とある 美琴メイドin上条家
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美琴メイドin上条家

 

 大覇星祭が終了して数日後の日曜日午後1時。

 御坂に呼び出された俺は指定された街中の一角で手持ち無沙汰に待ち人の到来を待っていた。

「一体何の用なんだろうな?」

 御坂とはいつも偶然ばったり会ってバトルしたり、戦いに巻き込まれたりする仲。

 いつも戦ってばかりな気はするが、とにかく呼び出しという事態は初めてだった。

 御坂に呼び出されるような理由も思い付かず、従って何か事前準備をするでもない。

 ただボケっと彼女の到着を待つのみだった。

 

「おっ、お待たせいたしました。ご、ご主人様っ!!」

 背後から突如雷のように激しい大声が突き刺さって来た。

 俺をご主人様と呼ぶ知り合いは確かいなかったよなと思いながら恐る恐る振り返る。

 そこにはシックな黒いドレスに白いフリフリエプロンを付けたメイドさんが立っていた。

 これはメイド喫茶の新手の勧誘だろうか?

 いや、そうでもなさそうだった。

 何故なら声を掛けてきたのは俺の知り合いだったから。

 というか、御坂だった。

 待ち人来たるだった。

 

「御坂さんは一体、何をしていらっしゃるのですか?」

 頭を掻きながら丁寧に尋ねる。

 何故だろう?

 メイド御坂を見ていると物凄い不安が胸の奥から込み上げてくる。

 凄く似合ってて可愛いのだけど、何故か死の予感がしてならない。

 上条当麻はきっと今日死ぬ。そんな気がヒシヒシとする。

 どうしてそんな結論に至るのかまるで分からないが。

「だから今日はわ、私がご主人様のメイドになって1日ご奉仕する日なのっ!!」

 大声で叫ぶ御坂。その御坂は大声で叫ぶことにより恥ずかしさを打ち消そうとしているようだった。

 でもそれは逆効果だ。

 何故ならここは街中だから。

 ただでさえ珍しいメイド学生。そのメイド学生が大声で叫び出したとなれば人々の注目を集めないわけがなかった。

「とりあえず逃げるぞ、御坂っ!」

 御坂の手を取って走り始める。どこでも良いから人目に付かない所まで逃げる。

 それが俺の今の成すべきことだった。

「…………はいっ。ご主人様」

 御坂は何故か嬉しそうな声を出しながら俺に手を掴まれたまま走って付いて来た。

 

 結局俺達はいつもの公園まで逃げて来る羽目に陥った。日曜日なので街中はどこも人でいっぱいだったのだ。

「で、そろそろその格好のわけを話してくれると嬉しいんだが」

 息を整えながら御坂の顔を見る。このお嬢様はメイド服姿で走っていたというのにほとんど息も乱していない。能力だけでなく体の方もタフらしい。

「だから、私はアン…ご主人様のメイドとして今日1日ご奉仕する為にこの格好を……」

 けれど言うことは相変わらず意味不明。

「いや、御坂が俺のメイドになるって時点でわけが分からないんだが?」

 土御門の妹の舞夏とメイド勝負でもしているのだろうか?

「あ、アンタ……じゃなくてご主人様が大覇星祭で私に勝ったから。罰ゲームとしてご主人様の好きそうな服装でご奉仕してあげることにしてあげたのよ!」

「大覇星祭? 勝つ? ああ、そう言えばどっちの学校の点数が上かで勝負してたな。負けた方は罰ゲームで何でも言うこと聞くって条件で」

 ようやく思い出した。

 

「で、お前は俺が願いそうな罰ゲームを予め叶えていると」

「そ、そういうことよ。この私がアン…ご主人様のメイドをやってあげるというのだから感謝しなさいよね」

 胸を張る御坂。

「別に跳ねっ返り娘の御坂さんにメイドになって欲しいとも思いませんけどね」

「何よ。私のメイド姿を見て本当は飛び上がるぐらいに喜んでいるんでしょ?」

「いや、別に俺は土御門や青髪みたいにメイドマニアってわけじゃないんだが」

 男はみんなメイド萌えと思われるのは心外だ。

「だったらアンタ…ご主人様はどんな服装だったらお望みだってのよ?」

 御坂はちょっと拗ねた声を出す。

「どうせ、スケベなアンタのことだから水着とかレオタードとか着せたいんでしょ?」

 そしてジト目を向ける。それが男の本性だと言わんばかりに。

 ならば上条さんも言わねばなるまい。

「大人の色香も漂う女子高生と毎日学校の中で触れ合っている上条さんに言わせれば、御坂のその幼児体型で水着を持ち出すのは愚の骨……ちょうぉぉおおおおっ!?!?」

 最後まで言う前に強烈な電撃を浴びました……。

 

「ご主人様、それ以上言うならIHでこんがりするわよ」

「してから言うなっ!」

 服装と呼び方は変わっても御坂の中身はまるで変わらない。当たり前の話だが何か納得がいかない。

「で、ご主人様はどんな格好がお気に召すのよ? この格好、そんな似合ってない?」

 そしてまたふて腐れるように意気消沈するメイドお嬢様。

「似合ってなくはないぞ。むしろ可愛い」

「へっ? ……か、かか、可愛いっ!?」

 御坂の顔が真っ赤になった。また何か怒らせただろうか?

 

「でも、上条さんとしてはそんな色物な格好をされるよりも私服姿の御坂を見せて欲しいんだがなあ」

 常盤台中学は休日の外出でも制服着用を義務付けている。その為に御坂の私服というのはお目に掛かったことはほとんどない。

 というか、今日のメイド服といつかのドレス姿以外見たことがない。

「…………う、うん。分かった。次からは私服で行動するから」

「でも、常盤台は制服着用の義務があるんだろ?」

「…………私、明日から柵川中学校に転校するから私服で街歩いても全然問題なくなる」

「そんな理由で転校しちゃ絶対駄目だからなっ!」

 何なんだ、今日の御坂は?

 メイド服姿の時はご主人様に絶対服従とか自分ルールでも定めているのだろうか?

 

「そんなにあの時の賭けをマジに受け取らなくて良いのにな……」

 あの大覇星祭の賭けを俺はそんなに重視していない。

 というか、ただ御坂に全力で勝ちたいと思っていただけで罰ゲームの内容なんて全然考えてもいなかった。

 本当に紙一重の激戦だった。その戦いに勝利を収められたのだからそれだけで満足して罰ゲームのことなんてすっかり忘れていた。

 あの戦いはそれほどまでに激しいものだった。

 

 

 

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 大覇星祭最終日。

 この日の最後の競技にしてこの祭りで最大の得点が配分される八対八の何でもありの格闘団体戦大威震八連制覇(だいいしんぱーれんせいは)。

 大覇星祭の名前の由来にもなったというこの命を賭けた格闘競技で俺と御坂は賭けの決着をつけることになった。

 点数は常盤台中学が大幅リード。けれどこのバトル大会で優勝すれば逆転勝利が可能だった。

 大会の決勝に勝ち残って来たのは俺の通う高校と常盤台中学。というかレベル5を2人擁し、その他のメンバーも全員レベル4という超精鋭軍団にマジバトルを挑もうという学校は俺達の他に存在しなかった。

 というわけで最初の戦いがいきなり決勝戦となった。

 そしてその死闘でMVPの活躍を見せたのが意外や意外、あの青髪ピアスだった。

『常盤台のお嬢さん達とくんずほぐれず触れ合えるなんてボクは幸せ者やでぇ〜』

 奴は相手が怖い能力者であるとかそんな事情は一切無視して女子中学生と合法的に触れ合える機会に悦に浸っていた。

 その気持ち悪さが俺達を勝利へと導く原動力となった。

 

