天魔戦争 第三話
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 あれから数年が経ち、なのはちゃんのお父さんの高町士郎さんも意識が戻り、無事に退院した。

 今では喫茶翠屋のマスターをしながら、恭也さんと美由希さん、なのはちゃんと僕に御神流を教えている。

 

 僕たちは今では私立聖祥大附属小学校の三年生になっていた。

「弥雲くん、おはよう」

「おはようなのはちゃん。今日から三年生だけど、同じクラスになれるといいね」

「うん! アリサちゃんはすずかちゃんとも一緒だといいの!」

 アリサちゃんとすずかちゃんというのは、小学一年生の時からの友達である。

(あの時のなのはちゃんは凄かったなぁ……背中に般若が見えたほどだったし)

 昔のことを思い出していたら、なのはちゃんの雰囲気がいきなり暗くなった。

「だけど、あの二人とは一緒になりたくないの……」

 あの二人というのは昔公園でなのはちゃんに絡んできた二人である。

「そうならない様に祈っておこうね……」

 僕も彼らと一緒になるのは嫌だ。何度も突っかかって来られたからだ。

 

 

 

 クラス分けの結果は、なのはの願いが半分は叶ったが、半分は叶わなかった。

 つまり、アリサちゃんとすずかちゃんとは一緒のクラスになれたが、例の二人共一緒のクラスになってしまった。

「それでは、順番に自己紹介をお願いします」

 生徒にも敬語を使うことで有名な先生の言葉で、クラスの右前から順に自己紹介が始まった。

「((鴉羽|あばね)) 白です」

(あ、白くんも一緒だったんだ)

 彼も一年生からのクラスメイトで、二年生の半ば頃からすずかちゃんと仲良くなったことで、僕たちともそれなりに仲良くなった男の子だ。

 自己紹介が進み、僕の二つ前の男の子が立ち上がった。

「((真神|まかみ)) ((王牙|おうが))と言う。宜しくしてくれ給え」

 キザったらしい口調だが、これが彼の素だから恐ろしい。アリサちゃんが言うには彼はとある大富豪の息子らしい。

「((帝威|みかどい)) ((逢魔|おうま))だ! てめえら、なのはたちには手え出すんじゃねえぞ!」

 彼のこれも素です。これはもう口癖みたいになってますが、そのせいで彼は皆から嫌われています。

 あ、次は僕の番ですね。

「水無神弥雲です。これから一年お願いします」

 

 

 

「弥雲ー。私たちこれから翠屋行くんだけど、あんたも行く?」

「あ、ご一緒させてもらうよ」

 始業式の日は授業もなく、昼前には帰れる事になっていたのでお昼を翠屋で取ろうと考えたのだろう。

「一緒に行くのはアリサちゃんとなのはちゃんとすずかちゃんの他にもいるの?」

「ああ、それなら……」

 アリサちゃんの視線に釣られて目を向ける。

「白くん、一緒に翠屋行かない?」

「え……?」

「行こ?」

「承りました、お嬢様」

 最初は無表情の中に嫌そうな色を浮かべていた白くんだが、すぐに((畏|かしこ))まって一礼した。

「なんであいつはすずかにはあんな態度なのかしら? 他の人には淡白なのに」

「二年生の途中からだよね。その時に何かあったのかな?」

 アリサちゃんと二人で頭を悩ませたが、結局原因には行き着かなかった。

「早く行きましょ。このままだとあいつらが……」

「ようアリサ! なのはたちと一緒に帰ろうぜ」

 アリサちゃんがそう言った時、噂をすれば影がさすということだろうか。『あいつら』内の一人、帝威くんが話しかけてきた。

「嫌よ。なんであんたと一緒に帰らないといけないのよ」

「照れんなって」

「誰も照れてないわよ」

 彼はいつもこんな調子だ。この前向き思考は少し見習うべきかもしれない。もっとも彼はもっと周りを見るべきだが。

 このままだと近くにいる僕に気づいて((罵詈雑言|ばりぞうごん))を吐きかけてくるのだが、この状況ではもう一つのパターンがある。

「止め((給|たま))え、彼女が嫌がっているだろう?」

 真神くんに帝威くんが話しかけてきた。

「あぁん? 何だテメエ、文句あんのか?」

「前々から言っているがね、君はもっとレディに対する接し方を考えた方がいい」

 そのまま二人が言い争いを始めた。これが起こると僕たちにとって都合がいい。

「さ、今の内に行くわよ」

「うん」

 二人が言い争っている間に、僕たちはそそくさと教室から出て行った。

 

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「全く、あいつらにはうんざりするわ」

 アリサちゃんはイラついたように言ってケーキを口に運んだ。なのはちゃんとすずかちゃんも苦笑している。

「しかも今年も一緒のクラスだなんて、ついてないわー」

 もしかすると僕たちが一緒のクラスになったのは僕たちの生い立ちが関係しているのかも知れない。

「けど、なのはとすずかが一緒だからよしとしますか」

「それに僕は入ってないの?」

 ちょっと不安になって聞いてみたら、アリサちゃんはきょとんしてから顔をした。

「あんたもちゃんと入ってるから安心しなさい」

「私は白くんが一緒で嬉しいよ?」

「あ、そう」

 すずかちゃんが隣にいる白くんに身を寄せて言ったが、白くんは素っ気なく答えた。

「白くん?」

「俺もとっても嬉しいよ」

 すずかちゃんは白くんが言い直した声を聞いて満足そうに微笑んで更に身を寄せた。

 逆隣に座っているアリサちゃんと対面に座る僕となのはちゃんはいつもの様に小首を傾げた。

(彼とすずかちゃんの間に何があったんだろう……)

 その疑問を何度か本人たちに訊いても答えてくれた事は無かった。

「はぁー……明日からもあいつらと顔を付き合わせる事になるかと思うと((憂鬱|ゆううつ))だわ」

(アリサちゃんは難しい言葉を良く知ってるなぁ。憂鬱なんて普通の小学生は知らないと思うよ)

 袖を軽く引かれた。

「弥雲くん、もし私が困ってたら助けてくれる?」

「うん、いいよ」

 けど、魔法無しだと僕よりなのはちゃんの方が強いだよね。

「ねえ、白くんは助けてくれる?」

「気が向いたらな」

 すずかちゃんの僕たちの会話を聞いたから出たであろう発言に、白くんがあっさりと返す。

「白くん?」

「((何時|いつ))((如何|いか))なる時も全力でお守り致します」

(すずかちゃんの笑みが怖い……)

 

 

「それじゃ、また明日ねー!」

 笑顔で手を振るなのはちゃんに送られて、僕とアリサちゃん、すずかちゃんは翠屋を後にした。

 なのはちゃんと白くんは翠屋のお手伝いをするそうだ。お店の子であるなのはちゃんはともかく、何故白くんが翠屋のお手伝いをするのかと言うと、彼が孤児でありお金がないため店主である高町夫妻が((融通|ゆうずう))を効かせてくれたそうだ。

 もっとも、彼に直接お金渡すのは拙いのでアルバイト代は現物支給のようだ。

「ねえ、すずかちゃん」

「何、弥雲くん?」

「彼との間に何があったの?」

「ひ・み・つ♪」

 通算何度目かも分からぬ質問には、何度聞いたのかも分からない返答が返って来た。

 

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