真恋姫†夢想 弓史に一生 第七章 第七話
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〜聖side〜

 

 

「ふぅ…。」

 

 

着替えを済ませ、寝台の縁に座って、寝ている愛しい彼女の頭を撫でる。

 

紫紺の髪は驚くほど滑らかで、まるで上質な絹でも撫でているかのようなそんな錯覚を覚えた。

 

 

「むにゃむにゃ……ひ〜ちゃん………。」

 

「ん?? どうした?」

 

「………むにゃむにゃ……。」

 

「…寝言か……。」

 

 

何時までも彼女の髪の感触を楽しんでいたいところだが、やるべきことが残っている上に、桃香たちを待たせていることを考えて寝台から立ち上がる。

 

 

太陽は……傾きかけているところを考えれば、時間的にはおやつ時か……。

 

暗くなる前にさっさと準備をしておくか…。

 

 

最後にもう一度だけ雅の頭を撫でて、いざ天幕を出ようとしたその時。

 

 

「……むにゃ……ひ〜ちゃん……浮気は駄目……。」

 

 

………ん?? 

 

 

「……気が多いのはしょうがないとは言ったけど………女の子増やしすぎは駄目……。」

 

 

………夢の中の俺は一体どんな状態なんだろうか…。

 

 

「………嘘ついたね……。酷い!!! そこまでその女が良いの!?」

 

 

………おいおい。夢の中の俺酷いな…。

 

 

「…………もういい。こうなったら、あなたを殺して私も死ぬ……。そうすれば、永遠に二人は一緒だよ…。」

 

 

ちょっ!!! 昼ドラじゃあるまいし……雅って結構なヤンデレなんだな。気をつけよ…。

 

 

「…………ニヤッ。」

 

 

ぞくぞくっ!!!!!

 

 

雅の浮かべたごく僅かな微笑は俺を震え上がらせるには十分で……今後一切雅に嘘はつけないと確信した聖なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

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「遅くなって済まなかったな……。話の続きをしに来たが………今大丈夫か?」

 

「あははっ………。ちょっとだけ待ってもらっても良いですか…。」

 

「あわわ……。すいませんです……。」

 

「く〜……く〜……。」

 

「すぅ〜……すぅ〜……。」

 

「くか〜……くか〜……むにゃむにゃ……。」

 

 

軍議になることを考えて橙里、麗紗、蛍の軍師三人と一刀を引き連れて桃香たちの天幕へと向かった俺たち。

 

だが天幕の中では、劉備たち三姉妹が仲良く身を寄せ合ってお昼寝をしていた…。

 

 

「いや、俺も大分待たせちゃったしな……。」

 

「………う〜ん……。」

 

「あっ!! 起きたみたいです。」

 

「あっ……朱里ちゃん、おはよ〜……って!! 聖さん!!!」

 

「おはよう、桃香。」

 

「ご……ごめんなさい!!!! 私、待ってたら眠くなってきて………。」

 

「俺も待たせて悪かったな。どうやら起きたみたいだし……話の続きを始めようか…。」

 

 

桃香は残りの二人も起こし、こうして全員が揃ったところで話し合いの続きをする。

 

 

 

「まず、さっき到着した部隊は朱里が言ったように追加兵と糧食だ。追加兵士は五千。これで俺の軍は総勢七千人となって、桃香たちと合わせると大体一万三千人くらいって所だな。」

 

「それだけいれば、まず簡単に黄巾賊にやられることは無いでしょう。」

 

「あの〜……私が言うことじゃないかもしれないけど、聖さんの方の食料は大丈夫…?? 私たちを含めてこれだけの人数になっちゃったけど……。」

 

「そこら辺は問題ないのです。先生はあらかじめ一万五千人まで兵が増えても大丈夫なように準備してきているのです。」

 

「……ってお姉ちゃんが言ってますけど……。そうなんですか、聖さん?」

 

「朱里〜……。 お姉ちゃんの言うことを少しは信じるのです〜!!」

 

「そうだぞ、朱里。橙里の言うとおり、他勢力と組むこともあるかと考えて多めに準備してある。」

 

「あわわっ……すごい先読みです……でもそれだけ多くのお米を使えば……本国が困るのでは……??」

 

「お兄ちゃんの策で、今一時的に広陵の街は米だらけになってまして……お米の消費が出来る今使わないと勿体無いんです。」

 

