銀の月、ついていく |
空間が裂け、たくさんの眼が覗く禍々しい空間が現れる。
その中から二つの人影が現れた。
「ねえ紫さん、もう着いた?」
そのうちの一人、白装束の少年である銀月は眼をギュッと閉じたまま案内人に問いかける。
その手は隣に立っている、日傘を差した金髪の女性の手をしっかりと握っている。
「ま〜だまだ。目的地にはもう少し時間が掛かるわよ」
そんな銀月に、紫は意地の悪い笑みを浮かべながら答えた。
とっくに目的地には着いているのだが、それを告げることなく銀月の手を引く。
「うう〜……」
それを聞いて、銀月は紫の手を握る力を強めた。その表情は必死で、スキマの中の空間が余程怖かったようである。
そんな銀月を、紫は微笑ましいものを見る眼で見つめる。
「ふふふ、本当に可愛いわね……」
「……何やってるのよ、紫」
そんな紫に声を掛ける者が一人。
その少女の呆れた声を聞いて、銀月は首をかしげた。
「あ、あれ? 人の声?」
「あら、ここまでかしら? 着いたわよ、銀月」
「うん……」
銀月は恐る恐ると言った様子で眼を開く。そして、周囲を確認するように見回した。
するとその眼には、少々寂れ気味だがしっかり掃除されている神社の境内が映りこんできた。
「えっと……ここ、神社?」
「それ以外の何に見えるのよ? て言うか、あんた誰?」
声を掛けられて、銀月はその方を見る。
そこに居たのは、黒髪に大きな赤いリボンをつけた巫女服の少女だった。少女は銀月と同じぐらいの年齢のようである。
そんな彼女をみて、銀月は少し緊張した様子で挨拶をした。
「あ、あの、銀の霊峰に住んでる銀月って言います。君は?」
「銀の霊峰? どっかで聞いたことあるわね……」
銀の霊峰の名前を聞いて、少女は考える仕草を見せる。
その少女に、紫が話しかけた。
「ほら、前に教えたじゃない。この幻想郷の防衛部隊よ」
「ああ、そう言えばそんなものもあったわね。てことは、こいつ妖怪?」
「妖怪の中に紛れ込んだ妖怪みたいな人間よ」
「面倒くさいわね……」
胡散臭い笑みを浮かべた紫の返答に、少女はうんざりした表情を浮かべる。
どうやら普段から紫のややこしい表現につき合わされているようである。
「あ、あの……」
「何よ」
銀月が声をかけると、少女は不機嫌そうにそちらを見やった。
銀月は一瞬怯みそうになるが、こらえて話を続ける。
「君は誰?」
「ああ、そういえば自己紹介がまだだったわね。博麗 霊夢、この博麗神社の巫女よ」
「つまり貴方の同業者って事よ、銀月」
霊夢が自己紹介をすると、紫が横からそう付け加えた。
それを聞いて、霊夢は首をかしげた。
「え、こいつ神主なの?」
「……貴女ねえ、それも前に教えたじゃない。銀の霊峰には神社があって、そこに元妖怪の強い守り神が住んでるって。銀月はその守り神なら儀式なしで力を引き出せるわよ?」
紫はため息混じりに霊夢に説明する。
その話を聞いて、霊夢は信じられないと言った表情を浮かべた。神の力を行使するには、それ相応の儀式が必要であるのが普通であるからである。
「はあ? そんな簡単に神様の力が使えるもんですか。それが本当だって言うんなら証拠見せてみなさいよ」
「銀月、見せてあげなさい」
「……うん」
銀月は頷くと、眼を閉じて祈り始めた。
すると銀月の周りに銀色の光の粒が集まり始め、身体の中へ流れ込んでいく。
そこから感じられる力は、確かに神の力の一端であった。
「……嘘でしょ? 眼を瞑って祈るだけ? 何よ、そのお手軽な儀式は?」
それを見て、霊夢は唖然とした表情を浮かべてそう呟く。自分の常識から外れた光景に、その眼で実際に見たというのにまだ信じ切れていないのだ。
「まあ、これが出来るのはそこの祭神だけなのだけどね。それに銀月自身は神主としては不完全だから、そんなに多くのことは出来ないわ」