『御坂さんの出番はないからぁ〜安心してねぇ〜私の調教力を見せてあげるわぁ〜』

 常盤台中学の先鋒は食蜂操祈。レベル5の序列第5位で、学園都市最強の心理掌握(メンタルアウト)の使い手として精神に関する事ならなんでもできる恐ろしい少女。

 外見は巨乳で長い金髪の美少女という男の夢を集めたような存在。で、あるのだが、女王様という異名が示す通りえげつない子でもあった。

『うっひゃぁ〜〜っ♪ ボインボインの金髪の可愛い子ちゃんや〜〜♪ お兄さんが大人の男ってのがどういうもんかじっくりたっぷり教えてあげるで〜♪』

 そしてそんな危険な女王様に対しても一歩も引かない青髪。ていうかやる気が限界を超している。まあ青髪の気持ちも分からなくはなかった。

『どっ、どこを私と見比べてんのよっ!!』

 青髪も相手が御坂だったらあそこまでロマンを掻き立てられることはなかっただろう。俺も青髪に1票だった。

『お姉さまは奥ゆかしい胸だからこそ素晴らしいというのに……これだからおっぱい星人どもは。はっ』

 通を自称する白井は御坂の胸にタッチしながら俺と青髪の態度を小ばかにした。そして御坂に黒コゲにされていた。

 そんな中、いよいよ青髪と食蜂の第一戦が始まりを──

『ごめん。生理的にぃ……無理ぃ』

 告げる前に試合終了のゴングが鳴った。

 食蜂は鼻歌交じりに陣地に戻っていき

『あの人に触れられるとぉ……妊娠しちゃうかもぉ』

 きっと青髪の頭の中を覗いたのであろうシミュレーション結果を常盤台のお嬢様達に意地悪く話した。否定し切れない凄くリアルな話だった。

 そして食蜂の忠告の効果は覿面だった。

 

『戦いを、じっ、辞退します〜〜っ!!』

 常盤台のお嬢様達は次々に戦いを辞退した。能力は強くてもお嬢様学校故に男の下卑た欲望には弱かった。

 こうして青髪ピアスは一度も拳を振り上げることなく常盤台のお嬢様を6人抜き果たすという前代未聞の快挙を成し遂げたのだった。

 

『婚后光子まで戦いを辞退するとは本当に嘆かわしい。ですが、お姉さまの露払い役はこの黒子1人で十分ですのっ!』

 そして7人目、副将として登場したのが復活を果たした白井黒子だった。

『ハァハァ。ロリツインテール。しかも“ですの”口調っ! これはボクに萌えの神が降臨したとしか思えへんでぇ〜〜♪ でへでへでぇへっへえへへ♪』

『わたくしもやっぱりこの方は生理的に……きっ、気持ち悪くて演算が出来ませんの!? って、抱きつかないで欲しいですのっ! は、離して……きゃあああああああぁっ!?』

 青髪は白井を抱き締めたまま底が見えない穴の中へと落ちていった。

 白井はその後テレポートで無事に帰って来た。しかし場外に出たと判断されて両者ノックアウトになった。

 青髪は……次の団体バトルシリーズになれば何事もなかったのように戻って来るだろう。その時までお別れだ。

 次の団体バトルシリーズがあるのかは激しく疑問だが。

 

 とにかくこれで常盤台中学は大将御坂を残すのみとなった。

 一方で俺達の学校はまだ7人の戦士が……

『カミやんが負けたら俺らは一斉に降伏する準備が出来ているんだにゃ』

『あたしは大会運営は得意だが戦闘はからっきしだからな。任せたぞ、上条当麻』

『上条……頑張れ』

 どうやら俺の学校も、俺1人が最後の戦力らしかった。

『勝負だ、御坂っ! 俺とお前で勝った方が大覇星祭の勝者だっ!』

『面白いわねっ! 今日こそアンタとの決着をつけてやるんだからっ!』

 大会のラストは俺と御坂の一騎打ちになった。

 

 俺と御坂のバトルは熾烈を極めた。

『アンタの右腕がどんな効果を持っているかは……もう予測が付いているんだからっ!』

 何度も戦い、そして俺のバトルを何度も見て来た御坂は俺のことをよく研究していた。

『答えは……これよっ!』

『チッ!』

 電撃や砂鉄剣などによる直接攻撃は牽制に限定。右手が届かない足元を狙うものばかり。

『そしてこれが……能力をキャンセルするアンタへの対処法よっ!』

そして本命は闘技場のリングを電撃で叩き壊すことにより発生する破片の投擲だった。破片が次々と体に飛んできて痛い。

『確かに御坂の予測は間違っちゃいねえ。けどな、そんな小石を幾らぶつけたって俺は倒せないぞっ!』

 けれど、何度も戦って御坂の動きを研究しているのは俺も同じだった。それに加えて巨大な穴の中に聳え立つ円柱状の巨岩を削った闘技場という地形が俺に有利に作用した。

 御坂は俺に大きな石や岩をぶつけようとした。けれど、この闘場ではそれをうまく確保出来なかったのだ。

 その結果、御坂は決定力に欠けて俺を攻め切れないでいた。

 

『いい加減、参ったしなさいよっ!』

『それは俺のセリフだってのっ!』

 一進一退の攻防が続く。

 戦いはいつ果てるともなく続く。俺達の体力はドンドン削られていく。

 俺も御坂も体力の限界が近付いて来ていた。

 けれど、この段階において俺と御坂には大きな差が生じたのだった。

『フレーっ! フレーっ! か〜み〜や〜〜んっ! 雑草魂を見せてやるんだにゃ〜っ!』

『上条当麻っ! あたしは、この吹寄制理はお前の勝利を信じているぞ〜〜っ!』

『上条……勝って!!』

 クラスメイト達が……声を枯らしながら懸命に俺を応援してくれていた。俺の勝利を必死になって祈っていた。

 それに比べて……。

『応援席には誰もいない、か。フッ』

 会場内に残っている常盤台生徒は皆無だった。

御坂の勝利を確信しているお嬢様達は試合に興味をなくしてしまい早々に帰ってしまったのだ。

 唯一残ろうとしていた白井も検査の為に強引に連れて行かれた。

 その結果、御坂応援団は0だった。

 

『私が先鋒で出るべきだったかしらね』

 ニヒルに笑いながらその内面の傷心を隠しきれない御坂。そんな彼女が次に採った行動は最大級のやけっぱちの攻撃だった。

『せめてこの勝負だけには絶対に勝ってやるんだからぁ〜〜〜〜っ!!』

 御坂が最大級の電撃を闘技場の中央に打ち込む。石の床が数メートルも抉れ、その分だけ大きな岩や礫、そして砕けた土が俺に向かって吹き飛んできた。

『うぉっ!? ……うん?』

 それは確かに凄い質量だった。

 けれど、精度の点から言えば最悪で俺は地面に伏しているだけでその攻撃を簡単に避けることが出来た。身体に土を被ったのが俺の被害の全部だった。

 

『なあ、御坂。もう止め……』

 辛そうな表情をしている御坂に戦いの中止を提案しようとした時だった。

『『へっ?』』

 突如地面が激しく揺れた。

 御坂の度重なる攻撃に闘技場が耐えられなくなっていたのだ。

『きゃっ、きゃぁああああああああぁっ!!!』

 半壊して崩れ落ちる闘技場と共に奈落の底に落ちていきそうになる御坂。

『御坂ぁあああああああああぁっ!!』

 そんな彼女の手を必死になって掴んで引っ張りあげた。俺がその日、初めて右腕の正しい使い方をしたと自信を持って言える瞬間だった。

 