「そう言う事。兵の方は既に編成済み。何時でも大丈夫なはずだ。だよな、一刀?」

 

「あぁ。準備は出来てるよ。」

 

「よしっ。と言うわけで我等は明朝、張角率いる黄巾賊本隊の討伐に出立する。皆、異論は無いか!!」

 

「「「「「「「「「はいっ!!!!」」」」」」」」」

 

「よしっ。じゃあ、夜になったら俺が偵察してくるからその後で詳しい作戦などを決めるってことで……解散!!」

 

 

そう言ってこの場を締めようとしたところで、

 

 

 

 

 

「「「「「「「「えぇぇ〜〜〜〜!!!!!!」」」」」」」」

 

 

 

 

天幕の中にいる人々からそろった仰天声が発せられた。

 

 

「………まぁ、聖らしいよね…。」

 

 

ただ一人、一刀を除いた全員から……。

 

 

 

 

 

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「一体それはどういうことなのですか先生!!!」

 

「詳しく……説明してください、お兄ちゃん!!」

 

 

橙里と麗紗が物凄い勢いで俺に反対の意を唱える。

 

 

「詳しくって言われてもな〜……。ただ、俺が行ったほうが持って帰ってこれる情報は多いと思ったから言っただけだし……。」

 

「……ご主人様、危険。」

 

 

どうやら蛍も反対らしい。俺の身を案じてくれるのは嬉しいけど……。

 

 

「俺の腕は既知のはずだろ? 問題ないよ。それに、ただでさえ情報が無いんだ。俺が直接見て判断を下したいと思う心は当然じゃないか?」

 

「さっきのは本気だったんですか……聖さん。流石にそれは止めといたほうが〜……。」

 

「……桃香も反対か……と言うか、俺の意見に賛成してくれる人は?」

 

 

これだけの人がいるというのに、天幕内には一切の音が無くなった。

 

外で鳴いている虫の音色の綺麗なこと……。

 

仕方ない、ここまで反対されてるのを無理に押すことも出来ないし、この場は折れるしか無さそうだ。

 

 

「……全員反対か…。しょうがない、大人しくしてるよ………。」

 

 

俺の言葉にその場の全員がほっと息を吐く。

 

 

すると、皆に見える位置へと移動した朱里は、軍師の顔つきとなってその後を引き継いだ。

 

 

「では皆さん。細作を飛ばしておきますので、戻り次第情報を集めて作戦会議に移ります。それで良いですか?桃香様、聖さん。」

 

「私はそれで良いよ。」

 

「俺も異論はない。」

 

「両軍の大将から了承が取れましたので、それでは一旦解散とさせていただきます。集合はこちらから兵を出して皆さんを呼びに行きますので、各自天幕でゆっくりしていてください。」

 

 

朱里の言葉に皆が頷いてこの場は一度お開きとなった。

 

 

 

 

 

 

 

「お〜……ここは景色が綺麗に見えるな……。」

 

陣を出て少し行った所にある丘の芝の上に腰を降ろす。

 

眼下に広がる光景はまさに農村と呼ぶに相応しく、沈み行く夕日に照らされてノスタルジーな雰囲気を醸し出していた。

 

 

さて、細作が情報を持ってくるまで暇になってしまったな……。

 

まぁ良い。明日の為に今分かっていることでも纏めておくか。

 

え〜っと、鉅鹿の敵兵数が………約3万。

 

敵の大将が………張角という人らしい。果たして、天和のことなのか……。

 

黄巾賊の補給線は今日潰したが、他にも補給線があるかもしれない…。

 

 

………こうやって考えると、情報少なすぎるよな……。

 

 

そもそも、細作は俺たちも桃香たちも出していたはず……。

 

それでこれしか情報がないというのに、新たに細作を出したところで得てくる情報があるのだろうか……。

 

そう考えると、やはり俺が直接見に行ったほうが早い気がする。

 

 

「とは言え、誰にも見つからずに陣を出るのは流石に……いやっ、待てよ……。俺にはアレがあるじゃないか。」

 

 

そうと決まればここでぼんやりと考え事をしている場合じゃない。

 

急ぎ足で天幕へと戻ると、持参した荷物を探る。

 

 

「え〜っと……確かこの辺に………おっ!!あったあった。これを使えば……。」

 

 

荷物の中からそれを見つけ、不適に笑う聖であった。

 

 

