天使と悪魔の代理戦争 第七話 |
なのはちゃんとあの女の子について話し合い、なのはちゃんは本格的に魔法の練習を始めた。そして僕も一緒に改めて魔法の練習をする事にした。一緒にと言っても、なのはちゃんはユーノくんとレイジングハートに習うけど、僕はディナと復習するだけだ。
「そういえば、弥雲の魔法って僕らの魔法とは少し違うよね。確かベルカ式って呼ばれたっけ」
なのはちゃんが誘導弾を操っている傍らで、ユーノくんが僕に話しかけてきた。
「確かディナが言うにはそうだったかな?」
『厳密に言うならミッドチルダ式によってエミュレートされた近代ベルカ式ではなく、かつてベルカの戦乱期に使用されていた古代ベルカ式です』
ユーノくんの質問に僕が曖昧に答え、ディナがそれを補足してくれる。
「それでデバイスの形が剣なんだね。でも、そんなのどこで習ったの?」
「えーと……色々ありまして」
まさか本当の事を言うわけにもいかない。
『これ以上は個人の秘密に関わる事なので言えません』
「それなら仕方ないね……」
ユーノくん、君はやけに物分りがいいね。
「僕もあんまり魔法は使ったことないから素人と変わわないんだよね。一応の魔力運用は習ったけど」
それと、一応切り札はあるけど、あれは制御が難しいんだよね。
(この先もあの子と戦う事になるかもしれないし……一応練習しておこう)
授業中もトレーニングはできる。戦闘系魔導師の必須スキルである同時にいくつかの事を考えられるマルチタスクを使ってのイメージトレーニング。デバイスから送られる情報も加えると現実と然程変わらない体験ができる。魔力運用効率などならこれで十分鍛えられる。
(なのはちゃん楽しそうだな)
完璧に分裂して考えられるといいんだけど、それができないと裏で考えている事が顔に出る。
(僕もマルチスキルは得意じゃないんだよな……)
できて一度に三つぐらいだ。だから――
「水無神くん、ここの問題を解いてください」
「あ、はい!」
いきなり話しかけられると慌ててしまうのだ。
(えっと……どこだっけ?)
[13ページの問い3の(2)です]
[ありがとうディナ!]
放課後、アリサちゃんすずかちゃんと半ばケンカするように別れてしまった。原因は僕たちの『探し物』である。
(ただの探し物なら手伝って貰うんだけど……物が物だからそういう訳にもいかないんだよなあ)
なのはちゃんもそれが分かっているからアリサちゃんに何も言えなくて、それがアリサちゃんも薄々察しているけどその事が歯痒いんだと思う。
「……ところで」
「「わっ!」」
後ろからいきなり声をかけられた。振り返ると白くんが憮然とした表情で立っていた。
「驚かれるとそれなりに傷つくぞ」
「ごめんね。急に話しかけられたから……」
「教室出た時から居たが?」
「え、そうだっけ……?」
なのはちゃんはどうやら気づいてなかったようだ。
(それは僕もだけど……)
「それで何の用かな白くん」
「ユーノ――あのフェレットね。調子はどう?」
そういえばユーノくんを動物病院に連れて行った時に白くんも居たっけ。
「うん、元気だよ」
「それは上々。だけど、無理はさせたら駄目だよ?」
「うん、分かってるよ」
「それじゃ、今後とも世話を頼むよ」
白くんはそれだけ言って手を振って去っていった。
「……白くんから話しかけられるなんて驚いたぁ」
「うん。それは僕も……」
あの子話しかけないと滅多に口を開かないんだよね。
「さあなのはちゃん、そろそろ行こうか」
「うん」
(見つからない……)
一日中歩き回ってもジュエルシードが見つからない方が多いとはいえ、進展がないと精神的にも疲れる。
[もうすぐ八時だし……なのはちゃん、今日はもう帰ろうか?]
[そうだね……もう真っ暗だし]
それじゃあ帰ろうかと思ったときだった。
(――魔力反応!?)
[魔力波長確認――フェイト・テスタロッサと断定! 魔力流を撃ち込んでジュエルシードを強制発動させるつもりのようです!]
(そんな事をしたら町に被害が出る!)
その心配を拭うかのように結界が張られた。
(これで人への被害は無い。あとは早くジュエルシードを封印しないと!)