「つまり、巫女としては私のほうが上ってことね」
紫はそう言って、銀月の力について補足する。
すると霊夢は少し安心したようにため息をついた。自分の目の前の少年が、自分の常識を外れまくっているわけではないと感じたからである。
その様子を見て、紫は意味ありげな笑みを浮かべる。
「まあ、そういうことね。でも、間違いなく銀月のほうが多芸よ?」
その言葉を聞いて、霊夢の表情が怪訝なものに変わる。
「……ちょっと紫、今そいつはそんなに多くのことは出来ないって言ったじゃない」
「それは神主としてのことよ。銀月自身が出来ることはとても多いわ。とりわけ戦いに関して言えば、あの歳でああまで強い人間はそうは居ないわね」
「……そうなの?」
紫の話を聞いて、当の本人がキョトンとした表情を浮かべて首をかしげた。
その反応に、紫の表情が一瞬固まる。
「……もしかして、貴方自分が普通だと思ってるのかしら?」
「違うの? 僕、お父さんや涼姉ちゃんみたいに槍を上手く扱えないし、愛梨お姉ちゃんや六花お姉ちゃんみたいに速く動けないし、アグナお姉ちゃんみたいに力の扱い上手くないよ?」
銀月は自分の師匠達の名前を挙げながらそう告げる。その眼は純粋な輝きを放っていて、心の底からそう思っていることが窺える。
そんな銀月の様子に、紫は頭を抱える。銀月の中の常識が、あまりに閉じられた世界で完結してしまっているからであった。
「銀月、それは比べる相手がおかしいだけよ。貴方が名前を挙げた人たちはこの幻想郷内でも屈指の能力を持つ人達だって分かっているのかしら?」
「でも、僕は早くお父さん達に追いつきたい。強くなりたいよ」
銀月はそう言って強い眼差しを紫に向けた。
そんな銀月に興味を持ったのか、霊夢が話しかけてきた。
「……ねえ、あんた霊力をどこまで扱えるの?」
「えっと……ちょっとだけ……」
霊夢の問いかけに自信なさげに答える銀月。
それを聞いて、霊夢は値踏みするように銀月を眺める。
「ちょっとねえ……じゃあ、全力を見せなさいよ。どっちが多くの弾を飛ばせるか勝負しましょう?」
「うん。それじゃあ、僕から……それっ!」
そう言うと銀月は空に向かって全力で弾幕を張った。
大量の銀色の弾丸が空に広がり、その中を宝石のような緑色の弾丸が駆け巡る。厳しすぎる修行の成果であるその力は、同年代の術者と比べても遥かに格上と思えるだけのものがあった。
それを見て、霊夢は感心したように頷く。
「へぇ……なかなかやるじゃない。でも、私のほうが上ね。見てなさい」
そういった瞬間、霊夢から強大な霊力が発せられるようになり、空に向かって赤と青の符の形をした弾幕が飛び出した。
それは先程までの銀と緑を覆い尽くし、それぞれの色が混ざり合って空を紫色に染め上げた。
その様子は圧巻と言うより他なかった。
「どう?」
「わぁ……すごいや……」
素直に称賛を述べる銀月に、霊夢はしたり顔を浮かべる。
そんな霊夢に、紫は笑みを浮かべて話しかけた。
「……霊夢、言っておくけど銀月は霊力よりも接近戦の方がメインよ? それに、銀月の一番の強みは……」
「……よし、僕もちょっといいとこ見せなきゃ……霊夢さん、見ててね」
銀月は気合を入れるように頬を叩いてそう言うと、収納札の中から普段使っている打ち込み用の藁人形と自分の槍を取り出した。
藁人形を設置すると、今度は霊力で銀色の球状の足場を三つ作り出す。
その足場は手前から右下、左中、正面上の三箇所に設置され、その奥に藁人形を臨む形になる。
「行くよ……たあっ!!」
銀月は槍を構えて一気に走り出した。
右下の足場を踏んで左中の足場へ跳び、更にそれを蹴って素早く正面上の足場へ。最後に正面上の足場に上下逆に着地し、それを蹴って藁人形に風を切って急降下しながら槍を突き刺した。
