ゼロの使い魔 〜しんりゅう(神竜)となった男〜 第十五話「行幸、そして式典」 |
「ねぇ、シェン」
寝床に戻って眠りはじめてから数十分後、主であるモンモンが寝床にやってきた。
薄目で見つめると、モンモンはいつもと様子が違っていた。
「ねぇ、シェン。起きてください」
≪・・・・・・どうかしたか? 主。先程の件についてならば、なにも言うことはないぞ・・・・・・≫
顔は上げずに薄目で見ながら告げると、モンモンは慌てたように首を振る。
「ち、違いますよ。あの後、コルベール先生がいらっしゃって、姫殿下が、この魔法学院に行幸なされるとおっしゃったんです」
どうやらトリステインのアンリエッタ王女(通称:アンリ嬢)が、この学院にくるらしい。
そう言えば、“思い出す”で思い出した原作に歓迎式典をすると書かれてあったっけな。
どうりでモンモンがいつもと違うワケだ。
なるほど、この格好が正装ってわけね。
まぁ、それはさておいてモンモンは何故ここに来たんだ?
「そ、それでですね。歓迎式典を執り行うことになったのですが、そこで姫殿下のご要望で、私たち2年生が召喚した使い魔をお披露目することになったんです。けど、全員の使い魔をご覧になるだけの時間がないということなので、オールド・オスマンがお選びになられた生徒が、自分の使い魔の特性を織り込んだ出し者をすることになったんです」
ここに来た理由を考えていたら、モンモンがそう話を切り出してきた。
なるほどね。その話をするということは、モンモンもその中の一人に選ばれたから、そのことを相談しに来たということかな。
そうと決まれば・・・・・・。
俺は目を開け、顔を上げてモンモンを見つめた。
「・・・・・・別にその中の一人に選ばれたから来たわけではないんです」
モンモンは、いきなり顔を上げた俺に驚いたのか少し後ずさってしまう。
しかし、深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから話しだした。
「仕度をしに向かおうとしたら、ギトー先生を介抱されていたコルベール先生が、私を呼び止められて、『姫殿下がいらっしゃる間、君の使い魔のシェン殿に身を隠してもらえるよう、頼んでもらえないかね』とおっしゃられて」
≪うむ・・・・・・、それは、じじ、学院長の意向かな?≫
「!! は、はい。そうなんです。先生に理由を伺ったところ、そうおっしゃられたんです。何故、身を隠さないといけないのか不思議に思いましたけど、オールド・オスマンの意向ですし、それでここに来たんです」
≪なるほど≫
じじぃめ。俺のことがアンリ嬢から穀潰しどもに伝わるのを恐れて、身を隠すよう言ってきたな、こりゃ。
じじぃの言うことを訊くのは癪だが、ここは身を隠すことにするか。
と、その前に確認しておくことがあったな・・・・・・。
≪分かった。姫とやらがいる間、身を隠しておくことにしよう。だが、一ついいかい?≫
「はい。なんでしょうか?」
≪主は、父親に我のことを報告していたな≫
「ええ。お父様からお手紙をもらったので、蛙と竜の2体を召喚して使い魔にしたとお手紙にかきましたけど、それがなにか?」
≪いや、他意はない。今更だが、我のことをどのように伝えたのか気になっただけだ≫
これが確認しておくことだ。
もし詳しく俺のことを書いていた場合、父親から王宮に伝わっている可能性が高い。
そうなると身を隠し、モンモンに迷惑をかけてしまう可能性がある。
これは避けたいからな。
ちなみに一部の欲深い教師連中や、あの餓鬼経由で伝わっている可能性もあるが、これはモンモンには直接迷惑をかけないので、気にする必要は全くない。
「えっと確か・・・・・・、そうそう。可愛い蛙と、怖いけれど頼もしい竜って書いたと思います。特徴などは書いてないです」
うむ・・・・・・。それだけなら身を隠しても問題ないか。
≪そうか。では我は身を隠すとしよう。主は姫の歓迎に向かいなさい≫
「は、はい。よろしくお願いします」
モンモンは一礼してから、正門の方へと向かった。
それを見送った俺は、身体を起こして周りに誰もいないことを確かめ、“レムオル”の呪文を唱えて姿を消した。
そして、この後の考えることにした。
(ここで姿を消したまま記憶の未整理部分を整理でもするかな? いや、それだけだと非常に退屈なんだよな〜。あ、ドラゴラムで人間になって森で修行するという手もあるか? いや、これもいつものことだから面白くないか。となれば・・・・・・、ここは趣向を変えて・・・・・・)
俺は、“思い出す”で思い出した記憶の中にあった呪文を試すことにした。
*****
魔法学院の正門をくぐって、アンリ嬢の一行が現れると、整列した生徒たちは一斉に杖を掲げた。