『大丈夫か?』

『…………うん』

 御坂を引き上げて闘技場の崩れていない部分まで彼女を連れて行く。

 御坂は俺に握られたままの右手を見ながら言った。

『…………あ〜あ。これはさすがに私の、負けね』

 御坂が負けを宣言したことにより大威震八連制覇は俺達の高校の優勝が決定した。

『やった。やったんだにゃ〜』

『フム。あたしは上条当麻が勝つと最初から信じていたぞ』

『…………お疲れ様』

 歓喜の声を上げるクラスメイト達。

 でも、俺はそれよりも

『…………その、助けてくれて……ありがとう』

 顔を赤くしてお礼を言う御坂の方に心奪われていた。

 御坂の命を救えたことが俺にとっては何よりも大切だった。

『御坂が無事で、本当に良かったよ』

 こうして大威震八連制覇はその戦いの幕を閉じたのだった。

 

 そんな経緯だったので俺は罰ゲームのことを御坂に言われるまですっかり忘れていたのだった。

 

 

 

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『それで御坂さん、折り入って相談って一体なんですか?』

『佐天さん、それはね……』

 土曜日の午後、私は佐天さんをいつものファミレスへと呼び出していた。

 黒子にも初春さんにも内緒でごく極秘裏に。

『いや、男心ってものについてちょっと知りたくてね』

『男心と言われましても……残念ながら佐天さんも男性と付き合ったことはないのでご期待に応えられるかは計りかねるかと』

 パフェの生クリームを口元に付けながら佐天さんは苦笑してみせた。

 

『そっ、そんな大層な話じゃなくて、ごく一般的な男の反応を聞いてみたいだけだから』

 慌てて佐天さんの想像を修正しに掛かる。

『一般的な男の反応、ですか?』

『うん。佐天さんってクラスの中で普通に男子と喋っていそうな感じがするから男子の反応にも詳しいんじゃないかと思ってね』

『まあ確かに私は男女構わずにペラペラと話し掛けては男女共に煙たがられたりするキャラクターではありますけどね』

 佐天さんはもう1度苦笑してみせた。

『で、私に尋ねたい男子の反応とは?』

 佐天さんの瞳が細まった。

『実はさ、男子高校生の知り合いと賭けをして負けちゃったのよ。何でも言うことを聞くって罰ゲーム付きの賭けにね』

 少し笑い飛ばす感じで大したことじゃないことをアピールする。

『それでさ、その男子高校生から……どんなことを要求されるって佐天さんは思う?』

 佐天さんの顔が引き攣った。

 

『賭けって一体どんな勝負をしたんですか? 勝負の重みによって、罰ゲームの重みも変わって来ると思うのですが』

 佐天さんの意見はもっともなことだった。

『えっと、最後にやったのは文字通り命を賭けた真剣バトル。私はソイツに命を助けてもらったことで賭けは終了、かな』

 あの時当麻が手を伸ばしてくれなかったら私が死んでいたのは間違いなかった。

 私の右手には今も当麻が握ってくれた感触が残っている。

『えっ? その男子高校生はレベル5の御坂さんと本気で戦ったんですか?』

 佐天さんの表情が更に引き攣った。

『うん』

『相手の人もレベル5とか?』

『ううん。能力をキャンセルする変な力は持ってるけど、レベル0の無能力者』

『無能力者相手に本気で戦うなんて……』

 佐天さんのジト目が厳しい。

『でも、ほらっ、最終的には私が負けたんだし。だから問題ないわよ』

 いじめと思われているかも知れない事態を結果によって覆そうと試みる。

 負けたことを強調するのは正直自分でも馬鹿っぽい気がするのだけど仕方ない。

『つまり、相手のその高校生は圧倒的に不利な条件の賭けに勝ったと』

『ま、まあそうね』

『その男性には命を賭けてでも御坂さんを倒して聞いて欲しい願いがあったから戦ったと』

『そういうことに……なるの、かしらね』

 論理的に考えると佐天さんの言う通りになる。アイツにそんな深い考えがあるかは不明だけど。

 

『で、佐天さんはアイツが一体何を要求して来ると思う?』

 佐天さんは更に瞳を細めて私を睨むように見ている。

『それにお答えするにはまだ聞かないといけないことがありますね』

『えっ? 何を?』

 佐天さんが怖い顔をしたまま顔を近付けて来た。

『御坂さんとその男性の関係についてです』

『関係?』

 首を捻る。

『その男の人って……ぶっちゃけ、御坂さんの恋人なんですか?』

『へっ?』

 佐天さんの言葉の意味が分からなくて一瞬、脳が反応を停止する。

 でも、その言葉はちょっと考え直すとその意味は簡単に理解できるもので。

 私が示した反応はごく簡単なものだった。

『ちっ、違うからぁっ! 当麻は私の恋人でも彼氏でも何でもないんだからぁ〜〜っ!』

 大声で否定する。

 それが私の答えだった。

『じゃあ御坂さんは恋人でも彼氏でも何でもないレベル0の男子高校生相手に、負けたら何でも言うことを聞いてあげるという罰ゲームを賭けてマジバトルを挑んで敗れたと』

『まあ、そういうことになるわね』

 佐天さんの瞳がより厳しいものに変わっている。

 

『じゃあ、最後の質問です』

『うん。どうぞ』

『その人のことを御坂さんは……好きなんですか?』

『はひっ?』

 また間抜けな声が出た。

 でも、今度の質問もまたちょっと考えれば何を聞かれているのか簡単に理解できるものだった。

 そして私が示した反応もまたごく簡単なものだった。

『わっ、わわっ、私が当麻のことを好きなんてあるわけがな〜〜〜〜いっ!!!』

 大声で否定する。

 それが私の回答だった。

 

『はいはい。その反応だけでもう十分です』

 佐天さんはやる気なさそうにパフェを口へと運んでいる。

『ちょっと佐天さんっ! 絶対誤解してるって!』

 私が当麻のことを好きだなんて思われるのは酷い心外だった。

『大丈夫大丈夫。誤解なんてしてませんから』

『本当?』

『はい。御坂さんはその当麻という方を何とも思っていないのはよく伝わってきましたから』

『そう。なら良いけど……』

 何か釈然としないけれど佐天さんがそう言うのなら信じるしかない。

『……常盤台のお嬢様って本当に単純、いえ、純真ですね』

『うん? 何か言った?』

『いいえ。何も』

 佐天さんはパフェを食べ終わり澄ました顔で口元を拭いた。

 

『それで、結論は?』

 佐天さんは天を仰いだ。そして私の顔を見ながら手をポンっと叩いた。

『御坂さんには女としての幸せは諦めてもらうしかない展開が待っているでしょうね』

『ええぇっ!?』

 佐天さんの意見に激しい衝撃を受ける。

『そ、それってどういうこと?』

『んもぉ♪ うぶなねんねじゃあるまいし、御坂さんだって本当はもう分かってるんじゃないですか?』

 佐天さんはニタニタと意地悪く笑みを浮かべながら私を覗き込んでいる。

『なっ、何のことか私には分からないわよ……』

 必死に分からないふりを続ける。でもそんな逃げを佐天さんは許してくれなかった。

 

『そんなの決まってるじゃないですか。その当麻って人は……御坂さんが欲しいんですよ』

『当麻が私を……欲してる……ぷしゅ〜』

 私の頭は熱暴走する直前まで追い込まれてしまっていた。

だって、それって、それって……。

『御坂さん、確実に体を求められますね♪』

『かっ、かっ、体って!? そ、そんな大それたこと、幾ら当麻でも要求する筈が……』

 全身が真っ赤に染まっているのが自分で分かる。

 と、当麻が私を欲しているだなんて。

 あっ、頭が本当に変になるぅううううううぅっ!!