この一呼吸の動きの間、外に発せられた霊力は足場を維持するものしか感じられず、その動きの全てが己の身体能力のみで行われていることが霊夢と紫には分かった。
通常の人間の身体能力では考えられないその動きは、銀月の血の滲むような修行の成果であった。
「む〜……やっぱりお父さんや六花お姉ちゃんみたいに早く出来ないな〜……もっとこう、しゅばばばーって出来ないかな?」
動作を終えた銀月は藁人形や槍を札にしまいながら、不満そうにそう呟く。
銀月の頭の中では、もっと長い距離を眼で追えないくらいの速さで同じ芸当をする将志や六花の姿が再生されていた。
それに比べれば自分の動きは遅いと、銀月はそう考える。
そんな銀月を、霊夢は唖然とした表情で見つめていた。
「……ねえ、こいつ忍者か何か ていうか本当に人間?」
「だから言ったでしょう、妖怪みたいな人間って。滅茶苦茶な鍛え方をしたせいで、身のこなしが人間離れしてきちゃったのよ」
紫は苦笑交じりに霊夢にそう話す。
将志の華麗な槍捌きと愛梨の曲芸じみた身のこなし、六花の眼にも留まらぬ速さにアグナの精密機械じみた妖力の制御。
銀月は生き残りたいが故にその全てを目指し、倒れそうになるほど死に物狂いで修練を積んできたのだった。その様は、かつて将志が己が主を守れるように血反吐を吐くような修行をしたものに重なる。
そんな銀月に、何でそんなことが出来るのかわからない霊夢が声をかける。
「ちょっと、あんた普段どんな生活してるのよ?」
「え? 日が昇る前に起きて修行して、朝ごはんを作って修行して、愛梨さんから曲芸とかそういうのを習って修行して、お風呂に入って寝るくらいだけど……」
「……分かったわ、こいつ修行中毒なのね」
霊夢の問いに、銀月は平然とそう答えた。
その何かするたびに修行をしていると言う銀月の生活パターンを聞いて、霊夢は深く頷いた。
その一方で、紫が乾いた笑みを浮かべて銀月に話しかける。
「……銀月、貴方この前修行しすぎで将志に怒られたばかりじゃなかったかしら?」
「う……うん、昨日も怒られちゃった……で、でも、お料理したり笛を吹いたり、曲芸やお芝居したりして趣味も頑張ってるんだよ?」
修行ばかりじゃない、と必死に主張する銀月。
しかし、それを聞いて紫は苦笑いを浮かべた。体を休めるために趣味を教えたのに、銀月はその研鑽のために本気で取り組んで時間を費やしており、ちっとも休憩になっていなかったからである。
「それ、早く寝なさいって言われなかったかしら?」
「え、何で分かるの?」
「ねえ、あんたそれ本気で言ってるの? そんなにやる事だらけじゃ寝る暇なんてないじゃない」
キョトンとした表情の銀月に、霊夢が思わず口を挟む。
すると、銀月は納得が行かないと言う表情を浮かべた。
「そうでもないと思うんだけどなぁ……だって、お父さん達よりは寝てるもん」
「銀月、妖怪と人間を一緒に考えるのは危険よ。よく覚えておきなさい」
人間と妖怪を同列に考える銀月に、紫はそう警告した。
その横から、霊夢が話しかける。
「それに趣味のお芝居って何よ?」
「あら、お芝居が何か分からないのかしら?」
「「え?」」
銀月の口から発せられた紫の声に、二人は呆気に取られた表情を浮かべた。
「何よ、そんなに驚くことないじゃない。私はただあんた達の真似しただけじゃない……なんてね♪」
銀月は霊夢の声で言葉を紡ぐと、驚く二人を見ながら楽しそうに笑った。
しばらくして何が起こったのか理解したのか、紫が頷いた。
「声帯模写……もう、いきなり何事かと思ったわ。銀月ってそんなことも出来たのね」
「最初の声、胡散臭いところまで紫そっくりだったわ。隠し芸にはちょうど良さそうね」
