Spring-Breath-Memory〜南風の街〜 〜Fin〜 |
歌え、鳥のように
舞え、蝶のように
そして奏でよ、貴方だけの物語を
〜Journey to the future〜
3月1日、屋上にて。
「やっと卒業です、何か色々あって疲れちゃいましたけど」
南弥生は俺を呼び出してくれた。まったく、こう言うイベントが何故学生時代に起こらなかったのかと運命の神様を憎みたくなったが、それはまあしょうがない事なのだろう。
悪いのは彼女ではない、年齢差のある恋を認めない社会だ。やばいと思っても、色々抑えなければならないのだ。
「聞きましたよ先生、来年は一年生の担任を持つんですってね」
「まあな。とりあえず飛ばされなくて良かったよ、まだまだ此処で先生やってたいし」
「新入生に手を出したりしないでくださいね。色々風当たりが強い時代なんで」
にまっと笑う彼女。陽の光を照り返しその表情はとてもとても輝いて見えた。何だってこう彼女は俺の心を見透かすのだろう。非常にやりにくい。
「んでですね……先生」
「……ああ」
「私、先生の事が好きです。それは今も変わりません。だけど、先生が言ったように、今はちゃんと勉強して社会を知ることも大事だと思うんです」
俺は黙って聞いていた。と言うか聞き惚れていた。彼女の演説(聴衆一人)に、野次を飛ばす隙など微塵も無い。
「だから…私、一生懸命頑張って勉強します。誰にでも自分を誇れるくらいに。だから……そうして、私が学生じゃなくなったら…」
私の気持ち、受け入れて下さいますか……???
最後の方は声になっていなかった。涙と鼻水が酷い。綺麗な顔が台無しだ……あれ、何だろう。そんな顔がよく見えない。
……なんだ、そう言う事か。俺は眼鏡を外して顔をハンカチで拭く。そして、綺麗な顔で彼女の方を向いた。
「最短で行っても、4年後か。その間に俺は更におっさんになってるわけだな」
「馬鹿ですね先生、私がいつ先生の外見に惚れたんですか」
「結構痛い所を突いてくるな……」
「変わりませんよ」
先生の素敵な所、私が惚れた先生は。
ああ、それじゃあ待ってる……いや、その時は俺が絶対に迎えに行くから。
「卒業、おめでとう」
「……行きましょう、せんせい」
二人の言の葉は風に溶けて。南より吹く風に乗ってこの街の中に残り続ける。
少しばかり早く咲いた桜の木々が、一斉に不自然な振動を見せた事に気付いた者は気付いている。
一つの恋がそこに実った事に。
一つの物語が、終わりを告げた事に。
校門前。此方に手を振り、友達の所へ駆けていく彼女。未来へ旅立つ彼女の行く先にはきっと幾つもの困難が待ち受けているだろう。
それでも、露ほども心配はしていなかった。
彼女に、桜の祝福があらん事を。
今から旅立つ若者たちに、南風の加護があらん事を。
Spring-Breese-Memory〜南風の街〜 〜Fin〜
説明 | ||
長かった物語もこれにて終了です。何とも役不足な(ちゃんと正しい意味で使ってます、褒め言葉)美麗イラストとともにお楽しみください。 | ||
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