 

『何言ってんですか? その当麻さんは命を賭けて御坂さんに勝ったんですよね。そんなの御坂さん自身が欲しいからに決まってますよ。他に成り立つ対価がありませんもん』

『たっ、たた、確かに当麻の命の対価になるのはわ、私自身かも知れないけど……でも、当麻がそんなことを……』

 佐天さんの意見を否定しようと必死に頭を回す。私の知る当麻はエッチな部分もあるけど紳士でもあるのだから。

『御坂さんは甘いです。性欲しか頭にない年頃の男子が美少女に望むことなんて一つしかありませんよ』

 佐天さんはビシッと指で差して来た。その表情はあまりにも自信たっぷりで、彼女の言うことが正しいような気が強くした。

『で、でも……恋人でもないのにそんな関係になろうとするなんてやっぱりおかしい…よ』

 私はまだ中2なんだし、そういうのはまだ早いと思う。

 それに、もしそうなるにしても恋人同士でちゃんとした手順を踏んでからそういう関係になりたい。

 

『だったら話は簡単ですよ』

 佐天さんがパンっと手を叩いた。

『御坂さんがその当麻さんに告白して2人が恋人同士になっちゃえば良いんですよ♪』

『ホワット?』

『そうしたら2人は恋人同士だから何をお願いされてももう大丈夫ですよね♪』

 佐天さんはすっごく良い顔している。最高の名案出しましたって感じ。

『そっ、そんなこと言われたって無理なものは無理〜〜〜〜っ!!』

 大声で絶叫する。

 大体私に当麻に告白できるような素直さがあるのならあんな風に勝負勝負言い続ける必要はないのだ。

 

『じゃあ御坂さんは当麻って人の……初春がよく読む薄い本で言う所の肉奴隷になっちゃいますね。お先真っ暗です…………初春の漫画はみんな男同士ですけど』

『にっ、肉奴隷っ!? そ、そんなの絶対絶対絶対駄目なんだからぁ〜〜っ!!』

 首を激しく左右に振りながら佐天さんの考えを否定する。

 当麻の部屋に監禁されて無理やり酷いことされる日常なんて絶対嫌っ!

 ど、どうせだったら……。

『じゃあ、当麻って人とラブラブになって裸エプロンでお料理してあげる明るい未来を』

『だからそれも無理だからぁあああああぁっ!!』

 佐天さんに私が妄想した内容を見透かされたようで全力で打ち消す。

『あれも駄目。これも駄目ってこれだから最近の若者は。ハァ〜』

『いや、私、一応佐天さんより年上なんだけど……』

 大きく溜め息を吐く佐天さんに小さく反論する。

 

『とにかく、当麻って方の願望が明らかである以上、そして御坂さんがその結果を望まない以上、採るべきは代償行動です』

『代償行動?』

 佐天さんは力強く頷いてみせた。

『そうです。当麻という方の御坂さんへのエッチな欲望を、先手を打って御坂さんが叶えられる範囲の行動で別の形にして満たしてしまえば良いんですよ』

 ニッコリと笑う佐天さん。

『思春期の男子なんてある意味チョロいですから、メイド服着て“御主人(はぁと)”って呼んであげて家事でも適当にこなしてあげればすぐに満足してくれますよ♪』

『そ、そんなものなのかな?』

 同世代の男とほとんど触れ合ったことがない私には佐天さんの言うことが真実なのかは分からない。でも、佐天さん以外に頼れる人がいないのも事実なわけで……。

 

『代償行動で満たしてあげなければ……御坂さんは来年にはママさん確定ですね♪』

 佐天さんはとても良い顔で笑った。

 とても良い顔過ぎて……私にはもう反論する気力が生じなかった。

『分かった。当麻の欲望を私が管理しながら満足してもらうことにする。その、メイド服でご奉仕することで……』

 私は佐天さんの提案を受け入れることにした。

『……計画通り。これはちゃんと見物、いえ、応援させてもらわないと』

 佐天さんは顔をとても艶々させていた。

 何か騙されている気がするけれど、佐天さんの言う通りにするしか私に道はなかったのだった。

 

 

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「と、とにかく今日の私はアン…ご主人様の専属メイドなんだからねぇっ!!」

 御坂は相変わらず顔を真っ赤にしながら大声で訴え続けている。

 多分熱暴走中で自分が何を言っているのか理解していないっぽい。

 まったく、普段はクールを気取っている癖に熱くなると誰よりも困ったちゃんになってしまう難儀なお嬢様だな。

「専属メイドって、具体的には何をしてくれるんだ?」

「そんなもんっ、お料理でもお洗濯でもお掃除でもお買い物でも何でも言い付ければ良いじゃないのよっ!」

「何で言い方がそんなに横柄で好戦的なんだ?」

 コイツはメイドを自称する暗殺者なんじゃないだろうか?

 

「じゃあ御坂は俺の家に来て家事をこなしてくれるってことなんだよな?」

 御坂の暴走がピタッと止まった。

「そそそ、そそそそ」

 いや、止まったと思ったのは間違いだった。

 全身を震わせながら再び怪しい再稼動を始めた。

「そういうことになるのかしらね?」

「いや、少なくとも掃除は俺の部屋に来てくれないと出来ないだろ?」

「レールガンでアン…ご主人様の寮ごと吹き飛ばして新築に引っ越すことをもって掃除とするとか?」

「どんだけ周囲に被害をもたらす掃除をする気なんだよっ!」

 ドジッ娘キャラの比じゃないぞ。その掃除の破壊力は。

 

「しっ、仕方ないわね」

 御坂が急に踏ん反り返って薄い胸を張りながら鼻から大きく息を吐き出した。

「この私が当…ご主人様の家に行って世話をしてあげるんだから感謝しなさいよね!」

「一方的な言い分だよな。おい」

 御坂の言い方の乱暴さに呆れ返ってしまう。

「わっ、私が当麻…ご主人様の家にありがたくも上がってあげるんだから、私のこと一生幸せにしてくれないと許さないんだからっ!」

「一生幸せってどんな無茶苦茶メイドだよ」

 女の子が、しかもメイド服美少女が家に来て世話をしてくれるというのに疲れが溜まっていくのは何故だろうか?

 まあ、考えるまでもないよな。答えはその美少女が御坂だからだ。他に説明のしようがない。

 

「あ、アンタ…当麻…ご主人様こそ私を家に上げる準備は出来てるんでしょうね?」

「準備、とは?」

 御坂が顔を赤くしながら目を逸らした。

「だから男子高校生の部屋の付き物のエッチな本とかちゃんと隠したんでしょうね?」

「…………ねえよ、そんなもん」

 インデックスが住むようになってからその手のものは処分せざるを得なくなった。

 学校で土御門や青髪に見させてもらうのが精々だ。

「えっ? 嘘っ?」

 御坂は心底驚いた表情を見せている。

「嘘じゃねえよ」

 基本的に1日中家の中でゴロゴロしている少女シスターとワンルームで同居している現状でその手の本を隠し通すのは不可能だ。

 

