魏after 一刀伝04 |
「あ〜お〜〜げば〜、と〜う〜とし〜〜」
卒業式定番の歌を歌いながら、思い出すのは高校三年間の出来事ではない。
あの世界に行く前の思い出は既に遠く霞み、その後の一年と少しの記憶が、頭の中を過ぎ去っていく。
その中でも、銅鏡を手にした後の三ヶ月の思い出は、一際強い輝きを放っていた。
全てはあの日、母さんと交わした約束によるものだ。
銅鏡が届いて数日たった頃、俺はついに覚悟を決めた。
あの世界に行く行かない、という覚悟ではない。
もう二度と家族に会えないという事を、家族に伝え、納得して貰う、という覚悟だ。
何故なら、俺が華琳を側で支えるなんて事は、決まりきった当然の事に過ぎないのだから。
とはいえ、全てを伝えるわけにもいかない。
外国に行く。
その国の状勢からして、もう帰って来れないかも知れない。
結局は、そんな風に曖昧に言わざるをえないのが、酷くもどかしかった事を覚えている。
まあ、その結果は当然失敗。
その後数日間に渡り、行かせてくれ、認めない、の水掛け論を繰り返す事になった……。
しかし、納得はいかなくとも、俺の意思が変わらない、という事だけは理解したのだろう。
黙りこくってしまった爺ちゃんと父さんを尻目に、母さんが出した条件が、旅立つのは高校を卒業してから、というものだった。
−あなたがもし本当に帰れないのだとしても、決して私達のことを忘れないで欲しい。
その為にも、卒業までの間、私達やお友達との思い出を作って頂戴−
そんな事を言われてしまえば、俺としては降参するしか無いわけで。
−それに現実問題、もし帰ってくる事が出来たら、高卒と中卒じゃ大違いなんだから。
高校くらい、出ておいて損は無いものよ−
おまけに現実的な面からも言われたとくれば、北郷軍は無条件降伏するしかなかったのである。
それからの俺は、全力で思い出を作っていった。
爺ちゃんと剣術の腕を磨き。
父さんと将棋を指し。
母さんと買い物をして街を巡る。
及川、クラスメイト、剣道部、様々な場所で、様々な人達と、全力で遊び、学び、まさに青春を謳歌した。
あの世界を思いながらも、楽しく、かけがいの無い時間。
そんな時間も、今日で終わる。
タイムリミットは、刻一刻と近づいてきていた……。
卒業式を終え、及川はクラスの打ち上げに行き、俺は剣道部の打ち上げに。
その後合流した二次会のカラオケが終わる頃には、太陽はとっくに沈み、おまけに時計の短針が二週する程の時間が過ぎ去っていた。
「は〜い、じゃあ、二次会終了〜! 解散すんで〜」
「「「「えーーーっ!」」」」
「はいはい、みんな制服やからこれ以上はちょいキツイで。それに寮も引き払っとるから家遠い奴もおるやろし」
そんな感じで、及川がテキパキと仕切って解散。
俺と及川は二人肩を並べ、暗い夜道を歩いていた。
「いやぁ、まさか委員長のメルアドが手に入るとはついとるなぁ。これも、清く正しい俺への神様のご褒美、って奴なんやろか」
「…………」
ゆっくりと息を吸って、覚悟を決める。
「大学行ったら、また今日みたいに人集めて、今度は酒ありで飲み会でも開こうや」
さあ、最後の仕事だ。
及川に、キチンと別れを告げるとしようか。
「及川……」
「あん?」
俺の硬い声に気づいたのか、振り向いた顔には、薄っすらとした疑問の色。
「俺、大学には行かないんだ」
「は? かずピー、何言うて……」
「大学には行けない」
俺の態度から、何かを読み取ったのだろう。
「推薦、受かっとったよな?」
「ああ」
及川の表情が
「他の大学行くって事か?」
「いや。進学自体、する気は無い」
段々と
「就職でもするんかい」
「俺は……、この国には残らない」
強張っていく。
