだ」

 

 一人は無感情で淡々と答える。

 

「御大が納得しているなら特に言うことはない。だが、全ての者が納得するとは到底思えないな」

 

 一人は賛同しつつも不安な点を指摘する。

 

「そのときは我々で殿を支えるべきであろう。某は殿に最後まで仕える所存であります」

 

 一人は将志の前に跪き、そう言いながら忠誠を誓う。

 

「……この山の連中は任せたぞ……離脱者も含めてな」

 

 将志はそれらの声を聞くと、眼を閉じたまま立ち上がり、そう言って部屋から立ち去った。

 その声には、自分を支えてくれる面々への感謝の意が込められていた。

 

 

 

 将志が説明をしてから数日たった。

 将志が危惧したとおり、銀の霊峰は結界賛成派と反対派に分かれ、対立を始めていた。

 その結果、反対派は銀の霊峰を出て行き、ストライキを始めたのだった。

 そんな中、本殿では将志達が集まって話し合いを始めようとしていた。

 

「……兄ちゃん……ここも、随分と寂しくなっちまったな……」

「……そうだな……」

 

 寂しそうにそう話すアグナに将志は呟くようにそう返す。

 

「……結界に反対のみんなは出ていっちゃったもんね……」

 

 寂しげな二人に合わせるように愛梨が口を開く。

 そんな中、六花が折りたたまれた紙を持ってやってきた。

 

「お兄様、反対派から嘆願書が届いてますわよ」

 

 六花の持つ紙には、結界に対して考え直すようにと言う訴えが書かれていた。

 将志はその嘆願書に眼を通すと、力なく首を振った。

 

「……だが、俺達はそれに答えるわけにはいかない。あの結界には、妖怪の未来が掛かっていると言っても過言ではない。この結界だけは絶対に実施せねばならんのだ」

 

 将志がそういうと、六花が深々とため息をついた。

 

「それをお分かりいただければ、反対なんてすることはないでしょうに……よくも悪くも、妖怪には刹那主義が多いですわ」

「……いずれにしても、俺達のやることは変わらない。相手が誰であれ、全力で当たるのみだ」

「現実問題として、抑えきれますの?」

「……約半分が抜けたとはいえ、銀の霊峰にはまだ古くから付き合っている連中が残っている。戦力的には抜けた連中を抑えるには十分だ。それに、妖怪の山の天狗達は全員が味方だ。……恐らく数としては遅れを取るだろうが、やってやれないことはない」

「話は大体分かったでござるよ。それで、この五人だけで集まったと言うことは我々は特別にすることがあるんでござろう?」

「……ああ、そうだ。俺達は藍とともに結界を張る儀式を行う場所、博麗神社の最終防衛線を担当する」

 

 将志は自分達に課せられた任務を伝えた。

 その任務の重要さから、紫の将志への厚い信頼を感じられる。

 

「……となると、そこまでやってくるような妖怪はそれなりの強さを持っていますわ。それを食い止めるのが私達の仕事と言うわけですわね」

「……そうなるな」

 

 六花はそういうと陰鬱なため息をついた。

 本来戦いが嫌いな六花にとって、どうしても戦わなくてはならない今回の事件は欝なものであった。

 将志はそれを見て苦笑いを浮かべた。

 

「ところで、実際にどういうふうに守るんでござるか? 最終防衛線と言っても、この人数しか居ないんでござるよ?」

「……そのあたりのことは特に気にする必要はない。妖怪の山の戦力を鑑みれば、俺達のところに来るのはほんの一握りだろう。余程のことがない限り、俺達のところまで来ることはないだろう。だが、ここにはまだ俺達も知らない強者が存在する可能性がある。ゆめゆめ警戒を怠らないことだ」

「う〜ん、その一握りが怖いね……最近になって、強い妖怪がどんどん集まってきてるからね……」

 

 現在、外から流れてくる妖怪の数が格段に増え始めていた。

 欧州などでは産業革命が始まり、科学の進歩によって幻想は事象に成り下がっていった。

 それにより、力の強い妖怪達まで勢力をどんどん弱めていき、幻想郷に流れ着くようになったのだった。

 その話を聞き、涼はため息をついた。

 

「それだけ外では妖怪が住み辛くなって来たってことでござるか……」

「……住み辛くなったのではない。住めなくなったのだ。愛梨なら分かるだろう? 信じられなくなり、迷信へと落ちた妖怪の末路を」

「うん……存在できなくなって、消えちゃう……妖怪って、信じてもらえないと存在できないからね……」

 