「まさか、当麻…ご主人様って超兄貴とか筋肉万歳って叫んじゃうそっち系なの?」

 顔を真っ青にして激しく動揺しながら尋ねて来る御坂。何でそんなに当惑しているのか分からないが酷い誤解だった。

「上条さんは女の子が好きな極めてノーマルな思考の持ち主ですからねっ!」

 今日の御坂はマジで面倒臭い。

「じゃ、じゃあ……私の写真は部屋にあったりするの?」

 今度はまた赤くなる御坂。本当に忙しい奴だ。

「大覇星祭の時に父さんに撮ってもらったのが何枚かあるな」

 俺自身写真を撮って記録という作業はほとんどしない。だから俺自身が撮った御坂の写真はなかったりするのだが、父さんが一昨日現像した写真を大量に送ってきたのだった。

 気を利かせたらしいのだが、アルバムも持っていない俺としては机の引き出しに入れるしかなく扱いに困っている。

 

「エッチな本がない部屋で当麻…ご主人様が私の体操服姿の写真を持っている。それって、その写真の使い方ってやっぱり……ぷしゅ〜〜〜〜っ」

 御坂は顔を茹で上がらせて立ち眩みを起こしてしまった。

「おい、大丈夫か?」

 慌てて抱きかかえて地面に崩れるのを防ぐ。

「だ、大丈夫よっ! このエッチっ! 変態っ!」

 よく分からない批難を述べながら俺から離れる御坂。

 そりゃあ抱きかかえたのは嫌だったかも知れない。が、いきなりエッチ呼ばわりはないだろう。

「と、とにかく私を招待する以上、塵一つ落ちてない綺麗な部屋じゃなかったら許さないんだからね!」

「そんな綺麗な部屋にメイドが来る必要はないだろうが……」

 御坂の熱暴走ぶりにほとほと参る。

 ちなみに今日御坂を呼ぶことにはさして問題はない。

 テリトリー意識が強く、加えて御坂とあまり相性が良くない我が家のホワイト・イーターは小萌先生と共に昨日からイタリアに旅立っているからだ。

 

 

『とうま。私は地中海を食らい尽くして来るんだよ。パックス・ロマーナなんだよ』

 不幸スキルを発動してパスポートを紛失してしまいイタリアに行けなくなった俺に対してインデックスはいつになく真剣に熱く語った。

『上条ちゃん。有給は使う為に存在するのですよ』

 俺の代わりにインデックスと共にイタリアに行くことになった小萌先生もいつになく精悍な戦士の瞳をしていた。

『小萌、食らい尽くすんだよ。寝る暇もなく食らい尽くすんだよ』

『シスターちゃん。イタリアはワインの本場。飲み尽くすも忘れては駄目なのです』

 2人の悲壮な覚悟を見て俺は何も言えなかった。

『胃薬も……忘れるなよ』

 颯爽と空港内を歩く2人にそれしか俺は言えなかった。

 

 

 そんな事情でインデックスはイタリアの食を征服中。学園都市にはいないので御坂を家に呼ぶのに障害はなかった。

「とにかく、俺の家に来て世話をしてくれるんだろ?」

「はっ、はい。ふっ、ふつつか者ですがす、末永くよろしくお願いしますっ!」

「…………えっと、こちらこそよろしくお願いします」

 今日の御坂はやっぱり……すごく変だった。

 

「やっばぁ。予想以上に面白い展開だわ、これは是非とも追跡を続けないと……」

 

 茂みの中で誰かが何かを囁いた気がした。

 けれど俺にとっては御坂の変ぶりの方が気になってその声の主を追求することはなかったのだった。

 

-5ページ-

 

 私は今、当麻の家の玄関前にいる。

 ここ数ヶ月探し求めていた場所に遂に立っていた。

 この場所は胸の奥深くに刻み込んだ。記憶は失ってもこの場所への行き方だけは忘れないように。

 それぐらい大事な場所だった。私の帰るべき場所をようやくみつけたと言うか。こういうのを感無量というのだろうか?

「どうした御坂? ぼぉ〜と俺の家の玄関を眺めちゃって」

「ぼぉ〜となんかしてないわよっ!」

 当麻の言葉に過剰に反応してしまう。でもそれも仕方ない。

 私は今、浦島太郎でいう竜宮城、シンデレラでいう所の王子様のいるお城の前にいるのだから。

 

「まっ、何でも良いけど入るぞ」

「う、うん」

 当麻が玄関の鍵を開ける。

 あの鍵を……いつか私も持つ日が来るだろうか? 

 この部屋に自由に行き来できる魔法のパスポートを手にする日が。

 それは、これからの私の行動次第だろう。

「さあ、上がってくれ」

 当麻が中から私を招き入れる。

「うん…………ただいま」

 様々な想いが複雑に絡まりながら当麻の家の中へと入っていく。

「ただいまって……まあ、いいけどな」

 何故か当麻が苦笑している。私は何かおかしなことを言っただろうか?

 

 まあ、それよりも、だ。

「これが、当麻の家」

 緊張する心と違い五感はこの部屋の情報を必死になって集め始めている。

 空間把握に努めてしまうのはレベル5故の宿命か。

 まず反応したのは視覚だった。

「何か、思ったよりもずっと綺麗ね」

 まだ玄関に入って部屋も見ていない状態だけど、玄関周りがとても綺麗だった。掃除がよく行き届いている。

 女の子の家だってこうはいかない。実際、初春さんの家も佐天さんの家も完璧に綺麗にしているわけじゃなかった。

「ふふん。上条さんは綺麗好きなのでございますよ」

 偉そうに踏ん反り返る当麻。

 私が今日この家に来ることは予想出来なかった筈。となると、普段からこのレベルで綺麗にしている可能性が高い。

 綺麗好きなのは良いことなのだけど……う〜ん。

 

「それにこの玄関、いい匂いがするわね」

 柑橘系の甘い匂い。これは……芳香剤?

「ふっふっふ〜ん。男の靴の臭いも打ち消してくれる素敵アイテムを上条さん家は常時配備しているのですよ♪」

 誇らしく語る当麻。

 でもその出来過ぎた主夫ぶりは逆に私に疑心を抱かせた。

 だって、初春さんや佐天さん、それに私達の部屋に比べても完璧過ぎる女子力を発揮しているのだから。

 そんなこと、男の当麻に果たして可能なのか?

 ていうか、私よりも当麻の方が女子力高いのは何か納得がいかなかった。

「まさか……女がいるんじゃ?」

 私の疑念は一つの形に集約された。

 この朴念仁が女の子と上手く付き合える筈がない。私でさえ持て余しているのだから。

 でも、当麻の家のこの綺麗さは女の介入があると見る方が自然。女が直接この家を掃除しているか、綺麗好きな女が当麻を誘導して掃除させているか。

 どちらにせよ、女の痕跡は注意深く探さなくてはいけない。それが新しい目標になった。

 

「あの、どうかしたのですか御坂さん? 急に犯人を追及する名探偵みたいな鋭い目付きになっていますが?」

「何でもないわよっ!」

 浮気の証拠を掴むのは家政婦の、いえ、メイドの役目よね。

 私以外の女をこの家にあげるなんて絶対に許さないんだから。

 ここは私の家なのだからっ!