「ボランティアだの、留学だの、って訳やない、な?」
「ああ。多分、もう、帰ってくることは無いと思う」
何時の間にか、ふたりの足は止まっていた。
「訳分からんで。何でもっと早くに。せめて相談くらい……」
「あっちに戻れるかもしれないって分かったのは、去年の暮れの事だったからな」
受験の邪魔するわけにもいかないだろう? そう言うと、グシャグシャと髪をかき回し、溜息をひとつ。
「わかった。とりあえず、話聞かせてや」
「そうだな。まあ、そう長くなる話でもないさ」
そう言って語ったのは、家族にしたのと全く同じ説明だ。
真実を伝える事が出来ないのは、非現実的だから、という前に、信じて貰えなかったら辛いという、俺の弱さなんだろうな。
説明をする為に口を開きながら、俺はふと、そんな事を思った。
「一昨年旅行に行った俺は、旅先でトラブルに巻き込まれ、内乱状態の国に放り出される事になったんだ。
途方にくれている俺は、そこである勢力のトップに拾われた。
その恩返しやら何やらで、俺は彼女に微力ながら手を貸し、最終的に彼女は国を統一。
そのドサクサに紛れて、この国に戻ってきた。
……いや、戻されたって言うべきなのかもしれないな」
纏めてしまえば、一分もかからずに終わってしまった。
苦笑と共に一息つけば、及川の顔は驚きを通り過ぎて呆れの色の方が濃くなっている。
「短い間に、随分盛りだくさんだったみたいやな」
「まったくだな」
もう一度、苦笑がこぼれる。
「今でも、あの時の事が夢だったんじゃないか、そう思う事が時々あるよ」
「でも実際に夢や無く、去年の暮れにその国へ行く手段も見つかった。って事でええんやな?」
「ああ。確証は無いけど、たぶん無事に着けるだろうさ」
何故だろう、及川の顔は既に呆れ100%だ。
密航か、だの、かずピーが犯罪者に……、だのブツブツ言っているのは丁重にスルーする。
銅鏡割ったら行ける気がします。とは尚更言えそうにないよなぁ。
「まあ、要約すると、や」
「いや、これ以上要約しようが無いだろ」
「いやいやにーさん、もっとスパッと纏められるに決まってるやん」
ニヤリと笑う及川は、何時の間にやら普段のアイツと変わらない顔で。
「いやいやいやいや、そもそも俺の話なのに、なんでお前が纏められるのかという……」
「要は、惚れた女の側にいたいんで、故郷を捨てますよー。っちゅー事やろ?」
「うぐっ」
「いひひひひひ。なんやかずピー、普段人の事とやかく言うてる割には、随分とお盛んやったみたいですなー」
「おまっ、何を訳の分からん事を」
いかん、及川は華琳を指して言ってるんだろうが、自分の行動を振り返ると、お盛んという言葉に何にも反論出来んじゃないか。
「あかんでぇ。そんなやらしい顔で"彼女"とか言っときながら、誤魔化せると思うとんのかいな」
「ぬぬぬぬ」
「そもそもそういう理由でもなけりゃ、ダチから家族からほっぽりだして国出ていきますー、なんて納得できるかい」
「あー、なるほど。そりゃ、確かにそうかもなぁ」
やけに納得してしまい、肩からストンと力が抜ける。
しかし、すっかりいつもの俺達の空気に戻っちゃったな。
うん、でもコレでいいのかもしれない。
「ま、そういう事ならしゃーないわ!」
そう言って吹っ切ったように頷き、止まっていた歩みを再開させる。
こちらも合わせて歩き始めた。
先程までのように、肩を並べて。
「今まで俺も、彼女優先して何度も約束すっぽかしたりしてたからなぁ。同じ理由じゃ、責められんやろ」
「及川……」
「ただし!」
「お、おう」
「これで貸し借りはチャラっちゅー事で頼むで。もう会えへんいうなら、返せん借りがいっぱい残ってるいうんは、気分良いもんや無いからな!」