 

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〜勇side〜

 

 

「だださん。お頭知らねぇっすか?」

 

「徳種様?? さっき天幕に入っていくのは見ましたが……。天幕には居なかったのですか?」

 

「それがものけの殻で………姉さんたちにお頭を見張っとくように言われてるから、早いとこ見つけておかないと俺っちの命が………。」

 

「はははっ。勇君は中々面白いことを言いますね。」

 

「…………だださんは知らないっすからそんな笑ってられるんでさぁ……。姉さんたちのお頭に対する想いは相当なんすから……。」

 

「それはあの徳種様ですからね…。皆に愛される良い君主じゃないですか。」

 

「姉さんたちの愛は度を越えてるんすよ……。その所為で、こういう時にお頭の身に何かあろうものなら………俺っちの首なんて一瞬で………。」

 

「…………そんな凄いんですか…??」

 

「だださん……親衛隊隊長っすよね……?」

 

「はい、そうですが?」

 

「これから何回そういう目に遭うか……覚悟しておいた方が良いっすよ…。」

 

 

俺っちの言葉に顔を青くするだださん。

 

でも、それが真実なんだししょうがないぜぇ……。

 

 

うちの姉さん方は、皆美人って言うのは問題ないんすけどお頭のことを好きすぎてどうしようもない…。

 

そりゃ俺っちたちの主だし、広陵太守でもあるし、お頭は万能人だから好かれるのも分かりまさぁ。

 

でも、あれだけ人数が居るのに全員お頭のことが好きって……周りに居る俺っちたちの立場があったもんじゃない…。

 

 

「あぁ〜………俺っちの運命の人現れないっすかね〜………。」

 

 

溜息混じりにそんな言葉を呟いていると、陣内に見かけない女性を見つける。

 

 

「ん〜……?? どうしたんすかね……。もしかしたら怪しい奴かもしんないっすね…。声をかけてみやしょう。」

 

 

女性が足早に去っていこうとするその後ろを走って追いかけ、

 

 

「待て!! そこの人、ここで何やってたんすか…??」

 

 

追いついて声をかける。

 

女性は声をかけると一度びくっと身体を震わせ、恐る恐るこちらを振り向いた。

 

その顔を見て、俺っちは心の声で叫んだ。

 

 

『俺っちの運命の人来た〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!』

 

 

その端正な顔立ち、長く伸びた黒髪……姉さんたちには悪いが……これが本当の美人って奴でしょう!!

 

 

「あの……何か…??」

 

 

ほわぁ〜〜!!!!! 何て優しい声……まるで小川のせせらぎの如く華麗だぜぇ!!

 

 

「あの……そのっすね……ここは、徳種軍の陣地なんすよ……。なんで、ここで何してんのかな〜って…。」

 

「あ〜………。すいません、道に迷ってしまいまして……暗くなってきたものですから、この中を通ったほうが安全かと思いまして……勝手に通ってしまってすいませんでした…。」

 

「いやっ……その……一言そういうのは兵の誰かに言っていただけりゃあ、通ったって問題ないんすよ。一応、自分の仕事なんで今回声をかけさせてもらったってだけで……。」

 

 

あぁ〜………この方は何と美しく、言葉に品があるんすか………。

 

この女性、道に迷ってるって言ってたっすよね……なら、送り届けるのが男ってもんすよね、お頭!!

 

 

「道に迷ってるんすよね? なら、俺っちが送りやしょうか?」

 

「いえっ……そんな、わざわざ悪いです…。」

 

「大丈夫でさぁ。気にしないで、困った時はお互いさまっす!!」

 

「………では……お願いいたします。」

 

 

よしっ!!! これで送る名目でもう少し話が出来るってもんだぜぇ!! 