「あのぉ、そんな恐ろしい瞳で部屋の隅々まで見られると怖くて仕方ないですが。部屋の隅の埃でも探しておられるのですか?」

「いいから黙って!」

「はっ、はいっ!」

 慎重に目を光らす。

 玄関から部屋へと通じる空間に異常はなし。

 やはり怪しいのは……。

 

「洗面所の方を見せて」

「へっ? 何で?」

 当麻はわけが分からないという風に口を半分開いた。

「掃除するのに予めチェックしておく為に決まっているでしょうが! 私はメイドよ!」

「あっ、ああ。分かったよ」

 当麻の後ろについて洗面所へと入る。

 そこで私はとんでもないものを見ることになった。

 

「何で妹のゴーグルとライフルがここにあるのよ?」

 いきなり嫌なものをみつけてしまった。このアサルトライフルとゴーグルはどう見てもシスターズのもので間違いなかった。

「ああ、金曜日の夜にインデックスと小萌先生のイタリア旅行の壮行会を行ってたんだ。で、御坂妹も来たんだが酔っ払って帰ったから忘れていったんだよ」

 当麻はあっさりと述べた。

 でも、私にとっては聞き流せる話じゃなかった。

「壮行会に妹を呼んだの?」

 直接は言わないけれど『私は呼ばれてない』という部分で凄く悔しかった。

 そして、どうも話から妹、御坂10032号は当麻の家に以前から出入りしていたことが伺える。

 妹からも当麻の家を知っているという話は聞いたことない。

 2人して私に秘密を作っている。

 それが凄く腹が立った。

 

「あの、御坂さん? もの凄く怒ってませんか?」

 当麻が冷や汗をダラダラ掻いている。

「別にっ! 妹が既にこの家のことを知っていたとか、私を呼んでくれなかったとか全然怒ってないんだから!」

「いや、確実に怒ってるだろ……」

 当麻はブツブツ言い訳している。

 そんな当麻をよそに私は更なる変なものをみつけてしまった。

 

「何で日本刀が置いてあるのよ?」

 今この瞬間、アンチスキルに踏み込まれたら当麻は確実に拘束されるだろう。

 銃と刀が平然と置いてあるってどんな危険な家なのよ?

「ああ、壮行会に神崎が来て、同じように酔っ払って置いて帰ったからな」

 神崎……苗字だけってのが怪しい。

「その神崎って人のフルネームは?」

「えっ?」

「神崎って人のフルネームは何なのか今すぐきっぱり教えなさい」

 睨みながら尋ねる。

「神崎……沙織です」

「美人なの?」

「…………大人のお色気満載の18歳の綺麗なお姉さんです」

「…………チッ!」

 大きな舌打ちが鳴り響く。

 コイツはレベル0を詐称しているだけで女とフラグを立てる能力のレベル5に違いない。

「あの、怒っていらっしゃいますよね?」

「怒ってないわよ!」

 当麻の浮気の証拠が他にないか更に注意深く探す。

 そして一番凄いものをみつけてしまった。

 洗面台に置かれた2つのコップ。そのコップの中には1本ずつ歯ブラシが刺さっている。

 これは……。

 

「ねえ、当麻…ご主人様。アンタ、独り暮らしなのよね?」

「あ、ああ。そ、そうだが」

 無意識に後ずさりながら当麻は答えた。

「じゃあ、何でコップと歯ブラシが2セットもあるの?」

 当麻が後ずさって壁に背中をぶつけた。額に大量の汗を掻いている。

「えっ、えっと、御坂妹とか神崎が置いていったとか?」

「アンタは食事に歯ブラシとコップを持って出掛けるの?」

「そ、それは……」

 当麻はガックリと首を落とした。

 答えによっては……当麻を殺して私も死のう。

「じっ、実は……」

「実は?」

「実はその歯ブラシは……イン…土御門のなんだ」

 当麻は俯いて、中間で更に首を落として小さな声で答えた。

「土御門って、あの金髪でサングラスの人?」

「ああ」

 何故当麻のクラスメイトで友達の土御門さんの歯ブラシがここにあるのか?

 その時ふと、夏休み中の初春さんとの会話を思い出した。

 

 

『仲の良い男同士は目を離すとすぐに絡み合って愛し合うから困りますよね♪ 日本の男はみんなホモばっかりで♪』

 ソフトクリームを舐めながら初春さんはとても良い顔をして笑った。

『あの、初春さんが何を言っているのか分からないのだけど?』

 私にとっては初春さんの言葉は謎過ぎた。

『単純なことですよ。男の人はみんなホモで、女の人の目がないとすぐに男同士でいやらしく愛し合うってだけですよ♪』

『えっ? じゃあ……初春さんは前を歩いているあの男子学生2人も愛し合っていると?』

『勿論♪』

 初春さんの瞳はとても澄んでいた。

 

『御坂さんの知り合いの中で仲の良い男の人が2人いたら、絶対にその人たちはデキてますから。爛れた関係ですから。間違いありませんよ♪』

 初春さんは鼻の頭にアイスを付けながら可愛らしく笑った。

『えっ、じゃあ、まさか、当麻もあの土御門って金髪の人と……』

 考えるだけで死にたくなる妄想が一瞬頭の中に浮かぶ。

『当麻に限ってそんな筈はないんだからっ!』

 アイツは女好きのスケベ。故にわ、私に興味があっても男に興味を持つことはない筈。

『大丈夫ですよ、御坂さん♪』

 初春さんは菩薩のような澄んだ瞳で私に微笑んだ。

『男同士の愛情は肉欲だけです』

 そして仏のように遠い所にいることを思わせる異次元の語りをしてくれた。

『きっとその人は御坂さんとのお付き合いも問題なくしますし結婚もしてくれます。ただ、御坂さんの目の届かない所では男の恋人と愛し合う毎日なだけです』

『初春さんが……遠い』

 学園都市の能力測定ではとても測れない地平の彼方に彼女はいる。

 それだけは確かなことだった。

 

 

「初春さんがおかしなことを言っている。そう思っていた時期が私にもありました」

「あの〜御坂さん。何故にそんな遠い瞳で上条さんを見ているのでしょうか?」

 冷や汗を掻く当麻に冷めた声で答える。

「別に私は……アンタ…ご主人様が土御門さんと付き合っていようがみだらに愛し合っていようが構わないわよ」

「まさかの全肯定っ!? しかも爛れた関係設定!? 御坂は一体何に毒された?」

 当麻は目を大きく開いて驚いている。

 肯定されるとは思っていなかったのだろう。

「まあ、男の人がそういう生物だってことは……私も少しは知ってるからさ」

 目を逸らしながら説明を補足する。

 まさか初春さんの考えが正しかったとは……。

「えええぇっ!? 恐ろしい偏見の上の肯定!? それは全否定より辛いっすよ、御坂さんっ!?」

「……まあ、アンタに男の愛人がいようと、女の中では私が一番になれば良いのだから」

「今、何かおっしゃいましたか?」

「別に」

 何かムカムカする。

 でも、負けない。

 

「さあ、どんなに爛れた存在だろうと、男にしか欲情できない変態だろうと、今日の私はアンタ…ご主人様のメイドだから仕事はしっかりするわよ!」

 闘志を燃やし直す。

 罰ゲームは罰ゲーム。仕事はきちんとこなす。そして……ポイントアップ……正妻の座は譲らない。

「ああ……御坂があり得ない誤解をしたまま固い決意を固めてしまった」

 当麻が顔を青ざめながら当惑している。

「さあ、部屋に案内して。掃除から始めるわよ」

「ああ。……何とか今日中に御坂の誤解を解かないとな。不幸だ」

 当麻がブツブツ言いながら私を案内する。渋々ドアを開けて私を部屋の中に招き入れた。

 

 

 

-6ページ-

 

「これが俺の部屋だよ」

 当麻に案内された部屋。それは独り暮らしの男子高校生の部屋とは思えないほど綺麗でサッパリした部屋だった。

 ベッド、机、あまり本が入っていない本棚。当麻を題材にしてアニメ化がなれば、きっとスタッフは描くのが楽だろう。それぐらいシンプルな部屋。

「アンタ…ご主人様は趣味がないの?」

 何て言うか、あまりにも男子高校生の生活臭を感じさせない部屋だった。

 漫画やゲームが大量にあってもちょっとガッカリだけど、こうも人間味がないとそれも怖い。お嬢様学校で知られる常盤台の子達だって部屋の中には女子中学生らしい年相応の息吹を見せているというのに。