気持ちの良い笑顔を浮かべる及川に、俺も自然と、笑顔が浮かんでいたように思う。
「釣りを払いたいくらいだ。ありがとうな、及川」
パンッ
高い音を立ててガッシリと握手。
顔を見合わせてニヤリ、と笑う。
「じゃあな、かずピー。女王様の"彼女"によろしゅう伝えといてや」
「じゃあな、及川。あんまりコロコロ恋人を入れ替えないようにな」
「なんやろう、かずピーにだけは言われとうない気がしたで……」
ちょうど互いの家への分かれ道。
最後まで変わらないやり取りのまま、俺達は手を上げて背を向ける。
俺は振り向かなかったし、多分及川もそうしただろう。
そしてお互いに、振り返る必要など無いと、感じていたに違いないのだ。
説明 | ||
今回は原作キャラが大活躍ですよ! そうだね、及川だね orz とりあえず前回に引き続き、色々と悩んだり覚悟したり行動したりする一刀君の巻。 SSとして考えると、サクッと帰って来て、そこから話を膨らませる、ってのが正しいんでしょうが、二度と自分の世界に帰れないとなったら、幾ら全身精液男でも悩むだろうと。 そしてそういう作品見当たらないから自分で書くか、っていうのがこれ書いてる動機だったりします。 でもぶっちゃけると、早く女キャラ出して一刀とイチャイチャさせたくてしょーがなかったりする。 うぼぁ。 しかし、遅筆だから色々と端折りまくってるんですが、そのせいか中々文章が綺麗に流れてくれなくて困るぜ。 |
||
総閲覧数 | 閲覧ユーザー | 支援 |
17084 | 11951 | 111 |
コメント | ||
カッコいいねー(十六夜白夜) 及川との友情(十六夜白夜) やべ〜なんかかっこいい(motomaru) >>ブックマンさん、多分及川はこの後ちょっと泣いちゃうね、間違いない。(三国堂) 男の友情・・いいですね♪(ブックマン) >>紫霞さん、感想感謝です。帰還シーンは他の人がいっぱい書いてるので、かぶったりしないように頑張ります。(三国堂) >>G-onさん、感想ありがとうございます。及川は真じゃない方とはいえ、一刀の住んでた世界では唯一の立ち絵ありキャラですからね。元の世界との決別を書くと、必然的に出番が増えますw 家族との話し合いはサクッと終わらせたので、次回はついに旅立ちです。お楽しみに!(三国堂) さて、次回ついに出会うのか!?相手のリアクションに期待です(紫霞) そう、こういう葛藤があるからこその旅立ちだと思います。及川のポジションがおいしいですね。次回とうとう旅立ちか!? 別れを綺麗に表現してもらえることを期待します。(G-on) >>きりゅーのすけさん、楽しんで貰えたなら書いて良かったと思えます。ありがとうございました!(三国堂) >>5963さん、感想ありがとうございます。及川は友的に漢であります。書いてたら、及川が一刀の胸倉掴んで泣くという、漢を通り越して漢女(おとめ)チックに成り掛かり、慌ててボツにしたのは内緒なんだぜ!(三国堂) おもしろい・・・。こう言う作品に出会えるからこそ、二次創作の世界はいい。今回も楽しませていただきました。(きりゅーのすけ) 漢か・・・(5963) >>水質測量班員さん ありがとうございます。起きた時に支援されてたりコメント貰ってたりすると、嬉しくなりますね。(三国堂) 早速支援(水質測量班員) |
||
タグ | ||
真・恋姫†無双 恋姫†無双 一刀 及川 | ||
三国堂さんの作品一覧 |
MY メニュー |
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。 |
(c)2018 - tinamini.com |