ディナを起動して発生したジュエルシードの下へ駆けつけると、ジュエルシードはなのはちゃんと黒い女の子によって既に封印されていた。
「なのは、早く確保を!」
「させないよ!」
ユーノくんの頭上からオレンジ色の長髪の女性が殴りかかってきた。それをユーノくんは緑色のバリアで防ぐ。
「はぁぁぁ!」
動きの止まった女性に勢いよく斬りかかるが、それは軽やかな動きで躱されてしまった。
「ちっ、そういえばもう一人いたね」
そう言った女性はその姿を狼にその姿を変えた。
「弥雲、気をつけて。彼女はあの子の使い魔だ」
「大丈夫。使い魔の事ならよく知ってる」
(僕にも紗良がいるからね。……今思ったけど紗良と水面にも捜索を手伝ってもらえばいいんじゃ……帰ったら相談しよう)
そんな事を考えていると、狼さんがその大きな口を開いて襲いかかってきた。僕はそれを防ぐために剣を立てて構えると、その脇を抜けるように鋭い爪が繰り出された。その爪を剣で払うと、込められた魔力が衝突して若草色とオレンジ色の火花を散らす。爪が受け止めたすぐ次には狼さんは逆の爪を薙いでくる。
「ディナ、双剣形態!」
『了解しました』
刃渡り90センチほどのバスタードソードが刃渡り60センチほどのショートソード二本に変わり、左右の爪と連続でぶつかり幾度も火花を散らす。
「聞かせて、あなたがどうしてジュエルシードを必要なのか!」
攻防を延々と繰り返していた僕たちに、なのはちゃんの叫びが届いた。その声に釣られて視線を向けると、あの女の子は何か迷っている顔をしていた。
「フェイト、答えなくていい! ジュエルシードを持って帰るんだろう!?」
狼さんがそう言うと、フェイトと呼ばれた女の子は顔を引き締め、鎌のようになっていたデバイスを槍のように変形させる。それを見たなのはちゃんが身構え直し、すわ激突かと思ったが、フェイトちゃんはなのはちゃんに背を向けてジュエルシードを取りに向かった。
その後を追いかけてジュエルシードを取りに向かった((なのはちゃんのデバイス|レイジングハート))と((フェイトちゃんのデバイス|バルディッシュ))が激突し、ジュエルシードが水色の輝きを放った。
その輝きは辺りを照らし、更に二人のデバイスにひびを入れて弾き飛ばした。
「なのはちゃん!」
僕は吹き飛ばされた勢いで飛行魔法の証である足元の光の羽が消えたなのはちゃんを受け止める。
「フェイト、駄目だ!」
叫び声を聞いて振り向くと、フェイトちゃんが素手でジュエルシードを取ろうとしていた。
ジュエルシードは先ほどの水色の輝きを未だに放っており、素手で触れるのは危険であると一目で伺えた。だから狼さんは自分の主を止めようとしているのだろう。
しかし、フェイトちゃんの伸ばした手がジュエルシードに届く寸前でフェイトちゃんの動きが遅くなり、完全に動きが止まったと思った瞬間に((何か|・・))に弾き飛ばされた。
思わず呆気に取られる僕たちの見る先――ジュエルシードの側に前触れもなく一つの人影が現れた。
その人は身長が170センチはあることから男だろう。服装は白いシャツに黒いスラックス、そして季節外れの黒い丈の長いコートを着ていた。そして異様な事に顔には白と黒の二重螺旋の模様の仮面があり、見える髪は白色であった。
「……誰?」
その呟きは誰が漏らしたのか分からないが、その呟きがきっかけになった様に、その男は無造作に手甲に包まれた右腕を伸ばしジュエルシードを掴んだ。
「あっ……!」
呆気に取られていた一同だが、その行動で緊張が溶けたようで、フェイトちゃんが魔力弾を二発形成し、狼さんが駆け出した。しかしフェイトちゃんが放った金色の魔力弾は簡単に避けられ、狼さんは一瞬の交錯の後フェイトちゃんの方に投げ飛ばされた。
人間よりも重そうな狼さんを軽く放り投げた仮面の人は立ち去ろうと歩き始めたが、その彼を緋色の火線が幾つも襲った。
「おいテメエ、何勝手にジュエルシード持ち逃げしようとしてんだよ!」
火線の軌道を辿ると、近くのビルの上に真っ赤な特攻服を着た帝威くんがいた。その手にはこの前のスナイパーライフルではなくアサルトライフルが握られていた。
仮面の人は彼を見上げたかと思うと、後ろに視線を向けてほんの少しだけ青みがかった白色――((白雪色|スノーホワイト))のバリアが出現し、そこに((象牙色|アイボリー))の一閃が激突した。
「ほう、僕の攻撃を防ぐとは驚いたな。名を名乗ることを許そう」
その一閃を放ったと思われる装飾多寡な銀色の軽鎧を着た真神くんが地面に突き立てたレイピアの上に両手を置きながらそう言った。
「それでは、お言葉に甘えまして」
その声変わりを済ませたばかりのような声が仮面の人の声だと分かるのにはしばらくかかった。
「運命の破壊者にして歴史の外側の存在。既知を未知へと変える者。気軽にエクスとお呼びください」
……仮面の人はエクスというらしい。
「それではエクスくん。そのジュエルシードを渡してもらおうか」
「断る――と言ったら?」
「力尽くで奪うまでさ!」
真神くんはレイピアを引き抜くと右手に握って突き出す。するとその動作に合わせて剣から象牙色の光が放たれた。同時にビルの上から飛び降りた帝威くんのアサルトライフルがスナイパーライフルに変わり、そこから先ほどよりも太い緋色の火線が放たれた。
二色の攻撃は仮面の人に直撃するかと思ったが、仮面の人の姿は現れた時と同じく突如として消え、目標を失った攻撃はそのまま延長線上にいた相手を――真神くんの攻撃は帝威くんを、帝威くんの攻撃は真神くんに向かった。
攻撃したばかりの二人はそれを防御することができず、お互いの攻撃を受けて二人とも吹き飛ばされた。しばらく経っても起きてこないようなので気絶したようだ。
「フェイト……ちゃん?」
この何とも言えない空気をどうしたものかと悩んでいると、どうやらあの二人を見なかったことにしたらしいなのはちゃんがフェイトちゃんに恐る恐る話しかける。
しかし、フェイトちゃんはなのはちゃんを一瞥しただけで、すぐにどこかへ飛んでいってしまった。
「フェイトちゃん……」
[ねえ、弥雲]
まるで恋する乙女のように胸部を交差させた手で押さえたなのはちゃんから目をそらし、気を使ってか念話で話しかけてきたユーノに向き直る。
[そろそろ結界を解除したいんだけど……あの二人はどうしようか?]
[……気にしなくていいんじゃない?]
その二人なら殺しても死なないって信じてるから。
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