 とりあえず部屋の大きさ、物の配置は全て記憶した。ベッドの大きさはミリ単位で計算しながら記憶する。最も重要なことだから念入りに計測する。

 もしかするとその内に疲れや寝不足、その他の理由でこのベッドで寝ることがあるかも知れないのだから。

 何らかの理由で毎日このベッドで寝る生活になるのかも知れないのだから。

 それはともかく、やっぱりこの部屋は味気なさ過ぎる。

 

「う〜ん」

 当麻は首を捻った。

「そう言えば料理以外にこの家で何か一生懸命やっていることはない気がするなあ」

「へぇ〜。アンタ…ご主人様って食事にうるさいグルメなんだ」

「いや、俺じゃなくてイン……ああ。上条さんは貧乏人ですが、その分お手頃な食品を美味しくする努力を頑張っているのですよ。ええ、上条さんは美食家なのです」

 誇らしく反り返る当麻。

 でも私は当麻が他人の為に料理を頑張っていることにその言葉から気付いてしまった。

「……また土御門さんか。ハァ〜」

 当麻が土御門さんの為に料理を頑張っているのは間違いない。

 きっと土御門さんはこの部屋で毎日食事をしているに違いない。そう考えると何故土御門さんの歯ブラシがここにあるのか説明が容易になる。

 謎は全て解けた。

 

「土御門って、あの、御坂さん? また何かとんでもない誤解をしていらっしゃいませんか?」

「別に。当麻が土御門さんの為に毎日料理を頑張っているって確信しただけだから」

「うぉおおおおおぉっ! 御坂の中の俺がどんどん大変なことに〜〜っ! ふ、不幸だ」

 当麻はガックリと肩を落とした。そんな当麻の肩を前から叩く。

「大丈夫。私が当麻を正しい道へと導いてあげるから」

 女とフラグを立てまくる癖に男にしか愛情を抱けない当麻。だけど、私が正しく導いてあげることで私だけを愛するあるべき当麻に生まれ変わらせるのだ。

 それこそがメイド御坂美琴(いずれ上条美琴)の使命なのだ。

「勝負よ、土御門さん」

 恋のライバルに男の名前を挙げることになるとは思わなかった。

「御坂に土御門との仲を誤解されるとは……不幸だ」

 私にご奉仕してもらえるというのに、今日の当麻はガッカリしてばかりだ。

 

「まあ良いわ。一見綺麗に見える部屋でも実は汚れていることはある。掃除するわよ」

 気を取り直して家事の開始を宣言する。

「じゃあまずはベッドの下から始めましょう」

「何でそんな所をピンポイントで!?」

「だって……汚らわしいものがありそうじゃない」

「汚(きたな)いと汚(けが)らわしいは意味がだいぶ違いますよね?」

 顔を床につけるようにしてうつ伏せになりベッドの下を覗く。

 エロ本があったら捨てる。特に巨乳モノだったり金髪や銀髪ものだった場合には容赦なく残虐に捨てる。本人の前で焼き討ちにするのも良いだろう。

 さて、ベッドの下は……。

 

「うん? 写真?」

 暗くてよく見えないけど、1枚の写真が置かれているのを発見した。

 ベッドの下に唯一置かれていたアイテムを手に取って引き寄せる。

 男子高校生の部屋。ベッドの下。写真。

 その写真がどんな使われ方をしているのかはお嬢様学校に通う私だってさすがに分かる。

「うん? 何でそんな所に写真が?」

 私が写真を抱きかかえて立ち上がると当麻が首を捻っていた。

 ……わざとらしい。

 男子高校生がベッドに写真を置いておく意味など一つしかないというのに。

 問題は、誰が写っているかということだった。

「銀髪シスターや土御門さんだったら嫌だわね」

 恐る恐る写真を裏返して答えを確かめる。

 

「こっ、これは……私っ!?」

 写真には体操服姿の姿の私がバストアップショットで写っていた。

「何で御坂の写真がベッドの下に? この間送ってもらった写真を整理する際に紛れ込んだのかな?」

 当麻は何か言っているけれど聞こえない。

 だって当麻は私の写真をベッドの下に隠し持っていたのだから。

 つまり、当麻は私のことをそういう目で……。そしてきっと毎晩この写真で……。

 なんだ。そうなのね。そうなのね!

 当麻ってば、私のことをいつも子供扱いしているけど、本当は……フフフ♪

「あの、御坂さん? 急に締りのない顔で笑い出して一体どうなされたのですか?」

「何でもないわよ、ご主人様♪ さあ、メイドの家事能力を存分に見せ付けてやるんだからっ!」

 フッ。当麻のエッチ♪

 うん、やる気出た♪

 

 

 

 

-7ページ-

 

「さすがは常盤台のお嬢様。勉強だけでなく家事もすげぇんだな」

 この家に入ってから御坂の機嫌はずっと悪かった。

 けれど、ベッドの下に紛れ込んでいた御坂の写真をみつけてからは急にご機嫌になった。

 女心は全く分からない。

 だけど機嫌が良くなってから見せたパフォーマンスの高さは目を見張るものがあった。

 俺でさえ知らない掃除方法を駆使して、綺麗だと思っていた部屋を新築同然のピカピカに変えてしまった。

「あったり前でしょ。こっちは家事の専門スキルをプロから習って実習しているのだから」

 自信を持って答える御坂。

 恐らくは家庭科か技術の授業のことを指しているのだろう。

 けれど、授業で習っただけであろう知識をこうして躊躇なく実践してしまうとは。

 やっぱ御坂の理解力ってのはとんでもなくスゲェな。レベル5の演算力を誇るだけのことはある。

 

「さあ、次は洗濯よっ!」

 掃除で勢いを得た御坂は次なるターゲットを洗濯に定めて洗面所へと向かっていく。

 そして──

「ぎゃぁああああああぁっ!! 洗ってない男物のパンツを触っちゃった〜〜っ!!」

 洗面所の方で激しい放電が確認された。

「被害の規模はどれぐらいだろう? ああ……不幸だ」

 御坂は絶対にメイドに向いてない。

 それだけははっきりと確認した。

 

「さあ、問題なく洗濯も済んだ! 次は料理ね!」

 御坂の攻勢は続く。

 けれど、俺はもう掃除が終わった時のように素直に御坂を見ることはもう出来なかった。

「人の家の洗面所を半壊させておいて何が問題なく……だよ」

 大きな溜め息が漏れ出る。

 御坂の電撃によって洗濯物は洗濯カゴごと焼け焦げた。その原因となった俺のパンツは焦げた痕跡さえ残さずに行方不明になった。

 そして洗濯物が消滅したことで洗濯は終了となった。

 更に被害は衣服だけに留まらなかった。

 洗濯機が高熱で半円状に抉り取られていた。

 もう修理がどうとか言ってられるレベルを遥かに上回っていた。

「ただでさえ今月も厳しいのに洗濯機を買い換えないといけないなんて……不幸だ」

 昨今独り暮らし用の洗濯機の値段は急速に下がっている。乾燥機機能が付いていなければ2万以下で購入も可能。

 けれど奨学金が少なく、バイトをしても不幸スキル発動ですぐにクビになる俺にとっては痛過ぎる金額だった。何かお金を得る方法を考えないとなあ。

 