「二人とも透き通った綺麗な声してるから、結構簡単だったよ」
銀月はにこやかに笑いながらそう言って二人の声を褒める。
「ふふふ、褒めるのが上手ね、銀月は」
「……どうでも良いわ」
素直な銀月の言葉に紫は嬉しそうに笑い、霊夢は気恥ずかしそうに顔を背けるのだった。
すると、どこからともなく腹のなる音が聞こえてきた。
「……そういえば、もうすぐお昼だね」
その音の主は、少々恥ずかしそうに頬を染めてそう言った。
「そうね。あ〜あ、お昼ご飯どうしようかしら?」
「あら、なら銀月に作らせて見れば? 料理の神様に習っているわけだし、きっと美味しいわよ?」
霊夢の呟きに、紫がそう提案する。
それを聞いて、霊夢は銀月のほうを期待に満ちた表情で見た。
「……本当に?」
「うん。お父さん、料理の神様でも有名って……」
銀月は自分の家庭環境を簡潔に述べ、紫の言葉を肯定する。
それを聞いた瞬間、霊夢の眼が光った。
「そう。なら作ってちょうだい」
「うん、分かった。それじゃあ作ってくるからちょっと待っててね」
銀月はそう言うと、台所に向かっていった。
しばらくすると、小気味の良い包丁の音がし、いい匂いが漂ってきた。
約三十分後、台所から銀月が料理を盆に載せて運んできた。
「はい。みんなお腹空いてるだろうと思ったから簡単なものにしちゃったけど、良かったら食べて」
そう言って銀月が持ってきた料理は、ほうれん草の胡麻和えに大根と里芋の煮物、きんぴらごぼうと南瓜の味噌汁にご飯と言う献立であった。
これらの料理は、銀月が将志に基本として教わった料理であった。
「ええ、それじゃあ頂くわ」
「……いただきます」
二人はそれぞれにそう言うと、料理に箸をつけた。
銀月はその様子を緊張した面持ちで眺める。
「……どうかな?」
「流石にあの将志に教えを受けているだけあるわね。なかなかの味よ」
「……良かったぁ〜……お口に合わなかったらどうしようかと思ったよ」
笑顔で述べられた紫の感想を聞いて、銀月はホッと胸をなでおろした。
その横で、霊夢は黙々と料理を食べている。
「……久々にこんなにしっかりした料理を食べたわ……」
「……え?」
霊夢の口から出た言葉に、銀月は首をかしげる。
「だって、前にこの神社に居たのは料理なんて出来なかったし、私も教えてくれる人が居なかったからからっきしなのよ これまで何度生煮えの米と野菜の丸かじりで過ごしてきたか……」
霊夢はホロリと涙をこぼして悲惨な食生活を語りながら、銀月の料理の味を噛み締める。
「た、大変だったんだね……」
そんな霊夢の食生活を聞いて、銀月は乾いた笑みを浮かべるしかないのであった。
そしてしばらくすると、突然霊夢は勢いよく銀月のほうを向いた。
「あんた、銀月って言ったわね?」
「う、うん」
「今度からうちにご飯作りに来なさい」
「え、え〜?」
身を乗り出して切実な表情を浮かべる霊夢からの突然の提案に、銀月は思わず間の抜けた声を上げる。
そんな銀月に畳み掛けるように、霊夢は話を続ける。
「どうせ修行ばっかりして、休めって怒られてるんでしょ? だったらその分ここでご飯作りなさいよ」
「え、えっと、僕が教えてあげるから、自分で作ったりとか……」
「嫌よ、めんどくさい。それに、出来る人がやった方が確実でしょ?」
銀月の提案をノータイムで棄却する霊夢。
霊夢の発言に、銀月はどうすればいいのか分からないといった様子で俯く。
「それはそうだけど……」
「そういう訳だから、明日から宜しく〜」
「ええっ!? ちょっと待ってよ! 家からここまですっごく遠いんだよ!?」
霊夢の勝手な発言に、銀月は慌てて声を上げる。
「良いじゃない、全力で空を飛んでくればあんたの大好きな修行にもなるわよ?」
「あ、そっか……空を飛ぶ練習にもなるね……」