 愛梨はそういうと悲しげな表情を見せた。

 その表情は、どんどんと力を弱めていく妖怪達の行く先を憂いているようであった。

 

「なあ、いったい何が起きてんだ? 今までそんなこと全然無かったじゃねえか」

 

 何が起きているのか分からないアグナが、将志に質問をぶつける。

 すると、将志は台所から卵を取り出した。将志はその卵を手のひらに置くと、アグナに話しかけた。

 

「……例えばだ。ここにゆで卵がある。これに力を加えると、卵は宙に浮かぶ。アグナ、このときに俺は何をしたと思う?」

 

 将志は手の上のゆで卵に手をかざし、ゆで卵を宙に浮かせる。

 その様子は、手のひらの上で触れてもいないのにゆで卵が上下しているように見えた。

 

「ん〜? 卵を妖力だか神力で浮かせたんじゃねえの?」

「……実際はこうだ」

 

 将志はそういうと、ゆで卵を側面から見せた。

 すると、かざしていた手の親指がゆで卵に突き刺さっていたのが見えた。

 それに対して、アグナは呆気に取られた表情を見せた。

 

「何じゃこりゃ? 指を突き刺して持ち上げただけか?」

「……その通りだ。さて、もう一度やってみよう。さあ、どう思う?」

 

 再び将志は手の上のゆで卵を宙に浮かせる。

 それを見て、アグナは呆れた表情を見せた。

 

「んあ? どうせまた指差して持ち上げただけだろ?」

「……では、こっちに来て見てみるがいい」

 

 将志はそういうとアグナを呼び寄せた。

 すると、今度は卵に指は刺さっておらず、正真正銘ゆで卵は宙に浮いた状態であった。

 

「ありゃ、今度は指刺さってねえな? 今度は妖力か」

「……こういうことだ。人間は自分では理解できないことが自分で起こせると知ると、その事象を全て自分の知識の中で完結させてしまう。すると、妖術や魔法などと言ったものは夢幻のものとされ、信じられなくなる。今、人間の世界で起こっているのはそういうことだ」

「でも僕達がまだあの町に居た時、人間は何でも出来たけど妖怪はちゃんと生きていられたんだよね……」

「……ああ。当時は妖怪はもっと人間に近かったからな。妖怪学などという学問すらあった程だ。何故なら、当時の人間は妖怪に立ち向かってきていたからだ。それに比べて、今の人間は妖怪から逃げ続けている。……いずれ、人間は妖怪の存在を忘れ去る。それを防ぐのが今回の結界なのだ」

 

 愛梨は過去への憧憬を込めて呟き、将志はそれに対して言葉を紡ぐ。

 かつて、人間は誰もが妖怪を恐れていて、誰もがそれに対抗する術を持っていた。

 妖怪もまた全てが強い人間と戦わなければならなかったため、隠れたりすることなどはなく、今よりも堂々としていた。

 と言う事は、お互いの生活の一部に相手が必ず関わるということであり、ある意味での共存関係が築かれると言うことである。

 この状態では妖怪が忘れ去られることはなく、人間も妖怪も競争関係で存在することが出来る。

 しかし、現在の人間は妖怪退治を一部の人間に依存し、妖怪もまた弱い人間ばかりを襲う者は退治屋を恐れて身を隠してしまう。

 つまり、今の妖怪は昔に比べて人間から遠く離れてしまっているのだ。

 そこに科学の発展が始まり、説明の付かなかった現象が次々と人間の解釈で解明されていく。

 すると、例え妖怪が起こしたことでさえ科学で説明されてしまい、逆に妖怪の仕業だとすると異端とされた。

 もはや、外の世界では妖怪は消え去りつつあった。

 

「そういえば、いつそれが実施されますの?」

「……紫の計画では五日後だ。それまでの間、幻想郷内は荒れるぞ」

 

 

 

 

 将志の言葉どおり、その間幻想郷は大荒れになった。

 妖怪達は発案者である紫を探そうと血眼になっていた。一方、将志のところにも妖怪は次々と押しかけ、山のように嘆願書が送られてきた。

 将志は精神をすり減らしながらもそれに真摯に対応し何とか宥めようと努力したが、上手くいかなかった。

 そしてそのまま時間は流れ、結界を張る当日になった。

 