「さあ、ご主人様は何を食べたいの? 言ってみて」

 繊細な上条さんハートを理解せずに御坂は楽しそうに尋ねてくる。コイツ的には家事の楽しさに目覚めたのかも知れない。が、感傷上条さん的にはちょっと腹が立ちもする。

「御坂は何が作れるんだ?」

 また、とても嫌な予感がした。

「フォアグラのキャビア添えとか得意よ。後、伊勢海老を1匹丸ごと赤ワインを蒸すのとか、ふぐの調理免許も持っているのよ」

 さらりと答える御坂。

 俺は確信した。常盤台のお嬢様と付き合っている男はよほどのブルジョワでなければ長続きできないと。絶対に財政破綻するもの。金銭感覚が普通じゃない。

 

「今冷蔵庫の中にほとんど材料が入ってないから今から買い物に行くぞ。食費は……2人合わせて1000円で抑えてくれ」

「1000円? ホットドッグ2分の1本分の代金ってことね。分かったわ」

「…………御坂さん的にはそういう理解ですよね」

 将来御坂と結婚する男はきっとお金のことで不幸になる。

 そして自分未来のことを思うと何故か胸がとても苦しくなるのだった。

 

 

 御坂と2人並んでスーパーへと続く道を歩く。

 9月の夕方の風は暑すぎず寒すぎず丁度良かった。

「そういやこうやって御坂とのんびり並んで歩くのって初めてな気がするな」

「ご主人様はいつも私から逃げ回るからでしょ」

「そりゃあ電撃攻撃喰らう前に逃げるに決まってるだろ」

「私を無差別通り魔的に認識するのは止めてよね。まったくもう」

 今日は軽口を叩き合ってもいつもみたいに熱くならない。

「こうやってのんびり2人きりで歩いていると……なんかデートしているみたいだな」

「でぇっ、デ〜〜〜〜〜ト〜〜〜〜〜〜っ!?!?」

 御坂が大きく仰け反りながら俺から離れるようにジャンプした。ちょっと傷つく反応だ。

 

「そこまで嫌がる必要はないだろ。ハァ〜」

 上条さん的には非常に気持ちが萎える。女子中学生に気持ち悪がられるのは男子高校生にはとてもキツいものなのですよ。

「べっ、別に嫌がってなんかないわよ!」

「そんな風に怒りながら言われても説得力ないっての」

 のんびりした良い雰囲気だと思ったのは上条さんの錯覚でした。

「アンタ、絶対誤解してるって!」

 ご主人様呼びも忘れて御坂がダッシュして近付き俺の手を握ってきた。

 

「私は当麻とこうやって並んで歩けてとっても幸せなんだからっ!」

 御坂が大きな声で怒鳴る。いや、怒鳴ったように自分の想いをぶつけて来る。

「だから……私が当麻のことを嫌っているなんて思わないで。お願いだから」

 今度は俯きながら泣きそうな声を出す。

 怒ったり笑ったり忙しい奴だと思う。

 でも、その喜怒哀楽の激しさこそ御坂の必死さをよく伝えてくれていた。

「分かったよ。御坂は俺を嫌ってない。それで良いだろ?」

「……50点。それじゃあ半分しか通じてないわよ」

 御坂はまた不満そうな表情に戻った。

「だから、アンタがせめて80点以上の解答を出すまで……この手は離さないから」

 俺の左手を右手で握ったまま歩き始める御坂。

 14歳の少女というのは本当に難しい。

 でも、手を繋いで歩くことに悪い気はしない。それどころかちょっと心が躍ってる。

「そうだよな。手を繋いでくれてるのは御坂なんだもんな」

 自分の左手を覗き込む。御坂が繋いでくれているこの手がとても凄く誇らしく思えた。

 

「うん? そこを行くのはカミやんなんだにゃ〜。ラブラブに手を繋いで歩いているのはもしかして常盤台のレール……ぎゃぁあああぁっ!? いっ、一体何故にゃ〜、ガクっ」

 

「今、何か声が聞こえた気がしたんだけど。御坂は何か聞いてないか?」

「さあ? 私は何も聞いていないけど…………これで当麻は私だけのもの……」

 御坂も聞いてないらしい。

 土御門の声と電撃が発する音が聞こえたと思ったけどどうやら気のせいだったらしい。

 

「いいえ。気のせいなんかじゃありませんよ」

 

 今度は確実に声が聞こえた。少女の、しかも聞いたことがない声だった。

「えっ? 何で? 何で貴方がここにいるの?」

 対して御坂は声の主に心当たりがあるようだった。そして御坂の声は震えていた。

 2人して恐る恐る振り返る。1人は未知の存在に声を掛けられた警戒心から。もう1人は今のタイミングで声を掛けて欲しくないであろう人物に絡まれてしまった焦りから。

「ごきげんよう。旦那様、そして御坂さん」

 振り返った先には御坂と同じ型のメイド服に身を包んだ少女が1人立っていた。

 沈む夕日に照らされて真っ黒い長い髪を一際美しく輝かせている御坂と同年代の少女。人懐っこそうな笑顔を浮かべながらその瞳は俺達に対する興味を隠そうとしていない。

 総じて言えば可愛いけれどトラブルメーカーの臭いのする美少女。

 それが彼女の第一印象だった。

「君は一体?」

 恐る恐る少女に尋ねる。

「私の名は佐天涙子。御坂さんが旦那様の嫁に相応しいか試させてもらいに来ました」

「佐天さん、だと?」

「よ、嫁に相応しいかって……ぷしゅぅ〜〜〜〜っ」

 俺の不幸探知レーダーは最大級のアラームを鳴らしていた。

 

 

 つづく

 

 

 

 

説明
レールガンが始まっているようなのでボチボチ載せ
美琴さんがメイドになります。

過去作リンク集
http://www.tinami.com/view/543943

とある科学の超電磁砲

エージェント佐天さん とある少女の恋煩い連続黒コゲ事件

http://www.tinami.com/view/433258 その1

http://www.tinami.com/view/436505 その2

http://www.tinami.com/view/442666 その3

http://www.tinami.com/view/446990 その4

http://www.tinami.com/view/454921 その5

http://www.tinami.com/view/459454 その6(完結編)



水着回

http://www.tinami.com/view/463613 美琴「ていうか、一山超えたら水着回とか安くない?」

http://www.tinami.com/view/470293 美琴「ていうか、一山超えたら水着回とか安くない?」♪♪



上条×美琴

http://www.tinami.com/view/496987  

本気or冗談?

http://www.tinami.com/view/499635

本気or仕事?



その他

http://www.tinami.com/view/529962 姫神秋沙 クリスマス奉仕活動とあわてんぼうのサンタクロース

http://www.tinami.com/view/553468  残念佐天さんと残念な仲間たち 満点を目指して

http://www.tinami.com/view/564727 上条さん家のコタツでみかん



【宣伝】3月5日、新しく出帆した株式会社玄錐社(げんすいしゃ) http://gensuisha.co.jp/ 
より音声付き電子書籍アプリELECTBOOKで1作書かせて頂きました。題名は『社会のルールを守って私を殺して下さい』です。ELECTBOOKの最大の特徴は声付きということです。会話文だけでなく地の文も声が入っているので自動朗読も設定できます。価格は170円です。使用環境は現在の所appleモバイル端末でiOS6以降推奨となっています。以下制作です。 作:桝久野共 イラスト:黒埼狗先生 主題歌 『六等星の道標』歌/作詞 こばきょん先生 作曲 波多野翔先生 キャスト:由香里様、高尾智憲様、田井隆造様、坂井慈恵士様、竹田朋世様(皆様 株式会社オフィスCHK所属)発行者 小野内憲二様 発行元 株式会社 玄錐社(げんすいしゃ)。*ダウンロードして視聴できない場合には再度のダウンロードをお願いします。最初の画面では再度課金されるような表示が出ますが、クリックすると無料ダウンロードとなることが表示されます。

無料で楽しめる作品もありますのでアプリだけでもダウンしてくださいね。

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