しかし、次の霊夢の発言に納得したように頷いた。
そんな銀月に、紫は乾いた笑みを浮かべた。
「そ、それで納得しちゃうのね……本当に大丈夫なのかしら?」
「アグナお姉ちゃんが言ってたんだけどね……無理って思ったら無理なんだ。出来なかったら、出来るようにするんだ!」
銀月は勢いよくそう言って、気合を入れた。
「……流石はアグナ、凄い熱血ぶりね……」
それを見て、紫は銀月に根性論を吹き込んだ張本人を思い浮かべ、苦笑いをする。
「まあそれはともかく、これで食事係ゲットね」
その横で、霊夢はホクホク顔で料理を食べるのだった。
「……あ、お湯が沸いた。ちょっと待っててね」
食後、銀月は火に掛けていたやかんの水が沸騰しているのを確認すると、再び台所に向かっていった。
その様子を、紫はジッと眺めている。
「本当、将志に似てよく働く子ね。霊夢も少しは見習ったら?」
紫はそう言って、霊夢を見やる。
「私は無駄なことはしない性質なのよ。出来る人に任せた方が効率がいいし」
一方、霊夢は座布団を枕にし、畳張りの床に寝転がったまま紫に答えを返す。
それを聞いて、紫はため息をついた。
「貴女は出来なさすぎよ。銀月みたいにしろとは言わないけど、もう少し努力して見なさいな」
「大きなお世話よ」
霊夢は不機嫌そうにそう言うと、寝返りを打って紫に背を向けた。
そんな中、銀月がお盆に三つの湯飲みを載せて居間に戻ってきた。
「お茶が入ったよ。はい、どうぞ」
銀月が部屋の真ん中にあるちゃぶ台に湯飲みを並べる。
すると、霊夢は起き上がってのそのそとお茶を飲みに来た。
「ありがとう……ふぅ、他人が淹れるお茶は美味しいわ」
「そう? 喜んでもらえて嬉しいよ、霊夢さん」
銀月は霊夢にそう言って笑いかける。
すると何かが気に入らなかったのか、霊夢は不愉快そうに眉をひそめた。
「その呼び方やめてくれる? 面倒だから霊夢でいいわよ」
「うん、わかったよ、霊夢」
銀月はぶっきらぼうな霊夢の言葉に素直に頷く。
そんな銀月に、紫が声を掛けた。
「ところで銀月、貴方ここから銀の霊峰までの帰り方って分かるのかしら?」
「ここから家までの帰り道は見えるから分かるけど……こっちに来る時が分かんないかも」
「あら、ここに来るのも簡単よ。東に向かって飛んで、結界にぶつかったら壁沿いに探せば見つかるわ。それに、銀月なら結界の基点を探せば見つけられるはずよ」
「そうなんだ……う〜ん、結界の勉強しないと……」
紫の話を聞いて、銀月はうなり出した。どうやら、苦手な分野の話の様である。
そんな銀月に、霊夢がため息混じりに口を挟む。
「あんなの簡単じゃない。基点を作ってそこから展開すれば良いだけじゃないの」
「でも、僕はちょっと苦手なんだよね……」
「じゃあさっさと覚えなさいよ。私のご飯が懸かってるんだから」
「うん、頑張る。それじゃあ、家帰ったら早速勉強しないと」
自分の生活が懸かっているせいか語気が強い霊夢に、銀月は頬を叩いて気合を入れながらそう言って答える。
その様子を見て、紫が苦笑いを浮かべて止めに入る。
「そんなに焦る必要はないわよ。霊夢はその辺りの才能は凄いから簡単に見えるだけよ?」
「ううん、僕はやるよ。みんなに追いつきたいなら、僕はみんなよりもずっと多くの練習をしないといけないんだから!」
「いい加減にしなさい、銀月!!」
突如として、紫は声を張り上げて銀月を叱りつけた。
「えっ……」
いきなり怒られて、銀月はわけが分からず呆然とした表情を浮かべる。
そんな銀月に、紫は深々とため息をついた。
「全く……何でこの子はこんなに余裕が無いのかしら? そんなことしていたら、妖怪に襲われる前に過労で死ぬわよ? これ、将志や愛梨達が何度も言っているはずよ?」
「あう……」