しゃん!と小気味よく杖の音が重なった。
<いよいよ。アンリ嬢のお出ましね・・・・・・>
私はそう呟き、正門をくぐる馬車を見つめた。
馬車は正門をくぐったところで止まると召使たちが駆け寄り、馬車の扉まで赤の((絨毯|じゅうたん))を敷き詰める。
そして、呼び出しの衛士が、緊張した声で、アンリ嬢の登場を告げた。
「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおな―――――り―――――っ!」
生徒たちは、最初、お爺ちゃん?(確か((枢機卿|すうききょう))のマザリーニ氏だったかしら)が現れたので、一斉に鼻をならしたけれど、続いて降りてくる王女に歓声を上げる。
<あれが生アンリ嬢。((朱|あか))が言ってた通り、美人ね・・・・・・>
私は、にっこりと微笑を浮かべ、優雅に手を振るアンリ嬢を見つめながら、生前の幼馴染、((鞘本朱祢|さやもとあかね))が言っていたことを思い出していた。
≪ねぇ、((柾|まさき))。二次創作でよくでる転生のシュチエーションがあるじゃない。柾はどの世界に転生したい? 私はね、“ゼロの使い魔”だよ。そこでね、アンリ嬢を助けるの〜≫
あの時はスルーしたけれど、“シュチエーション”ではなくて“シチュエーション”よ、朱。
まぁ、今は関係ないわね。
あ、そうそう。一応言っとくけど、私がいるのは整列している生徒たちの最後尾よ。
え? 違う? 何よ、もう。分かってるわよ。今の私のことでしょ?
これはね。実はドラクエの呪文“モシャス”を試してみた結果なの。
知ってると思うけど、“モシャス”の効果は対象の外見や性格、能力をコピーして変身できる呪文よね。
で、変身の対象となるのは、“私が会ったことのあるもの”なんだけれど、ひょっとしたら生前に会った人物にも変身できるかなと思って試してみたら・・・・・・、なんと変身できたんだよ〜。
それで変身したのが、魔法学院の制服をコスプレしていた時の朱ってワケ。
ちなみに朱にした理由は、朱の特技が非常に都合が良かったからなんだけど、その特技って言うのは・・・・・・。
「ねぇ、あなた。どこに向かって喋ってるのかしら?」
「え? いいえ。なんでもないわ」
「そう? じゃ、会場に行きましょうよ」
「え、ええ」
危ない危ない。
じゃ、式典会場に向かうことになったようだから、この話は後でね♪
**********
「殿下。“春の使い魔召喚”の儀で、召喚された使い魔をご覧になりたいとのことでしたのう。しかしながら、生徒全員の使い魔をご覧になる時間は残念ながらないので、我々が選んだ生徒の使い魔をご覧に入れたい。よろしいですかな?」
式典会場に着き、用意された椅子にアンリエッタが腰かけると同時に、オスマンが話しかけた。
アンリエッタは微笑を浮かべて頷いた。
「私のためにわざわざご用意して下さったのですから、文句を言うつもりは毛頭ありません。ですが、残りの生徒の皆さまの使い魔についても知りたいので、後ほど枢機卿に知らせてもらえますか?」
「ええ。後ほどお知らせいたしますぞ。では、使い魔をご披露させていただいきましょうかな(スッ)」
オスマンが壇上にいるコルベールに合図を送ると、コルベールは一礼して選ばれた生徒たちを壇上にあがらせた。
その生徒たちは、所定の位置に着くと、アンリエッタに向かって一礼し、杖を掲げる。
「では、まずご披露しますのは―――」
そして、アンリエッタから見て、左の生徒から使い魔との出し物を行い始めた。
「・・・・・・・・・・・・」
それを憎々しげに見つめる人物がいた。
それは以前、シェンを自分に従わせようと執拗に絡んできていた・・・・・・、ヴィリエ・ド・ロレーヌだった。
【ネタバレ注意】
鞘本朱祢
シェンの生前の幼馴染で悪友。
現在28歳(独身)
重度のゼロ魔ファンで、ゼロの使い魔に関する二次創作を読み漁ることが日課。
学生時代は文芸部に所属し、その頃からゼロ魔二次創作サークル“朱の部屋”でゼロ魔の二次創作物を手掛けている(その筋の人には超人気サークル)。
シェンが亡くなった一週間は鬱状態だったが、彼女のssファンの励ましにより復活。
本編においてはシェンの回想シーンにのみ登場する。
((嶺岡柾|みねおかまさき))
シェンの生前での名前。
説明 | ||
死神のうっかりミスによって死亡した主人公。 その上司の死神からお詫びとして、『ゼロの使い魔』の世界に転生させてもらえることに・・・・・・。 第十五話、始まります。 |
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