 

 

それから少しの間、どうでも良いような世間話をしながら陣をぬけた先の街道まで送る。

 

 

「あの……ここまでで結構ですので……。」

 

「ちゃんと家まで送るっすよ!!」

 

「いえっ……あまり迷惑をかけても悪いですし……。」

 

「そんな迷惑だなんて滅相もないぜぇ。」

 

 

あぁ〜……そうやってモジモジすんのも可愛いな〜……。ちょっと大き目の服で手が全部出ていなく、その状態で顔を隠すような仕草ってのも保護欲をそそるっすよね……。

 

でも、ここで嫌われるのもなんでさぁ……。送るのはここまでっすかね…。

 

 

「分かったぜぇ。ここから先暗いから気をつけていくっすよ!!」

 

「本当に……ありがとうございました。」

 

 

そう言ってお辞儀をして去っていこうとする背中に、

 

 

「あの………。」

 

 

勇気を振り絞って声をかける。

 

 

「………はい…??」

 

「………俺っち、あの軍では近藤って呼ばれてるんでさぁ……。でも、あなたには本当の名前を覚えてもらいたいっす!! 俺、姓は周、名は倉、字を元福って言うっす。また何時か、何処かで会えたら覚えていて欲しいっす!!」

 

 

この女性との繋がりを絶つのは絶対に駄目でさぁ……。どうにか、この人に名前だけでも覚えてもらっとかねぇと……。

 

 

「………分かりました。また何処かで会うまで覚えてますね、周倉さん。」

 

 

そう言って、微笑んだ彼女の笑顔はまるで天使のようで……それからしばらくその女性の歩いていく後姿をただただぼ〜っと見ているしか、俺っちには出来なかった。

 

 

 

 

 

そして、しばらくして意識を取り戻したところで……。

 

 

 

ふふふっ………お頭。お頭には悪いっすけど、俺っちにもようやく出会いがありやしたぜぇ…。あの人……そういや〜名前を聞かなかったっすけど……何れ会えるっすよね!!

 

 

「俺っちの春来た〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

陣内に木霊する程大声で叫ぶ勇であった。

 

 

一方その頃、

 

 

「へっくしゅ!!! あぁ〜……誰かに噂されてんのかな……。だとしたら、絶対勇だよな〜……。まさかあいつに見つかるとわ……メッチャじ〜っと見てたもんな〜……今頃陣内で俺が出ていったって噂になってんだろうな〜……あ〜ぁ……帰ってから説教か〜……。」

 

 

頭を垂れて溜息を吐きながらも、口から出る愚痴は止まらない。

 

 

「くそ〜………どうにかやり過ごそうとなるべく造作もない答えをしたんだけどな〜。っていうか、あいつ周倉だったんだな……今日初めて知ったぜ……。成程、通りで周りよりは強いわけだ…。」

 

 

一人納得したまま、女装姿で林道を走る聖であった。

 

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弓史に一生 第七章 第七話 運命の女性??  END

 

 

 

 

 

 

 

 

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後書きです。

 

 

第七章第七話の投稿が終わりました。

 

 

 

 

 

まぁ、いつもながら聖さんは突飛な行動をしますね……。

 

 

徳種軍の大将のくせに自分から偵察に行くとか……単純に馬鹿なんじゃないかと思えますね…。

 

 

そりゃ他の人たちが心配するわけです…。

 

 

 

 

雅は………まぁ聖たちの中で一番ヤンデレ度が高いでしょうね……。

 

本気で『あなたを殺して私も死ぬ…。』って言いそうです。

 

 

 

 

 

聖の女装に関しては……中性的な顔立ちの人なら女装しても似合うでしょうね……。

 

 

なんともまぁ…………勇さん乙です!!!!

 

 

 

 

 

 

次話の投稿は日曜日に行います。

 

それではお楽しみに…。

説明
どうも、作者のkikkomanです。

私情により投稿が遅くなってしまってすいませんでした。

パソコンが不調だったのが問題だったんですが、何とかなりました。

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コメント
>将軍さん     コメントありがとうございます。 貂蝉からかつらはもらってましたからね……。そのまま思い続けるかは………今後をお楽しみに!!!!(kikkoman)
ここでまさかの女装ネタww 案外聖の女装姿だと気づかずに想い続けるんでしょうねw(将軍)
>ヒトヤ犬さん    コメントありがとうございます。 ちょっ!? 『つよししっかりしなさい』とか懐かしい作品を出してきましたね……。聖さんはそんなことには…………。(kikkoman)
>劉邦柾棟さん    コメントありがとうございます。 さぁ、どうでしょう?? ヒントとしては、作者は人を手のひらの上で転がすのが好きです。(kikkoman)
女装したつよしは渡辺にファーストキス奪われたんだ、ここの主人公は良かったな(親善大使ヒトヤ犬)
近藤「そして、次回 俺っちの残酷な真実と言う名の『冬』がやって来た〜〜〜!? (´;ω;`) 」ってことですよね?(劉邦柾棟)
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