紫の言葉を聞いて銀月は肩を落とし、しゅんとしょげ返ってしまった。
そんな銀月を宥めるように、紫はそっと抱きしめた。
「それに、本当なら貴方は強くなる必要すらないのよ? 貴方がどんなに弱くても、将志や銀の霊峰の皆が貴方を守ってくれる。彼らが動けなかったら、私が守ってあげるわ。だから、無理だけはしないでちょうだい。強くなりたいのは分かるけど、それで倒れてしまっては元も子もないのだから」
「うん……」
打って変わって優しく囁くように諭してくる紫に、銀月は眼を合わせずに頷く。
そんな銀月に、紫は話を続ける。
「これは約束よ? 貴方のお父さんは絶対に約束を破らなかったわ。貴方にそれが出来るかしら?」
「……約束する。もう、絶対に破らない」
銀月は顔を上げ、真っ直ぐな瞳で紫の眼を見つめてそう言った。
父と慕う将志の背中を追いかける銀月に対して、紫の言葉は抜群の効果を示しそうであった。
紫は銀月の視線を受け止めると、微笑を浮かべて銀月の頭をそっと撫でた。
「うん、宜しい。破ったらきつ〜いお灸を据えてあげるから、覚えておきなさい?」
「うん」
紫の言葉に、銀月は力強く頷いた。
そんな二人のやり取りを、面白く無さそうに見つめる者が約一名。
「……紫、私と銀月で待遇に差があるような気がするのは気のせいかしら?」
「別に神事とかをサボったりしなければ何も言わないわよ? それに、銀月は頑張ってるし可愛いから、つい優しくしたくなっちゃうわけ。お分かり?」
「……むかつくわね……」
薄く笑みを浮かべる紫の言葉に、霊夢は苛立ちを隠さずに睨みつけた。
そんな霊夢を気にも留めず、紫は銀月に声を掛けた。
「さて、そろそろ戻るわよ、銀月」
「あ、うん。ちょっと待って、台所がまだ片付いてないんだ」
銀月はそう言って台所に駆け込もうとする。
その後ろから、霊夢が声をかける。
「その前に銀月、今日の晩ご飯用意して行きなさい」
「それならお昼の残りがまだ一人前ずつ位残ってるんだけど……それじゃダメ?」
「……まあいいわ。それじゃ、明日からも宜しく」
霊夢は今日の夕食が確保されていることを確認すると、居間に寝転がった。
そんな霊夢を他所に銀月は大急ぎで洗い物を片付け、紫の元へと駆け寄った。
「終わったかしら? それじゃ、戻るわよ」
「うん」
銀月が手を繋ぐと、紫はスキマを開いて中へと入っていった。
「……藍、これはどういうことか説明してくれるかしら?」
マヨヒガに着くと、紫は藍に状況を説明するように促した。
「その、少しやりすぎてしまいまして……」
藍は罰が悪そうな表情を浮かべて紫にそう言った。着衣は少々乱れており、慌てて直したことが良く分かる。
「…………」
「お父さん、顔真っ赤……どうしちゃったんだろう……」
その傍らで、銀月は顔を真っ赤にして眼を回している将志を前に呆然と突っ立っていた。
槍ヶ岳 将志、キスより先のことはまだまだのようである。
説明 | ||
妖怪の賢者に連れられてスキマを潜った銀の月。そこでであった人物とは。 | ||
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銀月と霊夢、初顔合わせの巻。それにしても、初日から銀月の料理に餌付けされ、巧みに言い包めて食事係に据える霊夢の様子を見てると、最初から二人の立場は男女逆転してたんだなと思えて仕方が無いww(クラスター・ジャドウ) そういやすごく今更な疑問だけど、将志の許容ダメージってどれ位なんだろうか?青い柿で気絶するけど、突風とか質量が無ければダメージは無し……だとしたらマシュマロとかでも大丈夫だろうから……やっぱり分らん(神薙) |
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