「……反対勢力の様子はどうだ、紫?」

「正直に言うと、あまり芳しくないわね。私達が説明するよりもずっと速く妖怪達に広まってしまったわ。そのせいで、反対派の勢力は大きく膨れ上がってしまったわね」

 

 そう話すお互いの顔には若干の疲れが見えていた。

 双方共に妖怪達の対応に追われ、碌に休めていないのだ。

 

「……仕方の無いことだ。こう言っては何だが、妖怪の大部分は先のことなど考えないからな。そういった連中には、力で分からせるしかないからな」

「そうね。その時のために、貴方達は居るんですもの。それじゃあ、今日は任せたわよ」

「……ああ。任せてくれ」

 

 将志は紫にそう言って頷くと、愛梨達が待つ場所へと向かう。

 その後ろから、藍が追いかけてくる。

 

「将志。紫様に今日はお前の指揮下に入るように指示された。私はどうすればいい?」

「……藍か。藍は六花と組んで左翼を守ってくれ。基本的に遠距離でけん制して、抜けてくるような奴は六花が接近戦を仕掛けられるように援護して欲しい。あとは六花とその場で判断をしてくれ」

「と言うことは、僕は涼ちゃんと組めばいいのかな?」

 

 将志が藍と話していると横から愛梨が割り込んできた。

 その言葉を聞いて、将志は思わず笑みを浮かべた。

 

「……ふふっ、流石に分かっているな。涼は相手を引き付けるのが上手いから、涼が捌き易い様に援護してやってくれ。集まってきたら、一気に畳み掛けてやれ。右翼は任せたぞ、相棒」

「キャハハ☆ 任せといてよ♪」

 

 愛梨は嬉しそうにそう言って笑うと、涼のところに飛んでいった。

 それを見送っていると、将志は藍が自分のことを見つめていることに気がついた。

 

「……どうした?」

「いや、私にも何か一言欲しいと思ったのだが……」

 

 藍がそういうと、将志は小さくため息をついた。

 

「……お前に掛ける言葉はない。俺はそれ程にお前を信頼している」

「ふふっ、それだけ聞ければ十分だ。それじゃあ幸運を祈るよ、将志」

 

 藍もまた、嬉しそうに笑いながらそう言って飛んでいく。

 

「そういえば、指揮官の言葉で兵の士気は上がると本に書いてあったな……今度何か上手い口上でも考えておくか……」

 

 それを見て将志が見当違いのことを考えていると、小さな少女が将志の袖を引く。

 

「なあ、兄ちゃん。俺はどうすりゃ良いんだ?」

「……俺達のところは来るとすれば相当な手錬だ。アグナは無闇に攻め込まず、相手の出方を見ろ。もし、戦ってみて強いと思った者が居たら俺に向かって火を放て。封印を解いてやる」

「最初から解かないのは何でだ?」

「……お前の役目は相手の霍乱だ。相手は間違いなく俺を狙ってくるが、お前が本来の力を出すと敵が分散してしまう。それを防ぐためにしばらくは力を抑えたまま戦ってもらう。そして、もしお前が本気を出すに値する相手が出てきたら思いっきり暴れてやれ。お前は俺の今日の相方であると同時に切り札でもある。頼りにしているぞ、アグナ」

 

 将志はそう言いながらアグナの頭を撫でる。

 すると、アグナはくすぐったそうに笑った。

 

「へへっ、そうまで言われたら頑張んなきゃな!!」

「……ああ。さて、そろそろ配置に着くとしよう」

「おう!! 兄ちゃん、手繋いでくれっか?」

「……ふふっ、お安い御用だ」

 

 差し出された小さな手を、将志は優しく掴む。

 そしてその手を優しく引いたまま配置に着いた。

 

 

 

 長い一日が始まろうとしていた。

説明
妖怪の賢者によってもたらされた新たな依頼。その依頼は、銀の槍のにとってとても疲れる大きなものであった。
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コメント
幻想郷を警護している軍隊の半数以上が寝返るのですから、それはもう大変な騒ぎです。各組織の間で、様々な事件が起きているでしょうね。(F1チェイサー)
…あぁ、そうだった。紅魔館幻想入り云々以前に、博霊大結界がまだ張られていなかったな…。結界反対派は所属勢力から去り、各勢力は減退した戦力で結界発生まで護り抜かねばならない。…そしてその日が、博霊大結界が張られる、激闘の一日がやってきた…!(クラスター・ジャドウ)
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